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資料3

初等中等教育における国際教育推進検討会報告(素案)
−国際社会を生きる人材を育成するために−


はじめに

   今日の世界においては、人・財・資本が国境を越えて移動し、高度情報化の進展により瞬時につながる。我が国を取り巻く環境も、地球環境問題の深刻化や科学技術の進歩など大きく変貌している。日本人が個人として国際舞台で活躍する一方、日本に居住する外国人の増加など地域社会の国際化も進んでいる。

 社会や生活のあらゆる面でグローバル化と相互依存が進んでいる中、例えば環境や人口に見られるように、地域の問題は地球全体の問題につながり、地球のどこかで起きている問題は自らの住む地域に影響する問題となる。

 このような社会においては、広い視野を持ち、異文化を理解するとともに、これを尊重する態度や異なる文化をもつた人々と共に協調して生きていく態度を育成することがますます重要となってきている。と同時に、自国の歴史や文化についての理解を深め、国際化した社会で主体的に生きる個人としての資質と能力を育成することが求められている。

人類共通の課題として、「持続可能な開発」が重要な課題となっている。平成17(2005)年からの10年間が「国連持続可能な開発のための教育の10年」とされ、国際教育を推進してきたユネスコ[国際連合教育科学文化機関]がその主導的機関としての役割を担っている。
 「持続可能な開発」のためには、個人個人のレベルで地球上の資源の有限性を認識するとともに、自らの考えを持って、新しい社会秩序を作り上げていく、地球的な視野を持つ市民を育成することが求められており、教育に大きな期待が寄せられている。

 また、現代は、国際的な「知」の大競争時代である。我が国が競争力のある国家であり続けるためには、国づくりの基盤として優れた人材が不可欠である。切磋琢磨しながら、新しい時代を切り拓く、心豊かでたくましい日本人の育成を目指して、人間力向上のための教育改革が推進されている。国際教育を推進していくに当たっても、「画一と受け身から自立と創造へ」という理念の下、「挑戦する精神」を持った子どもたちをはぐくんでいくことが大切である。

 このような認識の下、本検討会では、国際化した社会の一員として、国際社会に貢献できる人材を育成するため、初等中等教育における国際教育の在り方について、国際教育の基本的な方向性を示すとともに、国際教育を取り巻く現状と課題を多面的に捉えた上で、今後の国際教育の充実のための方策について検討を行った。


第1章 国際教育の意義と今後の在り方〜「理解」から「発信」へ

 − 21世紀に入り、国際化が一層進展している社会においては、国際関係や異文化を単に「理解」するだけでなく、自らが国際社会の一員としてどのように生きていくかという点を一層強く意識することが必要。

 − 他の国や国際関係、異文化を理解するだけでなく、個人が相互理解に基づく多文化共生という視点を持ちつつ、自己を確立し、発信を行い、主体的に行動できる人材を育成するため、実践的な態度や能力の育成により重きを置く「国際教育」の推進を提言。

   第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(平成8(1996)年7月)」において、教育目標として「生きる力」を育成することが提言された。「生きる力」とは、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などであるとされている。

   また、同答申では、「生きる力」をはぐくむ中で、国際化への対応の視点として、次の3つのことを提言している。すなわち、1広い視野を持ち、異文化を理解するとともに、これを尊重する態度や異なる文化をもった人々と共に生きていく資質や能力の育成を図ること、2国際理解のためにも、日本人として、また、個人としての自己の確立を図ること、3国際社会において、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意思を表現できる基礎的な力を育成する観点から、外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーションの能力の育成を図ること、である。

   21世紀においては、人、財、資本、情報が今までの以上の速さと量で移動しており、その形態も多様化、複雑化している。今後も、社会の国際化と相互依存は、一層進展してしていくことが予想される。
 日本人の海外渡航が一般化し、日本人が外国に出かけ様々な異文化に接する機会が増えている。また、日本を離れて外国の社会の中で暮らしたり、日本人が国際企業や国際機関の一員として働くという個人レベルの国際化も進んでいる。
 一方、日本の国内においても、多くの人々を外国から受け入れるようになっている。日本にいながらにしても、異なる文化や生活習慣をもつ外国の人々と、日常的に接する機会が多くなり、地域においてはそれらの人々と相互に理解し協力し合いながら生活することが求められるようになってきている。また、学校においても、外国人の子どもたちが多数学ぶようになってきているなど、多国籍化、多文化化が進んでいる。

   ものごとの規模が国家の枠組みを越え地球規模で拡大し、国際的相互依存関係の中で生きる現代人には、国際関係や異文化を単に「理解」するだけでなく、自らが国際社会の一員としてどのように生きていくかという点を一層強く意識する必要がある。異文化や異なる文化をもつ人々を理解・尊重する態度を持ち、自らの国の伝統・文化に根ざした自己を確立し、自分の考えや意見を自ら発信することが今まで以上に大切となる。

   以上のような認識に立ち、本検討会では、第15期中央教育審議会第一次答申において示された国際化への対応に関する3つの視点、すなわち、1異文化と共生できる資質や能力、2自己の確立、3コミュニケーション能力の3点を踏まえた人材育成を進める観点から検討を行った。
 今日、求められているのは、今日の国際化の一層の進展を考え、他の国や国際関係、異文化を理解するだけでなく、個人が相互理解に基づく多文化共生という視点をもち、国家の枠組みを超えた国際社会の一員として自己を確立し、発信を行い、主体的に行動できる人材である。このため、実践的な態度や資質、能力の育成により重きを置く「国際教育」の推進に力を入れていくことを提言する。

1.いかなる人材を育てるべきか −国際社会の中で求められる資質・能力

 − 初等中等教育段階においては、子どもたちが、
  1異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、「つながる」ことのできる態度・能力
  2自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立
  3自らの考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力
を身に付けることができるようにすべき。

   国際化した社会において、我が国の子どもたちが自立した個人として、いきいきと活躍できるよう、初等中等教育段階においては、すべての子どもたちが、1異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、「つながる」ことのできる態度・能力、2自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立、3自分の考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力、を身に付けることができるようにすべきであると考える。

   多様な人々との日常的な交流が拡大する中にあっては、異文化や異なる文化をもつ人々を理解するだけでなく、理解した上で、異文化や異なる文化をもつ人々を受容しながら「つながる」ことのできる力が重要となる。この力とは、相互の歴史的伝統・多元的な価値観を尊重しつつ、多様な異文化や人々の生活・習慣・価値観について違いを違いとして認識し、創造的な関係を構築する態度や能力であり、葛藤や対立を乗り越えてよりよい人間関係を作り出し、他者との関わりを通して問題を解決しようとする態度や能力である。また、そのためには、共存共栄的な発想を身に付けたり、一国の利益追求のみによらない全地球的な視野、知らないことや理解できないことにも柔軟に対処する能力などを育成していくことが必要である。

   異文化や異なる文化を有する人々に対して敬意を払い、理解し受容することは、自分自身の国やその歴史、伝統・文化を理解・尊重し、その上に立脚した個性をもつ一人の人間として自己を確立することによってはじめて可能となる。そのためには、自らを知り、自分らしさを受入れ、自分なりの判断基準を持ち、国際化した社会の中で生きる個人としての価値観を形成していくことが必要である。

   多様な他者の中で、自己を確立し相互理解を深め、つながっていくためには、対話を通して、人との関係を作り出していくような力が求められる。そのためには、自分の考えや意見を自ら発信し、他者の主張を受け止め、議論をまとめあげ、具体的に行動することのできる態度・能力が必要となる。自分の考えをもち論理的に表現する能力を、ディスカッションやディベート等の具体的な活動を通じて育成することが大切である。また、外国語を含めた言語運用能力の育成とともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成していく必要がある。

   国際教育を通じて児童生徒が身に付けるべきこれらの態度や能力は、国際社会において指導的立場に立つ人材に求められる態度・能力の基盤ともなるものでもある。我が国が、国際社会から理解、信頼され、国際的な存在感を高め、一層発展していくためには、国際社会に通用するリーダー的人材を育成することも極めて大切である。初等中等教育段階においても、個の特性に応じて、基本的な資質・能力に加えて、リーダー的資質・能力の伸長にも配慮しつつ国際教育に取り組むことも必要である。

2.国際教育を推進するための基本的視点

 − 国際教育とは、国際社会において、地球的視野に立って、主体的に行動するために必要と考えられる態度・能力の基礎を育成するための教育。
 − 異文化を理解するだけでなく、主体性や発信力を重視。

   国際教育とは、国際化した社会において、地球的視野に立って、主体的に行動するために必要と考えられる態度・能力の基礎を育成するための教育であり、端的に言えば、国際化した社会を生きる人材を育てる教育である。そのねらいは、自己を確立し、他者を受容し、関わりながら、発信し行動できる力を育成することにあり、国際理解教育の目指していたところと変わりはない。

   しかしながら、各学校における国際理解に関する取組が、ややもすれば、異文化「理解」の段階に留っており、主体的に行動するために必要と考えられる資質・能力の育成が不十分であったとの指摘もある。これは、国際理解に関する理念の定着や理解が不十分であったことや、実践の基盤が十分整備されていなかったことにもよる。

   また、21世紀の社会においては、国際化が一層進展しており、日本の国内外を問わず、一人一人の人間が、国際社会の構成員としてふさわしい態度・能力をもつことが求められており、単なる国際理解だけでなく、主体性や発信力を意識した教育を行うことが一層強く求められている。

   国際教育を学校教育において効果的に推進するためには、これまで、海外子女教育、帰国児童生徒教育、外国人児童生徒教育といった各分野で養成された人材、蓄積されてきた手法などを有効活用しつつ、分野間を有機的に連携させ、また、国際機関やNPO、民間企業や国際経験を有する地域住民や留学生等の外国人など、学校の外部にある人材や組織などの教育資源を活用していくことも大切となる。

   本検討会は、そのような考えに基づき、今後の国際教育の推進においては、以下の基本的視点に立って、進めていくべきと考える。


1 実践的な態度・能力を育成していくため、国際教育の実践力の向上と「学びの広がり・深まり」をもたらす授業づくりを。

   国際社会に通用する主体性や発信力は、体験的な学習や問題解決的な学習などを通じて、ものごとに柔軟に対処する力や、問題解決能力やコミュニケーション能力等を身に付けることによって育成されていく。

   そのためには、社会の様々な問題を子どもたちの身近な課題として学校の教育活動に取り入れていき、学習の成果を子どもたちが自らとのかかわりの中で実感できるよう、調べ学習や体験学習、交流活動を広がりと深まりをもった学習につなげていくことが必要となる。すなわち、一つの学習の中で、子どもたち自らが、課題を発見し、それを探求し、その成果を表現し、他者との対話を通じて学びを振り返り、さらに次の課題につなげていくという、螺旋的な課題探求・解決型の学習プロセスを大切にすることが不可欠である。

   国際教育では、地球規模の課題や今日的な課題として、例えば文化、環境、開発問題等といった教科横断的な課題を多く取り上げるが、これらの課題を理解するためには、教科等における学習で培われる知識や技能等が不可欠である。国際教育は、教科等の学習でも、「総合的な学習の時間」でも、取り組むことができるが、いずれの場合も、各教科等における学習と「総合的な学習の時間」の関連を常に意識し、授業に広がりと深まりをもたらすことが重要である。そのことにより、基礎・基本の確実な定着が図られると同時に、問題解決能力やコミュニケーション能力等の育成が可能となる。


2 実践事例、手法、幅広い経験や優れた知識を有する人材や組織など国際教育にかかわる人材や資源を活用するため、共有の促進や連携のための支援体制の構築を。

   国際教育においては、子どもたちの身近な課題を子どもたちが実感できる形で取り上げることが大切であるが、そのためには、学校や地域の実態に応じた実践の工夫も必要となる。

   学校の外部には、国際教育について幅広い経験と知識を有する人材や組織等が多数存在している。また、これらの人材や機関は教材や学習方法についても、多種多様な教育的資産を有している。

   これらの国際教育にかかわる人材や資源を最大限に活用し、身近なところから世界とのつながりを感じ、学校における国際教育の充実、活性化を図ることが大切であり、そのためには、優れた実践事例や経験、手法などの共有を図り、学校・教育委員会と学校の外部にある人材や組織を連携を促進するなど、それら人材や資源を活用するための支援体制を整備していくことが必要である。


3 海外子女教育においても、「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の日本人学校での先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点を。

   海外の日本人学校や補習授業校は、海外にいる日本人の子どもに対して、日本の学校と同等の教育機会を提供する上で重要な役割を果たしている。さらに、それに留まらず、国際教育として海外子女教育は、豊富な経験を有するとともに、英語教育、国際交流、少人数教育等、日本国内の学校における教育活動の先駆的取組を行ってきている。

   また、日本人学校や補習授業校等の在外教育施設は、そこで働く教員にとっても、そこで学ぶ児童生徒にとっても、国際教育の実践の場であることから、日本国内の学校にとっても国際教育にかかわる資源として忘れてはならない存在である。

   「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の日本人学校での先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点を持ち、海外子女教育の分野での取組みを、国際化のための教育の在り方を含めた日本国内の教育のため情報発信していくことは国際教育の充実に資するものである。

第2章 国際教育を取り巻く現状と課題

(1)授業実践の観点から
 − 一部の教員任せになっており学校全体の取組になっていない傾向
 − 英語の実施すなわち国際理解という誤解、単なる体験や交流活動に終始など、国際教育の内容的希薄化、矮小化への懸念

   新学習指導要領に基づいて、平成14(2002)年度から本格実施となった総合的な学習の時間においては、「国際理解」が課題の一例として掲げられており、各学校における取組が広がっている。総合的な学習の時間が創設されたことで、国際教育を実践する時間・場所・人が確保され、優れた実践も行われている。

   一方で、学力向上への対応や学校行事のための時間確保のため、国際理解を取り上げるための時間を確保することが難しいという声もある。

   また、国際教育は、総合的な学習の時間のみならず、各教科、道徳、特別活動などのいずれを問わず推進されるべきものであるが、現実には、外国語や社会科等の教員や、関心のある教員が取り組めばよいものとして捉えられる傾向があり、学校全体の取組となっていないという指摘もある。

   さらに、英語を学習することがすなわち国際理解であるという考え方が広がっていたり、国際理解に関する活動が単なる体験や交流学習に終わってしまうなど、以前に比べ内容的に薄まっている、矮小化されているとの声もある。

   このような指摘の背景には、国際教育の指導理念が確立できていないこと、必要性や緊急性が「環境」や「情報」と比べて乏しいと捉えられていること、学習方法や教材開発が進んでいないため、教育効果が十分に上がっていないこと、授業の目標や内容が明確でないため、児童生徒の学びの成果が見えにくく取り組みにくいこと、等があると考えられる。


(2)教員の指導力という観点から
 − 国際教育に関する研修の重要性が十分認識されていない
 − 指導案作成や教材開発の方法等、授業づくりに直接役立つ実践的な研修が不足
 − 国際教育に携わる中核的立場の教員が不足

   都道府県・市町村教育委員会主催の研修において、国際教育が取り上げられることは多い。しかしながら、その内容については、例えば、海外経験者や国際ボランティア経験者の体験談や、外国語教育に関する1、2時間程度の講演が主となっているなど、国際教育に関する体系的なものになっていない、あるいは実践的指導に資するものになっていないとの指摘がある。

    教員が主体的、自主的に行っている研修や各教科等の研究会においても、国際教育をテーマとして取り組んでいる例も数多くある。しかしながら、多忙等の理由により、参加する教員が減少傾向にあるといわれている。

   このような背景には、国際教育に関する研修の重要性が十分認識されていないことのほかに、国際教育に関する優れた実践者が育っていないなど、国際教育にかかわる中核的立場の教員が不足していることがあると考えられる。


(3)国際教育人材の活用という観点から
 − 日本人学校等への海外派遣教員の経験や能力が十分に生かされていない
 − 海外派遣教員の経験を評価・活用するという方針・方策が不足
 − 「海外経験を帰国後の学校教育全体に広く還元していく」という視点が教員自身にも欠如している面も
 − 海外派遣教員の情報発信を支援するような体制が不足

   学校現場における国際教育の中心となることが期待できる人材として、日本人学校等の在外教育施設への派遣教員や青年海外協力隊に参加した教員、REXプログラム[外国教育施設日本語指導教員派遣事業]による派遣教員など、多様な海外経験を有する教員がある。これらの海外派遣教員は、海外で子どもたちへの教育という職務に従事していると同時に、派遣先において教員自身の見識を高め、資質能力の向上及び指導力の向上を図り、帰国後、派遣先での経験を、学校の国際化の中心として、国際教育や国際交流の推進、外国語教育や日本語指導の充実等に生かすことが期待されている。

   海外派遣教員の中には、その経験を積極的に生かす活動を実践している例も見られる。例えば、在外教育施設経験者については「全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会(全海研)」、REXプログラム経験者については「NPO法人REX−NET」などの任意の組織に加入し、個々人が得た経験や知識を自ら実践したり、その成果を他の教員に普及することを行っている。また、日本人学校等のカリキュラムづくり、地域での研修会の実施に携わるなど幅広い活動をしている。

   しかしながら、最近の傾向として、これら海外派遣経験者の組織に参加する教員が減少しているということが指摘されている。また、海外経験を生かしたいと思っているにもかかわらず、活躍する場がない、周囲の目が好意的でないとの声もある。この背景には、教育委員会や学校、他の教員の理解が不十分であることや、海外派遣教員の経験を評価し、活用するという方針が教育委員会や校長にないことなどがあると考えられる。


(4)外部資源の活用という観点から
 − 外部の人材・組織に関する情報が不足
 − 学校と外部の人材や組織を結びつける機能が不在

   総合的な学習の時間を中心に、現状においても、学校の外部にある人材等を学校教育に積極的に活用することが行われている。例えば、豊富な海外経験を有する企業退職者に特別非常勤講師として授業に参加してもらい、世界各国で生活した実体験に基づき、外国の生活・文化・政治・経済等を、解りやすい形で子どもたちに語ってもらうということが行われている。

   また、国際協力機構[JICA(ジャイカ)]、国連児童基金[ユニセフ]、国連世界食糧計画[WFP]等国際援助機関では、開発途上国の風土や暮らしぶりを紹介する写真教材等を通じて途上国の現状や課題について理解を深めるための教材やカリキュラムを開発しているほか、国際協力を実体験するプログラムを提供するなど、幅広い活動を行っている。

   このほか、地域の外国人を学校に招き、自国の文化や生活を紹介してもらい、交流を行うといった取組も多く行われている。

   国際教育を充実させるためには、様々な形で学校の外部にある人材や資源を活用していくことが必要であるが、情報の共有や連携のための体制づくりが十分でないため取組にくいとの指摘があった。例えば、学校が外部にある人材や組織等の資源を活用したいと思っても、十分な情報をもっていないため、求める活動形態や学習課題に最適の組織等を見つけることができない、連携しようとする組織等の実態や実績について分からないといった指摘がある。

   また、限られた時間の中で、特別非常勤講師等外部の人材の活用の効果を上げるためには、授業の目標や授業内容に関する打合せ等十分な事前準備や、児童生徒に対する事前・事後の学習などしっかりとした授業計画に基づいて行われることが重要であり、経費的な面とあわせて、学校側の受入体制を整えることが必要であるとの声もある。


(5)海外子女教育という観点から
 − 海外子女教育の成果の検証が必要
 − 海外在留期間の長期化や現地校志向の高まり、子どもの低年齢化などの状況の変化への対応が必要

   国際教育の柱の一つである海外子女教育については、従来より、その時々の海外子女を取り巻く教育上の課題と改善方策について提言されてきており、それらの報告等に基づき、関係機関において施策の充実等が図られてきている。一方で、海外における幼児教育の在り方、補習授業校における教育など、なお一層の充実が求められる課題がある。

   特に、海外在留期間の長期化や現地校志向の高まり、海外勤務者の若年化に伴う子どもの低年齢化など、さらには、現地や国際結婚による子どもの受入など、海外子女教育を取り巻く状況も変化している。

   海外子女教育と連動している帰国児童生徒教育については、近年、児童生徒が帰国後に居住する地域の分散化が進んでいる。また、海外滞在期間の長期化、幼少時の海外渡航などにより、日本語能力不足や日本の学校への適応への一層の支援の必要性などが指摘されている。


(6)学校の多国籍化・多文化化という観点から
 − 外国人児童生徒の増加、多様な言語と文化、在籍する地域・学校の集中と分散の傾向
 − 日本語指導や学習支援など適応指導の充実の必要性
 − 不就学や母語の保持など新たな課題の出現

   現在、公立義務教育諸学校には、多数の外国人児童生徒が在籍している。ポルトガル語、中国語、スペイン語を中心に多様な母語を有する子どもたちが、日本国内の多数の公立学校に通っており、学校の多国籍化・多文化化が進んでいる。

   外国人の児童生徒の受入が増加した当初、これらの子どもたちの教育上の主たる課題は初期日本語指導であり、日本の学校生活への円滑適応であった。しかし、日本で生まれ育った外国人の子どもたちが多数、義務教育諸学校に進むようになり、教育上の課題として、日常会話には不自由しないが、教科の学習内容を十分に理解するレベルの日本語能力を有していない子どもたちへの教科指導のための日本語指導の充実があがるようになった。また、各学校で国際理解に関する取組が広まるにつれ、外国人の子どもたちのもつ異文化性をそれら活動に活用することによって個の特性を生かした指導の在り方が求められるようになってきた。最近の新たな課題としては、公立義務教育諸学校や外国人学校で教育を受けていない子どもたちの問題や母語を十分に習得していない子どもたちの問題がある。

   日本に生活する外国人の増加が予想される中、日本の学校に通う外国人の子どもたちがますます増加するものと思われ、外国人児童生徒の教育は、極めて重要な課題として、その充実を図ることは不可欠である。


第3章 国際教育の充実のための具体的方策

 本章においては、先に示した基本的視点を踏まえつつ、国際教育の充実のための具体的方策を提言する。

1.学校教育活動における国際教育の充実


(1)教員の実践力の向上
 − 多様な経験を有し、国際教育に情熱を持ち、実践的な指導ができる教員の育成
 − 指導案の作成、指導や教材開発の方法の習得等、参加型・実践型の研修の重視

   各学校における国際理解に関する取組が、異文化「理解」に留まることなく、地球的視野に立って、主体的に行動するために必要と考えられる資質・能力の育成につながるかどうかは、何よりも教員の力量にかかっているといっても過言ではない。

   国際教育においては、教員の役割は、単なる指導者としての立場だけではなく、カリキュラムの企画・構想者(プランナー)、支援・援助者(ファシリテーター)、協働者としての役割も果たすことが求められる。これは、国際教育が重視する学習の形態が、課題探求型・解決型の学習であり、教員は子どもたちの主体性・能動性を引き出すことが必要となるからである。

   多様な実践経験を積み、情熱を持ち、優れた指導力を持つ教員が、国際教育の中心となって実践していくことが求められる。

  教員養成段階における取組の充実
   国際教育の基本的な原理・視点は、「異なるものや異なることへの理解」、「多様性の受容」、「共生」であり、こういったことを教員自身が身に付けることは、各教科等や総合的な学習の時間の指導だけではなく、学級経営、生徒指導などあらゆる面において役立つものと考える。教員養成段階において、国際教育にかかわる基礎的・基本的知識や理解を得ておくことは大切である。
 大学の主体的な取組により、国際教育に関する講座などの開設、教育内容や授業方法の改善等を通じて、国際教育にかかわる教員を目指す者の資質・能力の向上を図る必要がある。また、このためには、国際教育について専門的知識と多様な実践経験をもつ大学教員の育成とそのような大学教員の教員養成への積極的な関わりも必要となる。

  現職教員研修における取組の充実
   各研修を通じて、すべての教員が国際教育の重要性への理解を深めることが重要である。また、国際教育に関する実践的指導力が育成されるよう、国・教育委員会・学校の各段階において、研修の充実を図ることが大切である。

  〈参加型・実践型の研修・ワークショップの実施〉
   国際教育に関する指導力の向上のため、研修の実施形態・方法等を見直し、講義だけでなく参加型・実践型の研修・ワークショップを企画・実施していくことが必要である。特に、年間指導計画、指導案の作成、指導方法の習得、教材開発の方法等、教員の実践に役立つ内容が求められる。これらの研修を、国際教育の分野で専門的な知見や豊富な経験を有する大学やNPO等と連携して行うことも効果的である。また、実施時期や研修期間、実施地域に配慮するとともに、多くの教員の参加を得ることができるものとすることが必要である。

  〈校内研修の充実〉
   各学校においては、日常の教育活動や学校運営において、国際教育の観点からも、校長、教頭等が必要な助言、支援、協力を行ったり、教員が研究授業を通じて、学校や地域の具体的な教育課題への認識を深め、学習方法や教材開発について研鑽を積んでいくなど、校内研修を充実させる必要がある。

  〈個々の教員の取組の奨励〉
   個々の教員に対しても、勤務時間外などを積極的に活用し、様々な研修に参加したり、研究授業を実施するなど、自主的・主体的な取組を期待したい。校長も個々の教員の取組を奨励・支援していくことが大切である。

  〈海外研修の充実〉
   教員の国際性を高めるという点では、教員自身が海外を経験することの意義は大きい。教員自らが海外での生活を体験することによって、国際教育の重要性を実感することができ、また、国際教育の素材を得ることができるなど実践力を高めることができる。教員を対象とした海外研修が、国及び地方公共団体等で様々に実施されているが、こうした教員の海外研修制度を充実させ、一層活用することが必要である。


(2)学びが広がり深まる授業づくり
 − 各教科等や総合的な学習の時間の相互関連性を意識した授業づくり
 − 先進的な取組事例の情報提供や指導内容・方法等の開発・普及
 − 質の高い授業づくりに役立つ情報の蓄積や共有化
 − 素材となる映像やメディアに関するデータベースの整備
 − コンピュータ・インターネット等の情報通信ネットワークの積極的活用
 − 言語教育の充実

   異文化理解・多文化共生を知識理解のレベルから実践的な態度・能力の育成へと発展させるためには、学校全体で取組むことが大切となる。そのためには、学校全体の教育目標に国際教育を明確に位置づけ、各教科等においても国際教育の視点を盛り込みつつ、各教科等を相互に関連づけながら指導することが重要である。
 教員が、明確な課題意識をもち、学校や地域の実態に応じ、教材等について創意工夫しながら授業づくりをしていくことも、単なる体験や調べものに終始させることなく、学習の広がりと深まりをもたらすために大切である。
 一つの学習課題を次の学習課題に発展させていくためには、コミュニケーション能力が重要な鍵を握る。授業づくりに当たっては、コミュニケーション能力の基盤をなす言語教育にも十分に配慮する必要がある。

  各教科等の関連性を意識した授業づくり
   国際教育は、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間などのいずれを問わず推進されるべきものである。
 総合的な学習の時間だけでなく、各教科等においても、自国や外国の歴史・文化の理解と尊重、地球的視野と多様なものの見方、人間尊重と共に生きるという考え方、表現力・コミュニケーション能力といった国際教育の要素を意識して指導することが重要である。
 また、各教科等で培った基礎的・基本的知識、技能等を、総合的な学習の時間や学校行事において体験などに結びつけ、それをさらに学ぶ意欲につなげることが求められる。逆に、総合的な学習の時間等における異文化体験などを、各教科等での学習への関心や学習効果につなげていくことも大切である。
 例えば、日本と世界のつながりを学習するため、日本と外国の文化について、社会科の学習を通じて理解を深め、美術や音楽の学習を通じてよさを感じとり、総合的な学習の時間を使い、調査や発表、ものづくり体験を行うなど、学習のねらいや内容に関連のある複数の教科等を結びつけることは、国際教育の観点から効果的である。
 このように、各教科等における学習と総合的な学習の時間の関連を常に意識し、各教科等を相互に有機的に結びつけながら、授業に広がりと深まりをもたらすことの重要性を強調したい。

  実践的な態度・能力を育成する授業づくりへの支援
  〈優れた取組の普及〉
   各学校における国際教育の取組の一層の改善・充実のため、先進的な取組事例の情報提供や指導内容・方法等の開発・普及をしていくことが必要である。実践事例の収集・提供に当たっては、質の高い授業作りに役立つ情報の蓄積や共有化を図り、各教員が抱える教育課題の解決や授業改善に結びつくヒントとなるよう、教員自らが工夫、発展させることができるものとすることが大切である。

  〈教材等の整備〉
   教材となる映像やメディアに関するデータベースの作成など、国際教育の特性を踏まえた支援システムの構築が求められる。例えば、教材については、開発教育の分野を中心に、関連する教材が国内外の国際機関や教育関連団体において研究・開発されている。これら多種多様の教育資産の開発を一層進め、また、それらをネットワーク化することによって、学校の国際教育に関する学習活動に有効活用していくことが可能である。

  〈情報通信技術の活用〉
   インターネット等の情報通信技術を、国際教育に積極的に活用していくことが大切であり、国際教育における情報通信技術の効果的な活用方策についての検討が必要である。特に、インターネットについては、規模や地域、周辺環境に関係なく、子どもたちが世界とつながり、共同プロジェクトに参加し交流ができるという利点がある。世界中の人々がつながり合っていくコミュニケーションの手段として大きな可能性を秘めているインターネットの活用を促進していくことが必要である。

  〈学習内容・方法の開発〉
   地域から地球へ、地球から地域への視点をもった学習のためには、学校や地域の実態に応じた工夫が大切となる。学校と、大学やNPO等外部組織とが連携して、学習方法や教材を開発し、国際教育に関する優れた実践を地域全体の国際教育に広めていく体制が必要である。

  言語教育の充実
  〈外国語教育の充実〉
   英語をはじめとした外国語運用能力については、コミュニケーションの手段として国際社会で実際に通用するよう、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の能力をバランスよく育成していくことが重要である。
 また、外国語教育は、単に運用能力の習得だけを目的とするのではなく、外国人とのコミュニケーションという主体的な活動を通じて、自分の考えを持ち、それを主張する中で合意を形成していくという態度・能力の育成にも直接的に寄与するものでもある。子どもたちの主体的な活動への参加が促されるよう、子どもたちの発達段階を踏まえた話題、題材、素材を扱うなどの工夫が必要である。
 文化の異なる人々と対話を通して関係を打ち立てるためには、コミュニケーションの手段としての言語能力の育成だけではなく、文化やアイデンティティーと不可分の関係にある言語を理解することが不可欠であり、国際教育を通じて言語の重要性への認識を深めることも大切である。

  〈国語教育の充実〉
   コミュニケーション能力などすべての知的活動の基盤となるものが国語力である。国語を用いてものごとを適切に表現し正確に理解する能力を育成するとともに、伝え合う力を高めることは極めて重要である。国際教育に関する取組においても、読み書きなどの徹底はもちろんのこと、相手や目的、場面に応じて国語を適切に表現し正確に理解する能力が育成されるようにするとともに、特に、互いの立場や考えを尊重し言葉で「伝え合う力」を高めることを意識しつつ指導していくことが大切である。


(3)直接的な異文化体験の重視
 − 留学、海外研修旅行、海外修学旅行、姉妹校提携による学校間交流など、バランスのとれた国際交流の推進

   外国の学校との交流や留学生の受入れ等、異なる文化・生活・習慣を有する同年代の若者との交流活動は、異文化を直接体験し、国際理解を深め、国際性を養うという点で大きな意義を有する。多くの学校で、留学、研修旅行、海外修学旅行や姉妹校提携など、様々な形態での交流活動が行われているが、今後とも、多様な国際交流活動を通じ、バランスのとれた国際交流を進めていく必要がある。特に、海外からの受入の充実など派遣と受入の両面での一層の交流を図るとともに、英語圏諸国だけでなく、より日本に近いアジアを含めた多様な国との交流の促進が求められる。

  〈高校生留学の促進〉
   高校生の留学や海外研修旅行は、大学生レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大につながるなど国際性の涵養に大きく寄与するものである。これらの海外派遣を充実するためには、国際教育や外国語教育の推進、派遣前オリエンテーションの充実等により生徒自身の留学に関する理解の向上を図ることが必要である。また、留学の意義の周知、留学情報の提供などにより教員や保護者の理解を促進させることも大切である。このほか、留学による単位認定制度や大学の入学者選抜における高校生留学の経験の積極的評価の一層の推進なども求められる。
 海外から日本への留学を拡大するためには、受け入れる学校やホームステイ先の拡充とともに、留学生の受入に関する海外への情報提供の充実などが必要となる。

  〈学校間交流の促進〉
   学校間交流を促進するため、姉妹校提携や姉妹都市交流による交流先の拡大、優良な交流事例の紹介や普及、外国の学校との交流や受入れを希望する学校についての相互の情報提供などが必要である。
 また、海外修学旅行は、直接的異文化体験の機会として有効であるが、単なる施設、史跡名勝への訪問やお仕着せの交流活動にとどまることのないよう、目的の明確化や事前の準備学習、交流活動の意味づけなどを十分に行い、体験が学びの深まりにつながるような活動として充実する必要がある。


(4)外国人児童生徒教育の充実
 − 日本語指導等の一層の充実、不就学等新たな課題への確実な対応
 − 外国人にかかわる政府関係省庁や地方の関係機関の連携促進
 − 外国人児童生徒とともに進める国際教育の推進

   外国人の子どもたちへの教育については、従来より、日本語指導等に対応する教員の配置、母語のわかる指導協力者の派遣、JSL[Japanese as a Second Language:第二言語としての日本語]カリキュラムの開発、日本語指導者に対する講習会など、必要な支援が行われてきた。

   今後とも、日本語指導の内容充実や指導方法を改善するため、教員に対する実践的研修の実施、JSLカリキュラムの普及などを通じ、外国人児童生徒の日本語能力の向上や学校生活への適応を着実に図っていくことが必要である。
 また、問題となっている外国人の子どもたちの不就学についても、教育委員会が地域の関係機関やNPO、民間企業と連携して取り組むことにより、不就学の実態把握及びその要因分析、それらを踏まえた就学支援を行い、外国人の子どもたちの学ぶ機会を確保することが必要である。

   外国人の子どもたちを取り巻く環境は、保護者の意識、経済状況や来日前の学習歴など多様である。このため、子どもたちの就学環境の整備に当たっては、教育機関のみで取り組むことは容易ではなく、入国管理面や労働環境面など関係機関との一層の連携が不可欠である。従来より、市町村での外国人登録の際、公立学校への編入学に関する情報を提供するなど、地方公共団体内で必要な連携が図られているところであるが、外国人の子どもの教育環境の一層の充実のためには、関係省庁や地域の関係機関の密な連携が期待される。

   各学校においては、外国人児童生徒の母語や母文化を紹介し、国際理解を進めるという取組が行われている。このような取組は、外国人児童生徒にとっては達成感、存在感等の涵養に資し、その他の児童生徒にとっては異文化・異言語に身近に接することができ、教育上の効果も大きい。外国人児童生徒の異文化性が過度に強調されることのないよう、常に「ともに進める」という視点をもち、学級経営においても必要な配慮や継続的な指導を行いつつ、今後とも、外国人児童生徒とその他児童生徒との相互理解を通じた国際教育を推進していくことが大切である。

   外国人の子どもたちも日本人の子どもたち同様、国際社会に生きる人材として育成していかなければならない存在である。自立して学び働くことのできる学力の育成とともに、外国人児童生徒の母語や母文化を尊重しつつ国際社会に通用する態度・能力を有する人材として育成していくことが必要である。


2.国際教育にかかわる人材や資源の活用と連携のための支援体制の構築

(1)海外経験を有する教員の活用
 − 在外教育施設等派遣教員や海外研修経験者の一層の活用・登用
 − 人事配置上の工夫など組織的な活用の促進
 − 派遣教員による経験・知識の発信の充実

   在外教育施設派遣教員やREXプログラム派遣教員、青年海外協力隊に参加した教員、独立行政法人教員研修センターの実施する海外派遣研修で派遣された教員等は、自ら異文化体験をしつつ日本人学校等や現地校で教育に当たっている。また、独立行政法人教員研修センターでは、国際的な視野、識見を有する中核的教員を育成するため、教員の海外派遣研修を行っている。学校の中に海外経験を有する教員がいるということは、帰国児童生徒や外国人児童生徒だけでなく、それ以外の子どもたちにとっても刺激となり、学校における国際教育を進める上で効果的である。学校における国際教育人材として一層活用していくことが望まれる。

    また、海外経験はなくても、国際教育に関心をもち、実践を行ってきた優れた教員たちが多数いる。こうした教員と派遣教員が協力し合い、お互いの実践力をより向上していくことは国際教育を普及していくためにはきわめて効果的であり、両者の協力・連携を支援していくことが必要である。

  〈人事配置上の工夫〉
   海外派遣教員が国際教育を担当するなど、その経験や力量を生かせるような人事配置を行うことが必要である。個々人のみならず教育委員会や校長が、海外派遣経験を生かすという共通意識を持つことが大切である。各教育委員会において、例えば、海外経験を持つ教員の国際教育への活用を人事方針に位置づける、あるいは、教員の採用に当たって国際経験を積極的に評価するなど、工夫することが考えられる。

  〈海外派遣教員の経験・知識の発信〉
   海外派遣された教員にも、個々人がその経験や成果を積極的に普及していくことが求められている。派遣教員は、国費によって派遣されていることを十分意識し、帰国後は、その成果を自らの周囲だけでなく、広く還元していくことが必要である。そのためには、そのような意志・意欲を有する個人や組織が情報発信できるような体制が必要となる。派遣教員のネットワーク化を支援したり、例えば国際教育に関係する研究協議会等において研究・発表する場をもつなどといったことが考えられる。

   なお、派遣経験を国際教育の専門家として生かすためには、2、3年という派遣期間では不十分であり、その経験を踏まえ専門性が深められるようなキャリア形成の在り方を考える必要があるという指摘があった。国際教育を専門分野としたい教員が、自己の生涯にわたる研修構想を確立し計画的に研修を行い、当該分野に関わる資質向上を図ることが期待される。


(2)個々の努力から共有と連携へ
 − 外部の人材等を活用し、学校における国際教育の活性化・多様化の一層の促進
 − 外部の人や組織と学校の連携・協力を促進するための体制づくり

   国際教育の活性化・多様化を一層促進するためには、学校の外部にある幅広い経験、優れた知識や技術を有する人材や組織を学校現場に導入することが効果的である。
 学校の外部にある人材や組織等の教育資源は、学校の明確な教育目標、教員の確かな課題意識、しっかりとした指導計画の下で活用することによって、実践的な授業づくりに効果を発するという点に留意し、活用を進めることが大切である。

  連携のための体制づくり
   学校の外部にある人材や組織等と学校の効果的な連携のためには、両者を結びつけるコーディネーター的存在が鍵となる。学校や教育委員会、地域のNPO等について知識と理解を持つコーディネーターが、関係者のネットワークの構築や、関係者の対話の場の設定、関係者への助言や提案等の役割を果たしながら、連携のための具体的な仕組みづくりを行っていくことが求められる。

  〈地域の国際教育ネットワークの形成〉
   国際機関、民間企業、地域在住外国人等との交流を促進するため、学校・教育委員会と学校の外部にある人材や組織等とを結びつける仕組みや体制の確立が必要である。教育委員会・学校と地域のNPOやボランティア団体が連携し、専門のコーディネータの配置、情報バンクの整備、連絡調整の実施など、地域の国際教育にかかわる教育資源のネットワーク化を促進していくことが必要である。

  〈教育委員会や学校における体制整備〉
   教育委員会においても、国際教育を担当する部署を置き、学校と外部の組織や人材との間の連絡調整機能を持たせたり、情報バンクを整備することなども考えられる。また、学校に国際教育の担当者を置き、他の教員が学校の外部にある人材や資源を活用する際の支援を行うなど、各教育委員会や学校が、その実情に応じて、工夫していくことが必要である。

  〈連携事例にかかわる情報収集・普及〉
   学校の外部にある人材や資源の活用に関する先進的な取組や優れた事例について情報収集・提供を行い、また、国際教育に関係する取組や人材を有する団体について、その特色や活動事例を広く紹介し、外部資源の一層の活用を促進することも必要である。

   なお、学校と外部にある人材や組織等との円滑な連携のためには、学校や地域の関係組織が日頃から交流の機会をもち信頼関係を築いていることが大切である。関係者が交流や意見交換の場をもち、効果的な連携の在り方についてともに考えることなどが期待される。


3.海外子女教育の変化と成果の活用

(1)海外での成果を日本の学校教育に生かす
 − 小学校段階からの英語教育、地元との交流活動、小学部・中学部併設による乗り入れ授業等、多様かつ豊富な経験
 − 日本の国内教育に生かすという視点から海外子女教育を

   海外子女教育分野での取組は、日本の教育活動を考えていく上で示唆を与えることができると考える。例えば、日本人学校では、小学部・中学部併設による乗り入れ授業、小学校段階における英語を含めた外国語教育等を長い間行ってきており豊富な経験を有している。また、補習授業校では、日本人学校以上に、教職員、教材、運営経費の確保等様々な課題を抱えつつ、地域の実情にあわせて、また、保護者のニーズに応え、地域住民や保護者、日系企業関係者の参画を得ながら運営を行っている。

   今までの「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の日本人学校の先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点を持ち、海外子女教育における成果を日本国内の教育にどう生かせるかという観点から見つめ直す必要がある。そのためには、海外子女教育の成果を具体的に検証し、国内の教育に還元できるものについては、積極的に情報発信を図ることが適当である。

(2)時代の変化に対応した海外子女教育・帰国児童生徒教育
 − 日本人学校等や海外子女・帰国児童生徒の実態やニーズを把握し、海外子女・帰国児童生徒教育の充実方策を検討(例:幼稚園段階の子どもへの支援の在り方、補習授業校における教育の充実、日本語指導の充実など)
 − 特性に配慮した帰国児童生徒教育の充実

  実態・ニーズを踏まえた海外子女教育の充実方策の検討
   昨今の海外子女教育をめぐる状況やニーズの変化を踏まえ、日本人学校等への支援の在り方について、具体的に検討していくことも必要である。それに当たっては、海外子女の現状をできるだけ客観的に把握し、その成果と課題を踏まえた上で検討することが大切であり、日本人学校等の実態調査や帰国児童生徒の保護者を含む日本人学校等の児童生徒・保護者のニーズ調査を行いつつ、進めることが必要である。
 例えば、海外に在留する子どもの低年齢化に関連して、幼児期は、母語習得の重要な時期に当たることから、海外子女教育分野での幼稚園段階の教育は今後ますます重要となるものと思われる。現在、日本人学校等に対する国の支援は、義務教育段階に限られているが、政府としてどのような支援が可能かを含めて具体的に検討していくことが必要である。

   補習授業校についても、現地校へ通う子どもたちが増加する中、補習授業校は、帰国後の学校への円滑な適応を目指して、週1日国語や算数・数学を中心とした教育を提供する場として貴重なものである。しかし、それだけでなく、永住権を取得している親の子どもや現地市民の子どもなど帰国を前提としない子どもを受け入れている学校もあり、補習授業校は現地との教育・文化交流の一翼を担っている面もある。これらの点を踏まえ、補習授業校における教育の充実方策についての検討が必要である。

  特性に配慮した帰国児童生徒教育の充実
   海外子女教育の動向と密接に関連する帰国児童生徒教育についても、時代の変化に対応した在り方を検討する必要がある。
 帰国児童生徒に対する指導については、その受入を円滑に進めることと、海外での経験を通して育まれた特性(外国語能力等の資質・態度等)を更に伸ばすことの双方に配慮しつつ進めていかなければならない。
 帰国児童生徒が伸びやかに学校生活を送り、その特性を効果的に保持・伸長できるよう、各教育委員会等がその実情に応じて取り組むことが必要である。例えば、帰国児童生徒の個に応じた指導の在り方に関する調査研究の成果を踏まえ、帰国児童生徒の受入に特色を置く学校の設置や、帰国児童生徒の培った語学力や国際性等特性の伸長に重点を置いた指導体制の充実などの工夫が考えられる。
 海外にいる子どもたちと連動して、帰国児童生徒の最近の傾向として、海外滞在期間の長期化、現地校のみに通った子どもの増加、幼少期からの海外渡航などの理由で、日本語指導や日本の学校生活への適応に一層の配慮を要する子どもが増えている。帰国児童生徒の実態を踏まえた指導の充実が求められる。


4.国際教育の総合的な推進のために

国は、以下の施策により、各地域の取組を支援し、国際教育を総合的に推進
  1 地域の実情や特色を生かし、外部組織と連携した地域の国際教育拠点の形成
  2 国際教育にかかわる人材や資源の共有化や連携の促進
  ・参加型・実践型ワークショップの実施
  ・地域の人材や資源の連携支援 等

   本章においては、これまで、国際教育の充実を図るため、「学校教育活動における国際教育の充実」、「国際教育にかかわる資源の活用と連携のための支援体制の構築」、「海外子女教育の変化と成果の活用」の3つの観点から、今後の方策の具体的方向性について述べてきた。
 初等中等教育全体における国際教育の推進を図るためには、先進的な取組による国際教育の質の向上を図りつつ、一方で指導力の向上等を通じ国際教育の裾野を広げ底上げを図る必要がある。
 国においては、以下のような施策を展開することにより、地方における学校や関係機関、NPO等の取組を支援し、国際教育を総合的に推進していく。

  (1)地域の国際教育拠点の形成
   国際教育について先進的な取組を行う地域を指定し、国際教育を総合的に推進する国際教育の拠点を形成する。拠点の中核となる学校では、大学等と連携しながら、地域の実情や特色に応じた国際教育に係る学習内容や教材開発に係る調査研究を進めるとともに、地域の学校への助言等を行い、地域全体の国際教育力の向上を図る。
 例えば、海外への派遣経験を有する教員の集中配置、海外姉妹校との交換留学、ITの活用等、地域の実情や特色を生かした国際教育に関する取組が期待される。また、このような取組の中で、個の特性に応じて、国際社会で指導的立場に立つために必要な態度・能力の育成を初等中等教育段階から意識し教育することも考えられる。

  (2)国際教育にかかわる資源の共有化と連携の強化
   学校における国際教育を支援・活性化するため、国際教育指導力向上にかかわるワークショップの開催等による教員の国際教育に係る資質向上を図るとともに、学校の外部にある人材や組織等、またそれらがもつ学習プログラムや教材など国際教育にかかわる資源の共有化や連携を強化する。
 具体的には、例えば、以下の取組を行う。
 
  1 国際教育にかかわる指導力向上のためのワークショップの実施
   国際教育に携わる教員等の実践力向上を図るため、指導案、学習方法や教材開発等実践力の向上を目的とする参加型・実践型ワークショップを実施、あわせて研修プログラムを開発。
  2 国際教育に関する情報発信の充実
   国際教育にかかわる優れた実践事例を収集するデータベースの開発を着実に進める。また、教員や学校等が直接情報交換、専門家による助言の提供など自己発展的なデータベースとする。
  3 地域の国際教育資源との連携
   学校・教育委員会と学校の外部にある人材や組織と効果的な連携を図るため、地域の国際教育関係者との交流、コーディネータの配置、人材や教育資源のデータベース化、学校と外部の人材や組織と学校との「協働」支援等を行う。

   これら施策による各地方公共団体における取組については、全国レベルのフォーラム等を通じて情報交換や普及を図るとともに、現在文部科学省で構築中の国際教育に関するウェッブサイトを通じて広く公開する。



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