2.言語力の育成と算数・数学の学び-「筋道を立てて説明する力」の育成に焦点を当てて-

(1)「説明すること」

 「説明する」とは一体どのような営みであろうか。「ものごとをよく分かるように工夫して述べること」ととらえる。したがって、説明では、「分かるように」あるいは「分かりやすく」工夫して述べることがポイントとなる。
 『広辞苑』(p.1,251、新村出編、岩波書店、1971)によれば、「説明」について大きく二つの意味をあげている。一つは「1.ときあかすこと」であり、今一つは「2.記述を更に正確にし定義づけること。厳密には記述が事物について「何であるか」「如何にあるか」を示すのに対し、説明は事物が「何故かくあるか」の根拠を示すもので、科学的研究では、事物を因果法則によって演繹的に把握すること」としている。一方、『日本国語大辞典第十二巻』(p.50、小学館、1989)では、「1.ある事柄の内容・理由・意義などを、よくわかるように述べること。解説。」と「2.哲学で、ある現象が因果関係によってある法則に従うことを推論によって示すこと。理論を確定したり、一般命題を立てる手続。」としている。
 いずれも、一般的な意味と専門的な意味の二つに分けてまとめている。一般的な意味では、『日本国語大辞典』にみられるように、「事柄をよくわかるように述べること」が説明の要点である。専門的な意味では、「事柄を推論により演繹的な把握すること」であり、証明に連なるものといえる。『広辞苑』で指摘するように、厳密には、事物の記述とその説明を区別すべきであるとしていることには留意したい。たとえば、算数・数学の学びでは計算の仕方を対象とする。その際、「記述」にはどのように計算をしたかを的確に示すことがあたり、「説明」には「それは正しいか」や「なぜそれに気づいたか」などに応えることがあたるといえる。それらを区別することは、思考を整理したり、コミュニケーションを円滑に進め実りあるものにしたりするために必要不可欠である。

(2)「説明する力」と「筋道を立てて説明する力」

 「説明する力」を身につけた子どもは、一般的には「ものごとをよく分かるように工夫して述べることができる子ども」であり、「筋道を立てて説明できる力」を身につけた子どもは、さらに「ものごとを、根拠とすることを明らかにし、それをもとに推論により述べることができる子ども」といえる。また、後者は前者を前提としている。
 「筋道を立てて説明すること」は「ものごとを、根拠とすることを明らかにし、それをもとに推論により述べること」であるが、ここで、根拠とできることには、操作や実験で確認できたことも含まれるし、推論には、これまで算数・数学で常に「筋道を立てて考えること」や「論理的に考えること」で例示されてきた「帰納」「類比」「演繹」を挙げることができる。したがって、「筋道を立てて説明すること」は、科学的説明またはその素朴なものと言うことができる。
 もちろん、説明の対象は「YesをYesと主張すること」に留まらない、「NoをNoと主張すること」及び「YesかNoか不明なときにはそれを明らかにすること」も合わせてバランスよく対応するべきである。創造的にものごとに対応するために不可欠である。
 ところで、考えたり判断したりしたことなどについて、「よく分かるように工夫して述べる機会」は、授業の様々な局面で生まれる。そこでは、まず、道具や手立てとして「操作や実験などの具体的な活動」、「図や表」、「用語や記号」を適切に用いることが必要である。ついで、述べ方の工夫として「順序立てこと」、「対比すること」、「関連づけること」などが必要である。さらに、分かりやすくするために「なぜ」に応えることも必要である。「根拠となることを明らかにしそれに基づいて述べること(第一の「なぜ」)」、「着想や方法に気づいたきっかけや動機を明らかにすること(第二の「なぜ」)」であり、自分の考えを他者に受け入れてもらうために必要である。さらに、他者の考えに学び高めるため、質問したりコメントをしたりする。すなわち、批評する際には、「質問したりコメントをしたりする理由を明らかにすること(第三の「なぜ」)」を明らかにすることも必要である。いずれも自他ともによりよく分かるように工夫して述べたり、相互に納得と説得をもたらしたりするために重要なことである。

(3)説明と筋道

-説明はなぜ筋道が立っていないといけないのか-

 説明は、納得と説得のためになされるのが一般である。したがって、筋道が立っていればそうでない場合と対比してよりよく納得や説得ができるということである。授業の場面では、そうしたことの実体験を重ね、筋道を立てることがいかに精神的な労力の負担を軽減し、分かりやすくしてくれるかを明らかにしていく必要がある。
 また、説明は、他者と情報を共有する際にもなされる。その際、説明は一定の表現様式をとってなされるので、その表現様式が、操作や実験であれ、図表であれ、文章であれ、発話であれ、そこから新たなことに気づく機会が生まれる。まさに、コミュニケーションの機能の一つとして近年話題となっている「創発」である。説明が筋道立っているとそれだけ、コミュニケーションを活性化させ、確かな「共有」と「創発」の可能性が拡がることとなり、創造的な活動を導くこととなる。

(4)算数・数学の学びと「説明」

 算数・数学は基本的に問題解決の活動をともなう。その過程では、既習の算数から必要なものを選択し、それらを組み合わせて活用することとなる。そこで、ここでは「活用」と「問題解決」に着目し、OECD-PISA2003調査の着想にもとづいて「説明」について検討する。

1.「活用」との関連で

 「活用」と言うとき、何を活用するのか、どのような局面で活用するのか、なぜ活用するのか、どのように活用するのかなどについて意識する必要がある。OECD-PISA2003調査のアイデアをもとにみてもよう。

ア 「活用」と「数学的リテラシー」

 「数学的リテラシー」は、
 「数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活におい確実な数学的根拠にもとづき判断を行い、数学に携わる能力」
 と規定されている。すなわち、第一に、数学の役割を見つけ理解すること、第二に、生活において確実な数学的根拠にもとづいて判断すること、第三に、数学に携わることを挙げている。第三については、さらに、
 「数学についてコミュニケーションしたり、数学の立場に立ったり、数学と関連づけたり、数学を評価したり、さらにはそのよさを知り楽しむことなどを意味し、数学の機能的な活用だけに限らず、数学の審美的、娯楽的な要素が含まれる」
 としている。
 OECD-PISA2003調査では、「数学的リテラシー」が期待する能力についても述べており、「多様な状況あるいは文脈において、数学を使用して問題を設定し、形式化し、解決し、解釈することのできる能力」としている。活用するものは数学であり、具体的には、数学をどうとらえるかに依存する。例えば、学習状況の評価の観点に即して言えば、算数・数学への関心・意欲・態度、アイデアや方法など数学的な見方や考え方、表現・処理に関する技能、数量や図形などについての知識・理解など多様である。また、「活用する力」を構成する諸能力は「問題を設定する力」「形式化する力」「解決する力」「解釈する力」とされている。数学的なモデリングを念頭に置いた分析である。

イ 「活用する力」の要素と水準

-「数学的プロセス」-

 「数学的プロセス」を「数学的な内容に取り組むのに必要な技能のまとまり」とし、それを「数学化のプロセス」と「能力クラスター」に分けて整理している。まず、「数学化のプロセス」とは「実世界の文脈に基づく問題に取り組み、数学的探究が行えるように問題の特徴を見つけ出し、関連する数学的な能力を活発に使い、問題を解決する」ことにかかわり、このプロセスでかかわりをもつ8つの能力として、「思考と推論」、「論証」、「コミュニケーション」、「モデル化」、「問題設定と問題解決」、「表現」、「記号による式や公式を用い演算を行うこと」及び「テクノロジーを含む道具を用いること」を挙げている。
 「能力クラスター」は「活用する力」の水準にかかわるもので、「再現」、「関連付け」、「熟考」の三つに区分され、その順番で質的な高まりを表している。いずれも子どもの「活用する力」の評価に役立つ視点を提供している。
 まず、「再現」は「比較的よく見慣れた、練習された知識の再現を主に要する問題を解く能力」とし、1.数学的事実についての知識、2.ありふれた問題表現の知識、3.等しいものの認識、4.身近な数学的対象や性質を思い出すこと、5.決まりきった手順を行うこと、6.アルゴリズムや技術的な技能をそのまま適用することと、7.見慣れた標準形式の記号や公式を使うこと、8.簡単な計算を行うことを例示している。
 次いで、「関連付け」は「再現クラスターの上に位置づき、やや見慣れた場面、または、見慣れた場面から拡張され発展された場面において、手順がそれほど決まりきってはいない問題を解く能力」であり、「この能力を評価する典型的な問題は、解釈を大いに要求し、異なる表現を結びつけ、解を求めるために問題場面の異なる問題場面を結びつけるものである」としている。
 そして、最後に、「熟考」は「関連付けクラスターの上に位置づき、洞察、反省的思考、関連する数学を見つけ出す創造性、解を生み出すために関連する知識を結び付ける能力」とし、この能力を評価する典型的な問題は、より多くの要素を含んでおり、結果の一般化や説明や正当化を要求する。」としている。

2.「問題解決」との関連で

 OECD-PISA2003調査では、この調査限りのこととして「問題解決能力」についても調査を実施しているが、それを「問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することができる能力である。」と定義づけている。「認識プロセス」の意味について、
 「問題を理解し、特徴づけ、表現し、解決し、熟考し、解決を伝えることなど問題解決行動の多様な構成要素やその基盤となっている認識プロセス」
 としている。ここで特徴的なことは、最後の「解決を伝えること」の強調である。それは「数学的リテラシー」の定義からの必然である。
 「問題解決能力」の認識プロセスを構成する各要素について次のように解説されている。

  • 「問題の理解」では次の通り。
    • 情報を理解し推論を行う
    • 情報を関連づける
    • 関連する概念を理解している
    • 既有の知識に基づく情報を利用し、与えられた情報を理解する
  • 「問題の特徴づけ」では次の通り。
    • 問題に含まれる変数を見つけそれらの相互関係に注意する
    • どの変数が関係しどの変数が関係しないかを決定する
    • 仮説を立てる
    • 一連の文脈にある情報を検索し、整理し、考察し、批判的に評価する
  • 「問題の表現」では次の通り
    • 表、グラフ、記号、文章により表現する
    • 与えられた表現を問題の解決に適用する
    • 表現の形式を変える
  • 「問題の解決」では次の通り。
    • 決定する(意思決定)
    • システムを分析する、または特定な目標に合うようシステムを設計する(システム解析・設計)
    • 解決方法を診断し提案する(トラブル・シューティング)
  • 「問題の熟考」では次の通り。
    • 解決方法を検討し、さらに情報や明確化を求める
    • 解決方法を異なる視点から評価しようと試み、解決方法を再構成し、社会的・技術的により受け入れられるものにする
    • 解決方法を正当化する
  • 「問題の解決を伝えること」では次の通り。
    • 適切なメディアと表現を選び、外部の人に解決方法を伝える

3.算数・数学の学びと言語力

 算数・数学の学びに置ける重要な視点としての「活用」と「問題解決」について、OECD-PISA2003の枠組みをもとに分析してみると、それらは多様な要素で構成され、また、それらは言語力、とりわけ説明することや筋道を立てて説明することと深くかかわっていることも明かであろう。

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