国立大学等施設の整備充実に向けて-未来を拓くキャンパスの創造- (今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議)

平成10年3月
今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議

   「今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議(主査  有馬朗人理化学研究所理事長)」は,今後の国立大学等施設を着実に整備充実するための基本的な課題と具体的な推進方策について審議を行い,平成十年三月,標記の報告書を取りまとめた。
  なお,本調査研究は継続して検討を進める予定。

                            



【目  次】

はじめに

第1章  国立大学等施設の果たす役割

第2章  国立大学等施設の現状
    1.老朽・狭隘化が進む国立大学等施設
    2.文教施設整備費の推移

第3章  施設整備の課題と方策
    1.基本的な教育研究環境の確保
      (1)  老朽・狭隘の計画的解消
      (2)  キャンパス環境の整備
      (3)  世界的水準の教育研究にふさわしい施設の整備
    2.社会の変化・大学改革に対応する施設環境の整備
      (1)  大学改革に対応した学部等施設の整備
      (2)  高度な教育研究拠点としての大学院施設の整備
      (3)  卓越した研究拠点(COE)の形成のための施設整備
      (4)  教育研究活動の流動化を支援する施設整備
      (5)  国際交流を支援する施設整備
      (6)  環境に配慮した施設整備
      (7)  地域社会との連携
    3.計画的施設整備の推進
      (1)  評価に基づく施設整備の推進
      (2)  施設長期計画に基づく施設整備の推進
    4.施設整備財源の充実と多様化
      (1)  施設整備関係予算の充実
      (2)  民間資金等の導入
      (3)  民間施設等の活用

おわりに

参考資料(目次のみ掲載)



【参  考】

協力者名簿

用語の解説



はじめに

  これまで我が国の国立の大学,短期大学,高等専門学校,大学共同利用機関等(以下,国立大学等と言う。)の施設は,高等教育,学術研究の進展などと歩みを一にし,様々な時代の要請にこたえながら,教育研究と一体的な整備がなされてきた。
  現在,国立大学等が保有する施設の面積は2,100万平方メートルを超え,国立大学等の教育研究活動の基盤を支える社会資本を形成しているが,そのストックの半数が,機能の更新・向上を必要とする時期にあり,施設整備の状況は危機に瀕していると言わなくてはならない。大学審議会,学術審議会,科学技術会議等各方面からも,国立大学等施設の老朽化,狭隘化の早急な改善が求められられている。
  一方,平成3年の大学設置基準の大綱化を契機に,戦後最大の大学改革が進展するとともに,平成8年に「科学技術基本計画」が策定され,科学技術創造立国を目指し,様々な科学技術振興方策が進められている。これらの施策の展開に伴い,大学院の拡充,学術研究の高度化,国際交流の進展等への対応など,新たな施設整備需要が生じている。
  このような状況の中で,国立大学等施設においては,これまでの恒常的組織拡充への対応にも相当量の積み残しがあること,さらに近年の大学院の急速な量的拡大への対応が強く求められていることなど,量的な整備需要を満たすことが今なお求められている。
  同時に,これまで量的整備に追われ,ややもすると欠けていた長期的観点に立った施設の質的向上が求められている。大学審議会においては,今後における高等教育の整備の方向として,量的な拡大よりも質的な充実を格段に図ることが重要とされている。また,国立大学等施設の水準は,世界の主要大学の施設水準と比べて劣っているとの指摘があり,知的創造や知的資産の継承の場,能力の陶冶と人格形成の場としてふさわしい質的な向上が期待されている。
  さらに,近年の高度情報通信社会の進展,人々の生涯にわたる学習ニーズや地球規模の環境保全意識の高まりに伴い,国立大学等の施設整備においても,一層の配慮が求められている。
  国立大学等施設を取り巻くこのような状況を踏まえ,平成5年度には,21世紀に向けた新たなキャンパス環境を創造・再編するための大綱的指針に関する基本的事項について調査研究が実施され,その成果を基に「国立学校施設整備計画指針」が策定された。この指針において,施設整備における基本的視点として,高度化,多様化する教育研究に対応できる施設の整備,人間性・文化性豊かな環境の創造,広く社会に開かれたキャンパスの整備,の3つが示されている。本調査研究では,これらの成果をも踏まえつつ,今後の国立大学等施設を着実に整備充実するための基本的な課題と,具体的な推進方策について審議を行った。

  今後の国立大学等施設の整備充実を図っていくためには,財政措置の一層の充実が必要であるが,文教施設整備費は平成9年度から再び減少に転じている。国立大学等施設の整備は未だ十分ではないなかで,老朽・狭隘化の解消はもとより,社会の変化・大学改革に伴う新たな諸課題に対応した施設整備が必要な状況にあり,昭和50年代後半のような文教施設整備費の減少を繰り返すことがあってはならない。国立大学等施設は知的基盤としての社会資本であるという観点から,厳しい財政状況下であっても,その整備充実に向けて,国の予算全体の中で優先的な投資が必要である。このことについては,国民的議論を喚起し,理解を得ていく必要がある。同時に,既存の施設の活性化に意を用いるなど,すべての関係者が,国立大学等施設を国民の財産として再認識し,従来の施設整備の在り方の見直しを行い,適切な改革を実施していくことが必要であると考える。



第1章  国立大学等施設の果たす役割

  世界的水準の教育研究の推進を図るとともに,科学技術創造立国を目指す我が国において,高等教育,学術研究の基幹を担う国立大学等の果たす役割は極めて大きい。
  優れた人材の養成・確保は,国の活力を維持する上で極めて重要である。教育は国の根幹であり,教育なくして社会の発展,我が国の繁栄はない。
  また,我が国が21世紀に向けて今後も活力ある豊かな社会を実現し,国際社会において積極的な役割を果たしていくためには,科学技術発展の基盤となる創造性豊かな世界の最先端の学術研究の推進を図ることが極めて重要である。学術研究は,真理の探求を目指して行われるあらゆる分野にわたる自由な知的創造活動であり,人類文化の新しい展開や社会の発展の基盤を成すものである。

  大学等は,このような重要な役割を持つ教育,学術研究の中心であり,世界に開かれた情報拠点,知のセンターとして活動し続けることが期待されている。
  その中核的役割を果たす国立大学等にあっては,独創的・先端的な学術研究を推進するとともに,大学院教育の主力を担い,計画的な人材養成に寄与するなど,高等教育,学術研究の基幹的部分を支えている。さらに,全国的に地域配置されていることから,地域の文化的中心であるとともに,高度で体系的かつ継続的な学習の場として,生涯学習社会においても重要な役割を果たすことが期待されている。

  国立大学等の施設環境は,独創的・先端的な学術研究や創造性豊かな人材養成のための知的創造活動や知的資産の継承の場である。能力の陶冶と人格形成の場として,所要の施設の機能を備えることはもとより,各国立大学等の歴史や伝統を踏まえ,次世代に継承していけるような施設環境を整えることは,今後の我が国の知的なものに対する取組のシンボルであり,国際社会や次世代へのメッセージである。
  また,キャンパスは,学生や教職員をはじめ多くの人々が集い,独創的な活動を織りなす多様なコミュニケーションの場を形成している。キャンパス環境を,人間性・文化性に配慮したゆとりと潤いのあるアカデミックな雰囲気に満ちたものとすることは,知的で創造的な活動の活性化を促し,新たな時代における我が国の発展の礎を築くものである。

  このように,国立大学等施設は,次代を担う豊かな人材を育て,より高度な教育研究活動の展開や国際社会に貢献する独創的・先端的な学術研究の推進,研究交流の促進,国際交流の推進,生涯学習社会の実現を図っていく上で基盤を成すものであり,国立大学等施設の整備充実は,我が国の未来を拓くものである。



第2章  国立大学等施設の現状

1.老朽・狭隘化が進む国立大学等施設

  国立大学等は,99の大学,2の短期大学,54の高等専門学校,18の大学共同利用機関等から成り,約78万人の学生・大学院生等を受け入れ,13万余人の教職員が活動している。
  その施設は,校舎,附置研究所施設,附属病院・附属学校・研究施設等の附属教育研究施設,福利厚生施設,体育施設,学生寄宿舎など多岐にわたり,平成9年5月1日現在で,2,100万平方メートルを超える膨大な施設保有量となっている。


【老朽化】
  現在,国立大学等が保有する全施設面積の約52%に当たる約1,140万平方メートルが,通常改修等の措置が必要な時期である経年20年を経過しており,その約7割が改築,改修等の措置を必要としている状況である。
  これらの建物の多くは,経年による老朽化により,雨漏り・建具の開閉不良等の基本的機能の欠如,外壁・庇の落下,鉄筋の腐食・コンクリートの劣化による構造体としての強度の低下等が生じ,また,電気設備,空調設備,給排水設備等の基幹設備の老朽化による停電,蒸気漏れ,赤水の発生等による機能劣化も同時に進行しており,教育研究に多大な支障をきたしている。これは,昭和30年代後半以降の高等教育の拡大期に建てられた建物が改修時期を迎えた昭和50年代後半以降,財政抑制のために施設費予算額が一時期の半分程度までに減少した中で,学生増募に対応する学科等の新増設に伴う施設整備が優先され,改修等の整備を十分実施できなかったこと等によるものと考えられる。
  特に,昭和30年代後半から40年代にかけての建物は,既に30余年を経過し,経年による機能劣化に加え,構造耐力上問題のある建物が多く,早急に改築,改修が必要な状況となっている。また,「耐震改修の促進に関する法律」の施行に伴い,昭和56年以前に建築された現行の耐震基準を満たさない建物については,早急に耐震改修等を進めることが必要となっている。
  今後も,建物の老朽化は急速に進むことが予想されており,平成9年度予算ベースで改築,改修整備が推移したと仮定すると,およそ10年後には,経年20年以上の建物は現在の1.4倍になり,全保有面積に対する比率は約7割に達すると見込まれている。


【狭隘化】
  近年の教育研究の進展に伴う各種研究設備の増加・大型化,大学院生や留学生の飛躍的増加等により,現在の国立大学等施設の狭隘化は急速に進行しており,既存の施設を利用しての教育・研究には限界が生じてきているため,その施設需要は大幅に増大している。
  すなわち,この10年間の国立大学等施設の学生1人当たり面積は,大学院生や留学生数の伸びとは逆に,年々減少しており,高度化,多様化する教育研究を十分支援することができない状況となっている。このことは,文部省が平成7年に実施した「大学改革の今後の課題についての調査研究」において,大学院学生等が実験研究用の施設に関して,全般に不備を訴える声が強いこと,そして,その割合は国立大学の大学院学生において高くなっていることにも表れている。

  教育研究環境の実態を見ると,近年急増している大学院生・留学生等の実験研究スペースを適正な状態で確保することができず,個室として計画された教官室の中に留学生のデスクが数名分も配置されていたり,薬品を使用する実験室の中に大学院生のデスクを並べざるを得ないこと等,教育研究に支障が生じているのみならず,安全性の確保の観点からも劣悪な状態である場合が多々見受けられる。

  さらに,米国等の大学との比較においても,我が国の教育研究スペースは一般的に劣っているとの指摘があり,そのため,国立大学等施設の整備拡充が大学審議会,学術審議会,科学技術会議等各方面から求められている。
  なお,科学研究費補助金等の研究費は,次第に拡充されてきているが,これらの研究費による研究を効果的に遂行するためにも,実験研究スペースの拡充が強く求められている。

  平成9年度における,新たな組織の設置や改組拡充等に伴う不足面積,すなわち,現在の教育研究体制を支えるために新たに整備していく必要がある面積は,約460万平方メートルを超え,そのうち,学部,大学院施設で約7割近くの310万平方メートルを占めており,今後も大学院の整備拡充等に伴い,その需要は増大し続ける傾向にある。


2.文教施設整備費の推移

  昭和39年度の国立学校特別会計制度発足以来,文教施設整備費は概ね順調に予算を伸ばしてきたが,昭和54年度の1,546億円をピークに,その後,国の財政事情の下で年々縮減を余儀なくされてきた。しかし,近年における高等教育充実のための施策の展開に対応して,平成4年度には  特別施設整備事業 をスタートさせたほか,平成5年度及び平成7年度においては,数次にわたる大型の補正予算が組まれ,施設費についてもこれまでにない予算を確保するなど,徐々に予算の増額を図ってきた。
  また,平成8年7月には,閣議決定された「科学技術基本計画」において,大学における研究施設・設備の計画的な改善などが盛り込まれ,国立大学等施設の整備が科学技術振興のための主要な施策の一つとして明確に位置付けられることになった。
  この基本計画では,「新たな基準による狭隘化の解消及び老朽施設の改築・改修に約1,200万平方メートルの整備が見込まれている」としており,この整備には総額約3兆円の費用が必要になると推計されている。

  しかしながら,文教施設整備費は,平成9年度から再び減少に転じており,平成10年度以降においては,財政健全化を目指した「財政構造改革」を踏まえ,厳しい財政状況が予想され,老朽・狭隘化が進行した過去の構図を繰り返すことにならないか懸念されるところである。
  国立大学等の施設整備は未だ不十分な状況にあり,老朽・狭隘施設の解消はもとより,新たなニーズに対応した施設整備が必要な状況にあるため,今後とも,施設整備予算の増額が求められている状況である。



第3章  施設整備の課題と方策

1.基本的な教育研究環境の確保

  国立大学等施設は,高度化,多様化する教育研究の基盤そのものであると同時に,健全で良好な施設環境を確保し,屋外環境を含む豊かなキャンパス環境の形成や,歴史と伝統を継承し,文化の中心としてふさわしい風格ある建物を整備するなど,国立大学等の掲げる理念,目標を象徴するものであることが求められている。


(1)  老朽・狭隘の計画的解消

   老朽・狭隘の解消は,国立大学等施設の基本的かつ緊急の課題である。
  施設の自己点検・評価に基づき,中長期の整備計画を立案し,計画的な整備を図る。
  また,国立大学等施設は国民の財産であるとの強い認識に立ち,日常の維持管 理に最大限の努力を払い,施設の長期使用を行うとともに,既存施設の活性化を  図る。


【課  題】
・老朽・狭隘化している国立大学等施設においては,最低限の教育研究スペースの確保,防水性能の維持,電源供給など建物設備機能の確保,安全性の確保といった基本的な施設環境さえ維持できていない状況にある。
・老朽・狭隘化した国立大学等施設を,国民の財産として健全な形に機能回復するとともに,安全で良好な環境に維持していくことが求められている。

【方  策】
・各国立大学等においては,施設の自己点検・評価により老朽・狭隘の実状を的確に把握し,安全性の確保に努めるとともに,改築改修計画,維持管理計画,既存施設の使用面積の配分見直し計画も含め,中長期的な改善計画を策定する必要がある。
・文部省においては,老朽・狭隘化の合理的な判断指標を定めるとともに,中長期の整備計画を立案し,計画的な整備に努める必要がある。
・老朽度については,建設後の経過年数,  耐力度点数 ,  耐震性能 ,大型改修歴などの指標によるとともに,効果的に整備を進めていくためには,機能面の支障の度合い,使用者が感じる老朽度の違い,もともとの整備水準の違い,これまでの維持管理の状況など,さらに新たな指標について検討する必要がある。
・狭隘度については,建物の種別ごとに教官数,学生数等に基づき算定される必要面積から,実際に保有している面積を差し引いた面積を不足面積(狭隘)としてとらえているが,活発に活動するほど相対的に狭隘化が進むという面があり,特別研究員などのポストドクター,外国人研究者の受入れ,実験設備機器の増加など,さらに新たな指標について検討する必要がある。
・施設はしゅん功した時点から劣化が始まる。適切な維持管理,修繕,改修を施さないと,良好な状況に保つことはできない。維持管理,修繕,改修の不足が老朽化の最大の原因であるとの認識に立ち,適切な維持管理等により,既存施設の長期使用を図る必要がある。
・国立大学等施設の新営に際しては,  ライフサイクルコスト の観点から,適切な初期投資を行い,ロングライフ化を図るとともに,機能の変化に耐えるよう十分検討する必要がある。
・一度,学部学科等に配分された施設は,各組織が占有して使用していく傾向が強いが,このような施設使用の固定化は,変化への対応を阻み,施設の使用が効率的に行われ難く,狭隘化の一因を成している。国立大学等施設を国民の財産として有効に活用する観点に立ち,施設を占有する概念自体を見直すことや,改築及び改修整備に合わせ,現実の活動状況,狭隘状況等に応じて,現状の使用面積の配分を見直すなど,既存施設の最大限の活性化を図る必要がある。
・「耐震改修の促進に関する法律」を踏まえ,耐震診断によりその耐震性能を把握し,安全性の確保の観点から,現在の耐震基準を満たさない建物について耐震改修等を計画的に進める必要がある。


(2)  キャンパス環境の整備

   キャンパス環境は,教育研究活動の基盤である。
  キャンパスアメニティの形成に配慮するとともに,情報基盤の充実,学生が自由に利用できる学習の場等の整備を図る。


【課  題】
・高度化,多様化する教育研究活動を活性化し,快適なキャンパス生活を支援する環境の整備が求められている。
・屋外環境等は,キャンパスにおける公共的空間であり,変化を続ける教育研究環境とは異なり,時代を超えて大学の根幹として維持・継続されていくものである。国立大学等においては,このような公共的な場の形成と,これを大切に維持していくことが求められている。

【方  策】
・キャンパス環境はすべての教育研究活動の基盤であり,キャンパス全体がコミュニケーションの場として機能することにより,教育研究の活性化を図ることができる。また,キャンパス環境は,学生等の生活の場でもある。このような観点に立ち,知的創造活動を促す多様なコミュニケーションの場や,キャンパス生活を支える共用施設,福利施設などの充実,豊かな屋外環境の整備を図り,キャンパスアメニティの形成について常に配慮する必要がある。
・屋外環境等は,大学等における公共的空間であり,さらに地域住民にも開かれた場であるという認識の徹底を図り,その適切な維持管理を行う必要がある。
・情報化の進展に伴い,教育研究活動における情報通信・処理機能の役割が増大していることから,各国立大学等の情報通信・処理システムに整合した  キャンパスLAN 等の情報基盤の充実を図る必要がある。
・これからの高等教育においては,自ら考え,新しい知識を獲得していく能力が重視されており,学生が自由に学習図書や情報機器を使用できるような学習の場を,建物の整備に際し,用意する必要がある。


(3)  世界的水準の教育研究にふさわしい施設の整備

   世界的水準の教育研究にふさわしい施設を計画的に整備する。
  適切な初期投資による施設の質的向上,教育研究の高度化,多様化に対応し弾力的施設規模設定,歴史と伝統を継承するにふさわしい風格ある施設づくりを  進める。


【課  題】
・  世界的水準の教育研究の推進 を支える基盤として,今後の国立大学等施設には,高度な教育研究活動にふさわしい施設の整備が求められている。
・各国の制度の相違などから厳密な比較は困難であるが,  国立大学等施設の水準 は,近年整備された施設を除き,先進欧米諸国及び近年発展の著しい途上国の主要大学の施設と比べても劣っているとの指摘があり,国際的な教育研究交流を促す面からも,魅力ある教育研究環境の整備が求められている。

【方  策】
・各国立大学等においては,教育研究活動に対し明確かつ具体的なビジョンを立案する必要があり,文部省においては,各大学等の描くビジョンに基づき,それを支える高度な教育研究環境の計画的な整備を推進する必要がある。
・国立大学等施設は,次世代まで使用できる良好な社会資本を形成していくという観点から,適切な初期投資により質的向上を図ることが必要である。
・教育研究の高度化,多様化へ対応するとともに,快適で豊かな施設環境を実現するため,施設規模の弾力的な設定を図る必要がある。
・各国立大学等における歴史と文化を育み伝統を継承するとともに,地域のシンボルとしてふさわしい,風格ある施設づくりを進める必要がある。


2.社会の変化・大学改革に対応する施設環境の整備

  平成3年度の大学設置基準の大綱化などを契機に,現在,戦後最大の大学改革が進行している。一方で,平成8年に「科学技術基本計画」が策定され,科学技術創造立国を目指すべく,様々な科学技術振興方策が進められている。
  これにより,大学院の量的な拡充,科学研究費補助金をはじめとする競争的研究資金の拡充,留学生の受入れ等多方面にわたる国際交流の促進などが進められている。これらの施策が有効に機能するためには,その基盤となる国立大学等施設の整備充実が必要である。
  多様な文教施策を効果的に実現させるために,各施策の核となる施設について,重点的,計画的に整備を進めていく必要がある。


(1)  大学改革に対応した学部等施設の整備

 大学改革による教育研究の変化に対応した学部等施設の整備に際しては,既存 施設の活性化とともに施設の複合を図る。


【課  題】
・学問の進展等の高等教育を取り巻く状況の変化を踏まえ,各大学等において,自らの教育理念,目的に基づき,特色ある発展を遂げるため,かつてない規模で大学改革が進展している。これに伴い,特色あるカリキュラム編成への見直し,伝統的な学問分野にとらわれない学際的,総合的な学部や新しい理念を掲げた学部等への改組,新設が進められており,これらの教育研究の変化に対応した学部等施設の整備が求められている。

【方  策】
・学部等の施設の整備に当たっては,既存施設の老朽・狭隘の状況,利用率の自己点検・評価を行い,活性化を図る必要がある。
・施設の自己点検・評価を実施するための学内組織をつくり,全学共通の意識の下での施設整備に取り組む必要がある。
・学部,学科の壁を越えた共通授業科目の開設など,カリキュラムの多様化と弾力化に対応するため,異なる分野の学生同士や学生と教員の教育研究における交流への配慮とともに,既存施設の活性化の観点から,すべての学部,大学院等の施設の見直しを行い,使用形態の再編を図る必要がある。
・教育の高度化,多様化に対応するため,講義室等の教育の場の質的向上を図る必要がある。
・学際的,総合的な学部や新しい理念を掲げた学部等の改組,新設など,積極的な改革への取組を行う際,その理念,目的を実現するため,既存の組織や学問分野の垣根を越えた総合的かつ学際的な施設の複合を図る必要がある。


(2)  高度な教育研究拠点としての大学院施設の整備

 独創的・先端的・学際的な学術研究の推進,優れた研究者の養成,高度な専門 的知識・能力を持つ職業人の養成のため,大学院の施設について,評価に基づき 重点的,計画的整備を行う。
 併せて既存施設について,大学院施設を核として使用形態の再編を図る。


【課  題】
・大学院は,基礎研究を中心とした学術研究の推進,優れた研究者の養成,高度な専門的知識・能力を持つ職業人の養成,国際化の進展への対応などにおいて重要な役割を担っており,近年,その組織等については,量的にも質的にも急速に整備充実が図られており,これらに対応した施設の整備が求められている。

【方  策】
・平成3年の大学審議会答申において,大学院規模の倍増が提言されており,  これに対応する施設需要 は,教官を除く大学院生数の増加だけをとらえても,優に150万平方メートルを超える施設必要量の増加となる。この膨大な大学院施設需要を踏まえ,新たなニーズから生まれた大規模で独立的な組織や,活発に活動し,教育研究の活性化が見込まれる組織等について,評価に基づき重点的,計画的に施設整備を行う必要がある。
・連携大学院,独立研究科,独立専攻など,多様な形態の大学院が設けられてきている。また,従来,学部に所属していた教官組織が大学院に所属するなど,学部,大学院,教官組織の関係にも変化が生じている。これらに適切に対処するとともに,将来の発展に備えるためには,従来の,学部,学科,研究科など個別組織単位での施設ではなく,全学共用の施設として整備していく必要がある。既存の施設も大学院を核とした使用形態に再編していくような発想が必要である。
・大学院施設を整備する際には,分野の異なる他の大学院や学部,関連する研究施設等と相互に密接な機能的連携を保ちつつ,複合を図ることも検討する必要がある。


(3)  卓越した研究拠点(COE)の形成のための施設整備

 我が国の学術研究の新たな展開を図るため,卓越した研究拠点(COE)の形成に資する特定の研究組織等の施設について,既存施設の活性化を図りつつ,重点的,計画的整備を行う。


【課  題】
・創造性豊かな世界の最先端の学術研究を推進していくためには,水準の高い研究環境に世界第一線の研究者や次世代を担う若手研究者が集まり,最先端の研究情報を交換しながら独創的な発想の接触交換を図ることが極めて重要であり,卓越した研究拠点-  センター・オブ・エクセレンス(COE) -の形成が強く望まれている。
・このため,COEの形成に資する特定の研究組織について,研究拠点にふさわしい施設整備が求められている。

【方  策】
・特定の研究分野において既にCOEとしての特色を有している研究機関や当該研究機関の性格上COEとなることが要請されている研究機関(大学共同利用機関,全国共同利用型の大学附置研究所及び研究施設等)について,研究の一層の高度化を図るため,既存施設の活性化を図りつつ,重点的,計画的な施設整備を行う必要がある。
・国際的に高水準の研究活動を行い,特定の研究分野における中核的な研究拠点として発展する可能性を有する優れた研究者を中心とした研究組織等について,既存施設の活性化を図りつつ,重点的,計画的な施設整備を行う必要がある。


(4)  教育研究活動の流動化を支援する施設整備

   教育研究活動の流動化を支援するため,弾力的・流動的に使用できる共同利用 スペースの確保を図る。
  施設を共用財産として認識する意識改革と管理運営体制づくりを図る。


【課  題】
・近年,特定のテーマごとに学部等既存の組織を越えて研究者のチームを編成するなどして,学術研究の進展や企業等との共同研究に迅速に対応できる弾力的な組織運営を行う例が増加している。また,科学研究費補助金をはじめとする競争的研究資金を獲得して行われるプロジェクト型の研究活動の増加や,  教員・研究者の流動化 の進展に対応する施設整備が求められている。

【方  策】
・産学の連携・協力などプロジェクト型の研究活動に対応できる施設整備を図る必要がある。
・競争的研究資金を獲得した研究プロジェクトチームが,弾力的・流動的に使用できる共用の研究の場を確保する必要がある。また,これを有効に機能させるためには,終了したプロジェクトの実験設備機器がスペースを占有しないような実験設備機器の円滑な入替システムの確立,特定のグループが施設を占有することのない明確な学内管理規程の整備が必要である。
・校舎等の新たな整備を行う際に,プロジェクト的な教育研究活動に供する全学共用のスペースを確保することが必要である。また,既存施設の改築,改修整備を行う際にも使用面積の見直しにより全学共用のスペースを確保し,施設の活性化を図る必要がある。
・遺伝子実験施設,共同研究センター,  ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー などの施設整備については,組織設置,運営面の計画時点から,研究目的や施設機能に配慮して,流動的な利用を検討し,複合化・  拠点化 により,学際的な研究活動にふさわしい施設環境を整えるとともに,共用の研究スペースを生み出す必要がある。
・教員・研究者等の流動化に対応するため,個別のスペースを適切にサポートし流動的な運用を可能とする,プロジェクト用の共同の研究室,  コモンスペース ,図書・文献資料スペース等の共用スペースの充実を図る必要がある。
・すべての施設を全学共用のものとして認識する意識改革が必要である。教育研究の活性度に応じて使用範囲を効果的に見直すことができる施設整備計画と,施設管理運営体制づくりが必要である。


(5)  国際交流を支援する施設整備

   教育研究活動における国際化の進展を踏まえ,教育研究,生活を支える施設に ついて,留学生,外国人研究者との交流を促進する観点から整備を図る。


【課  題】
・国際理解の増進,我が国と諸外国の相互の教育研究水準の向上,途上国の人材養成への貢献を進める観点から「  留学生受入れ10万人計画 」が進められている。また,近年の学術研究の大型化,高度化,多様化に伴い,学術研究が本来的に持つ国際性が強く認識され,外国人研究者の受入れ等,国際協力・交流の必要性と重要性は一層増加しつつある。国際交流を支援する観点から,留学生,外国人研究者等のための教育研究,生活を支える施設整備が求められている。
・我が国への留学生に対し,海外に留学する日本人留学生等が享受する施設環境と同様の環境を提供するという観点からの整備が求められている。

【方  策】
・校舎等の計画の際,留学生,外国人研究者の教育研究スペースの確保に配慮する必要がある。
・留学生の宿舎については,国立大学等において  7,000戸を目標 に従来から重点的に整備が進められ,約8割が整備されている。近年における全体の留学生受入れ数の鈍化,一方での国立大学における受入れ数の着実な伸び,依然として厳しい大都市圏における留学生の住宅事情など,諸情勢に留意しつつ,今後は,既存の学生寄宿舎との関係にも配慮して,留学生との交流を促進する観点から混住方式による整備を図る必要がある。
・留学生の教育等施設は,講義棟などとの複合化による効果的な整備や,既存施設の有効活用により対応を図る必要がある。
・外国人研究者の宿舎は,留学生の宿舎と合わせて国際交流会館として整備が進められている。今後,全体の外国人研究者受入れ数の把握や宿舎の整備目標を策定し,外国人研究者の宿舎の受入れ計画に基づいた整備を図ることが必要である。その際,地域ごとに拠点的な整備を行い共同利用を図っていくことについても検討していく必要がある。


(6)  環境に配慮した施設整備

   環境保全の観点から,施設を永く有効に活用することや,省資源・省エネルギーなど,環境への負荷の低減に配慮した施設整備を推進する。


【課  題】
・地球規模の環境保全意識の高まりを踏まえ,我が国においても「環境基本法の制定」,「環境基本計画」の閣議決定がなされ,国の環境保全に向けた取組の率先実行の一つとして「建築物の建築,管理等に当たっての環境保全への配慮」が挙げられている。文部省においても,「環境を考慮した学校施設(  エコスクール )」に関する調査研究を行うなど,従来から積極的な取組を行っており,国立大学等施設において,環境に配慮した施設整備が求められている。

【方  策】
・新たな施設の整備に伴う資源やエネルギーの消費を低減する観点から,すべての施設を,永く有効に活用していく必要がある。
・様々な廃棄物等の発生の抑制と適切な処理のための管理運営体制の確立とともに,発生した廃棄物等を適切に処理するため,地域の廃棄物処理システム等に十分配慮して施設整備を行う必要がある。
・地域環境の保全と形成の観点から,キャンパス内の生態系保存への配慮,積極的な緑化,地域の景観形成に寄与する計画を行う必要がある。
・省資源・省エネルギーに関する管理運営体制の確立とともに,新エネルギーの利用に配慮した計画や,エネルギーの効率的利用に配慮した施設整備を推進する必要がある。


(7)  地域社会との連携

 地域における国立大学等の役割を踏まえ,国立大学等の地域への貢献を支える施設機能の充実を図るとともに,地域の公共施設と連携し,相互の有効活用を図る。


【課  題】
・所得水準の向上,自由時間の増大,高齢化の進行などの社会の成熟化,科学技術の高度化,情報化・国際化の進展,産業構造の変化などに伴い,社会全体の生涯学習ニーズが高まりつつある。また,各国立大学等は,地域の文化的な中心として,地域コミュニティの一員として,地域に対する幅広い貢献が期待されている。このような地域社会における役割,位置付けを踏まえ,国立大学等施設と地域社会との一層の連携を図っていくことが求められている。

【方  策】
・社会人特別選抜の拡充等による社会人学生の受入れや科目等履修生制度の導入によるパートタイムの学生受入れの促進,夜間大学院の設置等による社会人再教育の推進,高度化,専門化する地域住民の学習ニーズにこたえる公開講座の拡充等に適切に対応し,地域との連携を図るため,地域と密着し,かつ有効利用できるように校舎等の施設機能の充実を図る必要がある。
・国立大学等の図書館,運動施設等が地域の人々が利用しやすいように配慮するとともに,地域の図書館,運動施設,文化施設など公共施設等との連携,相互の有効活用を図る必要がある。
・地域を中心とした民間企業等との研究協力の全学的な推進と流動的な共同研究に機動的な対応ができる施設の充実を図る必要がある。
・国立大学等における地域の中核となる施設については,地震等による大災害に対応した防災機能の充実を図る必要がある。


3.計画的施設整備の推進

  社会の要請の変化など,国立大学等を取り巻く流動的な諸状況にかんがみ,長期的な視点に立ち,重点的かつ計画的な施設整備を推進する必要がある。


(1)  評価に基づく施設整備の推進

 教育研究の活性化を促す観点から,教育研究活動の活性度等の評価方法の改善及びこれを踏まえた評価に基づく重点的な施設整備を推進する。


【課  題】
・これまで国立大学等施設の整備は,原則,平等性に配慮して進められてきたが,教育研究の活性化のためには,将来を見通した重点的かつ計画的な整備が求められている。
・このため,教育研究活動の活性度等の評価方法の改善及びこれを踏まえた評価に基づく重点的な施設整備を推進していくことが求められている。

【方  策】
・大学院施設,大学共同利用機関施設,大学附置研究所施設などの高度な教育研究施設については,教育研究テーマの重要性,投資と期待される成果との関係,科学研究費補助金をはじめとする競争的研究資金の獲得状況との関係,維持管理費の見通しの観点など,現在の教育研究の活性度とともに,整備された施設が効果的に機能し有効に活用されるかなど,様々な観点から検討し,評価に基づく重点的な施設整備を行う必要がある。
・評価に基づく施設整備を行うためには,評価指標を整え,評価を客観的に行う必要がある。  関係各方面での検討状況 との整合を踏まえつつ,具体的な評価方法について,検討していく必要がある。


(2)  施設長期計画に基づく施設整備の推進

 施設整備について学長等のリーダーシップを支援する方策を整備し,全学的見地に立ち,既存施設の自己点検・評価を踏まえ,有効な施設長期計画,施設利用計画を策定する必要がある。


【課  題】
・各国立大学等が個性を発揮し,研究指向,教育指向,地域における生涯学習への寄与など,多様な発展を遂げるためには,各々の目指す将来構想を明確かつ具体的に示すことが求められている。
・各大学等の教育研究内容にふさわしい施設を整備し,ゆとりと潤いのあるキャンパスとするためには,長期的な観点に立って秩序ある施設整備を進める必要がある。このため,各国立大学等は,より有効な  施設長期計画 を策定することが求められている。
・  大学審議会においては ,18歳人口の急減期を迎え,高等教育をめぐる諸情勢が急速に変化し,その方向も明確でない状況下において,高等教育の全体規模の計画的な整備目標を設定することは適当ではないとされている。一方で,大学改革の進展に伴う教育研究組織の激しい変化,学術審議会の建議により指摘された卓越した研究拠点(COE)の形成の必要性,科学研究費補助金をはじめとする競争的研究資金の大幅な拡充などに伴い,急速に変化する様々な施設整備ニーズが生じている。国立大学等施設は,このような複雑な要請を統合することを目標とした計画立案を行うことが求められている。

【方  策】
・組織構想段階から,施設整備計画の一体的な検討を徹底して行うとともに,従来の個別的な対応ではなく,施設のキャパシティを大学等施設全体でとらえ直し,その中で流動的な将来構想との整合を図っていくような工夫が必要である。
・国立大学等の施設の使用者は,安全性の確保に留意しつつ施設の有効かつ効率的な運用に努めることが求められており,教育研究の活性化を促すためにも,施設整備について学長等のリーダーシップを支援する方策を整備し,全学的見地に立ち,有効な施設長期計画,施設利用計画を策定する必要がある。
・施設長期計画は,各大学のビジョンを具現するものであり,既存施設の自己点検・評価を踏まえ,実現性の観点から検討を行う必要がある。
・施設長期計画策定のためには,国立大学等が学内に設置している施設整備計画に関する検討委員会等の一層の活性化を図ることが必要である。さらに,長期にわたる施設のビジョンを効果的,継続的に検討していくためには,専門的に施設整備計画を検討する組織など,施設整備計画推進のための機動的な体制づくりが必要である。
・文部省においては,国立大学等施設全体について,各国立大学等の状況を踏まえ,中長期の整備計画を立案し計画的な整備を推進する必要がある。


4.施設整備財源の充実と多様化

  国立大学等施設の整備充実を図るためには,建物の建設費はもとより,修繕費,維持管理費等の充実と,それらの計画的かつ効果的な執行が不可欠である。
  各大学等が特色ある発展を遂げるために,従来の国費による施設整備に加え,民間資金等の導入など,施設整備財源の多様化を図る必要がある。


(1)  施設整備関係予算の充実

   既存施設を健全に保ち,施設を有効に機能させるため,施設整備関係予算の一層の充実と,計画的かつ効果的な執行を図る。
  文教施策を確実に実現するため,各施策と一体的な施設整備関係予算の確保を図る。


【課  題】
・保有する建物や屋外環境を健全に保つとともに,文教施策を確実に実現させる施設環境を整備するため, 施設整備関係予算 の一層の充実が求められている。
・施設のライフサイクルに対する適切かつ効果的な維持管理が求められている。

【方  策】
・施設を有効に機能させるためには,建物の建設費の充実はもとより,修繕費,維持管理費等の充実が必要である。
・大学改革の進展,大学院組織の拡充,卓越した研究拠点(COE)の形成,科学研究費補助金をはじめとする競争的研究資金の大幅な拡充などに伴い,新たな施設需要が生じているが,各施策を確実に実現させるためには,  これら施策と一体的な施設整備関係予算 の確保を図る必要がある。
・建物の建設,建設後の維持,小規模な補修,大規模な改修,改築等,建物のライフサイクルに対する,計画的かつ効果的な施設整備関係予算の執行を図る必要がある。
・知的基盤としての社会資本整備であるという観点から,国立大学等施設の整備充実に向けて,国民的議論を喚起し,厳しい財政状況下であるが,国の予算全体の中で優先的な投資が必要である。


(2)  民間資金等の導入

 各国立大学等施設の特色ある整備を図るため,国費による施設整備に加え,民間資金等の導入を推進する。


【課  題】
・国立大学等の施設環境は,基本的には国において用意すべきである。一方で,各大学の改革への多様な取組,産学の連携・協力の推進,多様な研究資金の導入など,激しく変化する国立大学等施設を取り巻く状況に弾力的に対応し,各国立大学等が,それぞれ特色ある発展を遂げるためには,従来の施設整備に加え,施設整備財源の多様化と変革が求められている。

【方  策】
・  建物の寄附 については,従来から広く受け入れられているが,教育研究環境の進展と直接結びつくものは必ずしも多くなかった。これからは,寄附による特色ある個性的な教育研究施設づくりの推進が必要である。
・国に対する寄附に関しては,  税制上の優遇措置 もなされているが,受入れ側の意識改革,寄附者への対応の改善,事務処理の簡素化などを図るとともに,教育研究基盤である国立大学等施設への寄附に対する社会全体の意識の醸成に努める必要がある。寄附者の名前を冠する講堂などの寄附建物は,大学の歴史と伝統とともに時代を超えて,寄附者の公共への貢献を伝えるものであり,このような視点を積極的にとらえ,民間資金の導入の活性化を図る工夫が必要である。さらに,大学等の後援会,後援財団などとの連携,経済団体等との連携,大学を特定しない寄附の受付と配分の機能を担う国立学校財務センターの活性化など,一層の工夫,努力を行う必要がある。
・政府が策定した「経済構造の変革と創造のための行動計画」において,「国立大学の施設内に,共同研究開発のための国以外の者による施設の整備を早期に図る」との提言がなされている。この提言については,国立大学運営上の問題,国有財産管理上の問題,建築基準法上の敷地解釈の問題等,種々慎重に検討すべき課題があるが,キャンパスにおける敷地の狭隘状況への配慮,大学の策定した施設長期計画との整合などに留意しつつ,教育研究の活性化を促すという観点から,その実現に向けて検討していく必要がある。
・国立大学等は,地域における文化的な中心であり,生涯学習の観点からの積極的な取組など地域社会に対して大きな貢献をしている。さらに,地域における国立大学等のキャンパスは,貴重な緑豊かなオープンスペースとして景観形成等にも寄与している。このような国立大学等施設の地域に果たしている役割を踏まえれば,地方公共団体等との適切な連携・協力を行い,総合的なキャンパス環境の向上について検討していく必要がある。  地方財政法及び地方財政再建促進特別措置法 についても,国立大学等と地方公共団体の双方に連携・協力の意志があるような場合に弾力的な対応が可能となるよう,検討していく必要がある。


(3)  民間施設等の活用

 施設の効果的整備と運用を図るため,民間施設,リサーチパークの研究施設,他の国立研究機関施設など,外部施設の一層の活用を図る。


【課  題】
・国民の財産として国費で整備すべき施設について見直しを図り,民間等外部施設を有効に活用していく意識が求められている。
・全国各地にリサーチパーク等が整備され,国立大学においても共同研究センターが進出するなど官民の研究機関が集まり,その連携を図る例が見られる。先端的実験研究施設等については,外部の研究機関施設等との有効な連携が求められている。

【方  策】
・先端的な研究実験施設,プロジェクト型研究のためのスペースなど,全国に展開しているリサーチパーク,他の国立研究機関等が有する実験研究施設の一層の活用を図る必要がある。
・奨学寄附金などで行われる,数年間で終了する短期の研究活動など,その目的と必要とされる施設種類に応じて,民間の施設を借りることなどについても,検討する必要がある。



おわりに

  本調査研究において示されたいくつかの提言については,その具体的な推進の方策について,さらに検討を必要とするものがある。

  また,本調査研究の審議期間中において,教育改革,行政改革,財政構造改革等政府の6つの改革が進展し,その取組が進められるなかで,国立大学等を取り巻く状況も大きな変化を迎えている。

  さらに,先に,文部大臣から大学審議会に対し,「21世紀の大学像と今後の改革方策について」諮問がなされ,21世紀の大学像等,施設整備においても一体的に検討すべきテーマについての審議が進められている。また,学術審議会に対しても,近年における学術研究を取り巻く状況の著しい変化を踏まえ,「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」諮問がなされ,研究体制の改善・整備等についても審議が進められている。

  このような諸状況をも踏まえ,国立大学等施設の整備の在り方については,今後も,教育研究との一体性に留意しつつ,不断に検討を進めていく必要があると考える。

  国立大学等施設の整備充実のため,施設整備関係予算の確保と本報告書の方策の実施に向けて,文部省及び国立大学等関係者の不断の努力をお願いしたい。

  なお,21世紀にわたって,我が国がその活力を維持し,豊かな発展を遂げていくためには,高等教育機関全体の果たす役割は極めて重要であり,その基盤となる施設全般の整備充実に向けて,高等教育関係者のみならず各界の尽力,支援を期待したい。




参  考  資  料(目次のみ)

    1  科学技術基本計画(概要)  -抜粋-
    2  大学審議会等における施設に関する主な指摘
    3  老朽狭隘状況の推移
    4  大学・短期大学の規模等の推移
    5  大学院の量的整備に伴う施設需要の試算
    6  文教施設費と各種予算の推移
    7  国立大学留学生宿舎の整備状況
    8  留学生宿舎の整備について
    9  国立学校施設整備費等予算額の推移
  10  国立学校特別会計予算の構成
  11  国立大学等への建物寄附の推移
  12  近年の寄附建物一覧(昭和46年以降)
  13  国に対する寄附に関する税制上の優遇措置
  14  国立学校施設の区分別構成比
  15  我が国と諸外国の大学施設の比較
  
(附属資料)
  ・  今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究について
  ・  協力者会議及びワーキンググループ会議開催経過



【参  考】

協力者名簿

在塚  礼子 埼玉大学教育学部助教授
(主  査)有馬  朗人 理化学研究所理事長
石    弘光 一橋大学経済学部教授
一宮  亮一 新潟大学工学部教授
岸田  省吾 東京大学工学系研究科助教授
(副主査)木村    孟 前東京工業大学長
高野  文雄 前私立学校教職員共済組合常務理事
鳥井  弘之 日本経済新聞社論説委員
長倉  康彦 共立女子大学教授
中塚  勝人 東北大学工学研究科教授
原  禮之助 セイコーインスツルメンツ株式会社相談役
吉田  和男 京都大学経済学研究科教授

[ワーキンググループ]

在塚  礼子 埼玉大学教育学部助教授
岸田  省吾 東京大学工学系研究科助教授
(主  査)長倉  康彦 共立女子大学教授
   (五十音順)


用語の解説

○特別施設整備事業:国立学校施設の老朽化・狭隘化が特に著しく,かつ教育研究がより活発に行われている大学の学部・研究所等の施設について,緊急かつ計画的に改築等の整備を行う事業であり,特別施設整備資金の仕組みを活用し,特定学校財産の売り払い処分収入等を財源としている。

○耐力度点数:国立大学等の既存建物の健全度合いを定期的に調べるため,健全度調査が行われている。耐力度調査は健全度調査を構成する調査の一つであり,構造性能を評価するために行われる。耐力度点数は,耐力度調査に基づき,構造耐力,保存度,外力条件から算出される点数である。

○耐震性能:建物の保有する耐震性能は,耐震診断により指標で表される。耐震診断は健全度調査を構成する調査の一つである。

○ライフサイクルコスト:企画設計費,建設費,運用管理費及び廃棄処分費にわたる建築物の生涯に必要なすべてのコスト。

○キャンパスLAN:学外とのネットワーク接続や,学内において各種コンピュータと研究室等の端末機器とを接続し,音声,文字,数値,画像等多様な情報の全学的な流通の促進を図るキャンパス情報ネットワーク。昭和62年度から計画的な整備が行われており,ほぼすべての国立大学等において整備を終えたが,情報化の進展に伴い,引き続きその高度化が進められている。

○世界的水準の教育研究の推進:大学審議会答申「平成5年度以降の高等教育の計画的整備について(平成3年5月17日)」において,高等教育の質的充実を実現するための基本的方向の一つとして,先進諸国に伍して新たな世界を切り開くとともに世界に積極的に貢献するための世界的水準の教育研究の推進が挙げられている。

○国立大学等施設の水準(国際比較):参考資料15参照。

○大学院増加に伴う施設需要の増加:参考資料5参照

○COE:センター・オブ・エクセレンス。学術審議会建議においては,創造性豊かな世界の最先端の学術研究を推進する卓越した研究拠点と定義されている。中核的研究拠点形成プログラムなど,COEの形成を支援する各種施策が講じられている。大学審議会答申においては,世界的水準の教育研究の拠点の意味でも使われている。

○教員の流動化について:大学審議会答申「大学教員の任期制について(平成8年10月29日)」において,教育研究の活性化を図るため,各大学の判断により任期制を導入し得る「選択的任期制」の導入が提言され,平成9年8月に「大学の教員等の任期に関する法律」が施行された。

○ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー:国立大学の大学院において,ベンチャー・ビジネスの萌芽ともなるべき創造的な研究開発を推進するとともに研究の専門的能力をもつ創造的人材を育成することを目的とする施策に対応した施設。

○拠点化:個別的,総花的な整備ではなく,集中的に整備を図り,同一の機能または類似する機能を集約化することにより,施設全体として機能向上と効率的運用を図ること。

○コモンスペース:共同研究等に関連する人・情報・物の流れが集約される共有の場。内外の研究者等がこの場を共有することにより,研究者間の交流を深め,研究情報の収集や事務サービスの享受など多面的な役割を果たすことができるスペース。

○留学生受入れ10万人計画:文部省において,昭和58年及び59年に取りまとめられた有識者による二つの提言等に基づき,21世紀初頭における10万人の留学生受入れを目途に,体系的な留学生受入れのため総合的に推進している施策。

○目標戸数7,000戸:昭和59年6月「21世紀への留学生政策の展開について」で示された留学生のための宿舎についての計画では,下宿・アパートで6割,民間等留学生宿舎で2割,大学附置の留学生宿舎及び一般学生寮で2割を確保することとされており,国立大学における留学生受入目標35,000人を勘案し,7,000戸が国立大学における整備目標とされている。参考資料7,8参照。

○エコスクール:上述の調査研究において「環境を考慮して設計・建設され,環境を考慮して運営され,環境教育にも活かせるような学校施設」として定義されている。

○関係各方面での検討:学術審議会においては,平成8年12月「学術研究における評価の在り方について(建議)」が,科学技術会議においては,平成9年7月「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」が取りまとめられている。

○施設長期計画:各国立大学等は,将来構想を想定し得る範囲において,段階的な整備を進めるための方向を示す,長期の見通しに立った施設計画「施設長期計画」を策定する必要がある。従来から,国立大学の長が施設長期計画を策定することとされている。

○大学審議会において:大学審議会答申「平成5年度以降の高等教育の計画的整備について(平成3年5月17日)」,「平成12年度以降の高等教育の将来構想について(平成9年1月29日)」において,高等教育の規模について,計画的な整備目標を設定するのではなく,想定し得る複数の規模の想定や試算が示されている。

○施設整備関係予算:建物の新営,大規模な改修を行うための経費である文教施設整備費のほかに,一定額以下の小規模な新営,改修のための各所新営経費,保有する建物の面積及び経過年数を基に算出される経常的修繕のための経費などがある。

○各施策と文教施設整備費:参考資料6参照。

○寄附建物:参考資料11,12参照。

○税制上の優遇措置:参考資料13参照。

○地方財政法及び地方財政再建促進特別措置法:地方財政法第4条の5において「国は地方公共団体に対し,寄附金を割り当てて強制的に徴収するようなことはしてはならない」とされ,地方財政再建促進特別措置法第24条において「地方公共団体は,当分の間,国に対し,寄附金等を支出してはならない」とされている。