2 教育内容等の改善の方向

(1)人間力の向上を図る教育内容の改善

1.基本的な考え方

ア 言葉や体験などの学習や生活の基盤づくりの重視

  • 現行学習指導要領の総則では、「生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する中で、自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」とされている。
  • 教育に求められているのは、生涯にわたる学習の基礎を培うという観点に立って、子どもに基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力(確かな学力)、自らを律しつつ、他人と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性(豊かな心)、たくましく生きるための健康や体力(健やかな体)などの「生きる力」をはぐくむことである。
  • 教育課程部会においては、教育課程の構造を明確化することが、学校教育の目的や目標を実現する基本的な手立てとなるのではないかとの考えの下、「確かな学力」や「生きる力」の育成に関する議論を整理し、その実現のための道筋を示そうと取り組んでいる。
  • 義務教育答申においては、学習指導要領全体の見直しについて、例えば、次のような点を重視する必要があるとしている。
    • 「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること
    • 将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること
    • 家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること
    • 国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること
  • この四つの点は互いに密接に関連しており、一体となった体系的な指導がなされてこそ効果が上がると考えられる。「豊かな心」と「健やかな体」をはぐくむことは学習への意欲を生み出し、「確かな学力」の育成につながる。また、「確かな学力」の育成は、将来の職業や生活の基礎を培うものであり、他の人々とともに豊かな人生を生きる力へとつながるものである。
  • 子どもの心と体や学習の状況を見ると、「生きる力」を育てるためには、まずは、1.生活習慣、学習習慣、読み・書き・計算など、学習や生活の基盤を培うことが重要である。そして、2.将来の職業や生活への見通しを与える、国際社会に生きる日本人としての自覚を育てるなど、実生活を視野に入れて、学習や生活の目標を持たせることが重要である。子どもの発達の段階に応じて、こうした学習や生活の基盤づくりを重視する必要がある。
  • その際、言葉を重視することが大切であるとの意見、体験を充実することが重要であるとの意見が数多く示されている。
  • 言葉は、「確かな学力」を形成するための基盤であり、生活にも不可欠である。言葉は、他者を理解し、自分を表現し、社会と対話するための手段であり、家族、友だち、学校、社会と子どもとをつなぐ役割を担っている。言葉は、思考力や感受性を支え、知的活動、感性・情緒、コミュニケーション能力の基盤となる。国語力の育成は、すべての教育活動を通じて重視することが求められる。
  • 体験は、体を育て、心を育てる源である。子どもには、生活の根本にある食を見直し、その意義を知るための食育から始まり、自然や社会に接し、生きること、働くことの尊さを実感する機会を持たせることが重要である。生活や学習の良い習慣をつくり、気力や体力を養い、知的好奇心を育てること、社会の第一線で活躍する人々の技や生き方に触れたり、自分なりの目標に挑戦したりする体験を重ねることは、子どもの成長にとって貴重な経験となることが指摘されている。
  • 学習や生活の基盤づくりを進めていくためには、学校の教育内容及び教育方法について、実生活と一層意識的に関係付ける必要がある。具体的には、発達の段階に応じて、自然体験、社会体験、職場体験、文化体験等の適切な機会を設定することが求められる。身近な実生活とのかかわりの中で、実感を持って各教科等の知識や技能を習得できるようにすることが重要である。また、その知識や技能を実生活において生かしていくという視点を持たせることも重要である。
  • 教育と社会との連携は学校教育の側からのみ語られるべきものではない。家庭や社会の側においては、生活習慣の確立を図ることや、子どもに身近な人々とのかかわりを実感させ、豊かな社会的経験を得させることが必要である。そのためには、家庭教育の充実を図っていくことや学校外の人材(地域の人材や専門家など)が学校教育や地域での教育活動に参画することが重視されなければならない。家庭での学習課題を工夫し生活や学習の良い習慣づくりを支援することや、家庭や地域での体験的な学習、主体的な学習を学校でも積極的に評価することなどを検討していく必要がある。
(「人間力」の向上)
  • これまでのところ、具体的には、例えば、
    • 主体性・自律性
       (例)自己理解(自尊)・自己責任(自律)、健康増進、意思決定、将来設計
    • 自己と他者との関係
       (例)協調性・責任感、感性・表現、人間関係形成
    • 個人と社会との関係
       (例)責任・権利・勤労、社会・文化・自然理解、言語・情報活用、知識・技術活用、課題発見・解決
    などの構成要素に整理することができるのではないかとの検討を行っている。

イ 確かな学力の育成

(学力に関する考え方)
  • 学ぶ意欲や知的好奇心を育て、「確かな学力」を育成することは、学校教育の基本的な役割である。教育課程の構造を明確化する一環として、それをはぐくむ道筋(手立て)を明らかにすることが求められる。
  • 現行学習指導要領の学力観については、これをめぐって様々な議論が提起されているが、義務教育答申でも指摘しているとおり、基礎的・基本的な知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(いわゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。
  • そのためには、知識・技能の習得と考える力の育成との関係を明確にする必要がある。まず、1.基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させることを基本とする。2.こうした理解・定着を基礎として、知識・技能を実際に活用する力の育成を重視する。さらに、3.この活用する力を基礎として、実際に課題を探究する活動を行うことで、自ら学び自ら考える力を高めることが必要である。これらは、決して一つの方向で進むだけではなく、相互に関連しあって力を伸ばしていくものと考えられる。知識・技能の活用が定着を促進したり、探究的な活動が知識・技能の定着や活用を促進したりすることにも留意する必要がある。
  • こうして習得と探究との間に、知識・技能を活用するという過程を位置付け重視していくことで、知識・技能の習得と活用、活用型の思考や活動と探究型の思考や活動との関係を明確にし、子どもの発達などに応じて、これらを相乗的に育成することができるよう検討を進めている。
  • 探究的な活動を行うことは、子どもの知的好奇心を刺激し、学ぶ意欲を高めたり、知識・技能を体験的に理解させたりする上で重要なことであり、自ら学び自ら考える力を高めるため、積極的に推進する必要がある。こうした活動を通して、各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ、総合的に働くようになることが期待される。
  • なお、現行の学習指導要領に至るまでのある一時期において、子どもの自主性を強調する余り、教師が指導を躊躇する状況があったのではないかという指摘がある。探究的な活動については、知識・技能の習得や活用を視野に入れて、関連付けを図りながら、教師の指導の一環として行われることが必要である。広い意味で、教えることの大切さに留意する必要がある。
(基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させる)
  • 教育課程部会や教育課程企画特別部会においては、例えば、「一定のことは暗記し反復により定着させるべきである」との意見に見られるように、「読み・書き・計算」などの基礎的・基本的な知識・技能の面については、発達の段階に応じて徹底して習得させ、学習の基盤を構築していくことが大切との意見が示された。
  • 知識・技能のうちでも、特に、乗法九九や都道府県の位置と名称などは、実生活との関連においても、その後の学習の基盤としても重要な事項であり、基本的な意味を押さえた上で、反復学習などの丁寧な繰り返し指導が有効である。
  • また、音読、暗記・暗唱などの活動を適宜取り入れることが重要である。学習に関する基本的な能力を高め、その後の学習を効果的に進めることにつながるとの意見も示されている。
  • 知識・技能の確実な定着に当たっては、知識・技能を実際に活用する力の育成を視野に入れることが重要である。知識・技能を生きて働くようにすること、すなわち実生活等で活用することを目指すからこそ、その習得に当たっても、知的好奇心に支えられ実感を伴って理解するなど、生きた形で理解することが重要となる。
  • 生命や粒子、民主主義や法といった概念や原理、法則などは、個々の知識を体系化することを可能とし、個々の知識を活用する上での助けとなるものであり、教育内容として重視し、適切に位置付けていくことが必要である。
  • 形式知のみでなく、いわゆる暗黙知も重視すべきであるとの意見がある。こうした観点からも、家庭や地域社会とも連携しつつ、体験的な活動や音読、暗記・暗唱、反復学習などを通じて、知識・技能の体験的、身体的な理解ということに十分配意する必要がある。
  • このような知識・技能の様々な特性を踏まえて、子どもの発達や学年の段階に応じた教育内容の整理や指導方法の工夫が必要である。基礎的・基本的な内容については、小学校・中学校・高等学校において、あえて教育内容を重複させることが重要であるとの意見も数多く示されている。
  • 基礎的・基本的な知識・技能については、これまでの審議においては、特に、義務教育を念頭において検討を進めてきており、1.社会的に自立していくために実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能と、2.義務教育及びそれ以降の様々な専門分野の学習を進めていく上で共通の基盤として習得しておくことが望ましい知識・技能とに区分して整理するという検討を行っている。
  • 具体的には、各教科等を通じて、
    1. 実生活において不可欠な知識・技能
       例えば、整数、小数、分数の意味が分かり四則計算ができること、ヒトや動物のつくり、酸素や二酸化炭素の性質について知ることなど。
    2. 学習を進めていく上で共通の基盤となる知識・技能
      例えば、三平方の定理について理解すること、物質は粒子からできていることについて理解することなど。
    といった類型を設けて、整理を進めてきている。
(知識・技能を活用し、考え行動する力の重視)
  • 現行学習指導要領は、自ら学び自ら考える力の育成を目指して、具体的には、思考力・判断力・表現力等をはぐくみ、知識・技能等を学習や生活において生かし、総合的に働かせることを目標としている。
  • こうした方向性は国際的にも模索されており、例えば、PISA調査は、知識・技能を実生活において活用する力を測定することを目指している。
  • 教育課程部会及び教育課程企画特別部会においては、コミュニケーション能力を重視すべきである、知識・技能を活用する力が重要であるなどといった、教育を通じて育てるべき「力」を教科横断的に明確にしていく必要があるとの意見が示されている。
  • このような観点から、各教科等ごとに義務教育修了段階において子どもに身に付けさせたい力を比較検討した。その結果、各教科等を横断してはぐくむべき能力として、例えば、
    1. 体験から感じ取ったことを表現する力(感性や想像力を生かす)
      (例)
      • 日常生活や体験的な学習活動の中で感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを用いて表現する。
      • 自国や他国の歴史・文化・社会などから自分たちとは違う世界を想像し、共感したり分析したりしたことを表現する。など
    2. 情報を獲得し、思考し、表現する力(言語や情報を活用する)
      (例)
      • 文章や資料を読んだ上で、自分の考えをA4・1枚(1,000字程度)で表現する。
      • 自然事象や社会的事象に関する様々な情報や意見をグラフや図表などから読み取ったり、これらを用いて分かりやすく表現したりする。など
    3. 知識・技能を実生活で活用する力(知識や技能を活用する)
      (例)
      • 需要、供給などの概念で価格の変動をとらえて生産活動や消費生活に生かす。
      • 衣食住や健康・安全に関する知識を生かして自分の生活を管理する。など
    4. 構想を立て、実践し、評価・改善する力(課題探究の技法を活用する)
      (例)
      • 学習や生活上の課題について、事柄を比較する、分類する、関連付けるなど考えるための技法を活用し、課題を整理する。
      • 理科の調査研究において、仮説を立て、実験・観察を行い、その結果を整理し、考察をまとめ、表現したり改善したりする。
      • 芸術表現等において、構想を練り、創作活動を行い、その結果を評価し、工夫・改善する。など
      が考えられるのではないかという議論がなされている。
  • このように、1.感性に基づいて情報を処理する力や、2.理性に基づいて情報を処理する力などを通じて、体験から知識・技能を獲得し、深め、実際に活用するための基盤となる力を養うとともに、3.知識・技能を実際の生活や学習において活用する力、4.課題探究や創意工夫をすることで、課題自体を発見したり、課題を解決したりする力を育成することが重要である。1.~4.の力はいずれも、言葉の重視、体験の充実と深く関連する力である
  • こうした1.~4.の力は、現行学習指導要領においても、各教科等において、それぞれ位置付けられているが、今後は、各教科等を横断して、学校教育活動全体で力を伸ばしていくことが合理的であり、また有効であると考えられる
  • なお、1.及び2.の力については、文化審議会答申(「これからの時代に求められる国語力について」平成16年2月)において、考える力、感じる力、想像する力、表す力の育成として提起されている力と関連していると考えられる。
  • 教育課程部会では、今後、こうした力を育成するために、指導内容との結び付け、活動例の設定などについて、具体的に整理しようとする試みを行っている。

ウ 子どもの社会的自立の推進

(個性や能力を伸ばし、主体性・自律性を育成する)
  • 夢と現実とを結ぶためには、夢を目標に、目標を計画に具体化してそれを現実のものとする、そういう機会を学校の教育活動全体を通じて数多く経験させることが重要であるとの指摘がある。
  • また、夢と現実とが異なる場合に、現実を忌避するのではなく、自らがやるべきこと、やれることを誠実に行い、夢や目標に近づくために計画を立て少しずつでも前進する気持ちが大切であるとの意見もある。
  • 学習・生活の両面にわたって、目標を立て、それに挑戦し、試行錯誤を重ねながら、達成する体験を重視する必要がある。

エ 社会の変化への対応

  • メディア・リテラシー(各メディアの働きを理解し、適切に利用する能力)の育成については、新聞・雑誌・テレビなどのマスメディアに多く接するだけでなくパソコン・携帯電話・インターネットなどメディアの普及・多様化が急速に進む中で、これらが言葉、コミュニケーション、マスコミュニケーションに大きな影響を与えていることから、各教科等の連携を図りつつ、学校教育活動全体を通じて指導の充実を図ることが必要である。
  • その際、例えば、小学校段階では、通常の話し言葉や書き言葉との違いを理解すること、使用に当たって自他を傷つけることのないよう十分注意させることなどについて指導すること、中学校段階では、抽象的思考、科学的理解ができるようになるので、各教科において、学習内容の進展に伴い、活用のための基礎を習得させることなどについて指導することが考えられる

2.具体的な教育内容の改善の方向

1)国家・社会の形成者としての資質の育成等

ア 国家・社会の形成者としての資質の育成
(資質・能力の育成)
  • 社会科、家庭科、技術・家庭科などの教科においては、社会や家庭生活を客観的な視点から理解するための具体的な資質・能力を育成することが求められる。例えば、家庭の一員として衣食住や消費、技術活用などの生活を自分で管理・工夫できること、身近な人々と協調性を持って責任ある行動をとることができること、子育ての大切さや親の役割を理解し行動できること、社会的な見方や考え方を身に付けること、各種の資料や新聞記事などから必要な情報を読み取ることができること、社会的事象について調べたり発表したりできること、自分の考えやその根拠を具体的・論理的に説明できること、などが重要である。
  • 近年、ニートの問題など若者たちの社会とかかわろうとする意欲に低下が見られる中で、働くことに対する実感的な理解を深めることが大切であり、各教科等を通じて、協調性や責任感など他者とかかわる力の育成、社会生活の中での責任や勤労などの観念の理解・定着を図る必要がある。
  • 具体的には、小学校・中学校・高等学校を通じて、奉仕体験、長期宿泊体験、自然体験、文化芸術体験、職場体験、就業体験(インターンシップ、デュアルシステム)などの体験活動を計画的・体系的に推進することが必要である。特に、ニートの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求められている。例えば、中学校において5日間以上の職場体験を行う「キャリア・スタート・ウィーク」などを通じて社会や職業を体験させ、生活や人生の実感を持たせることが重要であり、このことが学習意欲の喚起や自尊感情の形成につながる。
(知識・技能の定着)
  • 例えば、地図帳を用いて地名を検索できること、相手に応じた接し方ができること、法や社会のルールをしっかり守ることの重要性を認識すること、マナーの基本を理解し身に付けていること、日常の衣食住、情報機器や道具の適切な活用、家庭生活・経済生活に関する基本的な技能、特に食育の充実が求められる中で、食の重要性を理解し基本的な調理の技能を身に付けることなどが期待される。
  • 民主主義や法、自他の権利と義務、公正さといった基本的な概念について体験的に理解することが、実生活への活用を視野に入れた場合、特に重要であると考えられる。例えば、学校や学級での集団生活の中で、正義や公正さを重んじて身近なトラブルを解決していく態度や実践などが期待される。
  • 情報、環境、法や経済など社会の変化に伴って国家・社会の形成者として新たに必要とされる知識・技能の定着のための教育については、学校外の人材や学習機会を有効に活用し、各教科等の関係部分を相互に関連付けながら理解させることが重要である。
イ 豊かな人間性と感性の育成
(知識・技能の定着)
  • 人間や文化・芸術の美しさや尊さ、生命のかけがえのなさなどについては、単に事柄としての知識だけではなく、実体験を通して実感的な理解を持つ必要がある。
ウ 健やかな体の育成
(資質・能力の育成)
  • 健康の保持・増進や生活習慣に関する手立てを考え、状況に応じた対処方法や病気の予防手段を探し、医薬品等について知ろうとする心身の健康に関する関心・意欲・態度、環境悪化予防・改善活動に取り組もうとする環境と健康に関する関心・意欲・態度、危険予測・危険回避や自他の安全への配慮など安全に関する関心・意欲・態度を身に付けることが必要である。
(食育)
  • さらに、学校での取組とともに、家庭、地域との連携を推進した取組を行うこと、給食の時間を食育の重要な機会の一つとして積極的に活用すること、関係する教科等における食に関する指導において、学校給食をより積極的に教材として活用すること、栄養教諭や学校栄養職員が関係する教科等における食に関する指導において積極的にかかわっていくことなどが重要である。

2)国語力、理数教育、外国語教育の改善

  • 義務教育答申では、国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要であること、科学技術の土台である理数教育の充実が必要であること、グローバル社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要があるなどの指摘をしている。
  • ここでは、今回の審議において具体的な手立てを講ずる必要があると考えられる、1.基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着、2.子どもたちに身に付けさせようとする思考力(感性)・表現力等の育成、3.学習意欲の向上や学習の実生活への関連付け、といった課題を軸に各教科等ごとに議論を行い意見を整理している。
ア 国語力の育成
(知識・技能の定着)
  • 国語力の育成には発達の段階に応じた指導が求められる。例えば、幼児期や小学校低中学年期において身体的・情緒的な活動と関連しつつ獲得するという特質があるので、そうした特質にかなう指導が必要である。
  • 小学校段階においては、読むことの力について体験的に身に付けるために、音読や朗読・暗唱が指導上有効であると考えられる。子どもが古典や名作に触れ我が国の言語文化に親しむ機会とすることも重要である。
  • 国語に関する知識を実生活において活用するために必要な技能として、描写、要約、紹介、説明、記録、報告、対話、討論などの基礎的な言語活動を行う力を確実に身に付けさせる指導の充実が望まれる。
  • 漢字の読み書きなどの基礎的な事項についても、その活用を視野に入れながら、反復学習など丁寧な繰り返し指導を通じて定着を図るとともに辞書を日常的に活用する習慣を身に付けることが重要である。
  • 例えば、義務教育修了段階までに常用漢字の大体が読め、そのうち1,000字程度の漢字が書けることなど、具体的な指標を設定することも考えられる。
(思考力・表現力等の育成)
  • PISA調査の読解力において低下傾向が見られる。具体的には、文章や資料の解釈、熟考・評価や、論述形式の設問に課題がある。
  • 教育課程実施状況調査についても、全体として正答率は高くなっているが、国語の記述式については低下するなどの課題が見られる。より詳細に分析すると、比較的自由に自分の気持ちを表現する設問については正答率が上昇しているのに対して、文章を深く読んで分析的に理解してその上で記述するという設問では正答率が下がっている。
  • 学力に関する調査結果を受けて、平成17年12月には、文部科学省において、「読解力向上プログラム」が取りまとめられた。このプログラムでは、PISA型「読解力」を向上させるために、1.テキストを理解・評価しながら「読む力」を高める取組の充実、2.テキストに基づいて自分の考えを「書く力」を高める取組の充実、3.様々な文章や資料を読む機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実が求められている。
  • 子どもの社会的自立のために必要な力として、国語力について考えると、「読むこと」と関連付けた形で、「書くこと」を充実していく必要がある。このため、例えば、文章や資料を読んだ上で、A4・1枚(1,000字程度)で自分の考えをまとめて表現することができる力を身に付けさせることなどが重要である。
  • 国語科を中核としながら、国語科以外の教科等と連携して、すべての教育活動を通じて、読む力や書く力などを育成していくプロセスを明確にした指導が求められる。例えば、各専門分野での調査研究ができるよう、自分で課題を設定したり課題を追究したりできること、読んだり聞いたりしたことを評価したり応用したりできること、などが考えられる。
  • 都市化や核家族化、情報メディアの発達の中で、子どもが集中力を持って相手の話を聞く機会が乏しくなっていることから、特に小学校低学年において相手の気持ちを理解しながら「聞く力」を育てる指導や、それを生かした「話す力」を育てる指導が重要である。
  • 国語教育は、我が国の文学や言語文化を継承・発展させるという大きな使命がある。文学や言語文化に親しみ、創造したり演じたりするのに必要とされる、読書、鑑賞、詩歌や俳句なども含めた創作や書写などの言語活動ができることが重要である。
(学習意欲・学習習慣)
  • PISA調査によれば、趣味として読書をする子どもが諸外国に比べて少ないとの結果になっているところであるが、上記の力の基礎を育てるためには、幼少期からの読書習慣を確立し、様々な文章や資料を読む機会を充実することが求められる。そのため、朝の読書など読書活動の推進を図るとともに学校図書館の充実を図ることなどが必要である。
イ 理数教育の改善
(知識・技能の定着)
  • 算数・数学における数や計算、図形などの基礎的・基本的な知識・技能は、国語力と同様、生活や学習の基盤となるものであることから、具体物を用いた実感的な理解、実生活への活用を考慮に入れつつ、反復学習など丁寧な繰り返し指導により確実に定着させることが必要である。
  • 我が国の子どもが、自然事象に接する機会が乏しくなっている状況を踏まえて、自然事象についての体験的な理解を重視する必要がある。例えば、幼稚園段階や小学校低学年においては、身近な動植物へのかかわりなどが重要である。
  • 小学校低学年の生活科は、体験的・実感的な理解を重視しており、子どもの自然現象への興味・関心を高めることにつながっているとの意見がある。今後は、中学年以降の理科の学習を視野に入れて、子どもが自然事象について、知的好奇心を高め科学的な認識の基礎を養うことができるよう必要な指導を充実することについて検討する必要がある。
(思考力・表現力等の育成)
  • PISA調査の科学的活用能力、数学的活用能力は国際的に見て上位水準にあるが、数学的活用能力は低下傾向にある。数学、理科のいずれも、解釈を要する設問、自分の考えや根拠を明らかにして論述する設問に課題があるとされている。
  • 現行学習指導要領においても、算数・数学の学習で身に付けた知識・技能を活用することは目標として設定しているが、PISA調査の数学的活用能力の結果に見られるように、身に付けた知識や技能を実生活に活用する力は十分に育っているとはいえない。
  • 算数・数学においては、作業的・体験的な活動を通じて、事象の中に潜む関係を探り規則性を見いだしたり、これを分かりやすく説明したり一般化したりするなどの算数的活動・数学的活動をより一層充実し、数学的な見方、考え方を育成する必要がある。
  • 算数・数学においては、小数や分数の計算の意味、関数や確率について、理科においては、粒子やエネルギーなどの基本的な概念について、実生活と関連付けたり、体験したりして理解することが重要である。また、様々な数量的なデータを分類整理し比較したり、グラフ化したりすること、仮説を立てて実験し評価し改善することなど、実感を伴って理解し、論理的に思考し適切に表現する力を、国語力の育成とも関連させながら確実に育成することが重要である。
(学習意欲・学習習慣)
  • 算数的活動、数学的活動の楽しさや数学的な見方や考え方のよさを具体的に示すことなどで、算数・数学を学習することの意義を子どもが実感できるようにすることが大切である。また、理科においては、自然に親しむための体験的な活動や観察、実験、ものづくりなどの活動の一層の充実を図り、子どもの興味・関心を高めることが必要である。
ウ 外国語教育の改善
(知識の定着)
  • 教育課程実施状況調査において、英語を理解するための基本的な語彙や構文などが一部定着していないとの結果が示されている。
  • 今後は、発信力が重視されるので、基本的な語、連語及び慣用表現の意味と使い方が分かることなどといった基礎的・基本的な知識を定着させることが必要である。
(技能の定着)
  • 教育課程実施状況調査では、全体として聞くことは良好である。一方、話すことについては、全体として抵抗感はなくなってきているが、英語が使えるというレベルでは必ずしも十分でないのではないか。
  • 簡単な表現を用いて外国語によるコミュニケーションを図れることなど、外国語の習得という観点から、基本的な英語の音声の特徴をとらえ、正しく聞き取り発音することができることなどの技能を確実に定着させる必要がある。
  • また、教育課程実施状況調査では、書くことが良好ではなく、特に内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身に付いていない。このため、文字や符号を識別し、正しく読み、書くことができることを確実に定着させることはもとより、文レベルでなく文章レベルの訓練が必要ではないか。
(理解力・表現力等の育成)
  • 事実関係の伝達、物事についての判断、様々な意見等についてコミュニケーションを図れることが重要であり、コミュニケーションのツールとしての英語を使った発信力が重要である。
  • 例えば、1分間150語程度の速さの標準的な英語を聞き取ることができること、与えられたテーマについて1分間程度のスピーチができること、300語程度の英語を読んで概要をとらえることができること、与えられたテーマについて、短時間で5文程度のまとまりのある英文を書くことができることなど、具体的な到達水準を設定して、理解力・表現力等の育成を進めていくことが考えられるのではないか。
(関心・意欲・態度等)
  • 教育課程実施状況調査においては、英語が大切だ、普段の生活や社会に出て役立つと考えている生徒は、他の教科に比べて多いのに対して、授業がわからなくなる生徒の割合が他の教科より高い傾向にある。
  • 学ぶ意欲を高めるためには、例えば、自分の考え方や文化・生活を相手に伝える言葉としての英語との位置付けを明確にしてはどうか。また、ディベートなどで生徒の問題意識を掘り起こすことが、読んだり書いたりすることの意欲を引き出すことにつながったり、英語は手段だという体験になったりする。
  • 英語の学習に当たっては、世界や我が国の生活や文化についての理解、様々な言語や文化に対する関心、国際社会に生きる日本人としての自覚を養うことが重要である。
(英語以外の外国語教育)
  • 高等学校を中心に外国語教育の中で中国語など英語以外の外国語を開設している学校もある。国際社会に生きる日本人の育成のためには、アジア諸国等とのコミュニケーションを促すという観点から外国語教育の在り方を検討することも必要である。
(小学校段階における英語教育の充実)
  • 国際コミュニケーションの観点から、我が国においてもインターネットの普及などによって英語でコミュニケーションを図る機会は増えるなど英語の必要性はますます高まることが予想されるが、国民の英語運用能力は国際的に見て十分でなく、英語教育の充実が必要である。
  • 最近の子どもたちは、テレビを通じて外国人や異文化に対する抵抗は少ないように思える。映像を活用することにより楽しく学ばせることも考えられる。
  • 例えば英語を聞く力や話す力を高める上で、英語活動を通じて小学校段階の子どもの柔軟な適応力を生かすことが有効ではないか。特に、小学校段階では、聞く力を育てるということが重要ではないか。
  • 国語力や我が国の文化の育成という点に十分留意して検討する必要がある。英語を学ぶことで、異文化理解だけでなく、国語や我が国の文化についてもあわせて理解を深めることができるよう、検討する必要がある。
  • 現在、総合的な学習の時間などを活用した小学校段階の英語活動は約9割の学校で実施されており、例えば第6学年では年間約13単位時間(1単位時間は45分)程度の教育活動が行われているものの、必ずしも十分な成果が上がってないところも見られるのではないか。
  • 構造改革特別区域等において、教科として英語教育を実施している公立小学校も増えつつある。
  • 義務教育に関する意識調査等においても保護者や自治体関係者から充実を求める声が強い。国際的にも、EUにおけるフランスや、中国・韓国など近隣アジア諸国を含めて、国家戦略として、小学校段階における英語教育を実施する国が急速に増加している。
  • このような状況の中で、国としては、義務教育答申で既に提言しているとおり、小学校段階における英語教育を充実する必要がある。
  • このため、外国語専門部会においては、義務教育として教育の機会均等を確保するため、仮にすべての学校で共通に指導するとした場合の指導内容を明らかにするため必要な検討を進めている。これまでの審議状況は次のとおりである。
  • 検討に当たっては、小学校英語を実施するに当たって指摘されている課題、例えば、国語力の育成との関係、中学校・高等学校の英語教育との関係はどう整理するのか、条件整備の面での課題などを念頭において、検討を進めている。
  • これまでの審議では、小学校における英語に関する教育の内容として、
    1. 小学校段階では、音声やリズムを柔軟に受け止めるのに適していることなどから、音声を中心とした英語のコミュニケーション活動や、外国語指導助手(ALT)を中心とした外国人との交流を通してスキル面を中心に英語力の向上を図ることを重視する考え方(英語のスキルをより重視する考え方)
    2. 小学校段階では、言語や文化に対する関心や意欲を高めるのに適していることなどから、英語や国語を通じて言語や文化に対する理解を深めるとともに、ALTや留学生等の外国人との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、国際理解を深めることを重視する考え方(国際コミュニケーションをより重視する考え方)が示されている。
  • 1.の考え方については、例えば、スキル面の高まりはある程度期待できるが、小学生にとっては実際にスキルを活用できる場面は限られていることから、多くの子どもにとって、中学校に入学するまで英語に関する興味・関心を持続することができにくいのではないかといった懸念がある。
  • 2.の考え方については、中学校・高等学校における英語教育を視野に入れた英語教育の基盤となる力を養うことができること、グローバル化社会の中で求められる国際コミュニケーション能力の育成や学習意欲の継続、国語力との調和という点では優れているが、コミュニケーションを図ろうとする態度や国際理解は、客観的に測定したり検証したりすることが難しく、その成果が見えにくいという懸念がある。
  • 中学校・高等学校での英語教育を見通したとき、まずは、英語を学ぶための動機付けが重要であることから、2.の考え方を基本とすることが考えられる。言語やコミュニケーションに対する理解を深めることは、国語力の育成にも資するのではないかとの意見も示されている。この場合においても、1.の側面について、小学生の柔軟な適応力を生かして、聞く力を育てることなどは、教育内容として適当と考えられる。
  • この点については、今後更に検討することが必要であるが、この1.と2.の考え方のいずれを重視し、どのように組み合わせるかによって、具体的な教育目標や内容が設定されることとなる。
  • 一方、教材、指導者、ICTの利活用方策等の条件整備も重要な課題である。この点については、具体的な教育目標や内容、教育課程上の位置付け(教科とするか、総合的な学習の時間の一環とするかなど)、開始学年、実施時期等とも関連する事項である。
  • これまでのところ、外国語専門部会では、例えば、指導者については、当面は、現職教員に対する研修プログラムを開発・実施する必要があること、ALT、留学生、英語に堪能な地域の人材やICTなどをそれぞれの特性に応じて利活用することが効果的であることなどの意見があり、更に具体的に検討を進める必要がある。
  • これらの課題については、専門的・多角的な検討を要するため、外国語専門部会において、専門家や関係者の意見を聞きながら検討を行っている。外国語専門部会においては、国語力の育成等の課題にも十分配慮しつつ、小学校における英語教育を充実するための具体的な方策について、審議を進めている。外国語専門部会では、本年度中を目途にこの点に関する審議の状況を整理し、教育課程部会に報告することとしている。

3)総合的な学習の時間などの改善

ア 総合的な学習の時間の改善
(支援策等)
  • 総合的な学習の時間については、各学校において、例えば、
    1. 国際理解、情報、環境、福祉・健康等の教科横断的な学習
    2. 子どもによる課題設定と調査研究、作品製作、学習成果の発表会等の学習
    3. 自然体験、職場体験、奉仕体験等の学習
    などが行われている。
  • 上記3.については、子どもの個性を伸ばし、主体性や自立性を高め、目標に挑戦する力を育てていく上で重要な役割を果たすものである。特に、学習面では、課題探究型の学習と結び付くことで、学習意欲の向上にも資するものと考えられる。
    その一方、特別活動との関係を整理することが必要である。
  • また、小学校・中学校・高等学校の連携を求める意見も多く指摘された。小学校においては、どちらかと言えば、体験的に理解することに中心が置かれ、中学校・高等学校と発達の段階が上がるに従って、主体性を重視することとなるが、地域によっては、同じ題材が繰り返されることがあることから、子どもたちの発達の段階を踏まえた連携の必要性について意見が出されている。

(2)教育課程の枠組みの改善

1.指導方法、授業時数の見直し等

  • ア 指導方法の改善
    • また、知識・技能の活用力を定着させるためには、個に応じた指導としての発展的な学習、問題解決型の学習(ここでは、既得の知識・技能を活用することで所定の問題を解決する学習をいう)などを行うことが重要である。
    • さらに、個々の子どもの学習状況を十分に勘案しながら、課題探究型の学習(ここでは、調べ学習や実験・観察、調査研究などにより課題を発見したり、解決したりする学習のことをいう)などを行うことが重要である。
    • また、こうしたきめ細かな学習を支える仕組みとして、ICTなどの活用も十分考慮されなければならない。
  • イ 授業時数の見直し

2.発達や学年の段階に応じた教育課程編成や指導の工夫

  • このような観点からは、様々な事情や背景を抱えている子どもがおり、発達の段階の違いがあることも十分配慮した上で、個々の子どもの状況も踏まえながら、例えば、小学校低学年から中学年までは、体験的な理解や具体物を活用した思考や理解、反復学習などの繰り返し学習といった工夫による読み・書き・計算の能力の育成を重視し、中学年から高学年にかけて以降は、体験と理論の往復による概念や方法の獲得や討論・実験・観察による思考や理解を重視するという指導上の工夫が一層可能なように教育課程を編成する必要がある。

3.学校週5日制の下での学習機会の拡充

(学校週5日制の下での学校と家庭・地域の具体的連携策)
  • こうした地域での活動を支援するため、土曜日に行われる子どもの自主的・自発的な学習活動(探究的な学習、体験活動など)については、そのうち、学校教育活動と同等の成果があると判断されるものについては、地域の主体的な取組(学校外の学習活動)であっても、学校の学習評価において、積極的に評価することも考えられる。

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課教育課程企画室

(初等中等教育局教育課程課教育課程企画室)