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2  就職にかかる指導、制度・慣行等の今後の在り方

1  基本的な考え方
  高校生の就職を取り巻く厳しい状況は、世界的な規模での市場構造の変化や我が国の経済・産業の構造的な転換、それらに対応した企業の雇用や採用の在り方の見直しなどに起因していることから、今後、短期間に好転するとは考えにくい。
   また、生徒が巣立っていく社会は、IT革命に象徴されるように、産業・経済、労働の在り方そのものが文字どおり激変するとともに、かつてない膨大な情報があふれる社会である。そのような社会にあって、自分自身に必要な情報を選択し、主体的に判断・決定することがますます強く求められてくると考えられる。職業選択についても、基本的には本人の意志と責任において判断・決定されるべきものであり、採用・雇用をめぐる状況や労働市場等が多様化・流動化し、生涯にわたって自己のキャリアを開発し向上させていくことが強く求められる中、一人一人が主体的な選択能力や態度を身に付けることが一層大切になってきている。
   このような状況を踏まえ、学校にあっては指導の在り方を改善するなど、取り組める事柄については直ちにこれに着手することが求められる。同時に、高校生の就職に関する学校の関与・慣行については、実態調査においても、「現行を維持しつつ生徒の意志や責任をより尊重する方向で見直しが必要」とする割合が、全ての調査対象で最も高く、「進路指導が充実し、職業意識が育てば自由にすべきである」とする割合も少なくないことを踏まえ、その意義・必要性について不断に検証するとともに、IT革命など時代の進展、規制緩和の流れや今後の就職・雇用環境の動向にどう対応していくかという観点に立って、見直すべきところは積極的に見直していく必要があると考える。
   特に、進路意識や職業意識の育成等にかかる指導の充実を図ることが大切であり、生徒が自らの意志等に基づき、職業や就職先を選択できるようにするとともに、生徒の採用選考機会を拡大することが肝要である。また、生徒の学習活動や学校生活をはじめ、各学校の教育課程の実施に混乱が生じないかなど、高校教育に及ぼす影響や求人の幅広い確保等について十分配慮するとともに、学校における指導の改善と結びつき、それを促すものにしていくことが大切である。

 

2  改善の方向性
  就職にかかる制度・慣行については、現時点での学校の状況や高校生の就職環境、今回の実態調査などを踏まえると、当面、次の方向での見直し・改善が適切である。また、中・長期的には、上記の基本的な考え方に沿って、さらなる見直し、改善が求められると考えられ、引き続き関係者の間で検討を行うことが望まれる。
(1) 選考開始期日等の見直し
   高校生の就職については、早期の選考を防止し求人秩序を確立することにより、授業時数を確保するなど高等学校教育の充実を図るとともに生徒の適切な職業選択を指導・援助することが大切である。このため、全国高等学校長協会や主要経済団体の意見を踏まえつつ、選考開始期日等を定め、文部科学省と厚生労働省との共同通知をもって、都道府県、同教育委員会、経済関係団体等に対して、期日等の周知徹底と順守を指導している。
   現在、その期日は以下のようになっている。
   ・6月20日    公共職業安定所における求人の受付開始
   ・7月  1日    公共職業安定所の確認を得た求人票による学校での求人の受付開始
   ・9月  5日    学校の推薦、応募書類の提出開始
   ・9月16日    企業等の選考開始
   また、新規高卒者を対象とした求人の文書募集は、平成12年度から10月1日以降とされている。
   そこでまず、新規高卒者の就職について選考開始期日を定めることの是非についてであるが、これが定められている趣旨、就職協定撤廃後の大学生等の就職をめぐる状況、また、実態調査で、調査対象すべてからその必要性が強く支持されていることなどを勘案すると、今後も、選考開始期日を定める必要があると考える。
   次に、上述の新規高卒者の就職にかかわる現行の選考開始期日等が適切であるかどうかについてであるが、公共職業安定所の求人受付開始期日及び学校での求人受付開始期日については、高校卒業者の就職が地元志向となり、地元企業等の新規学卒者に対する採用計画が必ずしも早期には立てられていないという実態を踏まえると、現行の6月20日及び7月1日よりも早期化することは難しいと考える。
   また、選考開始期日については、実態調査では、現行よりも遅くすべきとする意見、現行よりも早くすべきとする意見も少なくないが、「現行どおり」が最も多いこと、新規高卒者に対する求人が急減し、特に二社目以降の求人が少なく、内定に長期間を要する現状があることから、現行よりも遅くすることは現実的でないと考える。他方、現行よりも選考開始期日を早めることは、その期日をいつにするかにもよるが、例えば、夏期休業日以前とすると、その時期には求人が十分に出揃わない、学校の教育活動に多大な影響を及ぼすなどの問題があり、夏季休業日直後とすると、生徒に選考直前の指導が十分に行うことができないなどの問題があって、これも現実的でないと考える。
   したがって、求人受付開始期日、選考開始期日等を現行どおりとすることが適切であると考える。また、7月1日の求人票受付から9月5日の応募書類提出までの期間において、生徒の求職活動をより開かれたものとし、その活性化を図るため、7月20日以降、次のような活動を積極的に行うことを提案する。
A  高校生対象の「職場見学会」や「企業説明会」を積極的に開催するよう企業や団体等に対して学校及びハローワークから働きかけること。
B  地域の実情に応じ、教育委員会と労働関係部局が連携し、企業等の協力を得て、「合同企業説明会」(ジョブ・フェア(仮称))を開催すること。
C   これに対応して、学校は、生徒が可能な限り多くの企業や団体等の「職場見学会」や「企業説明会」等へ参加することを積極的に進めること。
   ただし、これらの活動が早期採用選考にならないよう、十分な理解と合意のもとに取り組むなど、学校、企業、行政の関係者が一致協力して就職活動の秩序維持に努めることが肝要である。
   なお、共同通知においては、新規学校卒業者の採用に当たっては、本人の適性、能力等を中心として行い、定時制課程及び通信制課程の卒業者と全日制課程の卒業者との間の差別的な取扱いや、同和地域の卒業者に対する差別的な取扱いが行われないよう、また、男女雇用機会均等法の趣旨に添った採用活動が行われるとともに、障害者に対しては格別の考慮がなされるよう配慮することを求めており、引き続きこの趣旨に沿った関係者の取組が大切である。

(2) 慣行等の見直し
  既述のように、高校生の就職にかかわっては、指定校制や一人一社制といった慣行があり、一般化している。このような慣行は、過去において高校生の就職に果たしてきた役割は小さくないが、高校生の就職を取り巻く環境が激変している中で、課題も生じており、地域の実情を踏まえつつ、学校・企業等の相互の理解を深めながら、次のような見直しが必要であると考える。
A  指定校制
   高校生の就職をめぐる環境の変化の一つは、労働市場の地域化、狭隘化である。この地域的な狭い市場の中で、指定校制による求人が多い場合、地域あるいは県全体としては求人数が確保されているとしても、一部の伝統ある専門高校に求人が偏り、そうでない学校では応募の機会さえ与えられない多くの生徒を生んでいる状況が見られる。
   また、実態調査で、進路指導主事や企業では、現行どおりとする回答が最も高い割合となっているが、卒業者などでは、「見直しが必要」や「なくす」とする回答がかなり高い割合になっている。
   どのような学校に対して求人募集を行うかの決定は企業の自由な採用選考の一環として行われているものであり、また、伝統ある専門高校をはじめとして、各学校が長年に渡って築き上げてきた企業との信頼関係という側面も有ることから、指定校制は必ずしも一概に否定されるべきものではない。しかし、一方、均等な採用選考機会といった点からは、指定校以外の学校からも応募できることが望ましいという面もある。
   実際に、企業が指定校を設ける場合にあっても、当該求人を指定校以外の学校に対しても提供し、企業の了解を前提として指定校以外の生徒も応募することができるとする取扱いを行っている地域も多い。今後、こうした取扱いの拡大に向け、地域内の企業・高校のコンセンサスを築いていくことが重要である。
B  一人一社制
   一人一社制は、これまで、できるだけ多くの生徒に応募の機会を与え、大量の求人と求職とを短期間で円滑に結びつける仕組みとして機能し、また、求人が激減している現状においても、できるだけ多くの生徒に応募の機会を与えるという点では一定の役割を果たしている。
   しかし、上述のとおり、一人一社制と分かちがたく結びついている指定校制についても、地域によっては均等な採用選考機会の確保という観点から弾力的な取扱いが行われていること、指定校であっても採用されるとは限らない場合が見られること、また、実態調査において、一人一社制について、進路指導主事、ホームルーム担任教員以外では、「現行どおり」を支持する割合が少ないことなどを踏まえ、一人一社制の在り方についても、見直しを行う必要があると考える。
   その際、学校推薦により採用がほぼ確実である求人については、生徒側にとって一人一社制のメリットは認められるが、そうでない求人の場合には、一人一社に限定することの意義が乏しいこと、特に、少ない求人の下では、必ずしも全ての生徒に応募の機会が与えられるわけではないことなどから、学校、企業が相互に理解を深め、企業は受理する応募の枠の拡大に努め、学校は一人一社制による指導や紹介・斡旋を行う場面をできるだけ限定していく方向で取り組むことが望まれる。例えば、地域や学校の実態等に応じ、企業等の了解を得ながら、生徒が同時期に応募できる企業を2〜3社を上限として認めるといったことなどが考えられる。
   また、公務員との併願については既に認めている地域もあり、併願を妨げないことを提案する。
C  校内選考
   学校が責任を持って生徒を企業等に推薦するためには、生徒の希望や選択が、その能力・適性等に照らして適切であるか否かを吟味したり、極端に一部の企業に希望者が偏っている場合などには、ある程度調整したりすることは必要であると考えられる。
   しかしながら、既述のように、各求人企業に合格可能な生徒を選考するために行われるようになったり、学業成績に偏りがちな選考になっていたりするのでは、その本来の姿が見失われているといわざるを得ず、その必要性自体に疑問なしとしない。
   また、実態調査でも、進路指導主事、ホームルーム担任教員以外では、「現行どおり」を支持する割合は低く、「見直しが必要」あるいは「必要ない」とする割合が高くなっている。
   これらのことを踏まえ、進路選択は生徒が自らの意志と責任で行うという基本に立ち返って校内選考の在り方を厳しく見直すとともに、進路選択に必要な能力・態度を育成するための指導の改善・充実に向けて、一層の努力を傾けることが強く望まれるのである。
   このような新規高卒者の就職にかかわる慣行について、日本経営者団体連盟は、先に紹介したアンケート調査に基づいて、次のようにその問題点を指摘している。「高校の進路指導に対しては幅広い注文や要望が出されている。特に、学校が就職希望の生徒を成績順に求人先に割り当てる現行の一人一社主義には批判が集中した。他社との比較がないままに就職すれば、人生経験の浅い若者にとって隣の芝生が青くみえるのは当たり前で、これが早期離転職の一因ともいえよう。」

(3) キャリア教育及びキャリア・カウンセリングの実施
A  キャリア教育の推進
  平成11年12月の中央教育審議会の答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」は、「新規学卒者のフリーター志向が広がり、高等学校卒業者では、進学も就職もしないことが明らかな者の占める割合が約9%に達し、また、就職後3年以内の離職も、労働省の調査によれば、新規高卒者で約47%、新規大卒者で約32%に達している。こうした現象は、経済的な状況や労働市場の変化なども深く関係するため、どう評価するかは難しい問題であるが、学校教育と職業生活との接続に課題があることも確かである。」と指摘した上で、「学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育(望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育)を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある。」と提言している。
   このような中央教育審議会答申の指摘と軌を一にして、本協力者会議においても、今日の新規高卒就職者にかかわる問題状況として、職業観・勤労観が未成熟で就職に対する意識や構えが安易なため、自分が就きたい職業がない、自分で志望する事業所等を選択できずに学校まかせ、教師まかせの生徒が少なくないといった問題が顕在化していること、また、積極的なフリーター志向の生徒やまったく学校の指導に乗らず、希望が把握できない生徒が増えており、フリーターが生徒の進路の選択肢の一つとなってきていることなどを共通の理解・認識とし、その上で、このような問題状況に対応した高等学校教育及び進路指導の改善、充実方策を検討してきたところである。
   高校生、大学生の職業的アパシーともいうべき状況が進んでいることへの対応として、中央教育審議会答申は小学校段階からのキャリア教育を提言している。また、実態調査によれば、卒業者が、高校時代にもっとやっておけばよかったと思う事柄として、「自分がやりたい職業、自分に向いている職業を見つけること」を第一に挙げ、次いで、「職業に関する教科・科目の勉強や職業資格を取得すること」「社会に様々な職業があることやその仕事の内容について知ること」などを挙げている。このような状況を踏まえ、また、文部科学省が平成12年度から実施している「キャリア体験等進路指導改善事業」の研究実践の成果を生かしながら、小・中学校から高等学校段階までのキャリア教育の推進とそのためのカリキュラムの開発が必要であると考える。とりわけ、高等学校におけるキャリア教育、そのためのカリキュラム開発が焦眉の課題であると考える。その際、キャリア教育を、就職を希望する生徒だけに必要な教育としてとらえるのではなく、中教審答申が各学校段階及び大学等卒業後における社会との接続をも視野に入れて提言したように、すべての高校生を対象とするものとしてとらえることが極めて重要である。
B  キャリア・カウンセリングの充実
   中央教育審議会の答申並びに平成12年1月の総合学科の今後の在り方に関する調査研究協力者会議の報告「総合学科の今後の在り方について」で、キャリア・カウンセリングの充実の必要性について提言、報告された。学校から社会あるいは上級学校への円滑な移行及び履修教科・科目の適切な選択にかかわって、生徒一人一人に対応するきめ細かな指導援助が求められているのである。
   本検討会議の検討、協議においても、生徒の進路選択の指導・助言者としてハローワークの職員経験者を「キャリア・アドバイザー」として招き、成果を上げた私立学校の事例が報告された。
   本検討会議としても、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる」キャリア教育の推進と併せて、生徒一人一人の生き方や進路あるいは履修教科・科目の選択に関する悩みや迷いなどを受け止め、生徒自らがそれらを克服しながら、自分の意志と責任で自己の進路を選択することができるように指導・援助するキャリア・カウンセリングの充実がすべての高等学校に必要であると重ねて提言したい。また、そのため、各学校において専門的なキャリア・カウンセリングの能力を身に付けた教員が指導・援助を行うようにすること、国あるいは都道府県教育委員会がそのために必要な研修プログラムを開発し、研修を実施することを強く望むところである。
   また、職業意識の啓発に係る指導・援助の充実を図るため、希望する学校に企業経験者等を「キャリア・アドバイザー」として配置することも必要と考える。

 

3  当面の具体的な方策
(1) 指導の改善・充実
A  インターンシップ等の積極的な推進

  新規高校卒業者の就職において、長年続いた売り手市場の下では、学校と企業との関係は、一般に、生徒の紹介・斡旋と採用という枠の中に止まり、それぞれの実情を相互に十分理解しているとは言い難い状況があったことが各種の報告会などの発表を通して伺うことができる。こうした学校と企業との関係を見直し、より深い相互理解とそれに基づく信頼関係を築いていくことが、今日の高校生の就職をめぐる様々な課題を克服していく上で、極めて重要であると考える。
   具体的には、教師、生徒が職場や仕事あるいはそこで求められる資質や能力、態度、とりわけ、社会人、職業人として求められるマナーやコミュニケーション能力等を十分に理解すること、企業が学校・学科の教育内容や指導の実際を理解することなどを通じて、相互の信頼関係を築き、それを基本として求職、求人を行うことが必要である。
   そのため、学校は、職業現場における生徒の職場見学や就業体験(インターンシップ)を積極的に実施するとともに、その受け入れ先の開拓や実施期間中における巡回指導等を通して、教師が可能な限り多くの企業やその現場に出向き、企業の担当者等とのコミュニケーションを図るようにしたり、企業の人事担当者等に学校・学科の学習や諸活動を公開したりするとともに、そのような機会に学習活動への要望や改善のアドバイスを受けることなどが望まれる。
   実態調査においても、「就業体験」については、その実施率は必ずしも高くはないが、職場見学と同様、体験した者の内、「役に立った」「まあまあ役に立った」とする者の割合は極めて高くなっている。効果的な指導の工夫・改善という点からも、インターンシップ等の一層の推進が望まれるところである。また、既述のように、卒業者調査で、高校時代にもっとやっておけばよかったと思う事柄の第一に、「自分がやりたい職業、自分に向いている職業を見つけること」をあげていることからも、職場見学、インターンシップを生徒の自己理解、適職探索のための活動の一つとして位置づけて積極的に実施するとともに、生徒の学校外でのインターンシップの体験を単位認定できるよう学校設定科目を設けたりするなど、可能な限り多くの機会を設けることが望まれる。
   インターンシップは、卒業生が就職している企業等の協力を得て実施することが多いと考えられるが、近年、生徒の地元志向が強く、また、地域によっては地場産業から高卒就職希望者に対する潜在的な期待が強くあることなどから、各県の経営者協会、商工会議所、中小企業団体中央会等の経済団体やハローワーク等、地域の産業界や関係機関の協力を得ることが大切である。
   また、以上のような取組によって築かれた関係を基礎に、学校の教育や指導の在り方に関して、地域の企業や産業界あるいは保護者等の意見や要望を積極的に取り入れることも必要であると考える。そのため、学校評議員制度を活用することも考えられる。
   文部科学省においては、今回の学習指導要領の改訂において、インターンシップを一層重視することとし、また、本年度からスタートした「キャリア体験等進路指導改善事業」において、各地域単位での推進体制の整備の在り方等、高等学校でのインターンシップの充実に向けての実践研究が進められているところである。今後、長期にわたるインターンシップの実施などについての実践研究を進め、先進的な事例やモデルとなる事例等を示すとともに、関係省庁、関係団体等との連携を深めながら、高等学校でのインターンシップの推進に向けて一層の支援の充実を図ることが求められる。また、各都道府県教育委員会等においても、都道府県等の単位での推進体制の整備や学校への支援措置の充実等に努めることが望まれる。
B  計画的・継続的な進路指導の実施
  卒業年次における就職のためのノウ・ハウの指導から、ホームルーム活動における進路学習、進路に関わる啓発的な体験及び個別指導としての進路相談を入学時から系統的・発展的に行う指導への転換が求められる。そのためには、入学年次からのホームルーム活動における指導計画を立てることが必要であり、その上で、いつ、どのようなねらいで、どのような体験活動を実施するか、いつ、どのような観点で相談活動を行うのかなどを明らかにして、計画的、継続的に指導を行うことが望まれる。
   特に、フリーターが、高校卒業時及び大学卒業時の進路の選択肢の一つになっている実状を直視すれば、労働条件や社会保障面における正規雇用とフリーターとの相違や今日の就職・雇用環境をめぐる様々な変化等について理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方にかかわる指導の一環として、生き方や進路にかかわる学習活動を、生徒の入学時から計画的・継続的に実施することが、すべての学校で必要であると考える。
C  保護者との連携の促進
   職業観・勤労観の形成、社会的なマナーやコミュニケーション能力の育成は、高等学校段階のみならず様々な段階で必要であり、また、家庭教育の在り方とも深くかかわっている。既述の小学校段階からのキャリア教育を推進するに当たっても、家庭との連携が強く求められるところである。
   この点に関し、高等学校の進路指導では、家庭との連携が必ずしも十分に行われていない状況にあることから、今後、学校と家庭が相互の理解と協力を一層深めた取組を進めることが大切である。その際、進路指導が生徒一人一人の主体的な進路の選択・決定を指導・援助するものであるという共通理解を確立するとともに、今日の産業界や就職等をめぐる状況の変化などについて、企業の人事担当者などから共に学んだり、積極的に情報を提供したりするなど、進路説明会等の在り方を工夫・改善する必要がある。

(2)教育課程の改善
   進路指導は、高等学校学習指導要領の総則で、「学校の教育活動全体を通じて計画的、組織的な進路指導を行うこと。」と示されているように、本来、特別活動の指導を通じてだけでなく、教科・科目等の学習やその選択を通じてもなされるべきものであり、教育課程の編成、実施の在り方に深くかかわった教育活動である。
   また、今次の学習指導要領の改訂において、高等学校の教育課程については、学校や生徒の学習の選択幅を広げ、生徒の興味・関心、進路希望等に応じて、それぞれの分野について、より深く高度に学んだり、より幅広く学んだりする仕組みを整え、それぞれの能力を十分伸ばすことを目指して改善が図られたところである。
   このような学習指導要領改訂の趣旨を生かしつつ、社会の変化や今日の厳しい就職状況に対応できるよう、以下の観点に立って教育課程の工夫・改善等を積極的に進める必要がある。
A  基礎的・基本的な学力の充実
  めまぐるしい勢いで進展する技術革新の下で、職業人として充実した職業生活を築くためには、生徒が生涯にわたって学び続けるために必要な基礎的・基本的な学力と学習意欲・態度をしっかりと身に付けておくことが不可欠である。特に、表現力やコミュニケーション能力などの育成に向けた取組の充実が求められるところである。
     教育課程を編成、実施するに当たっては、高等学校に学ぶ生徒の学習ニーズが多様化していることを踏まえ、各学校の実態や生徒の興味・関心、進路希望に応じた幅広い選択教科・科目を設けることが大切である。また、生徒一人一人が基礎的・基本的な学力と学習意欲・態度を身に付け、社会に羽ばたくことができるよう、個別指導やグループ別指導、ティーム・ティーチング、習熟度に応じた指導など指導方法や指導体制を工夫・改善し、個に応じた指導の充実を図るなど、分かる授業、学ぶ楽しさや喜びを感じる授業の改善・工夫を図る必要がある。
B  職業に関する学科における就業体験等の充実
   職業に関する学科は、これまでも専門教科・科目の学習において、現場実習等の就業体験が相当程度実施されてきた。しかし、今日の就職状況の厳しさは、就職を希望する生徒の多い専門高校により一層反映しやすいという事情を考えると、従来のままで十分であるとは言い難く、今後、すべての生徒に就業体験の機会を設け、その充実を図る必要があると考える。
   専門高校にあっては、今後、将来のスペシャリストとしての基礎・基本の学習を深めることはもちろん、急速な技術革新に対応した教育内容の充実を図るとともに、生徒が職業理解を深め、職業や勤労の意義や役割を実感を持って理解することができるよう、現場実習等の就業体験をこれまで以上に積極的に取り入れることが必要である。
   また、例えば、地域の伝統産業に従事する人材の育成など、それぞれの地域におけるニーズ等を踏まえ、学科編成及び教育内容の見直し・改善を行うことについても積極的に取り組んでいくことが求められる。
C  普通科における職業教育の充実
   普通科高校は、就職を希望する生徒がまったくいない学校、専門高校と同様に多くの生徒が就職を希望する学校があるなど多様であり、一律に論じることは難しい。しかし、一般的には、就職を希望する生徒に対する指導・援助は、専門高校ほどには行われておらず、それが普通科の就職決定率の低さに反映していると考えられる。
   高等学校学習指導要領が、「職業教育に関して配慮すべき事項」として、「普通科においては、地域や学校の実態、生徒の特性、進路等を考慮し、必要に応じて、適切な職業に関する各教科・科目の履修の機会の確保について配慮するものとする。」と示しているように、普通科にあっては、就職を希望する生徒が、職業に就く上でのリテラシーともいうべき基礎的・基本的な知識・技能を学んだり、資格取得に向けての学習に取り組むことができるよう、職業に関する専門科目を取り入れた類型やコースの設置など、教育課程の一層の工夫・改善を図るとともに、専門高校との学校間連携を進めることなどが求められる。
   また、就職希望、進学希望を問わず、将来、社会人になるための基礎的な教育の充実が急務であり、そういった意味で、次に示す「産業社会と人間」などによる学習を積極的に進めることが必要である。
D  「産業社会と人間」等の実施
   総合学科でのいわゆる原則履修科目である「産業社会と人間」は、「職業と生活」「我が国の産業と社会の変化」「進路と自己実現」を学習内容とし、生徒が自己の進路への自覚を深め、職業を選択・決定するために必要な能力・態度などを身に付けていく上で大きな成果を収めてきている。また、「産業社会と人間」で行われているような学習は、どの学科でも重要な意義を持つことから、新学習指導要領においても、学校設定教科に関する科目として設けることができると明示されたところである。
   今日のような変化の激しい社会において、また、厳しい就職状況の下では、生き方や進路にかかわる指導の充実が一層強く求められることを踏まえ、教育課程の編成・実施に当たっては、「産業社会と人間」もしくはこれに類する科目を積極的に取り入れることや総合的な学習の時間において「自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動」に積極的に取り組むことが期待される。

(3) 指導体制の改善・充実
A  指導体制の確立と教師の研修

  ほとんどの高等学校においては、進路指導を校務分掌として担当する組織があり、進路指導主事を中心に複数の教師が配置されなど指導体制が確立されている。
   進路指導は、進路指導主事及び進路指導部・課を中心に計画的・継続的かつ発展的に行われることが大切であり、そのためには、まず、進路指導主事をはじめとする担当者の資質の向上が図られなければならない。そのため、これまでも、文部科学省、都道府県教育委員会が主催する研究協議会や研修会が実施されてきたところであるが、こうした取組に加え、今後は、経済・産業の動向や企業における採用や雇用あるいは処遇の変化などについて理解を深めることができるよう、各県、各地域の産業界や企業の人事担当者等を交えた研究協議会や研修会を実施することが望まれる。
   また、今日のような状況の下で、就職先の選択にかかる生徒への指導等を適切に行うためには、教師の職業現場の理解がこれまで以上に重要になっていることから、既述のように、教師が、インターンシップの指導や追指導などを通じて、職業現場に足を運び、その実際を理解すること、あるいは、教師自身が長期休業期間を利用して職業現場を体験することや企業等への派遣による研修などを充実することが望まれる。
   さらには、ホームルーム活動における学習や話し合いがより効果的に行われるよう、ホームルーム活動で使用する進路学習のための教材開発や指導の在り方に関する研修を行い、教員の指導力の向上を図ることも大切である。
B  進路指導主事の職務専念のための条件整備
   近年の厳しい就職状況や生徒の職業意識の変化等に対応して、進路指導計画の立案、進路情報の収集・提供、進路学習に関する指導案や教材の整備、就業体験等体験活動やキャリア・カウンセリングの計画・実施等、進路指導の取組全般について改善・充実を図る必要があるが、こうした取組を進める上で中心的な役割を担う進路指導主事に対する期待はますます大きくなっている。また、こうした職務に加え、求人の開拓という切実な課題への対応をも迫られるなど、進路指導主事の職務は大幅に増えてきている。このため、学校全体で取り組む体制を構築するとともに、進路指導主事がその職務に専念し、各学校の進路指導を推進する中核としての役割を遂行できるよう、授業の負担を軽減するなどの条件整備をより一層進めることが望まれる。

 

(初等中等教育局児童生徒課)

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