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学校施設の耐震化推進に関する調査研究協力者会議

2002/12/16 議事録
学校施設の耐震化推進に関する調査研究協力者会議(第3回)議事録

学校施設の耐震化推進に関する調査研究協力者会議(第3回)議事録

【日  時】  平成14年12月16日(月)  13:00〜15:30
【場  所】  文部科学省  別館11階  大会議室
【出席者】  
[協力者]   阿部勝征,石山祐二,大井謙一,岡田恒男,岡本哲美,壁谷沢寿海,木村秀雄,
工藤和美,佐野孝,高梨晃一,藤田正人,宮本文人,村上雅也,目黒公郎
(敬称略)
[事務局] 萩原文教施設部長,技術参事官,大島施設企画課長,中村防災推進室長,
丹沢文教施設環境対策専門官,増川施設助成課課長補佐,前田地震調査研究課
課長補佐  他

【資  料】
資料1    前回議事録(案)
資料2    大田区における学校施設の地震対策
資料3    「学校施設の耐震化推進に関する調査研究(専門部会)」協力者(案)
     
参考1    学校施設の耐震化推進に関するアンケート調査結果について
参考2    学校施設の耐震化推進に関する現地調査結果について
参考3    防災拠点となる公共施設等の耐震化推進検討報告書(平成14年2月)
参考4    「学校施設の耐震化推進に関する調査研究」の主な検討項目(案)

【会議概要】
(1)開会
(2)議事

【議  事】
(1)事例研究(2)
藤田委員より資料2について説明。
 
  大田区では,昭和56年以前から,用途係数の割り増しや補強工事など耐震の取り組みを行ってきており,阪神・淡路大震災を契機に,耐震対策の取り組みを本格的に開始した。

  耐震対策の取り組みにあたっては,大田区地域防災計画と旧文部省の「地震防災緊急事業五箇年計画」とにより,5年間で耐震対策に取り組むこととし,平成12年度までに全体で91校の内,70校155棟の耐震補強工事を終了した。

  耐震対策を実施するにあたり,学識経験者3名,実務経験者2名,区職員3名の計8名で構成された「耐震診断判定会」を組織し,耐震診断及び耐震補強設計についての判定を実施した。

  耐震補強における目標値の設定においては,用途係数の割り増しの考え方を取り入れている。具体的には,学校の構造に最も適していると考えられる二次診断を実施することとし,Is=0.6に割り増し係数1.25を掛けて,目標値をIso=0.75と設定した。なお,この数値は旧文部省が設定しているIso=0.7を上回っているが,大田区の事業の考え方としては,Iso=0.75の方が適当と判断し,この数値を採用している。

  区長の指示により,学校施設の耐震補強を重要課題とし,旧文部省でつくられた五箇年計画にあわせて,平成8年度を初年度とする耐震診断及び事業について,5ヵ年計画を作成した。

  耐震診断については,平成8年には148棟,平成9年には86棟実施し,設計については,平成9年に53棟,平成10年に68棟実施している。診断及び設計にあたっては,耐震診断判定会の委員に協力を依頼し,対象施設全ての耐震診断と,実際の設計を依頼した設計事務所の指導にあたってもらった。

  耐震診断及び改修設計にあたり,日本建築防災協会の「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」,「耐震改修促進法のための既存鉄骨造建築物の耐震診断及び耐震改修指針・同解説」及び旧文部省の「屋内運動場等の耐震性能診断基準」を基準として採用した。

  耐震診断プログラムについては,委託した設計事務所の耐震診断結果と計算過程を分析するにあたって,同一基準で捉えたほうが資料の判断が早くできるという利点があることから,プログラムをひとつに統一した。

  各設計事務所の仕様書あるいは考え方,表現の方法などが異なっていたため,大田区としての考え方を明確にするために,「耐震補強・特記仕様書」を作成した。

  耐震診断結果のIs値により,ランクAは補強なし,ランクBは多少の補強,ランクCは中程度の補強,ランクDはかなりの補強,ランクEは明らかに耐震性が劣っているため補強か改築かを総合的に判断するという5段階に分類している。

  耐震診断結果を建設年代別に分類すると,昭和30年代の建物については,Dランクが一番多く,Eランクも非常に多い。昭和40年代の建物については,Cランクが最も多く,昭和30年代の建物と比較すると,Aランクが増えてきており,昭和50年代の建物については,Aランクが最も多くなっている。これは,昭和40年代から建物の構造に関する関心が高まりはじめ,昭和50年代には,耐震化に対する取り組みが浸透してきていることを表している。

耐震補強にあたっては,以下の7点を原則的な考え方とした。
1  校舎は,建物の耐力を向上させる強度型の補強を基本とする。
2  RCの補強を基本に考える。
3  補強計画は,平面的,立面的にバランスのよい配置を重視する。
4  基礎の耐力に余裕のない場合は,鉄骨系の補強とする。
5  教室の窓側に補強する場合は,採光確保のため,鉄骨系補強とする。
6  ピロティ柱の補強は,「鉄板巻き」又は「袖壁補強」を状況により使い分ける。
7  スリットを切って極脆性柱を解消する手法は,極力採用しない。

  Is値を0.75以上にするために,基礎構造に余裕がない場合は,鉄骨系の補強を実施することとし,窓側に補強を入れる場合は鉄骨ブレース,廊下側に補強する場合は鉄骨パネルにより補強した。また,基礎構造に余裕がある場合は,スパンが短ければRC耐震壁,スパンが長ければ(8mスパン)2開口付RC耐震壁により補強した。その他,状況に応じて,柱の鉄板巻き補強等を実施した。

  耐震工事については,夏休み期間としていたが,夏休み中に終了せず,授業中に工事を行うことになる場合には,工事を円滑に進める上で,工事で使用する部分と養生する部分,生徒が使用する部分とを明確に分けることが重要となる。

  耐震補強の実施において,騒音,粉塵などが発生し,近隣住民からの苦情があった。また,耐震補強等を実施した場合,室内環境が従前よりも悪くなることが多く,これらをどう解消していくかが一番大事な点と考えられる。

  耐震補強等に要した経費126億円のうち,89億円を区で出しており,かなり負担が重いというのが実情であった。やはり,財政状況を改善しないことには,なかなか耐震化は進んでいかないのではないか。
  膨大な件数の耐震補強工事を実施するには,ある程度馴れた設計事務所等でないと作業が進まないため,設計事務所の選定をはじめ,確実に耐震補強を実施するための情報あるいは仕組みが必要と思われる。

(2)自由討議

  補強方法として,RC耐震壁による補強が一番多かったが,最近では鉄骨による補強が増えてきている。工事を5年間実施してきた中で,補強工事の方法に変化はあったのか。

  RC耐震壁による補強が多かったのは,コストが安価であるということが一番の理由である。ただ,工事現場での施工がうまくいくのであれば鉄骨でもよいと思うが,学校によっては,道路状況が悪く施工機械が現場に入れられなかったりするなど,鉄骨による補強が困難な状況も考えられる。

  余裕教室を多目的スペースや学習センターなどに活用している学校では,耐震補強等の工事に際し,廊下側の壁の撤去などの要望が出てくる。また,簡単な耐震補強でも部屋を入れ替えることによって,全体的な機能性が上がる場合もあると思う。

  大田区では,耐震補強の実施に際し,子どもたちへの負担が少なく,かつ,子どもたちにとってよりよい環境とすることを基本とし,さらに,コストや工期の面など,あらゆる観点から総合的に判断しながら,教室等の入れ替えも含め事業を実施した。

  大田区の取り組みにおいては,教育環境の改善計画と補強計画との組み合わせについて,様々なパターンを検討し,判定委員会に相談して計画を決定した。また,壁の設置,撤去についても,構造上のバランスのよさや使い勝手などの観点から,判定委員会のアドバイスを受けながら,整理した。

  大田区の人口は約60万人であり,日本の人口の約200分の1である。大田区で約300棟実施できたということは,単純に200倍して,日本全体では約6万棟の耐震化が実施できるという計算になる。全ての自治体が裕福というわけではないだろうが,やる気になれば全く不可能なことではないはずである。

(3)事務局より参考1,2について説明。

(4)自由討議

  現地調査結果(参考2)においては,一次診断を実施するという自治体が目立つが,一次診断を実施しても,ほとんど要補強という結果になってしまうのではないか。

  参考2のP.23に,「診断は,耐震上安全な建物を特定していく観点から,築年の新しいものより進めていく」とあるが,これは非常におもしろいやり方である。また,地域防災計画との連携を考えているところと全く考えていないところとがあるが,このことをどう考えていくかが,今後の検討課題である。さらに,耐震診断のみに対する国庫補助の要望が多いが,国において何か検討できないか。

  財政的に苦しい状態であるということはよく分かるが,耐震診断もできないほど,各自治体の財政は逼迫しているのか。文部科学省の補助がないので診断できないという意見は理解できない。診断くらいは自前で実施すべきであり,このような意識は変えていかないといけない。

  現地調査結果報告には,耐震工事に関する要望が非常に多い感じがする。騒音や工事期間などについては,ある程度の我慢も必要であり,この点については啓蒙していく必要があるのではないか。

  呼び水として国からの補助が出れば,耐震化事業は行いやすいと思う。また,国から期限付での実施の指示などがあれば,財政当局とも折衝できるため,行いやすいという自治体もある。

  自治体の中には,耐震補強にどれくらい予算がかかるのかということについて戸惑っているところもある。予算の基準ということではなく,目安としてこれくらいの費用がかかったという情報が必要ではないか。

  自治体には,もう少し危機感を持って学校施設の耐震化のための予算を確保しようという態度が必要である。例えば,美術館を建てることよりも,子どもの命を救う方が大切ではないのか。子どもたちの命を守ることを優先すべきであるという態度を国が示すことも必要ではないか。

  最終的には意識改革が重要であると思う。阪神・淡路大震災直後は,かなり耐震化に対する意識が高まっていたが,最近は意識が薄れてきている。

(5)事務局より参考3について説明。

(6)自由討議

  参考3では,耐震化の基本的な対象は昭和56年以前建築の建物としているが,昭和56年以降の建物でも,例えば,ピロティ構造や大空間の建物などは耐震化の対象に入れている。

  参考3では,判定の基本になるIso値を,想定される地震動の強さと,災害応急対策を実施する施設の用途との2つで決定することとしている。耐震改修等の整備の優先順位を決めるIs/Iso値とq’値との組み合わせについては,計画者側で工夫して判断することとしている。

  参考3を学校施設に特化して議論し,この中に,学校施設の耐震化についての現状及び要望を盛り込んでいけばよいのではないか。

  学校施設の耐震化については,緊急に措置するものと,環境の改善なども含め時間をかけて措置するものなど,幾つかに分類する必要があるのではないか。

(7)事務局より参考4について説明。

(8)自由討議

  耐震診断の結果を公表すると住民に不安を与えるという理由から,診断を実施することに消極的な自治体があるが,地震が起きた時,学校施設がどうなるかということを公開した上で,どのように対応していくかを検討するという姿勢が必要であり,公表していかないと,学校施設の耐震化は進まないのではないか。

  耐震レベルの現状,補強に必要な期間と費用,過去の被害の経験等,学校でも危険な被害が起こりうることなどを説明した上で,緊急の対策と万全の対策とをどのように実施していくかを考えることが必要ではないか。

  補強などの措置と,被災時の保障・災害対策とをリンクさせ,ある程度の補強等を実施しておけば利益になるという仕組みも視野に入れて考える必要があるのではないか。

  情報公開は重要なポイントであり,特に,緊急対策等も対象にする場合は,緊急の措置である旨の情報を付与しておかないと,万全の措置と誤解されてしまう。なお,緊急対策であっても,見た目は良くなくても補強のレベルは下げないようにすることが重要である。

  現状の対応としては,改築か補強か放置するかしかないが,緊急対策などを入れて,もう少し段階を分類することができないか。ただし,安い方法に流れてしまうことを防ぐため,幾つかの段階に分けた診断方法や補強方法と,その段階や内容に関する情報を公開するということをセットで提案できるとよいのではないか。

  地震調査委員会の報告では,今後30年,50年,100年以内の地震発生確率という区切りになっているが,これはそれぞれの用途に応じて選択されることを前提として準備した情報であり,学校施設の耐震化の優先順位のつけ方に応用する場合,一概にどの年数の予測結果を適用したらよいかということは言えない。また,日本のどの活断層によりいつ地震が起きてもおかしくないという発想でいるべきではないか。

  地震発生確率が高い地域から機械的に優先して耐震化を進めていくというように,割り切って地震発生確率を使うことはできるが,確率が低いものを無視していいとは言えず,使用する側の判断になる。

  個々の建物の耐震化について様々な判断をしていくためには,二次診断を実施しておく必要がある。また,診断の優先度について,どの建物がどれくらい危険なのかについては自治体の中でもある程度判断し,診断の優先度をつけることができるのではないか。

  特に鉄骨造の場合は,建物が破損した場合の危険度が必ずしもIs値の大きさに反映されておらず,詳細を見ないと優先順位はつけにくい。優先順位をつけるためには,ある程度詳しい診断が必要となる。参考4の『簡易耐震診断方法の開発』というような考えは,止めたほうがよいのではないか。

  情報を開示することによって,住民を不安にするという意見もあるが,現在のような地方分権の時代では,住民と連携した方が予算も確保しやすいのではないか。また,その地域の次世代を担う子どもたちが危険にさらされているというキャンペーンをした方が,よほど予算が確保できるのではないか。危険な状態であることを伏せておきながら,予算が確保できないと言うのはおかしいのではないか。

  事前に耐震補強等を実施した者に対しては,その建物が仮に被災した時に,行政が十分な補償をするという仕組みをつくったらどうか。補償費用を行政が出したとしても,建物が強くなることによって,全体の施設整備にかかる経費が減るので,使わなければいけない予算がずっと減ると思われる。

  事前に耐震補強を実施した者に対して補償することを主張すれば,学校や自治体にとってのインセンティブになり,地域住民に対しても,自治体がアピールできるようになる。このような仕組みづくりを考えていく時期に来ているのではないか。


(大臣官房文教施設部施設企画課)

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