三森委員説明 資料3 言語技術@麗澤中学・高等学校(保護者向け説明資料)平成17年度1学期期末考査 問題用紙(3年生)名画の分析「落穂拾い」ミレー

言語技術@中学3年生

 中学3年生の1学期末の言語技術の試験では、ミレーの「落穂拾い」の分析を実施しました。生徒たちにとって、名画の分析はこれでちょうど4回目になります。1.ゴッホ「星月夜」2.ブリューゲル「雪中の狩人」3.ホッパー「ルート6」そして、4.ミレー「落穂拾い」です。1は授業で扱い、分析する際の基本的な項目を用いて議論をさせ、小論文を書かせました。2は2年生の定期試験として実施しましたが、このときは、分析すべき基本項目を試験問題として与えました。3は3年生の1学期で実施しましたが、基本的な分析項目のみならず、ホッパーにおいて特徴的な「異化の作用」について検討しました。そして、今回のミレーの「落穂拾い」については、次のように課題を出しました。

 【問題】「絵の分析」
 絵は、ミレーが描いたものです。この絵について分析しなさい。分析する項目は各自で考えなさい。なお、問題用紙各ページの白紙部分はメモ用スペースとして使用して構いません。小論文のまとめ方の例は、3ページに記載してあります。

 生徒たちに与えたのは、上記の問題文と絵のみです。絵については、ミレーの絵であることは問題の中に書きましたが、タイトルは一切与えませんでした。絵のタイトルを知っていた生徒は、彼らの小論文を見る限りごくわずかでした。大半の生徒たちはミレーがどのような画家であるのかまったく知りませんでしたし、絵にどのような意味があるのかを知っていた生徒は皆無だったようです。ところが生徒たちは、これまで身につけた絵の分析の手法を駆使して絵の内容を取り出しただけでなく、何人かの生徒はまったく指導しなかった光と影の使い方や社会体制などにも着目し、「落穂拾い」という絵が持つ深い意味にまで到達しています。生徒たちは定期試験の短い時間(50分)の間に、一枚の絵を見て分析し、掘り下げ、考えをまとめて小論文を書く、というとてつもない作業をいとも簡単にやってのけたのです。
 下記に示したのは、生徒たちの小論文から一部抜粋したものです。ミレーが描いた3人の農婦について触れられている部分を中心に取り出しました。美術評論家の解説【カタログ「ミレー3大名画展ヨーロッパ自然主義の画家たち,2003」より】とほぼ同じことが指摘されている点は驚嘆に値します。


 ミレーの絵が表現しているのは、広々とした田んぼを人の心に見立て、収穫の後に残った雑草(不安・心配など)を少しずつ取り除いている作業である。【3年男子】

 この絵では、遠くのほうで馬に乗った人が牧場の人たちに、草むしりをさせたり、わらを運ばせたりしている。【略】周りの人たちは、馬に乗った人に命令されて働いているので、どこか嫌そうな雰囲気を漂わせている。さらに手前の女の人たちに影を当てて、女の人たちの不安やつらさなどを表し、一方で馬に乗った人には太陽の光を当て、喜びや満足感を感じさせていることから、立場が正反対だということもわかる。【3年男子】

 この絵からわかることは、女性がまだ差別を受けていたころの様子である。この絵は一見苗を植えているだけに見えるが、女性の表情や男に命令されているところから、無理やり働かされ、社会的立場が低く、差別されていることがわかる。【3年男子】

 絵を見ていると悲しい感情が起こる。その理由は絵全体が田舎の夕暮れのオレンジ色に染まっており、下を向いて黙々と穂を拾っている三人の女性からは楽しさというものが感じられないからである。【3年男子】

 このミレーの描いた「落穂拾い」は、自分の畑だけではまかなえない女たちが、大きな農場へ行ってこぼれた穂を取っているという絵である。【略】
 ミレーがなぜこの女たちを中心にし、動きを与えたかというと、この女たちは生きるということをよく表現しているからなのではないか。絵の右側にいる黒い馬に乗った地主や、奥で麦を刈っている人たちも生きているのだが、この手前にいる女たちほど生きるということをよく表現しているものはない。さらにこの女たちの手に持っている麦と絵の中央に積み上げられた麦の量を見てみると、女たちの麦はあまりに少なくて、このころの身分の違いがよく伺える。【3年男子】

 この絵は、寂しさ、謙虚さを感じさせる。絵で人物は落穂拾いをしている。これはこの人物たちが貧しいということを表している。もし人物が貧しくなければ、収穫後の畑で落穂を拾う必要はない。しかし、人物は腰を曲げた決して楽ではない姿勢で黙々と落穂拾いを続けている。生きるためにやっているのである。落穂拾いをしている人物の気持ちは決して愉快ではない。それで落穂拾いを続けている人物からは人間の心にある寂しさが感じられる。それと同時に落穂拾いを続ける人間からは謙虚すら感じられる。人物たちは落穂拾いをしてでも生きていく気持ちを持っているのである。そこに人間の謙虚さが感じられる。【3年女子】

 この絵は全体に少し暗い色使いである。そして、全体的に影のある部分が多く、またその影は落穂を拾っている女性たちを覆っている。女性たちの様子を見ると、女性たちは収穫を喜んではいない。しかしそれとは反対に、背景にはたくさんの光があり、収穫を喜んでいる様子である。これは収穫の喜びを表した「喜」とそれとは逆に、その後の始末をしなければならないという「哀」という感情を表している。そして、その「喜」と「哀」のギャップがこの絵に雄大さとある種の寂しさの感覚を与えている【3年男子】

 この絵の表現の特徴は三つある。一つ目は、人や物の影がくっきりと描かれていることである。二つ目は、目に飛び込んでくるような色をあまり使わず、逆に暗めの色をたくさん使っていることである。三つ目は、主として描かれているのは収穫をしている女性のはずなのにその女性の顔がまったくと言っていいほど描かれていないことである。このような特徴から、この絵は一所懸命に仕事をしていても社会的には光を浴びない女性たちのむなしさ、悲しみなどを見た人に訴えてくる絵だと言える。【3年男子】

 ミレーの描いたこの絵画は、働く女性の苦労や厳しさを表現している【3年男子】

 絵の手前に来るに従い画面が暗くなっているのは、人々の身の上を表現している。後ろに行くに従い色は明るくなっているが、仕事は簡単に楽なものになっていく。すなわち、明るく描かれたのは資本家、もしくは中程度の水準にいる人々。そして最も暗いところにあるのは社会においてピラミッドの底辺にいる人々、すなわち奴隷、もしくはそれに準じたクラスの人々である。【3年男子】

 ミレーの描いたこの絵画はわらをとっている人々の寂しさ、孤独を表現したものである。絵が表現している寂しさ、孤独感は、後方のにぎやかで明るく、暖かい雰囲気と手前の静かで暗い雰囲気とのコントラストから読み取れる。【3年女子】

 私がこの絵を見て感じたことは二つある。「寂しい」という感じと「落ち着く」という感じである。それは色使いと影の雰囲気が、どこか寂しさや孤独を映し出しているからだ。しかし逆に「落ち着く」と感じたのは、その中にひたむきなものを感じたからである。【3年女子】

 ジャン=フランソワ・ミレー 落穂拾い

小論文の書き方【試験における指示】

  1. 序論
     作者名+絵の内容
  2. 本論
     自分なりに立てた分析項目に基づいて本論を構成する
     分析項目ごとに段落を変えること。
  3. 結論
     まとめ

書き出しについての注意

 小論文は次のような調子で書き出しましょう。

 ミレーの描いたこの絵画は、○○(まるまる)を表現したものである。
 絵が表現している○○(まるまる)は、・・・。

授業で一般的に実施している「絵の分析」項目

  1. 場所
  2. 季節
  3. 天気
  4. 時間・時代
  5. 描かれた人物
  6. 何が起こっているか・何を意味しているか
  7. テーマ
  8. 〔必要に応じて〕象徴
  9. 〔必要に応じて〕構図・色・描き方など
  10. 〔絵の分析終了後〕タイトル

 美術評論家の解説【カタログ「ミレー3大名画展ヨーロッパ自然主義の画家たち,2003」より】

 落穂拾い
 ジャン=フランソワ・ミレー
 1857年のサ口ンに発表 油彩・キャンヴァス83.5×111センチメートル パリ、オルセー美術館

 Les Glaneuses

 Jean-Francois Millet
 salon de 1857、huile sur toile、83.5*111cm
 Mudee d’Orsay、Paris;donation Mme Pommery sous reserve d’usufuruit、1890

 1857年のサロンに発表された本作品は、激しい賛否両諭の対象となった。ある者は、国家が消滅を宣言したはずの農村の悲惨さを告発するものとして.この絵を批判した。美術評論家のサン・ヴィクトールは、「ぼろ着をまとったこの案山子たち」に「貧困の復讐の3女神」の姿を見た.また『フィガロ』紙でジャン・ルソーは「3人の落穂拾いの背後の重い地平には.民衆蜂起の槍と処刑台が浮かびあがる」と記した。
 ミレーは、実際にはクールべと異なり、社会批判の意図はもっておらず、作品に政治的含みをもたせることはなかった。彼は本作品において、農民生活のありふれたひとこまを描こうとしただけだった。落穂拾いの許可を得た3人の貧しい農婦がシャイイの大平原で、ゆっくりした重々しい動作、明確かつ静謐なリズムで、刈り入れ人夫が取りこぼしていった麦の穂を拾っている。本作品は二つの部分に分けられよう。まずバックでは、馬に乗った作業監督に見張られた刈り入れ人夫たちが、豊作の麦の穂を荷車に積んでいる。大地に向かって身を屈めている、前景の3人の落穂拾いたちは、まったく別の世界に属している。画面上方に描かれた長い地平線が、あたかも落穂拾いたちを奢侈や富の世界から隔てているようだ。そのうちの二人は規則正しく機械的な落穂拾いの作業に没頭し、3人目は疲れた腰を伸ばしている。彼女たちの顔は明確に描かれておらず、光線は背や肩や腕、手に当てられている。
 ゴンクール兄弟は落穂拾いの重々しい身体とミレーの総合主義的な素描に関し、鋭い観察を残した。「ミレーはそのまろやかな描線により、女体特有のなまめかしい丸みが全く感じられぬ、いわば箱としての身体というべき表現に成功した。悲惨と労働のローラーによって平らにされたこれらの体は前に進むが、まるで労働と疲労が歩んでいるような印象だ」。力強く縁取られた落穂拾いの身体、フォルムを単純化するミレーの総合的表現のおかげで.この落穂拾いは彫像的に表現され.彼女たちのほとんど儀式的な動作は、古代の浮き彫りか聖書のシーンを想起させる.「この絵はその偉大な風格と静謐さによって、遠くからでも人目をひきつける。まるで宗教画のようにみえる」
 ミレーは本作品において、かつてプッサンの作品を特徴づけていた青、黄、赤の三原色を使用しているが、これは地面と3人の女たちの服装の地味な色調によって和らげられている。この作品は美術評論家のカスタニャリを驚倒させた。「声を大にする必要がまったくない。とても美しくシンプルな作品だ。実のところ、本作品のモチーフは胸が痛む性質のものだが、力強さ、簡潔さ、そして率直さに溢れた最も高尚なスタイルで描かれている。この絵は党派的な情熱を超越しており、虚偽や誇張とは無縁で、あたかもホメロスやウェルギリウスの叙事詩のような、真に偉大な自然の1ページを謳いあげている」
 プルトンはこの2年後に同じテーマに基づいて軽やかで、装飾的な作風の風俗画を制作した(《落穂拾いの召集》cat.no. 31)。本作品はスーラ、ドガ、モルべッリ、あるいはカイユボットなどの後続世代の芸術家たちに決定的な影響をおよぼした。

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