木造校舎の構造設計標準の在り方に関する検討会(令和6年度~)(第2回)議事要旨

1.日時

令和7年2月10日(月曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 旧庁舎4階 文教施設企画・防災部会議室(オンライン併用)

3.議題

  1. JIS A 3301改正の方向性について
  2. JIS A 3301改正の全体スケジュール等について
  3. 報告書(骨子案)
  4. その他

4.出席者

委員

(委員)
   荒木康弘、稲山正弘(WEB)、川原重明(WEB)、草野崇文、後藤章子(WEB)、長澤悟、林立也、堀場弘 (敬称略)
(特別協力者)
   日向潔美(WEB)、百瀬智史(WEB)、若林究(WEB)、佐藤靖浩、吉田優一朗(WEB)、深堀直人(WEB) (敬称略)

文部科学省

(大臣官房文教施設企画・防災部施設企画課)
   瀬戸課長、松下企画調整官、扇谷課長補佐
(大臣官房文教施設企画・防災部施設助成課)
   野口課長補佐(WEB)

5.議事要旨

議題1:JIS A 3301改正の方向性について

・荒木委員(ワーキンググループ主査)より、「JIS A 3301改正の方向性について」について、資料1-1~1-4に基づき説明が行われた。
 その後、委員等によるJIS A 3301改正の方向性について討論が行われた。主な意見は以下の通り。

・第一回検討会で、建物高さ・階高、準耐力壁・耐力壁、準耐火構造に対する考え方、金物工法等に関する意見があった。ワーキンググループでは、それらも取り込みながら検討が進められたという理解でよいか。
・そのとおり。
・国土交通省告示第四百四十五号の第二4号規定は、現状もあるのか。また、この規定を適用して建設された学校は、実例としてどのくらいあるのか。
・この規定は、現状もある。
・JISを部分的に利用した学校の棟数のデータは第一回検討会で示したが、この規定を適用された件数のデータは持ち合わせていない。
・前回、ユニットプランが有効かどうかについて議論があり、ユニットプランを廃止しても良いのではないかという意見もあった。ワーキンググループでの議論をもう少し詳しく説明してほしい。
・ユニットプランがあっても、建物1棟を設計する際には、結局、全体を構造計算しているため、ユニットプランが本当に必要なのかという意見があった。一方で、ユニットプランを全て無くしてしまって良いのかという意見もあり、「整理・統合する」と記載している。ユニットプランは、最終的に1ユニット1プラン程度に縮小してもいいのではないかと考えている。また、技術資料の設計例の中で、ユニットプランの組み合わせ例を示すという方法も考えている。
・構造設計者が本当に使いやすいものになっているのかが重要だと思う。
・構造側としては、一定の室の大きさに対して、耐力要素の性能の目安があると助かる。詳細に構造計算を行うことで、それがもう少し減らすことができると分かる。ユニットプランは、耐力要素の概算を考える際の目安になると考えている。
・現在は、構造計算ソフトが非常に発達しており、私が共に作業する構造設計者は、簡単なプランをいきなりモデルに入れて判断している。構造計算を簡易に行える時代になっている。
・そのようにされている方もいると思うが、建築構造は、依然としてローテクな部分が残っている。
・ワーキンググループでも様々な意見が出ていた。構造の委員が言っていたのは、細かい寸法ごとにいくつものユニットプランを作らなくても、例えば、「このトラスは10メートルスパン以下なら使える」のように、適用範囲さえ示してもらえば十分という意見があった。また、部分的なプランだけでは全体像が掴みにくいという意見もあった。ただし、現在のような細かい寸法体系を作らなくても、少し寸法が異なっていても構造計算で対応すれば問題ないという考え方から、ユニットプランを整理・縮小してはどうかという議論になった。
・木造についてあまり詳しくない設計者からすると、実際手を動かすけれども、こういった目安があると設計するうえで参考になると、構造設計者は言っていた。そういった使い方も1つあると考える。
・目指す方向について、スコープを整理しておくべきだと思う。資料1-1の1.デザイン・建築計画で「柔軟で創造的な学習空間を実現できるものとする」という記載があるが、ユニットプランや構造設計標準を策定する目的は、むしろ標準化を進め、木造校舎の普及を促進することや、木造に不慣れな設計者が設計しやすくすることだと考えている。そのため、「創造的な」という表現が出てくると、少し違和感がある。もう少し「標準化」という方向性を強調したほうが、全体的な目的に沿うのではないかと。
・現在、公立学校の木造化率は約15%であり、これをさらに引き上げていくことを目指している。木造の不慣れな設計者でも利用しやすく、木造の経験がない発注者でも木造を選択し、計画できるような構造設計の標準化を進めていく考えだ。しかし、単に廊下と教室が並んだ、いわゆる「画一的な学校」ではなく、新しい令和の時代に適したものを目指している。具体的には、教室前にオープンスペースがあり、教室とオープンスペースを創造的に活用できるような設計を想定している。なお、「創造的な」という表現については、誤解が生じないように補足したい。
・「柔軟で創造的な」という表現に対して、「創造的な」という言葉をどういった意味で受け止められるかによる。事務局が言ったように、一時代前の規格設計である片廊下型のものを目指しているわけではなく、そのような点をきちんと押さえておきたい。
・木造化率15%という数値について、この木造の定義がどのようになっているのか確認したい。例えば、我々が設計した小学校のように耐火建築物として建設され、確認申請上は木造に分類されないケースもある。特に、水平力をすべて鉄筋コンクリート造で負担している場合、構造的には木造と言えない場合もある。そのため、木造化率の算出において、どのような基準で木造としてカウントされているのか、データの根拠を確認したい。
・現在、具体的なデータは手元にないが、木造化率の算出には混構造や耐火建築物など、分類が難しいケースも含まれている。ただし、そういったケースは、それほど多くないと考えられるため、いずれにせよ公立学校における木造の割合が非常に低いという状況。
・実際の設計現場では、耐火建築物や混構造を活用しつつ、木造化を進めている事例も少なくない。そのため、こうしたケースも含めた形で、木造の定義を整理したほうが、実態に即したデータとなり、より適切だと考える。
・承知した。次回の調査から定義を工夫したい。
・資料1-1の技術資料のところで、新規追加の建築設備(機械・電気)は、関連する具体的な記載が見当たらない。具体的にどういった内容が追加される予定なのか、現状でもし方向性があれば説明して欲しい。
・設備の分野は、まだ議論が十分に進んでいない。構造設計標準を決めるうえで、設備計画も十分に検討する必要があると考えている。例えば、電気設備の照明や配線をどのように配置するか、照明を木トラスに埋め込む可能性もある。さらに太陽光発電設備の設置方法やその配線ルートをどう考えるか。機械設備は、オープンスペース周りの空調設備や配管ルートについても検討が必要である。木造校舎に適した設備の収まりや留意点を技術資料等に書き込んでいきたいと考えている。
・理解した。各ユニットプランに対して、JIS規格が新しく改正されたときに、設備上はどのような留意点があるのか。
・ユニットプランごとにではなく、共通事項となるのではないかと考えている。
・他省庁も含めて、公共施設のZEB化が話題になっている。ZEB化に関係する設備の考え方は、この新規追加の設備とリンクするのか。
・環境性能について、どこまでの水準を求めるかは今後の議論。例えば、ZEB ReadyやNearly ZEBの水準に関する仕様および荷重条件については、今後、技術資料等の中で検討することを考えている。
・学校の防災機能強化に関して、非常用自家発電設備や太陽光設備には国の補助があるが、維持管理に関する補助が不足しているとの課題が市町村から提起されている。特に、蓄電池の更新に関する問題があり、設置後10年を経て交換が必要となる場合、複数の学校を抱える市町村は対応が難しい。維持管理や更新コストを事前に考慮した設計が求められ、これに対応する計画や指針が必要である。文科省の補助メニューに関連する形で、維持管理の支援が盛り込まれることが望ましい。
・イニシャルコストのみならず、ライフサイクル全体のトータルコストを考慮する必要がある。この点について、より分かりやすく表現していきたい。
・ハイサイド型の屋根トラスは、北向き教室配置のプランニングの自由度を確保するというメリットがある。
・維持管理については、長寿命化や足場を要さず随時安全なメンテナンスという文脈の中でバルコニーの追加がワーキンググループから提案されており、重要な視点である。

議題2:JIS A 3301改正の全体スケジュール等について

・事務局から資料2-1,2-2に基づき、JIS改正全体スケジュール(修正案)と検討会・ワーキンググループの今後のスケジュール(案)の説明が行われ、原案のとおり了承された。

議題3:報告書(骨子案)について

・事務局から資料3に基づき、報告書(骨子案)の説明が行われた。
 主な意見は下記のとおり。
 
・骨子案のこれからの検討の進め方について、何か具体的な考えはあるか。
・事務局で原稿の案を作り、次回のワーキンググループで議論して頂く予定。ある程度内容がまとまったら親会議の検討会に報告し、議論して頂く形で考えている。
・2章の2.基本条件に、電気設備計画、機械設備計画と記載されているが、これらは基本計画レベルの内容が書かれると考えて良いか。
・そのとおり。今後、原案作成団体で、構造設計・構造計算を実施するが、荷重条件等を設定する必要がある。設備についての基本計画を策定して、断熱・開口部の仕様等を記載し、ある程度荷重条件等が想定できるような形で、日本建築学会に提示したいと考えている。
・以前文科省で、標準予算のための図面作成を行った際、限られた予算の中でZEBの要素をどこまで取り入れるかについて議論が行われた。図面が高価な仕様の設備計画となると、参考にならない可能性があるため、参考例か標準例か、位置づけを明確にすることが重要であると感じた。
・補助単価も見据えつつ、どのような仕様や設定にするかを、慎重に検討する必要がある。
・2章の2.に記載されている「配慮する事項」において、具体的な性能目標が示されるのか。例えば、床の遮音や振動に関するグレードや目指すレベル、そのために必要な設計手法が記載されるのかについて確認が必要である。課題や計画の目標、目指す水準が明確になれば、木造の導入がより広く進む可能性がある。
・これは構造設計標準なので、関連事項の性能目標を新たに記載すると、別の問題が生じる恐れがある。既存の基準を参照するという前提のもとで、構造設計と関連する事項をまとめる必要があり、そうしないとダブルスタンダードとなる可能性がある。
・学校建築設計全般になってしまう懸念があるとの指摘があった。
・例として挙げた床の遮音については、構造に関連するため取り上げたものである。委員がおっしゃったように、学校建築設計全体で押さえるべき事項と、構造設計標準に関連して記載すべき事項の2種類あることを認識する必要がある。
・そう思う。
・近年、様々な事例があるため、それらを紹介し、この床の仕様ではおおよその遮音性能がどの程度であるかを示すことは可能である。しかし、国として数値目標を設定するべき事項については、慎重な検討が求められる。
・そのような課題に対して、具体的な設計例を示すという方法も考えられる。
・木造で、特に地域材を使う場合、例えばスギ材を主体にするとヤング係数が低いため、床の振動対策が最も難しい。特に、2階建てで、地域の一般流通材を用いて教室のスパンを7,280mm飛ばすのは難易度が高い。現在、支点桁方式やレシプロカルなどを利用し、4メートル材を使って8メートル弱のスパンを飛ばす設計を進めている。床の振動に関しては、官庁営繕の計画設計基準の10ヘルツを満たすためには、相当な梁せいが必要になる。また、遮音性能や重量衝撃音対策を考慮すると、一定の重量(例:ALC板やシンダーコンクリート)の床材が必要となり、これがたわみや振動の問題を引き起こすため、解決には試行錯誤が伴う。方針としては、一般流通材をなるべく使用し、大断面集成材の使用を避けてコストに配慮することが求められているが、遮音・振動を重視すると、大断面集成材を使用せざるを得なくなる。木造の利点は軽さにあるため、その性能を損なわない範囲で、適切な遮音レベルをどこに落とし込むかが設計上の大きな課題である。
・私も同様の意見を持っている。床の仕様は常に議論の対象となる部分であり、どの程度の遮音レベルで設計するかについて、意匠設計者から多くの質問を受ける。過去の事例を参考にしながら、こうした事例があることを説明し、床の仕様を決定している。ただし、その性能がどれだけのものかは測定していないため、確定的なことは言えないが、事例に基づいて決めている。
・床の仕様には、デッキプレートにコンクリートを打つものから、鋼板を張って置き床で仕上げるものまで様々な選択肢がある。ただし、授業中は人が多く歩かないため問題は少ないが、上下階で部屋のプランが異なる場合、音が問題になることがある。とはいえ、施主からは特に厳しい要求はなく、ある程度は許容されている。
・防火に関しては、燃えしろを設計するかがコストに大きく影響する。具体的には、準耐火構造を採用するかどうかで計画が大きく異なり、木材の断面が全く変わるため、この点が重要である。
・次に大事なのは、上下階の壁をそろえること。上下階で壁がそろわない箇所が多数出ると、設計が難しくなる。そのため、この点について意匠設計者に理解を得ることで、スムーズに設計が進行する。
・具体的な性能目標については、構造設計標準に直接関連する部分、直接関連しないが考え方の前提を示す部分、あるいは具体例を紹介する部分など、様々な方法が考えられる。これから検討してもらいたい。
・資料1-2で、「整理してはどうか」という表現があるが、ここでの「整理する」とは、「なくす」という意味か。それとも、現在の構成のままだと多すぎて、利用率も低いものが混ざり、かえって分かりにくくなるということか。あるいは、現在の構成を前提にしてすべて改正しようとすると作業が膨大になり、実効性のない部分に労力を割かれる恐れがあるからなのか。
・整理は、「縮小する」という意味であり、先生がおっしゃったとおり、発注者や設計者がJISを使用する段階での煩雑さと、JIS改訂の作業上の煩雑さが問題である。
・一般的に、学校施設の在り方を考える際、多様な学習に対応できる教室面積や密度が必要とされるが、具体的な寸法を示すことがJISの大きな特色である。多様な学びやGIGAスクールで机が大きくなることに対し、これまで以上に教室のサイズそのものが計画段階で議論されている印象を受けている。
・それに対し、教室のサイズを桁行方向又ははり間方向に少し増やせる仕組みがあると良いと思う。JIS A 3301を基にプランニングを行う際、教室のサイズを大きくするための工夫があれば、技術資料でも触れておいてほしい。計画に関わる立場から言うと、教室を大きめにする際、単にスパンを大きくするだけでなく、他にどのような仕組みがあるかに興味がある。
・それは、何㎡程度の教室をイメージしているか。
・例えば、80㎡や90㎡の広めの教室が想定され、その中に教師スペースやロッカースペースがあるイメージ。
・そのあたりを取り込んだ上での90㎡ということか。
・そのとおり。その場合、教室の中に木の柱が立っていても問題ないという考え方もある。ただし、これは余分な話かもしれない。
・JISの技術資料には、新たに遮音床や耐火外壁が追加されている。これらは新規開発するのではなく、既存の技術を整理・収集して掲載するイメージか。
・そのとおり。
・2015年版の技術資料に、「長寿命化」についての記載があるが、数ページ程度にとどまっている。音環境についても、仕様の照会程度であり、遮音性能までは記載されていない。
・今回は、さらに記載を充実させる方針。
・「施工」とあるのは、「建て方」の指すのか。
・そのとおり。
・地元の技術による木造の「建て方」も、JIS A 3301の1つの狙いになる。
・教育委員会の立場として、建築の素人や構造設計が分からない意匠設計者と話をする必要がある。その際、JIS規格の中で、絶対に伝えなければならないテクニカルな部分と、附属的な技術資料とを明確に区別して整理しておいた方が分かりやすい。
・ユニットプランが提示されると、何も知らない人は、「こうしないといけない」という固定観念を持ちやすい。「事例の1つとして、例えばこういう場合はこういう考え方になる」といったまとめ方をすると、説明する側としても伝えやすくなる。
・遮音床の話などを集めようとしても、なかなか入手しづらいのが実情。最終的には、事例に載っている学校に直接電話をかけ、テクニカルな話を聞かなければいけない状況になっている。技術的な工夫の内容についても記載してほしい。
・JISの技術資料は改定されて面白くなったというか、いろいろ課題の解き方についてアクセスしやすくなったという形になると良いと思う。
・JIS改正の様々な手続と並行して、技術資料を2年間かけて作成することになる。前回の技術資料ではあまり書かれてないという意見もあったので、皆様の協力を得ながら、非常に使いやすいものに今回改定していきたい。
・音については、日本建築学会の「学校施設の音環境設計指針」(いわゆるAIJES)があるが、振動については何も記載されていない。学校環境衛生基準にも振動に関する記述はない。一方で、構造設計者の方々が振動についての基準を持っていないという話を聞くと、建築学会の環境振動運営委員会で、学校施設の振動基準を検討するきっかけになると良いのではないかと感じた。
・設計者の方は、どんな基準で設計されているのか。
・私は設計してないので確かなことは言えないが、先ほどの話を聞くと、都度了解を取りながら対応しているようだ。中には比較的揺れを感じる学校もあるのかもしれない。
・貴重な指摘を多数いただいたので、技術資料の検討の際に、その点を共有しながら進めていただきたい。

議題4:その他

・林野庁から、「JASの基準合理化」について、情報提供があった。
・事務局より今後のスケジュール等について説明が行われた。

(文教施設企画・防災部 施設企画課)