第1 幼児教育の振興に向けた基本的考え方
幼児期は、生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期であり、この時期の教育においては、地域社会の中で、家庭と幼稚園等が十分な連携をとりながら、幼児一人一人の望ましい発達を促していくことが大切である。 特に、幼児教育の専門施設である幼稚園に関しては、以下の視点に立って施策の展開を図るべきである。 ア 幼稚園教育の展開に当たっては、集団生活を通じて、幼児一人一人の発達に応じ、主体的な活動としての遊びを通して総合的な指導を行い、「生きる力」の基礎や小学校以降の学校教育全体の生活や学習の基盤を培うという基本に立って、教育活動・教育環境の充実を図る。 イ 幼稚園の基本を生かす中で幼稚園運営の弾力化を図り、地域の幼児教育のセンターとしての子育て支援機能を活用し、「親と子の育ちの場」としての役割・機能を充実する。 ウ 小学校との間で円滑な移行・接続を図る観点に立って、幼稚園と小学校の連携を推進する。 エ 幼稚園と保育所は、各々の目的や役割を有するとともに、双方とも小学校就学前の幼児を対象としていること等を踏まえつつ、両施設の連携を一層推進する。 また、幼稚園教育の充実とともに、幼児期の家庭教育、地域社会における教育については、家庭教育の重要性について見つめ直し、考える機会の提供や、体験活動の機会の充実など地域で子どもを育てる環境の整備を進める。 |
〔幼児期の教育の重要性〕
幼児期は、大人への依存と信頼を基盤として情緒を安定させて自立に向かう時期であり、その過程で、幼児は、生活や遊びの中で具体的な体験を通して、社会で生きるための最も基本となることを獲得していく。このような幼児期は、生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期である。
この幼児期の教育を考えるに当たっては、子どもの成長は胎児の時期からの連綿とした過程の中で進むものであることを踏まえ、子どもが生まれてからこの時期までの発育の積み重ねを十分に見据えることが大切である。同時に、充実した幼児期の生活が児童期への発達の流れをつくり出していく視点をももつことが必要である。
幼児期の教育を支えるために重要な役割を果たすものは、親子のきずなの形成に始まる家族という親しい人間関係の場としての家庭であり、また、同年代の幼児が一緒に過ごす集団生活の場としての幼稚園等の組織や施設である。さらに、地域の身近な生活において、子どもに様々な人々との交流や豊かな体験を提供している社会教育施設や各種の社会教育関係団体・グループ等がある。これらを踏まえて、幼児期においては、地域社会の中で、特に、家庭と幼稚園等が十分な連携をとりながら、幼児一人一人の望ましい発達を促していくことが大切である。
〔幼児教育と幼稚園教育の役割〕
一般的には、幼児を対象とした組織的・計画的な教育活動を指して幼児教育ということができる。同時に、幼児期の家庭教育、地域の社会教育施設や各種の社会教育関係団体・グループの活動等までをも含み得る、広がりをもった概念として幼児教育をとらえることもできると考えられる。
このような中で、幼稚園は、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする幼児教育の専門施設として、学校制度の一環をなしている。幼稚園においては、幼稚園教育要領に従って教育課程が編成され、教育の専門家である教員によって、適切な施設設備等の下に、組織的・計画的な指導が行われる。その指導方法については、幼児期の発達の特性に照らして、主体的な遊びなどを通して、一人一人に応じた総合的な指導が行われる。これは、例えば、小学校教育において、児童期の発達課題に照らして、国語、算数等の教科を中心とした授業が行われるのと同様のことである。そして、このような特色を通じて、幼稚園教育は、従来から、幼児教育の中心としての役割と機能を果たしてきている。
近年、地域において一緒に遊ぶことができる子どもの数の減少、親の過保護や過干渉、育児不安等の問題が指摘されているとともに、女性の社会進出が進むなど幼児を取り巻く状況が変化している。こうした中で、幼稚園において、幼児期の発達にふさわしい形で計画的に構成された環境の下での集団生活を経験することは、幼児の発達にとって従来以上に大きな意義をもつことが多くなっている。さらに、幼稚園における教育課程の展開とともに、幼児期の家庭教育や地域での社会教育活動と一層緊密に連携した幼稚園運営への期待が高まっている。
また、前述の中央教育審議会報告においては、「幼児教育の専門施設である幼稚園を中核に、家庭、地域社会における幼児の教育をも視野に入れて、幼児教育の全体についての施策を総合的に展開すること」が提言されている。
以上を踏まえ、幼稚園教育を中心に、幼児教育の振興に向けて、以下の基本的な考え方を提唱する。
ア 多くの幼児にとって、幼稚園生活は、家庭から離れて同年代の幼児と一緒に過ごす初めての集団生活であり、教師や他の幼児と生活をともにしながら、感動を共有し、イメージを伝え合うなど互いに影響を及ぼし合い、様々な体験が積み重ねられていく。そのような集団生活を通じて、豊かな人間性や自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、たくましく生きるための健康や体力などの「生きる力」の基礎を培うことが、幼稚園教育の役割となっている。
また、幼稚園教育は、入園までの経験と発達を踏まえるとともに、小学校入学以降の子どもの発達を見通した上で、幼児期に育てるべきことをしっかり育てることを通じて、その後の学校教育全体の生活や学習の基盤を培うという役割も担っている。
そのため、幼稚園教育では、基本的な生活習慣、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を育てるとともに、豊かな自然体験・社会体験、道徳性の芽生えを培う活動、幼児期にふさわしい知的発達を促す体験等の一層の充実を図ること が重要となっている。
イ 一方、少子化、核家族化、女性の社会進出の拡大などの社会の変化が幼児を取り巻く環境にも著しい影響を与えており、これに伴い、保護者と地域のニーズの多様化も進んでいる。
このような状況の下、幼稚園教育については、集団生活を通じ、幼児一人一人の発達に応じて、主体的な活動としての遊びを通して総合的な指導を行うという基本的な考え方を引き続き充実発展させる中で、地域の実情に応じ、幼児教育相談の実施等地域の幼児教育のセンターとしての機能を活用した子育て支援活動やいわゆる「預かり保育」の実施等幼稚園運営の弾力化を図り、社会の変化や保護者と地域のニーズに柔軟に対応することも必要となっている。
また、幼稚園と家庭の連携については、これまで様々な努力が行われてきている一方、家庭の教育力の低下や地域社会における家庭の孤立が指摘されるようになって久しくなってきている。このため、幼児教育を組織的・計画的に行う場としての幼稚園の基本を生かす中で、「保護者自身が保護者として成長する場を提供していく」ことを、地域における幼稚園の重要な役割として提唱するとともに、今後、幼稚園が「親と子の育ちの場」としての役割・機能の充実を図っていくことを強調したい。さらに、これらを通じて、保護者を含めて地域の人々に社会全体で子どもを育てるという考え方が深まっていくことを期待したい。
ウ 幼稚園から高等学校等を見通した学校教育改革の一環として、特に、幼児教育段階においては、幼稚園と小学校が連携し、幼稚園における主体的な遊びを中心とした指導から、小学校における学習等の指導への移行を円滑にし、学校教育としての一貫した流れを形成することが重要となっている。この観点から、各幼稚園と小学校の間の様々な取組を通じて、連携の推進を図る必要がある。
エ 幼稚園と保育所は、各々の目的や役割を有するとともに、双方とも小学校就学前の幼児を対象としていること等を踏まえつつ、両施設の連携を一層推進することが重要である。
また、幼児期の教育を充実するためには、幼稚園教育の充実とともに、幼児期の家庭教育、地域社会における教育については、家庭教育の重要性について見つめ直し、考える機会を提供することや、体験活動の機会を子どもに提供することなど地域で子どもを育てる環境を整備することが重要である。
以上のような視点を踏まえて、国は、以下の諸施策の展開を図るべきである。