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初等中等教育における国際教育推進検討会(第5回)議事録

1.日時   平成16年12月10日(金曜日)10時〜12時30分

2.場所   経済産業省別館1012会議室(10階)

3. 出席者
(委員)   池上 久雄(座長)、佐藤 郡衛(副座長)、岩谷 栄子、奥村 芳和、小野 清二、佐藤 裕之、紿田 英哉、多田 孝志、中島 和子、根道 博、根本 かおる、平野 次郎、吉谷 武志、渡邉 寛治 の各委員
(外部有識者)   永井 宏明(特定非営利活動法人REX−NET代表)、細野 良敦、藤村 登(特定非営利活動法人国際社会貢献センター)の各氏
(文部科学省)   井上国際統括官、山脇国際教育課長他関係者

4. 概要
(1) 開会(池上座長)

(2) 配付資料の確認
   事務局より配付資料の確認が行われた。

(3) 議事
 
 事務局より国際教育人材の活用について説明の後、前半は海外派遣経験を有する教員の活用について永井氏より発表があり、つづいて自由討議が行われた。

永井氏】
   では、早速REX−NETのお話をさせていただきます。まず、外国教育施設日本語指導教員派遣事業(以下「REXプログラム」)という文部科学省と総務省の共同プログラムがございます。海外の中等教育施設に日本の公立学校の教員を派遣し、日本語教育等に従事させる制度ですが、その帰国教員でREX−NETを組織しています。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会(以下「全海研」)とREX−NETとはどう違うかと申しますと、全海研の場合は、日本人学校に派遣された先生方の組織ですが、私たちは現地校に勤めるという点が大きな違いだと思います。
 REXプログラムに参加した教員にどういうものが身につくかというと、現地で使用される言語の運用能力、これは英語圏だけではなくて、フランス語圏や韓国語圏、ロシア語圏などに派遣された者もおりますが、そういった言語の運用能力が身についてくる。それから、基礎的な日本語教育技術もつきます。
 また現地校では、日本とは異なる教育制度やカリキュラムの中で活動するため、そのような知識も身につきますし、1年半ないしは2年間といった長期にわたり滞在するので、さらに深く教育事情に触れることができ、現地校の教員と友好関係を結んだり、その地域の教育委員会と面識を深めることができます。
 そこでREX教員ができる貢献とは何かというと、先に述べたものの他に、現地との人的なつながり、それから体験を経て芽生えた意識の変化を生かすことだと思います。やはり向こうに1年半ないしは2年間行ってみると、日本の教育、自分の教えていた学校現場への見方や価値観が当然変わってまいります。それを帰国後、自分の学校現場にどう生かすか、と考えることができるわけです。ただ、私たちのスタンスは、足元はあくまでも日本であり、外国の教育制度をそのまま持って帰ってくるだけではありません。海外のよい所と日本のよい所を判別しながら、生かしていくことができるというところが私たちの利点だと思います。
 次に、「海外経験を有する人材を国内で活かすには」についてです。せっかくそういう貴重な体験をさせていただいた後日本の学校に戻りますが、そこで海外の体験を本当に自分が十分に生かせているだろうかというジレンマが起きてしまうことがあります。そこがそもそもREX−NETができた理由です。さまざまな要因で、せっかく身につけた力を生かしにくいのが現状であります。
 どういう要因があるかといいますと、まず1つ目は、派遣された教員自身の不勉強であったり努力不足という面もあります。
 2つ目は、「おまえは外から帰ってきたんだから」といったような、周囲の目というものがあります。ただ、その目は本当に実際に周囲がそう思っているのか、あるいは帰国教員の自意識過剰なのかというところは、本人の感じ方ですので、私たちは冷静な判断ができてないかもしれません。そこは客観的な皆さんに見ていただくしかないと思っています。
 3つ目は、帰国後、その教員を受け入れた地方公共団体の人材活用の方針にもかなり温度差があるという点です。ある県では、自分たちより後に派遣されるREX教員の研修を担当するような仕事を与えられたり、REX教員として学んできたものを、将来に生かすような組織立てができているところもありますが、多くの場合何もないということが多いようです。
 REX−NETというのは、そのように帰国したものの、せっかく身につけてきたものを十分に生かせないというフラストレーションがたまった教員が集まって、ネットワークを生かしてより有機的に個々が身につけた資質を生かしていこう、と結成したものです。
 実際REX−NETを始めてまだ半年しかたっていませんが、私たちの課題は、そういった中で個々の資質をどうやって生かすか、何を生かすかというところを、これから研究していくことです。また、REX−NETの知名度が低いことや、学校現場にいるとなかなか活動に参加しにくい、ということも課題です。NPO活動という名前がついてしまうと、それは本務ではないだろうというような片づけ方をされてしまうのですが、今後も私たちは本当に具体的に何ができるかということの発信を続けてまいります。
 逆に、私たちを活用する側について申し上げます。「国際」や「国際教育」ということ自体が学校の中で何だかよくわからないため、私のようなREXプログラムで海外に派遣された者のメールボックスに、学校に来る国際と名のつくメールが全部振り分けられています。我々を使いたいと依頼される側も、どういう人材が必要なのかというニーズを整理していただけると、お互いもっと効率的に国際教育活動が進められるのではないかと思います。発信側とそれを活用する受信側、すなわち派遣された教員と派遣する地方公共団体双方の協議の場などがあれば、さらに有機的に人材が活用できるのではないかと思います。

池上座長】
   本来だと、この後、千葉委員から全海研のお話を伺うところだったんですが、今日は急なアクシデントのためご欠席です。全海研の悩みは、今のREX−NETの悩みとかなり共通な部分もあると、私も聞いておりますが、事務局からご説明いただけることはありますか。

山脇国際教育課長】
   伺った話ですが、まず、派遣教員が帰国した後、全員が必ずしも全海研に参加しているわけではございません。そういう活動に積極的に参加しようという先生方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃる。あるいはその取り込みがうまくいっていないのかもしれません。そういう面が1つあると伺っています。
 それから、永井先生からも周囲の目、というお話がありましたが、それと同じような状況が海外の日本人学校への派遣教員の場合にもあると聞いています。帰国後、学校現場でその経験を話したいと思うんだけれども、なかなか受け入れる環境や理解がない。校長先生などにリーダーシップがあって、ぜひ国際教育プログラムをやってくれというような環境にある学校はよいのですが、そうじゃないところは、うまくいかない。これには様々な要因があるとは思いますが、それを乗り越えて、できるだけ海外の経験を国内で生かすにはどうしたらいいかについて、全海研では色々な議論をしながら活動されています。
 また、海外子女教育についても、私どもと連携をとり、教材や指導案を一部作成していただいております。

根道委員】
   REX−NETの悩みは、まさしく全海研が持っている悩みそのものだと私も感じております。つまり、帰国した1万人の先生方は、それぞれの都道府県でその身につけた能力なり経験を十分に生かせていないということです。それは一体なぜなんだろうと考えると、やはり先ほど言われた周囲の目というのが一番大きな問題であろうと思います。はっきり申し上げて人事権を持っている教育委員会なりに、その人の身につけた経験を生かそうという方策そのものがないのではないか。もちろんそうでないところもあると思いますが。
 したがって、全海研に参加する人数も、おそらくだんだん減ってきていると思います。それはなぜかというと、学校の現場は色々な課題が多くてすごく忙しい。その上全海研に入会して委員でも頼まれようものなら、大変なことになるという思いがあるのではないか。
 それに、周囲の目というのも必ずしも温かいものではない。先ほど、全国大会に200人の参加とおっしゃいましたけれども、おそらく最盛期には400人、450人の参加があったものが、だんだん減ってきている。これを運営しておられる方は相当に苦労してやっているんではないかと思います。これはなぜかと考えると、海外で教えてきた経験を評価し、そして活用するという方策がないというところに行き付くのではないかと思います。
 それから活用の問題からはちょっと離れますけれども、全海研は今、日本人学校や補習授業校の新しいカリキュラムづくりや出版、地域での研修会など、かなり幅広い活動をしていますが、参加される方がだんだん限定されてきている傾向があります。今後どうやって開かれた組織をつくっていくかについて、皆さん苦労をしていると伺っております。

細野氏】
   2年ぐらい前、千葉で行われました全海研の関東大会に参加させていただきました。そこで感じましたのは、やっぱり海外から帰国された派遣教員は、国内ではまだ少数派なんですね。ですから皆さんそこへ集まると、日ごろの思いを述べるということで話が弾んでおられました。
 もう一つ、我々が参加してよかったのは、国内の教員の世界から見ると、私ども商社員というのは全然異質だとお思いでしょうが、派遣教員は日本人学校や補習授業校に行っておられたわけで、皆さんご承知のように、その運営というのは、ほとんど商社の代表者が運営委員として参加しております。だから私どもの会社の名前を先生方もご存知ですし、親しみを持って接していただきました。
 もう少しそういう貴重な経験をしてこられた先生を、うまく活用する方法があってもいいんじゃないかという感じを持ちました。我々の言葉で言うプロジェクト志向というんでしょうか、国際教育を考えるときも、みんなで衆知を結して、経験のある人は経験を出す、国内の事業でベテランの方はその知見を出すという感じでくみ上げていくことが必要なんじゃないかなと思います。

小野委員】
   私は、東京都小学校英語活動研究会の一員として小学校の英語活動を一生懸命やっています。東京都海外子女教育研究会(以下、「都海研」)の会員ではありませんが、都海研は多分、全国の中では動員人数が一番多いんだろうと思います。私も何回か会に参加しましたが、役員の先生方は、やはり集まりが少ないことを悩んでいらっしゃいます。会の組織は任意なんですね。学校には自主研修と命令研修というのがありまして、市の教育委員会による命令研修的なものだと教員は必ず参加するんですが、他の、例えば国語、算数、社会、理科等、任意参加の研究団体には、先生方の興味関心がどれだけあるかで参加人数がかなり違ってくると思います。
 一方で、海外に派遣された先生方は本心では、実はもっと自分の積んだ経験を生かしたいと思っています。だから、それを生かす場がないということはまず大きな問題だと思います。
 そこで、教育委員会が国際教育についての重要性を方針として打ち出せるような文部科学省のサポートがあれば、国際教育についての研修を自主研修から少し命令研修的なものとして実施できるのではないかと思います。現在、総合的な学習の時間が各学校で行われており、それに伴って例えば小学校の場合、環境教育と情報教育を校務分掌の中に位置づけ、その活動が広がっています。3番目に活動が広がっているのが、国際理解教育あたりだろうと思っていますが、やはり環境教育や情報教育を優先せざるを得ない状況にある。例えば、情報教育では、文部科学省もかなり力を入れて、各教育委員会へ指導や指針を与えています。そのことが教育委員会を通して各学校で校務分掌として位置付けるという形であらわれているのです。ですから、国際教育についても教育委員会が一つの方針を出せるような働きかけがこれからは必要かなと思っています。
 それから帰国した教員については、意図的な配置が必要だと思います。現在は本人の希望と各学校の要望によって、どこへ配置されるかわかりません。それを例えば帰国児童生徒を重点的に扱っている学級に配置するなどによって、その人の経験や力量を生かす場を、人事的配置の面でも促すような指導が必要だと思います。

佐藤(裕)委員】
   私は14年前に日本人学校に派遣されて、帰ってきた帰国教員ですが、川崎市教育委員会で肩身の狭い思いをしたことは一度もありません。なぜかと考えたときに、3つの理由があると考えています。
 1つは、川崎市には国際教育の研究会がございます。各教育委員会には国語や算数や理科や社会の研究会があると思いますが、それと同じレベルで国際教育の研究会がある。研修は月に2回、年間20回ぐらい会合があって、その中で研修会や授業研究会、事例報告、講演会などを行っています。つまり、自分が海外で身につけたもの、発信したいものをそこで提案しながら情報交換をすることができるし、それを生かした授業を公開するというような研究組織もあります。出張もきちんと位置づけられて、公務として保障されております。帰国した教員は、熱い思いを持って帰ってきていますが、それをすぐに生かす場がありました。
 2つ目は、今私が勤務する総合教育センターでは、国際理解の研究をしています。年間契約で、研修員が4〜5名おり、うち1名は1年間センターの専任です。その他の3〜4名は教員で、月2回研修という形で来てもらいます。よって学校は現場の教員と私、それから専門家として大学教授との計6〜7名でチームを組んで研究をしております。現場の教員は、授業実践を行い、それを紀要にまとめたり、学校で発表会したり、また夏の研修会等でもその成果を発表しております。
 3つ目に、国際理解について学校指定研究制度をとっておりました。つまり、教育委員会が「あなたの学校では国際理解の研究を学校を挙げてやりなさい」と指定する。大体2年間です。ある学校が終わると次はこの学校でやりなさいといった制度です。私はこの制度にも関わることができました。
 そして、川崎では専任の国際理解の指導主事を置いているということも、ある意味では相談役なり、コーディネーター役として一役買っているのかなと思っております。

紿田委員】
   質問ですが、だれがあなたを今のポストに任命しましたか。

佐藤(裕)委員】
   教育委員会の人事担当部署です。

紿田委員】
   今その質問をしたのは、さっきのお話を伺っていても本当によくわかるんですけれども、結局海外で身につけたものを生かしたい、という意識があっても1人ではなかなか広がらない。だからNPOとかグループをつくるがそれだけでは認知されない。結局その人たちの活動がしやすくなるためには、やはり制度が重要なんです。
 意思決定をする人たちの中に理解のある人が入っていけば、世の中、絶対変わると思います。そうすると、教育委員会の仕組みや教員の人事制度など、そこのところにメスを入れないと、いくら意欲のある人が増えても、それだけでは力にならない。例えば文部科学省は地方に対し、一体どこまで影響が与えられるのですか。海外派遣経験のある教員を国際理解に活用しなさい、人事上配慮しなさいというガイドラインみたいなものは出せるんですか。

池上座長】
   私も、ニューヨーク日本人学校の運営委員を経験しており、帰国してすぐに、これから海外へ出ていく先生たちの研修会の講師や管理職研修の講師を受けたことがあります。そこでは、あまり日本ばかり見ず現地に溶け込んで教育を一緒にやってくれ、ということと、現地で身につけたものを帰ってきて日本で発信してくれ、という2つのことを随分言ってきました。その後、10年ぐらいたってこんなふうになっているとは、私は非常に残念です。やっぱり前から指摘されてきていますが、国としてのシステム的なアプローチと予算措置した上での事業化という2つが必要だと思います。この検討会をやること自体も一歩前進ではあるなと思いますが、その辺について、どのように考えていらっしゃるか。

山脇国際教育課長】
   まさしく今議論になっているような点が制度的にも実態上もなかなか進んでいないという問題意識から、この検討会を始めました。我々もどういう方策が一番効果があるのか、制度面が可能なのか、あるいはある程度の指針やガイドラインなどが可能なのか、そのあたりを検討、研究していきたいと思っています。制度上、誰それを国際理解教育の指導主事にしなさい、ということを文部科学省が言えるわけではないんですが、各教育委員会、県、市町村レベルでそういう人材を生かすようなスキームというものを考えられれば一番よいと思っています。それについての助言をこの場でも出していただければありがたいと思います。ただ、この場でご提案いただいたものを含めて、内容については実際によく検討しなきゃいけませんし、中にはすぐに実行できるものもあるかもしれません。また、予算が必要であれば、私どもが考えているのは18年度予算で何らかの措置ができればよいなという思いはございます。

平野委員】
   お話を伺っていますと、結局は意識と意思の問題だろうと思うんですね。国際理解教育が必要だと意識しているのかしていないのか。意識をしているのであれば、その国際理解教育を推進するためにどのような人間の配置が必要かということを考えて意思決定をしなきゃいけませんね。それをしているのかしていないのかという問題に帰結するんじゃないかと思います。
 実は、私は人間が群れをつくるということは好きじゃないんです。そういう海外で教えた経験を持つ人がいるということが重要であって、その人たちが一つのグループを作って活動すれば、必ず反発を招きますから、私はあまり賛成ではありません。そういう人たちが海外での貴重な経験を日本に戻ってから教育現場に還元するために、組織をつくらなければならないかというと、そんなことは全くなく、日々の教育活動で実践をしていけばいいわけです。
 それから、意識と意思の問題に戻りますと、日本の公立の教育の現場には、競争原理がないです。例えば、民間の会社であれば、好むと好まざるとに関わらず競争の中で生きていますから、経営はこういう分野でこういう競争をするためにはこういう人材が必要だという決定をするはずです。ところが、日本の教育現場というのは競争原理がなく、適当に円満に物事が進めばいいだろうという考え方をしているのではと思うんですね。ですから、文部科学省から全国一律的に指導や指針を出すと、競争原理に関してはマイナス要因になりますからある程度はいいけれども、過度になさるのはあまり賛成じゃありません。
 むしろ、教育の現場に競争原理を導入するような方策を考えるのが重要だと思います。例えば川崎市の場合はすばらしい、なぜならばこういう人事の配置の仕方をしたからだ、みたいなことをプレーアップするなど、競争させていけば、日本の先生は皆さん優秀ですから、エネルギーがしかるべき方向に向かっていくんじゃないかなと思います。

佐藤(郡)副座長】
   今の発言に絡んで、私は「生かす」ということをもう少しきちっと議論しないといけないと思います。「生かす」というのは、一体誰の何を、何のためにどのように生かすのかという議論がどうしても必要です。実はREX−NETや全海研の方々を見ていると、色んな意味で日常の実践に還元できる力を持っているんですが、それがなかなか見えにくいのが問題なのです。例えば海外派遣というのは一体どういう効果を持つのか、具体的に何なのか。逆に帰国生の話をすると、海外にいたからいいのではなく、何をしてきたのかが重要なのです。つまりこういう実践をしてきて、こういう力が得られたから、私たちを生かしてくださいという議論が必要だと思うんです。その中身の議論がないままに、ただ単に2年間行ってきました、うまく人事配置してくださいというのは、さっきの競争原理にもつながりますが非常に楽天的過ぎると思うんです。
 例えば、REX−NETでも、教員の派遣がどういう効果をもつのかについて、基礎調査をやっている方がいらっしゃいます。その調査では、直接的な効果、間接的な効果、社会に向けての、そして個人のと様々な効果があるという調査結果が出ています。一例ではカリキュラム開発能力みたいなものがとても身についています。そういうものを具体的に、私たちはこういう力を持っているから、こういう形で生かしてくださいと発信していく方法を、具体的に議論する必要性があるんじゃないかと思います。つまり、企業でも海外へ派遣された人のこういう力を認めたから初めて、このように生かそうという議論をするわけですから、中身がないままにどう生かすのかという議論はあまりにも無意味だなと思います。どんな力がついたのかというところを、もう少しこういう場で議論をすべきだと思います。

多田委員】
   私は、やはり何らかの形で帰国教員を教育委員会の中に位置づけていかないといけないと思うんです。実は、私は全海研にずっと関わっておりました。その会合は、夜の6時、7時に始まるような感じで、今続けている方々も相当苦労しながら参加していると思います。その中で最盛期は4〜5百人もいた参加人数が減少していることを、危機的に思います。その原因の一つは、出張がしづらいというような外的な部分と、実際に自分の体験を生かす場がないという事実だと思います。そうしますと、私は全海研だけでなくて様々な先生たちと一緒に、その体験が生きていくようなシステムを作っていく必要があると思います。その一番有効な手だては、どこにでもある教育委員会の中に、位置付けてしまうということだと思います。
 もう一つは研修制度についてですが、事前研修の中で「海外で働くと同時に帰国後、君たちはそれを国内で生かしていかなくてはならない」という部分をかなり徹底的に伝える必要があると思います。
 それから、やはり単なる三年間の派遣経験だけで国際理解の専門家とは言い得ないと思います。だから、経験をうまく生かしつつ、それが日本の国際理解教育全体に広がるように、再教育を視野に入れて考える必要があると思います。

根本委員】
   海外経験のある先生方が抱えていらっしゃる思いは、私たち国連機関や国際機関で仕事をしている日本人の持つ思いと非常に通じるところがあるなと思って聞いておりました。やはり我々も世界各地で仕事をしている中で、いろんな体験をします。それをできれば日本の人々に発信したい、そういう思いは非常に強いわけです。ただ、そういったことを発信する機会を与えてもらわなければ、なかなかできない。私は、今国連世界食糧計画という事務所の中で広報活動や啓発活動のすべてを取りまとめている立場でして、やはり自分自身が発信したいと思っておりますし、日本人職員で日本に帰国する人たちに対しては、なるべくそういった機会をつくってあげたいなと思っています。
 それで、帰国報告会や学校での子どもたちへの説明会を開催したり、マスコミの方々にその体験を発信する、そういった体制を組んでおります。もちろん個人の意志あるいは意欲ということでもできるんですが、先生方の抱えていらっしゃる問題を伺っておりまして、やはり個人の意欲及びそのサポート体制が二つ重なったときに、非常にやりやすい立場になるのかなと思って聞いておりました。

池上座長】
   根本委員がマインド論とシステム論をうまくまとめていただきました。まず個人が持つマインドは大事だという点についてはそうだと思うんです。その後システム、制度を具体的にどう構築していくのかについての鍵は、どうも教育委員会にあるということのようです。これは教員以外の国際教育人材の活用ともかなり関係してくると思います。

中島委員】
   私のように海外に長く住んでいて感じることは、日本人学校や補習授業校に派遣される先生方はあっと言う間にお帰りになってしまうことです。ですからもっと深い体験をしてから帰国するような派遣のシステムも同時に必要だと思います。

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 後半は、教員以外の国際教育人材の活用について、特定非営利活動法人国際社会貢献センターの細野氏及び藤村氏、吉谷委員より発表があり、その後自由討議が行われた。

細野氏】
   私どもの組織は、日本の総合商社がメンバーになっている日本貿易会の下部組織であるNPO法人国際社会貢献センターといいます。現在メンバーは、ほとんどが商社の駐在員のOBで、1,500人ぐらいの会員と国際理解教育の講師として約100人を抱えております。
 本日は、学校の外の団体が学校と連携する場合の課題について、講師を実際に派遣する立場として、いつも感じている点をお話したいと思います。
 1点目ですが、文部科学省では学校外の人材を講師として活用するため、特別非常勤講師制度を設けていますが、私どもが現場に行きますと、そういう制度があることを知らない先生があまりに多い。私どもが文部科学省からいただいたペーパーを持って、代わりにPRしている状況でございます。これは手続が非常に難しいからではないかと思います。
 また現場の先生方に、教育委員会に行って非常勤講師を呼ぶような予算をとってくるというマインドがやや欠けている。ボランティアは無料だという意識がどうも強いように思えて仕方がない。学校にそのための予算をつけていただくことが絶対必要だと思います。私どもの事業は、ただ講義をして帰ってくるのではなく、学校や子どもたちの要望をよく伺った上で講師を選び、あらかじめレジュメを示し、打ち合わせをして授業を組み立てていきますので、大体2ヶ月くらいの準備期間が必要です。その後先生と生徒の感想文をいただいて、それを分析して次回に備えるというやり方をしております。
 2点目の、学校との連携をしやすくするための工夫、望ましい制度についてですが、学校の先生は非常にお忙しくて、連絡をとるのが大変です。ですから、少なくとも職員室のパソコンの台数をもう少し増やして、先生方が学校でeメールを駆使できるような体制にしていただきたい。それから、学校にあるプロジェクターなどの機材も古過ぎて手こずります。パソコン教室は非常に立派なパソコンが並んでいるんですが、先生が使えるパソコンは職員室で1台しかないという状態では、我々にとって非常にやりにくい。
 また、私どもの講師が学校へ外国の話をしに行くというときは、先生には、児童生徒に事前に必ず予習をさせるようお願いしています。これは非常に効果があります。今はインターネットで、特に外務省のホームページで各国の事情がすぐわかります。予備知識を得た上で生徒が質問を用意したりという中で授業に臨んでくれますので、効果的に指導ができます。
 次に、私どもは持論として、国際教育も結構だし、英語も結構ですが、とにかく国語をしっかりやってくれ、美しい、正しい日本語をきちんとしゃべる子どもを育ててくださいと授業のたびに言っております。感想文を見ていると、平仮名ばかりの作文や、誤字脱字は言うに及ばずといったものが多く見られます。もう少し国語をきちんとやらないといけないと思っております。

藤村氏】
   この活動を始める前、国際という言葉が学校でどのように受けとめられているかという点について非常に興味があったんです。例えば「国際何々学校」とありますと、関西では外国籍の子供を受け入れている学校を示します。また、我々が、学校で国際理解教育を行うための活動をやっていますと言うと、圧倒的に英語の先生が対応されることが多い。つまり、国際イコール英語ができること、という認識です。しかし私たちは、言語の背後にある社会、文化、国の事情を理解するといった国際理解と国際認識、国際感覚、全体世界を見ようということを伝えたいのです。しかし、そこはあまり一般的には受けとめられていない。ですから教科として国際教育というものが小・中・高等学校の各段階で位置づけられるようになれば、我々の活動ももっとやりやすいと思います。
 それでは、学校外の人材が国際教育に関わる教育的効果について、生徒に与えられるもの、先生にとって参考となるもの、我々からの要望事項の3つに絞ってお話したいと思います。
 まず生徒に与えられるものについてですが、私たちは大体体験談を主体に授業をしますので、生徒からは「実感を持って聞けた」というアンケートの感想が多いです。ところで今の子どもたちに、「将来何になりたいか」というアンケートをとったところ、ほとんど明確な夢を書ける子はいません。それに比べて、同じクラスにいる中国やフィリピンなどの外国籍の子どもは、非常に明確に「将来こうなりたい」という意志を書いております。同じ年代でも非常に大人といいますか、社会人として成長しているところがあるということがわかりました。日本の子どもたちは、そういう点を補わなきゃいけないと思います。
 さらに我々の授業のように外国の話をしますと、子どもたちはあこがれて「外国に行きたい」という気持ちが起きます。そうすると、「行ってみたい」から「そういう仕事をやりたい」「そのためには英語を勉強しよう」というふうに子どもたちに向学心が湧いてきます。また、外国の話をしますと、普段は「日本のこういうことは悪い」と言ってもなかなか聞かない子どもたちが、「ああ、日本はどうなんだろう?」「日本はそうじゃないね」という風に、自分自身を振り返ることができるという効果があります。外国の子供はいつから自立するかというような話をしますと、「私たちもしっかり自立しなきゃいけないな」と思います。今、中国の経済発展はすごい、何年後かには日本もアメリカも抜かれるかもしれないというような話をすると、「うかうかしていられない」という競争心もわく。こういう点が国際理解教育のメリットの一つです。
 私たちのOBには非常に外国語の練達の人が多いんですが、言葉をいかに克服するかについては、楽しく覚えることをモットーとし、音楽、歌の歌詞を題材にしてイントネーション、アクセントなどに関する原則を日常会話に活用するといった試みを始めました。
 2点目、我々の活動が先生にとって参考となるのは、計画性や熱意であると考えます。計画性については、授業までに先生方と色々事前打ち合わせをするのですが、それを通じて、先生方に依頼することも多くございますので、計画性が身につきます。先生によれば、そこまで準備をするのですか、とおっしゃる方もいらっしゃいますが、私たちにとっては、目的に向かって一生懸命準備するのは当たり前なんです。
 また講師が、これまで熱意を持たないと仕事ができないという身上の方々だったものですから、それが授業に表れていると思います。私たちは高齢の割には非常に熱意があると、先生たちが感想を述べられる場合があります。あと、最近は授業の計画や運営方針についての相談を受けるようになってまいりました。
 次に3点目の要望事項ですが、学校の先生は忙しくて、じっくりとお話をする場がないんです。したがって、現場の先生と我々校外講師とが討議をし合えるような、時間や会合ができたらありがたいと思います。

細野氏】
   我々の団体は、企業のOBが中心ですから、当然年長者が多いんですが、このごろは核家族化が進んでおじいさんやおばあさんと一緒に住んでいるという子どもは非常に少ないわけですね。学校現場に我々のような者が行きますと、目新しいということで興味を抱いてくれるようです。私どもの場合は、家族、子どもも含めて海外に長年勤務しておりましたので、外国の教育制度も肌で感じております。ですので、書物だけでは酌み取れない実体験に基づく授業ができるのが我々の特色だと思っています。私どもが最も子どもたちに伝えたいことは、「世界は広いんだ」「日本の価値観と違う国も世の中にはたくさんあるんだ」「差を認めよう」「そのためにはまず日本を知ることだ」「日本を知るには、正しい、美しい日本語を学ぶことが大切なんだよ」「我々の授業が世界に対して好奇心を抱いてくれるきっかけになればありがたい」ということです。これを各講師ともいつも授業の終わりの結びの言葉としております。

吉谷委員】
   ここ数年、福岡市と北九州地区で学校や社会教育機関、地域公民館等で国際理解教育あるいは異文化理解教育に携わっている中で、気になっていることを4点ぐらいにまとめました。
 まず最初ですが、学校にしろ、社会教育にしろ、その組織内外の人材、つまり外部からの人材や外国人児童生徒、その保護者たち、近所の留学生、国際結婚の方等々を活用する際に成否を左右するのは、そこで使われる人材よりも、その人材を活用する学校や主催者、教師の側の異文化理解、活用方法・条件なんだと思っております。だから、教員の養成段階や現職研修の中で異文化理解をきちっと位置づけないといけない。それから先生方の情報収集能力がかなり低いと思います。それからコーディネートをする力あるいは学校内の実施体制・協働化の必要性ということもあります。よく言われる開かれた学校とか学校経営といいますが、実際には個々の教員の努力に依るという学校文化があって、要するに、「国際理解教育はあなたの時間帯でしょう。その時間帯に頑張ってやってね」というのが普通なんですね。それが学年や、国際理解教育の部会などで、十分にサポートされていない。実感としてはそんな感じがしています。そういう部分にしっかり目を向ける必要があるのかなと思います。
 それから2番目は、外部の機関、例えばJICA(ジャイカ)や地域の国際交流協会、NGO、いろいろな団体や機関がありますが、そこの資源や人材の派遣、助成をしていただいた場合でも、学外者の方が学校教育や個別学校の事情を知っているとは限らないという点です。同時に、その機関に任せられるところ・使える素材等については大いに利用すべきである。そのために授業に行くまでに準備に2カ月ぐらいかけたり、情報を交換したりした上で授業をしないと、とても中途半端なものになってしまうのではないかと思っています。そういう意味でも、情報の収集、学校とか学級の情報提供は、学校のほうからする必要があります。個々の学校には、思わぬところで色々な異文化の問題や葛藤を抱えている場合がありますので、十分に打ち合わせをやるような物的、時間的条件を整備する必要があると思っています。例えば、福岡は中国からの帰国児童生徒がおります。この方たちは例えば日本国籍であるのか、中国籍であるのか、そういった状況が全然見えませんので、その辺の配慮は常に必要です。
 3番目、学校内の児童生徒、その保護者を活用する場合ですが、大体どの方も喜んで応じてもらえる場合が多いです。しかしながら、異文化接触であるだけに、周りの子供たちに異文化性のみが過度に強調される場合があります。国際理解教育の「3F」(衣服、食物、祭り)というものがあり、よく授業で取り上げられます。例えば、留学生の方々の民族衣装を見せてくださいとか、食事をしてください、どういうお祭りをするんですかなどというものです。これも後のケアをしないと、それがその子どものすべてであるかのような印象を他の子どもたちに与えてしまい、同じ同級生、友人としての一体感というものがうまく醸成されない場合があります。また、脱イベント化のために、継続的な指導はしっかりとやる必要があると思います。
 それから学校内での位置づけを明確にする必要があります。例えば、PTAの中に外国人や留学生が委員として部会を作り、参加していくような学校も少しずつ出てきています。自分たちの友達であり、親でありその中でやっていくようなシステムをつくっていく必要があると思います。ある種のオリエンタリズムというものが学校にはありますので、それを克服していく必要があると思います。
 4番目ですが、現在、異文化理解、国際理解は総合的な学習の時間の一部分で取り上げられています。あるいは、ある教科の中でクロスカリキュラム的な形で取り上げられる、あるいは触れられる程度のものは結構あると思うんですが、そういう場合には、見た目や方法の借用になりがちだなという感じがしています。例えば、体験的参加型学習をJICA(ジャイカ)などが持ち込んでくださるんですが、それ自体がイベント化してしまっているような状況があります。校務分掌などでは国際理解教育というのは、人権や同和教育など他の様々なものと抱き合わせになっています。実際、国際理解教育部会があるので、その先生がやればいいじゃないかというんですけれども、実はその先生は3つぐらいの部会を重ね合わせて持っていて、国際理解教育に使えるような時間や物的な条件はほとんどないのが実態です。
 したがって、異文化理解教育あるいは国際理解教育の担当者の位置づけを、システムとして明確にする必要がありますし、ある種のコーディネーターみたいなものを考えていかないといけないという気がしています。
 最後に、福岡・北九州の具体的な事例についてご紹介します。「教室から世界をのぞこうプログラム」というのはJICA(ジャイカ)の行う活動の流れだと思います。この活動のおもしろいところは、海外青年協力隊のOBやOGの方々と留学生をペアにするというような試みがあります。つまり、外部の方だけではなく、教師以外に授業をつないでくれる人をもう1人参加させます。これはかなり事前に打ち合わせを行います。
 また、財団法人オイスカという団体が行っている研修があるんですが、そういったものも利用されています。
 PTAの活動についてですが、福岡市の東区にある、中国帰国者の方が多い団地の中にある学校なんですが、ここはむしろPTAが先に国際理解教育や異文化理解の問題を取り上げました。まず親同士が学校からの色々な文書を翻訳するというようなことから始まり、PTAに部会をつくり、学校組織の中に入れて、最後に、現在は夜間の日本語ボランティア教室までつくっていきました。この主体となったのが親です。親と地域の留学生、ボランティアの方々から積極的に学校へ入っていき、学校を開いていきました。

多田委員】
   私は、先ほど細野さんのレポートにあったように、現場は全然知らないというのが実態だと思うんですね。ですから、こういう組織があって、そこと結びつくことによってこういうことができるということを知らせる努力が非常に重要だと思いますね。その場合に、現場に入っている人間として申し上げると、実は現場では、どの組織と関わればよいか不安な面があります。営利目的の方も結構いますから。ですから、例えばこのような取組みを行っている団体の一覧のようなものに、その特色や実践事例の形でその団体の良さを載せるといったことが必要だろうと思います。
 それから、ある団体とだけ長年関わり、その団体でなければいけないという感じになってしまうことは、非常に危険だと思います。学校教育というのは、学校が主体になってあれもこれもとってくるものだと思うんですね。そういう意味では、やはり多くの情報が必要だと思います。

紿田委員】
   今のご指摘、私も全く同感です。私がかかわっていた経済同友会と学校との関係を見ると、校長先生の理解があって、一度経済人を呼んで授業をしてよかったというところは、頻繁に繰り返し依頼が来て定着していく。ところが、とてもいいことをしているのですが、なかなかそれが他の学校に広がらない。そういうことから考えると、国際社会貢献センター等様々な組織がそのような取組をなさっていますが、特にシニアの方で教育のために一肌脱ぎたいと思っておられる方はたくさんいるわけですし、少なくとも信頼の置ける組織というのは幾つかもう出てきていますので、それを学校と結びつける努力というのがすごく大事だと思います。

奥村委員】
   高等学校の立場から言わせていただきますと、周りから幾ら国際教育をしようと言っても、高等学校の中にそれを受け入れる場がなければ話は全然前に進みません。今、ようやく高等学校では総合的な学習の時間というものが3年間で3単位できたところです。それが今、いわゆる学力論から袋だたきにあいまして、おそらく受験校などでは、ほとんど実態として行われていないだろうと思います。我々の学校は国立ですから、何とかその時間は守っていかないといけないと思ってやっていますけれども、その総合的な学習の時間の枠を守るだけでも大変です。さらに、その中で何をするか、国際教育にするのか、環境学習にするのか、それとも人権学習にするのか、についてはいろいろ考え方があると思います。
 我々の学校には、全国の高等学校からたくさんの方が、総合的な学習の時間をどのようにしたらいいのか、と見学に来られるので、我々としても国際教育ではこんなカリキュラムが編成できるんだ、外部から色々な人を呼び込んで、国際感覚を持つ人間の育成ができるんだということを実践で示していかないといけないと思っています。ただ、現状で考えますと、ほんとうに総合的な学習の時間の場を守るということ自体が大変な努力が必要で、だからその場が失われてしまうと、国際教育が再び学校現場に入ること自体が難しくなるんじゃないかと思っています。小学校や中学校でも同じだと思いますが、総合的な学習の時間を定着させるのだ、という指針が出てくれば、学校における扱いもかなり変わってくるんじゃないかなと思います。

岩谷委員】
   私も総合的な学習の時間をきちっと確保していただきたいというのは全く同じです。一方、学校現場というのはすごく忙しいというのも、本当にそう思います。私どもも、ユニセフ協会としてユニセフの学習会を様々な形で展開していますが、学校では、その枠をとるのがとても大変なんですね。一度年間の指導計画の中に位置づけてしまうと、2回目、3回目という具合に活動が展開していきやすいと思うのですが。
 じゃあどうしたらその位置づけができるか、については、教育委員会の大きな力が必要だと思うんです。しっかりと国際理解教育の重要性を位置づけて、それを各学校に発信していけば、各学校の校長も前向きに取り組みやすいと思います。特別非常勤講師制度についても、知らないわけではないけれども、なかなか活用できないというのが実態だと思います。
 そういうことを考えますと、やはり教育委員会、地方自治体における国際理解教育の位置づけをどのように強化していくかということについて、国レベルでしっかりと考える必要があると思います。
 それから、川崎は開発教育の観点でも取り組みが進んでいます。かなり長い歴史を経てそれが可能になっているんだろうということと、それからやはり教育委員会がそういうシステムを実現すべくしっかりと取り組んでいる成果かと思いますが、そうしたシステムを広めていく。具体的には、これは夢ですが、国際理解教育が教科として位置づけられるとすばらしい。そうするとそれに対する指導主事等の周辺環境も整備されていくだろうと思いました。それは無理でも、学習指導要領の総則の中で国際理解教育をきちんと打ち出していただけると非常に強いかなと思いました。

平野委員】
   私は、国際社会貢献センターの話を伺って、これはいいなと思いました。夢や温かみがあります。この事業によって、生徒側だけではなく、教えに行く商社OBの方々も恩恵を受けると思います。私だったら、自分が卒業した小学校、中学校にその卒業生を派遣します。そういう形で、外国についての教育のみならず、人間についての教育もそこでするようにしたいなと思っているんです。
 国際社会貢献センターのような団体はたくさんあって、信じて良いものと良くないものがあるというのは同意します。これは全海研がリストをつくればいいと思います。

佐藤(郡)副座長】
   私は、やはりコーディネーターがすごく大事だと思います。国際理解教育に関係する人材や団体は山ほどあるんだけれども、それをどうコーディネートするかが大事です。コーディネーターを養成するような研修を国レベルでやればいい。その上でそれぞれの地域において色々なことをやっていただければいい。それが1点です。
 もう1点は、これまで40年に渡り在外教育施設に教員を派遣しているのだから、政策評価をやったらどうか、ということです。インプットする、アウトプットするだけの問題じゃなくて、一体何をやってどんな効果があるのかということの評価をきちんとやるべきであって、そのための調査などをやっていく必要があるのではないかと思っています。

渡邉委員】
   国際理解教育の内容面を論議しなきゃいけないと思います。例えば私が住んでいるさいたま市は、大宮地区を中心に、海外からの労働者の子どもが多いものですから、国際教育を進めなきゃいけないという市の課題があって、共生という大きなテーマを抱えています。ところが、同じ市であっても外国人児童生徒の少ない地域では、非常に先生方の意識が低いんです。こうしたケースは全国に多くあると思います。このように、同じ市の中でも外国人児童生徒の多い地域と少ない地域があるような場合は、先生方の意識を高めるために、国際理解教育の内容、あるいは必要性についてきちんと議論する必要があります。何らかの形で文部科学省のほうから教育委員会が動けるようなシステムを制度上考えてあげると現場も動いていける。現場の先生が動きやすい状態をつくってあげることが非常に重要かなと思っています。

紿田委員】
   先生方については、自分だけが得たものがあるのだったらもっと発信すればいい、片方でそういう気持ちはあります。しかし同時に、しっかりしろと誰かが言うだけではこの問題は解決しない。やっぱり先生方が自らの持てるものをうまく発信できるように持っていくような仕組みを作ることが、僕は国の重要な使命だと思うんですね。
 そうすると、実際に海外に派遣された先生が一体どれだけのものを吸収してきたのか、つまり発信できるものが何か、を考えることは非常に重要です。おそらく個人としては発信できる何かを持っておられるんだろう、しかしそれを幾ら個人でやろうと思っても世の中は受け入れてくれない。しかし、持てるものを活かさないのはもったいないと思う人たちが、自分の力だけで足りないからグループを組んでやろう、という形になってきている。私は、今ようやく始まりつつあるそうした動きを、大事に育てていかないといけないんじゃないか、社会がそういう認識を持たなきゃいけないんじゃないかと思います。
 そこで制度的に何ができるかというと、川崎市や東京都のようにある程度国際教育が進んでいるところでは、私は、国はあまり介入しないほうがいいと思います。しかし、これから地方分権が進むと、国際理解教育みたいなものはおそらく地方では非常に進みにくいだろう。そういう場合には、ガイドラインなどを作り、リード役となることが、私は国の持つ非常に重要な役割だろうという気がします。

中島委員】
   先ほど海外に出られた方がエリートだというお話がありましたが、私のように30年も海外にいますと、先生方個人によりけりです。しかも、非常に保護された、限られた場の教育しか経験されていないので、お帰りになったら、その経験をもう少し普遍化して、ほかの経験とまぜ合わせて一般化しないと役に立たないんではないかという危惧があります。例えばもう少し、3カ所ぐらいの日本人学校を回るシステムであるとか、1カ所であっても違った立場で、例えば日本人学校だけではなくて地域の教育を受け持つというような体験をなさる先生が増えることが大事かと思います。

小野委員】
   東京都では、外部人材や機関のさまざまな活用方法があるということは示されていますが、学校において活用できる団体などを一覧表にして各学校に配布するということはしていません。ですから、熱心な校長とか学校だけがそれを活用する、そして、1回活用すれば2年も3年もということになってしまっているので、それは学校の怠慢であると言われればそうです。しかし、こういうのを機会に、パンフレット的なものを提示していく必要があるかなと思っています。
 それから2点目は、本質的には教師は、一人一人の資質や能力、個人によるわけなんですけれども、一方では制度と組織がある中で、お互いに啓発しながら全体を高めていくという方法も必要なわけで、それらが両方必要であるということを感じました。

佐藤(裕)委員】
   国際教育に関心がある学校が授業を組むことになった場合に、それを授業公開というような形でみんなで見合う、そういうところから広まっていくのかなと思っています。ペーパーだけだとやはり活動が見えないのでなかなか広まらない。その意味では、見合えるような環境を整えていくということが大事だろう、そのためのコーディネーターを、自分がやっていかなきゃいけないと感じております。

永井氏】
   教員がやれることはまだたくさんあると思いますが、自分が生かしてもらえないというフラストレーションが海外派遣教員にあるのは、多かれ少なかれ事実ではないかと思います。
 この前、横浜の中田市長と話したときに、公のお金を使って行っているんだから、「自分の意識が変わりました」と「自分の目の前の生徒だけに伝えています」で済ませるのはちょっと筋違いではないかというお話を受けたところにインスパイアされたのです。つまり、REX−NETの教員たちは現場の最低限やるべき使命は果たしていると自負しております。その上で、さらにネットワークを生かして、NPOの人的リソース団体としてアピールすべきだと思っております。つまり、現場でもやっているけれども、ほかのネットワークを使ったらもっとお節介ができるんではないかという感じですね。全国の地方都市の中には、国際教育をできる人材が1人もいない、ということがあります。そのようなときに、このREX−NETというのに目を向けていただき、「なんだ、学校の教員の中にもそういうことを行ってきた者がいるんだ」と、そういう団体があるんだということを伝えようと思って、そもそも私たちはこのREX−NETを立ち上げたのです。実際、組織率を見ますと、全海研よりも劣るかもしれません。REXプログラムで今まで300名近くが海外に行っていますが、REX−NETに参加しているのは3分の1ぐらい、約100名しかいないのが現状です。ただ、REXプログラムでは毎年派遣していますので、新しく水が入れ変わってくるであろうことを期待しながら、これからも組織をさらに充実していこうと思っています。

根道委員】
   私が全海研のことを申し上げたのは、だんだん全海研に入るメリット、つまり国際教育に携わること自体が評価されておらず、参加する人が少なくなってきているんじゃないかなということを一番恐れている。そして、やはり埋没した者は埋没したで仕方がないが、そうして全海研から離れている先生が、むしろ海外に行ったことをなるべくあらわさないようにして生活しているという姿自体に着目をすべきではないかなと思っております。


(4) 今後の日程について
 事務局より、今後の日程を確認した。

(5) 閉会

(了)


(初等中等教育局国際教育課)

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