第1章 総則

第1節 学校施設整備の基本的方針

1 特色ある高等学校づくりの推進

 建学の精神や校風を尊重しつつ,特色ある教育目標や運営方針等に基づく教育を可能とする魅力ある学校づくりを基本とし,それらを具体化する施設環境を創出することが重要である。
 また,生徒の学習ニーズの多様化,生徒数の減少,情報化や国際化の進展その他の社会状況の変化を踏まえ,各設置者において高等学校教育改革や再編整備が進められてきており,これらの趣旨を踏まえた施設整備を推進することが重要である。
 その際,それぞれの高等学校における課程や学科等の教育内容の違い,また新築,改修等の整備手法の違い等に応じて,計画及び設計において必要となる留意点が異なることを十分考慮することが重要である。 

2 「生きる力」をはぐくみ,生徒一人一人の学習ニーズに対応する施設

 生徒自らが課題を見つけ,学び,考え,主体的に判断・行動することを促し,また,他人と協調しつつ自律的に社会生活を送ることができるために必要な人間としての実践的な力や,たくましく生きるための健康や体力を十分に養えるよう考慮して計画とすることが重要である。
 また,生徒一人一人の能力・適性,興味・関心,進路希望等を生かすための学習・生活を可能とする組織,運営,管理システムに対応した施設環境とすることが重要である。さらに,生徒一人一人の学習ニーズにもきめ細かく配慮した計画とすることが重要である。

3 社会の変化に対応する学習環境

 情報化の進展に対応し,情報ネットワークを構築することや学習活動を支援するための多様な情報機器を導入すること,国際化の進展に対応し,生徒の主体的な外国語学習を支援する計画とすることなどをはじめとして,今日の科学技術の進展や社会の変化に対応する高機能かつ多機能な学習環境を確保することが重要である。
 さらに,今後の学校教育の進展に長期にわたり対応できるよう,柔軟な計画や施設の長寿命化への配慮が重要である。

4 健康的かつ安全で豊かな施設環境

 生徒等の学習及び生活の場として,日照,採光,通風,換気,室温,音の影響等に配慮した良好な環境条件を確保するとともに,障害のある生徒にも配慮しつつ,十分な防災性,防犯性など安全性を備えた安心感のある施設環境を形成することが重要である。
 また,生徒がゆとりと潤いをもって学校生活を送ることができ,他者との関わりの中で豊かな人間性を育成することができるよう,生活の場として快適な居場所を計画することが重要である。さらに,それぞれの地域の自然や文化性を生かした快適で豊かな施設環境を確保するとともに,環境負荷の低減や自然との共生等を考慮することが重要である。

5 地域の人材育成,生涯学習の場としての役割やまちづくりにも配慮した施設

 周辺地域の状況等を踏まえ,必要に応じ大学や企業等とも連携の上,地域の産業等を担う人材育成や地域住民の生涯学習の場など地域の中核としての役割を果たすことが重要である。
 また,施設のバリアフリー化を図ること,地域の防災拠点としての役割も果たすこと,さらに,まちづくりとの関連に配慮しつつ,景観や町並みの形成にも貢献できる施設として計画することが重要である。

第2節 学校施設整備の課題への対応

第1 特色ある高等学校づくりを推進するための施設整備

1 教育目標や運営方針等に基づく施設計画

 国際社会や情報化社会への対応,地域や産業界との連携の重視等,それぞれの高等学校の特色ある教育目標や運営方針等を反映した施設計画とすることが重要である。

2 高等学校教育改革や再編整備を踏まえた施設計画

 各設置者において,社会状況の変化に対応し,教育活動が効果的に行われるよう,生徒の学習ニーズに応じた多様なタイプの学校の設置,地域の状況に応じた学校の適正な規模や配置等,高等学校教育改革や再編整備が進められており,これらの条件を反映した施設計画とすることが重要である。

第2 生徒の主体的な学習活動を支援する施設整備

1 自ら学び考える学習活動を支える施設

(1) 生徒の主体的な活動を支援する工夫や,生徒の持つ豊かな創造性を発揮できる空間として計画することが重要である。

(2) 自主的な学習等のために,図書室,学習センター,自習室等の機能を充実することが重要である。
 その際,日常的に主体的な学習等が促されるよう,普通教室やホームベース等との有機的な連携が重要である。

(3) 生徒の学習の成果を発表したり討論したりするための場を計画することが重要である。

(4) 体験的な学習に対応するため,地域社会との連携や,自然環境の整備等に配慮して計画することが重要である。

2 多様かつ高度な学習内容や学習形態に弾力的に対応できる施設

(1) 幅広い類型(コース)や選択学習に対応するため,課題学習や補充的な学習,発展的な学習等が円滑に行える空間を計画することが重要である。

(2) 生徒の学習意欲を引き出し,最新の学習内容を習得できるよう,教材,教育機器等の導入については各種技術の進展に対応した計画とすることが重要である。

(3) 多様な学習内容・学習形態に弾力的に対応するため,学習関係諸室相互の位置関係や生徒の動線等を考慮した計画とすることが重要である。

(4) 一斉指導による学習以外に,ティームティーチング(複数教員による協力的指導)による学習,個別学習,少人数指導による学習,グループ学習,複数学年による学習等にも柔軟に対応できるよう,多様なタイプの講義室,ゼミ室など学習空間を十分に計画することが重要である。

(5) 豊かな人間関係を築く観点から,部活動や,生徒会及び委員会の活動のための拠点を計画することが重要である。

3 適切な進路相談や履修指導等のための施設

(1) 一人一人の興味・関心等に対応し,目的意識を持って学習することができるよう,多様な進路の選択やそのための科目の選択履修を支援する空間を計画することが重要である。

(2) 変化する社会に柔軟に対応できる能力を身につけていくことが一層求められており,生徒が主体的に進路を選択してキャリアを形成していくために,就職を含む進路の相談やインターンシップ等,生徒に対するカウンセリングやガイダンス機能を充実させるために必要な空間を計画することが重要である。

4 理科教育の充実のための施設

(1) 多様な教材,教具等を使用した授業など多様な教育方法に対応するため,理科関係教室と図書室,視聴覚教室等との連携に配慮して計画することが重要である。

(2) 特に,観察,実験の重要性を踏まえ,様々な実験器具,情報機器等を教員及び生徒が活用できるよう施設環境を計画することが重要である。

(3) 複数の教員等の指導による学習や高度かつ専門的な学習,自然体験活動など多様な学習形態への対応も考慮した計画とすることが望ましい。

5 特別支援教育の推進のための施設

(1) 教育上特別の支援を必要とする生徒に対して,障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うため,一人一人の生徒の教育的ニーズを踏まえた指導・支援の実施を考慮した施設環境を計画することが重要である。その際,発達障害※を含めた障害のある生徒の障害の状態や特性等を踏まえつつ,適切な指導及び必要な支援を可能とする施設環境を計画することが重要である。

 ※発達障害・・・・「LD,ADHD又は高機能自閉症等」を含め,「発達障害者支援法」の定義に基づく「発達障害」を意味する。なお,LDは学習障害(Learning Disabilities),ADHDは注意欠陥多動性障害(Attention‐Deficit/Hyperactivity Disorder)を意味する。

(2) 障害のある生徒と障害のない生徒が,各々の生徒の教育的ニーズに応じ,安全かつ円滑に交流及び共同学習を行うことができる施設となるよう計画することが重要である。

第3 情報化や国際化の進展に対応できる施設整備

1 時代の要請に柔軟に対応できる施設

 今日の科学技術の進展や社会の変化に対応する高機能かつ多機能な学習環境を確保し,今後の学校教育の進展や学校に期待される役割に長期にわたり対応できるよう,空間構成の変更や設備,機器等の更新が容易に行えるような柔軟性のある計画とすることが重要である。

2 情報環境の充実

(1) 生徒の主体的な活動や自らの意志で学ぶことを支え,高度情報通信ネットワーク社会にふさわしい学校環境をつくるため,情報ネットワークの整備やコンピュータ,プロジェクタ等の情報機器の導入について,適切な安全管理措置を取りつつ積極的に計画することが重要である。

(2) 情報を効果的に活用したり,生み出したりするために,様々な情報を管理できるセンター機能のために必要な空間を計画することが重要である。

(3) 教科としての「情報」だけではなく,他教科でも活用したり,日常的な学習活動や生徒会活動,部活動等を支援するために,普通教室や図書室,特別教室,共通空間等にも様々な情報機器や情報ネットワークを計画することが重要である。

(4) 学校としての取組や学習活動の成果等について,外部へ情報発信できるよう計画することが重要である。

(5) 生徒の出欠状況や多様なカリキュラムの管理,生徒への情報伝達や生徒からのレポート等の提出等,学校運営や施設管理,教員の教科研究や教材作成においても情報機器や情報ネットワークを活用できる環境を計画することが重要である。

3 国際理解の推進のための施設

(1) 外国語の指導,外国人教師や生徒の受け入れ,日本の伝統文化や異文化理解等の学習活動への対応を考慮した計画とすることが重要である。

(2) 外国語会話学習や,コンピュータ支援による外国語学習,インターネットの活用等にも対応した計画とすることが望ましい。

(3) 国際文化の理解,交流のために,和室など日本の伝統的な空間を計画することも有効である。

第4 安全でゆとりと潤いのある施設整備

1 生活の場としての施設

(1) 生徒等の学習のための場であるのみならず,生徒や教職員の生活の場として,ゆとりと潤いのある計画とすることが重要である。

(2) 生徒等の行動範囲,動作領域,人体寸法を考慮するとともに,心理的な影響も含めて施設を計画することが重要である。

(3) 生徒が休憩時間や食事等の際に,多様な生活場面を自ら選択できるよう,ラウンジや食事に利用できるスペース等を有機的に配置し,快適な空間を計画することが重要である。
 特に単位制の学校で空き時間が発生する可能性がある場合は,授業時間外の生徒の居場所を考慮して計画することが重要である。

(4) 生徒,教職員等の多様なコミュニケーションの場として,ラウンジ,談話コーナー等を計画することが重要である。

(5) 多様な学習内容・学習形態に対応するとともに,豊かな生活の場を構成することのできる机・いす・収納棚等の家具を各室と一体的に計画することが重要である。

(6) 快適に学習・生活ができるよう,場に応じた材料,色彩,遮音・吸音性を備えた適切な施設環境を確保することが重要である。

(7) 生徒の心の拠りどころとなるようなシンボルツリーやモニュメントを計画することも有効である。

2 健康に配慮した施設

(1) 生徒の健康に配慮し,校内の快適性を確保するため,日照,採光,通風,換気,室温,音の影響等に十分配慮した計画とすることが重要である。

(2) 生徒の心と体の健康を支えるため,保健衛生に配慮した計画とすることが重要である。

(3) 体育の授業をはじめ,授業時間外でも日常的に運動に親しめるよう,そのための空間を,利用のしやすさに配慮し計画することが重要である。

(4) 建材,家具等は,快適性を高め,室内空気を汚染する化学物質の発生がない,若しくは少ない材料を採用することが重要である。

(5) 新築,改築,改修等を行った場合は,養生・乾燥期間を十分に確保し,室内空気を汚染する化学物質の濃度が基準値以下であることを確認させた上で建物等の引渡しを受け,供用を開始することが重要である。

3 耐震性の確保

(1) 地震発生時において,生徒等の人命を守るとともに,被災後の教育活動等の早期再開を可能とするため,施設や設備の損傷を最小限にとどめることなど,十分な耐震性能を持たせた計画とすることが重要である。

(2) 学校施設は,地震等の災害発生時には地域住民の応急的な避難場所としての役割も果たすことから,このために必要となる機能も計画することが重要である。

4 安全・防犯への対応

(1) 生徒の安全確保を図るため,学校内にあるすべての施設・設備について,生徒の多様な行動に対し十分な安全性を確保し,安心感のある計画とすることが重要である。
 その際,事故の危険性を内包する箇所は特に安全性を重視した分かりやすい計画とすることが重要である。

(2) 事故を誘発するような明確な構造的な欠陥はもとより,生徒が予測しにくい危険を十分に除去しておくことが重要である。
 また,可動部材,特に機械制御のものは十分に安全性が確保されていることを確認することが重要である。

(3) 生徒の多様な行動に対して,万が一事故が発生してもその被害が最小限となるよう,配慮した計画とすることが重要である。

(4) 外部からの来訪者を確認でき,不審者の侵入を抑止することのできる施設計画や,事故も含めた緊急事態発生時に活用できる通報システム等を各学校へ導入することが重要である。

(5) 敷地内や建物内及び外部からの見通しが確保され,死角となる場所がなくなるよう計画することや,特に不審者侵入の観点からはどの範囲を何によってどう守るかという領域性に留意した施設計画が重要である。

(6) 学校や地域の特性に応じた防犯対策及び事故防止対策を実施し,その安全性を確保した上で,地域住民等が利用・協力しやすい学校施設づくりを推進することが重要である。

(7) 既存施設の防犯対策及び事故防止対策についても,図面や現場等において点検・評価を行い,必要な予防措置を計画的に講じていくことが,関係者の意識を維持していく面からも重要である。

(8) 学校施設の防犯対策及び事故防止対策は,安全管理に関する運営体制等のソフト面での取組と一体的に実施することが重要である。その際,家庭や地域の関係機関・団体等と連携しながら取組を進めることが重要である。

5 施設のバリアフリー対応

(1) 障害のある生徒,教職員等が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるように,障害の状態や特性,ニーズに応じた計画とすることが重要である。その際,スロープ,手すり,便所,出入口,また必要に応じエレベーター等の計画に配慮することが重要である。

(2) 学校の教育活動への地域の人材の受入れなど様々な人々が学校教育に参加すること,地域住民が生涯学習の場として利用すること,地震等の災害発生時には地域住民の応急的な避難場所としての役割を果たすこと等,高齢者,障害者を含む多様な地域住民が利用することを踏まえて計画することが重要である。

(3) 既存学校施設のバリアフリー化についても,障害のある生徒の在籍状況等を踏まえ,所管する学校施設に関する合理的な整備計画を策定し,計画的にバリアフリー化を推進することが重要である。

(4) 学校施設のバリアフリー化に当たっては,施設の運営・管理,人的支援等のサポート体制との連携等を考慮して計画することが重要である。

6 環境との共生

(1) ライフサイクルを通じた環境負荷の低減や,自然との共生等を考慮した施設づくりを行うことが重要である。

(2) 施設自体が環境教育の教材として活用されるよう,また自然と触れ合う機会が増えるよう計画することが重要である。

(3) 学校施設における温室効果ガスの排出量を削減するため,断熱化や日射遮蔽等の建物性能の向上を図るとともに,照明や冷暖房等の設備機器の高効率化を図ることが重要である。

(4) 太陽光や太陽熱,風力,バイオマス※など再生可能エネルギーの導入,緑化,木材の利用等については,環境負荷を低減するだけでなく,環境教育での活用や地域の先導的役割を果たすという観点からも望ましい。

 ※バイオマス・・動植物に由来する有機物である資源。(原油,石油ガス,可燃性天然ガス及び石炭を除く。)

(5) 省エネルギーやごみのリサイクルの推進等,日常的に環境問題に対して主体的な取組が促されるよう配慮して計画することが望ましい。

7 カウンセリングの充実のための施設

 カウンセリングの機能を充実する観点から,保健室や教育相談室,保護者等のための相談スペース等適切な環境を計画することが重要である。

第5 地域と連携した施設整備

1 学校・家庭・地域の連携協力

(1) 学校施設の計画は,学校・家庭・地域の連携に基づく生涯学習の基盤として,関係者の参画により,総合的かつ長期的な視点から策定することが重要である。

(2)専門的知識・技術を持つ地域の諸機関,企業等の様々な人材を受け入れ,教育活動への多様な活力の導入・活用を促すための諸室についても計画することが重要である。

(3) 地域における大学や他の高等学校・中学校との学校間連携,インターンシップ,ボランティア活動等を考慮した計画とすることが重要である。

(4) 地域住民等のボランティア活動による学校の教育活動を支援する取組や保護者・地域住民等が学校運営を支援する取組など学校における活動への地域の協力を促すための諸室についても計画することが重要である。

(5) 他の文教施設等の整備状況等を勘案しつつ,必要に応じ,これらの施設との適切な役割分担や施設等の相互利用・共同利用等を通じ有機的な連携について計画することが望ましい。また,他の文教施設等との情報ネットワークを構築することも有効である。

(6) 地域に開かれた学校づくりの観点から,学校としての取組や学習活動の成果等について,保護者や地域住民など外部へ情報発信できるよう計画することが重要である。

2 学校開放のための施設・環境

(1) 生徒や地域住民が有効に活用できる計画とすることが重要である。また,学校や地域の特性に応じた防犯対策を実施し安全性を確保した上で,必要に応じ,地域住民の利用の促進を図るため,地域住民との共同利用のできる計画も有効である。

(2) 多様な利用者に配慮した,快適,健康,安全で利用しやすい施設であるとともに,学校開放の運営と維持管理が容易な施設として計画することが重要である。

3 複合化への対応

(1) 社会教育施設や高齢者福祉施設等の他施設との複合化について計画する場合は,学校施設における生徒の学習と生活に支障のないことはもちろん,施設間の相互利用・共同利用等による学習・生活環境の高機能化及び多機能化に寄与する計画とすることが重要である。また,地域の防災拠点としての役割について計画する場合は,学校施設における生徒の防災意識の向上に寄与し,学習と生活に支障のないよう計画することが重要である。

(2) 多様な利用者を考慮し,防犯対策等の安全管理,バリアフリーに配慮した計画とすることが重要である。

(3) 合築の検討を行う場合,学習環境に障害又は悪影響を及ぼす施設は避けることが重要である。また,学習環境の高機能化及び多機能化に寄与しない施設についても慎重に対処することが重要である。

第3節 学校施設整備の基本的留意事項

1 総合的・長期的な視点からの計画の策定

(1) 地域の高等学校施設整備計画や文教施設整備計画等との整合

 当該地域における中・長期の高等学校施設整備計画や他の文教施設等の整備計画との整合性を図り,多様な学習活動の実施,安全性への配慮,環境負荷の低減,地域との連携を考慮し,総合的かつ長期的な視点から学校の運営面にも十分配慮した施設計画を策定することが重要である。

(2) 生徒数の動向等に応じた適切な学校規模の設定

 当該地域の学齢人口の推移,進学率の動向,課程や学科等に対するニーズ等も考慮しつつ,計画を策定することが重要である。

(3) 高等学校教育改革や再編整備計画との整合

 高等学校教育の今後の方向や生徒数の減少,当該地域の実情等に応じて策定されている高等学校教育改革や再編整備を内容とする計画を踏まえ,各高等学校について中長期的な施設整備計画を策定することが重要である。

(4) 総合的な視野からの計画策定
  1. 長期的に施設を活用できるよう,将来の教育内容の変化や維持管理のしやすさも含めた施設の長寿命化を考慮した計画とすることが重要である。
  2. 施設の一部の増改築や改修の場合においても,学校施設整備の基本方針,新たな課題への対応を踏まえ,総合的かつ中・長期的な視点から,既存施設の有効活用を含めて計画することが重要である。
  3. 施設計画に係る予算科目,所管部課,整備時期等が異なる場合においても相互に十分調整し,総合的に計画することが重要である。

2 学校の組織,学級編制等の計画条件の検討及び確認

(1) 当該学校における課程の編制等に係る計画条件

 現在及び将来において,当該学校における全日制,定時制,通信制の課程の別や併設の有無,また,学年制,単位制の別,学校間連携の実施,専攻科の設置,中高一貫教育の実施の有無等の計画条件を検討し確認することが重要である。特に,中高一貫教育については,中等教育学校,併設型,連携型といった実施形態に応じた計画とすることが重要である。

(2) 学科,コース等の編制に係る計画条件

 現在及び将来において,当該学校に設置する普通科,専門学科及び総合学科の学科並びに類型(コース)の種類,また,男女共学又は別学等についての計画条件を検討し確認することが重要である。
 なお,総合学科を設置する学校の計画においては,学科の原則履修科目,開設する総合選択科目群を構成する普通科目及び専門科目の種類や相互の関連について十分分析し把握することが重要である。

(3) 運営方式に係る計画条件

 教育目標や学習指導・生徒指導の方法,当該学校の単位認定の方式,科目履修の方法や科目選択の幅などを踏まえ,特別教室型,教科教室型等の運営方式※を,学校全体,学科別又は学年別に十分検討し決定することが重要である。
 なお,特に教科教室型の運営方式や大幅な選択制を採用する場合は,生活単位としてのホームルームと学習単位としての授業集団の関連や校内における生徒の活動内容を踏まえ,ホームルーム活動や持ち物などの保管等のための場(ホームベース)の設定,生徒の教室間の移動,生徒への情報伝達方法,教員間の連絡調整の方法や場の設定について十分検討することが重要である。

 ※特別教室型の運営方式(以下,「特別教室型」という。)・・通常は普通教室において授業を受けるが,特別な装置等が必要な場合は特別教室において授業を受ける学校運営方式。

 ※教科教室型の運営方式(以下,「教科教室型」という。)・・教科毎に専用の教室があり,生徒が時間割に合わせて各教科の教室に移動して授業を受ける学校運営方式。

3 施設機能の設定

(1) 教育活動の内容分析とその条件化
  1. 各教科の具体的な教育課程を十分分析し,各教科の活動の内容や機器等の活用方法を将来の動向も含めて適確に把握し,必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. 学校行事など特別活動の具体的な内容について十分分析し,把握して,必要な施設機能を設定することが重要である。
  3. 教育内容に十分配慮した上で,効率的な施設整備の観点から,複数の教科等での共用,学校間や地域との相互利用・共同利用,拠点校化等を考慮して,施設機能を設定することが重要である。
  4. 教育活動に必須の教材や教具等を準備,作成するために必要な施設機能を設定することが重要である。
(2) 共通学習空間機能の設定

 図書室等の共通学習諸室については,各教科における学習内容について十分分析し,共通する,あるいは,類似する学習内容を把握し,学校規模,運営方式,教科別の利用頻度等に応じ,施設機能を設定することが重要である。

(3) コンピュータ,視聴覚機器等の活用とその条件設定
  1. コンピュータの利用形態ごとに,利用方法や機器等の設置形態,データの保存方法その他の条件を,将来動向も含めて分析し,把握するとともに,視聴覚機器との複合的利用に配慮しつつ学校全体のシステムの在り方を検討し,必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. 視聴覚機器や通信機器等の利用形態ごとに,利用方法や機器等の設置形態,ソフトの収納・管理その他の条件を,将来動向も含めて分析して把握し,コンピュータとの複合的利用も検討しつつ,必要な施設機能を設定することが重要である。
  3. 情報ネットワークの整備や情報機器の導入について,適切な安全管理・保守・点検措置を取ることが重要である。
(4) 学校生活の分析とその条件設定
  1. 通学の手段,上下足の履き替え方式,生徒の衣類や持ち物の管理方式,ホームルーム活動,授業以外の時間における生徒の居場所,情報伝達方式,食事方式,成人等の生徒の受入れ等について,学校における生徒等の生活の仕方を十分検討し,必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. 複数の課程を設置する学校や単位制の学校,学校間連携,生涯学習講座の開設など,異なる集団に属する学習者が施設を共用する場合の対応についても十分検討し,必要な施設機能を設定することが望ましい。
(5) 生徒指導,教育相談,キャリア・カウンセリング(進路相談,履修指導)に対応する施設機能の設定
  1. 生徒指導や教育相談のために,カウンセリングに関する運営方法及びその人的体制,利用者や動線等について十分分析し,把握して,必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. キャリア・カウンセリング(進路相談,履修指導)のために,学科やコース等の編成,キャリア教育に関する教育方針や指導計画等について十分分析し,把握して必要な施設機能を設定することが重要である。
  3. 個別の指導や相談に対応でき,プライバシーの守れる小室を計画することが望ましい。
(6) 部活動等に対応する施設機能の設定

 体育系及び文化系のそれぞれについて,部活動やサークル活動の種類,数,活動内容,活動場所等を具体的に把握し,必要とする施設機能を設定することが重要である。

(7) 管理・運営のための施設機能の設定
  1. 学校の教育目標や運営方針に基づき,中央職員室,小学科職員室,学年職員室,教員研究室,会議室,休憩室等や事務部門などの構成を検討し,情報・通信機器の導入も含め必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. 当該学校の課程,学科等の編制や運営方式に対応した事務管理・運営システムを,教職員施設の機能やコンピュータの導入・活用と併せ検討し把握して,必要な施設機能を設定することが重要である。
  3. 建物各部,各種設備,植栽等の維持管理についてコンピュータの導入・活用と併せ検討し,その方法等の方針を確立するとともに,計画・設計にも反映させることが重要である。
(8) 地域住民の学習活動に対応するための機能の設定

 地域住民等の学習需要の内容等を十分分析し,学校教育に支障をきたさないよう配慮しつつ当該高等学校における学習機会や場の提供内容及び方法を検討し,必要な施設機能を設定することが重要である。

(9) 学校間連携及び地域の諸施設との有機的な連携
  1. 連携先の大学や高等学校等との役割分担や連携方法等について十分検討し,必要な施設機能を設定することが重要である。
  2. 連携先の大学や高等学校を始め地域内の文教施設との有機的な連携について検討し,必要に応じ,これらの施設と相互利用・共同利用することを踏まえ,当該高等学校の施設機能を設定することが重要である。
  3. 中学校との併設を計画する場合は,学習・生活における相互の関係について十分検討し,それぞれの学校段階にふさわしい学習・生活環境の確保に留意し,必要な施設機能を設定することが重要である。また,併設する際には,できるだけ同一敷地内とするなど,学校間の距離について配慮することが望ましい。
(10) 室構成の決定
  1. 当該学校に備えるべき施設の機能に基づき,校舎,屋内運動場等の各施設の面積規模を勘案しつつ,空間の共用化や多目的利用を検討し,必要な室・空間の種類,数,面積等を適切に決定することが重要である。
  2. 特に,多様な学習活動を展開するために,学習集団の数の増加や規模の変化に十分留意し,必要な室・空間を確保できるよう室構成を決定することが重要である。
     また,複数の課程や学科の併設,専攻科等の設置を計画する場合は,共用する施設機能を考慮しつつ,必要な室・空間の確保に十分留意することが重要である。
  3. 生徒の人体寸法や動作寸法,動作空間に適合した家具の導入について計画することが重要である。

4 計画的な整備の実施

(1) 計画プロセスの重視
  1. 企画,基本計画・設計,実施設計及び施工の各段階を明確に捉え,特に,企画,基本計画・設計の各段階において十分な期間を確保し,当該高等学校施設への様々な要請に対応しながら計画を推進することが重要である。
  2. 企画から施工に至る整備の各段階において,各段階相互の内容的な連続性,整合性等を十分に確保することが重要である。
  3. 各室計画と家具等の導入計画との一体性に留意しつつ,総合的に整備を進めることが重要である。
  4. 完成後には施設に係る評価を定期的に行い,今後の改修・改築等の計画に生かしていくことが重要である。
  5. 施設の整備を段階的に行う場合は,最終的な施設環境を想定した上で,それぞれの段階での学校運営への施設対応を検討し,計画を策定することが重要である。
(2) 長期間有効に使うための施設整備の実施
  1. 学校施設を常に教育の場として好ましい状態に維持するためには,日常の点検・補修及び定期的な維持修繕が必要であり,これらを行いやすい計画とすることが重要である。
  2. 建物構造体を堅固につくり,室区画や室仕上げは将来の学習内容・学習形態の変化に応じて変更可能とすることや,設備の交換・補修を容易にすること等,長期間建物を有効に使える計画とすることが重要である。
  3. 情報技術の進展をはじめとする将来のニーズや機能の変化を見込んで,改修しやすい施設となるよう計画することも有効である。
  4. 学校施設を常に教育の場として好ましい状態に維持するためには,教職員・生徒・保護者・地域住民等からの要望を踏まえて,適切な学習・生活空間を計画することが望ましい。
(3) 関係者の参画と理解・合意の形成
  1. 特色ある学習内容や教育方法等を反映し,地域と連携した学校運営が行われるよう,当該学校施設の整備に係る教職員や生徒等利用者を含む関係者の間で,企画の段階から十分な意見交換の場と機会を設け,理解と合意の形成に努めることが重要である。その際,学校建築や情報システムの専門家その他の学識経験者の協力を求めることも有効である。
     また,より効果的・効率的な施設運営を行うためには,施設の完成後においても継続的に施設使用者との情報交換等を行うことが重要である。
     このことは,設計当初の施設機能が十分に活用され,利用実態の面から安全性を確保する上でも重要である。
  2. 開放施設の利用内容・方法や管理方法,当該学校施設が周辺地域に及ぼす騒音・交通・じんあい等の影響,災害時の対応などについて,事前から地域住民と十分協議することが重要である。
(4) 整備期間中の学習・生活環境の確保

 整備期間中においては,適切な事故防止策を講じるとともに,工事に伴う車両等の出入り,騒音,振動,ほこり等の発生により,生徒の健康や安全及び学習や生活に支障の生じることのないように十分留意することが重要である。特に,情緒障害,自閉症又はADHD等の障害のある生徒がいる場合は,騒音,振動等の刺激によるパニックや多動・衝動性等に十分配慮することが重要である。また,必要に応じ適切な仮校舎を確保することも有効である。

お問合せ先

大臣官房文教施設企画部施設企画課

課長 長坂 潤一(内線2286) 課長補佐 瀬戸 信太郎(内線3181) 環境施設企画係長 小林 和弘(内線2288)
電話番号:03-5253-4111(内線2291)

(大臣官房文教施設企画部施設企画課)