学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議(令和4年度~)(第4回)議事要旨

1.日時

令和5年9月28日(木曜日)10時00分~12時00分

2.場所

ウェブ会議

3.出席者

委員

  <委員>
  荒瀬主査、伊香賀副主査、市川委員、伊藤委員、倉斗委員、後藤委員、斎尾委員、高橋委員、長澤委員、樋口委員、細田委員
  <特別協力者>
  植田特別協力者、藤井特別協力者

文部科学省

  (大臣官房文教施設企画・防災部)森技術参事官
  (大臣官房文教施設企画・防災部施設企画課)金光施設企画課長、遠藤課長補佐
  (大臣官房文教施設企画・防災部参事官(施設防災担当))亀井参事官補佐

4.議事要旨

・荒瀬主査より開会の挨拶
・事務局より委員の出欠の説明と人事異動の挨拶
 
議題1:学校施設の質的改善・向上に関するワーキンググループの進捗報告について
・伊藤委員(学校施設の質的改善・向上に関するワーキンググループ座長)及び事務局より、資料1に基づき説明後、質疑応答。
 
【荒瀬主査】アイディア集がとても楽しみになってくる。今の説明は、令和3年の中央教育審議会の答申(『令和の日本型学校教育の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)』)の考え方である「一人一人の子供を主語にする」ともつながっている。
 
【樋口委員】資料1の22ページ「アイディア集の取りまとめに向けた重要な視点(案)」に即して意見と質問を申し上げたい。今日の大事なキーワードのウェルビーイングということについて、授業にしても教材にしても学習内容にしても、与えられる、整備するということはもちろん大事だが、子供たち・教職員が与えられた環境をどう使いこなすのか、あるいはつくっていくのかという主体性が、ウェルビーイングの鍵になってくると考えている。特に環境というのはなかなか自分からつくり出していくというのは難しい面もあるが、こういう場を通じて、どうやって子供たち・教職員の主体性を出していけばいいのを考えることが大事ではないかと思う。
「3. 学校(学習空間)づくりへの多様な主体の参画」は、これまでの会議の中でも、先生方あるいは地域の方と設計の方々が対話する重要性というのはずっと言われているが、CO-SHAプロジェクトは、どの程度活用・周知されているのか。学校の先生は、遠慮深いからなのか分からないが、与えられた環境の中でどうするかというやりくりを考えて、あんまり自分で学校を変えていこう、つくっていこうという、特に施設面で、つくっていこうという意識が割と薄いなというのは前々から考えている。そこがどの程度変わってきているのか、もしご存じであったら教えていただきたい。
「4. 整備後にも続く学習空間づくり」にある、「既存の校舎等」は施設の話なのか、あと教材の話なのかというところをどう考えるのか。教材整備指針も別にあり、例えばスタンディングの机は施設と教材のどちらで整備していったらいいのか、考えがあれば知りたい。
 
【荒瀬主査】与えられるだけでは駄目だが、学校の先生はなかなか物を言わないので、結果的に与えられたものの中で考えるみたいになってしまっている。そこのところも十分考えていく必要があるなと思った。
 
【倉斗委員】私も今、環境づくりを現場でやるというような取組を数年間やっており、資料1の22ページの重要な視点というのは大変共感している。
その中でいくつか付け加えたいが、まず、資料1の22ページの「1. 学校全体が学びの場に」にある「選択する多様な場所」というのが非常に重要だと思う。児童が学び方とか学ぶ場所とかを選択できるということももちろんそうだし、先生方も働く場や教える場を、自分の教室にとどまらず選択できる状況をつくっていくことは非常に重要だと感じている。
ウェルビーイングという言葉にも関係してくると思うが、あらゆるところでの信頼関係を構築していくことが、現場にいるととても重要だと感じる。環境をつくって、その環境を使わせて大丈夫だろうか、子供たちに任せていいのかというようなことを先生方は感じるし、環境と教員との関係も、子供と教員との関係もそうだが、信頼関係を構築していくことが、鶏と卵ではないが、使いながらそれができていくような状況もあるので、まず信じてやってみる、きっかけづくりが非常に重要だと思う。
資料1の22ページの「2. 学校の学び心地・教え心地・居心地」の「居場所を整える」ことだが、これまでの学習環境づくりは、比較的、先生方が教えるための教材をセットしたり、教える環境を整えたりといった言い方をされていることが多かったように思うが、今の先生方の多忙感の中で、非常にここが負担になっているような感触を受けている。けれども、いろんな子供にとって居やすい居場所というのを教室以外にもつくってあげるという言い方だと、ソファを置いてあげるとかクッションを置くとかということから始まって、あまりハードル高くなく、まずは一人になれる場所をつくってみようかなと、あまり学習と直結していないところからでもスタートを切れるというのはやりやすいような気がしいて、そこをきっかけにどんどん学習の場と変わっていくような状況も見て取れたので、この「居場所」という言葉を入れていただいたのは非常に良いなと感じる。
設計者とか有識者の協力というのが今後、竣工した後も続くことが必要というのは、私もすごく賛同する部分だが、一方で、やはりその体制というか制度がないので、先生方も、呼んでみたいがどうやったら呼べるのか、お金とか交通費もそうで、そんなに簡単に呼んでいい状況ではないだろうと思うし、やっていいよということになっても、実際に行く方々の負担感をどう埋めるのかというところがあまりなく語られると、ちょっと実現性が難しいのではないかと思う。
資料1の22ページの「4. 整備後にも続く学習空間づくり」に「教師の新たな発想」があるが、やはり現場の先生たちと話していると、大学で教職を取ってすぐに先生になっている方々がほとんどで、他の職場の働き方とか他の学び方を見たことがないので、今まで自分が経験してきた学校以外の場所を知らずに、新しい学びの形とか居場所というのもなかなかアイディアが出てこないというお話があって、他の業種の職場に体験に行くみたいなことがあれば良いのにというようなお話もあった。何か外部の方々が入っていくような状況になったときに、先生方自身もそういう全く違う場の学びや働き方を見る機会も、今後は必要になっていくのかなと思った。
インプットの研修の機会はまあまああるが、じゃあやってみようというアウトプットの機会は各々に任されてしまっているところがあって、その時間をつくるのが難しいという意見も現場では聞かれる。
 
【荒瀬主査】ICT教育を非常に進めている愛知県の春日井市立高森台中学校の元校長先生の水谷先生が、そういうところに一番大事なのは何かというと、信頼関係だとおっしゃる。それが、いろんなことの原点になっているのかなと思う。
 
【市川委員】資料1の22ページの「横断的な視点」と23ページの「学校施設の5つの姿」を見ながら、少し特別支援の視点からどう考えたらよいのかを教えていただきたいが、学校施設は、確かに学びの場であるとともに、子供たちにとっては生活の場であると思う。その時に、特別支援の必要なお子さんたち、特に今通常の学級等に入学されている医療的ケアの必要なお子さんたちも、看護師さんが支援するだけではなく、例えば導尿とか、自分で対応する児童生徒もいると思うので、「子供たちが安心して生活できるような施設」という視点が重要ではないかと思うが、それに関して何か今回いろんな学校を見に行ったところで工夫されているような学校があったら教えてほしい。
今回、子供たちだけではなくて、働く教職員が過ごしやすい、パフォーマンスを発揮できる環境が重要だというのは、とても大切な視点だと思う。その時に、特別支援学校は特にそうだが、学校の先生だけではないので、中にいるスタッフ、看護師、スクールソーシャルワーカー、学校図書館司書、様々な専門職がチームを組んで学校を支えていく、教育を進めていく時代になっている。そういう多職種の方が連携できるために、こういう学校施設があったら良い、ということがあったら教えていただきたいとともに、そういう視点も大切だと思う。
 
【細田委員】資料1の22ページの重要な視点について、どうしても教員が学校をつくっていこうという意識が低いのではないかという意見があって、実態として外から見るとそう思われてしまうきらいはあるのかなと思うが、実は教師たちは、学校で日々教育活動をする中で、もっとこの施設がこうだったらいいのに、ここをこんなふうに使えたらいいのにと思う気持ちは、常に持っている。ただ、そういう意見を吸い上げる場や仕組みがなかなかないという実態もあるので、これは教育委員会の役割だと思うが、学校をつくっていこうという意識、アイディアの様々な意見を吸い上げる場や仕組みを、教育委員会がきちんとつくっていくことが大切だと思っている。
それに関連して、資料1の22ページの「4. 整備後も続く学習空間づくり」こそ、実際にそこで学び、仕事をしている、子供たちの声や教師の声を吸い上げながら継続的に発展させていく仕組みづくりが大変重要だと思う。時代の変化の激しさを考えると、一旦学校が整備された、もしくは整備されている既存のものを少しずつ変化させていくときに、どんどん施設を発展させていけるような可変のものであることがすごく大事だと思う。既存の校舎も変わっていく、施設や教材をどんどん工夫していくと学びの質がこんなふうに変わっていく、ということを、このアイディア集でふんだんに取り入れていただけると、全国の学校が大変うれしく思うだろう。
資料1の22ページの「3. 学校(学習空間)づくりへの多様な主体の参画」にも多様な主体の参画が大切だとあるように、実際にそこで学び、仕事をしている子供たちの声や教師の声、資料1の13ページ「人生100年学びの拠点づくり」で北海道(北海道中頓別町)の事例があったとおり、「社会教育ゾーン」と「学校ゾーン」と考えると、社会教育ゾーンの主体である地域の方々とか地域の企業の協力、そういった多様な主体の参画も大変重要になるので、そういった意見を吸い上げる場や仕組みづくりをつくっていくことが大切だと思った。
 
【荒瀬主査】本当に継続的にやっていくことになるので、当然ながら多様な意見を受け止めるのは非常に重要だ。なかなか大変なことかなと思うが、設置者でしっかりとやっていただくということが大事だと思った。
 
【後藤委員】全てに関連してくるところでもあるが、「心理的安全性」というキーワードがあると感じる。学校そのものが、子供たちにとって、先生にとって、保護者にとって、地域の方々にとって、これは学びの場であり、教育の場であり、生活の場であり、職場であり、また時には避難所としての機能を果たすというようなところだと思っている。
保護者にとっては、時には、あまりないほうがいいけれども、対立の場になりかねないこともあるかと感じていて、そうしたときに、環境として対立構造を生みにくい、例えばレイアウト、施設の在り方、机の配置、話をするときの環境、そういったことも影響するのかなと思う。共通して心理的安全性を担保されていて、なおかつそれが信頼関係を生むというような流れができ上がっていくと、本当にウェルビーイングに近づくと感じる。また、そういった視点でも、一度ここは検討いただきたい。
 
【荒瀬主査】とても難しいが、重要な課題かと思う。コミュニケーションデザインという発想にもつながるのかなと思う。
 
【斎尾委員】4点ある。1点目、誰に向けたアイディア集か意識する必要があると思う。学校の改築・改修の際に中心になる自治体の教育委員会の方々、現場の教職員の方々向けの事項、生徒・児童に向けての事項、それぞれ伝え方や内容が変わってくる場合もありそう。どう切り分けるのか、最後のとりまとめの際に検討が必要。
2点目。資料1に「教職員の空間」が何回か出てきている。従来の先生方は、改善要求してもなかなか実現しないという諦めもあり、自分たちだけで我慢し工夫してやり過ごす、という面があったと思う。今後は、具体的に提案、改善要求の話し合いをしていくことは普通、といった感覚になっていくとよく、その方向性に向けた事項も書き込めるとよいと思う。
3点目。現場の教職員や児童生徒向けには、家具の柔軟な活用を訴えていくことが重要。一方で、設置者の教育委員会向けには、改築・改修の時に家具類を一体的に計画しましょう、ということになる。躯体は躯体、後で中身は現場で考えて、ではなく、改築・改修をする際に家具も一体的に、活動を想定しながら計画・設計ができることが普通になるといいと思う。活動と家具・設備類を含めた空間は一体的に考えることが重要。
4点目。近年、全国的に震災・豪雨水害等自然災害が多発し、学校が避難所となる場面も増加した。しかし、全国の公立小中学校は、改修・改築待ちの老朽化校舎の割合が多く、避難所としての機能整備が間に合っていない。避難所開設の際、学校機能と地域開放機能が上手く切り分けられないタイプの校舎も多い。老朽化校舎を継続利用する場合(改築・改修待ち)の避難所機能の向上という問題は、検討が必要であるし、その点を書き込めるとよい。
 
【荒瀬主査】いろんな場面で戦略的広報をどうするのかという話がよく出る。今、我々はこれをじかに聞いて、とても良いものができそうだと思うが、これがちゃんと伝わらないと意味がない。その点はとても重要だと思う。
家具について、これは私もとても大事だと思うが、「一体的にする」と、教育委員会が予算をつけたら、「もうこれはつけました」みたいなことで、それこそフレキシブルに考えていくべきなのに、もうこれはこれでおしまいということで、「一体」が良い意味で使われない可能性もある。斎尾先生がおっしゃったのは、単に入れ物・躯体をつくるだけではなく、家具についてもちゃんと予算的な措置というのを考えなさいということか。
 
【斎尾委員】はい。そういう意味である。近年の公立学校建築現場での世知辛い話としては、当初の基本計画・設計時点では多様な活動を想定し、ロッカーや家具・設備の種類等、相当検討していても、近年の建設費高騰等の影響もあるが予算が削られていく方向の中で、家具類は後で現場で、と切り離される場面に出会うことが多い。先生方や地域住民も参加して策定した基本構想・計画・設計時点の内容が、最後まで現実化するのが至難の業になっている状況。家具類まで一体的に、を現実化するには、更なる検討が必要だと思う。
 
【高橋委員】私もこのワーキンググループの委員なので、手を挙げるのはどうかなとちょっと思ったが、少し付け加えさせていただきたい。
私は学習指導や学びの部分について一番興味がある。また、未来みたいなことを考えることに興味があって、未来の予想は非常に難しいが、未来に向かっている学校の様子は、先ほど荒瀬先生からお話があった愛知の学校や、G7の大臣会合で公開された富山市の学校で息吹が見える。
やはり、一人一人が主語というか、多様な子供の多様なニーズを受け止めていくのが、あらゆる意味で今後の一つの方針だろう。不登校も、特別支援の子も、外国ルーツの子も増えている、といって、一つ一つラベルを貼って特別な対応をしていくことには、もうしばらくすれば破綻や限界が見えて、そもそも一人一人が多様だから、一人一人のニーズに合うような学習指導をしていくことを考えていくのだろうと思っている。なかなかこれまでは難しかったが、先行している学校では、一人一台コンピューターを上手に使って、学習の状況を把握するとか、家庭との連絡を密にすることで、大分それぞれの子供のニーズや必要性に応じた指導ができるようになっていると思う。移動家具を移動させることによって空間が狭くなったり広くなったり、必要な空間をその時に応じてつくれたり、それが保障されるような広い空間があることが、校舎ができて15年経ってよく分かったというようなことを校長先生から聞く。校舎がすばらしいことによって学びが必ず変わるとは思わないが、愛知の狭いほうの学校の先生の努力と、多様なニーズを受け止める基本設計となっている学校での先生の努力の量で得られる成果は、やはり学校施設によって大きく違うと感じているので、こういうことを考えていくのだろうと思っている。
ICT絡みでは、あくまでも予想にはなるが、例えば今、国立国会図書館も次々と図書が電子化されていると思うし、サブスク型の電子書籍みたいなものが入ってくると、そういう学校では、もう図書館に行かず、そのまま教室で一人一台端末を使って本を読み、人気の図書も35人まとめて読めるといったメリットもある。美しい文章や映像、画像を見るのが主で、紙で書かれているかどうかという媒体の問題ではないと思っているが、そう変わっていったり、先生も今スマートフォンとかを持つような計画になっている自治体もあって、そうすると印刷や放送、インターホンの役割が随分変わってきて、放送室や印刷室、インターホンをどう廃止するか、縮小するかというような、コンピューターによって様々な場所で仕事ができることによって、そういう特別な部屋や施設の役割が変わりつつあると思っている。
「学び」でいうと、やはり最近はドリル的な学習のアプリが、海外製を中心に発達していると思う。学校で大きな役割を今後担いそうなのは、まさしく探究、問題解決、高次な資質・能力の育成に関わる部分だと思っている。今の学習指導要領等のたてつけから考えていくと、総合的な学習、あるいは総合的な探究の時間における探究のときの空間の必要性と、教科が探究的になってきたときの空間の使い方は少し違うと思っている。
総合の方の探究は、かなり本格的な探究なので、成果発表をするためのポスターセッションを特別な時間を設けてやるとか、プレゼンテーションをやるということになるので、大きめの空間や、議論が活発に大勢で進むような空間が必要だと思う。一方、教科の探究化に関しては、まだ今、習得の必要性もすごくあるから、習得がだんだん発展していって、しみ出るように探究が始まっていく。しみ出るように、ある意味予期せず探究が始まることがあって、そうなってくると、教室では狭くなって廊下側に子供たちがしみ出てくるような感じで、特別なものを最初から計画してやっていくより、教室内でいろんな図書や資料にアクセスできたり、子供たちの判断で好きなグループがつくれたり、教科の探究が特にしみ出ていくようなものがすごく大事。探究が重視されるといっても、がっつり本格的な探究と、状況で探究化しちゃったみたいなところでは空間の使い方も違うし、この学習活動が今後、重要になると思っている。
 
【荒瀬主査】未来予想は難しいとのことだが、今みたいな流れが恐らく来るのだろうから、学校での学びの変化についての見通しも持った上でやっていく必要があると思った。
 
【伊香賀副主査】今回、ウェルビーイングの観点を含むところ、すばらしいと思っている。資料1の7ページで、学校施設の質的改善・向上に関するワーキンググループの林立也委員から、こういうエビデンス、成果があるという紹介があったが、いろんな良い事例の中でも、エビデンスをしっかり取ったようなものや、私の研究室でも、学習意欲や体調不良が小学校を断熱改修する前と後でこんなに劇的な変化があったとか、複数のいろんな公立小学校で相当数の児童の活動量の測定も行って、体力テストとの相関、学力との相関を調べたとか、休み時間に子供たちに教室にとどまらずにちょっと外に出て体を動かして次の授業に臨みましょうという教育上の働きかけをするだけでも子供たちの活動量が増えて実は小テストの成績が上がるとか、論文化したものもいくつかある。例えば、今回まとめるもののコラム的なもの、多少エビデンスとしてきちんと分析がまとまっているようなものを、若干末尾に資料集的に入れると、より学校設置者側もその気になっていただけるのではないか。あるいは、今ある学校施設の有効活用や、ちょっとした教育上の配慮で子供たちの体力も学力も上がり得るということについて、何かページを割いていただくといいと思った。
 
【荒瀬主査】今のお話も、ある意味戦略的広報ということにもつながってくるのかなと思った。
体力テストや学力、小テストなどの結果に良い形で反映することはあると思うが、実は、人生100年という話がある中で、これは生涯にわたって、学びの環境がどうだったかというのは、きっと大きな影響があると思う。語弊があるかもしれないが、いわゆる伝統的な高等学校で、昔「本館」という称され方をしていたような建物の前を毎日通るだけで、実は生徒はえも言われぬ薫陶を受けているというか、影響を受けているということがあって、30年後40年後にその校舎がまだあって、実はこのときにこんなことを考えていましたといったような話が出てくることをお聞きすることがある。だから、エビデンスがちゃんと出せるものも出せないものもあるが、環境は大きいんだということも併せた中で、今伊香賀先生がおっしゃったようなことも出していけるといいなと思った。
 
【伊香賀副主査】おっしゃるとおりだと思う。人生100年の話に関係して、幼稚園の施設と園庭の状況が良い園に通っていた子は、実は小学校入学後の活動量も比例して高く保たれている。それが今、幼稚園と小学校までの追跡調査にとどまっているが、小さいときの遊びや活発な活動が、実はその後のその子の将来を決定づけることは、ちょっとずつデータも集まっているし、既に海外ではそういう研究が進んでいるようなので、ミスリードにならない範囲で、コンパクトに少しエビデンス的なものも充実してもいいと思った。
 
【細田委員】先ほどの斎尾先生のお話の中にあった、躯体をつくるところと、そこに家具とか施設整備をしていくところで、だんだんだんだん先細ってきてしまう、それはお金の問題もあるんじゃないかというお話について。私はさいたま市の教育長の6年間に、ちょうどさいたま市は児童生徒の数がどんどん増えていっていたので、学校を何校かつくった経験の中で、教育委員会として、少しこの問題について私自身も問題意識を持っていた。教育長として着任した初めの頃につくった学校のときには、そのコンセプトを考える課、設計する課、躯体ができた後に中に家具を入れ整備していく課、教育課程を考える、つまり、そこの中でどんな教育が展開されるかを考える課が、それぞればらばらだった。だから、どうしても、お金の問題もさることながら、なかなか一貫した考え方、コンセプトで学校をつくっていくことが進まない現状も、大きな問題だと思った。これは関係する課がプロジェクトチームをつくって、関係する人間たちがみんな集まって、最初から議論をしながら学校をつくっていく、関係課がプロジェクトチームで臨める仕組みをつくっていくのは大切だと思った。そのことも含めて、このアイディア集を誰に向けて、この部分は誰に向けるのか、教育委員会なのか、学校なのか、その整理をつけていくことも、皆さんにとって有意義なアイディア集になっていくのかなとも思った。
 
【伊藤委員】様々な意見、コメントありがとうございました。一つ一つ、話題に乗ってディスカッションに参入したい気持ちがすごく強いが、座長の立場からどう考えているのか、今の質問いくつかに対してお答えしたい。
樋口委員の質問の一つで、先生方などが学校をつくっていく意識が、昔は薄いと言われていたが、それが変わってきているのだろうかというのがあった。それに関しては、やはり変わっている気はする。このワーキンググループの仕事ではないが、昔からいろんなところで話を聞いたり調査をしたりしていると、過去には学校の先生方は、割と教室は与えられて使うものだから、例えば不満や要望が出てくるときも、今まで使っている普通の教室と違うから困る、という観点が割と強かった感じがする。いろんな方が、全国的に、ワークショップや介入型のインターベンションをする研究をしてきたが、そういうときに割と大きな成果、非常に大事なポイントとして、やった結果として先生たちが「変えていいんだ」と思う、あるいは、教室を変えるといろんなことが変わると実感できる、そこからつくっていく意識が変わっていく、となっていく面はあったと思う。ただ最近、非常に感じるのが、先生や学校の声が、以前のようなスタイルと違って、こういう授業をしなきゃいけない、こういう授業をしたいのに今の教室が合わない、それに対してこうしたいというふうに、以前よりもずっと、道具として環境をどう整備していくかという視点からの意見や話がすごく増えてきた印象がある。特に、一人一台端末とかが進んで、そういう声を強く聞くようになったという印象がある。全員がタブレットを持っていて、同じものを見て同じ場所で前を向いているというのは、やはりその場にいる先生たちは、「いや、これは何か違うんじゃないか」と思うと思う。そうすると、必然的に空間のつくり方や、個別最適はこれではできないと多分思い始めていて、施設か教材かという論点も提示されていたと思うが、教える観点から、内発的に環境への変化の要望がすごく出てきていると感じる。ただ、やはり課題としてそれが出てきたときに、ちゃんとそれができる、ちょっとずつだけどできるということを、こちらの報告書が示すところが一つの目的かと感じている。
今回、目次やいろんなポイントのところで、特別支援という項目立てはないが、特別支援の教育は、非常に実は発想のモデルになっている面はあると思う。いろんな先進的な事例を見ていると、教室の雰囲気、教室の構成が、特別支援学級の今までのしつらえやつくり方にすごく共通していると感じる。特別支援がもとより個別多様であるというのが出発点になっていて、そのように教室がつくられている。そういった教室のつくり方が、むしろ逆に、普通教室でも波及してきているという面はあると思う。ただ、高橋委員もおっしゃっていたように、多様と言ったときに、一個一個ラベルを貼って対応していくのは限界があるので、いかに、多様に配慮するが、別々に、特別に配慮するのではないという方式で、どうつくっていくかは課題。医療的ケアに関しては、たしか視察した事例でも医療的ケアの生徒さんのための設備をきちんと整えている、普通の学校というか一般校でそのように整えているケースもあったので、非常にそこは関係が深いと思う。
 
【事務局(遠藤課長補佐)】樋口委員からあった、校舎の話なのか教材の話なのかというところ、後半の意見交換の中でも意見が出てきたかと思うが、そこをなるべく切り離すのではなくて、つなげて考えていくことが大事だろうと考えている。CO-SHAプラットフォームに関しては、まだ立ち上げたばかりというところでもあるが、今後も充実させていきたいと考えている。そういった中で、先生方にもなるべく多くネットワーキングできるようにしていきたい。
市川委員からの質問で言うと、視察に伺った学校でも、医療的ケアが必要なお子さんのための部屋があった。そこでの一つの工夫としては、玄関からなるべく近いところや、エレベーターにもあまり距離を取らずに行けるようなところが、配置計画として考えられていたかと思う。廊下の広さや入り口のバリアフリーの観点はもちろんだが、そういったところを考えられていたかと思う。
教師だけではなくて多職種というところも、非常に重要な指摘かと思う。視察に伺ったところの職員室でも、教師はここを使うが、その他の専門スタッフの方々はここで作業してもらうということを配慮されている例も拝見したので、これからの学校づくりでは、そういう点も注目をして見ていきたいと考えている。
 
【市川委員】特別支援ということで、特定のお子さん云々ではなくて、支援の必要なお子さんも含めて、医療的ケアも含めて、ユニバーサルデザインという視点で、誰もがその枠の中に入って等しく使えるような施設設計が大切な視点だと思っているので、特段考慮ということではなく、こういう子もいるんだというところでアイディア集をまとめていただくのが大変よいのではないかと思っている。同じように教師の集団も、今は時代が変わってきたので、それを含めていただくとありがたい。
今回のアイディア集とすれば、今ある学校を改修するための考え方、もしくは新しい学校をつくるためのアイディアとして、こういう点に気をつけてみたらどう、という感じのアイディア集かなと理解している。学校をつくるのはすごく大変で、私はつくってきたところに長く関わってきたが、お金もかかるし、土地も高いし、土地も予想どおりの広さにはならないし、いろんなものの制約の中で学校をつくる。今の学校を改修するにしても、古くなったのをすぐに直せるわけではないので、今あるところをいかに、少しずつでも直していくかという視点が重要だから、その時に考えるアイディア集、こういうことも考えなきゃ駄目だという、一つのヒントになるようなものになるのかなと思っている。そういう面では、先ほど言った特別な支援のお子さんも含めて、ここも気をつけなくちゃ、あそこも気をつけなくちゃ、というところが書かれているようなアイディア集になってくれるとうれしい。
 
【長澤委員】私もワーキンググループの委員であるので、本日の各委員からの発言を受け止めながら、ワーキンググループの場で考えていきたいと思う。5点ほど簡単に感じたことを述べさせていただきたい。
1つ目は、荒瀬主査が子供一人一人を主語にするというお考えを示されたことについて、今回アイディア集としてまとめる際に、分かりやすく伝わるようにする上で、項目を立てながらそれについて説明していくということになると思うが、それぞれの項目を総合し、学校全体として考える回路が見えるようなまとめ方が大事と感じた。そういう観点でこれから考えていきたい。総合というのは、学びと生活、一人とみんな、学校と地域等、様々な観点があると思うし、今、市川先生がおっしゃったことも大切にしたい。分けることで分かりやすくするということと、最後にそれをどういうふうに総合していくかということ、両面からきちんと示せるようにしたいと思った。
2つ目は、文部科学省では未来志向で考える、固定観念をどう超えて、新しい学びの場、生活の場として学校を捉えるかを掲げており、特に既存施設の長寿命改修も大きなテーマになっている。アイディア集としても、教室や特別支援のスペースの考え方だけではなくて、特別教室、図書館、職員室、体育館等、幅広く示していくことが求められると思う。それらについてアイディアを述べていく、新しいイメージを示していくことは、要するに固定観念を振り払うための資料をどうつくっていくかということとも言える。また、できたら、その実現手法にも少し踏み込んでいけるとよいと思った。アイディアは分かったが、それをどう実現していくか。特に改修の場合、目の前にある施設をどう捉え直す可能性があるかということも示せると、現場で考えやすいところがあるのかなと思う。
3つ目は、学校施設には、ほかの建築と違い、教材としての役割があると思う。例えばインクルーシブ、地球環境、カーボンニュートラルと木材活用、地域の復興などについて、学校施設自体にその教材としてどういうことが期待できるかについても示せるように取りまとめができるとよいと思った。
4つ目は、先ほど荒瀬主査のお話にもあったが、学校施設を100年は使い続けようとすると、その間に社会も変わるし、先生方は異動される。当初の計画や参加した人々の思いどおりに、常にハイテンションで学校の活動が展開されるというわけではなく、ある時期には少しエネルギーが下がったりもするだろう。だが、なぜこういう施設になっているのか、こういう建物が実現されたのかが伝わることで、一旦盛り下がる時期があったとしても、また元気になっていく。そういう、言わばレジリエンスの高い学校施設の在り方が大切と思う。学校施設自体が、子供観や教育観についての一つのメディアとしての性格、力を持っているのではないか。そういう力をどう学校施設の中に入れ込んでいくかも、アイディアの一つとして示せるとよいと思う。
5つ目は、学校といっても一括りには捉えられない。資料1の22ページ「1. 学校全体が学びの場に」でも書かれているが、学校の規模や地域性によって、その学校が営んできた歴史や、地域と共につくり上げてきた文化の中で、アイディアに対する答の出し方は一様ではない。そのためには、細田委員がおっしゃっていた、創り出していく仕組み、多様な人々の参画であるとか、プロジェクトチームの構成などが不可欠であると思う。仕組みという話のもう一段大きなところでは、答えは一つではない、あるいは、どこかに正解がある、あるいは一般解に従っていればよいというのではなく、その答え、施設の姿は、みんなでつくり出すもの、個別にその学校ごとにつくり出すものだということが伝わるようにしたい。最初に申し上げた「総合」という観点を、最後に受け止める形で示せるとよいのではないかと思った。
これからまた、ワーキンググループの先生方とともに私自身も考えていきたい。
 
【荒瀬主査】施設というか、設備というか、あるいは環境といったほうがいいのかもしれないが、その在り方と、アイディア集自体をどのような形で広報していくか、その両面にわたって意見を頂戴した。各委員から頂戴した意見、今後もしまた何かあったら事務局にお願いできればと思うが、これを事務局で整理して、今後のワーキンググループの議論に生かしていただければと思う。
もう一つだけ申し上げておきたいのは、今日いろいろ出た意見と同じようなことだが、資料を見せていただいていて気になったのが、カラー刷りのパワーポイントで、白抜きの文字で示しているページがあった。これがそうかどうかは私では分からないが、カラーの資料を使うときには、これはユニバーサルデザインとして本当に大丈夫なのかどうか確認が必要ではないかと思う。出したものが実は読めないというものになってしまっていては話にならないし、その人の存在を全然考慮していないことにもなるので、その点よろしくお願いしたい。
それも含めて、今日お話を聞いていてずっと思っていたのは、哲学者の鷲田清一さんが前からおっしゃっていることだが、会社や学校で日常使うところが丁寧に整えられていると、自分は会社や学校に本当に大事にされていると感じることができる、それが実は自己肯定感につながると鷲田先生はよくおっしゃっていて、決して自己肯定感は自分の中から生まれてくるものではなく、周りが「あなたが大事なんだ」ということを有形無形に示していくのはとても大事だとおっしゃっていた。だから、こういったことがいろいろアイディアであってつくられていく中で、長澤先生がおっしゃっていた、思いどおりハイテンションに行くばかりではなくて、ちょっと盛り下がっていくときもあるが、この施設は一体何のためにこうつくられたんだろうと思い出すことによって、改めてこの施設の意味を思って、具体的に今後使っていく上で大事な要素になっていくのではないか。つくったものがきちんと掃除されている、丁寧に扱われているという状態をつくっていくことが大事で、それは多分、教師だけの仕事ではないと思う。それを先生でやってくださいとなると、またまた仕事が増えるばかりなので、そういったことも含めた条件整備を、ぜひ、設置者たる教育委員会もそうだが、国としてバックアップしていただけるといいと思った。
 
議題2:その他
・事務局より、資料2-1、2-2に基づき説明
 
・事務局より今後の日程等について連絡
・荒瀬主査より閉会の挨拶
 
―― 了 ――