新しい時代の学校施設検討部会(第7回)議事要旨

1.日時

令和3年10月21日(木曜日)10時00分~12時30分

2.場所

オンライン開催

3.議題

新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について

4.出席者

委員

(委員) 赤松佳珠子,天笠茂,伊香賀俊治,伊藤俊介,倉斗綾子,高橋純,長澤悟,野中陽一,松畑煕一,吉田信解(敬称略)
(特別協力者) 齋藤福栄(敬称略)
(今回の協力者)福山市教育委員会 藤井紀子,井上誠之,片山富行,小森満生
         東畑建築事務所 高木耕一 (敬称略)


文部科学省

【大臣官房文教施設企画・防災部】 下間文教施設企画・防災部長,笠原技術参事官,磯山施設企画課長,廣田施設企画課企画調整官,栗本施設企画課課長補佐,高草木施設企画課課長補佐
 

5.議事要旨


・長澤部会長より挨拶。

・事務局より,出席者の紹介。資料1,資料2に基づき,中間報告と継続的な検討事項について説明。

・福山市教育委員会藤井協力者から、資料3-1に基づき、教育環境向上と老朽化対策の一 体的整備「福山100NEN教育 6th year」について説明。




(以下 ○:委員等の発言,●:事務局の発言,◆:協力者の発言)

○ 社会の変化に比べて、学校現場がほとんど変わっていない印象を持っていたので、体制から考え方まで大きく変える市の取組に注目している。イエナプラン教育の認証の有無、これまで福山市で進めてきた取組や福山市が目指すものとの関連について伺いたい。

◆ イエナプラン教育校の認証については、認定要件を満たした上で、受けることになっている。福山市は今年度、福山100NEN教育6th yearを迎え、福山100NEN教育の子供主体の学びを進めていく中でイエナプラン教育と出会い、目指すものが同じ方向性であった。何か特別な教育をやるということではなく、取り組んでいることの延長線上で,新たな教育方法を展開するという形で導入した、福山市の挑戦である。現在取り組んでいる中で、教員が子供たちの学びを促すファシリテーターになること、アナリスト的な教員の質の向上、本質的な問いを立てられる教員の育成というところが重要になってきていると思う。

○ GIGAスクール構想などのICT環境への対応は現状どうなっているのか。

● GIGAスクール構想の実現に向けた福山市の現状として、従来、全ての教室に電子黒板・プロジェクター等を配置する計画があり、今年4月末には3万6,000人の児童生徒と教職員を合わせた4万台の端末が行き渡った。子供たちが知りたいこと、調べたいこと、興味を持ったことをいつでもどこでも調べ、研究できるように1人1台端末を持ち帰って、文房具のように子供たちが使っている状況。

○ 各学校がこれまでに蓄積してきたことを基にカリキュラムが考えられ、それに則った学習活動に対応した学習環境が整備されていく。それが例えばイエナプランのような考え方と合致し、その方向で校舎の整備を進められたと理解したが、福山市として、学校や地域による特色の出し方など、学校の環境をつくるときに基づく考え方があれば教えて欲しい。

◆ 福山市では、子供たちの学びが教科を超え、学年を超えて行われているところを大事にカリキュラムを編成・実施しているので、どこの学校でもそういった形で子供の主体的な学びを促す教育活動を進めている。イエナプラン教育校のような異年齢集団でのすべての教育活動を行うという形は取っていないが、どの学校も目指しているところや取組みの方向性は同じという考え方で進めている。
どの学校においても、どういう学校にしたいか、どういう子供を育てたいか、そのために はどういう環境が必要かを検討し、教育内容から施設整備を、施設整備から学びを、それぞ れ往還しながら、学校づくりを行っている。環境をつくる際には、教育委員会だけでなく、 市長部局とも連携しつつ、地域や保護者の意見も聞きながら、一つ一つ丁寧に検討している。

○ 広瀬学園に関して、市内全域から通学ができるとのことだったが、山間部にあるように見受けられる。実際に市内から通学することは可能なのか。

◆ 広瀬学園は、福山市北部の山間部にあるため、交通手段は、公共のバスか保護者の送迎になる。開校後は、通学経費の補助を地域と協力しながら行うことも検討しており、また、他の学校よりも始業時刻を30分程度遅らせる等の配慮をしている。

○ 同様の学校を市街地に設置するようなプランはあるのか。

◆ 学校を設置することはハードルが高いため、現在は考えていない。福山市として必要な学校かどうかニーズを捉えていく必要がある。広瀬学校を北部に設置した理由の大きな要素としては、近くに児童養護施設があったこともある。

○ 学校の整備プランをまとめるにあたり、どのようなことが課題であったか。
また、そのプランを実現するに向けて、短期的な取組、中期的な取組、長期的な取組の中 での課題はどのようなことがあるか。

◆ 6年前から始まった福山100NEN教育では、子供を中心に、これからの教育はどうあるべきか、どういう環境整備をしていかないといけないか、からスタートした。また、学校の再編については、それまで福山市は何も取り組んでおらず、少子化により学校規模が小さい学校も増えており,学び合う一定規模の集団が必要になっていた。学校施設を一時期に一斉に建てたことで老朽化のタイミングが重なり、また、学校数が多いだけに教員が多く必要になり、教員の質の担保も考える必要があった。
まずは、小学校の複式学級を解消する、中学校で20人以下になっているクラスを解消する ための学校再編を行っている。再編は地域の方々にとって痛みを伴うものなので、再編した 結果教育環境がよくなったと実感してもらえる教育の中身や学校施設の整備となるよう取 り組んでいる。その取組を進めていく中で、特認校やイエナプラン教育校を多様な学びの場 として整備することにもなった。

○ 整備方針を検討していく上での外部の有識者、施設再編を検討していく上での外部のコンサルタント・設計者のような体制の整え方はどうされたのか。

◆ 想青学園は、義務教育学校であり、新しい校舎の建設だったため、設計会社が、教育関係の有識者にアドバイスをもらいながら設計をしていた。再編計画自体は、有識者会議を条例設置し、子供たちにとってよりよい教育環境は何かということについて答申をいただいた上で基本方針を策定し、取組を進めている。

○ 想青学園のような義務教育学校の9年制の学校の取組と、イエナプランで異学年集団をつくる6年制の小学校だけの取組を同時期にチャレンジしているが、イエナプラン的な取組を9年制で行う計画はあったのか。また、先生の異動時に、9年制の義務教育学校と6・3制の小中があることをどのように説明されたのか教えていただきたい。

◆ 福山市は、小中一貫教育を進めており、全小中学校で一貫教育をやっている。小中一貫教育の効果をより高めるため、施設一体型の義務教育学校を、想青学園も含めて2校整備する。イエナプラン教育は、異年齢のグループ編成での学びになり、小学校の1から3年生、4から6年生というグループ単位で行っている。小学校の6年間で、主体的に自ら考え計画して行動できる力をつけていけば、中学校でまた単学年の学びに戻ったとしても、その力を持って学び続けていけると考え、中学校まで拡大することについては考えていない。
教員については、子供主体の学びを促せる教員の育成を目指している。異動は必ずあるが、 どの形態の学校であってもやっていける力量を高めていくことを目指している。ただし、義 務教育学校の場合は、できるだけ小・中学校両方の免許状を持っている者を配置することは 必要になる。

○ イエナプランの教育学校を始める際に、事前に2年間の移行期を持たれたという説明があったが、移行期は具体的に何をされていたのか。

◆ 低学年の1から3年生は、全教育活動を異年齢グループで行い、4から6年生は単学年で、総合的な学習(ワールドオリエンテーション)の授業を一緒に異年齢で行いながら、開校に向けカリキュラムを検討していた。実践をしながら、教員がどういうふうに教え、子供の学びをつくっていくか試行錯誤していく期間として、2年間という移行期を使ってじっくり行った。外部から指導者にも入っていただきながら、開校に向けて準備してきた。





・東畑建築事務所名古屋オフィス 設計室長高木協力者から、資料3-2に基づき、教育環境向上と老朽化対策の一体的整備「今あるものを生かした学校の再構築」について説明。



○ 長寿命化を行うにあたり、教職員や生徒、地域の方々との対話を非常に重視して始められたとのことだが、関係者の役割など、どのような形でこの対話を進めていったのか。

◆ ワークショップの企画運営に関しては、設計事務所が主体となって行った。教育委員会には、事業のPR、広報活動、参加者の募集等にご協力いただいた。また、全教職員に集まってもらい、各々の意見を共有しながら問題点を抽出し、改善計画を共有の下に行った。長寿命化改修の一つの良さは、既にそこで活動されている教員の方がおられ、各々意見を持っているため、その意見を聞くことで問題点の抽出や改善が容易に行うことができるところにある。

○ 延命措置ではなく、本当に長く使い続けられるように根本的に改修を実施されたと説明にあったが、何をもって延命措置で何をもって真の長寿命化なのか。

◆ 長寿命化改修の中には、それまで営繕改修を行っていなかったため、長寿命化の予算を組んだものの、営繕改修だけで終わってしまう例が多くある。校舎や設備が新しくなっても機能不足が起こると長く使えないので、本当に長く使うためには、教育空間としての改修を同時に行っていくことが必要である。営繕改修ではなく、現代教育に合ったスタイルに改めるための投資を行うことで、本当に長く使えるといったことが言えると考えている。

○ 全国どこにでもあるような昭和の時代に建てられた校舎にもかかわらず、居ながら改修ができたということは素晴らしいと思う。どんな建物もやり方次第では居ながら改修ができるのか。

◆ 昭和期典型的な学校は、隣棟間隔を保って渡り廊下でつながるというスタイルがほとんどで、例えば、教室が空いている、或いは、倉庫・多目的室として使われているような予備教室が少しあれば、そこをうまく活用することによって、学期ごとに子供たちに移動してもらいながら、部分的に改修を行っていくことで、居ながら改修は比較的容易にできると思う。西春中学校の場合は、中学3年生になると受験の問題等が発生することから、3年生の教室の2クラス分だけはグラウンドの一角に仮設の教室を建てて、落ち着いた環境をつくった。

○ 耐震化を既に行っている場合、長寿命化改修は新築より安くなるのか、高くなるのか。

◆ 西春中学校の長寿命化事業は新築より50%削減したが、新築が100年もつと考えると、長寿命化改修の投資額を2分の1程度にしておかないと新築した方が得かもしれないという考えも出てくると思う。そのため、いかにコストを抑えながら、現代の水準まで引き上げるかがポイントになってくると思う。今後は耐震補強後の改修がほとんどになると思うが、耐震補強後の構造体を触らなければ、50%よりさらに安くできると思う。現代教育の空間に改めるために耐震補強をしたところに手を加える、壁を抜く、などを行うとコストが嵩む可能性はあるが、耐震補強されているから全く触らないということが、いい場合も悪い場合もあるので、そこの見極めは大切で、本当にこの先長く使おうとする場合、重要な視点だと思う。

○ 空調がない校舎で、梁のスリーブが新規に空けられない場合は、既存のスリーブ利用だけでは様々な部分が足りてこないと思うが、部分的に天井を張ったりして対応されたのか。また、1階の調理実習室、体育館のところに空調を設けるにあたり、スラブを一部張って、床下配管を確保したとの説明だったが、基礎梁との関係はどうだったのか。サッシがシングルだったと思うが、ペアなどに全て交換されたのか。最後に、既存校舎の施工図はあったのか。なかった場合、設備関係、配管関係の工事をやりながら全部調査したのか。

◆ 空調のスリーブは、建築基準法の教室天井高3mという基準がなくなったことによって、各教室は廊下も含めて2.7mに設定し、梁下に30cmほどのスペースを生み出すことができ、そこで機械換気用のダクト等の配管を行っている。1階の梁スリーブは、トイレ周りの改修は既存のスリーブを利用し、家庭科室は地中梁のレベルが少し下がっていたため、梁上で抜き、新たにまた補強することを行っている。つまり、構造体に新たにスリーブを空けるということは一切やらずに、今回の改修計画が実現している。サッシに関しては、既存のものを原則利用しており、アタッチメント工法でペアガラスに改めているため、広く開口を開けたいところや増築した部分をつなぎたいところ以外は既存サッシを利用している。
施工図はなかったため設計図を基に計画を立案したが、やはり設計図は現場の状況と大きく異なるため、現場をやりながら対処していった。長寿命化改修には、こういったことはつきものなので、予算措置等や変更の許容は必要で、監理業務もとても重要になる。その場で見極めながら判断し、進むべき方向を変えないといけない場合もあるため、監理での負担は大きかった。

○ 説明の中で改修前のアンケートのお話しがあったが、改修後も生徒・教職員にアンケートは取られているのか。改修事業がどのくらいの効用をもたらしたかまとめられていれば教えていただきたい。また、改修前に空調がなかったことから、普通教室に冷房が増強されたかと思うが、冷房導入後に何らかのフォローをしていれば、教えていただきたい。

◆ アンケートは、改修前後で生徒、教職員、保護者に取っている。おおむね70%の生徒が、環境がよくなったと答えてくれている。教室の環境をつくる上で、内側に断熱材を施し木質化する断熱改修をしているため、部屋は実際には狭まっているが、廊下側の開放性がよくなったことで、改修前後を知っているほとんどの子供たちはアンケートで、教室が広くなったって答えた。アンケート調査は、改修後すぐにしか行っていないが、学校に出入りする都度、先生たちに意見を聞いていると、改修前に比べて学校が落ち着いていることを言われる。
空調に関しては、その後設置されたと聞いているが、フォローできていない。長寿命化改 修された後に、配慮するような形で施工されたとは伺っている。





・事務局から資料2の(1)から(6)の検討事項について説明。



○ 学校施設スタンダードの提示に関して、学校施設整備指針が、一定の水準や性能を持たせるスタンダードとして機能していると思う。役割の棲み分けはあるのか。

● 学校施設整備指針は学校の計画設計上の留意点をかなり網羅的に示したガイドラインのような性格のものであるのに対し、今後、学校施設を整備していこうと思ったときに、何を必須の要件として整備していく必要があるのか、重点的に取り組んでいくべきものをしっかりと示していくことが必要と考え、それをスタンダードという形で表現をしている。

○ 学校施設整備指針が広く押さえる指針であるのに対し、プラスアルファで提示する方向性という棲み分けか。

● 学校施設整備指針は、計画上有して欲しいことを網羅的に示しているが、標準的に備えるべきことが重要であることから、そういうことを考えていくことが有効だということまでかなり細かく規定しているため、今後、施設整備をするにあたり、こういうことを標準として整備していくことが必要という姿をこの部会の中で議論し示していくことができたらと考えている。その中で、より重点的に対応すべきものという絞り込みもある種必要と思っている。

○ どういう枠組みで考えたらいいのかという、その示し方自体も部会で議論し、示していければと思う。

○ 新築の学校に関してのスタンダードの姿は標準設計のようなイメージをしてしまうと思う。一方で、長寿命化改修でもスタンダードと言うと、両者でかなり意味が異なると思うので、一緒に扱うのが適当なのか。

● 論点のところに新築と既存のものを分けて書いており、必ずしも同列に論じることができないという問題意識でいる。新しい時代の学びを実現していくというところを軸にした形で、今後、長寿命化改修で何をどこまで求めていくのか。そういったところの議論が、このスタンダードにつながるのではと思う。

○ スタンダードなるものを誰に向けて発信するのか、誰に受け止めて欲しいかをある程度明らかにすることで、言い方や整え方につながると思う。学校の先生方、教職員、教育委員会の建築以外の方たちにも向けて発信する意図や狙いを示し、そういう方々がスタンダードなるものを踏まえて、学校の環境構成に関わる一員としてなっていく意味合いを持って提示する、学習指導要領があり、それに伴う解説書があり、そして、整備指針があるという位置づけをある程度整理して、スタンダードを捉えた方が良いと思う。

○ ご意見を受け止めて、次回じっくり議論するようにしたいと思う。
ICTやDX、それら社会を前提にして考えるべきこと、それを可能にする教育の在り方や施設空間といった学校施設整備指針の枠組みを超えて問題を捉えておくべきことと、実空間の重要性、共につくる地域の場として学校をどう捉え直すことができるかについては、施設の担当や関係者だけではなく、それに関わる人たちに発信ができるよう考えていければいいと思う。



・以上で意見交換を終了。

・最後に事務局から、資料4に基づき今後のスケジュールについて説明し、会議を終了。


── 了 ──

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