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第4章   施設マネジメントの実施方策


   設定した施設水準を達成するためには,個々の国立大学の実状に配慮しつつ,施設マネジメントの実施方針を策定し,総合的かつ計画的に施設マネジメントを実施することが重要である。

    施設マネジメントの実施方針等の策定
  1)    施設マネジメントの実施方針の策定
   教育研究活動に必要な施設の提供という視点から,個々の大学の実状に即して施設マネジメントを実施する上で必要となる実施方針をトップマネジメントとして策定する必要がある。この実施方針は,現状把握に基づく施設の課題に対し,教育研究活動の展開との整合を図りつつ,的確な優先順位,目標に対する時間軸,実施範囲などを明示することにより,施設マネジメントの方向性を定めるものである。

  2)    施設マネジメントにおける施設管理計画の作成
   目標として設定した施設水準を確保するためには,施設マネジメントの実施方針に基づき,施設運用計画及び施設修繕計画から構成される実効性のある施設管理計画を作成する必要がある。なお,施設管理計画には実施に必要な概略の経費を明示することが重要である。
1施設運用計画
   今後の教育研究活動の展開と施設に対するニーズへ対応するためには,施設の新設,既存施設の再配分や使い方,経費などに関する中期的な運用計画を作成することが重要である。
2施設修繕計画
   既存施設を良好な教育研究環境として維持し,質の向上を図るためには,施設・設備の耐用年数やコスト等を考慮した上で,中長期にわたる改修・修繕に関する年次計画を作成することが重要である。※14この計画の作成によって,施設の修繕・改修等の業務が特定の年度に集中しないようにすることが可能となる。なお,大規模改修等については施設整備計画に反映することが必要である。

  施設マネジメントの推進に係る実施方策
  1)    施設マネジメントの実施体制等の確立
   施設マネジメントを確実に実施するためには,先に述べたようにトップマネジメントによる全学的な実施体制の構築が不可欠である。加えて,施設マネジメントの実施方針を踏まえ,学内の既存施設や屋外環境について,適切に現状を把握しつつ適時適切な改修・修繕等の実施を可能とする実務的な体制づくりも重要である。
   教育研究環境の構築においては,実験装置,実験材料及び備品等の管理担当者,施設管理担当者及び施設整備担当者等の連携強化を図るなど,施設利用者の要望に適切に対応できるシステムづくりが必要である。
   なお,実験室等において使用する化学物質や高圧ガス等の管理及び実験廃棄物の管理などを適切に行うため,必要な有資格者を配置するとともに,化学物質等の管理方針や実験室の運用方針など安全衛生管理体制を構築する必要がある。

  2)    施設に係る情報管理
   施設マネジメントを効果的かつ効率的に行う上で,土地・建物に関する基礎的な情報の他に,各建物の改修・修繕の履歴,用途毎の面積と稼働状況,実験機器及び備品等並びに施設に係るコストなどについて,一元的に管理できる情報管理システムの構築が有効である。
   また,施設利用者へのサービスの一環として,教育・学習関係スペースや課外活動スペースの広さ,機能及び使用状況等を速やかに施設利用者に提供でき,利用予約等が可能な学内の情報システムを構築することも重要である。

  3)    施設利用者の啓発
   大学の資産である施設を利用するに当たっては,整理整頓※15に努めることや,施設の丁寧な利用等について,学生や教職員の理解と協力を得ることが重要である。なお,研究者が退去する際に研究スペースの原状復旧を行うことを貸与条件とすることなども有効である。

  4)    施設水準を確保するための規程の整備
   目標とする施設水準を確保していくために施設の整備方針や運用方針に関する学内規程を設け,学内に周知することが重要である。その際,歴史的建物など大学として保存する部分と教育研究活動の変化に対応させる部分を区分することの規程や,建物の壁面線や高さの制限及び緑化の考え方などを内容とするキャンパス全体の環境を維持することの規程の整備も有効である。
   また,機動的かつ柔軟にスペース配分を行うため,共用スペースを含めた施設の配分方法等に関する規程を設けることも重要である。

  5)    管理運営コスト等の情報公開
   施設の管理運営に係るコストの内容や支出額について,共通認識とするために学内に周知するとともに,国民への説明責任を考慮し,教育・研究の成果とともに積極的な情報公開を行うことが重要である。
   また,光熱水費に関して,学部学科単位あるいは施設利用者毎に使用料金を学内で公表し,省エネルギーについて理解と協力を得ることも有効である。

  クオリティマネジメントの実施方策
  1)    クオリティマネジメントに関する考え方
   施設の質を維持・向上するため,教育研究機能や建物の長寿命化に配慮しつつ,適切な優先順位を付して維持管理及び改修を行うことが重要である。

  2)    クオリティマネジメントに関する具体的方策
1施設の機能の維持・向上
   研究スペースにあっては,研究室の機能に配慮しつつ,情報化に対応する柔軟性の向上のための二重床の設置など,高機能化を進めることは重要である。また,プロジェクト研究など時限的なものに対応する施設にあっては,研究終了後に解体・移設したり,改修・改造することを前提とした構工法※16等を検討することは有効である。
   大学キャンパスのユニバーサルデザインを目的として,障害者用のエレベーターやトイレの設置,段差の解消などとともに,留学生に配慮した建物案内図等のサインの設置,男女の便所の数及び配置の検討も重要である。
2安全の確保
   建物の耐震性等の確保はもとより,施設内外の危険箇所の解消,設備や実験機器及び薬品棚等の耐震措置などの安全対策を講じるとともに,非常用電源の確保などの事後の対応策を講じることが必要である。
   実験室については,使用する化学物質に適合する安全衛生対策について確認する必要がある。また,設置されている特殊ガスボンベの容量を確認するとともに,適切な場所に設置するなどの安全対策を講じる必要がある。その際,使用する化学物質や実験材料等の購入・保管から廃棄までの流れを見据えて,実験機材室などの管理諸室や対応する設備の充実を図ることが大切である。さらに,学生等の施設利用者に対し,措置された安全対策を理解するための適切な安全教育が重要である。
   夜間使用等の施設使用状況に応じて,鍵の管理,屋外の夜間照明や防犯カメラの設置など防犯対策を適切に講じることが必要である。
3環境への配慮
   エネルギーの効率的使用を図るとともに,省エネルギー機器の採用など大学の規模に応じてエネルギー使用の合理化※17を技術的観点から検討し,省エネルギーに対する取り組みを行うことが必要である。また,施設の管理運営に当たっては,環境物品等の調達を推進することが重要である。

  スペースマネジメントの実施方策
  1)    スペースマネジメントに関する考え方
   必要とするスペースを適切に配分するためには,教職員や学生のスペース占有意識を排除し,限りある資源の配分に係る調整と意志決定をトップマネジメントとして行う必要がある。

  2)    スペースマネジメントに関する具体的方策
1施設の確保
   施設を確保する上で,同種の用途の室や同様の機能を有する室の集約化を検討することは有効である。例えば,化学物質や実験廃棄物の厳重な管理を必要とする実験室を集約化したり,廃ガス処理装置や実験排水処理設備等の特殊な機能を必要とする実験室を集約化することなどが考えられる。
   また,キャンパスの快適性の向上や施設利用者の利便性を考慮し,例えば,総合研究棟や図書館等に福利厚生施設を併設した複合施設を計画することも有効である。
   研究活動の変化に速やかに対応するためには,研究内容等を特定しないスペースをオープンスペースとして確保することも重要である。この際,全ての研究に対応できる機能を確保しようとすると,コストがかさむことにもなるため,各大学の研究活動に応じて,使用する分野を絞ることの検討も必要となる。
   なお,階高の低い既存施設に実験室等を設ける場合,設備スペースは実験室の横や屋外に配置するなど,必要とする実験スペースを制約しないよう所要面積の検討が必要である。
2施設の運用
   全学的に施設を管理し,教育研究活動に対応して適時適切にスペースを配分するため,先に述べたような学内の情報システムを活用することは有効である。また,例えば,実験装置や書籍類の集約化等について検討するとともに,不用となった機器等の転用・処分や,当面使用しない機器等の倉庫での保管を検討することも有効である。
   また,研究者や大学院学生等の施設の利用状況に応じて,使用する机を特定せずに共用して利用する方法(フリーアドレス制)を検討することもスペース利用の効率化には有効である。
3学外施設の活用
   時限付きの研究など使用期間が限られた活動のための施設や学外に向けて行う活動のための施設については,必要に応じて学外の施設の活用を検討することも有効である。また,福利厚生施設等については,コスト等の観点から立地状況等に応じて,大学が全てを所有するのではなく,学外施設の活用を検討することも有効である。

  コストマネジメントの実施方策
  1)    コストマネジメントに関する考え方
   維持管理及び改修に当たっては,管理運営コストを考慮し,最少投入費用で最大効果を目指すことが重要である。そのためには,目標とする施設水準を実現するために必要な経費を運営費交付金やその他の資金から適切に確保するとともに,施設マネジメントを適切に実施することが必要である。なお,設計,施工,工事監理,点検保守,運転など施設に係る業務については,業務内容や業務量等を勘案し,外部委託の範囲を検討するとともに,委託する内容に応じた適切な委託料を設定することが重要である。

  2)    コストマネジメントに関する具体的方策
1運営費交付金の学内配分
   国立大学法人は,使途を特定されない渡し切りの経費となる運営費交付金の学内配分において,施設管理に必要となる経費を包括的に確保するとともに,一元的に管理・配分することが重要である。また,施設の修繕費にあっては,プリメンテナンスの確実な実施という視点から,要修繕箇所を増やさないよう適切な費用を確保する必要がある。
2多様な財源の活用
   競争的資金の間接経費※18などの運営費交付金以外の財源においても,施設の改善等への充当を検討することが重要である。その際,外部資金による委託研究については,委託研究費によるスペースの確保(施設の改修や臨時施設の整備,学外施設の活用等)とともに,光熱水費及び維持管理費を賄うことなどについての検討が必要である。なお,光熱水費等を外部資金で負担する場合に対応できるよう計量器等の設置も有効である。
   また,教職員・学生や外来者の駐車スペースの整備や維持管理については,必要な経費を当該利用者が負担するなどの検討も有効である。
3適切な施設規模等の設定
   施設管理計画や管理運営コストを勘案し,長期的に使用する建物について,適切に改修を実施しつつ,適宜コスト比較の上,取り壊しを含めた検討を行うことも必要である。また,施設を新増築すると管理運営コストが増大することに十分留意し,適切な維持管理費や運営費を負担できるよう施設整備に当たっては,規模やグレード等の検討に併せて,管理運営に必要な財源の確保を検討しておくことが重要である。さらに,施設のグレードが過大となったり,非効率なスペースが生じないように,費用対効果の観点から,施設の建設及び維持管理に係るコストの分析が必要である。
4多様なコスト縮減の方策
   施設管理を効率的に行うために,必要に応じて業務の外部委託を検討することも有効である。特に,既存施設の省エネルギー対策については,省エネルギーによる経費節減分で省エネルギー対策費を賄う方式の契約※19の導入を検討することも有効である。
   教職員や学生,外来者のための駐車場における独立採算型のPFIの導入や,食堂等の福利施設の運営を外部委託する場合における施設整備も含めた委託など,民間資金による整備の可能性について検討することも有効である。また,学内の緑地等の管理においては,シルバー人材センターなど周辺地域の人々の協力を得ることも,地域との共生やコストの面から有効である。
   施設の点検保守,清掃及び警備等の外部委託について,国立大学法人の会計基準を踏まえた上で,効率化の観点から,複数年契約や随意契約の在り方を検討することが重要である。

  施設マネジメントに関する自己評価
   国立大学は,施設マネジメントの目標の達成状況等に関し,自己点検評価を行う必要がある。なお,施設マネジメントの実施効果を確認するため,施設利用者に対し満足度等に関する調査等を行うことも有効である。

  国による施設マネジメントの実施に係る支援等
   国は,国立大学が施設マネジメントを適切に実施することができるよう,施設運用計画や施設修繕計画の作成に係る基礎的な情報の提供を行うことが必要である。
   また,国は,今後の国立大学の施設整備の基本的財源である施設費の配分に当たり,施設運用計画や施設修繕計画等の作成と実施など施設マネジメントの実施状況を考慮することが重要である。



※14    改修・修繕に関する年次計画:マンション管理に関しては,「マンション管理の適正化の推進に関する法律」における「マンション管理の適正化に関する指針」において,経年による劣化に対応するための長期修繕計画の策定及び必要な修繕積立金の積み立てが規定されている。
※15    整理整頓:民間企業等においては,経営の基盤づくりのため,整理,整頓,清掃,清潔,しつけ(5S)について,組織的な活動が推進されている。
※16    構工法:構法と工法の総称。構法とは,建築の実体の構成方法をいい,工法とは,建物の組み立て方,造り方,施工の方法をいう。
※17    エネルギー使用の合理化:エネルギーの使用状況を把握した上で,運用上の改善を図るとともに,例えば,高効率蛍光灯器具への更新,人検知センサーによる照明制御,ポンプ・ファンの能力制御等を行うなど,省エネルギー対策を実施すること。
※18    競争的資金の間接経費:「競争的資金の間接経費の執行に係る共通指針」(平成13年4月20日競争的資金に関する関係府省連絡会申し合わせ)において,間接経費は,競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上に活用するために必要となる経費に充当することとされている。
※19    省エネルギー対策費を賄う契約:例えば,ESCO事業者(Energy service Commpany)との節減額分与契約(シェアード・セービング方式)。この契約では,工場やビル等に対して,1診断・コンサルティング,2計画立案・設計施工・施工管理,3省エネルギー効果の計測・検討,4事業資金の調達・ファイナンス,という包括的なサービスを提供し,それによって得られる省エネルギー効果を保証し,サービスの報酬は,削減されたエネルギー費用の一部から受け取る。

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