今後の国立大学附属病院施設の在り方に関する調査研究協力者会議(第2回)議事要旨

1.日時

令和8年8月5日(水曜日)13時30分~15時30分

2.出席者

委員

山下主査、尾﨑委員、小菅委員、塩﨑委員、竹原委員、武村委員、藤田委員、村松委員、脇元委員、和田委員、渡邉委員

3.議事要旨

1.議題(1) これまでの議論の整理について
・早田大臣官房文教施設企画・防災部計画課整備計画室長より、資料1「これまでの議論の整理について」の説明があった。
・山下主査より、前回の説明について、補足があった。
建物ごとに耐用年数が異なるという話をしたが、病棟は50年先を見据えて検討する必要がある。つまり、病棟のマスタープランを策定する際には、50年先を見据えた検討が必要である。現時点で過剰・贅沢に見える内容であっても、将来必要となる機能や環境を想定し計画しなければならない。一方で、より更新サイクルの短い建物は、直近の医療環境やニーズの変化を踏まえて計画していくことが求められる。したがって、50年先を見据えるから、今は手を付けなくて良いということではなく、長期的視点と短期的視点の双方を持ちながら計画していくことが重要である。

2.議題(2) 大学病院における改革等について前半の発表
・尾﨑委員より、資料2「長崎大学における病院改革等について」に基づき説明があった。
長崎大学病院では、長崎県が地域医療構想推進に関するモデル推進区域に指定されたこともあり、令和7年度に874床から776床へ98床の病床削減を実施した。病床削減により生じたスペースについては、HCUの新設、病棟内リハビリテーション室、多職種ワーキングスペース等として活用するとともに、閉鎖した病棟を健診事業やリハビリテーション部門へ転用した。長崎県は観光立県であることから、県や経済界からインバウンド需要を見据えた国際医療センターにおける健診事業の要望があり、そのためのスペースとして活用している。
病床削減に伴い病棟看護師35名分の人員削減を実施したが、その35名をHCUなど収益改善が期待できる部門へ再配置した結果、診療報酬、病床稼働率、経常利益は、いずれも前年度を上回る結果となり、病床稼働率も向上した。
今後は精神科病床についても再編を予定しており、39床から30床へ9床削減し、個室や強化個室の増設、児童精神科専門診療のための設備整備を進める計画である。
高度医療の観点から見た今後の大学病院施設の在り方について、手術の効率化や日帰り手術の増加に対応するため、手術待機室の設置について紹介する。米国のSanta Clara Valley Medical Centerには、「PRE-OP」と表示された術前待機室が整備されており、術前管理のための専用スペースとなっていた。20~30床程度の大規模なスペースで、術前の神経ブロックや麻酔、術後の経過観察などに利用されていた。今後、日本でも日帰り手術の増加や手術室の回転率向上が求められることから、このようなスペースも検討に値する。
また、ダヴィンチによるロボット手術やハイブリッド手術室の利用が増加しており、ハイブリッド手術室が1室、ダヴィンチ対応手術室が3室あるが、いずれも一般的な手術室より広いスペースを必要とする。今後の手術高度化に対応するため、柔軟な手術室設計が必要である。
病床削減に伴う機能再編として、病棟内HCUの整備や早期リハビリテーション推進のための病棟内リハビリテーション室整備を進めている。さらに、薬剤師や栄養士など多職種配置の増加に伴い、ワーキングスペースも整備した。これらは現在の大学病院に必要な機能だと考えている。
RI病床が3床あるが、放射線治療や検査を行うには十分とは言えない状況である。従来はヨウ素検査が主な利用目的だったが、近年ではルタテラやプルヴィクトなど新たな放射線治療が導入されている。当院でも年度内にプルヴィクトを用いた前立腺がん治療を開始する予定だが、現状の3床では十分な対応が困難な状況である。今後導入される新たな放射線治療への対応を考慮すると、さらなる施設整備が必要になる。
また、当院は高度被ばく医療支援センターでもあることから、原子力災害への対応も念頭に置いた施設設計が望ましい。
災害拠点病院としての施設整備も重要な課題であり、当院ではロビーなどのスペースを活用したトリアージ体制を計画している。トリアージスペースの確保や医療ユニットの整備、さらには救急外来機能の拡充も今後検討すべき課題である。
教育面では、離島医療を支える遠隔医療・教育設備の整備を進めている。
医療DXについては、離島におけるオンライン専門外来や遠隔医療の整備を進めている。5G回線を活用した通信環境の整備、オンライン専門外来の設置などを進めており、離島診療を教育に活用している。遠隔医療システムでは、離島と大学病院双方に専用設備を整備し、5G回線とVPNを用いてセキュリティを確保した通信環境を構築しており、そのため、モニターやカメラなどを備えた専用室が必要となる。
また、シミュレーションセンターや研修医関連施設の充実にも取り組んでいる。シミュレーションセンターの年間延べ利用者数は8,726名、年間利用回数は約1,003回となっており、非常に活発に活用されている。
こうした施設には広いスペースと専用設備が必要である。また、医療教育開発センター内の研修医関連設備についても重点的に整備している。個人用デスクや当直設備、研修医セミナー室などを整備しており、こうした環境整備は今後の大学病院における重要な課題だと考える。
研究機能については、当院は2023年に臨床研究中核病院に指定されており、臨床研究実施体制と支援体制の強化を進めている。当院は全国16施設ある臨床研究中核病院の一つであり、現在、臨床研究センターの機能拡充に注力しており、65名のスタッフが在籍している。今後も増員を予定しているため、執務スペースや文書保管スペースなど研究環境の整備拡充が不可欠である。
限られた敷地内で行った再開発整備の事例について説明する。長崎は平地が少なく、限られたキャンパス内で再開発を進める必要があった。当院では平成14年度から再開発を実施しており、老朽化した建物を解体しながら4期に分けた玉突き整備を進めてきた。これは都市部の大学病院再開発にも共通する課題である。約15年をかけて再開発を実施し、空き地に新たな建物を建設して機能を移転し、その後旧施設を解体して跡地に次の建物を建設するという手法を採用した。また、稼働を継続しながら改修が必要な建物については、ワイヤーソー工法による建物切断などの工夫も行った。
また、当院では基金を設立し、広く民間から寄附を募っている。しかし、年間の寄附額は約500万円程度であり、海外と比較すると日本では病院への民間資金が集まりにくい状況がある。民間資金の活用には依然として課題があり、今後の議論の参考になればと思い、資料に追加した。
 
【和田副主査】
・和田副主査より、資料3「全学的視点から見た金沢大学附属病院の改革について」に基づき説明があった。
本学は基本理念に、「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を掲げている。この理念のもと、金沢大学附属病院は地域医療を支えながら、高度な診療の提供や医療人材の育成、教育・研究を担っている。附属病院の改革は大学全体の改革と一体的に進めており、その基軸は研究・教育・診療の一体化である。また、2022年に未来ビジョン「志」を策定した。内容は、「オール金沢大学で「未来知」により社会に貢献する」というものである。「未来知」は聞き慣れない言葉かもしれないが、現在並びに将来の課題を探究し、克服する知恵と定義している。言い換えれば、未来の新たな価値を創造することに繋がる。したがって、未来の価値を創造し続ける大学として社会に貢献することを目指している。この未来ビジョン「志」のもとに附属病院改革プランを位置付けており、大学全体と附属病院の改革を一体的に進めている。その際、「組織は戦略に従う」という考え方も意識している。未来像と戦略を起点として、あるべき機能、施設・設備の整備、機能の向上、そして成果の還元を通じて、未来像や戦略に再びつなげるという好循環を重視している。
また、機能と設備の一体化を意識して改革を進めている。附属病院には、関連病院によるネットワーク群があり、それを基盤として持続可能な将来像を描いている。地域、広域、国際というネットワークを意識しており、地域医療の課題、能登地域の復興、国際医療連携の推進など、多くの課題に取り組んでいる。その中で私たちが目指しているのが「KNOT構想(ネットワーク構想)」である。地域・広域・国際ネットワークを展開しながら、持続可能な広域地域医療体制の構築と、国際的なつながりを持つ先進医療中核拠点としてさらなる発展を目指している。
教育については、多職種連携を重視し、多様な医療人材に対する教育を行っている。未来像から導かれるあるべき機能として、高度な診療に参加できる臨床実習の場の提供、多職種連携やチーム医療の実践、生涯にわたる研鑽の機会、研究指導体制や卒後キャリア支援などがある。それらを支える施設として、大学病院に加え教育連携医療機関、金大病院CPDセンターを整備している。金大病院CPDセンターは外来棟4階に位置し、高度医療トレーニングが可能な環境を備えている。これらを通じて機能向上を図り、その一例が2023年に設置した医療人材教育研究センターである。学生から教職員まで、多職種の医療人材を対象とした一貫した育成を実施している。
また、金沢学術アカデミーおよび研修医・専門医総合教育センターを整備し、次世代人材を育成することで地域や世界の医療へ貢献し、その成果を再び未来像へつなげる好循環を目指している。
金沢学術アカデミーは病院に隣接する医学類C棟1階に2024年に設置された。基礎研究を理解し、国際臨床研究を推進できる臨床研究医の養成を目的としており、現在1,045名が登録している。金沢医科大学とも連携し、学生や大学院生を中心に切磋琢磨できる環境を整備している。
一方、研修医・専門医総合教育センターは、患者本位の医療の実践や高度先進医療の開発・実践を学ぶとともに、キャリア形成を支援している。
研究の目的は、臨床上の課題を研究によって解明し、その成果を患者へ還元することである。研究と診療の往還、研究基盤の共有化、技術支援、一気通貫の臨床研究支援体制の構築を進めている。そのための施設として、サイエンスコモンズとFusion Labを新たに整備した。サイエンスコモンズは病院隣接の医学類C棟1階にあり、Fusion Labはその隣の医学類D棟6階に設置されている。
これらの施設により、大学院生や研究者の研究時間と研究施設を確保するとともに、データを一元管理し活用することにより、AIを活用したデータ駆動型研究や臨床研究を推進している。研究者が集い、わが国の医学研究を牽引する環境を整え、その成果を未来像へ還元していくポジティブフィードバックループを形成している。
また、附属病院には約50年分の診療・臨床データとバイオバンクが蓄積されており、Fusion Labを通じて基礎医学と臨床医学の連携研究を進めている。AMED医学系研究支援プログラムの支援も受けながら、ライフサイエンスとAIデータ駆動型研究を融合し、新たな知見の創出を目指している。
さらに、サイエンスコモンズでは全学の共用機器や技術職員による支援体制を整備し、ワンストップ相談窓口や受託解析・技術支援も提供している。研究成果は再び附属病院へ還元し、先進医療として患者へ提供する仕組みを構築している。
また、私たちは教育・研究を通じて国際医療レベルの向上に貢献したいと考えており、海外への派遣と海外からの受け入れの双方を通じて国際頭脳循環の拠点を目指している。2025年には国際臨床研修センターを設置し、海外からの医療従事者や見学者、医学生を受け入れている。医学類による海外派遣プログラムや、2018年から実施している研修医海外研修プログラムを通じて人材交流を進めている。学生と研修医がともに学ぶ屋根瓦方式を採用し、国際頭脳循環を推進している。
さらに、2024年に第二中央診療棟を整備した。この施設は、必要な機能から設計した施設であり、高度先進医療の提供に加え、教育・研究の場としても位置付けている。高度医療の提供、がん医療提供体制の強化、患者の流れの改善、感染症や重症患者への対応などを実現する施設として整備した。同時に患者サポートセンターも設置した。第二中央診療棟では手術室を拡充し、重症例への対応能力を向上させた。今後は術前・術後管理機能を強化するため、NICU、GCU、HCU等の拡充を含む病棟改修も予定している。
また、がん医療提供体制強化のため、外来化学療法センターを第二中央診療棟へ移転した。それに伴い生じる外来棟の空きスペースには患者サポートセンターを配置し、多職種連携による入院前から退院後までの一貫した支援体制を構築している。
地域医療と能登復興として、地域に信頼される病院を目指し、地域医療との一体的な展開を進めている。その中核となるのが医師確保・人材養成と能登里山里海未来創造センターとの連携である。地震発生から1か月足らずの令和6年1月30日に設置し、中長期的な復興と創造的復興を推進している。また、遠隔医療や総合診療医の育成にも取り組んでおり、震災を通じて総合診療医の重要性を改めて認識した。石川県や自治体との連携も強化している。その実現に向けた施設として遠隔診療実証ラボを整備している。
珠洲市では既に実証研究が進められており、遠隔診療だけでなく、水・電気・エネルギー・情報通信などインフラを含めた自立分散型システムの実証も行っている。「未来知MITSUKEプロジェクト」として、見附島を象徴的な拠点と位置付け、新たな未来価値の創造を目指している。金沢大学附属病院と遠隔診療拠点を結び、各種医療データを活用しながら遠隔医療システムの構築を進めている。
総合診療医と専門医が連携し、総合診療に専門性を加えた新たな人材育成にも取り組んでいる。総合診療共創センターを設置し、人材育成を進めている。
最後になるが、金沢大学は基本理念のもと、角間キャンパスと宝町・鶴間キャンパスを一体的に捉え、大学と附属病院が連携して改革を進めている。
未来像と戦略からあるべき姿を定め、それを実現する施設整備を行い、機能向上の成果を再び未来像へ還元する好循環を目指している。未来知によって新たな価値を創造し、社会に貢献するという志のもと、オール金沢大学で改革を進めていく。

3.議題(2)前半の発表に関する委員からの意見
【藤田委員】
長崎大学病院の再開発は、実は私どもが設計を担当した。図面上では敷地に余裕があるように見えるが、実際には高低差が大きく、建物を建設できる場所は非常に限られていた。そのような条件の中で計画がうまく進んだ理由の一つは、既存病院が南北方向の軸を持ち、パビリオン型で東西に展開する構成だったことである。前回の会議でも議論があったが、単純に上方向へ積み上げるのではなく、敷地に余裕がある場合には、機能ごとに棟を分けて配置するパビリオン型の整備も有効な考え方である。今回の長崎大学病院では、既存の軸を活かしながら新たな建物を配置することができた。その結果、従来は南北軸の西側に展開していた病院機能の中心が東側へ移りつつも、全体としては既存の軸線を継承した計画となり、非常にうまく機能している。将来的な建替えや改修への柔軟な対応を可能にするためには、このような配置計画や施設構成の考え方が非常に重要ではないかと思う。

4.議題(2) 大学病院における改革等について後半の発表
【渡邉委員】
・渡邉委員より、資料 4「国立大学法人筑波大学附属病院施設における現状と課題」に基づき説明があった。
筑波大学附属病院につきましては、良質な医療の提供、優れた人材育成、医療の発展への貢献を理念としている。特定機能病院としての役割に加え、茨城県の医療・医学の中核を担い、県内唯一の高度救命救急センターおよび災害拠点病院として地域医療に貢献している。
病院は筑波キャンパス西地区に位置しており、病床数809床、40診療科を有する病院である。開院は1976年で、以降順次整備が進められ、現在の延床面積は約11万㎡である。そのうち、築30年を超える老朽施設が約12%を占めている。配置図に示したA棟およびC棟・D棟については、特に老朽化が著しく、開院後ほとんど大規模な改修が行われていないため、大きな課題である。
基幹設備については、中央機械室から電気や熱エネルギーを共同溝や床下ピットを通じて各施設へ供給している。受電は66kVの二回線受電方式を採用し、常用・予備系統を確保している。また、自家発電設備や無停電電源装置を整備し、重要設備への電力供給を維持している。熱源設備についてはボイラーから空調や滅菌設備への蒸気供給を行っており、冷房については蒸気式吸収式冷凍機を使用している。
しかしながら、これら基幹設備の老朽化は深刻な状況である。電気設備や熱源設備の多くで法定耐用年数を大幅に超過しており、ライフライン関連の配管設備については耐用年数の3倍を超えるものもある。このため設備故障や不具合、蒸気漏れや漏水などが発生しており、日常的な維持管理に苦慮している。
病院再開発は、第一次病院施設再開発として、2012年にPFI事業でけやき棟を整備した。第二次病院施設再開発では、2024年に免震改修を伴う居ながら改修整備を完了している。今後予定している第三次病院施設再開発では、築50年を迎えるA棟、C棟、D棟を対象にグランドデザインを策定し、整備を進める予定である。昨今の建設コスト高騰などの社会的状況を踏まえながら、規模の適正化や機能改善を図りたい。
また、この第三次再開発は単なる老朽施設の更新ではなく、高度医療機能の維持・強化、教育研究機能の充実、地域医療構想への対応、災害・感染症対策機能の向上などを通じて将来にわたる医療中核を担うことを目指す戦略的事業として位置付けている。
建物外部では、屋上防水や外壁の劣化による雨漏りが発生している。また、建物内部では給排水管からの漏水や電気設備の不具合による停電など、さまざまなトラブルが発生している。予算や診療活動への影響もあり、現状では最低限の修繕対応にとどまっている。その結果、老朽化による不具合が病院機能の維持や診療活動の継続に支障を及ぼす可能性が高まっている。
ボイラーや蒸気式吸収式冷凍機などの熱源設備については耐用年数を超過しているものが多数ある。建物と同様に設備にもそれぞれ寿命があり、設備の方が建物よりも短い周期で更新が必要である。耐用年数の超過に伴い、部品調達が困難になるなどさまざまな課題が発生している。現在は点検と必要最低限の補修により対応しているが、抜本的な改善には至っていない。蒸気配管や冷水配管の多くが耐用年数を超過しており、配管延長も長いため更新作業が容易ではない。また、昨今の省エネルギーやCO₂削減の観点からも、放熱ロスや蒸気漏れによるエネルギーロスが課題である。ライフラインに重大な故障が発生した場合には、診療活動への影響が広範囲に及ぶ恐れがある。
現在は応急的な修繕によって維持管理を行っているが、安定した診療活動を支えるという点では不十分である。施設の老朽化が進む一方で、予算制約などにより予防保全が十分進んでいない。
今後は、事後保全中心の管理体制から予防保全への転換が必要である。施設マネジメントの重要性は、大学病院における建物、基幹設備、ライフラインは医療提供機能の根幹であり、診療活動を支える基盤である。そのため、老朽化した施設に対して計画的な整備と予防保全を進めることが極めて重要である。故障してから修理するのではなく、故障する前に整備するという考え方への転換が必要である。
さらに、それを実現するためには安定的な予算の確保に加え、施設マネジメント体制の強化、人材育成も重要になる。
 
【藤田委員】
・藤田委員より、資料5「パンデミックを経た病院設計のこれから」に基づき説明があった。
国立大学病院に限定した内容ではないが、病院建築全般の視点として、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと病院設計の関係について説明する。
コロナ禍は2023年5月に5類へ移行し、収束から数年が経過したが、病院設計に与えた影響は非常に大きかった。病院設計の考え方そのものを見直す契機になった。
一方で、コロナ禍以降の急激な建設コスト高騰により、こうした考え方を実際の施設整備に反映する機会は限られている。しかし、パンデミックから何を学び、それを今後どのように病院建築へ反映していくかを改めて考える必要がある。
まず申し上げたいのは、パンデミックが病院設計における「安全」の意味を変えた。これまでの安全対策は、地震や火災、停電といった非日常リスクと、医療事故や転倒などの日常的リスクへの対応が中心であった。しかしパンデミックは、いつか起こる特別な出来事ではなく、いつでも起こり得る日常的なリスクとして捉えるべきものである。そのため、これからの病院設計においては、通常の病院機能を維持しながら感染症対応に切り替えられる柔軟性、すなわち施設のフレキシビリティが重要になってくる。
これから、パンデミック対応のための可変性を実現する設計の考え方について、「空間的な距離」「感染源の遮断」「免疫力の向上」という三つの視点で説明していく。
まず病室については、感染防御の観点からは個室化が極めて有効である。しかし、全室個室化を検討すると建設コストが大幅に増加するという課題がある。従来は多床室を前提として個室を特別なものとして設計してきたが、今後は個室を基本として必要面積を見直す考え方が必要である。実際に設計方法を見直すことで、従来型個室より約1割の面積削減が可能になった事例もある。
次に病棟については、パンデミック時には感染患者と一般患者をいかに分離するかが大きな課題となった。そのため、病棟を複数のユニットに分け、必要時に二重扉や空調設備、専用エレベーターなどによって独立運用できる構成としておくことが有効である。実際に、このような考え方で設計された病院がコロナ対応の成功事例として評価されたケースもある。
続いて外来待合空間について、感染対策として単純に待合面積を拡大すると建設コストも増加する。そこで、呼出端末などIoTを活用し、院内の様々な場所で待機できる仕組みを導入することで、空間的な密集を避けることが可能になる。建築だけではなく、情報システムと組み合わせて課題を解決することが重要である。
また、パンデミック対応専用空間として整備すると平常時には利用されず、無駄が生じる可能性がある。そのため、平常時には通常利用し、有事には感染症対応空間へ転用できるような設計上の工夫が必要である。
次に、「感染源の遮断」という視点については、感染対策では患者だけでなく、まず医療スタッフを守るという考え方が重要である。そのためには清潔エリアを守るだけではなく、汚染エリアを明確化する設計も重要である。中国で病院設計に携わった際に、汚染物の動線を徹底的に分離するという考え方に触れたことがある。必ずしもこれが全て正解だということではないが、感染対策を運用だけに頼るのではなく、建築そのものが安全な行動を誘導する仕組みを備えることが重要である。
また、感染対策とコミュニケーションの両立も課題である。感染防止を優先すると、人と人との接触や対話が制限される方向に進む。しかし、患者と医療従事者、あるいは医療従事者同士のコミュニケーションは医療に不可欠だと考える。安全確保とコミュニケーションをどのように両立させるかは、今後の病院設計における重要なテーマである。
さらに、非接触環境の整備も重要である。自動化技術は有効であるが、導入コストや維持管理コストが課題となる。したがって、リスクの高い場所への重点的な投資とともに、レバーハンドルなどシンプルな工夫を組み合わせるなど、合理性を考え非接触環境を構築することが必要である。
最後に、免疫力向上に寄与する環境については、感染対策というと、距離を取る、分離する、遮断するといった考え方になりがちだが、それだけでは閉塞感や不安感を生む。設計者としては、自然光や景観、音や色彩、コミュニケーションなどを通じて、患者や医療従事者の心身に良い影響を与える空間づくりも重要と考える。感染対策と癒やしは相反するものではなく、両立させるべきものである。
ここで紹介した考え方が唯一の正解ということではないが、パンデミックを特殊な出来事ではなく日常的なリスクとして捉え、病院設計に反映していくことが重要である。また、平常時から有事へ柔軟に切り替えられる可変性を備えること、そして感染対策を運用だけではなく建築そのものが支える仕組みとして考えることが重要である。

5.議題(2)に関する自由討議
【山下主査】
設備更新やインフラの整備の財源に関して、国立大学病院の場合は大規模な設備更新やインフラ整備については国からの補助金を活用し、日常的な保守点検や更新については病院の予算で対応することになっているのか。
 
【渡邉委員】
財源については、基本的には病院施設に関する整備や維持管理は病院収入による予算の中で対応している。ただし、大規模な設備更新などについては国の補助制度を活用できる場合がある。一方で、軽微な設備更新や日常的なライフラインの修繕などについては、病院の予算で対応している。
 
【山下主査】
マスタープランを策定する際には、こうした設備・インフラの更新についても計画的に盛り込んでいく必要があるのではないか。
 
【渡邉委員】
そのとおり、今後は中長期的なインフラ更新計画を策定し、現状を正確に把握しながら計画的に予算化していく必要がある。また、病院として継続的に整備すべき事項と、大規模更新として対応すべき事項を整理したうえで進めていくことが重要である。
設備ごとに耐用年数や重要度は大きく異なるので、それらを踏まえながら計画を立てる必要がある。さらに、最終的にはマスタープランの中で、将来的にどのようなインフラ整備が必要となるのか、その方向性についても整理していく必要がある。
 
【塩﨑委員】
今後、大学病院においては教育・研究機能を維持・強化しながら、一方で地域における医療需要の変化にも対応しなければならない。そのため、病院建築の考え方についても、これまで以上に検討を深める必要がある。
その中で強く感じているのは、大学病院の再開発に携わる人材の育成の重要性である。大学病院の再開発は20年から30年に一度程度の頻度であり、多くの職員にとって在職中に一度経験するかどうかという大きな事業である。しかし、全国42の国立大学病院を見れば、どこかで常に再開発事業が進んでいる。病院建築や大学病院特有の機能・運営について理解を深めながら経験を蓄積していく人材が必要となる。もちろんコンサルタントや設計事務所の専門的な知見は不可欠だが、教育・研究・診療機能や限られた予算の中で最適な整備を考えることのできる人材を、大学病院側でも育成していく必要がある。
例えば、施設系職員についても複数の大学病院で再開発を経験できるような仕組みを設けることで、経験値を高めることができる。20年に一度初めて再開発を担当するという状況だけでは、コンサルタントの支援を受けたとしても十分な意思決定が難しい場合がある。このような専門人材の育成について、文科省の方で今後どのように考えていくのか伺いたい。
 
【事務局 廣田】
指摘のとおり、大学病院の再開発は非常に長いスパンで実施されるため、個々の職員が専門性を高める機会が限られているという課題がある。そのような中で、再開発に関する経験やノウハウを蓄積し、次の整備へ活かしていくことは非常に重要である。大学間やブロック内での人事交流も含め、指摘いただいた専門人材の育成については重要な課題として受け止めている。今後、どのような形で実現していくことが望ましいかについて、引き続き検討を進めていきたい。
 
【小菅委員】
20年前と現在では医療提供体制も大きく変化し、老朽化した施設を使い続けている場合には、現代の医療や教育のあり方に施設が適応できていないという課題もある。
教育に関しては、前回の委員会でも実習が増加しているという話があった。一般的には、それに伴って教育や実習のためのスペース不足が課題になる。一方で、学習や研究の方法そのものも変化している。建築分野においても、VRやシミュレーションを活用した教育・研究が増えている。その結果、従来のような特定用途向けの空間だけでなく、柔軟に活用できる大空間や用途を限定しないスペースへの需要が高まっている。
昨年、病院建築関係の海外視察でシカゴを訪問し、「Shirley Ryan AbilityLab」を見学する機会があった。そこでは、臨床、研究、エンジニアリングが同じフロアで一体的に行われており、研究者と医療スタッフが患者と直接関わりながら、その情報が研究や医療の改善に直結する仕組みが構築されていた。こうした環境は非常に効率的であり、今後の病院施設のあり方を考えるうえで参考になるものと考える。
一方で、そのような新しい教育、研究、診療の形を十分に見据えずに施設整備を進めると、建築そのものが将来の変革を妨げる要因になる。建物は一度整備すると長期間利用することになるため、将来の教育や研究、診療のあり方を十分に見通したうえで計画することが重要である。今回の委員会は大学病院を対象としているという特徴があるので、今後の臨床研究環境や教育環境のあり方、その将来像についても、議論を深めていきたい。
 
【竹原委員】
病院運営そのものとは別に、研究や教育に関する機能との連携や運営のあり方が重要になる。その点で伺いたいのだが、病院PFIについては過去にいくつかの事例があり、大学病院では筑波大学のみが実施されている。一方で、病院PFIそのものではなく、教育、研究分野において民間企業を活用した運営や連携、あるいはPFIに類する取組がどの程度行われているのかについて関心がある。実際にどのような取組が行われているのか教えてほしい。
 
【和田副主査】
この点については、オンキャンパスとオフキャンパスの両方の視点から考える必要がある。
オンキャンパスについてだが、先ほどご紹介したサイエンスコモンズは、まさに共同研究を行う場として整備しているものである。例えば本学であれば、理工系の教員やWPI-NanoLSIの研究者に加え、近隣大学や他地域の大学の研究者も参加している。また、人文社会系の研究者とも連携し、医療政策に関する検討なども行っている。このように、大学の枠や専門分野を超えて、多様な研究者が集まり共同研究を行う場である。
オフキャンパスについては、先ほどご紹介した能登半島先端部で進めている「未来知MITSUKEプロジェクト」がそれに当たる。ここでは産学官連携が進められており、本学だけでなく他大学も参加している。さらに、企業や自治体も参画しており、珠洲市や石川県とも包括的な連携を行っている。医療だけでなく、工学系、人文社会系、都市政策、エネルギー政策など様々な分野の専門家が参画している。その意味では、キャンパスの内外を問わず、多様な組織との連携機会は着実に増えており、私たち自身もそうした取組を積極的に進めているところである。
なお、金沢大学附属病院では建物整備に関してPFI方式の導入は行っていない。
 
【脇元委員】
施設が不足しているという視点は確かに重要だと考えるが、一方で、単純に面積を拡大していくという方向だけではなく、人口減少や医療需要の変化を踏まえた病院規模の適正化、いわゆるダウンサイジングという視点も必要ではないかと感じている。例えば、今後は新たな面積を増やさない、あるいは場合によっては縮小することを前提としながら、いかに持続可能性を確保するかという発想も必要である。
一例として給食設備がある。近年、給食事業は多くの病院で採算が厳しくなっており、調理場については給排水設備や冷蔵設備、調理機器など多くの設備投資を必要とする。以前から議論されていることだが、給食センターを自治体や他の医療機関と共同運営することで、病院内の調理機能を縮小できる可能性がある。また、最近では既製の冷凍食品等を活用することでコスト削減を図る民間病院の事例も見られる。仮に給食設備を縮小・集約できれば、調理場に関する設備更新や整備負担を軽減できる可能性がある。
また、病院内のレストランや食堂についても同様である。昨今の物価高騰の影響もあり、病院内の飲食事業から撤退する事業者が増えていると感じている。実際に、事業者が撤退した後に新たな事業者が見つからないケースもある。レストラン事業者からも、病院内店舗は収益性の面から厳しいという声を聞いている。そのような状況であれば、別の方法で患者サービスを維持しながら、食堂スペースを別用途へ転換することも考えられる。例えば、その空間を教育・研究機能に活用することも可能である。実際に、私が以前所属していた病院では、食堂スペースを全面的に改修して卒後臨床研修センターとして活用し、研修医支援機能の充実につなげた事例がある。
また、院内の会議室やカンファレンスルーム、休憩室などについても、実際の稼働率を調べると十分活用されていないケースがある。本学でも、がんセンターがバーチャルで設立されていたが、利用率の低いスペースを集約し、その空間を活用して実質的な活動拠点を整備したという経験がある。
施設面積を単純に増やすだけではなく、既存スペースの活用状況を見直しながら再配置や用途転換を進めることで、新たな機能を創出することも可能ではないかと考えている。今後の再開発に際しては、従来の延長線上だけではなく、こうした別の方向性からも検討していくことが必要ではないかと感じている。
 
【武村委員】
大学全体の視点を持ちながら、診療・教育・研究が本来どうあるべきかという将来像を明確に描き、その実現に必要な機能を備えた施設整備を進めておられる点に強いリーダーシップを感じた。地域特性を踏まえ、段階的に丁寧に取り組まれ、その結果として優れた成果につながっていることがよく理解できた。
一方で、多くの病院は必ずしもあるべき将来像を施設整備計画に反映できる状況にないと思われる。建物は一度整備すると、その後何十年にもわたって利用し続けることになる。そのため、建替えという貴重な機会をいかに有効に活用するかは極めて重要な課題だと考えている。その意味では、将来どのような機能を備えるべきかについて、ある程度の指針が示されることも必要ではないかと考える。
実際には事務職員が中心となって計画を進めることが多いと思うが、その過程で医師や教員、多職種の医療従事者、さらには地域や他分野の視点をどのように取り入れるかが重要になる。そのような多様な視点を確実に反映できるような仕組みやモデルが示されるとよい。
また、理想とする姿を描くことまでは各病院でも取り組んでいるが、それを実際の建築計画に落とし込む段階になると、医療従事者だけでは発想や知識に限界があることを実感している。先ほどもお話があったが、国内外の優れた事例を知り、「このような実現方法もあるのか」という気づきを得ることが重要だと考える。私たち自身、そのような情報に触れる機会は十分とは言えないため、優れた事例を共有できる場が必要である。
また、パンデミックから得た教訓は今後極めて重要になると考えている。パンデミックや災害への備えは、それ自体が重要であることに加え、医療需要が急増し、供給力が低下する状況の中で、いかに医療の質を維持するかという課題に直結している。こうした視点を施設整備に反映することは、将来の患者や医療従事者を守ることにもつながるのではないか。
今後、医療従事者の確保が一層困難になることも予想される中で、運用だけでなく建築そのものが安全性や医療の質、生産性を支える役割を果たすことは非常に重要である。また、変化への対応力をあらかじめ組み込んだ設計の考え方は、今後不可欠になる。
 
【村松委員】
特に印象に残ったのは、能登半島地震や今回の熊本地震などを踏まえた災害時における大学病院の役割である。災害拠点病院としての位置付けを超え、大学病院は極めて重要な役割を果たしていることを改めて認識した。
そうした中で、災害時に大学病院が十分な機能を発揮するためには、施設そのものが高い耐震性を備えているだけでなく、さまざまな災害に耐えうる施設である必要があると感じた。
また、先般公表された今年度の骨太の方針では、医療分野に関して「新たな地域医療構想の下、将来需要を踏まえ、老朽化対策や災害対策を含む地域に不可欠な施設・設備について、計画的な整備への必要な支援のあり方を検討する」といった趣旨が盛り込まれている。地域医療構想という視点に加え、老朽化対策や災害対策が医療施設整備の重要な論点として位置付けられていることがうかがえる。
報道等でも一部取り上げられているが、今後、概算要求などの中で、これらの考え方がどのように反映されていくのか、地方行政の立場としても注目している。

6.議題(4) その他
・事務局より、資料8「今後のスケジュール(案)」に基づき、説明があった。
・ワーキンググループは、9月から10月にかけて開催すると説明があった。
・第3回協力者会議は11月頃の開催とし、ワーキンググループでの検討状況の報告と最終報告書骨子案の検討を行うことが説明された。
・また、第4回、第5回の協力者会議を経て、令和9年3月に最終報告書を取りまとめ、公表することが提案された。
・事務局からの説明に対し、特段の意見はなく、今後のスケジュール(案)について了承された。
 

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