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資料2

報告書の骨子(案)

はじめに

1  今後の国立大学等施設の在るべき姿
1. キャンパス環境の充実
2. 教育機能の充実
3. 研究機能の充実
4. 産学連携の推進
5. 地域・社会との共生
6. 国際化の推進

2  施設の整備、管理運営に関する基本方針
1. 施設整備に関する方針
(1) 施設整備に関する国と大学法人の役割
(2) 国立大学法人の中期計画期間における国による重点的施設整備
1 緊急整備5か年計画
2 緊急整備5か年計画後の整備
(3) 重点的施設整備の在り方
1) 基本的整備
1 既存施設の再生整備(老朽化対策)
2 必要なスペースの確保(狭隘化対策)
3 附属病院の整備
4 公的施設としての機能の確保
2) 国の政策に対応した整備
3) 大学キャンパスの個性化と重点整備
2. 大学に求められる施設の管理運営
(1) 施設マネジメントの推進
(2) 施設の点検・評価の推進
(3) 施設の維持管理の適切な実施
(4) 経営的視点に立ったトップマネジメントとしての取組
(5) 学生、教職員への適切な施設利用についての啓蒙

3  方針を実現するための検討すべき手法
1. 目的用途に応じた施設水準と整備計画
2. 多様な財源の活用
3. 学外資源の活用
4. 大学間の競争を促す整備システム


はじめに  −本調査研究における検討の視点−

  本調査研究では、国立大学等施設が大学等の教育研究活動を支える重要な基盤であるとの認識のもと、これまで国立大学等施設に係る様々な取組を提言として取りまとめてきたところである。
  現在、国立大学等施設については、教育研究の進展や大学改革の動向等を踏まえて様々な対応が求められている。更に今後、国立大学等が法人化することに伴い、国立大学等施設を取り巻く状況の変化が起きることが予想される。このため、本調査研究においては、法人化後の国立大学等施設の在り方について検討を進めることとした。
  現在、施設整備については、第2期科学技術基本計画を受けた「国立大学等施設緊急整備5か年計画」(以下「緊急整備5か年計画」という。)が進められ、緊急に整備が必要な施設について重点的・計画的に整備を行うとともに大学改革と一体となった施設の効率的・弾力的利用を目指すシステム改革を行うこととしている。この緊急整備5か年計画は平成17年度が最終年度であることから、本調査研究では、今後の国立大学等施設の在り方について審議するとともに、国としての「緊急整備5か年計画」後を含めた国立大学等施設の整備、管理運営に関する方針、方針を実現するための検討すべき手法について審議を進めており、今般、その報告の骨子を取りまとめた。

第1  今後の国立大学等施設の在るべき姿

1.キャンパス環境の充実

  これまでの大学キャンパスでは組織の量的拡充に対応して教育研究施設の整備が進められており、建物や屋外環境を含めた調和のとれた魅力あるキャンパスを創る取組が十分とはいえない。
  キャンパス環境の充実は、個性豊かな大学づくりと国際競争力のある教育研究の展開を図る上で大きな役割を担っており、今後、より一層の整備充実が求められる。

[今後の在り方]
(1) キャンパス環境の調和、個性化
  キャンパスは大学の知的存在感の象徴であり、学問の府にふさわしく、また文化を感じ、調和のとれた空間である必要がある。
  伝統的、歴史的な建物はこれまで各大学が培ってきた歴史と伝統を形あるものとして継承する重要な役割を担っており、今後とも積極的に保存活用していく必要がある。
  屋外環境は建物とともにキャンパス環境を構成しており、キャンパス環境の豊かさは建物とともに屋外環境に依るところも大きく、その整備充実も重要である。
  福利施設等キャンパス生活を支える施設は、コミュニケーション活動を活発化し、教育研究を側面から支援する重要な役割を担っていることを認識する必要がある。
(2) 長期的な視点に立ったキャンパス計画
  キャンパスは教育研究の進展に伴い、常に変化し続けていることから、長期的視点に立ったキャンパス計画を策定する必要がある。その際、良好なキャンパス形成のために一貫したコンセプトを保持しつつも、大学を取り巻く様々な状況の変化や個々の建物の実態に柔軟に対応する必要がある。
  キャンパス計画を策定・実施する際に、長期的にキャンパス全体を捉え、既存施設の有効活用や管理運営も含め、責任を持って計画を進めることができる体制を確立する必要がある。

2.教育機能の充実

  大学は高等教育機関として優れた人材を育成・確保する重要な役割を担っており、研究機能とともに教育機能の充実を図るための教育に関連する施設、また学生の視点に立った施設の整備充実が求められる。

[今後の在り方]
(1) 学生等利用者の視点の重視
  学生の視点に立った施設を整備するにあたっては、キャンパスにおける課題やニーズについて、教官のみならず学生も含めたユーザーの満足度を調査し、その意見を吸い上げていく仕組みを作る必要がある。
  学生の視点に立った施設として、講義室、実験室はもとより学習のためのスペースとして図書館や自習の場などの充実とともに、学生が長時間滞留して、コミュニケーション等図ることができる空間の確保も重要である。
(2) 教育内容・方法の進展への対応
  学部教育、共通教育に係る施設では、教育内容・方法の多様化に留意し、情報化の進展への対応など機能の向上を図るとともに、一斉授業や少人数教育など教育を行う規模と講義室等の空間の規模との整合性を図る取組が必要である。

3.研究機能の充実

  研究機能の充実を図るために必要となる施設については、これまで「緊急整備5か年計画」により着実に整備を進めているところであるが、科学技術創造立国を目指す我が国として、社会のニーズを踏まえた新たな需要を踏まえつつ、引き続き一層の充実を図る必要がある。

[今後の在り方]
(1) 大学院の充実、卓越した研究拠点の形成への対応
  「緊急整備5か年計画」により進められている、大学院充実等に伴う大学院施設の狭隘解消等、卓越した研究拠点に関する施設整備については、引き続き大学院生が増加していることや、留学生の増加、また近年、ポスドクや競争的資金により雇用される支援者等の学外研究者などが増加しており、これらへの対応が求められる。
(2) プロジェクト研究や研究の学際化に対応する施設
  近年、既存の研究分野にとらわれない学際領域、複合領域の研究や研究者が結集して一定期間で成果を求めるプロジェクト研究が実施されるなど、迅速かつ柔軟な対応が求められることが増えつつある。このため、弾力的、流動的な施設利用を可能とする「総合研究棟」の整備を進めているが、今後、プロジェクト研究のための研究棟など、より一層、迅速かつ柔軟にスペースを確保できる整備及び利用者の観点に立った運営を全学的視点に立って行う必要がある。
(3) 研究交流のためのスペース
  研究者には非常に細分化された学問の分野の中で全体を見渡せるような幅広い視点が必要であり、このため、異分野の研究者が気軽に集まって最先端の自由な討論やコミュニケーションを図ることのできるスペースの確保が重要である。

4.産学連携の推進

  大学が産業界等と研究協力等を行うことは、大学が社会に貢献し、かつ大学の学術研究に有益な刺激を与えるとの認識のもと、これまでも産学連携を推進する諸制度、法令の整備とともに、地域共同研究センター等の設置が図られており、以来、国立大学等の企業等との共同研究は、増加の一途をたどっている。
  法人化する大学にとって社会との連携が一層重要になるとともに、産業界、地域の要請や産学連携に係る諸制限が無くなるなど、大学と企業等との連携が一層進展することが予想されることから、これらの活動を支える施設について、多様な形態での整備・充実に取り組む必要がある。

[今後の在り方]
(1) 施設整備における企業との連携
  産学連携のための施設については、大学が設置する地域共同研究センターやインキュベーション施設の整備を進めることが必要であるが、実験施設そのものが企業からの寄附により整備される事例も多数見受けられる。その際、大学における教育研究施設と寄附建物との合築整備や共同研究をサポートする関連施設の整備充実を図る必要がある。
(2) 地方自治体、産業界との協力と多様なスペース確保の取組
  研究交流促進法や地方財政再建促進特別措置法施行令の改正等により、地方自治体の関与も含めた多様な形態の産学官連携が可能になることから、研究基盤である施設についても敷地内で自ら行う施設整備のほか、民間等のキャンパス内での施設整備、キャンパス外でのスペースの確保など多様な形態が考えられる。

5.地域・社会との共生

  大学は文化や情報の発信基地としての役割を果たすなど、地域・社会との交流や地域・社会への貢献など地域・社会における中核的施設としての役割が重要であり、また地域のコミュニティの一員であるとの意識が必要である。さらに大学が立地している地域との連携によって、大学を核としたまちづくりを発想するなどの事例も見受けられるなど、地域との幅広い協力関係が期待されている。

[今後の在り方]
(1) 地域環境、地域住民との共生
  大学キャンパスは地域社会の中で一定の空間を占めることから、キャンパス周辺の環境との調和に配慮したキャンパスづくりが重要である。
  キャンパスにおける緑の空間は、学生等のみならず地域住民にとって重要な環境資源であるとの認識のもと、緑の空間の確保及び適切な保全が重要である。
  産学連携としての共同研究による企業との連携のみならず、地域住民との交流を図ることができる仕掛けが建物だけでなくキャンパス全体で必要であり、バリアフリーにも配慮して、広い世代に利用しやすい環境にすることが重要である。
(2) 社会との共生
  国立大学は極めて公共性の高い機関であり、大学における教育研究をはじめとする諸活動は、大学を取り巻く地域・社会などの理解なしに展開することは困難である。このため、キャンパスについても地域・社会に対して、一方的に情報を提供するだけでなく、相互の交流を図ることのできる環境を整備する必要がある。
(3) セキュリティと地域との共生
  開かれた大学を目指す一方で、セキュリティーに配慮し、防犯や事故防止の対策を講じることにより一層の安全性を確保することで、学生・教職員のみならず地域の住民に安心で利用しやすいキャンパス環境を整える必要がある。

6.国際化の推進

  留学生の受け入れについては「留学生受け入れ10万人計画」に基づき進められ、平成14年度においてほぼ達成されつつあり、そのための宿舎整備が進められてきたが、今後、留学生のみならず研究者の受け入れや日本人学生の国際感覚を醸成する観点から、宿舎を含む多様な施設の対応が求められる。

[今後の在り方]
(1) キャンパスの国際化
  国際化の進展に伴い、大学キャンパスは国際的にも遜色のないものにすることが求められており、今後は留学生や外国人研究者だけではなく、日本人学生も含めて相互交流できる場をキャンパス全体で創り出す必要がある。また、教育研究における国際化の進展に伴い、教官・学生が国際的な情報をリアルタイムで提供できる情報システム等の整備に配慮する必要がある。
(2) 外国人教員、研究者への対応
  国際化の進展に伴い、留学生をはじめ、外国人教員、研究者の増加が見込まれることから、対応する教育研究スペースの確保や生活支援のための施設の確保に配慮する必要がある。


第2  施設の整備、管理運営に関する基本方針

1.施設整備に関する方針

(1) 施設整備に関する国と大学法人の役割
国の役割
  国立大学法人の施設は、国が大学全体の施設整備計画に基づき措置する施設費を財源として整備することが基本であり、国は必要となる財源の確保に努めるべきである。
  国は、大学改革や法人化の趣旨を踏まえ、国立大学等施設の整備・管理運営を推進するシステムを構築することが重要である。
  また、国立大学等の法人化に伴い、国立学校の施設整備を目的の一つとして設けられた国立学校特別会計が廃止されることとなるが、このことが大学法人の施設整備に支障を来すことにならないよう努めるべきである。その観点から、国立大学財務・経営センターの行う施設費貸付事業、施設費交付事業は重要である。
  一方、施設整備には多額の国費が投入されることから適切な評価に基づく事業の採択を行うなど、国民への説明責任を果たすことが重要である。
大学の役割
  国立大学法人は、自主性・自律性の向上等の観点から、国からの施設費のみならず、自己収入等を活用し施設整備を行う必要がある。
  また、施設を長期的にわたり使用し良好な環境で維持するためには、施設の管理運営について、大学のトップマネジメントの一環として、大学法人が責任をもって適切に行うべきものである。
  さらに国立大学法人においても教育研究に関する計画とともに施設整備について国民への説明責任を有していることを認識するべきである。

(2) 国立大学法人の中期計画期間における国による重点的施設整備
  国立大学法人の施設整備は、各大学等の教育研究の活性化や国の財政状況等を踏まえ、重点化して対応していくことが必要であり、今後6年間の中期計画期間においては、国は、以下の観点を踏まえて、重点的、計画的に施設設備を進めていくべきである。
1 緊急整備5か年計画
  現在、国立大学等施設の整備について国が進めている「緊急整備5か年計画」については、平成17年度までの計画期間中に達成することが不可欠である。

2 緊急整備5か年計画後の整備
  平成18年度以降についても、「緊急整備5か年計画」に相当する計画を策定し、以下のような施設整備を行うべきである。
基本的整備
  国立大学法人が、競争的・自律的な環境の下で、個性を発揮しつつ教育研究等を行うためには、その基盤としての健全かつ必要なスペースが確保されることが基本であり、そのため、1既存施設の再生整備、2必要なスペースの確保、3附属病院の整備、4公的施設としての機能確保が重点的に行われるべきである。
国の政策に対応した整備
  また、国の教育政策、科学技術・学術政策等に関する施策を推進するために、その基盤となる施設を国として重点的に整備する必要がある。
大学のキャンパスの個性化の推進
  以上の重点的整備を行うにあたっては、大学の教育研究に関する理念・目標の実現やこれに基づく個性あるキャンパス環境が実現することを十分に考慮する必要がある。

(3) 重点的施設整備の在り方
1) 基本的整備
1 既存施設の再生整備(老朽化対策)
老朽化対策の必要性
  大学においては教育研究等の活動を支える基礎的基盤である施設を有効かつ効率的に活用し、また安全性を確保するために、老朽化した施設の改善を図ることが最重要の課題である。
現行耐震基準制定前の施設の改修整備
  既存施設の再生整備については、「緊急整備5か年計画」において、緊急に改善すべき対象として昭和45年以前に整備された施設の老朽改善整備(約390万m2)を進めている。これらの施設整備に引き続き、現行の耐震基準制定前(昭和56年以前)に整備された施設(約590万m2)のうち、現行基準が求める耐震性能を満たしていない建物について耐震性能の向上等のための老朽改善整備を図る必要がある。
  但し、老朽化対策が必要な施設整備需要は膨大であるとともに、これらを計画的かつ効果的に進める必要があることから、地震防災に係る地域性、建物の耐震性の状況や教育研究の活性化への効果などにより、優先順位を付けつつ計画的に整備していく必要がある。
改修整備の目的の明確化
  なお、改修整備を行う際には、その目的が単に機能上、構造上の経年劣化の解消だけではなく、改修の後に行われる教育研究等の活動が大学の理念・目標や社会のニーズに対応し、整備はそのことを実現するために行われるということを社会に明らかにする必要がある。

2 必要なスペースの確保(狭隘化対策)
各大学の状況に応じたスペースの確保
  「緊急整備5か年計画」では、「大学院施設等の狭隘化の解消」等の観点から5年間で緊急に整備すべき施設について重点的・計画的な整備が進められているが、この他にも同計画の策定時点で狭隘化の解消を目的として約290万m2の整備需要が存在している。この中には、法人化後特に重要性が増す学生の教育研究のための基盤的な施設も含まれており、重点的な整備が必要である。
  また、今後、大学院生、留学生等が引き続き増加することや新たな教育研究の展開のためのスペースが必要となると見込まれるところもあり、既存施設の点検・評価による既存施設の有効活用を前提として、各大学の従来からの施設整備状況を踏まえ、必要なスペースの確保のための整備を行う必要がある。
学生教育研究基盤施設の整備
  特に大学にとって基本的機能とも言える学生の教育活動、研究活動のために基盤となる施設については、国際的に遜色の無い水準とすべく重点的に整備を行う必要がある。
  具体的には、学生の活発な教育研究活動を直接的に促す重要な基盤として、多様な媒体による情報拠点である図書館の充実や情報化の進展に対応したマルチメディア対応の講義室や自学自習スペース等の確保などが考えられる。また、間接的には、大学は、学生等の主な生活の場であり、人間形成の場ともなっていることから、談話や交流のためのスペースや食堂等の福利施設、さらには屋外環境等についても整備することが重要である。
  なお、これらの施設を整備する際に、利用者の利便性、施設の効率的運営を考慮して、既存施設の増築や複合施設として計画することを検討する必要がある。
  さらに、大学等では学生、教職員が教育研究をはじめとする多種多様な活動を日常的に展開する場であることから、事故や災害を防止するために安全性の確保に十分配慮する必要がある。特に実験研究施設においては様々な化学物質や実験機械・器具を取扱うことから関係法令に則った安全対策を適切に講じる必要がある。

3 附属病院の整備
  附属病院については、施設の老朽化とともに、医療の高度化等に伴う医療機器の増大、医療制度・社会の変化に伴う患者ニーズの多様化等による狭隘化の問題があり、「緊急整備5か年計画」においては、これらの問題を解決するために再開発整備が行われている。
  今後とも先端医療、臨床医学の教育研究、地域医療の中核を担う機関として、適切な教育研究活動、医療活動等が行われるよう、附属病院施設の運営コスト等を踏まえつつ、引き続き整備を図る必要がある。

4 公的施設としての機能の確保
省エネルギーなど環境への配慮
  大学キャンパスは、数千〜数万の学生、教職員が多種多様な活動を行っており、電気、ガス等の消費されるエネルギーも膨大である。施設の管理運営コストの観点から、施設整備時や運営における省エネルギー対策を行うことは重要であり、また、このことは、エネルギーの効率的利用や地域環境の保全にもつながることになる。
バリアフリー化等
  少子化・高齢化が進み、また生涯学習のニーズが高まっていることから、大学キャンパスは、バリアフリーにも配慮して、既存の学生だけでなく社会人をはじめ、すべての世代に目を向けた施設としての整備する必要がある。また、海外からの研究者、留学生等に対して、適切な標識や掲示版を整備するなどの対応も求められる。
安全対策
  大学施設の多くは、災害時には学生、教職員の安全の確保のみならず周辺地域住民の応急避難場所としての役割も求められていることから、相応の整備を積極的に図る必要がある。

2) 国の政策に対応した整備
大学改革、科学技術創造立国の実現等に対応した整備
  前述の基本的整備に加えて、今後の大学改革に対応した教育政策や科学技術創造立国の実現を目指した科学技術・学術政策等に基づく教育研究に関する施策を推進するために、その基盤となる施設を国として重点的に整備することが必要である。
  「緊急整備5か年計画」においては、卓越した研究拠点の形成や地域連携、国際学術交流の推進を図る施設整備を行ってきており、世界的水準の研究の基盤となっている。科学技術創造立国を目指す我が国では、今後とも、競争的資金や大規模プロジェクトの増加等先端的・独創的研究の推進に対応した研究施設のニーズは高まっており、研究拠点の整備は引き続き行うことが必要である。

3) 大学キャンパスの個性化と重点整備
  大学が社会的にも国際的にも魅力的であるためには、展開される教育研究とともにキャンパスも魅力的なものである必要があり、今後のキャンパスは大学の掲げる理念・目標に基づく特徴を表現し、キャンパス環境が個性を持って競い合っていくことが重要である。このため、競争的環境の中で個性を引き出すための重要な基盤を整備するとの認識から、「第1  今後の国立大学等施設の在るべき姿」で示されたキャンパス環境、教育機能、研究機能の充実など様々な要素の中から、大学の掲げる理念・目標に照らし、優先的に充実すべき対象を明確化し、計画的・重点的に整備を進める必要がある。

2.大学に求められる施設の管理運営

(1) 施設マネジメントの推進
  施設の整備・管理運営については、調査研究協力者会議報告書「『知の拠点』を目指した大学の施設マネジメント」(平成14年5月)で基本的方針が示されたところであるが、法人化後は大学における経営的視点が重視されることから、報告書の提言について、着実に取り組む必要がある。

(2) 施設の点検・評価の推進
  施設の点検・評価については、調査研究協力者会議報告書「国立大学等施設に関する点検・評価について」(平成14年3月)で基本的方針が示されたところであるが、今後とも施設の点検・評価を踏まえた施設の有効活用が重要であり、報告書の提言について、着実に取り組む必要がある。

(3) 施設の維持管理の適切な実施
  大学は、法人化後、自らの資産として施設を活用していくことが求められており、施設を長期的に有効活用していくためには、長期的な計画の下、施設の維持管理を適切に行っていくことが特に重要である。

(4) 経営的視点に立ったトップマネジメントとしての取組
  大学におけるキャンパスは、大学のビジョンが形として表現されるものであり、各大学における施設に関する様々な取組は、大学が掲げる教育研究等の理念、目標及びこれに基づく計画を実現する上で必要となる重要な基盤の整備である。
  また、施設整備については、組織の縦割りを越えて全大学的見地から、施設の有効活用や管理運営を行った上で検討していくことが求められている。
  このため、施設整備は大学のトップマネジメントの一環として、当該大学におけるアカデミックプランと一体性を保ちつつ、施設の有効活用や運営管理も含め、有機的連携を図りながら進める必要がある。

(5) 学生、教職員への適切な施設利用についての啓蒙
  これまで施設の利用者に「大学の財産である施設を大切に利用する」という意識が希薄であるために適切な使い方がなされず、本来必要としない修繕・保守が求められる結果、一層傷みが早くなるという事例が見受けられる。このため、施設を良好な状態に保つために、適切な使い方、修繕やメンテナンスについて、教職員はもとより、学生まで意識を浸透させる必要がある。


第3  方針を実現するための検討すべき手法

1.目的用途に応じた施設水準と整備計画

  大学が多様な教育研究の展開に対応した魅力的なキャンパスを形成するためには、各施設を計画する際に、効果的に資源を活用するよう、目的・用途に応じて建物又は活動空間の質や機能等の要件についてその水準を適切に設定し、整備する必要がある。
  このため国は、高等教育機関として国立大学等が教育研究活動の内容に応じて確保すべき施設の水準(例えば、恒久的施設なのか時限的施設なのか、利用内容に応じた耐久性、内外装等の考え方等)について明らかにするとともに、これを実現するための基準等を明確化することが必要である。
  各大学においては、施設の整備計画を立案するにあたって、アカデミックプランを踏まえて、各々の施設が求められる水準に応じてメリハリのある整備を行い、またキャンパスの調和の観点から、明確なゾーニングを行う必要がある。
  例えば、教育に関する施設については学問の府らしい落ち着きのある空間の創出を意識する必要があり、また大学の歴史と伝統を象徴する施設を整備する際には、後世に残る施設としてシンボリックな要素を加味しつつ、文化性豊かな施設として整備する必要がある。
  一方、研究に関する施設については、長期の使用に耐えるフレームを作りつつ、内部空間を弾力的・流動的に利用することを想定して計画することや、時限的なプロジェクト研究にあわせて建物自体に時限的要素を加味して計画することが考えられる。
  特にプロジェクト研究のように一定期間で成果を求められ、かつ特殊な実験に使用する建物は、建物の使用期間を加味した水準で整備し、短期使用の場合にはリサイクルの要素も設計に盛り込みながら、研究が終わったら別の場所で再利用するなど様々な手段を検討することも考えられる。

2.多様な財源の活用

  法人化後は、国からの施設費に加えて、各大学において長期借入金や土地の処分収入、PFI、寄附金、競争的研究費の間接経費など多様な財源を確保することが重要であり、これらの資金を活用して施設整備や施設の維持管理を行うことが、自主性、自律性の観点から求められる。
  国は、国立大学法人が多様な財源を確保することについてインセンティブを与えることが必要である。この観点から、大学の業務の実績評価等においては、多様な財源の確保についても評価されるべきである。
  また、福利厚生施設などの整備については、民間に施設整備を含めて運営を委ねるなど、民間の資金による施設整備を検討することも考えられる。

3.学外資源の活用

  今後の大学においては、社会人の再教育の推進や高度専門職業人の要請に特化した専門大学院の設置、また地域社会や産業界との連携交流の強化など、教育研究の多様化が求められている。このため、既存のキャンパスでの展開に留まらない、むしろキャンパス外での展開が望ましい教育研究の形態も考えられる。
  例えば、企業の所有する施設において、大学が産学連携研究を行うことは、単なるスペース的な効果のみならず、研究の活性化、産業界で活躍できる人材育成、地域産業の振興等の効果が期待できる。
  また、平成14年11月に「地方財政再建促進特別措置法施行令」が改正されたことにより国立大学の研究開発に対する地方自治体の施設面を含めた支援の可能性が広がったことを踏まえ、今後は、自治体との連携協力をより深めていくことが必要である。
  これら取組を促進するためには、地域の産業事情や研究開発ポテンシャルを考慮し、大学、企業、自治体の連携を促すコーディネーターの存在が望まれる。
  この他にも、外部のオフィスビル等の借用によるサテライト教室や、教育研究活動の活性化による一時的なスペース需要への対応等学外資源の活用が考えられることから、大学においては、施設の整備計画にとどまらない、広い意味での施設の管理運営について検討する必要がある。また、国においては、多様な手法を支援する方策について検討する必要がある。

4.大学間の競争を促す整備システム

  国は、施設の老朽化対策等の基本的整備に加えて、高等教育機関としてより質の高いキャンパスの形成を促すために、各大学の施設整備に関する計画のうち、教育研究の構想と併せて、極めて先導性が高い卓越した施設計画を国公私を問わず公募で選定し、モデル施設として事業化し、他大学への波及効果を促すシステムを検討することが考えられる。


国立大学法人の中期計画期間における国による重点整備

国立大学法人の中期計画期間における国による重点整備



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