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はじめに
   
   平成3年4月、第14期中央教育審議会は「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革 について」答申し、この中で今後の高等学校教育の在り方として、1これまでの量的拡大から、個々の生徒の特性にきめ細かく対応する質的拡大へ、2形式的な平等から多様な生徒の個性に応じて多様な選択ができる実質的平等へ、3偏差値偏重から個性尊重・人間性重視へ、という視点を示した上で、「現在の普通科と職業学科とを統合するような新たな学科を設置することが適当と考えられる」旨の提言がなされた。 
   この答申を受けて、「高等学校教育の改革の推進に関する会議」が設置され、さらに専門的な検討が行われ、平成5年2月、第4次報告において「総合学科の設置」について提言がなされた。これを受け、文部省は平成5年3月、高等学校設置基準の一部を改正し、高等学校の学科として、既存の普通教育を主とする学科及び専門教育を主とする学科に加えて、新たに普通教育及び専門教育を選択履修を旨として総合的に施す学科を定め、これを総合学科とした。 
  このように、総合学科は中央教育審議会答申に始まり、「高等学校教育の改革の推進に関する会議」の報告に引き継がれた高等学校教育改革の流れの中で生まれた新しい学科であり、その過程で示された高等学校教育改革の理念を体現するパイオニア的役割を果たすことを期待されて創設されたものである。 
   
   平成6年度、7つの学校に初めて総合学科が設置されて以来、総合学科設置校数は着実に増加し、平成11年度には124校に総合学科が置かれている。来年度には新たに21校が加わり、全ての都道府県に総合学科が置かれることとなる。国における整備目標としては、総合学科を中学生が実質的に選択することが可能となるよう、通学範囲の身近なところに設置されることが必要であるとの観点から、平成10年4月に改訂された文部省の「教育改革プログラム」では、「通学範囲に少なくとも1校が整備されることを目標とする。」とされ、現在では、平成11年1月に閣議決定された「生活空間倍増戦略プラン」、平成11年9月に改訂された「教育改革プログラム」において「当面、総合学科を設置する公立高等学校が高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校整備されることを目標とする」ことが整備目標とされている。 
   
   「総合学科の今後の在り方に関する調査研究協力者会議」は、創設後5年目に入った総合学科について、初めて総合的な実態調査を行うとともに、その結果を踏まえ、総合学科の整備の在り方及び設置促進のための方策等、総合学科の今後の在り方について調査研究を行うことを目的として、平成10年12月に設置されたものである。 
   総合学科に関する実態調査は、平成10年度までに設置された全ての総合学科設置校を対象とする学校調査と総合学科在校生、その保護者、卒業生、総合学科の教員、中学生及びその保護者、中学校教員、総合学科卒業生を受け入れている大学、企業等、専門学校の関係者合計約1万人に対する意識調査を平成11年3月から5月にかけて実施した。調査の実施や調査結果の分析は本協力者会議にワーキング・グループを設けて精力的な検討を行った。 
   本協力者会議においては、9回の会議及び6回のワーキング・グループを開催し、調査結果の分析に加え、総合学科設置校の関係者、教育委員会関係者、研究者等からのヒアリングを実施するともに、平成11年3月には2つの総合学科設置校を視察した。 
   
   これからの社会は、国際化、情報化の進展、科学技術の発展、少子高齢化など様々な面で変化が急速に進むことが予想される。このような変化の激しい、先行き不透明な時代において、その時々の状況を踏まえつつ、自ら主体的に考え、判断し、これからの時代を切り拓いていくチャレンジ精神旺盛な人材の育成がこれまで以上に必要とされている。このためには、生徒一人一人が、自らの個性を存分に発揮しながら、豊かな創造性や問題解決能力を身に付けていくことが重要であり、本協力者会議は、総合学科が「個性」と「創造」が重視される時代の要請に応える人材の育成という課題に適切に対応できる学科であると考える。 
   
   本報告書は実態調査の結果等を踏まえ、総合学科の現状を分析するとともに、これまでの総合学科の実績を評価し、今後の整備についての基本的な考え方や総合学科の充実方策についての提言を取りまとめたものである。 
   各都道府県等の設置者におかれては、本報告を今後の設置促進へ向けての取組の参考にしていただくとともに、教員やPTAなどの教育関係者、また中学校や大学、専門学校、企業等の関係者におかれても、総合学科の設置促進や充実・改善の取組、あるいは理解の促進に役立てていただければ幸いである。 
   
I  総合学科の現状
   
1  総合学科の設置状況
(1) 総合学科設置校数及び生徒数 
   総合学科は平成6年度より開設されており、初年度は7校に設置された。その後、設置校は毎年増加しており、平成11年度現在、全国46都道府県、124校に設置されている。このうち、国立は2校、公立は103校、私立は13校となっている。平成12年度においては、平成11年12月時点での文部省調べによると、新たに21校に設置が予定されており、全都道府県、145校(国立2校、公立126校、私立17校)に設置されることとなる。 

   総合学科に在籍する生徒数は、平成11年5月現在、58,789人であり、全高等学校生徒数の1.4%を占めている。 

(2) 総合学科の規模及び学科改編状況等
    総合学科の規模を学級数でみると、1学年1学級規模の学校から10学級といった大規模な学校まで様々であるが、全体としては、4〜6学級規模の学校が約60%を占めている。 
   総合学科設置に当たっての学科改編状況は、既設の普通科からの改編が29校、専門学科からの改編が33校、普通科と専門学科とを併設していた学校等の改編が55校、新設が7校となっている。このうち、複数校を統合し、総合学科に改編した学校が7校ある。 
   総合学科設置校の学科構成は、100校が総合学科単独校で、24校が他学科との併設校である。 
   また、これを課程別でみると、120校が全日制課程、3校が定時制課程、1校が通信制課程である。 
    
2  教育課程の実施状況(平成10年度)
(1) 教育課程の状況
  1  単位制の採用状況 
   総合学科の教育課程については、平成5年の通知(平成5年3月22日付け初等中等教育局長通知「総合学科について」)で、「単位制により教育課程を編成することを原則とすること」とされているが、総合学科設置校のうち、119校が単位制を採っており、5校が学年制となっている。 
   単位制により教育課程が編成されている総合学科では、70%以上の学校で複数年次の生徒が同時に受講する科目が開設されている。 
   また、単位制の採用により、総合学科では、約25%の学校で学期ごとの単位認定及び卒業認定が行われている。 
   
  2  系列の設置数 
   総合学科の教育課程は、高等学校の必修科目、総合学科の原則履修科目、総合選択科目及び自由選択科目から構成されることになっており、そのうち、総合選択科目の開設に当たっては、「生徒にある程度のまとまりのある学習を可能にするとともに、生徒自身の進路の方向に沿った科目履修ができるようにするため、体系性や専門性等において相互に関連する総合選択科目によって構成される科目群(総合選択科目群=系列)としてまとめて開設すること」とされている。 
   各学校の系列数をみると、2系列設置している学校から9系列設置している学校まであるが、5〜8系列設置している学校が多く、全体の80%を超えている。 
   
  3  選択科目の数及び開設基準 
   各学校が総合選択科目及び自由選択科目として開設している選択科目数をみると、  
101〜120科目の学校がもっとも多く(40.0%)、次いで81〜100科目(24.4%)、61〜80科目(15.6%)、121科目以上(13.3%)となっており、約80%の学校で81科目以上の選択科目が開設されている。また、選択科目以外に必修科目及び総合学科の原則履修科目が併せて20科目程度開設されている。   
   一方、平成6年度の全国の公立高等学校の教育課程の編成状況を見ると、普通科については41〜45科目、専門学科については26〜30科目を開設(必修科目を含む)している学校が多い。 
   これらに比べると、総合学科は概ね3〜4倍程度の科目を開設している。  
   各学校が選択科目開設の基準としている履修希望者数の最低人数については、1人の学校がもっとも多く(35.5%)、次いで10人以上(33.6%)、5〜9人(25.2%)、2〜4人(5.6%)となっており、約70%の学校が10人未満の履修希望者数で選択科目を開設している。 
   
  4  社会人講師 
   総合学科では1校を除いてすべての学校で社会人講師が活用されており、平均すると1校当たり16人程度が配置されている。また、社会人講師のうち、64.7%が「産業社会と人間」の指導に当たっている。 
   
(2) 「産業社会と人間」の指導
  1  教育課程上の位置付け等 
   総合学科では、「産業社会における自己の在り方生き方について考えさせ、社会に積極的に寄与し、生涯にわたって学習に取り組む意欲や態度を養うとともに、生徒の主体的な各教科・科目の選択に資する」ことなどをねらいとして、「産業社会と人間」を「すべての生徒に原則として入学年次に履修させるものとし、標準単位数は2〜4単位とする」とされている。 

   このような教育課程上の位置付けに基づいて、「産業社会と人間」は、入学年次における原則履修科目としてすべての総合学科で実施されているが、その単位数をみると、平成10年度現在、公立の総合学科設置校96校中、93校が2単位で、3校が3単位で実施している。 
   また、「産業社会と人間」の履修時期については、入学年次に「通年」で実施している学校(86.9%)が多くなっているが、2学期制を採っていて、入学年次の「前期」に集中して実施している学校(13.1%)も少なくない。 

  2  学習活動等 
   この科目では「就業体験等の体験的な学習や調査・研究」など多様な学習活動が展開されることが期待されている。 
   このような期待に応えて、「産業社会と人間」の授業では、「社会人講師による講話」(98.1%)、「職場見学・体験」(94.4%)、「上級学校の見学」(72.0%)、「職業適性検査等」(72.0%)、「ライフプラン発表会」(70.1%)、「調査・研究」(46.7%)といった学習活動が多くの学校で行われている。 
   
  3  指導体制 
   この科目の指導は、教員免許状の教科を問わず、「複数の教員によるティーム・ティーチングによるものとする」とされているが、「ホームルーム担任と他の教員によるティーム・ティーチング」によって指導している学校(45.8%)がもっとも多く、次いで「ホームルーム担任」が指導している学校(16.8%)、「「産業社会と人間」を担当する教員を別に決めて」指導している学校(13.1%)などの順になっている。 
   
(3) 高校改革にかかわる諸制度の活用状況等
  1  学校間連携 
   総合学科においては、可能な限り多様な教科・科目の選択履修が可能となるよう、他の高等学校と連携する方策を積極的に活用することが期待されているが、学校間連携を実施している学校は、6校(5.6%)と少ない。 
   
  2  技能審査の成果、学校外における学修の単位認定 
   総合学科においては、地域の実情や生徒の進路希望等に応じ、技能審査の成果の単位認定あるいは学校外における学修の単位認定等の活用も期待されているが、このような制度による単位認定を行っている学校は31校(29.0%)にとどまっている。
その内訳は、「技能審査の成果の単位認定」を行っている学校が30校、「ボランティア活動、就業体験等」の単位認定を行っている学校が9校となっている。 
   
  3  公開講座 
   高等学校では「開かれた学校づくり」を進める一環として、教師の専門性や施設・設備を活用した「公開講座」の開講など、その教育力を積極的に地域社会に還元することが期待されている。 
   総合学科で公開講座を実施している学校は33校(30.8%)である。  
   
    
3  入学者選抜の実施状況及び卒業生の進路状況
(1) 総合学科の入学者選抜における学区及び受験倍率(公立)
  総合学科の入学者選抜について、総合学科に対する出願を学区内に限り認めている県は3県だけであり、他の県では、県内一円から出願、応募することができることとしている。 
  平成10年度、総合学科における一般入試の受験倍率は1.34倍であり、普通科の倍率1.18倍及び専門学科の倍率1.33倍よりも高くなっている。 
   
(2) 推薦入学の実施等、入学者選抜の工夫・改善(公立)
   総合学科の入学者選抜においては、「多様な能力・適性等を持つ生徒を入学させるため、文化・スポーツ活動、ボランティア活動等の実績を重視した推薦入学の導入をはじめとする多様な選抜方法を工夫すること」が期待されている。 
   入学者選抜において、約90%の総合学科で推薦入学が実施され、平成10年度における推薦入学による入学者の割合は31.3%であり、普通科の割合11.1%及び専門学科の割合30.4%よりも高くなっている。 
   入学者選抜における面接の実施については、推薦入学では45県が、一般入試では31県が実施している。面接に当たっての工夫として、志願の理由及び自分をアピールする事柄を記入した「自己申告書」を提出させている例、自分自身で得意な分野−学習の成果、文化・スポーツ活動、ボランティア活動の経験等−について発表したり、披露したりするパーソナル・プレゼンテーションを行っている例などがある。 
   
(3) 卒業生の進路状況
   平成11年3月に総合学科を卒業した生徒の進路状況は、大学等への進学30.5%、専修学校等への進学30.4%、就職26.9%となっている。これを、普通科の大学等への進学52.6%、専修学校等への進学27.7%、就職10.5%、職業学科の大学等への進学15.7%、専修学校等への進学23.6%、就職50.7%と比較すると、総合学科卒業生の大学等への進学率及び就職率は、それぞれ普通科と職業学科のほぼ中間の数値となっている。 
    
   
II  総合学科の評価と課題
   
1  総合的な意識調査の結果
   平成11年3月から5月にかけて実施した意識調査(総合学科の在校生1,582人(平成11年度の3年生)、その保護者1,582人、卒業生1,575人(平成10年度の卒業生)、総合学科の教員1,107人、中学校の生徒1,457人(平成11年度の3年生)、その保護者1,460人、中学校の教員1,041人、及び総合学科卒業生を受け入れている企業等の人事担当者157人、大学の教員50人、専門学校の教員168人合計約1万人を対象)から、次のような結果が得られた(詳細は、「資料1」参照)。 

(積極的な評価)
  1  在校生、卒業生、校生保護者の多くが総合学科に満足している
  2  総合学科の教育の特色が評価されている
  3  生徒は「やりたい勉強」をするために総合学科を選んでいる
  4  生徒は積極的な科目選択を行っている
  5  総合学科への進学を希望する中学生及びその保護者は多い
  6  卒業生の進路先からは、目的意識の明確さや学習・仕事への意欲の高さ、表現能力等が評価されている
(課題となる点)
  7  進路について考える時間がもっと必要である
  8  地域との連携や高校改革にかかわる諸制度の一層の活用が必要である
  9  学校運営にかかわる諸問題への対応が求められている
  10  総合学科に対する中学生及びその保護者の認知度を高める必要がある   

   
  それぞれの事項についての具体的な調査結果は、以下のとおりである。 
   
(積極的な評価) 
(1) 在校生、卒業生、在校生保護者の多くが総合学科に満足している

   総合学科の在校生の70.0%、卒業生の80.8%が、総合学科で学んでいること、学んだことに「満足」「ほぼ満足」している。この結果は、平成10年2月に高校生一般について学校生活への満足度を聞いた調査結果(「満足」「まあ満足」が55%)より満足する生徒の割合が高くなっている。また、総合学科の在校生の保護者も、わが子が総合学科で学んでいることに、80.4%が「満足」「ほぼ満足」している。 
   総合学科のどのような点に満足しているかについては、在校生、卒業生ともに以下の諸点を挙げている者が多い。 
  1「自分の興味・関心や進路希望等に応じて教科・科目を選択できる」こと。 
  2「幅広い分野にわたって多様な選択科目が開設されている」こと。 
  3「進学希望にも就職希望にも対応した教科・科目を選択できる」こと。 

(2) 総合学科の教育の特色が評価されている
   総合学科の特色について、「そう思う」「まあそう思う」と評価している事項として、在校生、卒業生、在校生保護者、教員ともに、次の4点を多く挙げている。 
  1「生徒が自分の興味・関心や進路希望に応じて、自由に科目を選択し学習できる」こと(それぞれ、82.8%、83.3%、88.2%、81.2%)。  
  2「生徒が自分の進路について学び、じっくりと考えることができる」こと(68.6%、69.3%、75.0%、69.7%)。 
  3「進学にも就職にも柔軟に対応できる」こと(63.7%、62.5%、67.0%、57.8%)。
  4「生徒がいきいきと学習や諸活動に取り組んでいる」こと(53.7%、61.4%、68.4%、62.6%)。 
   
(3) 生徒は「やりたい勉強」をするために総合学科を選んでいる  
   総合学科を選んだ理由について、在校生の多くが「自分で自由に学ぶ科目を選択できるから」(66.3%)、「自分のやりたい勉強ができると思うから」(64.4%)といった、総合学科の設置のねらいや教育の特色に係る理由を挙げている。これに比して、「自分の学力にあっているから」(35.3%)、「進学に有利だから」(5.8%)、「就職に有利だから」(5.4%)を挙げている者の割合は低い。 
   
(4) 生徒は積極的な科目選択を行っている  
   どのような基準で自分の選択する科目を決めているかについて、在校生の多くが、自分の興味・関心のある科目」(76.6%)、「将来の生き方や希望する職業などに役立ちそうな科目」(64.3%)を挙げ、「単位取得が容易そうな科目」(11.9%)、「友人が選択している科目」(8.9%)を挙げている者の割合は低い。生徒が「安易な選択」に流れることなく、自分の興味・関心や進路希望を踏まえて、積極的、意欲的に科目を選択し、前向きに学習に取り組んでいることが伺える。
   
(5) 総合学科への進学を希望する中学生及びその保護者は多い
   中学生及びその保護者に、総合学科の教育の特色を説明した上で、総合学科への進学希望の有無を尋ねた結果、中学生の65.7%、その保護者の59.3%が「そう思う」「まあそう思う」と回答し、進学を希望する者が多い。 
   
(6) 卒業生の進路先からは、目的意識の明確さや学習・仕事への意欲の高さ、表現能力等が評価されている
   総合学科卒業生を受け入れている大学、専門学校の関係者は、総合学科卒業生の特徴として、「生き方や進路への目的意識が高い」(32.5%、44.6%)、「学習に取り組む意欲が高い」(20・0%、37.0%)、「表現能力が優れている」(27.5%、35.9%)を挙げる者が多い。また、総合学科卒業生を受け入れている企業の関係者は、「表現能力が優れている」(23.4%)、「挨拶等の基本的マナーを身に付けている」(23.4%)、「仕事に取り組む意欲が高い」(21.9%)を挙げる者が多い。 
   
(課題となる点) 
(7) 進路について考える時間がもっと必要である
   総合学科で不満足な点として、在校生、卒業生ともに、「進路についてじっくりと考える時間がもっと必要である」(29.4%、35.2%)ことを挙げる者が一番多い。
   
(8) 地域との連携や高校改革にかかわる諸制度の一層の活用が必要である
   総合学科の現状について、教員は、以下の諸点について、「そう思わない」「あまりそう思わない」としている者が多い。 
  1「地域と連携して、その教育力を活用した教育が行われている」こと(57.9%)  
  2「単位制、学校間連携、学校外における学修の単位認定など、高等学校教育に関する諸制度が積極的に活用されている」こと(55.3%)  
  3「入学者選抜においては、生徒一人一人の個性を多面的に評価するための工夫・改善が行われている」こと(50.5%) 
   
(9) 学校運営にかかわる諸問題への対応が求められている  
   総合学科における学校運営にかかわる問題として、教員が多く指摘していることは、以下の諸点である。 
  1教育課程編成・実施について、「時間割編成が難しい」(85.0%)、「教員の配置が不十分である」(82.5%)こと 
  2生徒指導について、「授業の出欠管理が難しい」(61.2%)こと  
  3進路指導について、「総合学科卒業生選抜や推薦入学を実施する大学が少ない」(60.2%)、「単位取得の容易そうな科目を選択する傾向がある」(55.8%)こと  
  4教員の業務について、「担当科目数が多い」(67.1%)、「校務分掌等、教科指導以外の仕事が多い」(63.2%)こと  
(10) 総合学科に対する中学生及びその保護者の認知度を高める必要がある
   総合学科設置校と同一または隣接市町村にある中学校で、総合学科について「よく知っている」「少しは知っている」としている中学生及びその保護者は、それぞれ38.1%、36.8%である。また、総合学科設置校と同一または隣接市町村外にある遠方の中学校では、総合学科について「よく知っている」「少しは知っている」としている中学生及びその保護者は、それぞれ15.5%、20.7%に過ぎない。また、中学校の教員は、総合学科が近くにある中学校教員は「よく知っている」「少しは知っている」としている者が77.4%であるが、遠方の中学校教員は57.6%にとどまっている。 
   また、総合学科について「あまり知らない」「全く知らない」とする中学生及びその保護者は、総合学科が近くにあるか、遠方であるかの別にかかわらず、あまり知らない理由として、「総合学科のパンフレット等を配られたことがない」「先生から説明を受けていない」を挙げる者が多い。また同様に教員については、総合学科についてあまり知らない理由として「総合学科に関する情報に接する機会が少ない」を挙げる者が多い。
   
   
総合学科は何色?
在校生調査で、総合学科のイメージを色で表すと何色かと聞いたところ、「白」「青」「虹色」の順で多かった(白21%、青17%、虹色10%、緑10%、黄6%)。
この結果から、総合学科のイメージは「白いキャンバス」や「青空」に「虹色の夢」を描くことができる学校と解釈することもできるのではなかろうか。   
    
2  総合学科の評価
(1) 創設時のねらいに照らした総合学科の評価
総合学科は、自己の進路への自覚を深めさせ、生徒の個性を生かした主体的な学習を通して、学ぶことの楽しさや成就感を体験させるなどの創設のねらいが概ね達成されており、高校改革の「パイオニア」として期待された役割を果たしている。   

  1  総合学科創設のねらい 
   総合学科は、一人一人の生徒の個性を尊重した教育を推進する観点から、普通科における就職希望者や専門学科における進学希望者への対応が不十分になっていることなどの問題を踏まえ、これまでの普通科と専門学科の2学科の区分を見直し、生徒の学習の選択幅を拡大することができるよう、普通教育及び専門教育を選択履修を旨として総合的に施す学科として、創設された。 

   総合学科の創設に当たって、総合学科における教育の特色として、以下の点を掲げていた。 

    ア  「生きる力」の育成 
                       
                       
   今後は、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力などの「生きる力」を育成していくことが重要である。これは、いわゆる生涯学習社会において特に重要な課題である。 
   総合学科においては、自分の興味・関心や進路希望に応じて、自ら科目を選択し自己責任で学習することを通して、自ら考え、主体的に学習し、将来にわたって学び続ける能力や態度を身に付けることができる。同時に、これらの自律的な学習を通じて自立心や自己責任の考え方についても育てることができる。 
   また、総合学科においては「産業社会と人間」、「課題研究」及び情報に関する基礎科目を原則履修科目としているが、「産業社会と人間」及び「課題研究」においては、体験学習や調査・研究などを通じて、自ら課題を見つけ、主体的に学習し、課題を解決する能力を身に付けることができる。また、情報に関する基礎科目では、情報化社会に対応し、情報の主体的な活用能力を育成することができる。 
   このような学習を通して、総合学科では、「生きる力」の育成という観点からも大きな成果をあげていると評価できる。 
   今次の学習指導要領の改訂においては、「生きる力」を身に付けさせることをねらいとして、小・中・高等学校共通して「総合的な学習の時間」が教育課程に位置付けられた。  
   この時間の学習においては、教員は、生徒とともに学び考えながら、学び方、とりわけ課題設定から課題解決に至る学習の過程を、教科の枠を越えたティーム・ティーチングによって指導・援助することが求められる。 

   総合学科においては、既に「産業社会と人間」や「課題研究」の実践を通じて、「総合的な学習の時間」の指導で求められるティーム・ティーチングによる指導、課題学習における生徒の主体的な学習の指導・援助等、その指導の在り方などついて十分な経験を積んでいる。今後、各学校が「総合的な学習の時間」に取り組むに当たっては、総合学科での先進的な実践事例が大いに参考になるものと考える。  

    イ  学校から社会及び上級学校への円滑な移行 
            
   近年、若者の職業に対する心構えやコミュニケーション能力など社会人となるための基礎的な能力の低下や、大学生の目的意識や課題に取り組む意欲の低下等が指摘されている中で、教育と職業との接続を図り、生徒の学校から社会あるいは上級学校への円滑な移行を実現することがこれまで以上に重要な課題となっている。 

   この点について、総合学科では、生徒が、自己選択、自己責任を原則とした主体的な学習や「産業社会と人間」での進路学習などを通じて、自律的な学習態度、社会人になるための心構え、社会生活や職業生活に必要な基本的な能力や態度、望ましい職業観・勤労観などを身に付けることを重視しており、教育と職業との接続、生徒の学校から社会及び上級学校への円滑な移行についても大きな成果をあげていると評価することができる。総合学科卒業生は、大学等への進学、専門学校への進学、就職と、いずれの進路に進んだ者も、総合学科で学んでよかったかについて、約90%が「そう思う」「まあそう思う」としている調査結果は、その証左であろう。 

    ウ  中高一貫教育との組合せ 
                        
   平成11年4月から制度化された中高一貫教育は、これまでの中学校・高等学校に加えて、生徒や保護者が6年間の一貫教育も選択できるようにすることにより、中等教育の一層の多様化を促進し、生徒一人一人の個性をより重視した教育の実現を目指すものであり、今後、生徒や保護者にとって実質的に選択することが可能となるよう、その整備を進めていくことが重要な課題となっている。  
   中高一貫教育校は平成11年度において4校設置されたが、このうち2校(岡山市立岡山後楽館中学校・高等学校(併設型)、三重県立飯南地域(連携型))が高等学校段階を総合学科としている。本協力者会議においては、この2校からヒアリングを行い、中高一貫教育における総合学科の位置付けについて検討した結果、以下のような観点から、総合学科は中高一貫教育との組合せにより双方の特長を生かし、総合学科のねらいをより一層達成することが期待できるものと考える。 
   中学校から高等学校へと進むにつれて、生徒は、自己の個性の自覚を深めることから、高等学校においては、その多様な興味・関心あるいは進路希望に応じて、それぞれの分野をより深く学ぶ仕組みを整えることが大切であり、中高一貫教育校では、高等学校段階を総合学科にすることより、このような高等学校教育の課題に適切に対応することができる。  
   また、総合学科の現状の問題点として、将来の進路が必ずしも十分には定まらない時期に、また、十分なガイダンスの時間が確保されないままに、生徒が科目選択を迫られることが指摘されている。このような問題に対応する上でも、総合学科と中高一貫教育との組合せが有効である。すなわち、中高一貫教育では、6年間の一貫した教育課程に基づいて、ゆとりのある教育を行うことができることから、例えば、「産業社会と人間」のような学習を中学校段階から実施することなどにより、計画的かつ一貫した進路指導を継続的に行うことが可能になること、また、生徒は中学校段階から高等学校段階に備えた選択教科の履修をしたり、上級生の学習を身近で見聞きしたりすることにより、高等学校段階での科目選択を円滑に行うことができるようになることが期待されるからである。 
   
   
3  総合学科の更なる充実に向けての課題
   総合学科の課題としては、自分自身で自らの学びを設計し、主体的かつ適切な科目選択が行われるようにすることや人間関係をより豊かなものにし、学習や生活を自己管理できるようにすることが必要である   

(1) 主体的かつ適切な履修科目の選択
   「科目選択の観点」に関する在校生や卒業生に対する調査の結果からみれば、生徒の学習の選択は、「安易な選択」ではなく、自己の興味・関心や進路希望を踏まえた積極的な選択になっているといえる。在校生や卒業生の自由記述で、「科目選択にもっと時間をかけて欲しい」といった声が少なからず聞かれるのも、一面では、翌年の科目選択を1学期末あるいは前期末といった時期にしなければならないという実態の反映であるが、他面では、生徒の真剣な選択態度の現われであるとも受け止めることができる。 
   これに対して、教員に対する調査結果を見ると、生徒の学習の選択が「単位取得が容易そうな科目を選択する傾向」にあると指摘する教員が少なくない。確かに、総合学科では、生徒の科目選択は、その進路希望にかかわらず多岐にわたっているという実態があり、そのことは、本協力者会議における協議あるいはヒアリングや学校調査などからも明らかになっている。しかしながら、多感な青年期にあって、自らの人間としての在り方生き方を考えながら、様々な事柄に知的好奇心を抱く高校生が受験等に必要な学習だけに縛られず、多様な科目を選択することは極めて健全であるともいえる。  

   従って、大切なことは、「産業社会と人間」等の学習内容・方法を一層改善することに加えて、科目選択のガイダンスの一層の充実、あるいは、選択に悩む生徒や「安易な選択」に流れそうな生徒に対して個別の指導やカウンセリングを充実することである。  

   今後、総合学科の設置が促進され、ますます多様な生徒が入学するようになればなるほど、主体的かつ適切な科目選択が行われるよう、生徒一人一人に対応したきめ細かな科目選択に関するガイダンスやカウンセリングの充実を図ることが必要である。 
   
(2) 豊かな人間関係の形成及び学習・生活の自己管理
   生徒指導上の問題を少なからず抱えていた学校が、総合学科への改編を契機として、生徒がそれ以前と比較して意欲的に学習に取り組むようになり、生徒指導上の問題や中途退学者の数が減少するといったケースが多く見受けられる。 
   しかし、平成10年度において、総合学科の3.1%という中退率は高等学校全体の中退率2.6%を上回っている。その背景として、生徒の自主性を重んじ、自己管理、自己責任で学習を選択し、進めるという総合学科の学習の在り方になじめない生徒の存在や、選択科目の授業が多く、生徒のホームルームへの帰属意識が薄く、生徒同士の人間関係が希薄になりがちであるといった問題が指摘されている。その一方で、既述のように総合学科では、学習意欲が向上し、学校生活が活性化していることに加えて、中退の一因と指摘される人間関係についても、複数年次の生徒の同一授業によって異年齢間のコミュニケーション能力が向上することが指摘されている。また、選択科目が多いことは総合学科の教育課程の特色そのものであるが、このこと自体に問題があるとは言えない。 
   そこで、生徒の学習や諸活動における自主性や自発性を重視し、自立した個の確立を目指すという総合学科の教育の特色を損なうことなく、また、そのような総合学科の教育の下で芽生え、育ってきた生徒の優れた資質を大切にしながら、中退問題等の生徒指導上の課題の克服を図ることが重要である。そのためには、ホームルームを単位とした活動を意図的、計画的に進め、豊かな人間関係を形成すること、また、生徒一人一人の悩みや不安にきめ細かく対応する相談活動・体制を充実することなどが大切である。このような指導・援助に加えて、生徒一人一人の学習や生活における自律性を高める指導、援助も必要である。 
   
(3) その他

   総合学科が抱えている課題は以上にとどまらない。IIの1で述べたように、教育課程の編成・実施にかかわっては、学校間連携の推進など高校改革にかかわる諸制度の一層の活用、「公開講座」の実施や就業体験など地域とのパートナーシップの確立、入学者選抜の工夫改善などが、総合学科に対する認知度にかかわっては、中学生及びその保護者や、企業等生徒の進路先の認知度を高めることなどがある。上記(1)、(2)及びこのような課題の解決の方策については、IVで取り上げることとしたい。また、教員に対する調査で指摘された教員の業務にかかわる問題については、教員の「担当科目数が多いこと」や「校務分掌等、教科以外の仕事が多いこと」などが教員の熱意や使命感などと相俟ってこれまでの総合学科の成果を支えてきたことは確かであり、その解決方策についてもIVで取り上げるが、科目の指導内容・方法の開発や学校運営の問題は、優れて実践上の課題でもあり、各学校、教員の実践の交流を図ることも必要である。 

III  総合学科の整備についての基本的考え方
   
1  総合学科の果たすべき役割
   総合学科は、生徒の多様な興味・関心、進路希望等に対応して幅広い選択が可能な教育課程の編成や進路選択能力、職業観・勤労観の育成といった面で大きな成果を挙げており、今後とも高校改革の中核的な役割を担っていくことが必要である。
   また、これに加え、今後は、中高一貫教育との組合せにより中等教育全体の改革についても推進する役割を担っていく必要がある。

   総合学科の現状については、創設のねらいが概ね生かされており、高校改革の「パイオニア」として期待された役割を果たしていると評価できる。 
   平成11年12月、中央教育審議会から、「初等中等教育と高等教育の接続の改善について」答申が提出されたが、この中で高等学校教育段階の目標として次のことが掲げられた。 
   「生徒が自らの在り方生き方を深く考え、将来の進路を選択し、決定する能力や態度を身に付けるとともに、各自の興味・関心、能力・適性、進路等に応じて選択した分野の学習を深める。特に将来にわたって明確な目的意識を持って学習や職業生活を継続していくため、基礎・基本として国家・社会の形成者としての正義感、責任感、公徳心や自律の精神を養い、勤労を重んずる態度や主体的に学習する態度を身に付けることが重要である。」 
   このように、今後の高等学校教育は、生徒が進学するか、就職するかを問わず、将来の職業選択を視野に入れて進路を選択し、決定する能力や職業観・勤労観を育成する教育を充実するとともに、学習の選択幅を拡大し、生徒の興味・関心、進路希望等に応じ、それぞれの分野について、より深く学んだり、より幅広く学んだりすることができるよう、選択重視のカリキュラムに転換を図ることが必要である。 
   これらの点について、総合学科は大きな成果をあげており、今後、普通科や専門学科においても、できる限り総合学科における幅広い選択が可能な教育課程の編成や進路指導の実践についての経験を取り入れていくことが大切である。そのような意味で、今後とも総合学科は、高校改革の中核的な役割を果たしていくことが必要である。
   同答申においても、「生徒の個性を生かした主体的な学習を通して、学ぶことの楽しさや成就感を体験させる学習を重視する総合学科の一層の設置促進が求められる」旨の提言がなされているところである。  
    

   また、平成11年4月から制度化された中高一貫教育は、これまでの中学校・高等学校に加えて、生徒や保護者が6年間の一貫教育も選択できるようにすることにより、中等教育の一層の多様化を促進し、生徒一人一人の個性をより重視した教育の実現を目指すものである。
   国は中高一貫教育校についても、総合学科と同様に「当面、高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校整備される」ことを目標として、設置促進を図っているところである。総合学科は中高一貫教育との組合せにより双方の特長を生かし、より大きな教育成果が期待できることから、総合学科は、高等学校改革だけではなく、中高一貫教育との組合せにより中等教育全体の改革についても推進する役割を担っていく必要がある。 

   
    
2  整備目標の早急な実現 
   現在の総合学科の整備状況をみると、「当面、総合学科を設置する公立高等学校が高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校整備される」という整備目標を達成しているのは5県、目標を満たす整備計画や整備方針を公表しているのが15都府県である。今後、各都道府県において、この目標が達成されるよう、概ね5年程度の期間を設定して、具体的な整備計画を定めることが望まれる。   

(1) 現在の整備状況

   総合学科が実質的に高校改革の中核的な役割を果たすためには、通学範囲に少なくとも1校は総合学科が設置されることが必要である。
   国における整備目標としては、平成10年4月に改訂された文部省の「教育改革プログラム」において「通学範囲に少なくとも1校が整備されることを目標とする。」とされ、現在では、「当面、総合学科を設置する公立高等学校が高等学校の通学範囲(全国で500程度)に少なくとも1校整備される」(教育改革プログラム(平成11年9月改訂)、生活空間倍増戦略プラン(平成11年1月29日閣議決定))ことを目標として掲げ、設置促進が図られているところである。 
   総合学科創設以来6年目となるが、この目標に照らして、現在の総合学科の整備状況を見ると、この目標を達成しているのは、ごく少数の県のみであり、大多数の都道府県においては目標は達成されていない。  

             各都道府県の総合学科設置促進へ向けての取組の状況は以下の通りである
(「資料2」参照)。 
1  5県では既に現行の整備目標を達成している。 
2  高等学校の再編計画等において、総合学科を通学範囲に1校以上設置する整備計画や整備方針を15都府県において公表している。 
3  通学範囲に1校以上という目標を満たすものではないが、総合学科の今後の整備計画や整備方針を14道県において公表している。 
4  13府県においては、公表された整備計画や方針が策定されていないが、現在、整備計画や方針について何らかの会議を設ける等して検討中である。  
    
(2) 整備が遅れている要因
   :ここで、各都道府県において、整備目標の達成が遅れている要因を分析すると、次のような点が考えられる。 
1  各都道府県において、高等学校の将来計画の中での総合学科の位置付けについて評価が十分定まっていないことから、先発校における実績を待っていたり、総合学科の整備が高校の再編計画全体の中で検討されているため、総合学科の整備計画又は方針の策定が遅れていること 
2  初期の段階に整備した総合学科に相当大きな財政措置を講じたため、総合学科の整備には大きな財政負担が伴うという財政当局の考え方が生まれ、財政面で総合学科の設置促進が難しくなっていること  
3  学校関係者にも、普通科を総合学科に改編すると大学等への進学に不利になるのではないか、また逆に、専門学科を総合学科に改編すると専門教育を十分行えないのではないかという懸念があり、総合学科への改編に躊躇する面があること  
    
(3) 整備目標の実現
   上述の整備が進まなかった要因については、既に目標が達成されている県の取組例などを参考にすると、次のように考えることができる。 
1  各都道府県における整備計画等の策定の遅れについては、すでに目標を達成している県では、入試改革やカリキュラム改革等を含めた高校教育の改革の中心に総合学科を位置付け、計画的な整備促進を図った例があり、このことは大いに参考にすべきである。総合学科の評価については、前述の通りであり、各都道府県においては、高校の将来計画の中で総合学科が高校改革に果たすべき役割について明確な展望を持ち、計画的な整備促進を図っていくことが必要である。  
2  財政負担の問題については、実際に総合学科の設置が進んでいる県の実例によると、複数校の統合・新設などの場合のように高い費用がかかることもあるが、既存の学校の教育資源を活用して総合学科への改編を図るような場合、相当に低い費用で総合学科の整備を行っている例もある。したがって、高校の統廃合計画や学校施設の整備計画の中に総合学科の整備を位置付けることなどにより、過大な財政負担を避けることが可能である。 
3  総合学科への改編に対する学校関係者の懸念は、総合学科は普通教科と専門教科にわたって幅広く科目を設置するため、いずれも十分な科目が設置できないのではないか、あるいは、生徒の選択に委ねると、これまでのように専門分野の学習を深められないのではないか、という点にある。しかし、総合学科では多様な系列を設ける中で、改編前と同様の普通科目や専門科目を設けることも十分可能であり、現に改編前に開設していた普通科目又は専門科目をほぼそのまま改編後も開設している学校も多い。また、特定の分野についての専門性を深めるという観点からは、十分な施設設備と系統的なカリキュラムを用意する専門学科での学習の方が優れている面もあるが、産業界においても、従来の産業分類を超えた複合的な産業が発展していることを踏まえると、異なる分野の専門教育を学ぶことにより広い視野や柔軟な考え方を身に付けたり、幅広い分野での専門教育の基礎・基本を学ぶことによって将来の自分の進路の様々な可能性を発見することができるという点では、総合学科における専門教育ならではの優れた特長があることも評価すべきである。もちろん、総合学科では、例えば特定の分野の資格取得などに対応した系列を設ける中で、専門学科と比べて遜色のない専門科目を設置し、生徒に対して十分なガイダンスを行うことにより、生徒の選択によりこれまでと同様に専門分野の学習を深めていくことも十分可能である。  
    
   以上のように、総合学科創設後6年間で既に目標を達成している県の状況を踏まえると、目標が達成されていない都道府県においても、その取組次第では、今後、概ね5年程度で整備を図ることは十分可能であると考える。
   また、高等学校段階を総合学科とする中高一貫教育校の整備の推進も併せて考えると、今後各都道府県において、この目標が達成されるよう、概ね5年程度の期間を設定して、具体的な整備計画を定めることが望まれる。このため、総合学科の整備計画が策定されていない道府県にあっては早急に整備計画を策定するとともに、既に策定済みの都府県においてもできる限りその実施を前倒しして整備を図ることが望まれる。  
    
    
3  今後の整備の進め方
          
(1) 総合学科の整備を促進するためには、学校間連携を積極的に取り入れるなど、<既存の学校の教育資源を有効に活用することが必要である。   

   厳しい財政的な制約の中で、総合学科の整備を促進するためには、実験実習施設や専門分野の教員など既存の学校の教育資源を有効に活用することが必要である。  

   限られた教育資源を有効に活用して、多様な選択科目を開設するためには、1つの学校で全ての学習分野をカバーしようとするのではなく、近隣の学校との間で教育課程の調整を行うなどして、学校間連携による単位認定を行ったり、併任発令をして一人の教員が複数校の授業を担当するなどの取組を積極的に進めることが必要である。
テレビ会議システム等を活用した遠隔授業の導入による学校間連携も有効である。また、社会人講師の積極的活用など地域の教育力を有効に活用したり、大学、専門学校での履修やボランティア体験、就業体験(インターンシップ)等の学校外での学修についての単位認定を積極的に行うなどの取組も必要である。  
   これらの取組を進めるため、教育委員会が積極的な支援及び学校間の調整等を行うことが必要である。 

(2) 高等学校の再編整備計画の中で総合学科の整備を位置付け、中高一貫教育校や単位制高校の整備と併せ、計画的な設置促進を図る必要がある。   

   総合学科への改編が図られる場合、改編前の学校の教員が学校を改革することについて強い意欲や熱意を持っていることが必要なことは言うまでもないが、単に学校の発意に任せるのみでは目標達成は困難である。既に目標を達成している県の取組事例を見ても、県全体の高等学校教育をいかに改革するか、その中で総合学科をどのように位置付けるかについて教育委員会が明確なビジョンを持ち、その上で、具体的な計画を策定することが必要である。 
   生徒数の減少に伴い、高等学校の再編整備計画の策定が進んでいる都道府県教育委員会が多いが、計画立案に当たっては、高等学校数の単なる削減ではなく、既存の学校の教育資源を有効に活用して総合学科への改編を進めたり、中高一貫教育校の整備に際し高等学校段階を総合学科としたり、多様な選択科目を開設する単位制高校の整備に際しそれを総合学科とするなど、高等学校の再編整備計画の中に総合学科の整備を積極的に位置付け、計画的な設置促進を図る必要がある。 
    
(3) 当面の整備目標を達成している都道府県においても、中学生の総合学科への高い進学希望に応え、多様な興味・関心や進路希望等を有する生徒の幅広い学習ニーズに対応できるよう、今後、通学範囲の中に複数の総合学科を整備していくなど、更なる整備を進めていく必要がある。   

   当面の整備目標として「通学範囲に少なくとも1校」を掲げているが、これは中学生が実質的に総合学科を選択できるようにするという観点からの、最低限の目標であり、高校改革の中核的な役割を果たすことが期待されている総合学科にあっては、この目標を超えて更に整備が進められていく必要がある。 
   また、総合学科の整備が進んでいる都道府県においても、改編前の高等学校の学科や教育内容の特色により、実際の総合学科での学習内容には偏りがあることが多く、学習分野の多様さという観点からみると十分ではない。 
   さらに、調査結果に現れているように、総合学科への進学を希望し、また、わが子を進学させたいとする中学生やその保護者は約6割と高い割合となっており、総合学科に対する期待は非常に大きい。 
   このため、当面の整備目標を達成している都道府県においても、中学生の総合学科への高い進学希望に応え、多様な興味・関心や進路希望等を有する生徒の幅広い学習ニーズに対応できるよう、今後、通学範囲の中に複数の総合学科を整備していくなど、更なる整備を進めていく必要がある。 
   そこで、通学範囲内の総合学科が備えるべき学習分野について考えると、将来の職業分野に対応した基礎的な学習を行うことができるよう、例えば次に挙げるような学習分野に応じて多様な学習系列が整備されることが期待される。 
    ・ビジネスとマネジメント(経営管理、営業等)
    ・情報(情報通信、コンピュータ等)
    ・ヒューマンサービス(看護、福祉、生活、保育等)
    ・サイエンスとテクノロジー(メカトロニクス、エレクトロニクス、デザイン、自然科学の研究・調査等)
    ・環境と資源(環境科学、生物生産、海洋資源等)
    ・芸術と文化(芸術、地域伝統文化等)
    ・国際理解とコミュニケーション(言語、国際関係等)
    ・スポーツと健康(スポーツ、健康、栄養等)

IV  総合学科の充実方策
   
1  多様で魅力ある科目開設の推進
(1) 社会人講師の積極的な活用等
  多様で魅力ある科目を開設するため、社会人講師の積極的な活用、地域の大学との連携等を進めることが必要である。   

   在校生や卒業生に対する調査結果から明らかなように、総合学科の最大の魅力は、生徒の多様な興味・関心、進路希望等に応じて、幅広い選択科目を開設していることであり、今後とも、多様で魅力ある科目開設を進めることが必要である。  
   このため、特定の優れた専門的知識・技能を持つ社会人講師の積極的な活用を図ることが重要である。
   調査結果を見ると社会人講師は「産業社会と人間」を中心に活用されているが、それ以外の科目の学習においても積極的な活用が図られる必要がある。
社会人講師の活用を進めるため、教育委員会に社会人講師の登録システムを設けることが考えられる。 
   また、地域の大学と協力し、大学の教官を講師として招いたり、大学における科目の履修を積極的に単位として認定するなどの連携を進めることも考えられる。 
   なお、多様な科目を開設すると、少人数授業の扱いをどうするかという問題も生ずるが、できる限り少人数でも科目を開設できるよう、施設面での工夫を行ったり、特色ある科目については学校開放講座として、地域住民と生徒が一緒に受講するなどの工夫も望まれる。 
   
(2) 学校間連携の推進 
  「学校間連携の曜日」を設定したり、一定期間集中的に学校間連携の講座を設けたり、テレビ会議システム等をした遠隔授業を導入するなど、様々な工夫を行って学校間連携を積極的に推進する必要が活用ある。
  

   生徒の選択学習の機会を拡大するため、学校間連携を推進することは重要な課題であり、総合学科においても創設当初より、学校間連携の積極的な活用が提言されていた。しかしながら、実際に取り組んでいる総合学科は多くない。この背景には、学校間での生徒の移動の手段や時間の確保が難しいこと、出席管理や評価が難しいことなどの問題や教員の「生徒は1つの学校で学ぶものだ」という固定観念があるものと思われる。 
   現在、専門高校との間で学校間連携を実施している岩手県立岩谷堂高校の例(「資料3−1」参照)を見ると、学校間連携を行う曜日と時限を決めて双方の生徒が行き来している。また、総合学科は含まれていないが、6校の高等学校で学校間連携に取り組んでいる和歌山県では、教育委員会の積極的な支援の下、夏期に10日間程度の学校間連携の集中講座を開設するなど様々な工夫を行っている。 
   さらに、三重県、奈良県、和歌山県が共同で実施している紀伊半島3県高等学校ネットワーク推進事業では、3県4校間でテレビ会議システムを活用し、紀伊半島の豊かな自然や歴史・文学などを総合的に学習する科目「吉野熊野学」の遠隔共同授業に取り組んでいる。 
   このように学校間連携を円滑に行うには、近隣の学校との間で教育課程の調整を行い、「学校間連携の曜日」を設定したり、一定期間集中的に学校間連携の講座を設けたり、テレビ会議システム等を活用した遠隔授業を導入するなど、様々な工夫を行う ことが必要である。そのため、教育委員会が生徒の移動手段の確保等を含めた積極的な支援を行ったり、学校間の調整を行うことが必要である。  
   
    
2  生徒一人一人に対応した進路学習やキャリア・カウンセリングの充実
(1) 「産業社会と人間」の指導及びガイダンスの機能の充実

  
   生徒が自己の進路への自覚に基づいて、適切に教科・科目を選択する能力・態度を養うため、「産業社会と人間」の指導の充実を図るとともに、シラバスの作成や科目説明などのガイダンスの充実と併せて、進路希望に応じて、どのような教科・科目を選択しなければならないかといった生徒一人一人の科目履修に関するガイダンスの充実を図ることが必要である。   
   生徒の「選択履修を旨とする」総合学科にあっては、生徒の自立した学習能力や態度を育成するため、将来の職業選択を視野に入れた自己の進路への自覚を深めさせ、主体的な各教科・科目の選択に資するよう「産業社会と人間」を入学年次の原則履修科目とするとともに、適切な進路の選択や教科・科目の選択のための指導援助としてガイダンスの機能の充実を図ることとしており、各学校で様々な取組がなされている。 
   「産業社会と人間」の学習では、社会人講師を積極的に活用したり、生徒に産業現場を体験させたり、調査研究活動を行わせるなど、体験的かつ主体的な学習となるよう指導上の工夫がなされている。しかし、これに対する意識調査での在校生、卒業生の評価をみると、就業体験や上級学校の見学、体験入学など体験的な学習が行われた場合には肯定的な評価がされ、座学中心の学習が行われた場合には否定的な評価がされている。
   また、意識調査で、進路について考える時間がもっと必要と感じている生徒も多いことから、「産業社会と人間」については、生徒が自己の進路への自覚を深めることができるよう、指導内容、方法、学習形態等について一層の改善充実が必要である。
これらの取組にあたっては、教員は学習のコーディネーターとしての役割を果たすことが期待される。 

   また、生徒が自己の進路への自覚に基づいて、何を学ぶべきか、何を学ばなければならないかを考え、適切に教科・科目を選択する能力・態度を養うことも「産業社会と人間」の学習の大切なねらいの一つである。
   この点について、各学校では、生徒が総合選択科目群(系列)の意味や種類をはじめとして、総合選択科目や自由選択科目の種類とその学習内容等、2、3年次における学習内容及び選択の在り方について理解することができるよう、また、生徒一人一人が教科・科目を適切に選択して自分なりの時間割を作成するよう、そのための学習を「産業社会と人間」の指導計画に組み込んで、ティーム・ティーチングのよさを生かしながら指導援助している。
   しかし、その学習内容及びこれに充てる時間数をみると、この指導の重要性に比して必ずしも十分ではない。特に、100科目前後もある科目の学習内容の理解を得させるための手立てや、進路希望に応じて、何を勉強すべきか、どのような教科・科目を選択しなければならないかといった科目履修に関する指導援助についてはその在り方の工夫とともに、一層の充実が求められる。  

   今後、総合学科においては、生徒が、各教科・科目の学習内容について十分理解し、自分の進路希望等に照らして適切な科目を選択することができるよう、シラバスの作成、十分な時間を確保した科目説明、各系列の学習の概要を理解するための授業体験、上級生の科目選択に学ぶ機会・場の設定などのガイダンスの充実と合わせて、進路希望に応じた科目選択を指導援助する生徒一人一人に対するガイダンスの充実を図る必要がある。そのため、各学校においては、「産業社会と人間」の単位数を増やしたり、あるいは「産業社会と人間」の学習とは別にガイダンスの時間を設けたりすることなどとともに、その指導体制を整備、確立することが求められる。今後は、シラバス等科目選択に係る情報をデータベース化したり、電子メールによる進路相談を取り入れたりするなど、情報通信を活用することも有効である。 
   また、入学年次の「産業社会と人間」が2年次以降の進路指導にうまく生かされていないという指摘も見られる。このため、入学年次における「産業社会と人間」の学習を踏まえつつ、2年次以降、生徒が将来の生き方や進路について、より確かな希望や目的を抱き、教科・科目等の学習に意欲を持って取り組めるよう、ホームルーム活動、学校行事及び「総合的な学習の時間」等において、進路に関わる体験や学習を発展的に行い、進路指導の充実を図る必要がある。継続的な進路学習を充実するため、「産業社会と人間」に引き続き、2年次で「キャリア・ガイダンス」などの科目を開設している学校もあり、それらの例を参考に、ガイダンス機能を重視した計画的、系統的な進路学習が行われることが必要である。  
   さらに、「産業社会と人間」、「総合的な学習の時間」、学校設定科目等を活用し、進学する者、就職する者を問わず、就業体験(インターンシップ)を積極的に取り入れることが必要である。 
   
(2) キャリア・カウンセリングの充実
  
   生徒一人一人の生き方や進路、履修科目の選択に関する悩みや迷いなどにきめ細かく対応するため、キャリア・カウンセリングの充実を図ることが必要である。このため、キャリア・カウンセリングの能力を身に付けた教員等を中心に、学校全体で組織的に対応する体制を整備することが必要である。   

   総合学科では、「産業社会と人間」の学習やガイダンスの実施などによって、将来の生き方や進路あるいは学習の選択に関わる指導の充実を図っているが、これらの学習や指導援助に加えて、生徒一人一人の生き方や進路あるいは履修科目の選択に関する悩みや迷いなどにきめ細かく対応し、生徒自らが悩みや迷いなどを克服しながら、自らの意志と責任で選択することができるよう指導援助することが大切であり、そのため、生徒一人一人対応するきめ細かな指導援助として、キャリア・カウンセリングの充実が必要である。 

   生徒は、進路希望について、例えば、希望する進路はあるが、その実現のための筋道が分からない、保護者の希望する進路と一致しない、あるいは、他にもっといい進路があるのではないかなどの悩みや迷いを持っている。また、履修科目の選択についても、資格取得を目指したいがどのような科目を選択したらよいのか分からない、あるいは、自分の興味・関心に応じて科目選択をしたが、適切な選択になっているかどうか不安だなどといった悩みや不安を抱いたりもする。
   このような悩み、迷い、不安は、ホームルーム担任の教師などによる説明や解決の方策の提示などによって解決する場合も少なくないが、このような悩み、迷い、不安の解決で大切なことは、生徒自身がその解決に取り組み、自分で解決するということである。
そのような解決によって、はじめて、生徒は解決の結果に納得し、進路の実現や学習に意欲を持って取り組むことができるのであり、生徒の主体的な選択能力の育成を重視する総合学科にあっては、このような解決の在り方を重視すべきであって、そのためには、キャリア・カウンセリングの充実が必要である。 

   すなわち、このような生徒(来談者)の悩みや迷いなど受け止め(受容し、共感しながら)、対話(による相談)を通じて、生徒自身が悩みや迷いの原因に気付き、時に解決のヒントや方策を示唆(指示)しながらも、生徒自身がその解決に取り組み、自分なりの解決に至る過程を指導・援助するのがカウンセリングであり、カウンセリングを行うためには、このような指導援助の過程に関する知識や技術、そして一定の経験による熟練が必要となる。 
   専任のキャリア・カウンセリング担当教員が配置されている都立晴海総合高校におけるカウンセリングの実績(「資料3−2」参照)を見ると、当該教員は、1学期間で、延べ500件を超える生徒の進路や学習に関する相談をはじめとして、教師が行う相談活動への指導・援助や保護者の相談、ホームルーム活動における進路学習のプログラムの開発・提供、保護者会における進路や学習に関する情報の提供など、多岐にわたる職務を果たしている。 
   このような実績からも、総合学科においてキャリア・カウンセリングの充実を図るためには、必要な研修を受け、専門的なキャリア・カウンセリングの能力を身に付けた教員を各学校に配置し、この教員の専門能力を生かす組織・体制を整備することが 望まれる。 
   キャリア・カウンセリングを生かす組織・体制には、いくつもの在り方が考えられるが、組織・体制を考える上で肝心な点は、専門的なキャリア・カウンセリングの能力を有する教員を進路指導部などの校務分掌に位置付け、その専門的な知識を進路指導に生かすとともに、それらの教員の授業時間数を大幅に軽減し、カウンセリングに専念できる時間を十分に確保すること、同時に、それらの教員をスーパー・バイザーとし、ホームルーム担任の教師をはじめとするすべての教員がカウンセリング・マインドをもって生徒の指導に当たる組織を作ることなどである。 
   また、就職指導や職業観・勤労観を育成する指導の充実を図るため、企業経験者等をキャリアアドバイザーとして活用することも有効であると考えられる。 
    
    
3  きめ細かい生徒指導や学校への適応指導の充実  
  
   総合学科の学習の特色を生かすためには、きめ細かい生徒指導や学校への適応指導の充実を図ることが必要であり、2人担任制やチューター制の導入、ホームルーム活動の工夫等を行うとともに、スクールカウンセラーを配置することが望まれる。   

   自己管理・自己責任の下で、一定していない学習集団の中で自立して学習を進めるという総合学科での学習の特色をより生かすためには、きめ細かい生徒指導や学校への適応指導の充実を図る必要がある。
   このため、毎日ショート・ホームルームを実施してホームルームへの帰属意識を高めたり、生徒が相互に支え合い、助け合ったりするホームルーム単位の活動を意図的、計画的に進めたり、2人担任制やチューター制を導入してきめ細かい相談活動を行うなど様々な工夫を行うとともに、専門的な相談が必要な生徒に対応するためスクールカウンセラーを配置することが望まれる。
   また、上記のような生徒指導、適応指導の充実を図ることに加え、単位制の特長を生かし、場合によっては4、5年かけて卒業するなど時間をかけて学習することや、一度社会に出て体験を積んでから復学することを認める、休学・再入学制度を積極的に活用するなど、修学形態の弾力化を進めることが必要である。
   なお、学習への取組や学校生活について生徒の自己管理に委ねる一方、生徒の成績評価や単位認定を厳格に行うことによって、生徒指導上の問題がむしろ減少したという事例も報告されている。この例にみられるように、総合学科においては、自分で学習計画を立て、自主的に学習を進めることが基本であり、授業への出席や学習及びその結果についても自己管理・自己責任の考え方を徹底させることが必要である。

        
4  入学者選抜の工夫改善
  
   総合学科の入学者選抜においては、単に知識の量だけでなく、生徒の多様な個性や能力・適性、意欲、特に自ら考え、主体的に行動する意欲や態度などを積極的に評価できるよう、選抜の在り方を工夫することが必要である。

   総合学科卒業生に対する意識調査の自由記述において「はっきり自分の興味・関心のあることが何かわかる人を入学させた方がよい。」「夢のある人が入った方が生かせると思う。」などの意見が多く見られた。総合学科は、生徒が主体的に履修科目を選択し、学習を進めて行くところに特色があり、そのような特色を生かすためには、自分で考えたり、意思決定ができること、意思表示が明確にできることなど、自ら考え、主体的に行動する意欲や態度を身に付けていることが求められ、このような点について積極的に評価できるよう、選抜の在り方を工夫することが必要である。
   総合学科の入学者選抜においては、単に知識の量だけでなく、生徒の多様な個性や能力・適性、意欲、特に自ら考え、主体的に行動する意欲や態度などを積極的に評価できるよう、選抜の在り方を工夫することが必要である。そのためには、面接の導入や調査書等の活用を図るとともに、推薦入学の拡充を図ることが求められる。
   面接の資料として、志願の理由や自分をアピールすることができる事柄を記入した「自己申告書」を提出させたり、パーソナル・プレゼンテーションを実施している例もあり、このような学習意欲や態度を積極的に評価する選抜方法の拡大が期待される。
   また、このような選抜にあたって、例えば中学生の時に書いた作文や諸作品など中学校での学習や諸活動の成果を何らかの形で評価の対象とすることも考えられる。 
   また、選抜の在り方の工夫と併せて、中学生やその保護者に対して総合学科での学習の仕方や学校生活の特色などについて、説明会の開催、学校紹介リーフレットやビデオの作成、ホームページでの学校紹介、体験入学などを通じて十分に説明し、総合学科が求める生徒像について理解を深めてもらうことも必要である。 
        
    
5  大学における入学者選抜の改善
  
   大学においては、総合学科卒業生選抜や総合学科卒業生を対象とした推薦入学の積極的な導入を図るとともに、入学者選抜において、「産業社会と人間」や「課題研究」等の学習成果についても積極的な評価がなされることが期待される。   

   総合学科において、生徒は多様な選択科目の中から主体的な科目選択を行い、生涯学習の基礎を培っており、こうした生徒が卒業後も、大学等において継続して学ぶことができる場を確保することは大変重要である。このため、大学においては、総合学科卒業生選抜や総合学科卒業生を対象とした推薦入学の積極的な導入が期待される。 
   これらの選抜方法を既に実施している大学の関係者からは、総合学科卒業生は総じてはっきりとした目的意識を持ち、学習意欲の高い学生が多いこと、また、他の学生に好ましい刺激を与え、大学を活性化していることなど、好ましい評価が得られている(「資料4」「総合学科卒業生選抜及び推薦入学による大学進学者の進学後の状況について」参照)。これらの選抜方法を実施する大学は着実に増加しているものの、未だ少数であり、今後大幅な拡大が図られることが期待される。 
   特に、専門高校卒業生に対し、既にこれらの選抜方法を導入しているにもかかわらず、総合学科卒業生を対象としていない大学においては、少なくとも対象としている専門学科の生徒と同じ程度に専門科目の履修をしている総合学科卒業生に対しては、専門高校卒業生と同様の扱いがなされることが必要である。 
   また、総合学科では、主体的な学習を通じて自律的な学習態度の育成に成果をあげており、大学における入学者選抜においても、学力だけでなく、学ぼうとする意欲や専攻分野への関心、高校時代の職業体験やボランティア体験等についても適切に評価することが望まれる。このような観点から、アドミッション・オフィス入試をはじめとして、面接、小論文、グループ討議などの方法を用いて受験生を多面的かつ丁寧に見るためのきめ細かな選抜方法が拡大、定着していくことが期待される。
   また、その際、「産業社会と人間」や「課題研究」(今後は「総合的な学習の時間」)等の学習成果について積極的な評価を行うことが期待される。
   そのため、例えば「課題研究」で作成したレポートや作品等総合学科での学習や諸活動の成果を何らかの形で評価の対象とすることも考えられる。 
   
    
6  地域や産業界とのパートナーシップの確立
  
   総合学科と地域や産業界とのパートナーシップを確立するため、産業界との連携組織を設けたり、学校評議員制度等を有効に活用するなどの取組が必要である。   

   調査結果に現れているように、地域と連携した学習の取組は必ずしも十分ではない。今後、総合学科においては、社会人講師の活用やインターンシップ等を積極的に推進する必要があり、これらの活動の円滑な実施のために地域や産業界とのパートナーシップを確立することが必要である。     
   総合学科の設置に併せて、PTAや地元の中学校、産業界の関係者等からなる「教育振興会」を設置した北海道清水高校の例(「資料3−3」参照)を見ると、「産業社会と人間」での職場体験の受入先の確保、総合学科の授業公開、中学校との進路連絡会議、中・高校PTA交流、総合学科地域説明会などの事業を「教育振興会」が中心となって行い、成果をあげている。 
   総合学科が、地域や産業界とのパートナーシップを確立し、教育活動に地域や産業界の協力を仰いだり、地域の要望や意見を学校運営に反映させて、教育活動の一層の充実を図るために、産業界との連携組織を設けたり、学校評議員制度等を有効に活用するなどの取組が必要である。 
    
    
7  総合学科に対する理解促進
  
   総合学科における教育活動や生徒の学習成果等に関して学校としての評価を行い、それを学校運営の改善に生かすとともに、社会に広く情報発信を行い、総合学科に対する理解促進を図る必要がある。 

   調査結果に現れているように、中学生やその保護者、中学校教員、大学や専門学校、企業等の関係者に対して総合学科は十分に知られていない。 
   したがって、今後、総合学科における教育活動や生徒の学習成果等に関して学校としての評価を行い、それを学校運営の改善に生かすとともに、社会に広く情報発信を行い、総合学科に対する理解促進を図る必要がある。 
   このため、各学校がそれぞれホームページを開設し、各学校における優れた取組について積極的に情報を発信することが望まれる。さらに、全国総合学科高等学校長協会等が中心となって、総合学科に関する様々な情報を提供するホームページを開設し、各学校のホームページを結ぶリンク集を設けたり、メーリングリストを活用することにより、全国の総合学科が容易に情報交換できるような体制を整備することが望まれる。 
   また、地域の中学校、大学、専門学校、企業等に対しても、積極的な情報発信に努めることが必要である。 
    
    
8  国や設置者による支援
  
国や都道府県等の設置者においては、総合学科の一層の設置促進を図るために、引き続き支援措置を講じることが必要である。   

(1) 国においては以下のような支援措置を講じる必要がある。  

  1  多様な科目を開設できるよう、引き続き総合学科における教職員配置の優遇策を維持すること 
  2  総合学科における専門教育の充実を図るため、産業教育施設・設備助成事業を活用して総合学科における実験実習施設・設備の整備を積極的に進めること  
  3  総合学科における学習の特色などについて大学への周知を図り、総合学科の卒業生を対象とした特別の選抜方法の導入について大学関係者の理解を求めること  
  4  総合学科における入学者選抜の改善状況について、積極的な情報の収集及び提供を行うこと
  5  光ファイバー等情報通信を利用した学校間連携による新しい学習方法の研究開発を進めること 
  6  進路や将来設計、科目選択等に関する教員のキャリア・カウンセリングの能力の向上を図るため、体系的な研修プログラムの開発を進めること  
  7  「産業社会と人間」などで社会人講師が行った講演を衛星通信を利用して配信し、全国の総合学科で活用できるようにすること 
  8  「産業社会と人間」や「課題研究」などの生徒の学習活動に関する評価方法や汎用性のある時間割作成プログラム等について優れた事例の収集及び提供を行うこと

(2) 一方、設置者においては以下のような取組を進めることが必要である。  
  1  学校設定教科・科目や「産業社会と人間」等を含む複数科目の指導等による教員の負担にも留意し、総合学科において必要とされる教員等の配置に配慮すること  
  2  多様で魅力ある科目の開設を進めるため、社会人講師の登録システムを導入したり、学校間連携の実施に当たって積極的な支援を行うこと    
  3  総合学科の設置に当たっては既存の施設・設備を有効に活用するとともに、産業教育施設・設備助成事業等の活用を図り、実験実習施設・設備の整備を進めること  
  4  地元の大学に対し、設置する総合学科の特色などについて周知を図り、総合学科の卒業生を対象とした特別の選抜方法の導入を積極的に働きかけること  
  5  総合学科が高校改革や中等教育改革の推進に果たすべき役割について理解を深め、「産業社会と人間」や「課題研究」等における指導力の養成やキャリア・カウンセリングに関する能力の向上などを図るため、総合学科に関する研究協議会の開催、校内研修や教育センター等における研修講座の充実を図ること  
  6  教育活動や学校運営等の面で協力を得るため、学校と地域社会、大学等との連絡・協力体制を整備すること