学校教育における指導の改善・充実のためには、第1節に示した基本的考え方を踏まえつつ、以下のような視点に留意することが必要かつ有効である。
まず、教職員が人権尊重の理念について十分に認識し、児童生徒が自らの大切さが認められていることを実感できるような環境づくりに努める。教職員は、児童生徒に直接接し、指導することでその心身の成長発達を促進し支援するという役割を担っている。したがって、児童生徒一人一人の大切さを強く自覚し、一人の人間として接するという態度をもって指導するという教職員の姿勢そのものが、人権教育の重要な部分であると言える。だからこそ、教職員は、自らの言動が児童生徒の人権を侵害することになないよう常に意識をしておかなければならないのである。
また、教職員同士の間においても互いを尊重する態度を大切にする。例えば、指導上の課題について互いによく話し合うことができるような環境づくりに努める。
このように教職員が人権尊重の理念を十分に認識し人権教育を推進することができるようにするため、学校や教育委員会等において効果的な研修を実施する。
学校教育においては[生きる力]をはぐくむ教育活動を進めている。[生きる力]については、平成8年の中央教育審議会答申において、「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」、「たくましく生きるため の健康や体力」が重要な資質や能力として挙げられている。
人権教育は、この[生きる力]をはぐくむ学校教育において、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じ、教育活動全体を通じて推進されるものである。(注2)
また、日常の学校生活も含めて人権が尊重される学級・学校とするように努める。例えば、児童生徒の意見をきちんと受け止めて聞く、明るく丁寧な言葉で声かけを行うことなどは当たり前のことであるが、教職員は改めて児童生徒一人一人の大切さを強く自覚し、一人の人間として接しなければならない。一方、いじめや暴力をはじめ他の人を傷つけるような問題が起きたときには、これらの行為を看過することなく学校全体として適切かつ毅然とした指導を行い、いわば正義が貫かれるような学級・学校とするように努める。
なお、このような学級・学校にするために、教職員だけでなく児童生徒自身も自らの大切さや他の人の大切さが認められるような環境づくりに主体的に取り組むことが重要であることはもちろんのことである。
校長のリーダーシップの下、教職員が一体となって人権教育に取り組む体制を整え、人権教育の目標の設定、指導計画の作成や教材の選定・開発などの取組を組織的・継続的に行う。
各学校においては、こうした人権教育の取組について、学校自らが点検・評価を行い、その点検・評価の結果を基に学校が主体的にその取組の不断の見直しを行うとともに、保護者や地域の人々に積極的に情報提供するよう努める。その際、学校評議員制度を活用する、保護者等の意見を聞く機会を設けるなどの工夫も考えられる。
児童生徒は、家庭・学校・地域の中で日々を過ごしている。したがって、共に児童生徒を育てていくという視点に立ち、例えば、保護者や地域の人々に授業等を参観してもらう機会を積極的に設けるなど、「開かれた学校づくり」を進め、家庭・地域との連携を推進することによって、人権教育の効果を高めるよう努力する。
なお、連携に当たっては、家庭や地域の大人たちが人権尊重の理念について十分に認識していることが大切である。児童生徒とともに大人自身にも、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]が求められる。このため、例えば、児童生徒による取組が身近な大人の啓発にも資するような工夫を行う、学校の取組を保護者等に積極的に公表する、あるいは児童生徒と保護者が一緒になって活動に取り組むなどの工夫も効果的である。
また、人権教育を効果的に推進するため、各学校段階ごとの取組だけでなく、保・幼・小・中・高等学校などの間の一層の連携に努める。例えば、児童生徒の発達段階に配慮したカリキュラムを共同で研究する、校種を越えて授業研究を行うなどの取組を通じて、系統的・継続的な人権教育の実践に努める。
児童生徒の自主性を尊重し、指導が一方的なものにならないよう留意することにより、課題意識をもって自ら考え主体的に判断する力や実践的な行動力を育成する。例えば、児童生徒それぞれが異なる意見をもっていることに気付くように工夫する、学級活動・ホームルーム活動や児童会活動・生徒会活動などにおいて自分たちでルールをつくる経験を積み重ねるなど、指導方法を工夫し、多面的・多角的に考える力や合理的なものの見方・考え方を育てる。
また、豊かな人間性・社会性をはぐくむため、多様な体験的な活動を取り入れるなどの指導方法の工夫を行う。例えば、様々な人々との交流活動や擬似体験活動などにより、人間関係を築く能力やコミュニケーションの技能、他の人の立場に立って考えられるような想像力を培うなど、学校の実態等に応じて、創意工夫を凝らして取り組む。なお、体験的な活動などの取組を系統的に展開する、事前指導・事後指導を工夫することなどにより、その取組が単発的なものに終わることなく、人権教育における意義を明確にし、その成果を効果的に生かしていくことが肝要である。
さらに、児童生徒一人一人が活躍できるように配慮し、達成感を味わわ せ、自立心を養うような工夫に努める。
学校において人権教育に取り組むに際しては、児童生徒が心身ともに成長過程にあることを十分に留意した上で、それぞれの発達段階や児童生徒の実態に即した教育内容・方法とする。
教育活動と政治運動・社会運動とを明確に区別し、学校は公教育を担うものとして主体性をもって人権教育に取り組み、特定の主義主張に偏ることなく教育の中立性を確保する。
学習教材を選定・開発するに当たっては、学習教材の活用により児童生徒が自ら考えることができるようにするなどの教育効果を高めるため、身近な事柄を取り上げたり、児童生徒の興味・関心等を生かすなどの創意工夫を行う。なお、このことは、身近ではない課題を取り上げないということではなく、そのような課題を取り上げることによって逆に身近な課題についての認識が深まり、人権問題と自らとのつながりが見えてくることも考えられる。生命の大切さに気付くことができる教材、様々な人権問題に気付くことができる教材、それぞれの人権問題を深く考えるための教材、自分自身を深く見つめることを意図した教材、技能を学ぶ教材など学習の目的に応じて多様に選定・開発する。
また、学習教材の選定・開発に際しては、児童生徒の発達段階を十分考慮するとともに、その内容を公正な観点から吟味する。さらに、例えば身近な事柄を取り上げる場合など教材の内容によっては、プライバシーの保護等にも配慮する。
※ 「 」内は幼稚園教育要領及び学習指導要領の抜粋
(以下は例示であり、前述のとおり人権教育は学校の教育活動全体を通じて推進されるものである。)
初等中等教育局児童生徒課
-- 登録:平成21年以前 --