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第1章 国立大学等施設の整備状況



 国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、「国立大学等」という。)の今後の施設整備の在り方を検討するにあたり、平成13年度から実施してきた国立大学等施設緊急整備5か年計画に基づく整備について検証し、その結果を踏まえるとともに、施設の現状を把握しておく必要がある。

1.   国立大学等施設緊急整備5か年計画の検証
   文部科学省では、第2期科学技術基本計画の策定を受け、全体の整備需要(約1,100万平方メートル)のうち5年間で緊急に整備すべき施設(約600万平方メートル)を盛り込んだ「国立大学等施設緊急整備5か年計画」(以下、「現行5か年計画」という。)を平成13年4月に策定し、重点的・計画的整備を実施してきた。
 以下にその実施状況及び成果について示す。

(1) 重点的整備
 
1 「優先的目標」
   現行5か年計画の重点的整備の優先的目標として、1)「大学院拡充等に伴う大学院施設の狭隘解消等(約120万平方メートル)」、2)「卓越した研究拠点等(約40万平方メートル)」、3)「先端医療に対応した大学附属病院(約50万平方メートル)」の併せて約210万平方メートルの整備を掲げた。
(優先的目標の実施状況)図12参照)
  1 「大学院拡充等に伴う大学院施設の狭隘解消等」(図2参照)
   平成3年度から実施された大学院組織の拡充に伴い、著しく狭隘化の進行した大学院について約75万平方メートルの施設を整備し、整備が進められた大学院においては、概ね平成3年度当時の水準まで狭隘状況を解消した(図3参照)。併せて、施設の老朽・狭隘化を解消する新敷地への移転統合整備の推進について、約46万平方メートルを整備した。
2 「卓越した研究拠点等」(図24参照)
   第2期科学技術基本計画において重点分野とされた、研究に係る施設を中心とした世界水準の研究を遂行するための施設として約24万平方メートルを整備するとともに、産学連携を推進する共同研究施設、起業化までの実用的実験を行うインキュベーション施設など約10万平方メートルを整備した。
3 「先端医療に対応した大学附属病院」
   施設の老朽化や機能劣化が進み、近年の医学の進歩に伴う医療の専門化・高度化への対応が困難となっていることから、約57万平方メートルについて計画的に整備を進めている。
(優先的目標の成果)
 全般的に教育研究環境が充実したことにより、当初計画していた教育研究活動が展開され、教育研究の内容、方法の向上や利用者の意欲等に関して、一定の効果を上げている。
 具体的には、1)大学院施設の整備においては、「先端技術を取得した人材の養成」「研究意欲の向上」「少人数教育の実施等きめの細かい指導が可能になったこと」等が効果としてあげられている。2)卓越した研究拠点の整備では、スペースの問題が改善したほか、具体の成果として「新技術等の開発・製品化・特許等の申請」「共同研究や連携などによる研究意欲の向上」等があげられている(以上、図5参照)。3)大学附属病院の整備では、「救急手術の比率が増加し、特定機能病院として高度先進医療が常時行われるようになった」「1病床当たりのスペースの拡大や、トイレ等の環境向上を図ったことによる入院環境の改善」等があげられている。
(今後の課題)
 優先的目標については、概ね目標達成の見込みとなっているが、平成13年度以降も大学院の拡充が進んでいることや新敷地への移転整備、病院再開発整備など年次計画による施設整備への対応が今後の課題である。
2 「老朽化した施設の改善整備」(以下、「老朽改善整備」という。)
   現行5か年計画では重点整備目標として、昭和45年以前の施設のうち、耐震性能が著しく劣るものや、教育研究の活性度が高く、施設整備によりその一層の充実が期待できるものを中心として「老朽化した施設の改善整備(約390万平方メートル)」を掲げた。
(老朽改善整備の実施状況)図12参照)
 約184万平方メートルの老朽改善整備を行った。また、老朽改善整備を実施するに当たり、効率的かつ効果的な整備とするため約25万平方メートルの狭隘解消整備(新増築整備)を行った。
(老朽改善整備の成果)図5参照)
 老朽改善整備においても、大学院施設や卓越した研究拠点同様、「優秀な人材輩出」「研究意欲の向上」等が効果としてあげられている。また、改修事業は面積の増えない事業にもかかわらず、半数以上の事業において「スペースの問題が改善」が効果としてあげられており、整備に伴う使用面積配分の見直し等、スペースの効率的利用が進んでいることがうかがえる。
(今後の課題)
 老朽改善整備により一定の成果はあがっているものの、整備目標に対しては5割程度の達成であり、計画策定時に対象外となった老朽施設(昭和46年〜昭和50年)やその後の経年等による老朽改善需要(昭和51年〜昭和55年までの約300万平方メートルの新規需要)の増大が加わり、老朽改善整備は今後の大きな課題となっている。

(2) システム改革
 
1 「施設の有効活用」
   現行5か年計画では、施設の有効活用を図る具体的実施方針として、大学改革と一体となった施設の効率的・弾力的利用を目指したシステム改革を掲げた。
(施設の有効活用の実施状況)
 平成13年度以降、各国立大学等において全学的な視点に立った施設管理運営システムの構築に向けて、積極的な取組がなされている。
(施設の有効活用の成果)図678参照)
 施設の有効活用に対する取組として、以下に示すように現行5か年計画策定時と比べると、各取組が大幅に進められている。
  施設の有効活用に関する学内規定の整備   11パーセント(平成12年)   から   94パーセント(平成17年)
施設の利用状況調査の実施(実施中含む) 70パーセント(平成12年) から 100パーセント(平成17年)
使用面積の再配分の実施 22パーセント(平成12年) から 91パーセント(平成17年)
共同利用スペースの確保 20パーセント(平成12年) から 91パーセント(平成17年)
不用機器、文献資料等の廃棄、再配置等 12パーセント(平成12年) から 90パーセント(平成17年)
 また、現行5か年計画において、重点的整備と併せて行ったシステム改革の一つとして掲げている「共同利用スペースの確保」の状況については、多くの国立大学等で総合研究棟が整備されたことにより、整備面積の約33パーセントが共同利用スペースとして確保されている。また、面積増を伴わない改修事業においても、システム改革の取組として、約25パーセントのスペースを確保している。これらのスペースは、競争的資金等によるプロジェクト研究などに弾力的・流動的に利用され、教育研究の進展に大きな効果がみられるとともに、狭隘解消にも一定の効果が見られる。
 さらに、面積基準については、従来、学部毎(組織毎)、団地毎に設定していたが、国立大学法人化を契機に、大綱化・弾力化し、大学全体で設定することとした。これにより、各国立大学等において、大学全体での狭隘化の状況の的確な把握や、全学的視点に立った戦略的・重点的整備が可能となり、学部、団地等に偏在していた狭隘面積の解消が図られることとなった。
(今後の課題)
 以上のように、ほとんどの国立大学等において、施設の有効活用に関する多様な取組に着手しており、今後も国は、より一層の効果を発揮するために更なる取組を支援する必要がある。
2 「新たな整備手法」
   従来から国費のほか長期借入金や土地処分収入により施設整備を実施してきたが、さらに現行5か年計画において、多様な整備手法の導入を図ることを具体的実施方針として掲げた。
(新たな整備手法の実施状況)
 国立大学等は寄附等の自己収入の活用による整備をはじめとして、産業界・地方公共団体との協力など新たな整備手法による整備に積極的に取り組んでいる。
(新たな整備手法の成果)図9参照)
 その具体的な状況は、現行5か年計画期間中において、国のPFI事業の約半数が国立大学等において実施されており、寄附についても第1期科学技術基本計画期間中に比べて約4倍増となっている。また、地方財政再建促進特別措置法施行令の改正を受け、地方公共団体との連携(地域産業の振興のための共同研究の場が無償貸与になるなど)も進んでいる。
(今後の課題)
 今後も国は、国立大学等へこのような取組を支援するための条件整備や情報提供などを積極的に行う必要がある。

(3) その他、施設整備が研究活動に与えた影響
   科学技術政策研究所が実施した「基本計画の達成効果の評価のための調査(平成17年3月)」によると、高被引用度論文(平成13年)の研究活動に影響を与えた研究環境において、好ましい影響を与えた研究環境の要素として、「政府の競争的研究資金の量(42パーセント)」に次いで「研究施設・設備の充実(28パーセント)」が挙げられている。
 また、障害・制約となった研究環境の要素としては、「研究時間(37パーセント)」に次いで「研究スペース(23パーセント)」との回答となっている。このことからも、施設が研究環境に与える影響が大きいことがわかる。

2.   国立大学等施設の現状
   前述の「1.国立大学等施設緊急整備5か年計画の検証」に示したとおり、国立大学等施設は、現行5か年計画に基づく重点的整備とシステム改革の進展により、教育研究の展開に一定の効果を与えてきており、その成果を踏まえた、国立大学等施設の現状を以下に示す。

(1) 施設の狭隘化の状況
   施設の老朽・狭隘問題のうち狭隘化については、その整備需要が約500万平方メートル(平成12年度末)から約300万平方メートル(平成17年度末)に低減され、現行5か年計画の課題については対応が図られてきたが、平成13年度以降新たに整備された大学院等の需要への対応が課題として残されている。さらに、競争的資金の増額に伴う実験機器や研究者、支援者等の増大などプロジェクト的な研究に機動的に対応するための施設整備や弾力的な施設運営が求められている。

(2) 施設の老朽化の状況
   老朽化の改善に係る現行5か年計画の達成状況は、目標の約半分にとどまっており、過去5年間の経年により新たな老朽化が進行し、平成17年度末における老朽施設の改善需要は約600万平方メートル(平成12年度末)から約700万平方メートル(平成17年度末)に増大することが見込まれている(図10)。
 施設の老朽化は、施設を利用する教員・学生等の教育研究及び生活空間としての安全性の問題や教育研究活動への支障を有しており、その改善は不可欠である。具体的には以下の問題が生じている。
1 安全性の問題
 
  1 老朽施設のほとんどは旧耐震基準(注1)の設計であり、耐震性など構造上の問題を有している施設が多いことから、教員や学生の安全確保、地域の応急避難場所としての機能確保、これまで蓄積されてきた知的財産確保の観点からも問題がある。
注1    旧耐震基準・・・現行の耐震設計基準以前の設計基準であり、現行の耐震設計基準は、昭和53年の宮城沖地震後の抜本的見直しを受けて、昭和56年に大改正されたものである。
2 電気、給排水等エネルギー供給機能の劣化に伴う安全性の問題が懸念されている。
  1 安全性の問題
旧耐震基準により設計された校舎が、新潟県中越地震により被災。
 

2 機能上の問題
 
  1 電気や給排水など基盤的供給設備の容量不足、不備により、実験機器の増設に対応できていない。
2 情報設備が不十分で高度化が求められる教育が実施できない。
3 防音、防振、防磁、換気などの不備や配管の腐食による水質の問題から、実験研究の進捗に影響を及ぼすほか、実験の測定結果の精度に影響を及ぼしている。
4 教育研究の高度化に伴い、研究室や実験室等の利用方法が整備当初から大きく変化し、その空間構成が機能的・効率的となっていない。
  2 機能上の問題
研究室の利用方法が整備当初から大きく変化し、その空間構成が機能的・効率的となっていない。
 

3 経営上の問題
 
  1 設備の機能劣化に伴いエネルギー消費が著しく非効率な状況が生じている。
2 魅力的な研究環境となっていないことから、世界一線級の研究者や優秀な人材が世界に流出してしまう。
  2 機能上の問題
電気や給排水など基盤的供給設備の容量不足、不備により、実験機器の増設に対応できていない。
  国立大学等における主な基幹設備の老朽化の状況
3 経営上の問題
設備の機能劣化が進んでおり、非効率なエネルギー消費等の問題が生じている。

 以上のように、施設の老朽化により、現有の機能と国立大学等の使命を十分に遂行するために必要となる機能との間に、未だ大きな乖離があるといわざるを得ない。そして、これらの施設の状況は、日常の維持管理や部分的な機能回復による対応の域を超えており、抜本的な取組を行う必要がある。
 また、施設の老朽化は、教育研究の進展による機能の陳腐化などにより確実に進行することから、教育研究環境の悪化を避けるためにも緊急に対応する必要がある。

(3) 施設整備費の状況
   国立大学等施設が以上のような状況にある中、施設整備の財政状況は、国の予算において公共投資関係経費に位置付けられていることもあり、極めて厳しい状況におかれている。少なくとも、毎年、保有施設の減価償却相当額分の資本の価値が減少していくことを踏まえ、継続的な投資が必要である。
 今後策定される平成18年度以降の新たな整備計画を着実に推進するためには、より効率的な施設整備を図ることはもとより、計画達成に必要な一定規模の施設整備予算の確保が重要な課題である。

(4) 諸外国の状況
   我が国の国内総生産(GDP)に対する高等教育への公費支出割合(0.4パーセント)は、OECD各国平均(1.1パーセント)の1/2以下である。また、国立大学等の平成17年度予算における資本的投資(施設設備等に対する投資)比率についても、各国平均の1/2以下であり、特にアジア各国よりも低い割合となっている。世界最高水準を目指す我が国の投資規模としては、少なくともOECD諸国平均レベルの資本的投資は必要不可欠である(図11)。
 また、英国では、1997年(平成9年)、デアリング報告(注2)において、「高等教育機関における学生一人当たりの公的資金が1976年から40パーセント以上減少した」(注3)そして「財政逼迫により、高等教育機関は施設や設備、維持管理への資本投資を先延ばしすることを強いられ、結果として教育研究基盤に障害を生じた。そして最近の資本投資に対する公的支援の急激な削減が状況をさらに悪化させる」(注4)との指摘がなされている。さらにこの報告では、20年後の高等教育の発展のために多額の追加資金が必要な要素のひとつとして建物の改修と陳腐化した設備の更新をあげており(注5)、この報告等を踏まえ、1999年(平成11年)から大学の基盤整備の支援を目的とした基金が設立され、老朽施設の改善のための多大な投資を余儀なくされている(図12)。
注2    デアリング報告(通称)…"Higher education in the learning society", National Committee of Inquiry into Higher Education,1997年7月23日
注3  "public funding per student in higher education institutions has fallen by more than 40 per cent since 1976", Chapter 3 Higher education today, paragraph 3.95,デアリング報告
注4  "with financial pressures, institutions have been forced to defer capital investment in equipment and buildings and meintenance, with consequent damage to the infrastructure, and (that) recent sharp cuts in public support for capital investment will make the position worse." Chapter 3 Higher education today, paragraph 3.101,デアリング報告
注5  "In our analysis of how the system of higher education might develop over the next 20 years we have identified six main elements which will give rise to a requirement for significant additional funding. These elements are:(中略)
・refurbishment of the estate and replacement of obsolete equipment (partivularly in the light of developments in the communications and information technology field)
; (以下略)"
Chapter 17 The funding requirement, paragraph 17.30,デアリング報告


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