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第2章   施設マネジメントにおける既存施設の現状把握と課題


   国立大学施設は,十分な維持管理等が行われてこなかったことから,相当量の要修繕箇所(負の資産)を生じており,また,スペースについて,教育研究内容に応じた適正な配分がなされていない面があることや,大学院施設等の量的な不足から,一部の施設で狭隘化が生じている状況にある。
   このことから,施設マネジメントを的確に実施するためには,既存施設の現状や教育研究活動の動向とともに,教職員や学生などの施設利用者の要望を的確に把握し,個々の大学の実状に応じて取組むべき課題を抽出する必要がある。

    教育研究活動等の的確な現状把握
   取り組むべき課題を抽出するためには,まず,教育研究活動の現状を的確に把握することが必要である。加えて,大学の理念及び教育研究の方針に基づく教育研究の今後の展開,学生等の自主的な学習活動の動向及び教職員の要望等を把握する必要がある。また,大学の管理運営方法,社会的要請及び地域との関係などについても把握する必要がある。
   また,クオリティマネジメント,スペースマネジメント,コストマネジメントの観点から施設の現状を把握し適切に評価することが,的確な課題の抽出に役立つと考えられる。

  クオリティマネジメントの観点からの現状把握と課題の抽出
  1)    現状の把握
   施設の内外装,建築設備等の老朽・劣化の状態,耐震性能等の既存施設の基本的性能等を把握する必要がある。また,教育の多様化・高度化や研究内容の変化等への対応及び学生が長時間過ごす場という観点から,既存施設の教育機能や研究機能,生活機能について把握する必要がある。さらに,学内における車や自転車等の利用状況と道路等の交通状況,広場の利用状況や樹木の分布状況などの屋外環境について現状を把握することも重要である。
   学生や教職員等が安心して教育研究活動を行うことができるよう,日常及び災害時の安全に係る施設面の現状を把握をする必要がある。なお,化学物質等を取り扱う実験室等にあっては,学生や教職員に対する安全衛生に係る現状を把握する必要がある。
   国立大学は,公的機関として環境対策を率先して推進することが求められることから,消費エネルギー量や化学物質等の廃棄物量,環境物品等※7の調達状況などの実態を把握することも重要である。

  2)    課題の抽出
   既存施設の初期性能の回復や機能の向上のために,必要となる要修繕箇所の改善・解消のための課題を抽出する必要がある。また,今後の教育研究の展開を見据えて,施設利用者の要望を踏まえつつ,機能,美観,快適性などの質の向上について取り組むべき課題を抽出する必要がある。この際,特に,教育機能の向上について検討することが重要である。さらに,学生や教職員がキャンパス内で長時間過ごすことに配慮し,生活機能の面から課題を抽出することも重要である。
   知の拠点としてふさわしい教育研究環境を確保するという観点から,建物だけでなく屋外環境を含めた総合的なキャンパス環境の形成に係る課題を抽出する必要がある。

  スペースマネジメントの観点からの現状把握と課題の抽出
  1)    現状の把握
   大学の教育方針や管理運営方針等を踏まえ,教育研究活動の状況と講義室等をはじめとする教育・学習施設や研究施設の使用状況,過不足状況や利用効率等について現状を把握することが重要である。

  2)    課題の抽出
   限られた施設を有効に活用するためには,学部等の枠を超えた全学的な利用や多目的な利用の推進等,施設の利用効率を踏まえたスペースの配分方法などについて課題を抽出する必要がある。特に,既存施設の状況と学生や教職員等利用者の活動状況から,必要とするスペースや安全性等を維持できるスペースの確保・配分に関する課題を抽出する必要がある。また,学生や研究者の学習やコミュニケーションあるいは課外活動を行うためのスペースや長時間大学に滞在するときに必要となるスペースの確保・活用に関する課題を抽出することも重要である。

  コストマネジメントの観点からの現状把握と課題の抽出
  1)    現状の把握
   既存施設の要修繕箇所の解消のための改修・修繕に必要な額を把握する必要がある。その際,施設の管理運営の改善という観点から,運用方法や運用内容を踏まえつつ,改修・修繕費,光熱水費,点検保守費及び清掃費などについてトータルコストとして総合的に把握する必要がある。特に,修繕費にあっては,実施額の評価だけでなく,適切に優先順位を付して実施されているかなどについても把握することが重要である。

  2)    課題の抽出
   施設利用者の要望に応えつつ,経営的観点から長期にわたる教育研究環境の適切な維持及び施設の管理運営に係る費用の配分等に関する課題を抽出する必要がある。なお,施設の維持管理費に関しては,日常的な修繕費等の他に,定期的に実施される大規模な改修工事等も踏まえた総合的なコストマネジメントの観点で課題を抽出する必要がある。

  現状評価の手法
   既存施設の現状を適切に評価するためには,施設の諸元を数値化するなど,施設の現状を客観的に認識できるような対応が重要である。具体的には,建物の建設年次や部門ごとの面積,利用率及び適合性等の施設の要素を示す項目並びに修繕費や光熱水費等施設に係る諸元を数値化し,学内における学部・学科・研究室等の構成ごとに現状を評価したり,優れた施設環境を有している他大学等と比較すること(ベンチマーキング)が有効である。
   附属資料※8にベンチマーキングの例として国立大学における施設の維持管理等の実態の一部を示しており,これによると,単純に比較することはできないものの,修繕や清掃などの実施額に大学間の格差が認められ,また,一部の私立大学と比較しても適切な維持管理状態とは言い難いものも認められる。
   なお,既存施設の改修・修繕の優先度を判断するため,要修繕箇所の状況等について,個々の施設の残存不具合率(FCI※9)等により分析することも有効である。

  国による評価指標等の提供
   国は,国内外の大学や研究所等における施設の整備及び管理運営に関する実施状況を調査・分析し,個々の大学が施設の現状について客観的な評価ができるよう有効な情報を提供することが重要である。さらに,大学施設の状況等について,技術的かつ専門的な面から検討し,施設の諸元に係る具体的な評価指標(ベンチマーク)を提示することが重要である。



※7    環境物品等:環境への負荷の低減に資する原材料,又は部品,製品など(国等による環境物品等の調達の推進等に係る法律第2条)
※8    附属資料:国立大学施設の維持管理費等の実態について
※9    FCI:Facility Condition Indexの略。建物の不具合の状況を財務的に評価する手法の一つ。FCIは,既存不具合額(予算の都合などで計画よりも延期されている修繕等に係る費用の累積額)を復成価格(現在と同じものを建てると仮定した場合の価格)で除した数値(%)をいう。個々の建物のFCIを比較することで,優先順位を付して改修・修繕費の配分を行うことができるなど,数多くの建物群を統括的に管理する場合に有効とされている。

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