大学の施設には、そこで行われる教育研究に応じて、恒久的に変わらない部分と頻繁に変わるべき部分が存在する。魅力的なキャンパスを形成するためには、各施設を計画する際に、効果的に投資が行われるよう、目的・用途に応じて建物又は活動空間の質や機能等の要件についてその水準を適切に設定し、整備する必要がある。 このため国は、高等教育機関として国立大学が教育研究活動の内容に応じて確保すべき施設の水準(例えば、恒久的施設なのか時限的施設なのか、利用内容に応じた耐久性、内外装等の考え方等)について明らかにするとともに、これを推進するための方策を検討することが必要である。 |
各大学においては、施設の整備計画を立案するにあたって、大学の長期的な教育研究計画を踏まえて、個々の施設に求められる水準に応じてメリハリのある整備を行う必要がある。 例えば、教育に関する施設については学問の府らしい落ち着きのある空間の創出を意識する必要があり、特に大学キャンパスの中心となる部分については、各施設の調和を図るよう施設水準についても配慮する必要がある。また大学の歴史と伝統を象徴する施設を整備する際には、後世に残る施設としてシンボリックな要素を加味しつつ、文化性豊かな施設として整備する必要がある。 一方、研究に関する施設については、研究内容・方法の進展に伴い、頻繁に施設に対するニーズが変わることから、例えば、長期の使用に耐えるフレームを構築し、内部空間を弾力的・流動的に利用することを想定して計画することや、時限的なプロジェクト研究にあわせて建物自体に時限的要素を加味して計画することが考えられる。特にプロジェクト研究のように一定期間で成果を求められ、かつ特殊な実験に使用する建物は、建物の使用期間を加味した水準で整備し、短期使用の場合にはリサイクルの要素も設計に盛り込みながら、研究が終わったら別の組織で再利用するなど様々な手段を検討することも考えられる。 |
法人化後、各大学においては、国からの施設費に加えて、土地の処分収入、寄附金※21、競争的研究費の間接経費など多様な自己財源や、PFI※22等の新たな整備手法を活用して施設整備や維持管理を行うことが、自主性、自律性の観点から望まれる。 国においては、国立大学法人が多様な財源等の確保や新たな整備手法の活用を円滑に行いうるよう、PFIに関する手続きの改善等の取組を行うとともに、大学のこのような取組にインセンティブを与えるような措置を講じることが必要である。 また、地方自治体の政策との連携による施設整備等、財源面での自治体との連携協力を図ることや、福利厚生施設などについて民間に施設整備を含めて運営を委ねるなど、民間の資金による施設整備を検討することも考えられる。 |
現在、大学には、社会人の再教育の推進や高度専門職業人の養成に特化した専門大学院の設置、また地域社会や産業界との連携交流の強化など、教育研究の多様な取組が求められている。これらの要請に大学が応えていくためには、活動の拠点をキャンパスの中だけに求めるのではなく、むしろキャンパス外での展開が望ましい教育研究の形態も考えられる。 例えば、企業の所有する施設において、大学が産学連携研究を行うことは、単なるスペース的な効果のみならず、研究の活性化、産業界で活躍できる人材育成、地域産業の振興等の効果が期待できる。また、平成14年11月に「地方財政再建促進特別措置法施行令」が改正されたことにより国立大学の研究開発に対する地方自治体の施設面を含めた支援の可能性が広がったことを踏まえ、今後は、施設面においても自治体との連携協力をより深めていくことが必要である。このような取組を促進するためには、地域の産業事情や研究開発能力を考慮し、大学、企業、自治体の連携を促すコーディネーターの活用が重要である。 この他にも、民間のオフィスビル等にサテライト教室を設けることや、教育研究活動の活性化による一時的なスペース需要への借用による対応等学外施設の活用が考えられることから、各大学においては、幅広い視点から施設の整備や管理運営について検討する必要がある。また、国においては学外施設の活用の促進を図ること※23について検討することが必要である。 |
高等教育機関としてより質の高い施設整備を促すために、教育研究の構想と併せて、先導性が高く卓越した施設や施設計画の事例を国が募集し、モデル施設として他大学への波及効果を促すシステムを検討することが考えられる。特に極めて卓越した施設計画については、コストを勘案しつつ、事業化することに配慮し、国立大学の卓越した施設整備へのインセンティブを高めることも考えられる。 |
参考17「寄附による施設整備の実績一覧」参照 | |
※22 | PFI(Private Finance Initiative):公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術能力を活用して行う手法であり、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供を目的としている。平成11年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が制定、施行されている。 |
※23 | 総合科学技術会議科学技術システム改革専門調査会の意見(平成13年6月26日)において、国立大学等の施設に関し、施設整備費の効果的・効率的使用のために講じる方策として、「外部施設のレンタルやリース等の活用」が示されている。 |