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第2章   施設の整備、管理運営に関する基本方針


   法人化後、国立大学は、中期計画に基づき事業を行うことになり、国は当該期間にわたる大学全体の施設整備方針を示すことが求められている。このため、国立大学の法人化後の施設に関する国と国立大学法人の役割と中期計画期間中に国として重点的、計画的に行うべき施設整備の在り方、さらに、これらの整備の前提となる、施設マネジメント等の国立大学法人に求められる施設に関する取組について以下に示す。


1.国と国立大学法人の役割

   国立大学の法人化の趣旨を踏まえ、国と国立大学法人は、以下の役割分担の下、施設整備、管理運営を適切に行うべきである。

(国の役割)
   ○    国は国立大学全体の施設整備方針を作成する必要がある。
   ○    国立大学法人の施設整備は、国が措置する施設費を基本的財源とするものであり、国は、各国立大学法人の業務に必要な施設の整備について、所要の財源の確保に努めるべきである。
   ○    国は、大学改革や法人化の趣旨を踏まえ、国立大学による施設の整備・管理運営を円滑に進めるため、多様な財源の活用手法や、維持管理の基準の提示等の方策を講じることが重要である。
   ○    これまでの国立大学の施設整備は、国立学校特別会計における制度※12を活用しながら進められてきた。国立大学の法人化に伴い、国立学校特別会計が廃止されることとなるが、引き続き国立大学の施設整備を円滑に進める観点から、国立大学財務・経営センターが行う施設費貸付事業、施設費交付事業は重要であり、国が直接措置する施設費と連携を図りつつ国立大学施設の整備を行うべきである。
   ○    一方、施設整備には国費が投入されることから適切な評価に基づく事業の採択を行うなど、国民への説明責任を果たすことが重要である。

(国立大学法人の役割)
   ○    国立大学法人は、自らの経営判断により、例えば、国の行う基本的な整備に加えて施設やキャンパスの個性化を図ることや、教育研究の展開等に応じて施設の高度化等の整備を図ることなど、自主的、自律的に自己収入等を活用して施設整備を行うことが期待される。
   ○    国立大学法人は、大学のトップマネジメントの一環として、長期的なキャンパス計画の下、経営的視点に立って施設マネジメントに取り組むことが重要である。施設整備に当たっても既存の組織の枠組みを越えた全学的見地から施設の有効活用や管理運営を検討する必要がある。
   ○    また、施設を長期的にわたり使用し良好な環境で維持するためには、施設の管理運営について、国立大学法人が責任をもって適切に行うべきである。
   ○    さらに国立大学法人は、施設整備について当該施設で行われる教育研究活動とともに国民への説明責任を有していることを認識するべきである。


2.国の施設整備に関する基本方針

   前述の国の役割を踏まえ、国は以下のような基本方針の下、国立大学法人の施設整備を進めるべきである。

   
(1) 国立大学法人の中期計画期間における国による重点的施設整備
     国立大学法人の施設整備は、各大学等の教育研究の活性化や国の財政状況等を踏まえ、重点化して対応していくことが必要であり、国立大学法人の中期計画期間においては、国は、以下のとおり重点的、計画的に施設整備を進めていくべきである。

1 緊急整備5か年計画
   現在、国が進めている「緊急整備5か年計画」(平成13〜17年度)については、着実に実施するべきである。

2 緊急整備5か年計画後の整備
   平成18年度以降についても、施設整備は重点的、計画的に行うことが必要であり、以下の観点からの重点化を図った計画の下、施設整備を行うべきである。
   まず、国立大学法人が、競争的・自律的な環境の下で、個性を発揮しつつ教育研究等を行うためには、その基盤として、健全かつ必要なスペースが確保されることが基本である。そのため、1既存施設の再生整備※132必要なスペースの確保、3附属病院の整備が基本的整備として重点的に行われるべきである。
   また、国の教育政策、科学技術・学術政策等に関する施策を推進するためには、その基盤となる施設を整備することが必要であり、4国の政策に対応した整備についても重点的に整備する必要である。
   以上の整備に当たっては、国立大学法人の公共性を踏まえると、省エネルギー対策、ユニバーサルデザインの導入、安全対策といった公的施設としての機能確保を図るべきである。

(2) 重点的施設整備の在り方
     国立大学法人の中期計画期間中に重点的に整備すべき施設のうち、今後の課題である緊急整備5か年計画後に重点的に整備すべき施設について、その具体的な整備の在り方を以下に示す。

1) 重点的に整備すべき施設
1 既存施設の再生整備   −老朽化対策−
(老朽化対策の必要性)
       大学においては教育研究等の活動を支える基礎的基盤である施設を有効かつ効率的に活用し、教育研究の進展に対応するとともに、安全性の確保、良好なキャンパス環境の形成のために、老朽化した施設の改善を図ることが重要な課題である。

  (現行耐震基準制定前の施設の改修整備)
       既存施設の再生整備については、「緊急整備5か年計画」において、緊急に改善すべき対象として昭和45年以前に整備された施設の老朽改善整備(約390万平方メートル)を進めている。これらの施設整備に引き続き、現行の耐震基準制定前(昭和56年以前)に整備された施設(約690万平方メートル※14)のうち、現行基準が求める耐震性能を満たしていない建物について耐震性能の向上を含む既存施設の再生整備を図る必要がある。
   但し、老朽化対策が必要な施設整備需要は多大であり、これらを計画的かつ効果的に進める必要があることから、地震防災に係る地域性※15、建物の耐震性の状況や教育研究の活性化への効果などにより、優先順位を付けつつ計画的に整備していくこと等が必要である。

  (改修整備の目的の明確化)
       なお、改修整備を行う際には、単に経年劣化の解消だけではなく、学生や社会のニーズに対応した教育研究等の活動を行うための改修であること等改修整備の目的を明確にする必要がある。

2 必要なスペースの確保   −狭隘化対策−
(各大学の状況に応じたスペースの確保
         「緊急整備5か年計画」では、「大学院施設等の狭隘化の解消」等の観点から5年間で緊急に整備すべき施設について重点的・計画的な整備が進められているが、この他にも同計画の策定時点で狭隘化の解消を目的として約290万平方メートルの整備需要が存在している。この中には、学生の教育研究のための基盤的な施設も含まれており、重点的な整備が必要である。
   また、今後、大学院生、留学生、外国人研究者等が引き続き増加することや新たな教育研究の展開のためのスペースが必要となることから、既存施設の有効活用を前提として、各大学の施設整備状況を踏まえ、必要なスペースの確保のための整備を行う必要がある。

  (学生教育研究基盤施設の整備)
       特に大学の基本的機能である学生の教育活動、研究活動のための基盤となる施設については、国際的な水準を目指すべく重点的に整備を行う必要がある。
   具体的には、学生の活発な教育研究活動を直接的に促す重要な基盤として、多様な媒体による情報拠点である図書館の充実、情報化の進展に対応したマルチメディア対応の講義室、自学自習スペース等の確保などが考えられる。また、間接的には、キャンパスは、学生等の主な生活の場であり、人間形成の場ともなっていることから、談話や交流のためのスペースや食堂等の福利厚生施設、さらには屋外環境等の整備等も重要である。
   さらに、大学では学生、教職員が教育研究をはじめとする多種多様な活動を日常的に展開する場であることから、事故や災害を防止するために安全性の確保に十分配慮する必要がある。特に実験研究施設においては様々な化学物質や実験機器を取扱うことから労働安全衛生法等関係法令に則った安全対策を適切に講じる必要がある。

3 附属病院の整備
       附属病院では、施設の老朽化とともに、医療の高度化等に伴う医療機器の増大、医療制度・社会の変化に伴う患者ニーズの多様化等による狭隘化の問題があり、「緊急整備5か年計画」においては、これらの問題を解決するために再開発整備が行われている。
   附属病院の施設については、今後とも先端医療、臨床医学の教育研究、地域医療の中核を担う機関として、適切な教育研究活動、医療活動等が行われるよう、附属病院施設の運営コスト等に留意しつつ、引き続き整備を図る必要がある。

4 国の政策に対応した整備
       今後の大学改革に対応した教育政策や科学技術創造立国の実現を目指した科学技術・学術政策等に基づく教育研究に関する施策を推進するために、その基盤となる施設を国として重点的に整備することが必要である。また、上記の基本的整備においても、国の政策への対応について考慮することが求められる。
   「緊急整備5か年計画」においては、卓越した研究拠点の形成や地域連携、国際学術交流の推進を図る施設整備を行ってきており、世界的水準の研究の基盤となっている。科学技術創造立国を目指す我が国では、今後とも、競争的資金や大規模プロジェクトの増加等先端的・独創的研究の推進に対応した研究施設のニーズが高まっていることに留意する必要がある。

2) 公的施設としての機能の確保
   国立大学は、公共性の高い施設であり、施設整備に当たっては、以下ような機能を確保することが求められる。

省エネルギーなど環境への配慮)
       国立大学のキャンパスでは、数千〜数万人の学生、教職員が多種多様な活動を行っており、電気、ガス等のエネルギー消費も膨大である。施設の管理運営コストの低減や地球環境の保全の観点から、施設整備時や利用時において省エネルギー対策を行うことは重要である。また、新エネルギーの活用についても配慮する必要がある。

ユニバーサルデザイン※16の導入)
     少子化・高齢化が進み、一方で障害者の社会参加や生涯学習のニーズが高まっていることから、大学の施設やキャンパスは、若い学生だけでなく社会人参加や、男女共同参画に配慮し※17、バリアフリーの実現など全ての世代に目を向けたものとして整備する必要がある。また、海外からの研究者、留学生等に対して、適切な標識や掲示板を整備するなどの対応も求められており、キャンパスのユニバーサルデザインの導入に配慮する必要がある。

安全対策)
     大学施設は、学生、教職員のみならず、多くの人が出入りする場所であり、各施設やキャンパスの安全性は、十分に確保されることが必要である。また、多くの大学は、災害時には、教職員のみならず、周辺地域住民の応急避難場所等防災拠点としての役割を求められていることにも配慮する必要がある。
   
(3) 施設整備の進め方
1) 適切な評価に基づく施設整備
   個々の施設整備に当たっては、施設整備の目的や必要性のみならず、国の施設整備に関する計画や各大学の中期計画に基づく教育研究計画との整合性、さらには、各大学におけるキャンパス全体の施設マネジメントの状況等を適切に評価した上で優先順位を付けつつ、施設整備に関する資金を効果的に配分していくことが必要である。
   
2) 大学キャンパスの個性化
   今後の大学施設やキャンパスは、大学の掲げる理念・目標に基づく特徴が具現化され、個性を持って競い合っていくことが重要である。このため、「第1章   今後の国立大学施設の在るべき姿」で示された教育機能、研究機能、キャンパス環境の充実、など様々な要素の中から、大学の掲げる理念・目標に照らし、各大学は優先的に充実すべき対象を明確化し、国は、施設整備に当たってこの点を十分に配慮する必要がある。


3.国立大学法人に求められる施設に関する取組


   国立大学法人は、前述の国立大学法人の役割を踏まえ、以下のような取組を行っていくべきである。また、このような取組は、国が施設整備を推進する際の前提とすべきである。

    (1) 施設マネジメントの推進
       施設は、大学の諸活動の基盤であり、これを有効に活用し、適切に維持することは極めて重要である。この観点から、各大学においては、教育研究計画を踏まえ、施設整備と運営管理を一体的に行う施設マネジメント※18を積極的に行うことが求められる。施設マネジメントについては調査研究協力者会議報告書「『知の拠点』を目指した大学の施設マネジメント」(平成14年5月)で基本方針が示されたところであるが、法人化後は、大学における経営的視点が重視されることから、一層着実に取り組むことが必要である※19

  (2) 施設の点検・評価の推進
   施設の自己点検・評価については、調査研究協力者会議報告書「国立大学等施設に関する点検・評価について」(平成14年3月)で基本的方針が示されたところであるが、今後とも点検・評価を踏まえた施設の有効活用が重要であり、報告書の提言について、着実に取り組むことが必要である※20
   また、施設の点検・評価を実施する際に、経営的視点に立った施設管理を行うための客観的判断材料として施設の諸元を数値化したベンチマークを活用することも有効である。

  (3) 施設の維持管理の適切な実施
   法人化後、各大学には自らの資産として施設を活用していくことが一層求められており、施設を長期間にわたり有効に活用していくためには、施設の維持管理を計画的に行っていくことが特に重要である。

  (4) 学生、教職員への意識啓発
   これまで施設の利用者に「大学の財産である施設を大切に利用する」という意識が希薄であるために適切な使い方や修理・保守がなされず、一層傷みが早くなるという事例が見受けられる。このため、施設を良好な状態に保つために、適切な使い方を提示し、また、修繕やメンテナンスについて、教職員はもとより、学生まで意識を浸透させる必要がある。
   また、施設は大学全体の共有財産であり、特定の組織や個人のものではないという認識を広めることが、施設の有効活用の観点から重要である。
   このための取組として、キャンパスの整備に際し、学生、教職員等利用者の視点を重視するとともに、利用者と施設との関わりについての認識を広める観点から、学生、教職員の意見等を反映させることはもとより、学生、教職員の施設計画への協力体制を作ることや施設使用料の徴収などスペースに対するコスト意識の付与等の取組を行うことが重要である。







用語説明

※12

   国立学校特別会計は、国立学校の施設整備を目的の一つとして昭和39年に設けられ、当該目的を達成するための制度として、財産処分収入をもって国立大学等施設整備の財源に充てることができるとされている。
※13    施設の再生整備は、一般に改修や改築等の手法が考えられるが、国立大学等施設においては、公財政の支出により整備が進められてきたこと、現状において施設の狭隘化が解消できていないこと等を考慮し、「既存施設の有効活用」を図り、当面、改修整備を主体としつつ、既存施設の状況に応じて整備手法を検討すべきである。
※14    昭和46年〜56年に整備された施設
※15    学校施設の耐震化推進に関する調査研究協力者会議の報告「学校施設の耐震化推進について」では、学校施設は、「十分な耐震性能を確保する設計を行うことが重要」であり、その際、「当該地域に予測される地震動の大きさを考慮することも大切である。」としている。また、「予測される地震動については、地震調査研究推進本部等が作成する『全国を概観した地震動予測地図(平成16年度末を目途に作成される予定)』や、発生可能性が高いとされている地震に注目して最新の知見に基づき作成されている『シナリオ地震動予測地図』等を活用することが考えられる。」としている。また、耐震診断又は耐力度調査の実施に際し、その優先度を検討するために行う「耐震化優先度調査」において、当該建物が立地している地域の想定震度を評価の一項目として掲げている。
※16    バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方。(平成14年12月「障害者基本計画」)
※17    「多様なキャリアが社会を変える」第1次報告(「女性の多様なキャリアを支援するための懇談会」平成14年度〜)において、女性研究者支援の方策として、働きやすい環境の整備の一環として「トイレや保育施設の整備など女性研究者や女子学生の増加に適切に対応すること」等が示されている。
※18    国立大学等における施設マネジメントの概念の導入は、今後の国立大学等の施設管理に関する調査研究協力者会議の報告書「『知の拠点』を目指した大学の施設マネジメント」(平成14年5月)でその考え方が示されたところである。同報告書では、「施設マネジメント」は、キャンパス全体について総合的かつ長期的視点から教育研究活動に対応した適切な施設を確保・活用することを目的とした、企画・計画、整備、管理の全般にわたる業務であるとしている。
※19    施設マネジメントに関する具体的方策については、本会議の下に設置された「施設の管理運営に関する専門部会」において検討を行い、報告をとりまとめることとしている。
※20    参考15「施設の点検・評価に関する取組状況」参考16「施設に関する点検・評価の成果」参照





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