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初等中等教育における国際教育推進検討会(第6回)議事録

1.日時   平成17年1月26日(水曜日)10時〜12時

2.場所   経済産業省別館1012会議室(10階)

3. 出席者
(委員)   池上 久雄(座長)、佐藤 郡衛(副座長)、岩谷 栄子、奥村 芳和、小野 清二、佐藤 裕之、紿田 英哉、中島 和子、根道 博、長谷川 祐子、平野 次郎、船橋 力、森 由美子、渡邉 寛治 の各委員
(文部科学省)   山脇国際教育課長他関係者

4. 概要
(1) 開会(池上座長)

(2) 配付資料の確認
   事務局より配付資料の確認が行われた。

(3) 議事
 第1回から第5回までの当検討会における議論をもとに、主な意見をまとめた「論点整理」資料について事務局より説明の後、当検討会として報告書に盛り込むべき内容について、自由討議を行った。

池上座長】
   論点整理資料の位置づけについて、今、盛んに総合的な学習の時間や、ゆとり教育の見直しということが言われ始めていまして、その大きな流れに対して、我々の立場として、どう受けとめたらいいのか、事務局としてはどんなふうに思っておられますか。例えば逆に、総合的な学習の時間の中で国際教育だけは必要なんだという主張をすべきだとか、その辺のスタンスが問われているのではと思うのですが。

山脇国際教育課長】
   現在、中央教育審議会で学習指導要領全体の検討を進めております。その中で、総合的な学習の時間のあり方なども含めて、全体の授業時間なども、全体の検討課題の中でこれから審議を進めていくという形になっています。
 一方、この検討会は、初等中等教育局長の諮問機関という位置づけです。国際教育について、今後のあり方、支援方策などをどうすればいいかというのをご検討いただくというのが主眼になっています。一応、この検討会では、できれば五、六月ごろに報告書をまとめていただければと思っておりますが、私としてはその内容は、これからの中央教育審議会の審議にも、できるだけ反映させるような道筋をつけられたらいいかなと思っています。
 この検討会では、まず国際教育について、色々な課題がある中で、今後どうしていけばいいのかという方向性を出していただいて、その後は、教育課程全体が中央教育審議会で議論されていく中例えば、学習指導要領の見直しといった形で盛り込まれることになるかもしれません。それから、政府の施策として、私どもが実施していく部分もあるかもしれません。あるいは、地方自治体、学校などの課題があれば、そちらで受けてもらう部分があるかもしれません。そのようにこの報告書がつながっていくような形にしたいと思っています。
 なお、国際理解教育はよく総合的な学習の時間の中で行われていますが、必ずしも総合的な学習の時間だけではなくて、教科学習の中でも取り組まなければいけない、という視点も盛り込んでいるつもりであります。そういう視点で、まとめていただいたものを色々な形で受けとめるという方向になっていけば、一番いいなと私としては思っております。

船橋委員】
   個人的な意見なんですけれども、国際教育の意義とあり方について、まず国際教育が大事だということは全員の総意であると思うんですが、その中でどういう人材を求めていくかについて、各論になると、ナショナルミニマムというか、全員に最低限こういう力が必要だ、というレベルに落ちている気がします。しかし、コミュニケーション能力と自己の確立などは、別に国際教育じゃなくても、普通の学校教育でできるところだと思います。国際教育の意義と今後の在り方については、全員がナショナルミニマムを身につけるという教育を目指すのか、それとも本当に国際社会で活躍できるリーダーを育てていきたいのかを明確にするかしないかで、内容が随分変わってくると思います。そういう意味では、私の印象では、今回の論点整理ではナショナルミニマムを目指す内容となっていると思います。しかし本質はもう少し高いところに視点を置かないといけないんじゃないかという印象を受けました。
 それと、では実際これを実践していく上で、誰が主体となってどのようにやっていくかというところがすごく大事だと思っています。例を出しますと、杉並区では、リクルート出身の藤原さんという民間出身の校長先生が、「よのなか科」というのをやっています。あの方は、ビジネスも知っているし、実践した経験もあり、かつ情熱があり、教え方がうまいと、この4つがそろっています。今回国際教育をやる上でも、全く同じような人物が恐らく必要ではないかと思います。本当に国際経験があって、実践があり、情熱があり、かつ教え方がうまい人が中心となって行うということがない限り、頭で考えるレベルにとどまってしまうと思います。授業でも、やっぱり先生が大事だと皆さんがおっしゃっているように、本当の成果をねらうには、そこが最後は一番大事だと思います。
 あとは、総合的な学習の時間だけでなく、他の教科とのリンクなども関連してくるのかなと。ほかの教科でいうとこういうことだとか、体育の授業だとこういうことだと、すべての教科にリンクするはずだと思っていますので、そういう点も大事かなと思っております。

紿田委員】
   日本人がある程度国際的なセンスを持つことができるような教育をしていかないと、このグローバリゼーションの時代に、地球人として生きていくことがとても難しくなってきているということは、みんなもうわかっているわけですよね。問題は、その方法だと思うんですが、実は先程のご意見での論点は非常に重要で、ぜひこの検討会でも一般的なレベルアップとリーダーを養成することを明確に分けて出すべきだと思います。日本に今一番求められているのは、国際機関に行くにしろ、国際ビジネスに進むにしろ、やっぱりリーダーだと思います。そういう層がどんどん薄くなってきている。例えばビジネスの世界で見ても、よく名前が出る国際的に通用するいわゆるトップビジネスマン、そういう人たちがもう20年も日本をリードしていて、その次に誰がリーダーとなるのかという話になると、まるで見えてこない。学者の世界も、文化人でもそうです。エリート教育という言葉は非常に反発を買うんだけれども、やはりある程度リーダー格の人、つまり日本を代表して引っ張っていくような人を育成する社会を目指す形で議論が進んで欲しいし、その視点はぜひ入れたいと思います。

渡邉委員】
   報告書をまとめる際の視点ですが、教育現場というスタンスから考えていくと、子どもたち全員に最低限どこまで身につけさせるのかということをどうしても考えざるを得ないことになると思います。また、現場の先生からすれば、国際教育は非常に、必要性、緊急性がなかなか感じられにくい部分があり、やりにくいといいます。そういう実情も踏まえますと、本当に国際教育を推進していくためには、まさに今論議が盛り上がってきている「学力とは何か」とのかかわり合いの中で、きちんと学校の先生が国際教育の重要性を納得しないと、なかなか現場まで浸透していかないと思います。提言する我々の立場からすると、ある程度現場の実情を察しながら提言していかないと、いつまでたっても学校現場との接点が持てないんじゃないかなと思いますね。学校現場との関わり合いを意識しながら論議して報告書をまとめていく視点が必要だと思います。

紿田委員】
   もうちょっと具体的に言うと、「主体性」とかは、恐らく「生きる力」の源泉にもつながっているわけですから、ナショナルミニマムとして教育してもいいんじゃないかと思いますが、それが現場でどこまで生きる力を育成するための学力観と結びついているかという問題があるわけですね。奇しくも今色んな問題や発言の中で、現場が揺れ始めているということも聞きますから、より一層我々は、現場との関わり合いの中で動けるような提言を、そして中央教育審議会の中でも、委員の先生がある程度、これならいいんではないかという接点も多少持てるような提言が必要じゃないかなと思います。

奥村委員】
   高等学校の現場で実際に総合的な学習の時間の中で、国際教育などを実践している立場からお話いたしますと、総合的な学習の時間というのは、非常に理念として高く、そして内容的にも高度な内容を持っています。ですから、文章を読んだり、書いたり、あるいは簡単な計算をしたり、そういう基礎学力が十分育成されていない場で総合的な学習の時間を実践することは、非常に難しいのです。高等学校である程度そういう基礎学力があるところでは、総合的な学習の時間は非常に大きな効果を上げ得るし、国際交流などを高等学校の中で行っても、生徒達は積極的に意欲を持って英語力を生かしながら交流できます。今、総合的な学習の時間自体が否定されかけている部分もありますが、例えば学習指導要領の中に国際教育を盛り込んでいくとか、総合的な学習の時間が置かれている状況も含めて、構造的に考える必要があると思います。
 論点は変わりますが、国際教育の意義や国際人として求められる資質・能力を、単に文章として書くだけでなく、どれをどこが担当する、といったことも含めて国際教育の構造が全体としてよくわかるような、概念図を用いて内容を明確にしていく必要があるように思います。

平野委員】
   国際教育という言葉の定義ですが、意味合いがわかったようでわからないところが、あります。国際理解教育ならばわかるのですが、この国際教育というのは、国際理解教育よりもさらに上位にあるものだと私は理解しています。つまり「国際人養成教育」というような捉え方がいいのかなという気がします。だとすると、それは、人間の教育の過程で、一体どの段階からするのがいいだろうか、小学校で行うことは果たして妥当か、あるいは国際人養成教育というのは一種のエリート教育であるから、もう少し学年が上になってからの方がいいのでは、というようなことも考えなければいけないと思うんですね。そうしますと、総合的な学習の時間でするのが妥当なのか。私は、総合的な学習の時間でするのは国際理解教育だろうと思っています。だとすれば、国際人養成教育になりますと、クラスをまた別につくらなきゃいけなくなるだろうといったような、仕組みの問題も含めて、国際教育という言葉の定義をきちんと考えなきゃいけないと思います。

長谷川委員】
   私も先程の意見に関連して言葉の問題なんですが、「国際教育」という言葉をこの資料でも示してありますよね。一方、学校では「国際理解教育」という言い方をしています。この言葉の整理なのですが、ここで国際理解教育、帰国・外国人児童生徒教育、海外子女教育というのを、要するに各分野、重要な教育課題というような捉え方をして、それを包括した上位概念を国際教育という捉え方をしていいのか。我々現場に直結している者にしてみれば、各学校で、帰国・外国人児童生徒教育、あるいは国際理解教育という各分野を活発に推進すれば、全体として国際教育の推進につながっていくというような、捉え方でいいのかという部分なんですね。その点を提案させていただきたいと思います。

池上座長】
   常に大事なご指摘だと思います。この論点整理資料を見て、初めは「国際教育」と書いてあって、途中から「国際理解教育」に言葉が変わっている。今おっしゃられたように、国際教育という上位概念があって、国際的に活躍できる日本人を育成するという教育と、もう一つは、一般の日本人がもっと国際センスを身につける教育、つまり国際理解教育があると。そういう言葉の整理もあるかなと、私は思いますがこれについていかがですか。

船橋委員】
   国際教育の意義と今後のあり方を検討する際には、学習指導要領との関係についても一旦分けて考え、提言することも検討すべきじゃないかと思っています。学習指導要領に当てはめると、どうしてもナショナルミニマムにせざるを得ない。多分、今議論している内容は、一般の日本人が身に付けるべき国際性という部分もあるし、今後国際社会で日本が対等にやっていくという意味で、リーダーやもう少し高いレベルの人材を育成すべきという部分もあります。それを今の学習指導要領とか総合的な学習の時間に当てはめると、すべてが今までどおりになってしまうという危惧があります。現場の先生方の意見はよくわかりますが、今の現場に合わせ過ぎると本末転倒で、日本が大変なことになると、私は個人的に思っていますので、そういう立場で我々は提言する必要があると思っています。

池上座長】
   国際人、つまりリーダーが今の日本には全く不足していて、そういう人材をどうやって育成するかという問題が一つですね。もう一つの問題は、一般の日本人が身に付けるべき国際性についてです。こちらは従来から重要である、国際理解教育が必要だ、とやってきており、そこそこ成功し、日本の社会もまあ幸せだから、今のままで良いのではないか、という考え方も一方であると思います。しかし、いや、実は違う、前提として、日本の置かれている立場は従来とは変わってきているので、一般の日本人が身に付ける国際性もさらに変えていかなくてはいけないんだという主張をする場合、そもそも前提が変わったという認識があるかどうかについて議論し、そこから説き起こさないと、別に今までと同じでいいんじゃないのという結論になりそうな感じがするんですが、これはいかがですか。

佐藤(郡)副座長】
   まず大前提として、この提言が、一体何を目的にするのか、誰に提言していくのかが、まだよく見えないのです。私自身の問題意識からすると、総合的な学習の時間が出てきたおかげで、国際教育なり、国際理解教育が余りにも矮小化されてしまったと思います。つまり、総合的な学習の時間だけに特化して、国際理解教育をやればいいんだと認識されてしまったという問題意識があるんです。しかし、これからの日本の教育のあるべき姿というのは、国際教育という視点がないと、もう成り立っていかないはずなんですね。ところが国際理解教育を実践として矮小化したことが問題です。ですから私たちは、ナショナルミニマムとしての国際教育という視点から、もう一回学習指導要領の枠組み自体を見直してほしいという提言をする必要があると思います。そしてその国際教育というものは、学習指導要領や総合的な学習の時間の中に矮小化されるようなものではなくて、上位概念、つまり、これからの教育を方向づける重要な視点として捉え、もっと明確に何をしていくのかということを打ち出さなくてはならないと思います。
 もう一点は、人材育成に関しては、子どもたちの基礎学力の問題などに関連づけていく必要性があります。どういう人材を育成し、どういう基礎的な力が必要なのかを考える必要がある。そうすると、初等教育段階、中等教育段階、高等教育段階という各段階ごとにきちんと明確に分けて議論する必要性があると思います。
 結論から言えば、国際教育は上位概念であり、実践そのものは、国際理解教育でもいいんだけれども、しかしながら、国際教育というものの実践が国際理解教育の中に矮小化されてしまうと、非常に問題がある。例えば社会科や理科、数学なども国際教育という視点からもう一回見直す必要性がある、ということを主張したいと思います。

森委員】
   現場の学校の先生自身が学生だった頃には、総合的な学習の時間や国際理解教育もあまりなかった。そのような状況の中で、教育の質を高めていこうとしたときに、現場の先生方は、何をどうすればいいのかという戸惑いがとてもあると思うんですね。現場の先生自身が、ただ本で読んで理解するというのではなく、体験する、ワークショップに参加するといった、本当の意味での国際理解を体験しないと、絶対子どもたちには伝わらないと思います。しかし、海外研修に行くことについて、その効果がどうなのかという点については、私はちょっと疑問に感じています。実際海外の大学にいると、いろんな方々が研修に来られますけれども、もっと現地の方々と親密に知り合う機会を持たないと、1、2年の滞在では現地を理解するには充分ではありません。では、先生方にそのようなことを望むのかと言えば、それよりも海外で生活した方々を何らかの形でうまく取り込むことが可能であれば、そちらの方がより現実的な解決法ではないかなと感じました。

池上座長】
   現場の先生の戸惑いというのは、それは、国際理解教育をやった結果でどんな人材を育成するのかというのが、漠としているからだと思います。英語のできる人材が必要なのか、国際的に外国人の物の考え方とか、生活パターンを理解することが必要なのか、人によってそれぞれウエートの置き方が違うと思います。その前提となる、ナショナルミニマム、最低限どこまでの国際性を日本人全体として持つべきなのかについてはいかがですか。

中島委員】
   私は、今の皆様の議論に全面的に賛成なんですが、国際人教育イコールリーダーシップ教育ではなく、これからの日本人というのは、みんな国際人でなければ通用しないという意味で、ミニマムのレベルが国際人教育でないといけないと思います。そして、上位概念としての国際教育がありますが、その下の国際理解教育のレベルにとどまっているんでは、もう遅いんではないか。むしろ国際貢献教育とか、国際共生教育などが必要になっていると思います。海外との関係だけではない、国内にどんどん外国人が入ってくるという状況の中では、国内の問題でもある。そういう中で、どうやって外国人と共生していくかという問題について考えると、国際理解教育という言葉は、もう古過ぎるように感じます。

小野委員】
   究極的には、高いレベルの視点を求める、リーダーを求めるということになると思いますが、初等中等教育における国際教育の検討という本検討会の趣旨を踏まえると、「国際的視野にたって主体的に行動するために必要と考えられる資質・能力の基礎を育成するための教育」というのは、やはり初等中等教育段階で行うものになると思います。だから、目指すのは国際社会でリーダー的役割を果たす人材育成であると思いますが、そのスタートとして、そういう資質や能力の基礎を育成するという視点は抜かすことは出来ないと思います。

船橋委員】
   今、中島委員や小野委員がおっしゃったのは、例えていうと、アフリカの、ある全く野球を知らない国の子どもたち全員が、野球を知らないと世の中で生きていけないというときに、もちろん全員に最低限の野球の基礎は教えますが、でも、プロもいないと、国際社会の中では、野球は戦っていけない、生きていけない。そういう意味で、目指すところはプロなのですが、今最低限のレベルを全員が学べばいいんですよというナショナルミニマムが必要だ、という考え方ではないかと思います。しかし、私や池上座長の考え方は、リーダーも育成していかなかければならず、そのための教育も必要だというものです。

根道委員】
   初等中等教育ということを考えると、やはりナショナルミニマムという考え方の方が基本なのではないかなと思います。
 それから、リーダーを養成というのは、別に国際教育の問題ではなくて、日本全体の問題です。リーダーを今、日本が養成するとすれば、それは必然的に国際感覚を持ったリーダーでしかあり得ない。つまり今我々の国際教育という枠組みの中から、リーダー論にまで発展してしまうと、ちょっと支え切れないかなという気がします。

池上座長】
   私も長い間海外で仕事をしてきて、今、大学に戻って学生と接する立場になって感じるのは、やはり英語ができるとか言う前に、日本人は自分のベースになるものと、知識と、それについて外国人と議論するだけの度量というか、理解力が少し他の国の人に比べて、足りないのかなと思います。大学生が足りないということは、もっと下の学年も同様だと思います。日本人は今、本を読まなくなってきているといいます。これは外国でもそういう傾向ですが、その中身がかなり違っており、日本の場合は読んでも雑誌などが中心です。これでは、国際化も何もない。やはり基本的にしっかり日本の古典も読み、国際的なベースも持ち、そこから論理的に話ができる人が多く出てくれば、それが日本の国民のボトムアップですし、リーダーもその中から生まれてくると思います。基礎教育は大事ですが、その中でもう少し国際化というのを前提に置いた教育をしていくというのが、そのナショナルミニマムということかと思います。

岩谷委員】
   私はやはり初等中等教育の検討会であることを踏まえる必要があると思います。コミュニケーション能力等々は、別に国際人でなくても、日本人でも必要なわけで、今でも教育されているのではないかという捉え方をなさっている方もいらっしゃいましたが、やはりまだ現場においては、その部分は希薄だと思います。だから今までの教育の中で、各教科あるいは領域にどのように国際教育の観点が盛りこめられるのかを、学習指導要領と照らし合わせて検討する必要があると思います。

佐藤(裕)委員】
   先程の野球の例を用いて説明しますと、走るのが速い子や力が強い子をピックアップして、あなたプロになりなさいというのは無理だと思うんですね。初等中等教育は、誰でも野球でプレーができるように育てるところだと思います。そういう力をつけておけば、どこの国の選手とでも野球でプレーができますので。
 ただ、これを国際理解に置きかえると、ただ「野球選手を育てなさい」と言われているだけなんです。どういうふうにしたらいいプレーヤーになるか、というところがほとんどなくて、単に野球選手を育てなさい、国際理解をしなさい、と言われている。そこで現場の教員は野球選手を育てなきゃいけないが、何をしたらいいのかわからないという現状があるのかなと思います。現場の先生が何をしたらいいのかという提示がなくて、ただ国際理解をしなさいという状況に、現場の戸惑いや混乱があるのだと思います。

池上座長】
   では2つ目の「学校教育活動における国際教育の充実」について、具体的な教育現場、教育の内容の問題まで議論を進めます。

紿田委員】
   この検討会というのが、初等中等教育における国際教育推進検討会ですから、そこにベースを置かないといけないと思います。先程のリーダー育成の話は、その初等中等教育における検討を行うに際し日本全体について考えた場合、そういうイメージもないと国際的には生きていけないよという問題意識を念頭に置きながら検討する必要がある、というつもりで申し上げました。
 私はこの検討会においては、できるだけ具体的な案があったほうが、先生方もやりやすいと思っています。例えば、私はお互いに相手の価値を認め合えることが実は国際教育の一番原点だと思うんですね。ですから初等中等教育における国際教育では、その違いを認めることをどう教えていくのかという視点で、ぜひ提言をしたいと思います。

森委員】
   先程のご意見に私もとても共感しています。要は外国人であれ日本人であれ関係なく、人としてちゃんと接する、コミュニケーションできる、これがやっぱり一番重要なことだと思います。日本の学校のクラスの中でも、例えばお互いがもめたときにはどう解決していくかということを実際に体験すること自体が、国際化にも、国際のリーダーにもつながっていくことだと思います。

池上座長】
   今までのご指摘の中で、国際教育を担当する教員が本当に育っているのか、育てる仕組みができていないんじゃないか、また教育委員会にも問題があるのでは、といったご指摘がございました。その辺のところはどうでしょうか。

佐藤(郡)副座長】
   具体的な実践になりますと、その地域や、各学校といった、かなり個別的なものが問われると思うのですが、そうしたときにこの提言が、地域や、各学校の自主性、自律性を阻害してしまってはいけないと思います。つまり、「教育委員会がやれ」という提言を出したはいいが、それが全く実情のないようなところでもやらざるを得ないような指針になってしまうと、非常に困る。その辺のところを私たちが提言していく際考える必要があると思います。教育委員会がやりなさいという、抽象度の高い、一番責任がないような提言にならざるを得ないような書きぶりになってしまう可能性もある訳ですがその辺はどうなのか。

森委員】
   私は実際に渋谷区で、年間で何時間とかで出来るワークショップを開催しているのですが、子どもたちが色々な人とコミュニケーションするためには、まず自分を伝えるということが、まず最初にないとできません。これを言葉の違う人たちとやる場合に、好きなものであったり、興味のあるものが同じだったりすると、あっ、この人たちとしゃべりたいなという欲求が出てきて、お互いにコミュニケーションが始まります。そういった具体的な、学校でもできる実際のワークショップを皆さんでつくって、それをまず実験的にやってみるというようなことができれば、学校の先生方も子どもたちも次第に慣れて、それがうまくいけばその時間をもっと増やすことも可能なのではと思いました。

平野委員】
   例えばイギリスの小・中学校と、スペインの小・中学校は、インターネットやテレビ電話などを使って、定期的に交流をしています。もちろん、イギリスの子どもたちは、自分の前の画面に出てくるスペインの子どもたちのスペイン語はほとんどわからない。逆にスペインの子どもたちも、イギリスの子どもたちの英語がほとんどわからない。しかし、顔は見えるわけですし、何となくおもしろいというので取り組んでいるところがありました。これも一種の国際理解教育だと思います。同じような試みを、名古屋の中学校だと思いますが、オーストラリアかニュージーランドの学校やったことがあるんですね。国際教育、あるいは国際理解教育というのは、自分と肌の色、目の色、言葉が違う人がいるんだということ、その人たちが考えることと、自分たちが考えることとは、やっぱり違うんだということ、しかし、そういう人たちと一緒に暮らしていくのはおもしろいんじゃないかなと思わせる事が必要だと思うんですね。ですから、日本人の先生が、クラスで生徒に外国のことを話して聞かせるよりも、国際体験教育みたいな場をつくることで、子どもたちに国際的な興味を持たせるような仕組みができたらいいなと思っています。
 ただ、これもまた、教育委員会の問題であったり、個々の学校の問題であったりするんでしょうが。

池上座長】
   先ほどの野球チームの例で言えば、野球の覚え方というのは、ある程度体系的な指導法を幾つかつくって、この方法をとると非常に効率的にここまで達成できる、というのを見せないといつまでたっても進まない。言い換えると、教材も、教える人材についても同様です。ですから、ここまでやると国際教育の成果はここまで上がるという効率的な方法を研究しようじゃないか、というような提案はできるかなと思います。

渡邉委員】
   そういう意味で、我々が提言する内容を、どういう到達目標まで、どういうふうに提示していくのかという点について、一つの提案ですが、キーワードを絞っていき、それを具現化するためにこういうことができる、というような示し方をすればよいのではないかと思います。例えば主体性を育てていくときに自己表現力が必要だということだったら、こういう事をしてみたらどうかと示すと。

岩谷委員】
   私どものユニセフハウスでは、人材育成の取り組みとして、インターン制度や私どもが学校へ赴きユニセフ学習会を開催したり、教員対象では夏休み等々にセミナーやワークショップなども行っております。そこに参加する先生方は、やはり一部の興味関心の高い先生方ですね。このようなワークショップに何をきっかけに参加されるかというと、小学校5・6年生の教科書に国連機関、ユネスコ、ユニセフの出てくるあたりで、それを深く取り上げてみようと思った先生方が、実際に体験してみましょう、と参加されるのです。ところが、そういった一部の先生方以外は、実際このような分野をあまり詳しくやらないという現状もあるようです。したがって、教科書への国際教育の位置づけをどうするかということも、とても大事だと思います。そこで、やはり学習指導要領の総則の中に盛り込んでいくというのが大事かなと思います。

長谷川委員】
   やはり現場では、学習指導要領が大きな影響をもちます。ですから、学習指導要領にどう盛り込んでいくのかは、一つの大事な視点だと思います。私は国際理解教育は総合的な学習の時間だけでやるものではないと思うんです。学習指導要領総則に総合的な学習の時間が盛り込まれ、現代的な教育課題の一つとして、国際理解や福祉などが並列的に例示されていますが、その結果、国際理解教育というのは、総合的な学習の時間でやればいいんだという認識が強くなってきているのではないかという懸念があります。総合的な学習の時間が作られる前の方が、まだ各教科、領域の中で、あるいは国際理解教育の全体構想図というものを描きながらやっていた学校もありました。やはり今進めている「生きる力」に関わる資質、能力の中には、国際理解教育で培われる部分が非常に大きいと思います。ですから、やはり教員が、その「生きる力」とリンクしたこういう力が国際理解教育では培われるんだという認識を持つことが大切ですし、みんな違っていて当たり前というような学級の基盤を培っていく教員自身の資質の中にも、国際理解は非常に大切だと思います。
 また、教育委員会に対しては、今言ったようなことを研修にどう盛り込んでいくのかという課題が今後出てくると思いますが、そこにもこの提言がうまく反映されるように進めていくことが必要だと思います。

池上座長】
   学習指導要領、教科書、それから教員の資質と、キーワードが並んできましたが、学習指導要領への国際教育の盛り込みについて、どのように考えているのですか。

山脇国際教育課長】
   学習指導要領は中央教育審議会の中の教育課程部会の議論を踏まえて、最終的に文部科学省で行うことになります。私はこの委員会で、例えば国際教育の考え方、学校での取り組み等をしっかりと打ち出し、それが中央教育審議会の委員が納得されれば、おのずからこの部分を学習指導要領に位置づけようという動きになってくると思います。こういうことを学習指導要領に書いてくださいと言ったからといって、書けるものではなく、国際教育をこのようにやるべきだときちんと示し、みんなが合意するものは、ちゃんと盛り込まれるのではないかと思います。私としては、そういう形で持っていきたいと思っています。
 また、先ほど出たワークショップやセミナー、学校の先生の教え方の問題というのは、単にそれだけでは解決できないと、私は思っています。だからこそ、具体的な政策として、モデル的な取り組みをするのか、研修をすればいいのか、その研修は先生方全員を対象とするのか、あるいは特定の核となってもらうリーダーを育成するのかといったような、具体的、制度的なことも考えていかないと、理念だけではなかなか変わらないんじゃないかなと思います。

平野委員】
   論点整理資料の「2.学校教育活動における国際教育に充実について」と、「3.国際教育に係る資源の活用について」の両方にまたがる話なんですけれども、副読本というのは、どのくらい現場の先生の自由裁量があるんでしょうか。現場の先生に、副読本を選び、使う自由裁量が大幅に認められていれば、先生の自主性に期待もできるのですが、何か制限があるのでしたら、そこも考えなくてはいけないと思います。
 それから、「資源」というのは、「人的資源」のことですよね。「資源」という表現は違和感を感じます。

池上座長】
   そうですね。「資源」という表現については相談しましょう。

奥村委員】
   副読本につきましては、完全に現場の自由裁量です。ユニセフ、ユネスコ、それから、いろんな団体からパンフレットが学校へ送られてきます。ただ、余りにもたくさんあって、それがどういうふうに選ばれて、どう活用されているかは分からないところがありますけれども。そういうものを現場で使用することは、非常に効果があると思いますね。

平野委員】
   例えば私がやりたいと思っている歴史教育というのがあって、それは、中国の歴史教科書、韓国の歴史教科書を使って、日本の子どもに北東アジアの、東北アジアの近代史、現代史を学ばせるというものです。逆に、中国の子どもたち、韓国の子どもたち、北朝鮮の子どもたちには、日本の教科書を使って学ばせる。実際やっている国があります。全部ではなく一部ですが、フランスは、ドイツの教科書を使って歴史教育をやっている。ドイツは、フランスの教科書を使って歴史教育をやっているんですね。なぜかと言うと、フランスとドイツの仲が悪くなり、ヨーロッパの人々は大きなダメージを受けたわけです。そういう過去の歴史を繰り返さないために、自分たちとは違う視点で歴史を見ている人がすぐ隣にいるんだということを教える、そういう教育をやっているのです。日本ではまだ、されていませんが、もしできれば、北東アジアの関係はとても良くなると思います。実は私は国際教育というのはそこまで踏み込んで欲しいと思っているんです。ただ難しいとは思いますが。

奥村委員】
   今、高等学校でも独自科目を作れるカリキュラムになっています。学校の中でその枠を獲得することが難しいですが、不可能なことではないと思います。

小野委員】
   副読本について、東京都を例に申し上げますと、教科書のないものは副読本を使います。今は、体育の実技編と道徳については、副読本を各学校で使用しています。道徳については文部科学省の指定されたものがありますから、それは必ず買うことになっています。ただし、その中で選ぶ内容は自由です。それ以外の副読本は全部自由で、例えば何を使っているかといいますと、「副読本」と言わないで「手引」と言っていますが、教育委員会等でつくった手引きや、民間の研究会で使ったもの等も自由に使っています。ただし、学習指導要領を逸脱しない内容であるかどうかが基準となりますので、教育委員会への届出又は許可が必要です。

根道委員】
   地方分権が進む中、教育の分野でも地方の自主性・自律性が求められているが、それはすなわち、教育委員会に何でも任されていて、国は何もできないということを意味するのか、よく分からないところである。例えば、以前に国の帰国子女受入協力校制度があって指定を受けた学校には教員の加配というものがありましたが、あれはどういう仕組みなのでしょうか、地方が独自に配置していたのか、あるいは国がインセンティブを与えていたのか。つまり、私が知りたいのは、地方の独自性を認めつつ、国が、例えば財政上の措置などのインセンティブを与えることによって国としての政策意図を実現することは可能なのか、ということなのですが。

齋藤補佐】
   加配教員の配置について言えば、現在の仕組みでは、帰国児童生徒等のための日本語指導加配というだけでなくて、各教育委員会が、その実情に応じて、日本語指導を含めた児童生徒の支援のために広く活用できるようなシステムになっています。ですから、加配教員を帰国児童生徒教育に使っているところもあれば、その他に使っているようなケースもあると思います。

小野委員】
   補足として、東京都の例を申し上げると、今の加配教員は、何にでも使えるのが1名配置されています。小学校あたりでは学力低下ということから、算数や国語を中心にその加配を割り当てています。それは、届出によって国際理解教育や帰国児童生徒担当にもすることができます。それ以外の加配は東京都では、各市区の教育委員会が予算に応じて臨時講師を1〜2名加配しているという制度があります。

根道委員】
   我々が国際教育にもっと力を入れろというのであれば、人的資源を動かす手法があるのかないのか、例えば教員加配ができるのかできないのか、あるいは全く別の方法を検討しなければいけないのかを予算の問題も含めて考えないといけないと思います。

佐藤(裕)委員】
   一つの資源として考えてもいいのは、「組織」だと思います。先生個人では、各学校で国際理解教育を色々実践されているし、インターネットで交流をしている方もたくさんいらっしゃいます。でも、それは常に個人レベルです。そこをつないで情報交換、情報交流する組織があるといいかなと思っています。そういう組織を一事例としてつくることが、国際教育が広まるきっかけになると思います。

岩谷委員】
   現在、様々な団体が人的資源を抱えて持っています。個々に持っていらっしゃるそういう人材等々を集めて、そして発信していくという意味で、連合体的な支援システムを確立していく必要があると思います。

池上座長】
   国際教育に関するコーディネーターの養成や各学校へのコーディネーターの配置という意見がございますね。これなんか、具体的な提案の一番の骨子になるかなと思います。そういう具体的なポストをつくり、まずその位置づけをはっきりさせる。それでは、それに適した人材が誰かというところで、海外から帰国した教員が一番適格というか、候補者ではないかと思います。せっかく候補者がいるんだから、国際教育コーディネーターというものを各学校に配置しましょうと考えられます。これは、予算も含め制度化にもつながるかなと思うのですが。

奥村委員】
   国際教育を支援する組織が、意外と重層的に準備されているのだなということが大体わかってはきたんですが、我々現場のサイドになりますと、例えばそういった方に来ていただくための予算措置があるのかという問題がございます。来ていただくとなると時給を払うのが大変なんですね。そういうところを臨機応変に校長の裁量で謝金がきちんと出せるようなシステムが各教育委員会で、あるいは各学校で整えば、随分変わってくるんじゃないかと思いますね。

船橋委員】
   実践のあり方のところで一つご参考になるかなと思うんですが、私どもの会社で、起業家教育というものをやっています。この事業は、経済産業省から、子どものときから、ビジネスとか、起業家マインドを育成してほしいという依頼を受けて、3年前からスタートしたものです。今まで、全国で2万人の子どもと数百人の先生方を対象にトレーニングしてきました。国際理解教育よりも認知度も低く、子どもはまずビジネスに対するイメージがない、先生方も同じで、やったことがないし、どうやって教えたらいいか全くわからないというところからスタートしました。その中でまず、初年度は我々が教えに行きました。2年目に、その学校の先生方をトレーニングして、資格を与えるような形でやっていただく。コーディネーター制のようなものです。そして3年目以降は、自分の学校で自由にやっていただく。ただ、我々はビジネスとしてやっていますから、学校で独自に行えるようになった3年目以降も、一人当たり500円でもいいので、ライセンス料をもらう形にしました。地域によっては、その費用を自治体や民間企業が出す所もあります。とにかく地域を巻き込んでやっています。今、沖縄から北海道まで広がっています。つまり、1年目は民間や何か組織を使ってでもやってみせる。2年目からはそれが地域に定着するように指導者を育成しながらやっていく、そういうやり方がいいんじゃないかと思います。
 この経済産業省の事業のよいところは、政府は3年しかお金を出さないところですね。その後はその学校や自治体で自立定着しなさいと。そうじゃないと、永遠に自立定着していかないですから。そういうのも一つ、モデルとして参考になるかなと思います。

池上座長】
   それぞれの学校の意識には温度差があると思うんで、非常に力を入れているところは、専任の国際教育に関するコーディネーターがいるかもしれないですが、小さい学校ではどうか。そういう小さい学校などでも、ある人に「あなたは国際教育に関するコーディネーターよ」と任命して、行政機関や専門家が発信した情報の受信者になってもらい、それぞれの学校の中で広めていくというようなことができれば、うまく展開していくと思います。
 ただ、既に、川崎市のように配置しているところもありますが、そういう制度を作ったらどうかということしか、我々には提案できないのではないか。文部科学省からこういう制度を作りなさいというような指導はできないのですか。

山脇国際教育課長】
   こういうのをやったらどうだという形で言うことはできますけれど、実際には、予算や定数の問題がありますので、例えば常勤の職員で、教職員と同じような形でやるのは、今の地方の財政状況を見ると、非常に難しいと思います。
 ただ外部人材を活用してボランティアでやってもらうとか非常勤でやるとかという仕組みをうまく考えれば、それほどの財政負担ではなくて、かつ現場にも負担にならないような仕組みが考え得るんじゃないかと思います。

池上座長】
   今学校にいる人材で、例えば教頭など、どこの学校にもいますね。そういう人に兼任として、こういう役割もお願いしますということは出来ないですか。

根道委員】
   帰国子女受入協力校のことから分かるのですが、担当の加配教員がいる学校は、きちんとした体制ができているんですが、いなくなると難しいものがあります。
 コーディネーターを配置すると言いますが、校長先生は、課題が多い教員には、なかなか余計なことを頼みにくいという状況もあります。我々がコーディネーターを指名しなさいと提言するからには、かなりそれなりにはっきりしたメッセージを打ち出さないと、実現は難しいんじゃないかなと思います。

池上座長】
   専門の加配教員を配置するとなれば、それこそ相当大きな規模で予算措置が必要になり、各小中学校に1人ずつなんて、とてもじゃないけれど、無理じゃないですか。

奥村委員】
   今、学校も競争的環境の中に置かれるようになり、例えば我々の学校は、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールに指定されて、期間3年間で、年間300万円の予算をいただいております。同様に国際教育についても、指定校制というものを作り、その指定校の取り組みが幅広く全国に行き渡るような形にすればよいと思います。

紿田委員】
   今の時代、予算措置をつけてコーディネーター制度をつくって、それに人材を配置しろなんていう話が非現実的だということはわかりますが、やはり川崎の話なんかを聞いていて、あるべき組織論からすると、国際教育をもう少し広めようと思ったら、現実に教育委員会と先生との間に一種のコーディネーター、潤滑油的な人が必要だと思います。ですからこの検討会の立場としては、予算措置ができないから提言しない、というのじゃなくて、コーディネーターが必要だ、ということを強く打ち出すべきだと思うんです。それと同時に、ニーズのないところにコーディネーターを置けと言ったって、校長先生もためらうし、進みません。それよりはそういう情報を、ニーズがありながら対応できていないところに対し広く提供する、広報してあげることが必要だと思うのですが。

池上座長】
   必要としているところに、モデル校や指定校といった拠点的なものを置くというのも一つのアイデアですね。それから、地域や学校によって温度差がある点については、全体の状況を底上げしていこうというときには、ニーズのあるところだけに配置するよりも、よく民間企業がやる手法ですが、兼任で、ある人物にその役割を与える。そうすると、少なくとも役割を与えられた者は、自分の専門外であっても少しは勉強しようとします。各学校ごとに国際教育のための人材を置くことを考えれば、この方法だとそんなに予算もなくてできるんじゃないかと思います。

森委員】
   コーディネーターを置くという部分と、あと、コーディネーターを任命しても、その人たちが何を現場でやっていくのかということがとても重要だと思っています。国際理解教育をやっている方々とお話しすると、ハードはあるということが分かります。例えばIT教室みたいな感じで、コンピューターで海外とコミュニケーションできる場はあって、そこで働く人もおり、子どもたちもそこに来られる。でも、ただEメールを書いているだけ、ウェブでつないで顔が見れるだけで、そこから、そことどこかをつないで何かしようと思ったときに、そのコンテンツが圧倒的に不足しています。だから、私のNPO法人パンゲアでは、それをどうすれば「つながり感」、つまりお互いに信頼感を持てる環境をいかにネットを通して構築できるかということをやろうとしています。NPOの団体で、そういう研究をしているところもあるので、現場、つまり実際にコンピュータールームなどにコンピューターが使えるコーディネーターが入ってくださると、非常に効率よく出来ると思います。ちなみに、現在渋谷区の場合は、IT国際交流事業ということで区の予算を我々がいただいて、実証実験をやらせていただいています。

池上座長】
   学校外のいろんなツールや人材を大いに活用していこうという点については、皆さん、反対はないと思います。また、今まで検討会の中で具体例も随分発表されました。こういう人たちの情報を全国に提供していくということにも反論はないと思います。できればその実現を容易にする、例えばネットワークや組織、センターなど、そういうものがあればいいと思いますので、それについてはここでは議論せずに、提言に入れてもらうということにしたいと思います。
 それでは、最後の議題ですが、「4.海外子女教育の変化と成果の活用について」、これについて何かございますか。

根道委員】
   私はやはり、例えば国際教育なり、帰国児童生徒教育が、他の教科と同じように専門性のある仕事であるという認識をもう少し強く持っていただく必要があるのではないかなと思います。具体的にどうすればいいのかは、難しいんですけれども、やはりある程度専門性のある職種であって、しかも、それをやっていると、継続的にその関係の仕事につくことができて、自分も専門知識をどんどん蓄積していくことができるということでやっていかないと、良い人材は育たないし集まらないと思います。

小野委員】
   やはり海外経験のある先生たちは、すべてが優れているとは限らないにしても、色々な意味で経験を積んできているわけですね。その経験が広まらないとか、経験を生かせる場がない、孤立しているという意見がありました。先生方は海外へ行く事前に研修をきちんと積んでいくわけですが、帰国してからの義務的研修がないんですね。組織化されていない。だから現場で見ていると、帰ってきたらもう終わった、いい経験だったという感じで、それ限りになってしまう。それを唯一つなぎとめているのが、全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会なんですが、これはあくまでも自主研修会ですから、もう終わった、と思っている人は入らないのが現実です。ですから、事前の研修と同じように、それをつなぎとめておくための事後の研修の義務化、そういうシステムが必要だと思います。それを提言に盛り込んでいただきたいと思います。

中島委員】
   海外子女教育のところで、一つ加えていただきたい視点は、海外子女教育の問題は、昔は帰国する人が対象だったのが、今はそれがだんだん広がって、永住者や長期滞在者の子どもも入り、それから日本の国籍を持っていない日系子女もいて、そこは分けられないという状況になってきていると思います。ですから、日本に帰ってくる子どもだけではなくて、海外で学齢期を過ごす子ども全体を視野に入れていかざるを得ないという視点は、私はとても大事だと思うので、提言に入れていただければと思います。
 もう一点は、外国人児童生徒なんですが、海外に出た日本人に対して、日本文化、日本語の保持が非常に大事だとうたわれてますが、外国から入ってきた子どもには、日本語教育の必要は言われていますが、彼らの母語、母文化の継承もきちんとしないと、異文化性がなくなってしまう。異文化性がなくなった場合には、彼らの将来の問題も出てくるし、国際教育での役割という面でも非常に弱まります。それも一つ入れていただけたらと思います。

根道委員】
   先程、国際教育に関するディレクターの話で、ニーズのないところよりもニーズのあるところへ配置を、というお話がありましたが、日本の児童生徒数全体を見れば、帰国児童生徒あるいは外国人児童生徒は圧倒的少数です。ですから、全体に散らばらせておくと、ニーズとして認識される状態にならない。ある程度1カ所にまとめて、ニーズを認識させて進めていかないと、重要性も希薄になってしまうと思います。ところが今、国内では帰国外国人児童生徒は日本全国に分散化の傾向にあり、少人数ずつ分散しているようなところでは、帰国児童生徒教育に対するニーズへの認識が希薄なんですね。だから、希薄なところでは、ある程度1ヶ所に集中させていく必要があると思います。

佐藤(郡)副座長】
   海外子女教育、帰国児童生徒教育に関して言うと、やはり国際教育ということをうたうのであれば、国際教育の視点から海外子女教育、帰国児童生徒教育を見直してほしいと思います。ソウルの日本人学校は、4割弱が国際結婚、あるいは二重国籍の子どもなんですよね。そういう状況が実際に起きている。
 2つ目は、文部科学省で「帰国・外国人児童生徒とともに進める教育の国際化推進地域」の指定をやっているんですね。その地域の良さは、非常に多文化的状況が作られていることですが、そういう所を拠点にして、色々な研修のあり方や、コーディネーターの配置、予算の優先的配分といったことをやっていけば、うまくいくのではないのかな思います。
 3つ目は、じゃあ、海外子女、帰国児童生徒教育の固有性がなくなったのかというと、決してそうではなくて、かなり固有性は残されている。言語の問題、適応指導の問題、カウンセリングなど、かなり固有性が残されている。つまり、そこにある種の専門性というものが出てきていて、そういうものが恐らく教員養成のあり方などと結びついてくるのじゃないのかなと思います。
 4点目ですが、今日の議論の中で少し危惧するのが、私たちは、国際教育を全体に広げていかなければいけない点は全員賛成だと思うんですが、じゃあ、国際教育の固有性って本当にあるのかと。つまり、全体を国際教育という視点でもって見直す必要があるというのは誰でも共通していると思うんですが、例えば「国際教育」という言葉は、もともとユネスコが使っている言葉で、国際協力や、国際協調、異文化理解といったいろんな側面を含んでいます。そういう部分をどうやってこの提言の中に盛り込んでいくのかというところが気になります。議論の中で個別の事例としては出ておりますので、そのような点を少し追加していただけると、非常に重層性が出てくるかなと思います。

(4) 今後の日程について
 事務局より、今後の日程について説明した。

(5) 閉会

(了)


(初等中等教育局国際教育課)

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