3.人権感覚の育成を目指す取組

 [自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるために必要な人権感覚は、児童生徒に繰り返し言葉で説明するだけで身に付くものではない。このような人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが肝要である。児童生徒一人一人が、自らが一人の人間として大切にされているという実感を持つことができる時に、自己や他者を尊重しようとする感覚や意志が芽生え、育つことが容易になるからである。
 人権教育に関わる知的理解を推進するためには、学校の教育課程を体系的に整備することが必要である。他方、人権感覚の育成には、そうしたカリキュラムの整備と共に、いわゆる「隠れたカリキュラム」(「隠れたカリキュラム」とは、「教育する側が意図する、しないに関わらず、学校生活を営むなかで、児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄」を指す。学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは、それらの場の在り方であり、雰囲気といったものである。)が重要である。

【参考】 「隠れたカリキュラム」の例

  • 「いじめ」を許さない態度を身に付けるためには、「いじめはよくない」という知的理解だけでは不十分である。実際に、「いじめ」を許さない雰囲気が浸透する学校・学級で生活することを通じて、児童生徒ははじめて「いじめ」を許さない人権感覚を身に付けることができるのである。だからこそ、教職員一体となっての組織づくり、場の雰囲気づくりが重要である。

 このように、自分と他の人の大切さが認められるような環境をつくることが、まず学校・学級の中で取り組まれなければならない。また、それだけではなく、家庭、地域、国、等のあらゆる場においてもそのような環境をつくることが必要であることを、児童生徒が気付くことができるように指導することも重要である。
 さらに、[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるということが、態度や行動にまで現れるようにすることが必要である。すなわち、他の人と共によりよく生きようとする態度や集団生活における規範等を尊重し義務や責任を果たす態度、具体的な人権問題に直面してそれを解決しようとする実践的な行動力などを、児童生徒が身に付けることができるようにすることが大切である。具体的には、各学校において、教育活動全体を通じて、例えば次のような力や技能などを総合的にバランスよく培うことが求められる。

  1. 他の人の立場に立ってその人に必要なことやその人の考えや気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力
  2. 考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような、伝え合い、分かり合うためのコミュニケーションの能力やそのための技能
  3. 自分の要求を一方的に主張するのではなく建設的な手法により他の人との人間関係を調整する能力及び自他の要求を共に満たせる解決方法を見いだしてそれを実現させる能力やそのための技能

 これらの力や技能を着実に培い、児童生徒の人権感覚を健全に育成していくためには、「学習活動づくり」や「人間関係づくり」と「環境づくり」とが一体となった、学校全体としての取組が望まれるところである。

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