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第3章   施設マネジメントの目標としての施設水準


   国立大学は,適切な大学運営を行いつつ,充実した教育研究環境を確保するため,教育研究活動等の現状と展開を踏まえ,施設マネジメントの目標としての施設水準を主体的に設定する必要がある。
   国は,国立大学が適切な施設水準を設定できるよう基礎的な情報を提供することが必要である。

    個々の大学の教育研究活動に対応した施設水準
   国立大学は,今後の教育研究の動向を踏まえ,経営面から費用対効果などを十分に検討した上で,教育研究活動に対応できるよう施設水準を設定することが必要である。
   このためには,施設に係る取り組むべき課題に対し,教育研究活動状況,施設に係る与条件及び利用者の要望等を踏まえて明確な目標を設定することが重要である。その際,クオリティマネジメント,スペースマネジメント及びコストマネジメントの観点から総合的に判断し,目標とする施設水準を定めることが必要である。

  クオリティマネジメントの目標設定の考え方
  1)    教育・学習施設としての機能の確保
   教育・学習施設については,教育内容や教育方法に応じた機能を確保するとともに,変化に対応するために必要な機能をどの程度確保するかを検討することが重要である。例えば,利用目的に応じて双方向利用ができる視聴覚設備など情報機能等の充実,学生が主体的に行う学習や討論,制作・創作等の多様な活動を支援するための機能※10などが考えられる。

  2)    研究施設としての機能の確保
   研究施設については,利用者の利便性,実験材料や機材等の搬出入,情報環境及びエネルギー供給等の観点から,研究内容に応じた適切な機能を確保することが重要である。
   研究内容の変化に対応するためには,例えば,機材の入替えを容易にする動線等を確保することや,電気設備,情報通信設備及び給排水設備等における変化を見据えた柔軟性や拡張性について,基本的な考え方を設定することなどが考えられる。
   外部の研究者や異分野の研究者の討論や交流活動等を推進するためには,情報機能の充実など施設の高機能化を検討することも重要である。

  3)    生活機能の向上
   大学施設は,教育研究活動を支えるだけでなく,学生や教職員等施設利用者の活動を支援しており,これら施設利用者の要望を踏まえた機能を確保することが重要である。特に,障害者,外国人研究者や留学生,社会人学生など広範な年齢層の施設利用及び男女共同参画の観点からの配慮が必要である。これらについて,大学キャンパスのユニバーサルデザイン※11の一つとして,計画的かつ段階的に導入する目標を定める必要がある。
   大学の諸活動等を充実するためには,生活等に係る機能の向上を図ることが必要である。例えば,学生が通常使用する食堂等のほかに,招へいした外国人研究者との交流の場※12など用途に応じた機能を設定することなどが考えられる。
   キャンパスの利便性や快適性を向上させるため,適切な緑地・広場や適正な規模の駐車場・駐輪場の確保など屋外環境に関する機能について検討する必要がある。

  4)    安全の確保
   大学としての安全管理の方針と整合のとれた施設の機能を確保する必要がある。特に,実験室にあっては,その運用方針や化学物質の管理体制と整合した機能を確保する必要がある。
   外壁の落下や薬品棚の転倒などの施設に起因する事故を未然に防止するための安全対策が必要である
   地震等の災害や停電及び断水などにおいて,学生や教職員に対する安全性に係る事前対策及び事後の対応に関する考え方を明確にしておく必要がある。
   危険物や化学物質の盗難及び研究情報の漏洩等を防ぐため,研究エリアには適切な防犯対策を施すとともに,場所や内容に応じて段階的な防犯機能を設定する必要がある。なお,学生や教職員の安全を確保するため,夜間の施設利用等における防犯対策も重要である。

  5)    環境への配慮
   国立大学は,公的機関として環境保全の観点から施設の管理運営において,廃棄物の管理及び環境への負荷の低減に係る目標を定め持続的改善に取り組むことが重要である。例えば,環境マネジメント(ISO14001)※13認証取得や消費エネルギー削減,再生資源の活用などに関する目標の設定が考えられる。

  スペースマネジメントの目標設定の考え方
  1)    教育・学習のためのスペースの確保・活用
   教育関係施設は,少人数教育や一斉授業など利用人数や利用形態に応じて柔軟かつ全学的に運用し稼働率の向上を図り,空いた講義室等を新たな教育活動に活用するなどスペースの有効活用を図ることが重要である。
   学生の自主的な学習等の諸活動に活用するためには,講義室等の空き時間や夜間の活用など施設の多様な運用方法の検討も重要である。

  2)    研究のためのスペースの確保・活用
   研究内容の変化に速やかに対応するため,学部等の枠を超えて利用できる共用スペースを確保することが重要であり,共用スペースとその他のスペースとの構成比率等を検討することも有効である。
   施設の有効活用や安全性の観点から,研究活動の内容に応じて,研究スペースの共同利用を図るとともに,同種の実験室の集約化等を検討することも重要である。

  3)    生活の場のためのスペースの確保・活用
   既存施設の再配分に当たっては,キャンパスに長時間滞在する学生や教職員の生活を支援するためのスペースを考慮することが重要である。例えば,学生食堂のスペース,休憩・リフレッシュスペース,談話・交流スペース,課外活動施設等について,利用状況に応じたスペースの確保・活用に関する検討を行うことが望ましい。

  コストマネジメントの目標設定の考え方
   施設の新増築等を行う場合に係るコスト,既存施設の要修繕箇所の解消に係るコストの目標を設定する必要がある。
   建物の用途毎に維持管理等に係るコストの目標を設定する必要がある。その際,中長期的な観点から,建物の使用期間に配慮し,特定の年度に改修・修繕及び保守等の業務が集中しないように,平準化に配慮した目標を設定することが望ましい。
   省エネルギー対策による光熱水費の削減に関する目標を定める必要がある。

  国による施設水準の明示と情報提供
   国は,国立大学の教育研究環境の充実を図るため,目的・用途に応じた標準的な施設水準を示すことが必要である。
   また,各国立大学が,施設マネジメントの目標を適切に設定できるよう,施設整備及び管理運営に係る基礎資料や種別毎の実験室等のモデルの提供を行う必要がある。



※10    学習や討論等の活動を支援するための機能:例えば,学生が利用するラウンジ等における情報コンセントや無線LAN設備の装備など。
※11    ユニバーサルデザイン:「バリアフリーは,障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し,ユニバーサルデザインはあらかじめ,障害の有無,年齢,性別,人種等に関わらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方」(障害者基本計画(平成14年12月)より抜粋)
※12    招へいした外国人研究者との交流の場:例えば,高品位な会食のスペースやファカルティクラブなど
※13    環境マネジメント(ISO14001):国際標準化機構(ISO)が定めた規格で,近年,武蔵工業大学横浜キャンパス(平成10年10月),早稲田大学西早稲田キャンパス(平成12年6月),信州大学工学部(平成13年5月)など,この規格の認証を取得する大学が増加している。

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