第2  具体的に実施すべき施策とその目標

1  新しい時代の幼稚園教育を実現するための振興施策

  新しい時代の幼稚園教育の実現に向けて、施策を総合的に展開する観点に立って、以下、(1)幼稚園の教育活動・教育環境の充実、(2)幼稚園における子育て支援の充実、(3)幼稚園と小学校の連携の推進、(4)幼稚園と保育所の連携の推進について、条件整備の方策を提唱する。

(1)幼稚園の教育活動・教育環境の充実

ア  幼稚園教育要領の理解の推進
  幼稚園教育要領の趣旨や内容について、研究協議会の開催等により、幼稚園関係者等の理解を深める。また、幼稚園の教育内容・方法や活動に関するわかりやすい資料の提供などにより、保護者、地域の人々等の理解を得るよう努める。

イ  道徳性の芽生えを培う教育の充実
  幼児期にふさわしい道徳性の芽生えを培う教育を充実するため、実践研究の実施と成果の提供を図るとともに、指導の参考となる具体的な取組を示した資料の提供・活用を図る。

ウ  満三歳児入園の条件整備
  希望する満三歳児の入園機会を十分確保する観点に立って、幼稚園就園奨励費補助や私学助成の充実を図るとともに、満三歳児入園に関する実践研究の実施と成果の提供を図る。

エ  ティーム保育の導入・実践のための条件整備
  幼稚園全体の協力体制を高め、きめの細かい指導の工夫を図るため、ティーム保育の導入・実践のための条件整備を進める。このため、私立幼稚園に対する補助の充実や公立幼稚園の財政基盤の強化を図る。
  これに関連して、1学級の幼児数の基準は、一人一人の発達の段階や年齢に応じて、きめの細かい保育を行う上での上限であることに鑑み、地方公共団体や幼稚園において適切な運用を図る。

オ  幼稚園教員の資質向上
  教員研修については、専門性の育成の観点からの研修内容の充実、園内研修の充実、各種合同研修の実施等園外研修の充実を図る。園外研修を受けやすくするための体制の確保、研修教材の開発・提供、情報通信技術の活用等の条件整備に努める。
  幼稚園教員の資質向上に関して、施策をより体系化・具体化するため専門的な調査研究を進める。

カ  幼稚園の施設整備の推進
  幼稚園の施設整備費補助について、補助基準面積の改定を踏まえ、所要の事業量を確保し、新しい教育内容・方法に対応した保育空間、子育て支援活動等弾力的な幼稚園運営が円滑に行われる施設空間として、幼稚園教育の場にふさわしい施設の整備充実を図る。

キ  幼稚園就園奨励事業の充実
  入園料、保育料の動向等も勘案しつつ、特に、第1子に比べて第2子、第3子以降の幼児の就園に係る保護者負担の軽減を念頭に、充実に努める。

  幼稚園教育の内容・方法については、初等中等教育における教育課程全体を通じた改訂の一環として改訂された幼稚園教育要領が、平成12年4月から実施に移されたところであり、今後、その趣旨が実践を通して定着し、実効をあげていくための努力が極めて大切な段階を迎えている。
  このため、幼稚園教育の根幹である教育内容・方法の面に関しては、教育課程編成の基本についての共通理解の推進、それに基づく教育活動の十全な展開とこれを支える幼稚園全体の教職員の協力体制、各教員の資質の向上等の人的環境の充実、さらには、多様な教育活動のための施設空間の確保等の物的環境の確保、幼稚園教育に係る保護者の経済的負担の軽減、といった課題に早急に取り組む必要がある。

ア  幼稚園教育要領の理解の推進
〔幼稚園教育要領の理解の推進〕
  幼児期の生活は、本来遊びを中心としており、遊びは幼児の活動の根幹として大切にされなければならないものである。この場合、遊びの本質は、幼児の内面からの成長の欲求に沿った形で、周囲の事物や他の人たちと多様な仕方で応答し合い、そのかかわり合いそのものを楽しみ、喜びとしていくことにある。幼児期における遊びには、試行錯誤、成功や挫折、葛藤等を含め、この時期の人間の成長や発達にとって不可欠な体験が多く含まれている。幼稚園教育では、こうした幼児期の特性を踏まえ、遊びを通して総合的に指導を行うことを重視している。
  しかし、幼稚園における遊びを通しての総合的な指導の下で、幼児一人一人が発達に必要な経験を積み重ねていくためには、幼児の発達を見通し、それぞれの時期にふさわしい発達が可能となるよう必要な教育内容・方法を明らかにして、計画性のある指導を行うことが大切である。このため、各幼稚園における教育課程の編成が重要な意味をもつことになり、教育課程の基準の改訂に伴い、その趣旨や内容について幼稚園関係者の理解の推進を図っていくことが極めて重要である。特に、幼稚園教育要領は、教師の役割を重視し、「教師は、幼児一人一人の活動の場面に応じて、様々な役割を果たし、その活動を豊かにしなければならない」等としており、その在り方等について、研究協議会の開催等により幼稚園の園長や教員等の理解を更に深めていくことが重要である。
  また、教育内容・方法の基準となる幼稚園教育要領・学習指導要領は、初等中等教育における教育課程全体を通じた改訂が行われており、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の関係者が各々他の教育課程についても理解を深めることが重要と考える。

〔保護者、地域の人々の理解・協力〕
  幼児の主体的な活動を重視した保育の展開ということについては、一部の幼稚園においては、その趣旨を誤解して、幼児の活動に対して教育的な働きかけが不十分となり放任したままで保育が行われる例もあった。一方、幼稚園教育では遊びを幼児にとって重要な学習として重視していることについて、単に漫然と遊ばせているだけという理解不足も社会の一部にみられる。こうした誤解が幼稚園教育の条件整備の推進に必要な社会的理解を得ていく上で、マイナスの影響を及ぼすことも懸念される。幼稚園関係者においては、このことに留意して、幼稚園教育要領の趣旨の理解を深めるとともに、保護者はもとより社会に向けた情報の発信に努力し、幼稚園教育の内容・方法や幼稚園の諸活動について、周知を図っていくことも重要となっている。行政においても、パンフレットの作成等により、わかりやすい資料の提供を幅広く進める必要がある。
  また、各幼稚園において、幼稚園教育要領の趣旨に沿った教育を展開していく観点から、幼稚園の教職員のみならず、保護者や地域の人々との協力体制をつくることが大切である。そのためには、地域の人々を幼稚園に招待したり、幼児が地域の施設を利用したりする機会を通して、保護者や地域の人々が保育に参加する場を積極的につくりながら、広く幼稚園教育に対する理解を得ることが重要である。
  さらに、教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」(平成12年12月)を踏まえ、各幼稚園においては、
一   幼児の生活や発達に即してどのようなねらいを持ち、どのような指導計画を作成しているかなど、具体的な教育課程の編成状況
二   どのような点に園としての重点を置いたり特色を生かしたりして指導したかなど、事実としての教育課程の実施状況
三  ティーム保育など園全体の協力体制による指導をどの程度取り入れているかなど、指導方法や指導体制の工夫改善の状況
四  年度当初に立てられた指導目標がどの程度実現されたか、「生きる力」の基礎となる心情、意欲、態度はどのように育ったのかなどの状況 などの自己点検・自己評価を行い、指導の改善に生かす必要がある。また、その結果を保護者や地域の人々へ十分説明し、意見を聞くことにより、幼稚園教育への信頼を高めていくことが重要である。

イ  道徳性の芽生えを培う教育の充実
  学校教育においては、幼稚園段階から高等学校段階まで、発達段階に応じて道徳教育が行われており、幼稚園においては、幼稚園生活全体を通じて、幼児の主体的な活動としての遊びを通じた総合的な指導の中で、道徳性の芽生えを培うように指導が行われている。
  幼稚園教育要領においては、特に、幼児期にふさわしい道徳性の芽生えは、幼児が、家庭や幼稚園で他者と共に生活し、他者とのやりとりを重ねていく中で培われていくことを重視して、一.よいことや悪いことに気付き、考えながら行動すること、二.きまりの大切さに気付き、守ろうとすること、三.友達とのかかわりを深め、思いやりをもつことなど、指導内容・方法の充実が図られたところである。
  このような幼児期にふさわしい道徳性の芽生えを培う教育の充実を図るため、現在、地域を指定した実践研究が行われている。今後もこれを一層推進し、その成果の活用を図る必要がある。なお、研究成果の全国的な普及・活用を考慮し、各都道府県で実施できるようにすることが望まれる。
  また、平成12年9月から幼稚園における道徳性の芽生えを培うための事例集を作成するため協力者会合が開催されており、教師が指導を進める際の参考となるよう具体的な取組を示した資料を作成・提供することとされている。同資料がすべての幼稚園等に広く配布され、活用されるようにすることが望まれる。

ウ  満三歳児入園の条件整備
  近年、少子化や地域社会の変容が進行する中で、遊び相手や集団活動を求めて低年齢から短時間の集団保育を望む保護者の要望の高まりが見られること等を考慮して、平成12年度から、制度的には従来から可能であった満三歳児に達した時点での幼稚園入園について、幼稚園就園奨励費の補助対象化や私学助成費の適用拡大の措置が行われたところである。今後、希望する満三歳児の入園については、機会が十分確保されるようにする観点に立って、引き続きその充実に努めることが重要である。
  また、同じ満三歳児でも、この時期の発達段階から見て、家庭での経験の差や個人差によって違いが大きく、地域の実情の多様さともあいまって多様な保育展開が予想されるため、随時入園や月毎・学期毎の定期入園など様々な保育形態について、望ましい教育内容・方法、留意点等に関し、先導的、実践的な調査研究が実施されている。このことを踏まえ、幼稚園教育要領の趣旨に沿って、各幼稚園が状況に応じた保育を展開しやすいよう成果の提供を図ることが重要である。なお、実践研究については、研究成果の全国的な普及・活用を考慮し、各都道府県で実施できるようにすることが望まれる。

エ  ティーム保育の導入・実践のための条件整備
〔ティーム保育の必要性〕
  今後の幼稚園教育において、幼稚園教育要領に示された教育内容の改善に沿って、各幼稚園が実りある保育実践をしていくためには、個人の活動、グループでの活動、学級全体での活動等が多様な形態で展開されることが必要である。また、幼児の直接的・具体的生活体験を豊富なものとするため、自然体験や社会体験のために園外に出かけるなど、園内外を視野に入れた多様な保育実践も求められている。
  このような中で、多くの幼児が散開したり、同時に並行し、流動性をもって行う遊びなどの諸活動を、一人の教師がすべて掌握するという考え方は実情になじみにくく、学級を基本としながらも、その枠を越えた柔軟な指導方法をとることが必要である。また、幼児はかかわる相手に応じて様々な側面を見せることから、複数の教師が協同して保育にあたり、幼児一人一人の良さや可能性がひらかれていくようにすることも大切である。すなわち、幼稚園教育要領の趣旨を実効あるものとするためには、園長がリーダーシップをとりながら、幼稚園全体の協力体制を高め、きめの細かい指導の工夫を図ることが必要となり、複数の教師が協同して保育にあたる、ティーム保育の導入・実践が不可欠なものとして求められる。

〔ティーム保育の特色・留意点等〕
  ティーム保育には、例えば、数名の教員が2学級以上の指導にあたる方法、園外保育などを学級を単位としてではなくグループごとに行う方法、複数の教員が学級の担任となる方法などがあり、指導の場面や各幼稚園の実情に応じて様々な方法が考えられる。いずれの場合においても、ティーム保育における教師間の関係を、例えば、主と従といった固定した関係としてとらえることなく、それぞれの教師の持ち味を生かしながら、ティーム保育を行うことにより、幼児一人一人の人とのかかわりや様々な経験を広げ、その力を発揮できるようにすることが大切である。
  このようなティーム保育の導入や展開に当たっては、日常の保育での情報を交換し合い、多面的に見ていくことから、幼児理解を深め、教師の役割を分担したり、幼児とのかかわり方を共有化したりするなど、教師間の日常的なコミュニケーションの充実を図ることが大切である。また、幼児の実態や発達に即した必要な援助や指導が効果的に進められるよう、教師間の役割などを様々に工夫し、流動的かつ柔軟性のある体制を幼稚園全体で考えていくことも大切である。
  また、これに関連して、1学級の幼児数については、現在、35人以下を原則とすることになっているが、一人一人の発達の段階や年齢に応じてきめの細かい保育を行う上で、この規模はあくまでも上限であることに留意することが重要である。現在、すでに各地方公共団体や各幼稚園の工夫や負担により、きめの細かい指導を行うため、教員1人当たりの幼児数を減らすなどの取組が行われてきている。特に、集団的な教育の場に初めて入る三歳児については、家庭での経験の差や個人差が大きい時期であり、発達の側面から一人一人への対応がとりわけ必要となることから、教員1人当たりの幼児数について更に配慮するなどの取組が行われてきたところであり、それらの取組を支援することが必要である。

〔ティーム保育の導入・実践のための条件整備〕
  これらを踏まえ、ティーム保育のより効果的な導入・実践のための条件整備を積極的に進める必要がある。このため、私立幼稚園に対する補助の充実や公立幼稚園の財政基盤の強化を図ることが必要である。
  さらに、これに関連して、1学級の幼児数の基準は、一人一人の発達の段階や年齢に応じて、きめの細かい保育を行う上での上限であることに鑑み、地方公共団体や幼稚園において適切な運用が図られることが必要である。

オ  幼稚園教員の資質向上
  幼稚園教育が社会の期待に応え、その成果をあげるためには、教育内容・方法の改善とともに、幼児にとって教育環境の中核ともいえる教員に優れた人材を得ることや、その資質向上を図っていくことが極めて重要である。その際、教員の養成、採用、研修、処遇などの面で様々な課題があり、これらは密接に関係しているため、幅広い資質向上策を講じる必要がある。
  その中でも、教員の研修については、当面、以下のような取組を充実することが重要である。

(ア)  幼稚園教員の専門性として求められることは、幼児一人一人の内面を理解し、信頼関係を築きつつ、集団生活の中で発達に必要な経験を幼児自らが獲得していくことができるように環境を構成し、援助する力である。これまでの幼稚園教育において、保育技術といえば、活動を展開するために必要な技術や集団をまとめる技術等と受け止められることが多く、いわば実技志向が中心となるところがあった。これからの幼稚園教育においては、主体的な判断力や省察、状況に応じて保育を具体的に構想し実践する力といった幼児の内面の理解から保育を創造する実践志向が求められ、こうした観点から研修内容の充実を図ることが重要である。
  さらに、幼児を取り巻く環境の変化を踏まえ、教師の様々な役割の中で、一.三歳児や障害のある幼児等特別な教育的ニーズを有する幼児に応じられる専門性、二.幼児の健康や医学に係る知識、保護者とのかかわりにおけるカウンセリングマインドなど教育相談に応じられる専門性、三.学校教育や生涯発達の見通しをもった幼児期の教育の専門性なども求められ、こうした観点からも研修内容を検討する必要がある。
  その際には、指導的立場にある教員の育成となる研修及び教員全体の資質向上となる研修の両面から条件整備方策を検討することが必要である。

(イ)  園内研修については、研修内容が固定的になりがちであり、その充実を図るためには、一.職員規模による制約の問題の検討、二.園長のリーダーシップの重要性等を踏まえた管理職に対する研修の充実、三.研修支援教材、記録・評価方法の開発等研修を支える環境の整備という観点が重要となっている。
  また、園外研修については、一.国公私立幼稚園の合同研修、二.幼稚園と保育所の合同研修、三.幼稚園と小学校の合同研修の実施、四.隣接市町村による合同研修の実施、五.医療・福祉関係機関との合同研修、六.指導主事、小学校教員、盲・聾・養護学校教員等の助言者としての活用、などの取組が重要である。その際、園外研修を受けやすくするため、研修派遣中の代替教員の確保、勤務体制の改善、研修会の休日開催などの条件整備に努めることが必要である。
  これに関しては、最近、一.研修期間中の代替教員の採用経費について私立幼稚園に対する補助が図られたこと、二.国・公立学校の現職の教員が、大学院で学び専修免許状を取得するために、1年から3年の間、休業できる大学院修学休業制度が創設されたことなど、条件整備が進みつつあり、その活用に努める必要がある。

(ウ)  各都道府県においては、一.新規採用教員に対する基礎的な研修、二.指導的立場にある中堅教員に対する保育の専門的力量を高めるための研修、三.管理的立場にある園長や教頭に対する見識を高め指導力の一層の向上を図るための研修などを実施し、すべての教員がその教職経験と職能に応じ適切な時期に必要な研修に参加することができるよう、研修の機会の確保、充実が図られてきている。また、幼稚園訪問指導や研修資料の作成・配布などが行われてきている。今後もこれらの活動の充実に努める必要がある。
  その際、一.ビデオ教材など研修効果を高める研修用資料・教材の研究開発・提供を促進すること、二.国公私立すべての幼稚園を視野に入れた実施を促進すること、三.教員養成大学等の教員等による幼稚園訪問指導の機会の拡大に努めること、などの取組を進める必要がある。

(エ)  最近、「エル・ネット(教育情報衛星通信ネットワーク)」を活用して研修の模様を配信する例が増えており、また、インターネットが広く普及してきている。このような動向を踏まえ、今後も、情報通信技術を活用し、衛星通信による研修の配信やインターネット等による研修情報等の提供を推進するとともに、研修教材の開発・提供、受講の場の確保等の条件整備を進める必要がある。
  さらに、教育職員養成審議会第3次答申「養成と採用・研修との連携の円滑化について」(平成11年12月)においても指摘されているとおり、幼稚園教員については、相当数の教員が行政職として採用されるなど、給与や研修等の面で教員として扱われていない状況が見られるため、その資質の維持・向上を図るためにも、各任命権者において教育職として採用することが望まれる。

  このように、幼稚園教員の資質向上に関しては、教員の養成、採用、研修、処遇などの面で様々な課題があることから、施策をより体系化・具体化していくために専門的な調査研究を行うことを求めたい。

カ  幼稚園の施設整備の推進
  今後の幼稚園においては、幼稚園教育要領の趣旨に沿って、個人の活動、グループでの活動、学級全体での活動等を多様な形態で展開させることが必要となるとともに、地域に開かれた幼稚園として、園舎や園庭の開放、子育て相談、子育てサークルとの交流など子育て支援活動や「預かり保育」の展開が求められている。
  このような中で、幼稚園の園舎も時代に対応した教育内容・方法にふさわしい保育空間として、また、弾力的な幼稚園運営が円滑に行われる施設空間として構成されることが必要となっている。 このため、平成11年度には、幼稚園の園舎に対する施設整備費補助について、遊戯室の拡充や相談室、PTA室、図書室の整備が可能となるよう、国庫補助基準面積を引き上げるとともに、新たに預かり保育室を設置する場合には、補助基準面積にさらに一定の面積が加算されるなどの制度の改善が図られたところである。
  今後、その趣旨が十分生かされ、実効をあげるよう、公立及び私立の幼稚園の施設整備費補助について所要の事業費を確保し、幼稚園教育の場としてふさわしい施設の整備・充実を図っていく必要がある。
  また、幼稚園施設の在り方に関しては、幼稚園施設の計画・設計上の留意点を示した幼稚園施設整備指針が平成5年3月に取りまとめられ、各都道府県教育委員会等に示されている。この整備方針について、改訂された幼稚園教育要領等をも踏まえ改訂を検討する必要がある。
  さらに、障害のある幼児や園庭や園舎の開放により幼稚園を利用する高齢者、身体障害者等に配慮した、幼稚園施設のバリアフリー化の推進も必要である。
  なお、各幼稚園における創意工夫を図る上で、幼稚園関係者や団体等が建築の専門家等を含め幼稚園施設の在り方に関して調査研究を進めることが期待される。

キ  幼稚園就園奨励事業の充実
  幼児を通園させている保護者の年齢が相対的に若いことなどから、教育に伴う経済的負担が大きく、就園の機会を確保するため、入園料、保育料の負担の軽減策は重要であり、特に、二人以上の幼児を就園させる場合の保護者の負担の軽減について更に配慮が求められる。
  このため、幼稚園に在園している幼児の入園料、保育料を保護者の所得状況に応じて減免し、その経済的負担の軽減を図るとともに、公私立幼稚園間の保護者負担の格差是正を図ることを目的として、幼稚園就園奨励費補助が実施されている。平成12年度には、二人以上の幼児が就園している場合の負担の軽減を図るため新たな改善措置が導入されたところである。
  今後、幼稚園教育の機会の一層の確保・充実を図るためには、この幼稚園就園奨励事業について、入園料、保育料の動向等も勘案しつつ、特に、第1子に比べて第2子、第3子以降の幼児の就園に係る保護者負担の軽減を念頭に、充実に努めることが必要である。

(2)幼稚園における子育て支援の充実


ア  幼稚園運営の弾力化
  多様化している保護者と地域のニーズに応えられるよう、幼稚園運 営の弾力化を図り、地域の幼児教育のセンターとしての子育て支援機 能を一層充実する。

イ  「預かり保育」の推進
  地域の実態や保護者の要請に応じて、希望のあるすべての幼稚園で 「預かり保育」を実施できるよう推進する。このため、私立幼稚園に 対する特別補助の充実を図るとともに、公立幼稚園の財政基盤の強化 に努める。
  また、実践研究の成果を活用して、各幼稚園の取組事例の紹介や、実 践面に関する参考ないしガイドライン的な資料の作成・提供を進める。

ウ  子育て支援活動の推進
  子育て支援活動に関する総合的な実践研究を実施するとともに、私 立幼稚園に対する特別補助の充実、公立幼稚園の財政基盤の強化を図 る。また、インターネットの活用を含め、子育て支援ネットワークの 充実を図る。

エ  異年齢・異世代交流の推進
  幼稚園児と高校生との交流等の実践研究を更に進め、充実を図る。 また、中学生、小学生との交流についても推進を図る。

  幼稚園においては、適切な教育課程を編成し、幼児期にふさわしい教育を行うという基本的な観点が重要である。これとともに、子どもと触れ合う経験が乏しかったり、周囲に子育てに関する相談相手のない保護者や、仕事の都合上、日頃子どもと接する機会が少ない保護者が、もっと子育てにかかわり、子どもと豊かな関係を持てるよう働きかけるという意味で、「保護者自身が保護者として成長する場を提供していく」という視点が重要になっている。
  例えば、保護者が、幼稚園での保育参観や保育参加により自分の子ども以外の子どもにもかかわることを通じて、自分の子どもが普段自分に見せない一面を知る、子どもとの関係をより立体的・多面的にとらえ直すなど、次第に視野が広くなり、子どもとの関係がゆとりのある豊かなものになっていくきっかけが生まれることが期待される。また、子育ては保護者にとって大変なものであるという面ばかりがイメージされがちな傾向もみられるが、子育てはとても楽しいものでもあり、様々な深い喜びを経験できるものでもあるという面を積極的に知ってもらうことが大切である。これらを通じて、幼稚園が「親と子の育ちの場」となることが期待される。
  その際、変化が著しく、生き方の価値が多様化してきている社会では、子育てにおいて父親の役割がますます重要となってきており、特に、人間形成の基礎が培われる幼児期においては、父親とも一緒に様々な生活体験を重ねることを通して生きる世界の楽しさや厳しさをより多く知ることが大切である。このような観点から、これまで子育てにかかわることが少なかった男性が幼稚園の活動や子育てに積極的に参加することが重要となっている。
  また、子育て支援については、地域に開かれた幼稚園として、園庭開放・余裕教室の活用、子育てサークルとの交流、地域の大人の様々な活動等地域の教育力の活用、インターネットの活用などにより、地域のネットワークを生み出す子育て支援活動を展開することが重要である。これらを通じて、保護者を含めて地域の人々に社会全体で子どもを育てるという考え方が深まっていくことを期待したい。

ア  幼稚園運営の弾力化
  以上のような視点を踏まえ、幼稚園においては、幼児教育の専門施設であること、幼児を持つ保護者との交流ができること等その特質を生かした形の子育て支援に積極的に対応することが必要であり、保護者と地域の多様なニーズに応じた弾力的な運営を行うことが重要となっている。
  幼稚園教育要領においては、「教育課程に係る教育時間の終了後に希望する者を対象に行う教育活動」や「地域の幼児教育のセンターとしての役割」などが明示されており、「預かり保育」や種々の子育て支援活動などが明確に位置付けられたところである。これらの活動については、近年、地域によっては支援策も講じられつつあるが、今後、保護者と地域のニーズに十分応えられるようにする観点に立って、幼稚園運営の弾力化を図り、地域の幼児教育のセンターとしての子育て支援の機能を一層充実する必要がある。このため、特に、以下のような方策を講じる必要がある。
  なお、その実施に際しては、安全面や補償給付面に配慮すること、保護者が子育て自体を幼稚園に肩代わりしてやってもらえるというような感覚をもつ等安易な風潮を助長しないこと、教員の確保や教材等の面の負担増大に配慮すること、教育課程の実践・充実等幼稚園教育の本質を見失わないことなどに留意することが必要である。

イ  「預かり保育」の推進
  各幼稚園においては、子育て支援等の観点から、通常の教育時間の前後や長期休業期間中などに、地域の実態や保護者の要請に応じて、希望する者を対象に、「預かり保育」が行われるようになってきている。
  「預かり保育」については、各幼稚園では、幼稚園の規模や対象となる人数等の実情に応じて指導体制を整備し、幼児一人一人が安心して過ごすことができるための保育の工夫や家庭への配慮がなされてきている。具体的には、一.家庭的な雰囲気のある保育室の環境づくり、二.地域行事への参加や異年齢との交流など「預かり保育」ならではの経験を取り入れた保育の内容の工夫、三.家庭との連絡帳の作成、などの取組が行われている。しかし、一部には、通常の教育時間の活動との連携・協力体制がとりにくい、日々人数が異なるので見通しを持った指導ができにくい、毎日同じような保育の内容になりやすいなどの指摘もあり、適切な「預かり保育」を実施するための工夫を図ることが重要である。
  「預かり保育」を実施している幼稚園の割合は、平成9年の約3割に対し、平成12年は約5割となっている。「預かり保育」については、地域の実態や保護者の要請に応じて、希望のあるすべての幼稚園で実施できるよう取り組むことが重要である。このため、私立幼稚園に対する特別補助の充実を図るとともに、公立幼稚園の財政基盤の強化に努めることが必要である。
  また、「預かり保育」の実施に際しては、教育課程に基づく活動との関連、幼児の心身の負担、家庭との緊密な連携などに配慮することが必要である。「預かり保育」に関しては、これまで地域を指定して実践研究が行われてきているが、その成果を活用して、各幼稚園が状況に応じた適切な保育を実施できるよう、各幼稚園の取組事例の紹介や、実践面に関する参考ないしガイドライン的な資料の作成・提供を進めることが必要である。

ウ  子育て支援活動の推進
  近年の少子化、核家族化などの社会状況の変化が進む中で、幼児が生活している家庭や地域社会、あるいは幼児自身の生活は、大きな影響を受けており、育児に不安感を抱く保護者や近隣に相談できる友人等がいない保護者の増加などといった様々な状況が指摘されている。また、父親が子育てに参加する機会が少ないという従来からの状況は、依然として続いている。
  これらを踏まえ、幼稚園については、未就園児を含め近隣の親子が気軽に遊び、触れ合い、子育てに関する経験を交流したり、悩みの相談に応じたりするなど、地域の幼児教育のセンターとして、その施設や機能を地域に開放し、積極的に子育てを支援していく役割を果たすことが期待されている。
  具体的には、各幼稚園においては、保護者と地域のニーズに応じて創意工夫を行い、例えば、教育の専門家による子育て相談、カウンセラーによる子育てカウンセリング、子育てシンポジウム、保護者の交流のための井戸端会議、未就園児の親子登園、園庭・園舎の開放、子育てだより等子育て情報の提供、子育てサークル等の支援などの取組が行われている。今後とも、これらの子育て支援活動を一層推進することが必要となっている。
  その際には、教員に対し障害やカウンセリングに関する専門的な知識を育成すること、保護者が気軽に相談できる体制や心理学や教育学等の専門家による支援体制を確立すること、保護者、特に父親の保育参観・保育参加など男性の子育てへの参加を促進することが重要である。また、一人一人の保護者に対してタイミングのよいアドバイスをすることや相手の立場を尊重した丁寧な教え方が必要である。こうした中で、保護者の声を子育て支援活動の場で聞くことで教師もともに育つことが重要であり、また、教員の養成面や研修面、待遇面における配慮や改善も望まれる。
  こうした子育て支援活動は、幼稚園が主体的な立場に立ちつつ、適切な計画性をもって行うことが重要であり、また、幼稚園の通常の教育活動と子育て支援活動の間をつなぐコーディネーター的な役割を果たす人の存在が重要となっている。   現在、地域を指定した実践研究として、「幼稚園における子育て支援活動の推進事業」が実施されているが、今後、これを更に総合的に実施し、子育て支援活動の一層の展開を図る必要がある。なお、実践研究は、研究成果の全国的な普及・活用を考慮し、各都道府県で実施できるようにすることが望まれる。
  また、私立幼稚園に対する子育て支援活動の推進のための特別補助の充実や公立幼稚園の子育て支援活動の推進のための財政基盤の強化を図ることが必要である。

エ  異年齢・異世代交流の推進
  最近の家族構成では、幼児がいる家庭には中学生・高校生など年齢の離れた兄弟姉妹がいないなど、異年齢交流の機会に乏しい傾向がみられる。中学生・高校生等の保育体験学習など地域の異年齢の子どもとの交流は、幼児にとって貴重な体験となるばかりでなく、中学生・高校生にとっても年下の子どもと接する楽しさを実感し、子育ての喜びや大切さ、親の役割等について自ら認識を深め、考える機会などにもなる。例えば、自分が卒園した幼稚園を来訪し、幼稚園時代の自分を投影することにより、注がれた愛情の大きさを再確認した例や不登校になりがちな生徒が年下の子どもたちとのかかわりをもち信頼を得ることによって立ち直った例もみられる。
  また、幼稚園において、地域の行事に参加したり、老人福祉施設を訪問するなど、地域の大人との様々な触れ合いや交流を深めることは、幼児の社会体験・直接体験を豊かにするとともに、地域住民が喜びや生きがいを感じる機会を提供することにもなる。
  なお、こうした交流体験を行うに当たっては、相手側と事前や事後の話し合いを行い、幼児期の発達や幼稚園の生活について十分な理解を得ることが重要である。
  異年齢・異世代交流については、幼稚園を地域に開放して、高校生に子育ての喜びを共感させるとともに、幼児の様々な体験活動の充実を図るような実践研究が実施されている。こうした実践研究を更に進め、充実を図ることが望まれる。また、地域の実情に応じて、中学生、小学生などとの交流についても配意する必要がある。

(3)幼稚園と小学校の連携の推進


ア  教員間、幼児・児童間、保護者間の交流の推進
  幼稚園と小学校の連携・交流の機会を充実し、両者の共通理解を進める観点から、幼稚園・小学校における総合的な連携方策の開発・推進を図る。このため、地域を指定した総合的な調査研究を実施する。

イ  幼稚園と小学校の教員免許の取得に関する改善と併有機会の充実
  教員免許の取得に係る履修科目の取扱いの一層の弾力化を検討する。
  また、通信制、夜間の課程、科目等履修生制度の活用等を含め、幼稚園と小学校の現職教員が相互の教員免許を取得する機会を充実するための環境整備を図る。

  学校教育については、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月)において、初等中等教育と高等教育のそれぞれの役割が明確に示されているとともに、幼児教育から高等教育までの全体を通じた連携・接続の課題が指摘されている。
  このような課題に取り組む際には、それぞれの学校段階の特質を踏まえつつ、幼児・児童・生徒がその間の段差を乗り越え、移行が円滑に行われるように接続を図 ることが重要である。特に、幼稚園教育と小学校低学年段階の教育においては、幼稚園と小学校が連携し、幼児期にふさわしい主体的な遊びを中心とした総合的な指導から、児童期にふさわしい学習等の指導への移行を円滑にし、一貫した流れを形成することが重要となっている。それは、もとより幼稚園の年長段階において、小学校教育の先取りをすることではなく、小学校入学前までの幼児期にふさわしい教育を行い、その充実、発展として小学校教育を位置付けていくことである。また、子どもが幼稚園から小学校に入学する時に体験する緊張感など、幼稚園と小学校の間のある程度の段差は、子どもの成長にとって必要なことでもあるが、同時に、子ども自身がその段差を乗り越えて成長していくためには、幼稚園、小学校のそれぞれの教員が共通の子ども理解をもち、互いの教育に対して理解を深めることが重要である。
  しかし、実際には、幼稚園と小学校の連携・交流の機会は十分とはいえず、両者の共通理解が進んでいない状況がみられる。平成12年3月に文部省からの委嘱研究の最終報告書として取りまとめられた「学級経営をめぐる問題の現状とその対応」においても、幼稚園と小学校の教員間の連携・協力が十分できていたら学級がよりうまく機能したであろう事例が挙げられている。

ア  教員間、幼児・児童間、保護者間の交流の推進
  これらを踏まえ、幼稚園と小学校の間の様々な取組を通じて連携の充実が図られることが重要であり、例えば、次のような教員間の交流、幼児と児童の間の交流、保護者間の交流を進めることが考えられる。
(ア)  教員間の交流については、相互理解を深めるためには、一日限りの行事的な研修ではなく、双方の教員が参加した定例的な会議の設定や合同校内研修の開 催等日常的な情報交換・継続的な交流が重要である。特に、幼稚園教員と小学 校低学年の担当教員は、緊密な情報交換をしながら共通理解を得ておくことが 大切である。また、幼稚園において体育・音楽・図工等の小学校教員の協力を 得ることも有効と考えられる。こうした取組を行うに当たっては、一方のニー ズのためでなく双方の学びの場になること、担当教員のみでなく学校全体の教 員の意識を高めることが重要である。
(イ)  幼児と児童の間の交流については、一.運動会、学芸会、遠足等の合同行事の実施、二.園庭の相互開放、合同給食等日常的な合同活動の実施、三.生活科・総合的な学習の時間への幼児の参加等保育・授業への相互参加など様々な取組を行うことが可能である。こうした交流は、幼児と小学校低学年の児童のみならず、中学年や高学年の児童と行うことも有意義である。いずれの場合においても、幼児期、児童期のそれぞれの発達の時期を踏まえつつ、交流の仕方を工夫し、幼児が年長者に対する憧れや成長への期待をもったり、児童が自己表現や成長の喜びを体験したりするなど、互いに有意義な体験を得られるようにすることが大切である。これらの取組は、幼児や児童の双方にとって貴重な異年齢交流の機会であり、また、教師にとっても日常とは異なる幼児や児童の姿を発見する機会となる。
(ウ)  保護者間の交流については、幼稚園と小学校の合同の保護者会や講演会・シンポジウムの開催、幼稚園と小学校の合同行事の際の交流やPTA活動の交流などが考えられる。幼児の保護者にとって、子育てのより長い経験をもつ小学生の保護者との情報交換は子育て支援としての意義も大きい。また、小学校入学にまつわる保護者の不安感や過剰な期待を解消することにもつながり、小学校教育への理解を得ることもできる。さらに、小学生の保護者にとっては、改めて我が子の成長を実感し、親子関係をふりかえって、今後の在り方を考える機会となるので、双方の立場から実り多いものとなるような交流の仕方を工夫することが望まれる。

  これらの幼稚園と小学校の間の様々な取組を通じて連携の充実が図られるよう、各地方公共団体等においては、地域の実情に応じ、市町村内の幼稚園と小学校の連絡協議会の開催や、市町村内や隣接市町村の幼稚園と小学校による合同研修、都道府県内の幼稚園と小学校による合同研修の実施などにより、連携の取組を促進することが重要である。
  その際には、研修が、一.共通の課題についての合同研究、二.幼稚園教育要領と小学校学習指導要領の相互学習や保育・授業への相互参加等教育内容・方法の相互理解のための研修、三.校長、園長等地域の指導的立場にある者に対する意識啓発のための研修など、様々な観点に立ったものとなるよう配慮することが必要である。
  また、国においては、これらを踏まえ、実践研究の実施や研究開発学校制度の活用を含め、幼稚園と小学校における総合的な連携方策の開発・推進を図ることが求められる。例えば、地域を指定して、幼・小連携に関する総合的調査研究を実施することが効果的な推進のために必要である。なお、総合的調査研究は、研究成果の全国的な普及・活用を考慮し、各都道府県で実施できるようにすることが望まれる。

イ  幼稚園と小学校の教員免許の取得に関する改善と併有機会の充実
  幼稚園と小学校の間の教員の人事交流や相互理解を進める観点から、幼稚園と小学校の教員免許の併有の機会を拡大することが効果的である。このためには、幼稚園と小学校の教員免許状の取得に係る履修科目の取扱いの一層の弾力化を図り、更に一方の免許状を取得する場合の履修科目の単位の一部を他方の免許状を取得する場合の履修科目の単位に充てることができるようにすることを検討することが必要である。また、通信制、夜間の課程、科目等履修生制度の活用等を含め、幼稚園と小学校の現職教員が相互の教員免許を取得する機会を充実するための環境整備を図ることが必要である。
  さらに、幼稚園教員及び小学校教員の養成については、幼稚園と小学校の双方で実習することや教員を希望する学生が日常的に学校現場を体験できるようにすることなど、特に教育実習等の在り方についても検討することが必要である。

(4)幼稚園と保育所の連携の推進

  

幼稚園と保育所は、それぞれの制度の中で整備充実に努めてきているが、文部科学省は厚生労働省と共通の協議の場等を設けつつ、施設の共用化、教育内容・保育内容の整合性の確保、合同研修の実施、子育て支援に係る事業の連携実施など、両施設の連携強化に努めてきており、以下のような項目等について、引き続き連携を図る。

ア  幼稚園・保育所の共用施設に係る運営等の実践研究の実施

イ  幼稚園関係者と保育所関係者による研修の相互参加等、教員・保育士間や幼稚園児・保育所入所児間の交流の促進

ウ  文部科学省と厚生労働省の共同による連携の事例集の作成等今後の地域の取組に資する参考資料の作成・提供

エ  養成課程の充実、科目等履修生制度の活用等幼稚園教員免許と保育士資格の併有機会の充実

  幼稚園と保育所は、異なる目的や役割を有する施設であり、それぞれの制度の中で整備充実に努めてきている。一方、両施設とも小学校就学前の幼児を対象としていること等から、文部科学省と厚生労働省は、近年、共通の協議の場等を設けつつ、一.施設の共用化の指針の策定、二.教育内容・保育内容の整合性の確保、三.幼稚園教員と保育士の合同研修、四.子育て支援事業の連携実施など両施設の連携強化に努めてきており、引き続きその推進を図っていくことが重要である。
  各地方公共団体等においては、地域の実情に応じ、施設の共用化等、教員と保育士の合同研修、幼稚園と保育所の子育て支援に係る事業の連携実施などに努めているが、今後もこれらの取組を引き続き推進することが必要である。

ア  文部科学省では、幼稚園・保育所の共用施設について、運営形態、教育内容、職員の勤務体制、職員の研修等に関し、望ましい在り方を明らかにするために、研究協力施設を指定し、実践的な研究が行われているが、引き続き進める必要がある。

イ  教員と保育士の研修の実施や子育て支援事業の実施に関し、幼稚園関係者と保育所関係者による研修の相互参加の推進、相互の保育参観の実施、合同行事・合同反省会等の実施、情報交換の促進、地域における幼稚園と保育所の連絡協議会の開催、子育て相談等における連携・協力などの取組を推進することが考えられる。
  また、園庭・公園での合同保育、遠足・運動会等の合同行事など、幼稚園児と保育所入所児が様々な触れ合いをもつようにすることが有意義である。これら異年齢児との交流やふだん交流のない乳幼児との交流を行うことは相互にとって良い刺激となることに留意する必要がある。

ウ  これらを含めた幼稚園と保育所の連携の取組には、近年、多様な地域の実情やニーズに沿って、実績が挙がったり、緒についてきた例もみられる。そうした事例等について、文部科学省と厚生労働省は協力して収集を行っているところであり、それらの成果を活用して今後の地域の取組に資する参考資料を共同で作成・提供することが望まれる。

エ  さらに、施設の共用化等に伴い、幼稚園教員と保育士の人事交流が進むことや双方の免許や資格を有する人材への需要が高まることが考えられる。幼稚園教員免許と保育士資格の併有機会を更に充実するため、双方が取得できるよう養成課程の充実や、科目等履修生制度等現職者に配慮した仕組みを活用することが必要である。

 

2  幼児期の家庭教育及び地域社会における子育ての支援施策


  

幼児期の家庭における教育の充実や地域で子どもを育てる環境の整備を図るため、国は、以下の施策を推進する必要がある。幼稚園においても、幼稚園の基本を生かす中で、地域の一員として、こうした施策の活用に関心を払い、各幼稚園の実情に応じつつ、これらの地域の諸活動との連携を図ることが有意義と考える。

ア  家庭教育を支援していくため、地域における子育てに関する学習活動を推進する。特に、地域の母子保健活動や小学校入学前に行われる就学時健康診断の機会を活用して、家庭教育に関する講座等が開設さ れることを奨励する。

イ  親の悩みや不安等に関する相談に、電話等によりいつでも対応できる相談体制を各都道府県に整備する。

ウ  子育てやしつけに関して不安や悩みをもつ親に対して、相談にのったり、アドバイス等を行う「子育てサポーター」を配置し、学校の余裕教室等において交流事業を実施するなど、地域における子育て支援 ネットワークを形成する。

エ  しつけなど、家庭での教育の実態や家庭・子育てに関する意識などについて調査研究し、その成果の活用を図る。

オ  心身のしなやかさとたくましさをもち、夢のある子どもを地域で育てるため、様々な活動機会についての情報提供や自然体験などの体験活動等の機会と場の提供を図る。

  なお、子育てと仕事の両立に向け、育児休業その他の制度や各種の取組の充実が望まれる。

  本報告は、幼稚園教育の振興方策を中心としているが、幼児期の教育の充実を図っていく上では、国は、幼稚園教育の充実とともに、家庭教育への支援や地域で子どもを育てる環境の整備に関する施策を積極的に推進することが必要である。
  これらの施策に基づく様々な取組は、都道府県や市町村などの公的な機関や地域の社会教育施設や各種の社会教育関係団体・グループ等によって、連携・協力を図りながら実施されている。幼稚園においても、幼稚園の基本を生かす中で、地域の一員として、こうした施策の活用に関心を払い、各幼稚園の実情に応じつつ、これらの地域の諸活動との連携を図ることが有意義と考える。

ア  従来から家庭教育を支援していくため、公民館等において家庭教育に関する学習機会の提供が行われているが、自ら進んで学習機会を求める親の参加が主となっている。家庭の教育力の充実を図るためには、家庭教育に無関心な親などを含め、より広く、より多くの親に働きかけ、しつけなど家庭教育の在り方について考える機会を提供することが重要である。
  このため、ほとんどの親が訪れる地域の母子保健活動や小学校入学前に行われる就学時健康診断の機会を活用して、家庭教育を支援する施策を充実することが望まれる。
  具体的には、これらの機会に、家庭教育に関する講座等を開設することや、家庭教育の資料を作成・配布することなどが考えられる。なお、家庭教育の支援に市町村の果たす役割は大きいことから、家庭の教育力の充実のために、教育委員会の体制の整備を図る必要がある。

イ  地域社会での人間関係が希薄化している今日、子育てやしつけについて不安や悩みを持つ親が増えている。
  このため、家庭教育について、公的な機関や地域の社会教育施設や各種の社会教育関係団体・グループ等の連携・協力によって、いつでも気軽に悩みを相談し、必要な助言が得られる相談体制の充実を図ることが望まれる。例えば、親の悩みや不安等に関する相談に、家事を終えた後や、夜間、精神的に不安定になるようなケースでも、電話等により24時間いつでも対応できる相談体制を各都道府県等に整備することが望まれる。

ウ  少子化の進行とともに、都市化、核家族化が進み、祖父母や近所の人たちに子育てについて相談したり、助けてもらったりすることが難しくなっている状況に ある。
  このため、子育てやしつけに関して不安や悩みをもつ親に対して、子育て経験のある人が気軽に相談にのったり、きめ細かなアドバイス等を行う「子育てサポーター」を配置するとともに、学校の余裕教室等において様々な交流事業を実施することなどにより、地域に親同士のネットワークの形成を促すことが重要である。さらに、公的な機関や地域の社会教育施設や社会教育関係団体・グループ等をつなぐネットワークが形成されることにより、子育て支援体制の充実が図られ ることが期待される。
  幼稚園においては、地域や各幼稚園の実情に応じて、これらのネットワークの一員として、連携を図ることが有意義と考える。

エ  地域で子どもを育てる環境が急激に変化している中、家庭教育の重要性について見つめ直し、考える機会を提供する等の観点から、しつけなど家庭での教育の実態や家族・子育てに関する意識などについて調査研究し、その成果の活用を図る必要がある。

オ  子どもが多様な体験をしていくためには、各地域において多様な青少年教育施設、文化施設等を活用して異年齢集団による体験活動を推進していくことが必要である。現在、平成14年度からの完全学校週5日制の実施に向けて、平成11年度から13年度までの3年間に、地域で子どもを育てる環境を整備し、親と子どもの様々な活動を振興する体制を整備するために策定された「全国子どもプラン(緊急3ヶ年戦略)」の一環として、子どもの体験活動等の情報提供を行う「子どもセンター」の全国展開が1,000ヶ所程度を目標に進められている。また、関係省庁と連携して、子どもの体験活動の機会と場の充実といった取組が始まっている。本協力者会合は、幼稚園教育において幼児の自然体験・社会体験などの直接的・具体的な生活体験が重視されるとともに、主に、土・日曜日や長期休業日に行われる、これらの子どもの体験活動の機会と場の充実が一層図られるよう望みたい。
  また、これらと関連して、最近、幼児を取り巻く環境が著しく変化している中で、幼稚園において、教師は園外の出来事にも関心を払い、様々な視点から子どもへの理解を深めることが一層重視されるようになってきている。幼児にとっては、家庭での生活と幼稚園での生活は連続して営まれているので、家庭との連絡を緊密にし、これらの休日の幼児の活動等をも理解した上で、日々の保育が一層進むことを期待したい。
  なお、子育てと仕事の両立の促進に向け、国においては、一.希望すれば育児休業を取得できるよう、制度の周知徹底を図るとともに、企業における育児休業制度の定着に向けた指導を行うこと、二.育児のための勤務時間短縮等の措置や育児を行う者の深夜業を制限する制度等の周知、定着を図ること、三.子育てを行う者の時間外労働が長時間にわたる場合に時間外労働の免除を請求することができる制度に関し検討を行うこと、四.育児休業から復帰後の職務や処遇の在り方、短時間勤務制度等子育てに配慮した勤務時間に関する制度、子どもの看護のための休暇制度の在り方等について検討を行うことなどの取組が進められている。また、企業が年次有給休暇とは別に教育休暇制度を導入することなども提言されている。
  本協力者会合は、親ができるだけ子どもと一緒に過ごす時間を増やすという観点も大切にしつつ、これらを含め子育てと仕事の両立を支援する各種の取組が一層進展するよう望みたい。また、関係者において幅広い取組や働きかけが行われることを期待したい。

 

3  各地域における創意工夫を生かした幼児教育の展開等


ア  国は、幼児教育の振興を総合的に推進するための政策プログラムを策定するとともに、各都道府県と市町村が連携して、以下の取組を推進するよう、必要な施策を展開する。
一.  各都道府県や市町村において、幼稚園の整備状況や地域の実情等を考慮し、幼児教育の振興に関する政策プログラムを策定する。
二.  連絡協議会の開催等、関係部局・機関間の連携・協力体制の充実を図る。
三.  市町村における私立幼稚園等の窓口の明確化を図る。
四.  教育活動の実践事例や研修内容のデータベース化、研究センター 等の整備等の環境整備を図る。

イ  各地域における幼稚園の整備に当たっては、幼児の健康と安全に十分留意して、通園可能な範囲に幼稚園を整備するものとする。この場合、既設の幼稚園の配置状況や地域の実情等を勘案すること、公立と私立を通じて適切に幼稚園の整備が行われるようにすることに配慮するものとする。

ウ  国の政策プログラムの実施や各都道府県や市町村における政策プログラムの策定及び実施に際しては、第3次幼稚園教育振興計画の成果も発展・活用できるようにする。

ア  国は、幼児教育の振興を総合的に推進するための政策プログラムを策定するとともに、各都道府県と市町村が連携して、以下の取組を推進するよう、必要な施策を展開する必要がある。
  各地域においては、創意工夫を生かし、実情に応じて様々な幼児教育の展開を 図っていくことが重要であり、これらをより効果的に推進する観点から、
一.  各都道府県や市町村において、幼稚園の整備状況や地域の実情等を考慮し、幼児教育の振興に関する政策プログラムの策定を検討すること
二.  各地域における幼稚園・保育所・小学校の連携を図るため、教育委員会や児童福祉担当課等の関係部局・機関が連携・協力して連絡協議会等を開催するなど体制整備を促進すること
三.  例えば、公立幼稚園、公立小学校等の設置者は市町村であり、私立幼稚園等の認可権者は都道府県となっていることなどを踏まえ、身近な地域における幼稚園と小学校の連携、幼稚園と保育所の連携等を推進する観点から、市町村における私立幼稚園等の窓口を明確化すること
四.  教育活動の実践事例や研修内容のデータベース化、研究センター等の整備等の環境整備を図ることなどの取組を推進する必要がある。

イ  各地域における幼稚園の整備に当たっては、幼児の健康と安全に十分留意して、通園可能な範囲に幼稚園を整備するものとする。この場合、既設の幼稚園の配置状況や地域の実情等を勘案すること、公立と私立を通じて適切に幼稚園の整備が行われるようにすることに配慮することが必要である。

ウ  幼稚園教育の振興については、これまでも幼稚園教育振興計画等に基づいて行われてきたところであり、現在、第3次幼稚園教育振興計画(計画期間:平成3年度〜12年度)に沿って、国において各種の施策が実施されている。また、同計画に基づき、各都道府県や市町村において幼稚園教育振興計画が立案されてきている。
  今回、新たに策定が望まれる国の政策プログラムは、第3次幼稚園教育振興計画の成果を踏まえ、それを更に発展させるものとして位置付けられるべきである。第3次幼稚園教育振興計画に基づいて、各都道府県や市町村において策定されている幼稚園教育振興計画についても、国の新たな政策プログラムを受けた計画として、活かされることが適当と考える。
  なお、国の政策プログラムの推進に当たっては、各都道府県や市町村における 幼稚園の状況や関連施策等を適宜把握し、適切なフォローアップを行うことが必 要である。また、政策プログラムの進展状況等も見極めつつ、必要に応じて、幼稚園設置基準などの関係規定についても検討を加えるとともに、特に必要がある場合には、適宜、政策プログラムの見直しを行うことが重要である。

↑ページの先頭へ