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第3章  学校施設の耐震化の推進

(1)   学校施設の耐震化推進に関する指針の策定
  学校施設の耐震化については、平成7年1月に発生した兵庫県南部地震以降、各地方公共団体等において鋭意取り組まれてきたものの、新耐震基準施行(昭和56年)以前に建築された学校施設のうち約7割については、耐震診断も実施されていないという調査結果が判明したことなどを踏まえ、本調査研究協力者会議では、学校施設の耐震化に関する基本的な考え方や、具体的な耐震化推進計画の内容等について検討を行ってきた。
  その内容については、既に第1章及び第2章において述べたところであり、文部科学省は、本報告書の内容を踏まえ、今後とも地方公共団体等の設置者が、所管する学校施設の耐震化を円滑に推進することができるよう、学校施設の耐震化推進に関する基本的な考え方や、具体的な耐震化推進計画の内容等を示した指針を策定し、幅広く関係者に周知徹底を図る必要がある。

(2)   地方公共団体等の設置者の責務
  地震や余震発生時に児童生徒等の安全を確保し、地域住民の応急的な避難場所としての役割を果たすために、学校施設の耐震化を図ることは重要かつ緊急な課題であり、地方公共団体等の設置者は、責任を持って所管する学校施設の耐震化を推進する必要がある。
  既に文部科学省は、地方公共団体に対して、所管する新耐震基準施行(昭和56年)以前に建築された学校建物で耐震診断未実施のものについては、平成15年度を初年度とする3ケ年でそれらの耐震診断を終了するよう要請*27している。
  その際、第2章で述べた耐震化優先度調査を速やかに実施し、その結果に基づき、優先度の高い建物から耐震診断又は耐力度調査を行い、迅速に改築や耐震補強といった耐震化事業を実施していくことが重要である。

(3)   耐震化推進に係る予算の措置等
  地方公共団体等の設置者は、所管する学校施設の耐震化を推進していくため、耐震化優先度調査、耐震診断、改築、耐震補強その他の耐震化に必要な予算を確保し、緊急性に応じて改善を図ることが重要である。
  このためには、学校施設の耐震化の重要性や緊急性について、地方公共団体の首長等をはじめとして、教育委員会、財政部局、建設部局、防災部局、教職員、保護者、地域住民等の関係者間で十分に検討を行い、他の公共施設の整備計画との整合にも留意しつつ、合意を形成するというプロセスを踏むことが重要である。
  また、文部科学省等の国は、地方公共団体等の設置者が、所管する学校施設の耐震化を今後とも積極的に進めることができるよう、耐震化優先度調査、耐震診断、耐震化事業に対する必要な財政措置を講じるとともに、耐震化推進計画策定支援事業等の施策を推進していく必要がある。

(4)   耐震化推進に関する情報提供機能の充実
  新耐震基準施行(昭和56年)以前に建築され、未だに改築や耐震補強といった耐震化事業が実施されていない学校施設が数多く存在し、かつ、主要な活断層や海溝型地震の影響を受けやすい場所を中心に、大きな被害をもたらす地震動は全国のどの場所でも発生する可能性があり、その時期はあらかじめ予測できないという状況の中で、地方公共団体等の設置者は、所管する学校施設の耐震化を早急に推進していくことが必要となっている。このことを支援するためには、学校施設の耐震化に関する情報提供機能を、文部科学省等が一層充実強化させることが重要である。
  具体的には、1地方公共団体等の設置者を支援するためのアドバイザー組織その他の相談窓口を設置すること、2地方公共団体の学校施設担当者や設計事務所の建築実務者等を対象とした研修会を実施すること、3学校施設の耐震化の重要性や当該地域に予測される地震について広く広報するために、教職員、保護者、地域住民等を対象としたセミナーを開催すること、4耐震化の進捗状況や取り組みに関する先進事例や耐震化推進計画策定支援事業例等で構成する手引書や広報資料を作成することなどが考えられる。

(5)   学校施設に適合する耐震補強工法の研究開発の推進
  学校施設の耐震化を円滑かつ迅速に推進していくためには、学校施設の特性に合った合理的かつ効果的な耐震補強工法の開発が求められる。
  このためには、文部科学省等の国は、関係団体等とも協力し、学校施設の機能改善も併せて実施できる耐震補強工法、短工期かつ低コストで施工可能な工法、簡易で精度の高い耐震診断方法など、学校施設の耐震補強に関する技術的な諸課題について、今後とも引き続き研究開発を推進していくことが大切である。

(6)   地震調査研究の一層の推進
  現在、地震調査研究推進本部の地震調査委員会において、主要な活断層や海溝型地震の発生可能性の長期評価(場所、規模(マグニチュード)及び発生確率等を予測)が随時公表されるとともに、地震発生可能性が高いとされたものについては、最新の知見に基づく「シナリオ地震動予測地図」が公表されてきている。また、「全国を概観した地震動予測地図」についても、平成16年度末を目途に現在その作成が進められている。
  本報告書においては、学校施設の耐震化事業に係る優先度を判定する際、それらの成果についても考慮するよう提案しているが、学校施設その他の公共施設の耐震設計を行う際、更に高い精度で活用することができるよう、地震に関する調査研究を今後とも積極的に推進する必要がある。

(7)   被災後の迅速な応急復旧措置の実施
  本報告は、主として、地震や余震発生時等に、児童生徒、避難住民等の人命に損傷がなく、かつ、学校施設の建築・設備的な損傷を最小限とするための方策や施策等を取りまとめたものである。このことと同様に、実際に大規模な地震が発生した場合は、児童生徒等の安全確保を早急に図るとともに、被災学校施設が、それ以降も教育活動や応急的な避難場所としての使用に適するかどうかについて点検し、その危険度を判定することが重要な課題となる。
  具体的には、被災学校施設について、教職員等による緊急判定及び緊急措置、地方公共団体等の技術職員による応急危険度判定、専門技術者による応急措置及び応急補強等の一連の応急復旧に係る措置が、地震発生後迅速に講じられるよう、地方公共団体等の設置者は、文部省(当時)が平成11年3月に取りまとめた「学校施設の応急復旧マニュアル」等を参考として、実施マニュアルの作成、教職員や技術職員等の研修、専門技術者の登録その他の措置を日頃から講じておくことが重要である。




用語説明
*27 「公立学校施設の耐震診断実施計画の策定等について(平成14年7月31日付け文部科学省初等中等教育局施設助成課長依頼)」において、耐震診断未実施の約61,000棟については、今後3年以内に耐震診断を完了するための耐震診断実施計画の策定を依頼。

 

(文教施設部施設企画課)

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