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21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議

2001/1 答申等
21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜 (最終報告)

第3章  特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応について

1  障害の状態等に応じた指導の充実方策
1−1  障害の重度・重複化や社会の変化に対応した指導の充実

1.障害の重度・重複化や社会の変化に対応して、指導の一層の充実を図るため、盲・聾・養護学校は、個別の指導計画、自立活動、総合的な学習の時間の実施や地域における体験活動、交流活動の充実などについて、地域や児童生徒等の実態に応じた創意工夫した取組に努めること。

2.養護学校に在籍する日常的に医療的ケアが必要な児童生徒等への対応については、教育関係機関と福祉、医療関係機関がそれぞれの機能をより効果的に果たすための相互の連携の在り方や医師、看護婦、養護教諭、教諭、保護者による対応の在り方、養護学校における医療機関と連携した医療的バックアップ体制の在り方等について検討を行い、その成果を踏まえ指導の充実を図ること。

(1)盲・聾・養護学校においては、小・中学校等に準ずる教育を行うとともに、障害に基づく種々の困難を改善・克服するために、児童生徒等の障害の種類、程度に応じて手厚くきめ細かな指導を行っている。
  近年、障害の重度・重複化や多様化、早期からの教育的対応の必要性の高まり、高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化など障害児を取り巻く環境が急速に変化している。こうした変化に適切に対応するため、盲・聾・養護学校は、福祉、医療、労働等の関係機関と連携しながら地域の状況や児童生徒等の実態等に応じた教育活動を展開する必要がある。
  盲・聾・養護学校の学習指導要領は、完全学校週5日制の下で「特色ある教育」を展開し、児童生徒等に自ら学び自ら考える力、豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力など、「生きる力」を育成することをねらいとし、児童生徒等の障害の重度・重複化や社会の変化等を踏まえ、一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かな指導を一層充実することなどを基本方針として、平成11年3月に改訂されたところである。
  新しい学習指導要領においては、障害の状態を改善・克服するための指導領域である「養護・訓練」について、自立を目指した主体的な教育活動を一層推進するため、名称を「自立活動」に改め、目標や内容の見直しを図るとともに、自立活動や重複障害の児童生徒等の指導に当たっては、「個別の指導計画」を作成することとしたところである。また、各学校が児童生徒等や地域の実態等を踏まえ、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開できるよう「総合的な学習の時間」を創設するなどの改善を図ったところである。
  今後、盲・聾・養護学校においては、新しい学習指導要領の改善の趣旨が生かされるよう、自立活動、個別の指導計画、総合的な学習の時間などについて、地域や児童生徒等の実態に応じ、学校の創意工夫を生かした取組の充実に努めることが求められる。また、盲・聾・養護学校は、夏季休業中の登校日等の在り方や地域における体験活動、交流活動の充実などについて児童生徒等一人一人の障害の状態に応じた指導を工夫することが求められる。
  国においては、先進的な事例を取り上げた事例集等を作成・配布するなど、各学校の取組を促進し、全国的な普及を図っていくことが求められる。

(2)また、養護学校において、日常的に医療的ケアが必要な児童生徒等への対応が求められている。この課題については、これまで国から都道府県教育委員会に委嘱し調査研究を行ってきたが、今後は教育関係機関と福祉、医療関係機関がそれぞれの機能をより効果的に果たすための相互の連携の在り方や医師、看護婦、養護教諭、教諭、保護者による対応の在り方、養護学校における医療機関と連携した医療的バックアップ体制の在り方等について引き続き実践的な研究を行うことが必要である。こうした研究の成果等を踏まえ、国においては、緊急時の対応も含め、日常的に医療的ケアが必要な児童生徒等に対する盲・聾・養護学校における対応の在り方を整理し、これを基に指導の充実を図ることが必要である。

(3)なお、自閉症児への教育的対応については、知的障害を伴う場合は、知的障害養護学校や知的障害特殊学級で、知的障害を伴わない場合は、情緒障害特殊学級、情緒障害の通級指導教室等で対応することとなっている。  
  知的障害を伴う自閉症児については、知的障害養護学校等でこれまで培われた実践により、卒業後の望ましい社会参加を実現している例も多いが、知的障害教育の内容や方法だけでは適切な指導がなされない場合もあり、知的障害と自閉症を併せ有する児童生徒等に対し、この二つの障害の違いを考慮しつつ、障害の特性に応じた対応について今後も研究が必要である。
  このため、これまで国立特殊教育総合研究所、大学、特殊教育センターなどにおける自閉症児への指導方法等に関する数多くの調査研究の成果を踏まえ、今後、国は、知的障害を伴う自閉症児への教育と知的障害を伴わない自閉症児への教育の違いを考慮しつつ、知的障害養護学校等におけるより効果的な指導の在り方について調査研究を行う必要がある。

(4)また、近年、障害の重度・重複化が進む中で、通学にかかる時間を考慮したり、児童生徒等の障害の状態等に応じた指導の充実を図ることを目指して、知的障害養護学校や肢体不自由養護学校等が培ってきた指導内容・方法を活用しながら、様々な専門性を有する教員の協力体制や複数の障害に対応した施設・設備を整備し、障害種別を越えた知的障害と肢体不自由を併置した養護学校を設置している事例がある。こうした取組に当たって、併置校における施設の国庫補助は、障害の種類に応じて必要な面積を適用することとされており、自立活動を担当する教員も児童生徒の障害の状態を踏まえ配置されている。現在、国においては、研究開発学校を指定し、障害種別の枠を超えた教育課程の在り方、学校の組織運営体制や指導体制の在り方、教職員や施設・設備などの教育条件の整備等について基礎的な研究を行っているところであり、今後こうした研究の成果を踏まえ、重度・重複化に対応した養護学校の教育内容や障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方等について検討していく必要がある。都道府県教育委員会等においては、今後、各県の取組事例や国における検討を参考にしながら、地域の実態に応じてこうした障害の重度・重複化に対応した取組を工夫することが望ましい。
   なお、盲、聾の重複障害のように特別なコミュニケーション手段が必要な場合や、健康面についての配慮を要する極めて障害が重度な重複障害の場合には、特に障害の状態に配慮しながら指導する必要がある。このため、国立特殊教育総合研究所や国立久里浜養護学校等におけるこれまでの研究の成果を踏まえ、国や教育委員会等においては、教員の専門性の向上や成果の普及、教育相談の充実を図る必要がある。

 

1−2  学習障害児、注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児等への教育的対応

1.学習障害児、注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児等通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒等に対する指導の充実を図るためには、その実態を把握し、判断基準や指導方法を確立することが必要であること。 このため、これらの特別な教育的支援を必要とする児童生徒等の実態や指導の状況等について全国的な調査を行うとともに、その成果を踏まえ、教員の専門性を高めるとともに教育関係者や国民一般に対し幅広い理解啓発に努めること。 2.学習障害児への教育的対応については、一人一人の学習障害の状態に応じた指導方法を確立するため、全国的な実態調査の成果等を踏まえ、実践的な研究を行うこと。また、都道府県及び市町村教育委員会においては、学習障害の実態把握のための体制を整備するとともに、専門家による各学校への巡回指導により、指導方法の充実に努めること。 3.注意欠陥/多動性障害(ADHD)児や高機能自閉症児等への教育的対応については、国立特殊教育総合研究所における調査研究の成果等を踏まえ、更に調査研究を行い、判断基準等を明らかにするとともに、効果的な指導方法や指導の場、形態等について検討すること。

(1)いわゆる学習障害とは、一般に「全般的な知的発達に遅れはないが、読み書き等のうち特定のものの習得と使用に著しく困難を示す」状態を指す。学習障害の実態については、国内外において学習障害の定義や判断基準が様々であるため、十分明らかになっていない。文部省においては、これまで調査研究協力者会議を設置して検討を行い、平成11年7月に学習障害の判断基準や実態把握等についての試案を提言した報告書がまとめられた。今後、この試案に基づき、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒等の実態や指導の状況等について全国的な調査を行うことが必要である。
   また、この全国的な調査や注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児、学習障害児等への教育的対応に関する調査研究の成果を踏まえ、指導を担当する教員の専門性を高めることや教育関係者や国民一般への幅広い理解啓発に努めることが必要である。

(2)国においては、全国的な実態調査や国立特殊教育総合研究所における学習障害児への指導方法等に関する調査研究等の成果に基づき、一人一人の学習障害の状態に応じた指導方法を確立するための実践的な研究を行うことが必要である。また、都道府県教育委員会や市町村教育委員会においては、各学校において学習障害の実態を把握するための組織づくりを行うとともに、各学校における実態把握を支援するため、専門家によるチームを構成して各学校等への巡回指導を行うことなどにより、学習障害に対する実態把握の体制の整備と指導方法の充実に努めることが必要である。
   なお、学習障害に対する指導体制については、上記の調査研究の成果等を踏まえ、通級による指導の対象の可能性について引き続き検討する必要がある。

(3)また、注意欠陥/多動性障害(ADHD)児や知的障害を伴わない自閉症である高機能自閉症児などの通常の学校に在籍する児童生徒等については、まだ原因が究明されておらず、研究機関や国立大学附属養護学校等においてその判断基準や指導方法等を確立するための取組が進められている。このため、国において、これまでの国立特殊教育総合研究所における注意欠陥/多動性障害(ADHD)児や高機能自閉症児等への指導方法に関する調査研究の成果等を踏まえ、今後、注意欠陥/多動性障害(ADHD)児や高機能自閉症児等への教育的対応に関する調査研究を行い、判断基準等について明らかにするとともに、効果的な指導方法や指導の場、形態等について検討することが必要である。
  また、高機能自閉症児への教育は、現在、かん黙や習癖の異常などのいわゆる情緒障害児と同様に情緒障害教育の対象として主に情緒障害特殊学級等において行われている。しかし、自閉症は中枢神経系の機能不全による発達障害とされている一方、いわゆる情緒障害は、主として対人関係の軋轢などの心因性によるものとされている。
  このように、自閉症児と心因性の情緒障害児に対する指導内容や方法は異なるにもかかわらず両方とも情緒障害教育の対象となっていることから、それぞれの特性に応じた指導が適切に行われていない場合もある。このため、今後、高機能自閉症児への教育と心因性の情緒障害児への教育の違いを考慮しつつ、両者に対する教育的対応の在り方を見直していく必要がある。

 

1−3  最新の情報技術(IT)を活用した指導の充実

1.最新の情報技術(IT)を活用して障害のある児童生徒等が障害に基づく種々の困難を改善・克服し、自立や社会参加を促すため、一人一人の障害の状態等に応じた情報機器等の研究開発を行うとともに、情報技術(IT)を活用した指導方法や体制の在り方について検討を行うこと。

2.訪問教育を受けている児童生徒や入院中の児童生徒等がマルチメディアを活用して学習意欲を高めたり、社会とのつながりを強めるため、これまでの研究の成果を踏まえ、盲・聾・養護学校においてマルチメディアの積極的な活用に努めること。

(1)障害のある児童生徒等については、最新の情報機器や情報ネットワークにより障害を補完したり、学習を支援する補助手段として活用することなどにより障害に基づく種々の困難を改善・克服し、社会とのコミュニケーションを広げ、新たな情報技術(IT)や能力を切り拓いて自立や社会参加を促すことが重要である。
  近年の情報技術(IT)の進展により、例えば、視覚障害者のための点字や音声による入・出力が実現している。また、運動機能に障害がある人のための種々のスイッチの開発等によってこれまで困難とされてきたコンピュータやインターネットを活用した新たな職域も開拓されることになり、その結果、社会参加や就労への道が大きく広がるなど、障害のある児童生徒等が社会に積極的に参加することが可能になってきている。情報技術(IT)を活用して社会参加や就労を目指した指導を行う等の取組を行う際には、企業や地域の人々の協力を得ることが重要である。
  平成12年3月末現在、公立の盲・聾・養護学校においては、99.6%の学校に平均15.3台の教育用コンピュータが設置されており、インターネットの接続率は59.9%である。今後、平成17年度までに、すべての学級のあらゆる授業においてコンピュータ等を活用できる環境を整備することとされている。
  このように情報機器を整備し、情報ネットワークを活用することにより遠隔地間の共同授業が実施できたり、今まで手に入りにくかった他の地域の教育情報の入手が容易になるなど、最新の情報技術(IT)による教育内容・方法の充実が期待される。
  こうしたことを踏まえ、特殊教育における情報機器等の活用については、一人一人の障害の状態等に応じた情報機器(周辺入出力機器を含む)や学習支援ソフト等を整備したり障害に基づく種々の困難を改善・克服し、自立や社会参加を促すための様々な場面での活用の在り方について検討する必要がある。
  このため、国においては、国立特殊教育総合研究所における情報機器等を活用した指導方法に関する調査研究の成果や産業界の動向、研究成果等を踏まえ、今後、最新の情報技術(IT)を活用して一人一人の障害の状態等に応じた指導方法や体制の在り方等について調査研究を行い、先進的な事例を紹介したり、指導の在り方等について指導資料等を作成して、各学校に配布する等により、特殊教育関係教職員の情報機器活用能力の向上に努める必要がある。
  なお、後述するように、盲・聾・養護学校において、児童生徒等の特別な教育的ニーズに応じた指導を可能にするため、情報ネットワーク環境や最新の情報機器等の設備を計画的に整備することが必要である。

(2)マルチメディアを活用して院内学級と本校、病室と病弱養護学校を情報通信手段で結んで行う補充指導については、これまで文部省において「マルチメディアを活用した補充指導に関する調査研究」を実施してきたが、障害のある児童生徒が学習意欲を高めたり、社会とのつながりを強めるなど大きな成果をあげている。こうした研究の成果を踏まえるとともに、近年の情報技術(IT)の進展により学校間や学校と家庭との双方向の交流が可能となっていることを考慮すると、今後、障害が重度であるため通学できず訪問教育を受けている児童生徒や入院中の児童生徒等に対して、マルチメディアを積極的に活用して指導の充実を図ることが望ましい。その際、児童生徒等への指導に当たっては、教員との人間的なふれあいが不可欠であることに留意しながら実施する必要がある。

 

2  盲・聾・養護学校、特殊学級及び通級による指導の今後の在り方について
2−1  地域の特殊教育のセンターとしての盲・聾・養護学校の機能の充実

1.盲・聾・養護学校は、その専門性や障害に対応した施設・設備を生かして、早期からの教育相談を実施したり、幼稚園等の障害のある幼児を指導するなど、地域の特殊教育に関する教育相談センターとしての役割を果たすこと。

2.盲・聾・養護学校は、その専門性や施設・設備等を生かして、地域の小・中学校や幼稚園等に対して、求めに応じて教材・教具や情報機器等を貸し出したり、盲・聾・養護学校の教員が小・中学校等の教員に対して情報提供したり、小・中学校等の教員が盲・聾・養護学校を訪問して研修するなど、小・中学校や幼稚園等への支援センターとしての役割を果たすこと。

(1)盲・聾・養護学校においては、障害の状態等に対応した指導方法・内容について専門性を培っており、通常の学級に在籍する学習障害等の特別な教育的支援が必要な児童生徒等への対応に寄与することが期待される。また、近年、盲・聾・養護学校と小・中学校等や地域の人々との様々な交流活動が展開されるようになっている。こうしたことを踏まえ、盲・聾・養護学校は、その専門性や障害に応じた施設・設備を生かして地域の特殊教育のセンターとしての役割を果たすことが必要である。

(2)平成11年3月に改訂した盲・聾・養護学校の学習指導要領等においては、盲・聾・養護学校は、「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある児童若しくは生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談センターとしての役割を果たすよう努めること。」とされている。今後、障害のある児童生徒等の特別な教育的ニーズに応じた教育を行うためには、早期からの教育相談を実施したり、幼稚園や保育所等にいる障害のある幼児を指導するなど、地域の特殊教育に関する教育相談センターとしての役割を果たすことが必要である。

(3)また、盲・聾・養護学校においては、その専門性や障害に応じた施設・設備を生かして地域の特殊教育のセンターとして、地域の小・中学校や幼稚園等を様々な方法により支援することが必要である。例えば、盲・聾・養護学校においては、児童生徒等の障害の状態等に応じて教材・教具を開発したり、障害の種類、程度等に応じた情報機器を整備し、それらを活用した情報教育が行われているが、今後、盲・聾・養護学校においては、こうした取組の成果を生かして、都道府県の特殊教育センター等と連携しながら、小・中学校等の求めに応じて、小・中学校等に在籍する障害のある児童生徒等の指導の充実を図るため、教材・教具や情報機器等の貸し出し、教育用コンテンツの提供などの支援を行うことが求められる。また、卒業生をはじめ地域の障害者が情報活用能力を身に付けるための情報教育センターとしての役割を果たすことが期待される。
   さらに、盲・聾・養護学校の教員が、小・中学校や幼稚園、保育所等関係職員の相談にのったり、共同で授業研究を行ったり、指導事例や教材その他の関係情報を提供することや、逆に、小・中学校や幼稚園、保育所等の関係職員が、盲・聾・養護学校を訪問して研修を行うことなども重要である。

 

2−2  特殊学級、通級による指導の今後の在り方について

1.特殊学級における教育の充実を図るため、小・中学校においては、特殊学級担当教員だけでなく、学校の教職員全体で支援するとともに、特殊教育に関する知識を有し指導力のある教員や、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務職員等の活用について検討すること。

2.通級による指導の充実を図るため、小・中学校においては、学校の教職員全体の理解を得るとともに、通常の学級の担任は、通級指導担当教員との連携を密にし、ティームティーチングを活用して指導を行うこと。また、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務職員等の活用について検討すること。

(1)小・中学校に設置されている特殊学級の設置学校数は約1万8千校であり、全学校数に占める割合は約50%で、児童生徒全体に占める在籍率は年々増加している。また、それらの学校には、複数の学年にまたがる児童生徒が在籍したり、児童生徒の障害の状態が多様化し、それに応じて複数の教育課程が必要となるなど児童生徒の特別な教育的ニーズに応じた指導の充実を図ることが必要となっている。
   また、特殊学級と通常の学級との交流は積極的に行われるようになっており、児童生徒が社会性や豊かな人間性をはぐくむとともに、障害のある児童生徒に対する理解と認識を推進することにつながっている。さらに、平成10年12月に改訂した小・中学校学習指導要領において、「障害のある児童(生徒)などについては、児童(生徒)の実態に応じ、指導内容や指導方法を工夫すること。特に、特殊学級又は通級による指導については、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うこと。」と新たに規定されており、特殊学級における教育について担当教員だけでなく、学校全体で支援していく体制をつくることが必要である。また、各学校においては、特殊学級における教育の充実を図るため、特殊教育に関する知識を有する指導力のある教員や非常勤講師、特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務職員等の活用についても検討することが望ましい。

(2)また、小・中学校の通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒に対して、特別の場で特別な指導を行う「通級による指導」については、平成5年に学校教育法施行規則第73条の21に規定され、実施された。対象児童生徒数は、当初は1万2千人であったが、平成12年度には2万8千人となり、著しく増加している。通級による指導は、通常の学級に在籍しながら特別な教育的ニーズに応じて指導を受けることが可能であり、今後も増加することが予想される。通級による指導には、児童生徒が在籍校で通級による指導を受ける自校通級方式、在籍校とは別の学校に通う他校通級方式、他校の教員が巡回して指導する方式があるが、地域の実態に応じて児童生徒の負担に配慮しながら、通級による指導の充実を図る必要がある。また、通級による指導を受けている児童生徒の学級担任は、通級による指導担当教員と連絡を密にして、当該児童生徒の特別な教育的ニーズに十分配慮して指導を行うことが必要である。
   このため、通級による指導の一層の充実を図るためには、通級指導担当教員だけで対応するのではなく、各学校において、学級担任をはじめすべての教職員の理解を得て学校全体で支援する体制をつくり、通常の学級において授業を受ける際、ティームティーチングを活用することなどの工夫を行うことが望ましい。
   また、小・中学校の通級指導担当教員が盲・聾・養護学校の教員に障害のある児童生徒への指導方法等について相談し、指導、助言をうけることができるというような支援体制をつくるなど、小・中学校と盲・聾・養護学校との連携を図ることも重要である。さらに、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務職員等を活用して、通常の学級における軽度の障害のある児童生徒に対する指導体制の充実を図ることが望ましい。

(3)なお、特殊学級及び通級による指導における教育の充実を図るため、a.学校全体としての支援体制の在り方やb.盲・聾・養護学校による小・中学校への支援の在り方等について、特殊学級や通級による指導の実態を踏まえ調査研究することが必要である。

 

3  後期中等教育機関への受入れの促進と障害のある者の生涯学習の支援について

1.盲・聾・養護学校高等部への進学希望者の状況等を踏まえ、各都道府県においては、高等部の整備及び配置、高等養護学校の設置促進等について検討を行い、地域の実態に応じた整備に努めること。
   また、高等学校では、障害のある生徒の入学者選抜における配慮や障害に応じた施設の整備に関する取組を引き続き進めること。

2.生徒の職業的自立を促進するため、就業を支援する方策について実践的な研究を行い、その成果を踏まえ、盲・聾・養護学校は、保護者や企業、労働、福祉関係機関等と連携しながら、障害のある生徒の在学時から卒業後にわたる個別の就業支援計画を策定すること。

3.障害のある児童生徒等が、社会の一員として主体的に活動し、自立し、社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うため、福祉団体やボランティア等の協力を得て各地域の様々な活動等の機会を充実するとともに、活動に関する情報を提供し、体験活動の充実に努めること。

4.教育委員会は、障害のある者が学校を卒業した後も地域の中で自立し、社会参加することができるよう福祉関係機関や福祉団体等と連携して生涯にわたる学習機会の充実に努めること。
   盲・聾・養護学校は、その専門性や施設・設備を生かして、障害者のための生涯学習を支援する機関としての役割を果たすこと。また、放送大学は更なる充実を図るとともに、障害者の受講等に対して一層配慮すること。

(1)盲・聾・養護学校の高等部は、職業に関する各種の専門学科を設置したり、普通科の中に専門コースを設置するなど、生徒の実態に応じて多様な職業教育を実施しており、生徒の自立や社会参加のために重要な役割を果たしている。盲・聾・養護学校中学部及び中学校特殊学級卒業者の盲・聾・養護学校等の高等部等への進学率は年々増加し、平成12年度は88.7%となっている。しかし、中学校卒業者の高等学校等の進学率が97%であることと比較すると、障害のある生徒の後期中等教育の機会を更に充実する必要がある。このため今後とも、進学希望者の状況等を踏まえ、各都道府県教育委員会においては、地域の実態に応じて盲・聾・養護学校等の高等部や高等養護学校を整備するよう努めることが必要である。なお、高等部の整備に当たっては、生徒がより身近な地域で教育を受けることができるよう、できる限り適正配置に努めることが望ましい。
  また、高等学校では、障害のある生徒の入学者選抜において、各高等学校、学科等の特色に配慮しつつ、その教育を受けるにたる能力・適性等を判定して行うという基本的な考え方の下に、障害があることのみをもって不合理な取扱いがなされることがないよう障害の種類や程度に応じて、点字・拡大文字による受検、別室受検、ヒアリングに代わる筆記問題、検査時間の延長、代筆解答などの特別な措置が講じられている。また、学校施設については、障害のある人がその障害の程度に応じた十分な教育を受けられるようにするため、スロープ、エレベータ、障害者用トイレ等施設のバリアフリー化が進められている。今後も、障害のある生徒が、その能力と適性等に応じて後期中等教育の機会の充実が図られるよう、各高等学校において、こうした取組に努めることが期待される。
  なお、障害のある者が、その能力・適性等に応じて高等教育機関で十分な教育を受けることができるよう各大学等においては、受験機会の確保に努め、障害の種類や程度に応じて試験時間、出題・回答の方法、試験場等について特別な配慮を行うとともに、必要な施設・設備や手話通訳、ノートテイカーなどの学習支援の一層の充実を図ることが期待される。

(2)また、盲・聾・養護学校の児童生徒の障害の重度・重複化や近年の経済状況を反映して、高等部卒業後の進路が多様化している。今後、生徒の職業的自立を促進するためには、新たな職域開拓が期待される専門学科の設置を進めるとともに、盲・聾・養護学校が、保護者や、企業、労働、福祉関係機関等と連携しながら、児童生徒の障害の状態等に応じた職業教育や進路指導を充実する必要がある。このため、都道府県教育委員会等において、公共職業安定所、地域障害者職業センター等の関係機関や企業、経済団体等で構成する継続的な就業支援体制を整備するとともに、盲・聾・養護学校が中心となって関係機関と連携して、障害のある生徒の在学時から卒業後にわたる個別の就業支援計画を策定し、就業支援の充実を図ることが求められており、国は、こうした取組を推進するための実践的な研究を行うことが必要である。
  なお、盲・聾・養護学校の高等部の専攻科については、近年、就職環境の悪化や国家試験の専門性の向上等、厳しい状況にあるため、専門的な教育内容・方法の充実を図る必要がある。

(3)近年、ノーマライゼーションの進展により、障害のある者が住んでいる地域社会の中で、積極的に活動し、その一員として豊かに生きることが重視されるようになっている。このことは、居住地から離れた学校に就学することが多い盲・聾・養護学校の児童生徒等にとって大きな課題となっている。
  このため、夏季休業日など長期休業中の過ごし方や平成14年度からの完全学校週5日制の実施も見据え、教育委員会は、学校、地域社会との連携を図りながら障害のある児童生徒等が、社会の一員として主体的に活動し、自立し、社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うため、地域において自らボランティア活動を行ったり、地域の学校施設等において文化、芸術、スポーツなどの様々な活動を行ったり、福祉団体やボランティア等の協力を得て地域の様々な活動に参加する等の機会を充実するとともに、活動に関する情報を提供し、体験活動の機会の充実に努めることが望ましい。
  さらに、障害のある児童生徒等が様々な活動を行う際にボランティアの協力が必要な場合、地域の生涯学習ボランティアセンターにおいて人材を紹介したり、相談を受けつけるなどその活動を支援するための体制の整備が重要である。
  また、国においては、盲・聾・養護学校の児童生徒等が、地域の同年代の子どもを含めた地域の人々と交流し、様々な活動を通して、自立し、社会参加するための方策について実践的な研究を行う必要がある。

(4)障害のある者が学校を卒業後、地域の中で自立し、社会参加するためには、教育委員会が、福祉関係機関や福祉団体等と連携するとともに、学校が福祉等の関係施設と協力して生涯にわたる学習機会の充実を図り、障害者のための生涯学習を支援することが必要である。
  このため、盲・聾・養護学校においては、その専門性を生かして障害者のために専門学科等の施設・設備を活用してパソコン教室、木工教室、ガーデニング教室等の公開講座を開催したり、障害者の生涯学習に資するよう広く地域の住民に対し運動場や体育館、プールなど学校の施設を開放したり、障害者の理解やコミュニケーション技法の習得、地域のボランティアリーダーの養成等を行うボランティア講座を実施するなどの取組を行うとともに、卒業生の生活・就労を支援する地域の団体等に対してノウハウを提供するなどして、生涯学習を支援する機関としての役割を果たすことが重要である。
  また、放送大学については、時間的・空間的制約のない学習機会を提供する観点から、更なる充実をはかり、障害者の受講等に対して一層配慮することが重要である。

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