少年の問題行動等に関する調査研究協力者会議(第2回) 議事要旨

1.日時

平成12年7月17日(月曜日) 10:00~12:30

2.場所

虎ノ門パストラル「桜」(5階)

3.出席者

文部科学省

御手洗初等中等教育局長、徳久中学校課長ほか 

オブザーバー

(協力者)坂本主査、鵜養、榎並、恵美、大野、大日向、尾木、小林、佐藤、佐野、菅谷、高橋、滝、滝口、多田、田村、中田、中原、楢崎、根舛、野口、長谷、秦、花田、藤崎、佐々木、前橋、宮川、諸富、若井、和田の各協力者

4.議 事

  • 坂本主査から事例分析ワーキンググループでの検討の状況について説明があった。
  • 前橋、小林、秦、中田、宮川の各協力者から、最近の少年非行の特徴等について説明があった後、それらを基に議論を行った。その概要は以下のとおり。

1 前橋信和厚生省児童家庭局企画課児童福祉専門官ヒアリング

児童相談所で相談、指導を受けた少年たちの特徴について、以下の2つの事例をあげて説明があった。

○ 調査、判定、一時保護、通所指導といった継続した児童相談所の関わりの中で、家族や友人、学校などの支援によって非行を克服した事例

○ 家庭基盤が不安定なこともあり、児童自立支援施設に入所したが、無断外出を繰り返したため、家庭裁判所の審判により、児童自立支援施設への入所措置となった事例

2 小林昌彦国立武蔵野学院自立生活支援寮長ヒアリング

児童自立支援施設に入所通所する少年たちの特徴について説明があった。

○ 自尊感情が持てない子どもが多い。

○ 自己中心的な価値観を持つ子どもが多い。

○ コミュニケーション能力が低いため、対人関係がうまく取り結べない。

○ 被害者に対する罪償感、規範意識が社会一般と比べて低い。

○ 親や友人との関わりの中で育まれるべき情緒が未成熟。

3 秦稔幸東京家庭裁判所総括主任家庭裁判所調査官ヒアリング

非行少年たちの「対人関係」に見られる三つの特徴について説明があった。

○ 少年たちは他者(他人)との関係に無関心である。これは、少年たちの被害者に対する態度に現れる。被害者の痛みを分からないし、自分の非行行為が、誰にどのような形で迷惑をかけているのか理解できない。

○ 少年たちの友人関係の内実は、大変希薄な関係である。これは、少年たちの共犯関係に現れる。ともに非行を犯すような仲間でありながら、お互いの素性を知らない。リーダーが不在で、非行行為そのものが場当たり的で、ブレーキがきかない。グループの中で、加害‐被害関係が生まれるし、この関係が簡単に逆転することがある。

○ 少年たちは、家族との関係では孤立している。これは、親子の日常の会話に現れる。「勉強」と「学校」が優先され、かつすべてであり、他に何もなく、少年たちは自室に引きこもって仮想世界に遊び、孤立する。「勉強」だけしていれば、何事も大目に見る親の態度は、少年の規範意識に影響する。「事件のあと学校を休まず、真面目な生活をしていたのだから責任はなくなったと思う。」という。「勉強」があらゆることの免罪符になっている。

4 中田幹夫法務省矯正局教育課少年教育企画官ヒアリング

少年院の入院者の状況、処遇の現状について、データをあげて説明があった後、少年院に入院している少年の特徴について、事例をあげて説明があった。

○ 少年院に入院する少年たちの抱える問題は非常に複雑であり、個別に対応しなければならないが、多くの少年たちが自分の将来の夢としてごく普通の幸せな生活を送ることを願っている。しかし、自分の素直な気持ちをなかなか出せないでいる。こうした少年たちの本当の気持ちを引き出すことが非行を防止する大きなポイントである。

5 宮川憲一葛飾保護区保護司会長ヒアリング

戦後の少年非行の概要について説明があった後、最近の少年非行の特徴について、法務総合研究所の非行少年の自己意識の調査や保護司としての実務経験を踏まえて説明があった。

○ 非行少年たちに疎外感が強く、自己が行った非行の結果に対して重大に受け止めようとしない。

○ 両親の抑圧や溺愛の結果、表面的によい子を演じて、そのことに疲れている少年が多い。

○ 人間関係をうまく取り結べない少年が多く、相手に気を使いながら、一緒にいても別のことを考えているような非社会的な少年が多い。

○ 主体性の欠落した少年が無気力で軽薄で、焦りとも見えるような短絡的な行動に走っているように思える。

○ 父性の権威の失墜、母親の母性の放棄などという家庭環境が少年非行の大きな要因になっていると思われる。

○ 地域社会においても、社会規範がルーズになり、少年たちの内部に規範意識が確立しないままに、非行文化を身につけ、家庭でのしつけがされないままに犯罪に走ってしまっている。

上記ヒアリングを踏まえて、質疑応答及び最近の少年による事件に関する意見等について発言があった。

○ 児童自立支援施設は地域によって入所人員に格差があるのか。

◎ 入所人員の地域格差は徐々になくなってきている。

○ 児童相談所の研修システムはどのようになっているのか。

◎ 原則として設置者である都道府県が研修の実施主体。これを補充する形で国でも研修を実施している。

○ 保護観察の少年たちを受け入れる協力会社がなくて大変かと思うが。

◎ そのとおり。保護司会では協力雇用主会を作る等、職業斡旋の努力をしているが、現実には保護司会個人の尽力に頼ったものが多く、不況の今日、非常に厳しい状況といえる。

○ 表面からなかなか見えない少年たちの心の状況をどのように見極めるのか。

◎ 保護司は、少年たちと一緒に福祉施設等で社会体験活動を行うことがあるが、そうした中で少年たちの内面が見えてくることがよくある。

◎ 少年院の全教職員が一体となって、良いことと悪いこと、許せることと許せないことを明確にして指導を行うことの積み重ねが、少年たちの信頼を得、やがて少年たちが本音を出すようになる。

◎ 児童自立支援施設の職員は、少年たちと一緒の寮舎で寝泊まりをしているが、少年たちとの共同生活の端々でお互いに共有できるものができたとき、少年たちはある種ドラスティクに変わっていくことがよくある。

◎ 調査官として調査室で少年に相対しても、言葉によるコミュニケーションは大変難しい。すぐに話が続かなくなってしまう。そこで、少年たちを集めて、合宿生活を体験させたり、老人ホーム等でボランティアをさせたりして少年たちの本当の姿を理解しようとしている。

◎ 児童相談所の場合は、ケースワーカーがそれぞれの地域を担当しているので、できるだけ少年の生活場面、家庭や学校、保育所などを訪問することによって、少年の問題をより深く理解しようと努めている。

○ 少年院での生活から、社会に出しても大丈夫と確信が持てる少年はどれくらいいるのか。また、少年達が退院した後、再犯を犯さないあろうという見極めはつくのか。

◎ 退院する少年の数は非常に少く、大部分は仮退院である。いくら少年院で処遇を受け、本人に立ち直る強い意志と力が身についても、十何年間生活した環境に帰るわけなので、親の意識が変革され、適切な指導監督がなされなければ再犯の危険性が高くなる。少年たちは少年院を仮退院し、社会内処遇としての保護観察を受けるが、残念ながら1,2割の少年たちが再犯を犯すのが現状。

少年院では、出院後に直面する危機を想定した指導を行っており、出院時には少年も職員も立ち直りを確信しているが、さらに、再犯に結びつく心配な点や留意事項については、保護観察所と特に連携を深め、社会内処遇でカバーしてもらっている。

○ 情報化が少年たちに与える影響は非常に大きい。格闘ゲームの中での人を殴ったり殺したりといった仮想現実を現実の世界に当てはめてしまっている。こういった問題を学校の情報の科目の中でも取り扱っていくべき。

○ 児童相談所について、施設入所を回避するために良い子を装う事例があるのか、その場合、どのように対処しているのか。また、関係機関の連携について具体的にどのように行っているのか。

◎ そういった少年を無理矢理入所させることは当然できないし、施設入所の必要性を親子ともども納得しないと入所しても改善はしない。
関係機関との連携については、まず第一に、それぞれの関係機関の権限と、できることとできないことを互いに明らかにすることが重要。これらのことについて共通理解を図った上で連携を進めて行くべき。

○ 重大な犯罪を犯した少年たちが少年院を出院した後の予後はどうなのか。

◎ 殺人の場合は、衝動的なケースが多いため、非行がそれほど進んでいるわけではなく、予後は良いのではないかと思う。

○ 非行少年の処遇のシステムは今のままで良いと思うか。また、少年非行対策として、これだけは速やかに行うべきであると考えているものがあるのか。

◎ 保護司として、非行少年の処遇だけでなく、防犯にも力を入れるようになった。学校との連携が進んでいる。また、われわれは、少年非行の問題は家庭にあると思う。幼児期からのしつけの問題を重視している。

◎ 児童相談所として、相談にきた少年や保護者にきちんと対応できるよう、関係機関の連携を深め、職員の資質の向上に更に努めるとともに、子育て支援をもっと行っていきたい。

◎ 児童自立支援施設として、施設自身が自己完結してしまうのではなく、施設内での処遇を少年たちの社会内での生活支援にどのようにつなげていくのかが課題であると思う。また、学校においても教える教育だけでなく、ともに育つという教育に重点を置くべき。そうすることにより、学校と家庭が車の両輪として地域の中に根付いていき、少年の健全育成が図られるのではないか。

◎ 少年院から社会への円滑な橋渡しができるよう、今まで以上に関係機関との連携を図って行くべきである。また、少年院でも、少年たちに様々な体験をさせる必要性を感じており、地域の方々のご協力をいただきたいと考えている。

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初等中等教育局中学校課

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