学校施設の耐震化推進について(追補)

平成18年4月
学校施設の耐震化推進に関する調査研究ワーキンググループ

1.はじめに

(1)  検討の背景

 これまで実施された全国の公立学校施設の耐震改修状況調査において,耐震性が確認されている建物が半数に満たない状況が確認されたことを踏まえ,平成14年10月に「学校施設の耐震化に関する調査研究協力者会議」(以下,協力者会議という。)が設置され,地方公共団体等の学校設置者が耐震診断や補強事業の推進に取り組むための方策の検討を行った。協力者会議の検討結果を15年4月に取りまとめ,この報告書を踏まえ,同年7月「学校施設耐震化推進指針」が示された。

 近年,大規模地震対策の充実強化が求められるなか,17年3月に中央防災会議において,発生の切迫性が高く甚大な被害が想定される東海地震及び東南海・南海地震に関し,被害軽減対策として死者数軽減(半減)等を目標とした「地震防災戦略」が決定された。

 さらに,17年11月には耐震改修促進法が改正され,地震防災対策上重要な施設となる学校の耐震化に関する規制が強化され,早急な耐震診断の実施と診断結果の公表が求められることとなった。

 また,構造計算書の偽装事件が社会的な問題となるなか,一部に既存建築物の耐震性に対する不安が増大している。

 このため,学校施設の耐震化推進の取り組みに際し,耐震性能に係る指標が著しく低い建物に関する的確な認識と対応が必要となっている。

 本報告は,「学校施設耐震化推進指針」策定後の状況を踏まえ,耐震性能に係る指標が著しく低い場合の留意点に関する検討を取りまとめ,15年4月の協力者会議の報告書を追補するものである。

(2)  耐震性能に係る指標が著しく低い場合の被害実態と検討課題

1  大規模地震における学校施設被害

 平成7年1月の兵庫県南部地震の学校施設の被害状況調査においては,構造耐震指標(以下「Is値」という。)と損傷割合の相関に関し,Is値が0.4以下では大破又は倒壊等の大きな損傷の割合が高い状況であった。この中には,事例は多くないが,学校施設においても柱や梁が崩壊したり,床が落ちるなど完全に倒壊した建物が存在している。また,4階建校舎の被害が大きく、2階建校舎の被害は小さい状況であった。

 一方,平成16年10月の新潟県中越地震に関する学校施設の被害状況調査おいては,被害を受けた多くの学校のうち,耐震性能に係る指標が低い建物については大破に至ったものが幾つか存在したが,倒壊した建物は無かった。

2  これまでの検討における課題

 平成14年度の協力者会議の検討においては,耐震診断結果に基づいた耐震化事業に係る緊急度の判定方法が例示された。
 耐震診断の結果,構造耐震指標が小さい場合(Is値が0.3未満)又は保有水平耐力に係る指標が小さい場合(q値が0.5未満又はCTUSD値が0.15未満)については,大規模地震の際に大破以上の被害が生じる危険性が高いことから,これらを緊急度ランク1としている。

 一方,兵庫県南部地震では、死亡原因の8割以上が建築物の倒壊による圧死等であった。人命に密接に関係する倒壊の危険性については,これまでの学校施設に関する地震被害状況の調査から,上記の指標だけから直ちに判断することは困難となっている。
 このため,個々の建物の倒壊の危険性については,耐震診断の内容に関し,以下に示す留意点を考慮し詳細な検討を加え,適切に評価することが必要である。


2.耐震性能に係る指標が著しく低い場合の考え方について

(1)  基本的な考え方

 耐震性能に係る指標が著しく低く緊急度ランク1と判定された建物については,倒壊の危険性に関して工学的に評価しつつ慎重な検討を行うこと。その際、診断書に付されている診断者の所見等を注視し,必要に応じ,複数の専門家により検証を行うこと。

 これらの検討により,大規模地震時に倒壊の危険性が高いと評価された建物に関しては,最優先に耐震補強又は改築の耐震化事業を実施すること。また,必要に応じ,事業を実施するまでの間,児童生徒等の安全確保のための応急的な措置を講ずること。

(2)  倒壊の危険性に関する評価項目例

 耐震性能に係る指標が著しく低い建物において,倒壊に至る危険性を評価する場合の項目例を以下に示す。

1  鉄筋コンクリート造の校舎において,Is値が0.3未満と診断され,かつ次の何れか一つに該当する場合には,大規模地震時に倒壊の危険性が高いと考えられることから,最優先に耐震補強又は改築を行うなどの耐震化事業を実施すること。

a) Is値とともに強度指標も著しく小さい場合
b) 教室間の耐震壁が少ないなど桁行き,はり間両方向とも耐震性能が著しく低い場合
c) ピロティ構造を有する場合
d) コンクリート強度試験値が,10ニュートンパー平方ミリメートル未満の場合
e) 階数が4階以上など最下階の柱等の軸力が大きくなる場合

2  コンクリート強度試験値が,13.5ニュートンパー平方ミリメートル以下,かつ,設計基準強度の3/4以下の場合は,コンクリートコアの試験本数や採取箇所を確認し,必要に応じ,コンクリート強度の再調査を行うこと。耐震性能の評価については,Is値による評価だけでなく,必要に応じ,耐力度調査など適切な耐震性に関する評価方法によって検証すること。

3  鉄骨造屋内運動場においては,一部のブレースの強度不足等により,Is値が著しく低くなっている場合がないか確認を行うこと。当該部分の補強を行うことで危険性を除くことが可能である場合には優先的に耐震補強を行うこと。

4  経年指標など個々の診断者の判断で低減された結果,Is値が0.3未満になっている場合には,必要に応じ,複数の専門家により検証するなど客観的な評価を行うこと。

用語の定義は「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準 同解説」(財団法人 日本建築防災協会)による。



参考資料(PDF:225KB)
参考

(臣官房文教施設企画部施設企画課防災推進室)