平成12年8月
はじめに 近年、高校生を取り巻く雇用情勢は厳しく、また、高卒就職者の高い早期離職率や若者のフリーター志向の広まりなど、高等学校の進路指導は難しい状況になっている。 本検討会議は、こうした課題を踏まえ、高卒就職者及び未就職者の就職・転職に関する意識や就職指導に関する評価等についてアンケート調査を実施し、その結果に基づき、高等学校における就職指導の在り方等の改善方策を検討するため、昨年5月に設置され、今般、調査検討の結果を中間まとめとして公表。 今後、就職慣行等の見直し、改善などについて、関係各方面の意見を聴きつつ、年内を目途に最終報告をまとめる予定。 I 新規高等学校卒業者の就職の現状と課題 1新規高等学校卒業者の就職の現状 (1)新規高等学校卒業者の就職状況等 就職希望者の減少や求人の大幅な減少など新規高卒者の労働市場は急速に縮小し、新規学卒者の労働市場全体における比重も急速に低下している。一方、高等学校卒業時に就職も進学もしなかった(できなかった)者(いわゆる「無業者」)が大幅に増加している。 (2)新規高等学校卒業者の就職を取り巻く環境と雇用の変化 厳しい状況の背景として、経済・産業の構造的な転換や就業構造の変化、企業の採用や処遇の変化などがあげられる。また、地元志向も新規高卒者をめぐる労働市場を地域的に狭隘化し、就職を困難にする一因となっている。 2生徒の進路意識等をめぐる問題 (1)社会人・職業人としての基本的な資質、能力の不足 企業が求める資質、能力の高度化等にもかかわらず、新規高卒就職者の社会人・職業人としての基本的な資質、能力が不足しているとの指摘がある。 (2)職業観・勤労観等が未成熟 職業観・勤労観が未成熟で、自分が就きたい職業を見つけられない生徒、志望する事業所等を選択できずに学校や教師まかせの生徒が少なくないといった状況にある。 (3)フリーター志向 いわゆるフリーターを志向する生徒が増加している。その原因としては、 ![]() ![]() ![]() ![]() 3学校における就職指導の現状と課題 (1)厳しい状況下での各学校等における取組 多くの学校が求人の開拓、確保のために多大の努力を傾けている。都道府県教育委員会やハローワークにおいても、積極的な就職支援策を講じ、一定の成果をあげている。 (2)就職に関わる指導の現状 入学時からの計画的・継続的な学習の実施及び体験活動の意義や必要性の認識が不十分である。また、進路指導部やホームルーム担任まかせになりがちな指導になっている。 (3)新規高卒者の就職にかかわる慣行等とその問題点 就職にかかわる慣行等は、求人数が求職者数を大幅に上回っている状況の下では有効に機能してきたが、今日では、慣行にとらわれた就職指導、生徒の就職の仕方が、主体的な進路選択の意欲・態度や能力の形成を妨げ、早期の離職等の問題につながっているとの指摘がある。 II 就職にかかる指導、制度・慣行等の今後の在り方 1基本的な考え方 学校における指導の在り方を改善するとともに、高校の教育課程の実施や求人の確保に支障を生じないよう配慮しつつ、時代の進展、規制緩和の流れ、就職・雇用環境の動向なども見据えて、就職にかかわる制度、慣行等を見直すことが不可欠。 特に、生徒が自らの意志等に基づき、職業や就職先を選択できるようにするとともに、生徒の採用選考機会を拡大することが肝要。 2改善の方向性 現時点での学校の状況や高校生の就職環境を踏まえると、当面、次の方向での見直し、改善が適切。ただし、中・長期的には、上記の基本的考え方に沿って、更なる見直し、改善が必要。 (1)選考開始期日等の見直し ア選考開始期日等は引き続き必要であり、期日としても現行の期日が適当である。 イ求職活動をより開かれたものとし、活性化するため、7月20日以降、企業や団体等における「職場見学会」などの開催を学校及びハローワークが働きかける。 (2)慣行等の見直し 高校生の就職にかかわる慣行等については、地域の実情を踏まえつつ、次のような見直しが必要。 「指定校制」・・指定校以外の学校からの応募もできるとする取扱いを行っている地域も多く、このような取扱いを拡大すること。 「一人一社制」・・一人一社制による指導や紹介・斡旋を行う場面をできるだけ限定していく方向で取り組むこと。また、公務員との併願を妨げないこと。 「校内選考」・・生徒の希望が能力・適性等から適切な選択か否かを吟味することや極端な希望の偏りを調整することなど本来の趣旨に立ち返るよう改善を図ること。 (3)キャリア教育及びキャリア・カウンセリングの実施 ![]() 小・中学校及び高等学校におけるキャリア教育推進のためのカリキュラム開発が必要。 ![]() 生徒一人一人の生き方や進路、教科・科目の選択に関する悩みなどを受け止め、生徒が自分の意志と責任で進路を選択できるように指導・援助するキャリア・カウンセリングの充実が必要。また、キャリア・アドバイザーの配置も必要。 3当面の具体的な方策 (1)指導の改善・充実 ![]() ア学校においては、インターンシップを積極的に実施するとともに、学校外のインターンシップの体験を単位認定するなど、インターンシップの機会を可能な限り多く設けることが必要。 イ国や教育委員会等においては、学校と地域(企業等)との連携体制の構築などのモデル事業を実施するなど、インターンシップ推進のための支援の拡充が必要。 ![]() 卒業年次における就職のためのノウハウの指導から、進路学習、体験活動及び進路相談を入学時から系統的、発展的に行う指導への転換を図る。 (2)教育課程の改善 ![]() 基礎的・基本的な学力や学習意欲・態度を身につけるよう、分かる授業、学ぶ楽しさや喜びを感じる授業の実施などの工夫、改善を図る必要。 ![]() 生徒が職業理解を深め、職業や勤労の意義や役割を理解することができるよう現場実習等の就業体験をこれまで以上に積極的に取り入れることが必要。 ![]() 職業に関する専門科目を取り入れた教育課程の編成や専門高校との学校間連携などの取組を推進。 ![]() 普通科を含めすべての学科で、社会生活や職業生活に必要な基本的な能力や態度などを育成する「産業社会と人間」などの学習を推進。 (3)指導体制の改善・充実 ![]() 経済や産業の変化、企業における採用や雇用の変化などに関する情報の教師への提供、教師の職業現場での体験などの機会の充実が必要。 ![]() 厳しい就職状況等を踏まえ、進路指導主事がインターンシップやキャリア・カウンセリングの計画・実施等の就職指導の改善・充実や求人の開拓などの職務に専念できるよう授業の負担軽減などが必要。 III 企業等への要望 高卒者の就職の現状を改善するためには、高校における改善への取組に加えて、企業等の理解と協力が不可欠であり、以下の点について協力を要請。 1高等学校の教育及び高校生の理解 進路指導や職業教育などについて、企業等の理解と積極的な参加、協力を期待。 2高校生のインターンシップへの協力 生徒の企業等における就業体験(インターンシップ)をはじめとして、職場見学や職業人の講話等の体験活動等に対する、積極的な受入れ・協力を強く期待。 3企業説明会等の開催 高卒就職希望者を対象とした「職場見学会」や「企業説明会」の開催を期待。 〔参考〕高校生の就職に関する実態調査の概要 (調査対象) 高等学校(進路指導主事)及び教員(第3学年担任)、生徒(平成11年度の3年生)、その保護者、高校卒業時就職者(平成8年度卒業者、平成10年度卒業者)、高校卒業時未就職者(平成8年度卒業者、平成10年度卒業者)、企業の合計約7千人を対象にアンケート調査を実施(平成12年2月〜3月実施) 1進路指導の現状と成果 (1)生徒が職業や企業・産業等の現状に直接触れる学習は不十分 ア「面接指導」を行っている学校は99.1%、「就職試験のための学習指導」を行っている学校は86.7%にのぼるなど就職のための直接的な学習や指導が高い割合を占めているが、「自己の個性を理解する学習」や「職業や職業生活を理解する学習」などの進路学習は50%台〜70%台にとどまるなど低い割合になっている。 イ進路に関する体験的な学習については、「職業人・社会人による講演・講話」が78.5%、「職場見学」が65.5%など実施率が高いが、「企業担当者による進路説明会」が43.5%、「就業体験」が39.0%など、生徒が職業や企業・産業等の現状に直接触れる学習の実施は低い割合になっている。 (2)ほとんどの学校で未就職卒業者に対する指導を継続 就職を希望しながら就職できなかった者に対して、94.9%の学校で、就職先の紹介や相談などの指導・援助を継続している。 (3)生徒、卒業生とも自分の職業に対する適性などの学習の充実を希望 ア生徒は、学校での進路選択に関して受けた指導や就業体験などの体験的活動について役に立ったとする評価が多くなっている。 イ「自分が何に向いているか知るための学習」、「自分がやりたい職業、自分に向いている職業を見つけること」や「職業に関する教科・科目の勉強や職業資格を取得すること」など自分の職業に対する適性、職業に関する学習の充実を希望している生徒、卒業者がそれぞれ40%を超えている。 (4)企業は、「意欲・態度、勤労観・職業観」などの育成を要望 ア高等学校の教育に対して、専門高校、普通高校を問わず「働くことへの意欲・態度、勤労観・職業観」や「責任感、忍耐強く取り組む態度」などの育成を要望する企業が45%〜55%と高い割合となっている。 イ専門高校に対する要望としては「専門的な知識・技能」が43.8%、普通高校に対する要望としては「基礎学力や一般教養」が46.7%となっている。 (5)約3割の企業が「インターンシップの積極的な実施」を要望 32.7%の企業が、「インターンシップを是非実施すべき」とし、「既に受け入れている」企業は12.2%、「受け入れる余地はない」企業は19.6%となっている。 2就職活動とその成果 (1)希望職種に就職できた者は約6割 就職希望の生徒のうち、「希望していた職種に最初に応募できた者」は78.9%、また、就職者のうち、「希望職種に就職できた者」は、8年度卒業者で56.0%、10年度卒業者で57.1%、「希望する職種はなかった者」は、8年度卒業者で23.3%、10年度卒業者で21.4%となっている。 (2)応募できなかった理由は「求人がなかった」が約4割 就職希望の生徒のうち、希望職種に応募できなかった理由として、41.0%が「求人がなかった」とし、就職者のうち希望していた職種に就けなかった理由としては、「採用されなかった」と「求人がなかった」がいずれも30%程度となっている。 3就職にかかわる慣行等とその評価 (1)約4割の者が「校内選考の見直し」を アほとんどの学校が校内選考を実施しており、またすべての調査対象においてその必要性を認める割合が高いが、学校の教員を含め調査対象の32.6%〜48.2%が何らかの見直しが必要としている。 イ校内選考の見直しに関して、学校の教員、卒業者及び保護者は「生徒の総合的な評価、適性を考慮すべき」が46.1%〜64.0%と最も多くなっており、企業は「事業者が求める人材を理解して推薦すべき」が43.0%となっている。 (2)「指定校制」は、なんらかの見直しを ア86.9%の学校で「自校を指定校とした求人」があり、求人件数に占める割合は、「およそ5割以内」が80.2%となっている。一方、56.3%の企業が「指定校制を実施」しており、その理由としては、「指定校への信頼感」が41.2%となっている。 イ指定校制については、進路指導主事の48.5%、企業の38.7%が「現行どおり」と回答し最も多くなっているが、他の調査対象では「現行どおり」との回答は低い割合になっている。 (3)「一人一社制」は、限定的に見直しを アほとんどの学校で一人一社制により企業等への推薦を行っており、「併願を一切認めていない」学校が77.7%、「公務員及び進学との併願」を認めている学校が20.4%となっている。 イ一人一社制については、学校の教員を除き「見直しが必要」とした者が37.0%〜49.1%となっており、見直しの観点としては、すべての調査対象で「一定期間内に限定」が46.7%〜63.7%と最も多くなっている。 (4)「選考開始期日」は必要が多数 選考開始期日については、すべての調査対象で「必要である」が最も多くなっており、学校の教員及び企業ではそれぞれ90%を超え、また、期日についても、「現行どおり」が52.3%〜78.7%と最も多くなっている。 (5)学校の関与、慣行については「維持しつつ必要な見直しを行う」が多数 高校生の就職に関する高等学校の関与及び就職慣行の在り方についての基本的な考え方としては、すべての調査対象で「現在の関与や慣行を維持しつつ必要な見直しを行う」とするのが47.5%〜63.8%と最も多くなっている。 4就職者の就職後の状況等 (1)就職者のうち初職を離職した者は約1割 就職者のうち、「高校卒業時の就職先で引き続き働いている者」が8年度卒業者では85.9%、10年度卒業者では92.7%、また、定職に就いている者が、8年度卒業者では94.3%、10年度卒業者では96.2%となっている。 (2)「自分の意志で辞めた」者が約8割 ア高校卒業時の就職先を離職した時期は、8年度卒業者では、「1年以内」が35.2%、「1年から2年以内」が33.0%、「2年以降」が31.9%となっている。 イまた、離職の理由としては、8年度卒業者、10年度卒業者ともに、「自分の意志で辞めた」がそれぞれ85.7%、79.2%となっている。 (3)転職希望をもつ者は4割から5割 就職者の今後の希望としては、「今の仕事を続けたい」が8年度卒業者、10年度卒業者ともに48.4%、58.3%と最も多いが、なんらかの転職希望をもっている者は、8年度卒業者で49.3%、10年度卒業者で38.4%となっている。 5未就職卒業者の卒業時及び卒業後の状況等 (1)未就職卒業者の約6割が在学中は「就職を希望」 ア未就職卒業者の在学中の進路希望は、8年度卒業者、10年度卒業者それぞれ「就職を希望していた者」が57.2%、63.5%、「進学や就職以外にやりたいことがあった者」が27.7%、25.7%、「何もしたくなかった者」が15.1%、10.8%となっている。 イ就職しなかった理由としては、「採用されなかった者」が8年度卒業者で37.2%、10年度卒業者で50.7%、「希望する求人がなかった者」がそれぞれ23.0%、21.2%、「どの仕事に向いているか分からなかった者」がそれぞれ20.8%、14.2%となっている。 ウ未就職卒業者が、卒業時就職しなかったことをどう思っているかをみると、「自分が何をやりたいか分からなかったのでやむを得ないとする者」が8年度卒業者で27.1%、10年度卒業者で21.9%となっており、10年度卒業者では、「もっと就職について真剣に考えて努力すればよかったとする者」も20.6%となっている。 (2)アルバイト・パートに従事が約半数 未就職卒業者のうち、「定職に就いている者」は、8年度卒業者で43.7%、10年度卒業者で24.9%となっている。「アルバイト・パートで働いている者」は、8年度卒業者で38.6%、10年度卒業者で56.7%、「仕事に就いていない者」は、8年度卒業者で10.9%、10年度卒業者で10.4%となっている。 (3)転職希望を持つ者は約6割 未就職卒業者の今後の希望としては、「今の仕事を続けたい者」が、8年度卒業者で29.9%、10年度卒業者で27.9%となっている。なんらかの転職希望をもっている者は、8年度卒業者で57.7%、10年度卒業者で59.8%となっている。 |
-- 登録:平成21年以前 --