令和7年1月27日(月曜日)10時00分~12時00分
対面・オンラインハイブリッド開催
<委員>
奈須主査、市川委員、伊藤委員、垣野委員、亀村委員、倉斗委員、斎尾委員、高橋委員、田邊委員、長澤委員、樋口委員
<特別協力者>
植田特別協力者、深堀特別協力者
(大臣官房文教施設企画・防災部)笠原部長、金光技術参事官
(大臣官房文教施設企画・防災部施設企画課)瀬戸課長、松下企画調整官、田中課長補佐
・事務局より開会の挨拶。
・笠原部長より挨拶。
・事務局より資料1・資料2に基づき説明。
・主査及び副主査を選任。
・奈須主査より挨拶。
・事務局より委員の出欠について説明。
議題1:学校施設を取り巻く現状等及び今後の検討事項について
・事務局より、資料3-1・資料3-2・資料4-1・資料4-2に基づき説明後、質疑応答。
【高橋委員】私はふだんは教員養成に関わっており教育方法や教育の情報化に関する研究を中心的に行っている。
私から、ちょっと外すかもしれないが、初回ということでコメントさせていただきたい。特に今回の検討事項はバリアフリーだと伺っているが、バリアフリーというのは、そもそも何かバリアがあって、それをなくしていくという考え方かと思うが、私も今、各教室で、バリアをなくすというよりは、それはキリがないなかなか難しいことでもあるので、当初段階から、なるべく子ども一人一人の目線に合わせて、どの子どもにとっても心地よい学習空間をつくっていこうと取り組んでいる。それが結果的に、バリアがないような環境だと考える。私は、今後は、パーソナライズドというのか、子ども一人一人の興味や個性に応じて、外国籍の方、障害をお持ちの方等、様々なニーズを同時に満たした教室環境・学習環境をつくっていくことが欠かせないと思っている。現時点でも、クラウドや1人1台の情報端末で、一人一人の子どものニーズに対応しやすくなったり、子どもの学習状況をほぼリアルタイムにつかみやすくなっていることや、子どもが声を上げやすくなっていることから、例えば授業で言えば、一斉指導が少なくなっている学校も出てきた。そうした学校では不登校が起こりにくくなったり、様々な子どもが教室で過ごしやすくなったり、少し教室のストライクゾーンが広がってきたと感じている。その際の教室にとって結構有効だと考えているのは、従来からもあるオープンスペースといった環境。学校の先生も、最初は一斉中心だったので、なぜこのような教室なのかと言っていたが、今やっと使い方が分かった、このためにこのような教室環境があったと分かった、という話も出てきて、やはり建築家の先生方がつくる教室は、そうした意味で先進性があるんだなと思っている。
少しだけ未来感のある話をすると、個別最適な学びや複線型の授業等では、個々の子どもたちが扱うべき情報が個別になるので、教室に流通する情報の量や質が多様化し大量になると感じている。そのため、一つの教科書から学ぶというより、様々な資料が必要になるし、動画や音声データ等、多言語に対応できるデジタルデータを扱うことも飛躍的に増えている。このように考えると、学校図書館も非常に有効だが、図書館まで行く時間がもったいないという声や、量的にも質的にも情報の新しさの観点からも少し間に合わないという声もある。デジタルを使って学ぶと非常に学習成果やその途中の情報が共有しやすく、その結果、確認や深める意味合いなどで対面での協働も非常に起こりやすくなる。そうしたときに、教室のすぐ脇にオープンスペースのようなスペースがあって話し合いが起こるということもある。教室に必要な施設も情報の量や質から見て少し変わってきていると思う。具体的に言うと、知識伝達の形が随分減ってきて、個別に学ぶ形になっているので、板書の大きなスペースが要らなくなる代わりに、大型ディスプレイが複数あることも求められるようになってきていると感じている。
また、教員の多様な働き方も進んでおり、ハンディをお持ちの先生も、様々な事情をお抱えの先生も、自分のペースで自分の時間で働く、研修を受ける、オンラインで学んでいくこともあり、個室が欲しいといったこともたまに聞く。職員室にあるスケジュール用の大きな黒板であるや内線電話も不要で、それぞれの先生がスマートフォンを持ち、スマートフォン上で学校の行事も確認できるようになってきたり、テレビ会議システムでテレビ校内放送を行ったり、ということが起こると、学校の一等地に印刷室や放送室がどこまで必要なのかという問題も起こっているかと思う。
いろいろ申し上げたが、実際のところ、文部科学省のGIGAスクール構想の下での校務DXチェックリストに基づいて見れば、校務DXが進んでいる地域とそうでない地域で職員の活用の度合いに2倍程度の差があるように、将来どのように変わるかは分からないものの、私が今いろいろ訪問している学校では、そのような変化が起きている。
【市川委員】特別支援学校は、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害、病弱・虚弱の5つの障害を対象としている学校で、バリアフリーについては、一人一人のお子さんは障害の程度や状況も多々あるので、一人一人に応じたバリアフリーが今後進んでいくことは大変よいことだと思う。
今、文部科学省で、特別支援学校についてはインクルーシブな学校運営モデル事業を進めると聞いている。これは、特別支援学校と地域の小学校・中学校・高等学校を一体的に運営し、障害のある子も障害のない子も、共に学ぶ環境の整備を進めていこうということで、特別支援教育課で力を入れている事業だと思っている。特別支援学校の立場で言うと、特別支援学校の中だけではなく、小学校・中学校・高等学校等の障害のない子と、より一層交流及び協働学習が進んでいくことがよいと思っているので、そのためには、一体的な学校運営をしていくためにも、小中学校等のバリアフリー化が今後どんどん進んでいくことが必要と思っており、今回の検討には期待をしている。
細かい話になるが、バリアフリートイレやエレベーターが今、バリアフリー化の観点になっているが、特別支援学校の立場で言うと、防災関係で、避難所等になったときに、意外と特別支援学校が弱く、電源の確保が結構心配になる。今、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校において、医療的ケアの必要な子が多く在籍しているが、医療的ケアの必要な子は、医療的な機械を使わないと命が守れず、そのためには電源が必要になる。本校も結構電源が心配。発電機ではうまくいかない部分もあると聞いているので、やはり防災を考えると、電源や水道も必要になると思っている。
「エレベーターがある」だけではバリアフリーではないと思っている。動線の問題、障害のある子もない子も共に一緒に動く中で、バリアがないのが一番いいのと思っている。具体的に言うと、障害のある子だけ少し裏に行って、エレベーターに乗って3階に上がるのではなく、障害のない子と一緒に動けるようなユニバーサルな施設が必要になってくると思っている。
障害のあるお子さんだけでなく、この頃、障害のある教員も多くなっている。障害のある教員が働きやすいバリアフリー化も、検討していただけると幸い。
【伊藤委員】私は、建築計画の研究をしている。
学校施設の在り方全体とバリアフリーという、2つの観点から、幾つか意見を述べたい。
1点目、バリアフリーについて、どうしてもバリアフリーの例というと、段差やエレベーターになってくるが例えば視覚障害やほかの障害の方に対してバリアとなるものは割とあると思う。バリアフリーを考えるときに、段差以外にもいろいろ検討しないといけないポイントがある気がする。バリアフリーの話なのか、インクルーシブの話なのか分からないが、もう少し目を向けて、あるいはもう少しポイントとして強調してもいいのかなと思った。バリアフリー、インクルーシブ、合理的配慮、と、だんだん幅が広がるが、今の議論のされ方が、割と世の中では、平均の範囲から外れたもの、イレギュラーなものにどのように対応するかという視点がちょっと強い気がする。合理的配慮にしても、特定の一人に何かをするといったニュアンスがあって、正直、世間一般での議論の様子を見ていると、その人個人に個別に対応することが特別である、という発想がどうしても見えてくる。だが、本来、個別最適等、個人をベースに考えたときは、そもそも全員が個別だと考えるもの。たまたま集合的に扱える一群はいるものの、まとめて扱えて一斉に教えられるほうが標準で、それ以外にどのように対応するか、という発想をひっくり返さないといけないのかなと思う。
2点目、先ほど資料3-2の14ページで、「周知・機運醸成」という言葉が出てきたが、そこは若干違和感を感じる。バリアフリーはやらなければいけないので、周知はともかく、機運を醸成するものではなくて、やるものだと思う。そこはもっと明確に、やるのだと主張をしたほうがよい気がする。
3点目、学校一般に関して、最近プロポーザルの審査員をいろいろなところでやっていて感じるのが、学校や教育委員会の方々から、教室をどのようにしたい、どのような授業をしたい、といった議論がほとんど出てこない。バリアフリー、複合化、プール、等は出てくるが、今、授業のやり方が大きく変わらないといけないはずなのに、そこの議論が出てきていない。実際には、授業の形態を変えたら、恐らく異なるニーズがどんどん出てくるはずだが、それがあまり掘り起こされていない、もしくはあまり認識されていない感じがある。どういう形かは分からないが、実際、新しいタイプの授業をやったときに、何が起こるのかについて情報がもっと欲しいと、施設計画を考える立場としては思った。
【垣野委員】私も、建築計画という分野に属して学校建築を研究している。
私からは2点。1点目、バリアフリーという言葉がつくられて、この社会の中で一般化してから、かなり時間が経ってきていると思うが、そのときに定義されたバリアと、今我々がイメージする学校の現場で実際にバリアと思われるものは、少しずれてきていて、バリアの枠組みがかなり増えてきているような気がする。バリアが一体何から何までを含んでいるのか、その射程圏を一度、本調査研究協力者会議で定義したほうがいいのではないかと思っている。物理的な話だと、バリアフリートイレやスロープ、エレベーターが含まれるだろうが、恐らくそれ以外にも、例えば音響、心理的なバリア、LGBTQ、更衣室の問題等、いろいろなことが学びを妨げるものとしてバリアとなり得るようになってきている。吸音ボード一つ取っても、それが少し過敏な子に関してはバリアになってしまうことも含めると、バリアをもう一度、学校の現場に照らし合わせて見直すべき時期に来ている。
2点目、どのようにしたらオープンスペースがうまく起動するのかという幅や奥行き等のサイズと、そこで行われるアクティビティを照らし合わせながら、この一年ずっと調べているが、例えば車椅子の人にとっても、それから、オープンスペースの活用についても、かなり今、寸法を的確に捉える時期に来ていると感じる。さっき高橋委員からも話があったとおり、オープンスペースも教室内も含めて、かなり動き回る授業が増えてきている中で、今やっと現場が、例えば、車椅子の子が、廊下らしきところやオープンスペース、教室等をうまく使えるような寸法体系になってきているのか。オープンスペースを考えることとバリアフリーを考えることが一体になってきていると思う。バリアフリートイレ、スロープ、エレベーターにあまり縛らず、例えばクールダウンスペースや更衣室やロッカーをどのように置くと、全体がうまく円滑にバリアが減っていくのかということも含めた、少し広い視野でバリアフリーを捉えていければと思っている。
【亀村委員】全国でもそうだと思うが、川崎市でも、学校の状況が変化し、少人数学級への対応、特別支援学級の増加、不登校対策、地域活用等、学校の使い方の多様な変化に対応しながら、併せて、学校施設の長寿命化への対応を行っている。
今回説明いただいたバリアフリーについて、今、目標値がなかなか達成できていないことについては、しっかり分析して、次の目標を立てていくことが非常に重要かと考えている。
次の整備目標を、夏頃に立てるということだが、行政の視点からは、目標を立ててそれをしっかり達成していくことは、非常に重要な取組になってくる。本調査研究協力者会議で先生方からいろいろな課題や意見をこれからもいただくと思うが、本会議でしっかりと現状分析し、全国で取り組みが進むような目標が設定できるよう議論していきたい。
【倉斗委員】私も伊藤委員や垣野委員と同じく、建築計画を研究している。バリアフリーを検討する調査研究協力者会議は、これまでも何度も開かれていてその委員として私も参加した経験もあるが、令和の時代のバリアフリーは、どのように考えていったらいいのかと思いながら先ほどの事務局の説明等を聞いた。
先ほど垣野委員も言っていたように、バリアとは何かもう一度考えていくと、施設の段差を解消する、身体的な不自由さをお持ちの方も使えるようにする、というのがこれまでのバリアフリーだとすると、さらに広くバリアを捉えていくことも、もう始めていかないといけないと思っている。そのときに、ハード面の段差もそうだが、心理面、精神面の生きにくさをどのようになくすかということも、広げていくべき議論のポイントだと思う。本調査研究協力者会議の中で議論することがふさわしいかどうかは別だが、いろいろな実務に携わっていると、今、もしかすると一番大きい障害やバリアは経済的なバリアであって、工事費の価格高騰等が、いろいろやりたいこと・やるべきだと考えていることを阻んでいる状況も実際にはあるので、そこをあまり無視して議論することはできないのではないかと感じる。バリアフリーをハード面から考えていくと、誰でもどこでも行きたい場所に行けることを目指してきたが、それが広場のような場所なのかというとそうでもなく、ものすごく予算をかけてどこにでもエレベーターやエスカレーターをつければいいという話でもなく、どのようにしたら令和で考えるバリアフリーが実現できるのかという話を議論していけるような場になるといいのかなとも思った。最近、オープンスペースの研究等をしていると、オープンスペースでこれまで求められていたフレキシビリティが、あまり子ども主体でなかったのかもしれないと少し感じている。フレキシビリティを求めていたのは教員や学校設置者側で、教員や学校設置者の状況に合わせて変えていける空間を考えていた言葉だったかと思うが、もう少し、利用者視点、子どもだけでなく教員や地域の方、避難所として使う人といったユーザーの視点で考えると、もちろんフレキシビリティは重要だが、さらにそこに選択肢やバリエーションをつくっていくことが必要だと思う。そうすると、バリアフリーも、こういった状況ではここが使える、ここを使えばいいというような、選択肢をつくることで、もしかすると経済的なバリアも含めて解決の糸口が見つけられるのではないかと考えながら、今日の説明を聞かせていただいた。
【斎尾委員】私は、建築計画分野出身だが、地域計画、都市や農村といった立地、学校と地域がどのように連携していくか、といった、地域社会の中での学校の拠点性等を研究しており、学校建築そのものよりは、少し周りのことを研究対象としている。
今、全国で多くの老朽化した学校を何とかしなければいけないが、自治体によって、例えば小学校1校、中学校1校という小さい自治体もあれば、100以上の学校を抱える大きな自治体もある。多くの学校を抱える自治体だと、改築・改修の順番待ちというか、ものすごい待ち行列がつくられている状態で、もちろん新しく改築する、改修する順番が来れば、物理的な最低限のバリアフリーはその瞬間に解消するわけだが、ずっと順番待ちをしていて、改修するから修繕のお金は入らない、といった学校が、随分あるという実態があるのではないかと考える。最低限の改修、最低限のバリアフリーの修繕が必要な学校が山ほどあると感じる一方で、それを5年待っていると普通の子どもは入学して卒業してしまうし、子どもにとって5~6年間は非常に短いし、建設の時間のスタンス・考え方と子どもの成長のスピードは全く違うところもあるので、老朽化対策を含め、早急にいろいろ考えていければいいのかなと思う。
また、特に人口減少が進んでいる農山漁村地域では、これ以上統廃合ができないところまで統廃合をやってきていると思う。そのため、バリアフリーの整備は大事だが、それをやるために、さらに経済的な側面、先ほど倉斗委員が経済的なバリアについて話していたが、まさにそれを理由に、もっと統廃合しようかといったことにならないような、長期間のバリアフリー整備の仕組みも考える必要があるのかなと思った。
【田邊委員】全国の市町村が公立学校を設置しているが、全体を見渡してみると最新の学校建築の学校もあれば、何十年も経ってノスタルジーを感じるような木造校舎もあるので、どこを標準的なものと想定していくのかなかなか難しいが、各委員からの指摘があったように、直近で大事なことは、老朽化への対応。統廃合を見据えて老朽化を解消するところもあれば、大きな財政的措置を必要とするためなかなか踏み出せない、本当にまだら模様なのが全国の状況。トイレの洋式化、教室・特別教室・体育館の空調もそうだが、実態調査でも確認されたように、バリアフリー化についても今年度中に整備するのはなかなか実現が難しいのが実態かと思う。特に多くの学校を設置している自治体にあっては、予算づけの問題や、先ほど斎尾委員からも言及があったように順番待ちをせざるを得ない状況もあるので、目指す目標はあっても、なかなか達成できないところもあれば、即座に実現できるところもあって、本当にまだら模様なのが全国の実情だと思っている。とはいいながらも、目指す目標を提示して、それに向かっていくように後押ししていく支援体制はぜひ必要だと思うので、今回のバリアフリーの実現に向けても、力強い後押しがあれば必ずや実現できると思っている。
要するに、これまでの対応をもう一歩進めていくには、ステップをさらに加速化するような、新たなステップに踏み出すという強い思いを持って実現していくことがぜひ必要だと思っているので、今回の検討でも、強いメッセージとして、それを実現しなければいけないという後押しになるような組み立てをお願いしたい。バリアフリーを個別にしっかり最適に実現することが、全体を最適化することにつながるという、これまでの発想を切り替えるような強いメッセージを発信していただきたいと思っている。
バリアフリーを実現していく上で、対象とする子どもたちを具体的に想定しながら、その子どもたちの多様な広がりを見据えて個別に対応を図ってきたのがこれまでの実績だと思うが、その対象範囲は刻々と変化していき広がってきたかと思う。このため、「学校施設バリアフリー化推進指針」(令和2年12月、文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部)にもあるが、地域の障害者や、関係者、当事者の意見を幅広く聞いて実現していく仕組み、すなわち、バリアフリー化を各学校で実現していくために、個々にどのようなニーズがあって、対応できるような備えをどうしていくのかをしっかりと把握していく仕組みや働きかけも伴ってこそ、実際の施設や人材面での対応にも結びついていくと思うので、当事者や関係者の意見を広く聴取し最適に対応できるような場をしっかりと設けるような手立てについても組み込んでいただければと思っている。
全国の状況はまだら模様なので、速やかに実現するように、強い後押しをお願いしたいと思っている。
【長澤委員】これまでの各委員の発言を聞いて、この調査研究自体が大変幅広い視点で、楽しく、しかも意義のある形で議論が進み、その成果が期待できるような感じがした。最初の市川委員の発言から始まって、皆様から出されたことだが、バリアフリーは社会基盤整備の観点で非常に大事な目標だと思うが、一方で、学校をトータルに考えたときに、目標となるのはバリアフリーというだけでなく、インクルーシブな教育の場、どの子どもにとっても居場所になり、その子どもの状態に応じてウェルビーイングに過ごす場所となること。さらに、その子にとってのウェルビーイングというだけではなく、障害の有無等によらず、共に学校生活を送るみんなにとってウェルビーイングな環境にするという捉え方が重要だと思う。つまり、バリアフリーを、学校施設環境を子どもの豊かな成長の場、さらに地域の人たちの場とする上での一つのキーワードとして捉え、議論していけるとよいと思う。そうした観点が、これまでの発言からもよく感じ取れた。
学校にとってバリアとは何か、きちんと整理する必要があるのではないかという発言もあった。子どもの状態によってバリアは異なり、それが多様であることを押さえた上で、それに対して施設すなわち物理的な環境をどのように考えたらよいかということになると思う。最初の事務局の説明にもあったが、学校施設は言うまでもなく、子どもの教育の場だけではなくて、地域の人たちが年齢段階を超えて豊かな時間を過ごし、それぞれが成長し、その中で交流が生まれてコミュニティをつくっていく拠点となる場である。加えて、災害時の防災拠点、避難場所にもなる。子どもたちの場だけではなく、いろいろな局面で、いろいろな人たちがやってくる場になることを考えておくことが重要である。
もう一つの視点として、学校は一般的な公共施設とは異なり、半分居住施設のようなものと捉えることができる。ある子どもがある子どもを支える中で、それぞれが共に育っていく。バリアとして問題とされることについて、バリアフリー対策が不可欠なことは言うまでもないが、少し誤解を生むかもしれないが、支え合いの中で育つ場として、学校施設についてはバリアというものの捉え方、捉え直し方もあるのではないかと思う。
最後に、事例を一つ紹介したい。長く計画に関わった学校が完成し、内覧会に招かれた。計画は校舎中央にまとまった広さの正方形の中庭があり、各学年のユニットがそれを囲む一体感がある平面構成で、バリアフリートイレ、スロープ、エレベーターを備えていた。設計案が公表された時、車いす利用の方々や支援者から、スロープと、電気がない時にも避難できる機械式の避難施設に対する要望が出された。寸法的にちょうど収まったので中庭にスロープを巡らせ、昇降口前広場に避難装置を設けられていた。内覧会には車椅子の方も数名来られ、喜んでおられた。学校の周りにはいろいろな方々がおり、学校を見つめ、学校に期待していることを改めた実感した。どこにどのような声があるかきちんと把握しながら計画を進めていくプロセスの大切さも示せるとよい。
本日の資料の中には、バリアフリーという言葉は出てくるが、インクルーシブという言葉があまりない。学校建築ならではのバリアフリーについてのフィロソフィーとして、報告書の中できちんと示しておけるとよい。その上で、基本的な対策について、具体的な手立て、方策を世の中に示し、田邊委員の言う加速化をして、実現のステップに落とし込んでいけるとよいと思う。
【樋口委員】私は、教育方法、教育課程、教師教育等を研究している。
1点目、エレベーター、垂直移動の問題について。資料3-2の14ページ目のポスターにある、「私もみんなと一緒にも上の階に自由に行きたい」というのは、まさにそのとおりだと思う。昇降機にせよエレベーターにせよ、非常に大きいものだから、学校を新しくつくるときはもちろん考えるのだろうが、既存の学校を改修していくときには、そもそもどのようにしてエレベーターをつけられるのか。今、団地等でも外にエレベーターだけつけて、渡り廊下をつけるような形で対応しているところもあるようだが、なかなかその辺りについてどのようなアイディアを出すとうまくつくれるのかなと考えている。また、資料3-2の5~11ページ目のような実態調査において、よく小学校中学校における調査結果が出てくるが、高校がなかなか対応できていない。高等学校はもう施設自体が非常に老朽化していて、階段の高さも非常に高く狭いところはあるので、どのようにしてその辺りをうまく解消していくのかといつも気になっている。
2点目、個別の教室について。個別最適化への対応もそうだが、不登校というより、むしろ登校はしてくるが教室に入れない子どもたちに対する教室のつくりは、もう少しアイディアがあってもいいと思う。何となく私が見ている範囲だと、元の普通教室をパーテーションで区切って、必要なものを置いて、というような感じにしていて、それはそれでいいが、もっとアイディアがあれば、そういった子どもたち目線の教室の大きさ、形状等、いろいろなことが考えられるのかなと感じている。
3点目、インクルーシブについて。そもそもそうした子どもたちが苦労しているところは、まず学校に来る登下校のところからで、特に特別支援学校だとバス等が出ているが、通常校に行った場合には、親御さんが送るのか、といった送り迎えの問題がある。特別活動については部活動や校外学習において、バリアフリーはどうするのかという問題がある。その際、介助の方は、当然でもないが、大体つくが、介助の方がつくことによって、ほかの子どもたちとの関わりが逆に一歩離れてしまうところが、教室を見ていると結構あって、児童生徒が孤立するという問題がある。啓発の意味でのバリアフリーやインクルーシブもあるが、もっと教育の意味でのバリアフリーやインクルーシブの問題もあり、これは安全面もあってなかなか難しいが、例えば車椅子を子どもたちが一緒になって押してあげるといったことは、簡単なことでもあるものの、安全の確保や基本的な技術の習得等も必要なので、教育の中に組み込んでいかなければいけないのかなと感じる。まだ普通の児童生徒に対する教育という面では、何となくの気持ちの部分でのインクルーシブが中心になっているので、その辺りも少し考えていかなければいけないのかなと思っている。
【植田特別協力者】私自身は学校経営や教育行政学を専門にしており、イギリスをフィールドに、日英の比較研究という形で調査研究をしている。今回、令和6年6月までの調査研究協力者会議に引き続き、本調査研究協力者会議に関わらせていただく中で、かなり今までよりも絞った形での検討をすると事前に伺って、考えたことを3点申し上げたい。
1点目、今回、バリアフリー化という言葉について先ほどいろいろな委員も定義について話していたが、今回の調査研究協力者会議の中でのバリアフリー化をどこまでのスパンで捉えていくのか、その定義や検討範囲が、かなり広く、いわゆるユニバーサルデザインやインクルーシブ等、かなり論点が幅広くあると改めて気づいた。同時に、今回の検討においてはバリアフリー化のさらなる推進という言葉が加わっていると思うが、今まで様々な方々が指摘されてきたようなこと自体について、今までにどこまでができていて、これから先どこをさらに推進していくのかという検討内容の方向性の一致をかなりきちんとしておかないと、なかなかふわっとした感じの議論になるのかなと、委員の皆様のお話を伺って思った。そういう意味で、何人かの委員が言っていたように、今回のバリアフリー化の議論において、何をバリアとして捉えるのかという共通見解が必要なのかなと思う。
2点目、今回、中央教育審議会での学習指導要領の改訂の方向性や、教員の働き方改革等の流れの中で、教員のウェルビーイングや教員の働き方改革のさらなる加速化といった教員の視点も、とても重要な視点なのかなと感じている。児童生徒にとってのウェルビーイング、児童生徒にとってのバリアを下げていくことと同時に、先生方にとって、児童生徒のバリアを下げることができるような先生方の働き方や役割、先生方に求められる資質・能力は何なのか、先生方への研修、等の視点も、学校施設設備の観点から見たときにどのようになるのかなということについて、いわゆる学校経営そのもののマネジメントの部分から少し自分なりに考えていけたらと思った。
3点目、経済的なバリアもあるのではと指摘いただいた委員の皆様も先ほどいたが、私自身もそれはすごく感じている。今回、施設設備という部分で言うと、金銭的なもの、条件整備としての予算をどのように獲得していくのかというところがかなり重要になってくると思うが、学校施設は、学校の機能拡大という観点では、防災施設や、地域にとっての生涯学習の拠点等の役割も期待されていると思うので、そのように考えたときに、教育委員会だけではなく、総合教育会議等の場で、首長部局とどのように連携しながら、学びの場としての学校と同時に、どのような機能を学校という場・施設に持たせるかことによって、地域にとって学校が拠点になるかどうか、拠点になるためにはどのように予算を獲得していくのか、学校にどのような機能を入れていくのか、ということについて合意形成がきちんとできるような議論を、きちんとエビデンスに基づいてできることが必要ではないかと思っている。そういったことが先駆的にできている自治体等についても情報を共有いただけるとありがたいなと思った。
【深堀特別協力者】私は、同じ文部科学省の中にある国立教育政策研究所で、文部科学省の政策が少しでも進むように、政策研究の立場から研究している。私から3点、皆様の意見を伺っての感想を述べたい。
1点目、現在、学校に様々な役割、新たな機能が期待されていると改めて思った。例えば、現在の学校教育に対応していくために、長寿命化が求められていること。学校が避難所としての役割を果たすことも期待されていることから、避難所の機能が求められていること。最近だと脱炭素を進めるという観点で学校に太陽光を設置するという動きもあること。公共施設の再配置、最適化等の観点から、学校施設の余裕スペース等を活用してそこに地域コミュニティの拠点の機能も盛り込めないかといった議論があること。さらに、バリアフリーの観点が求められていること。今、学校施設には本当に多様なことが求められているなと思った。ただ、逆に言うと、それぞれが独立してばらばらで動いているというよりは、それぞれが大いにリンクすることがあり得ると思っている。例えば、学校施設をバリアフリー化することによって、地域コミュニティの拠点としても使いやすく、避難所としても非常に使いやすくなるのではないか。脱炭素で太陽光を進めていく際によく蓄電池もセットで設けるという動きがあるが、先ほど市川委員から話があった医療機器等で非常に必要となる電源関係についても、脱炭素を進めていくことによって、それだけで十分に対応できるかどうかは置いておいても、学校が避難所として機能する時に関係する部分が出てくるかと思う。単にバリアフリーだけで考えていくのではなく、相互に関連しているという視点もぜひ持って、幅広に検討を進めていっていただきたい。
2点目、それだけ相互に関係しているので、バリアフリーを進めたことによって、このようなことにも役立ってよかった、というような声を拾っていくと、地方自治体にとって、やる気が出るというか、バリアフリーをこのような観点からももっと進めていこうというインセンティブを付与できるのかと思うので、そういった視点もぜひ加えていただければと思う。
3点目、これまでも十分そういう視点を持って取り組んでいただいていると思うが、バリアフリーを進めていくにあたって、短期的にすぐできることと、長期的に長寿命化改修まで待たなくてはいけないこととあろうかと思う。斎尾委員からも話があったように、予算の制約の苦しい中で、長寿命化のための順番待ちが一部の自治体で起きていると聞いている。逆に言えば、長寿命化できるまでバリアフリー化できないということではなくて、最低限、これは簡単にできるので順番を待つことなくこれから進めていこう、というような優先順位づけの考え方も、ぜひ盛り込んでいただければと思った。
【奈須主査】今進んでいる教育課程・教育方法の改革の一番根本にあるのは、全ての子どもは幸せになる権利を持っているという当たり前のことを再確認して、この国でもしっかり進めていこうということだろうと考えている。それは、全ての子どもの発達権・学習権の十全な保障につながってくる。この国では、それを伝統的には、先生がいいと思う一つの方法、いわゆる一斉指導でやってきた。一斉指導でかなりカバーできていたので、先ほど伊藤委員の発言でもあったように、「普通」とか「標準」に当てはまらない人たちに別の対応ということをする、というモデルがあったと思うが、この「普通」が今、崩壊しつつあるということかと思う。例えば、先般の文部科学省の令和4年の調査で、小学校4年生に聞いたところ、「授業の内容が難し過ぎる」という子どもが27.3%、逆に簡単過ぎるという子どもが28.2%、すなわち、授業の内容やペースが自分に合っていると感じている子どもは44.5%で、半分いっていない。一斉指導のカバーレンジはもう半分を切っている。私が40年前に、教員免許をもらったときには、もっと数値が高かっただろうと多分思っていたし、実際高かったのではないかと思う。日本の先生方の一斉指導は、世界で一番質が高いと言われているが子どもの側の多様性の拡大、あるいはその多様性に対してもっと丁寧にきちんと応じるべきだという世論の成熟、といったものが出てきた。その意味でも、もう「普通」や「標準」というものはあまり考えられない。これが個別最適という話にもつながってくるが、逆に言うと、こういったことを続けていたがゆえの不登校児童生徒34万人ということだろうと思っている。不登校にはいろいろな理由があるが、授業が分からない、つまらない、なので学校に行く意味を感じないというのがこのところ増えているという話があり、保護者も、そのような学校に無理して行かなくてもいいのではないかとなってきた。昔と違って、学校に行かなければ将来が真っ暗だという時代ではないので、いろいろな筋道、場で学び育つことが可能になってきて、学校が相対化されてきた。これは悪いことではなくて、いいことだと思うが、そのように考えたときに、バリアフリー、あるいは先ほど出てきた多様性を、どのように考えるか。その考えるモデルが大分変わってきているかと思う。多様性、もっと言うと「DE&I」すなわち「Diversity, Equity and Inclusion」、多様性を公正に包摂するという考え方を基本にして、今、教育課程の議論が進んでいるが、学校施設の整備もそのようなイメージでやると、先ほどの議論も割とすっきりするかなと思っていた。
同時に、私も若いときからオープンスペースの学校施設での個別最適のカリキュラム、といったことを少し勉強したが、そのときにお世話になった国立教育研究所の加藤幸次先生が、全ての子どもはスペシャルニーズであり、その子ならではの要求を持っていて、それに応えるような教育や学習環境を整備することが大事だ、と40年前に既に言っていた。それに呼応するような建築を、東京都立大学の長倉康彦先生、上野淳先生、それから本調査研究協力者会議委員でもある東洋大学の長澤悟先生がつくってくださり、教育方法の開発も一緒にやってくださった、と学生時代に勉強したが、また今、そのような機運がさらにいい形で高まっているかなと承知している。
そのような中で、今回、バリアフリーについて、まず、これまで目指してきたことをさらにしっかりやっていくことをまず目指したいが、先ほど委員の皆様から話があったように、もう一度根本原理に帰って、どのような理念で、どのような姿をイメージしながら進めるか、ということも併せて議論いただくと、これから教育課程をつくっていく、高橋委員からも話があった教育方法の改善を進めていく、そういった動きともいい形で呼応するのではないかと思い、期待している。
・事務局より欠席の委員のコメントを紹介。
【奈須主査】最後に、学校施設のバリアフリー化の推進に関する今後の検討について、資料4-1、資料4-2において事務局から説明したとおり、学校施設のバリアフリー化の推進に関する具体的・専門的な検討を、部会を設置して進めていただきたいと思うが、異議はないか。
(委員一同、異議なし。)
【奈須主査】それでは、部会の設置等については原案のとおり決定とさせていただく。部会長については、令和2年に学校施設のバリアフリー化等の推進に関する調査研究協力者会議でも取りまとめをいただいた東洋大学名誉教授の髙橋儀平委員にお願いしたいと思う。本調査研究協力者会議から部会に参加される市川委員、伊藤委員におかれては、学校施設のバリアフリー化の推進について、精力的な検討をお願いしたい。
・事務局より今後の日程等について連絡。
・奈須主査より閉会の挨拶。
── 了 ──