戻る
教育関係職員の研修における衛星通信の活用の推進について
教育関係職員の研修における衛星通信の活用の推進について

はじめに

  今日、情報化の進展は著しいものであり、特に、衛星通信や光ファイバ−等による情報通信ネットワークを通じて、不特定多数の者が、双方向に文字・音声・画像等の情報を融合して交換しあうことが可能となってきている。このような高度情報通信社会は今後さらに進展していくものと予想されている。 
  この中で衛星通信は、広域性、同報性、即応性、耐災害性などの特性を有しており、また、多くの地点を結ぶ場合にはより効率的であるとされている。このため、既に多くの企業や行政機関などが、研修、会議、防災などの目的のため、衛星通信を活用し、文字・音声・画像等の情報を提供している。 

  また、教育分野における衛星通信の活用も積極的に行われており、大学等における活用としては、各大学間に衛星通信ネットワークを整備し、同時・双方向の画像等を通して相互授業、合同授業等を行う「衛星通信大学間ネットワーク構築事業(スペース・コラボレーション・システム事業)」が実施されるとともに、放送大学では、平成10年1月より、CSデジタル放送による全国放送を開始した。 
  生涯学習の分野においても、大学における質の高い公開講座等のプログラムを衛星通信を利用して公民館等に提供する「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」が実施されている。また、国立教育会館は、コンピュ−タ基礎研修等ニーズの高い研修プログラムを年間数回、地方公共団体に提供し、衛星通信を活用した研修支援の実践的研究を行っている。 

  衛星通信はこのような遠隔教育において大きな可能性を有しているが、教育分野、その中でも初等中等教育及び社会教育の分野における衛星通信の活用は、まだ緒についたばかりである。 
  このため、本協力者会議においては、衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークの在り方を検討してきた。教育分野においては衛星通信は様々な活用が考えられるところであるが、現在、いじめ問題・登校拒否への対応や個に応じた指導など学校等が抱える多くの課題に関わって、教育関係職員の資質向上が喫緊の課題となっていることに鑑み、本協力者会議においては、衛星通信の活用を教育関係職員の研修に限定して検討を進め、具体的な提言をまとめた。 

  なお、平成10年度の補正予算においては、本協力者会議のそれまでの検討をもとに、国と都道府県・政令指定都市の教育センター等を衛星通信により結ぶという教育情報通信ネットワークシステムの整備が認められることとなった。このため、本協力者会議では、教育情報通信ネットワークシステムの具体的な活用方策も視野に入れながら提言をまとめたものである。 
I 衛星通信を活用した教育関係職員の研修に関する基本的考え方

 1 教育関係職員に対する研修の重要性と研修実施上の課題
  現在の様々な課題に適切に対応し、子どもたちに「生きる力」を育むとともに、国民に対し生涯にわたる多様な学習機会を提供していくことが期待されており、教育関係職員の資質向上を図ることが必要である。
このため、各都道府県・指定都市教育委員会等が研修の充実を図っているが、講師の確保や日程の調整など、実施上の課題も少なくない。                              

  変化の時代にあって、教員や社会教育主事等これからの教育関係職員には、子どもたちに「生きる力」を育むとともに、国民に対し生涯にわたる多様な学習機会を提供していくことが期待されている。個性尊重の原則、個に応じた指導方法の工夫改善の観点から、また、いじめや不登校、さらには青少年の非行問題が深刻な状況となっており、こうした課題に適切に対応するためにも、教育関係職員の資質向上を図ることが必要である。 

  教育関係職員の資質向上は、日頃の実践や自己研鑽を基本としながら、養成・採用・研修の各段階を通じて図られているところである。研修については、任命権者である都道府県・政令指定都市教育委員会等により、教育関係職員が生涯にわたって研修の機会を確保することができるよう、その体系的な整備を図りつつ計画的に実施されている。 
  また、国は、都道府県等の行う研修を援助するとともに、リーダーとなる教育関係職員を対象とした研修を、また、学校教育の分野では、全教員を対象とした教育課程の基準改善の趣旨に関する研修を実施している。 

  このように、都道府県・指定都市教育委員会が中心となり、研修の充実を図っているところであるが、都道府県・指定都市教育委員会を対象にアンケートを行ったところ、次のように講師の確保、日程の調整等運営上の問題、研修ニーズの把握、プログラムの立案等プログラム内容、研修の精選や体系化といった点が実施する上での課題として挙げられた。 

 【都道府県・政令指定都市に対するアンケート調査結果(複数回答可)】

  問)研修を実施するに当たっての課題にはどのようなものがあるか。
回 答 項 目 教員研修関係 社会教育関係
講師の確保 42県市 (71.2%) 36県市 (61.0%)
日程の調整 39県市 (66.1%) 15県市 (25.4%)
研修ニーズの把握 36県市 (61.0%) 27県市 (45.8%)
研修の精選 29県市 (49.2%)   8県市 (13.6%)
研修の体系化 29県市 (49.2%) 34県市 (57.6%)
研修プログラムの立案 26県市 (44.1%) 37県市 (62.7%)
会場の確保 19県市 (32.2%) 10県市 (16.9%)
研修実施体制の充実(研修担当の人材養成) 19県市 (32.2%) 22県市 (37.3%)
そ の 他   2県市 ( 3.4%)   2県市 ( 3.4%)

  こうした課題を踏まえ、各都道府県・政令指定都市教育委員会において、研修を一層充実していくためには、次に述べるように、衛星通信の活用を進めることが有益である。 
2 教育関係職員の研修への衛星通信の活用
  衛星通信は、全国どこでも受信や送信ができ、教育関係職員の研修に活用することは、国や各都道府県等における研修の充実や体系的整備を図る上で効果的である。
  また、衛星通信を活用して研修を実施すれば、全国でより多くの教育関係職員が研修に参加でき、さらに都道府県等から情報を発信したりいくつかの都道府県等で合同で修を行うこともできる。
(1)衛星通信活用の効果
  衛星通信は、 
  i) へき地や離島も含めて、全国どこでも同じ条件で受信・送信が可能。 
  ii) どこでも同じ内容を、対面と同程度の同時性、双方向性で通信可能。 
  iii) 設備工事が比較的容易であり、多くの地点を結ぶと、通信費が割安となり運用コストが下がるなど、効率的。 
    といった特性をもっている。 

  また、衛星通信については、社会の各方面において、その活用の取り組みが進んでおり、教育分野においても、高等教育機関(例えば、スペース・コラボレーション・システム(SCS))や、企業内研修での取り組み等がなされてきているところである。 
  さらに、学校教育や社会教育の分野においても、国立教育会館が、平成7年度から衛星通信を活用した研修事業について実践的研究を進めているところである。 

  こうした衛星通信の特性や各方面での取り組み状況等を踏まえ、衛星通信を活用して教育関係職員の研修を行うことは、各都道府県等で行っている研修の改善充実に役立つとともに、研修の体系化にも資するものである。 

  特に、上記の特性を考えると、衛星通信を研修に活用することにより、次のような効果が期待できる。 
i)  全国的に同一内容を同時に提供することができることから、各都道府県等で研修を行うに当たっての課題として挙げられている魅力ある優れた講師の確保やプログラム開発等を支援することができる。 

ii)  全国どこでも送・受信が可能であることから、地方にいながら全国規模での情報交換・意見交換が可能となり、地理的・時間的制約等から遠隔地の研修に参加するのが困難な者が参加できるようになる。 

iii)  特色ある取り組みを行っている学校等の実践事例を映像により伝達するなど、地方から研修に役立つ情報のみならず研修自体の発信が可能となり、学校等の創意工夫を支援することができる。 

iv)  国・都道府県間、都道府県相互の間の研修内容を調整することも可能となり、各都道府県等においては、研修の体系化を一層進めるとともに、地域の実状に応じた研修や体験的・実習的研修への重点化を図ることができる。 

v)  必要な教育に関する情報を、効率的に全国に提供することができる。 

 【都道府県・政令指定都市に対するアンケート調査結果(複数回答可)】

  問)衛星通信ネットワークが研修に活用された場合、どのような効果が期待できるか。
回 答 項 目 教員研修関係 社会教育関係
1県では開催の難しい内容の研修を提供できる 48県市 (81.4%) 41県市 (69.4%)
実践事例等を映像により見ながら研修することができる 39県市 (66.1%) 33県市 (55.9%)
より多くの教員に正確に情報を伝えることができる 35県市 (59.3%) 33県市 (55.9%)
参加教員(社会教育関係職員)の時間の節約となる 30県市 (50.8%) 28県市 (47.5%)
旅費の節約となる 30県市 (50.8%) 31県市 (52.5%)
国・県市間等の重複を避け、研修のスリム化を図ることができる 22県市 (37.3%) 22県市 (37.3%)
県市独自の特色ある研修に力を注ぐことができる 13県市 (22.0%)   4県市 ( 6.8%)
(2)衛星通信による研修の活用場面

  衛星通信を活用した研修としては次のようなものが考えられる 

○都道府県等における、研究指定校や特色ある学校の取り組みなど、実践事例を衛星通信で発信することにより、全国で多くの人が優れた事例に触れることができるようにする。また、各都道府県等で行われている特色ある優れた研修を全国に発信する。   このことにより、地域において活躍している講師や研修プログラムを全国に紹介することも可能である。 

○現在、国等が参加者を一カ所に集めて実施している全国規模の研修を衛星通信で配信することにより、各都道府県においても多くの人が受講できるようにする。 
  この際、プログラムの全部を配信する場合と、その一部を配信して各都道府県等が活用しやすくする場合が考えられる。 

○いじめ問題や青少年の非行事件、あるいはO157などの健康安全管理など緊急性の高い研修、さらには学習指導要領の改訂の際の趣旨や内容の周知徹底など重要性の高い研修を衛星通信により全国対象に一斉に実施する。 

○大学や大学院と連携協力し、教育委員会だけでは困難な専門性の高い研修を実施する。また、これに加え、都道府県等の発信する実践事例を大学等が受信することにより、大学等における研究と学校等の実践との密接な連携を促進することが考えられる。
  この際、大学や大学院については、スペース・コラボレーション・システム事業(SCS)等により、すでに衛星通信を活用した教育が行われていることから、スペース・コラボレーション・システム事業(SCS)等との連携も考慮する。 

○また、上記と関連し、放送大学をはじめとする高等教育機関と連携しながら、上位の教員免許の取得、司書教諭資格の取得、社会教育主事の資格取得など、資格に関する講習を衛星通信を活用して行うことも検討する。 
  特に現在、教育課程審議会や理科教育及び産業教育審議会で高等学校の新たな教科として設定することが提案されている新教科「情報」、「福祉」に関する講習など、各都道府県に共通する緊要な課題に対応する研修を実施する。 

○また、全国一斉にという形だけではなく、衛星通信の同時性・双方向性を活かして、共通の課題を抱える複数の都道府県等が合同の研修・研究を行うといった活用も進める。 

○さらに、教育関係団体の全国規模の研究大会、研修大会等においても活用することが可能である。 

 【都道府県・政令指定都市に対するアンケート調査結果(複数回答可)】

  問)衛星通信ネットワークが整備された場合、どのような内容の研修が提供されることを希望するか。
回 答 項 目 教員研修関係 社会教育関係
全国一律に情報を伝える必要のある研修(教育課程の講習会等) 54県市 (91.5%) 42県市 (71.2%)
緊急性、重要性の高い研修(いじめ、O157等) 54県市 (91.5%) 46県市 (78.0%)
ある分野を代表するような著名な講師による研修 53県市 (89.8%) 32県市 (54.2%)
先進事例や公開授業を取り入れた研修 34県市 (57.6%) 37県市 (62.7%)
資格取得に結びつく研修(免許法認定講習、司書教諭講習等) 20県市 (33.9%) 28県市 (47.5%)
大学や大学院と連携しての研修 10県市 (16.9%) 18県市 (30.5%)
いくつかの県市の合同による研修 10県市 (16.9%) 16県市 (27.1%)
そ の 他 1県市( 1.7%) −県市( − %)


3 衛星通信を活用した研修における配慮事項
  衛星通信による研修の十分な活用を図っていくためには、受講者の関心を高めるような工夫や、各都道府県で活用しやすいような配慮が必要である。
(1)研修実施上の工夫

  衛星通信を研修に活用することには、上述のようにメリットがある一方、対面で実施するのに比べると緊張感を持続するのが難しい、研修時間以外での交流の機会を確保しづらいといったデメリットも存在するため、衛星通信に適した研修かどうかを吟味するとともに、研修方法を十分工夫することが必要である。 

  例えば、体験的な研修、参加者同士の交流が重要な研修等については、衛星通信の活用に当たって、研修内容の組合せなどの工夫が必要と考えられるし、各都道府県の地域の実状を前提とする研修については、それぞれの地域できめ細かく実施することが望まれる。 

  また、国立教育会館で実施した実践的研究事業の結果等によると、長時間画像を見るのは疲れるとの意見が多いようである。このため、受講者のニーズも踏まえ、研修内容を十分検討することがまずは大切であるが、その上で、受講者の興味関心を喚起するような研修方法の工夫が重要である。 

  このような研修方法の工夫としては、講義にかたよらずに、実践事例の映像、音声等マルチメディアの特長を十分生かしたものとしたり、演習やシンポジウム等も取り入れていくこと等が有効である。また、衛星通信による研修と各都道府県等が自ら行う研修をうまく組み合わせるといったことも考えられる。 

  また、双方向性を活用して、質問ができ、その回答が得られるようにするなど、受講者が参加意識を持てるような配慮も必要である。ただし、この場合、双方向性の確保には衛星通信だけでなく、インターネット等も活用することも必要である。なお、インターネットを活用すれば、事前に資料等を送付し、受講者の関心を高めておくということも可能である。 

  衛星通信を活用した研修におけるこうした工夫については、国立教育会館の実践的研究において検討してきたが、引き続き研究する必要がある。また、研修に対するニーズや、教育課程の改訂等に伴う新たな教科についての研修方法、研修の評価等についても調査研究を進めることが望まれる。さらに、各都道府県等における会場で、講義の補助や演習のコーディネートを行う人材の確保や研修も重要である。
  なお、研修が衛星通信を活用して全国に配信されることとなるので、講師や提供された資料等に関わる著作権上の扱いについて疑義の生ずることのない対処が必要である。  

 (2)都道府県等における活用

  衛星通信による研修が、多くの都道府県で活用されるためには、各都道府県において活用しやすいような配慮が求められる。特に、都道府県における研修の年間計画は、前年度の比較的早い時期に決定されるため、より早い段階でプログラムの提示が行われることが非常に重要である。また、他の研修との関係等で、その時間に視聴できなかった研修を、再視聴できる機会を確保することも必要である。 

  また、都道府県等は受信側であるだけではなく、送信側としても、関係情報のみならず研修自体を発信したり、都道府県間で合同研修を実施したりするといったことを積極的に行っていくことが望まれる。 
【都道府県・政令指定都市に対するアンケート調査結果】

問)衛星通信を活用した研修について、参加・活用する場合に必要な条件整備、実施する場合の留意すべき点(自由記述、複数回答のあったもの)
主 な 回 答 教員研修関係 社会教育関係
研修プログラム、配信予定の早期提示 40県市 (67.8%) 21県市 (35.6%)
双方向性の確保 31県市 (52.5%) 23県市 (39.0%)
受信設備・機器の充実 22県市 (37.3%) 15県市 (25.4%)
担当職員の養成・研修 12県市 (20.3%) 20県市 (33.9%)
研修時間、日程の弾力化   6県市 (10.2%)   −県市 ( − %)
研修プログラムの選択制導入、内容の体系化   6県市 (10.2%)   −県市 ( − %)
ビデオ録画による再利用を可能にする   6県市 (10.2%)   3県市 ( 5.1%)
部分的受信が可能かどうか   5県市 ( 8.5%)   −県市 ( − %)
各県で研修と関連性があること。 県の担当者が企画に参画すること   3県市 ( 5.1 %)   −県市 ( − %)
経常経費の補助(通信費用等)   3県市 ( 5.1%)   1県市 ( 1.7%)
再放送があること   2県市 ( 3.4%)   −県市 ( − %)
そ の 他   3県市 ( 5.1%)   3県市 ( 5.1%)



II 衛星通信を活用した研修の推進方策

 1 教育情報通信ネットワークの構築
  教育関係職員の研修について、その機会や内容の充実を図るため、国、都道府県・政令指定都市間に衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークを構築する必要がある。
  これにより、都道府県・政令指定都市においては、衛星通信を活用して動画像等によって提供される研修プログラムを、教育関係職員の研修のため主体的に活用することできる。
(1)ネットワークの基本的在り方

  以上述べてきたように、現在の喫緊の課題である教育関係職員の研修を充実するため、国、都道府県・政令指定都市間に、衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークを構築することが必要である。 
  都道府県等においては、このネットワークにより画像や資料の形で提供される研修プログラムを主体的に活用するとともに、教育情報を全国に向けて発信することも可能となる。 

  この教育情報通信ネットワークを構築するため、国、都道府県・政令指定都市に衛星通信の送受信設備を整備し、専用の回線を確保する。このネットワークは主に教育関係職員の研修に活用することを踏まえ、国においては現在の国立教育会館を中核として、また、都道府県等においては教育センター又は生涯学習センター等に衛星通信の送受信設備を整備する。 

  また、これに加えて、衛星通信を活用した研修により多くの教育関係職員が参加できるよう、国立教育会館や都道府県教育センター等から提供される研修プログラムを受信し、研修が受けられる施設(地域研修センター)を都道府県内に複数設置することが期待される。 

  このネットワークでは、I 2(2)で述べたように、教育関係職員の資質向上に多くの経験を有し、実績のある教員養成系大学・学部などと連携し、より高度・専門的な研修や資格取得につながる研修を提供できるようにすることが求められる。 

 (2)同時・双方向性の確保

  このような遠隔研修では、参加者の学習意欲を継続させるため、対面と同程度のリアルタイム性を確保することが重要である。このため、研修の講師から提供される情報は動画像伝送を基本とし、その画像レベルも日頃目にしているテレビ並の画像を確保すべきである。 

  ただし、遠隔研修では、その効果を上げるためには、講師の映像のみでなく、様々な資料の提示も不可欠である。この資料の提示のためにはインターネット等を活用することが考えられる。また、受講者側からの質問などのフィードバック、さらには受講者同士の意見交換や共同作業はインターネットやテレビ会議システムなどを活用することも想定される。したがって、衛星通信に加え、インターネットなどの地上回線も組み合わせたシステムとすることが適切である。 

  遠隔研修の基本は同時・双方向性を生かしたリアルタイムの研修であるが、このネットワークで提供された研修プログラムを、都道府県の教育センターや地域研修センターが、いつでも検索して利用できるビデオ・オン・デマンド(VOD)の機能を有するシステムとして構築することが必要である。 
2 衛星通信を活用した研修を推進するための体制の整備
  衛星通信を活用した教育関係職員の研修の実施を促進するため、教育情報通信ネットワークの管理、コーディネイト、研修プログラムの作成、他の機関との調整、各種の研究開発等を行うための中核的機関を整備する必要がある。
また、各都道府県・政令指定都市の教育センター等においても、教育情報通信ネットワークで提供される研修プログラムを積極的に活用できる体制を整備する必要がある
(1)中核的機関の必要性
  教育関係職員、その中でも多くを占める教職員の研修については、第一義的には任命権者である都道府県・政令指定都市の教育委員会の責務とされている。したがって、衛星通信を活用した研修においても都道府県・政令指定都市の積極的な取組が重要であるが、送信機能を有する都道府県・政令指定都市の教育センター等に無線従事者を置くことは、都道府県等に負担となりかねない。 

  VSAT局(小型地球局)とそれらを集中的に制御するHUB局(中心局)からなる衛星通信システムであるVSATシステムでは、HUB局に無線従事者を置いてVSAT局の集中制御を行うため、VSAT局には無線従事者を置く必要がないものである。また、このたび、郵政省における制度改正により、VSATシステムによっても、高品質映像伝送が可能となった。したがって、遠隔研修を実施するための衛星通信によるネットワークにおいては、現在の国立教育会館をネットワークのHUB局として整備し、衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークの管理を行うことが適切である。 

 (2)中核的機関の役割

  教育情報通信ネットワークの中核的機関として、国立教育会館が果たす役割は次のものが考えられる。 

○HUB局としてネットワーク全体の管理を行う。 

○自らが提供する研修プログラムについて、企画、作成、送信を行う。 

○文部省、大学、国立オリンピック記念青少年総合センター、国立科学博物館など研修プログラムを提供する多くの機関や、都道府県・政令指定都市の教育センターと連携・協力し、衛星通信回線の年間利用計画を策定する。 

○遠隔研修に関する情報提供やデータベースの作成・提供等により都道府県・政令指定都市の教育センター等を支援する。 

○都道府県・政令指定都市の教育センター等の研修担当者に対し教育情報通信ネットワークの活用に関する研修を行う。 

○教授方法の研究や研修ニーズの把握など、衛星通信を活用した研修の在り方について調査研究、資料収集等を行う。 

○衛星通信を活用して行われた研修について評価を行う。 

 (3)都道府県・政令指定都市の教育センター等の役割

  都道府県・政令指定都市の教育委員会においては、衛星通信によるネットワークで提供される研修プログラムを、主体的に選択して、研修の全体計画の中に効果的に取り入れていくことが必要である。 

  また、都道府県・政令指定都市の教育センター等で研修プログラムを受信する場合、単に映像を流して、受講者に見せるのではなく、教育センター等においても、受信している研修プログラムの内容に係わっている研修主事等を、サイト・コーディネータとして配置し、受講者に対し助言を行える体制を整えることが望まれる。 

  加えて、都道府県・政令指定都市の教育センター等においては、教育情報の全国に向けての発信や、衛星通信を活用した他の都道府県等との連携について企画することが重要である。 
(4)財政上の措置
  教育情報通信ネットワークは、都道府県、政令指定都市が行う教育関係職員の研修の充実に資するものであり、また、都道府県・政令指定都市からの情報発信を可能にするものである。都道府県・政令指定都市においてVSAT局に必要なアンテナ設備や送受信設備を整備するためには、そのための経費も必要となるが、その意義を十分に理解して、すべての都道府県・政令指定都市においてVSAT局が設置されることを強く要望する。 
  また、国においては、その設置が円滑に行われるよう、財政的な支援策を講ずることも必要である。 
III 今後の展開
  平成10年度から整備が行われる教育情報通信ネットワークにおいては、当面、情報教育に関する研修や平成11年度にも予定される学習指導要領の趣旨に関する説明会、さらには都道府県や市町村教育委員会の担当者に対し、諸施策や予算等を説明するための説明会など、これまで文部省や国立教育会館が行っている研修等のうち、衛星通信による提供が適切と考えられるものから実施する。
  今後は、教育関係職員の研修における活用のほか、市町村、さらには学校や社会教育施設も視野に入れたネットワークの検討が課題となる。

 1 当面の推進方法

  平成10年6月17日に成立した補正予算においては、衛星通信を利用した総合的な教育情報通信ネットワークシステムの整備が盛り込まれている。これは、文部省、国立教育会館、国立社会教育施設と、都道府県・政令指定都市及び学校・社会教育施設を衛星通信により結び、教育情報通信ネットワークシステムの整備を図るものである。本協力者会議において検討を行ってきた、遠隔研修等の実施を目的とした国立教育会館と都道府県教育センター等との衛星通信によるネットワークについても、これにより整備を行うことができることとなった。 
  このネットワークにおいて提供される研修プログラム等については、今後関係者によって具体的に検討が進められることになるが、当面は、現在、文部省や国立教育会館において既に行われている研修等の中で、研修の方法や対象とする受講者の範囲などから、衛星通信による提供が適切と考えられるものから進めていくべきと考える。 
  特に、学校におけるコンピュ−タの整備やインターネット接続の急速な進展に伴い、管理職の的確な対応や教職員の指導力の向上の必要性が課題となっている。このため、早急にこのネットワークを利用して、全国的な研修の展開を図るなど情報教育に関する研修を拡充することも重要である。情報化は学校のみならず、図書館や公民館、博物館等の社会教育分野にも及んでおり、社会教育を進める関係職員に対してもこのネットワークを利用し、情報化に対応した研修を行っていくことが必要である。 
  また、平成11年度にも予定される全教職員を対象とした学習指導要領の改訂の際の趣旨に関する説明会についても、このネットワークができる限り活用されてよい。 
  さらに、文部省においては、諸施策や予算等を説明するため、都道府県や市町村の教育長や担当者の参加を得て、様々な会議を開催しているが、これについても、このネットワークの活用を早急に検討すべきである。 
  今後、教育関係職員の資質向上を図るため、どのような内容の研修をどのような方法で衛星通信を活用して実施していくかを、文部省や中核的機関である国立教育会館においては十分に研究していく必要がある。 

 2 将来的課題

  今回は、教職員をはじめとする教育関係職員の資質向上が喫緊の課題となっている現状に鑑み、教育関係職員の研修に活用することに限定して、国、都道府県・政令指定都市教育委員会間の教育情報通信ネットワークの構築について提言を行った。 
  しかしながら、衛星通信を活用した情報通信は教育分野においても様々な可能性を有しているものであり、今後は、都道府県の教育センター等だけでなく、市町村、さらには学校や図書館及び公民館等の社会教育施設も視野に入れたネットワークも検討されるべきであろう。この点については、前述のように、文部省は平成10年度より、学校や社会教育施設に衛星通信の受信機能を整備し、衛星通信ネットワークシステムの研究開発を行うこととしている。 
  当面は、本研究協力者会議で提言を行った教育関係職員の研修面において効果的な活用が図られるべきと考えるが、このような研究の成果を踏まえながら、衛星通信ネットワークを、幅広く、積極的に活用することを期待する。 
教育関係職員の研修における衛星通信の活用の推進について
−「衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークの在り方に
関する調査研究協力者会議」提言のポイント− 

1.国や都道府県等における教育関係職員に対する研修の充実を図るため、衛星通信を活用した研修を実施する。

○各都道府県等で行われている特色ある研修を全国に発信したり、複数の都道府県が合同で研修を実施する。 
○参加者を一カ所に集めて実施している全国規模の研修を衛星通信で各都道府県等に配信し、より多くの教育関係職員が参加できるようにする。 
○いじめ問題やO157などのように緊急性の高い研修や、学習指導要領の趣旨徹底などの重要性の高い研修を全国一斉に実施する。 
○大学等と連携し、教員免許の上位免許の取得、司書教諭資格の取得、社会教育主事の資格取得など、資格に関する講習を衛星通信を活用して実施する。 

2.衛星通信を活用した研修を実施するため、国、都道府県・政令指定都市間に衛星通信による教育情報通信ネットワークを構築する。

○国においては中核となる現在の国立教育会館に、都道府県等においては教育センターまたは生涯学習センターに衛星通信の送受信設備を整備して、全国各地に動画像等により研修プログラムを提供する。 
○研修における資料提示や意見交換の機会の確保などのため、衛星通信に加え、インターネットなどの地上回線も組み合わせたシステムとする。 
○このシステムは、中核施設である国立教育会館がシステム全体を集中的に制御し、都道府県の教育センター等には無線従事者を置く必要のないVSATシステムとする。 
○国立教育会館や都道府県の教育センター等においては、衛星通信を活用した研修の実施を促進できるよう、体制の整備を行う。 
○当面はこれまで文部省や国立教育会館が行っている研修のうち、衛星通信による提供が適すると考えられるものから実施するが、国や国立教育会館などにおいては都道府県等におけるニーズを踏まえながら、提供する研修内容や方法を検討していく必要がある。