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2.   エコスクールの整備 

環境を考慮した学校施設に関する調査研究協力者会議報告書「環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備について(平成8年3月)」より抜粋〜


2.1エコスクールの内容

第1節   基本的な考え方

   ここ数年来,文部省が展開している「21世紀に向けた新たな学習環境の創造」のための施策は,「学校環境への考慮 − 学習環境・教育環境の改善」という単体整備の施策から「社会・地域環境への考慮−インテリジェント・スクール」という周辺地域の中心となるべき文教施設の多機能化・高機能化等の施策へと変化してきており,対象空間の拡大に伴う核としての学校施設の在り方が模索されている。
   対象空間の拡大という施策の継続性及び近年の地球環境に対する国内外の取組を考慮すると,今後は,「地球・自然環境への配慮」を主たる目標とした環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備が求められている。
   ただし,従来から推進されている学校施設の室内環境の向上が,必ずしも目標に到達していないことを考慮すると,学習環境・教育環境についてもさらなる改善を図る必要がある。また,児童・生徒への教育の場である学校施設の本来の目的に留意するとき,学校施設自体が環境教育の教材として活用されることも望ましいといえよう。
   以上の点から,今後の学校施設としては,「環境を考慮して設計・建設され,環境を考慮して運営され,環境教育にも活かせるような学校施設」が望ましい。 すなわち,下図に示すように,環境を考慮した学校施設とは,施設面・運営面・教育面の3つの切り口で捉えることができるものである。1つの面だけが進んでいる学校施設もエコスクールと考えることが出来ようが,理想的なものとは言い難い。エコスクールの望ましい姿とは,施設自体の建築的要素と運営・教育という人的要素が,調和・機能する学校施設であると考える。
   本調査研究では,上述の3側面を施設づくりの観点から捉えて検討することとし,運営面に関しては,環境を考慮して運営するために必要な施設づくり上の工夫,学校施設を環境教育にも活かすために必要な施設づくり上の工夫等に関して言及することとする。
   考慮すべき環境としては,地球環境,地域環境,校舎内外の環境が,また,対象としては,地域の人々,児童・生徒を挙げることができ,それらを組み合わせてより簡明に言い換えれば,
   地球,地域,児童・生徒に,やさしく造る
   建物,資源,エネルギーを,賢く・永く使う
   施設,原理,仕組みを,学習に資する
となる。
   次節以降では,上記の3軸に沿って検討を行い具体的な工夫・手法等についても触れるが,これらを単に盛り込んで設計・建設しても,即「エコスクール」と定義できない。施設整備の観点からの「エコスクール」は,以下に述べる工夫や手法を適切に組み合わせることにより具現できると考えられるが,建設後の維持・管理,改造,解体までのライフサイクルを視野に入れた総合的な評価に基づいて組み合わせを決定することが大切である。

図ー1 環境を考慮した学校施設

第2節   やさしく造る

    近年,地球規模での自然環境に対する配慮や,地球環境に対する幅広い理解と学習の必要性がうたわれていることから,学校施設においても,従来の「インテリジェント・スクール」という概念に加えて,従来以上に環境を強く意識した総合的な見地から,施設を「やさしく造る」ことが重要な課題となっている。
   学校施設は,日常的に使用する児童・生徒を主体に考え,発達成長段階にある子供たちにふさわしい室内環境の向上を図ることが大切である。また,創造的で人間性豊かな子供を育成する教育の場として整備していくことに加えて,今後は環境教育についても配慮して整備していくことが望ましい。
   また,今日の学校施設は,地域の文化・教育の拠点,生涯学習の場として位置づけられることが一般化しつつあり,地域住民に対して,より開かれた施設環境を確保するとともに,地域における自然環境の保全に有効で,環境教育の場としても活用できるような学校施設の整備が望まれる。
   さらに,学校施設の建設,維持,解体というライフサイクルの中で,環境への負荷の低減を図っていくことも大切である。この場合,学内,地域という視点に加えて,地球的規模で考えることも極めて重要である。

(1)児童・生徒にやさしい環境を造る計画

1 環境に親しめる建築空間を造る工夫
     施設計画に際しては,児童・生徒が日常的な学校生活をとおして自然環境と関わり,その理解を深められるよう配慮することが大切である。毎日の登下校や,休み時間のちょっとした遊びやくつろぎの時間をとおして,身近に自然環境を感じたり,学び考えるような工夫が大切である。
   
(ア) 立地条件・配置計画・平面計画についての配慮
     学校施設の配置計画では,学校の敷地条件を単に平坦で整形なものとして求めるのでなく,元々の地形や植生を活かし,残しながら学校の施設環境を総合的に計画することが大切である。児童・生徒が環境に親しみやすくするためには,従来からある自然をなるべく残し,施設を周辺の自然となじませながら,それらを上手に活かした計画とする必要がある。
   すなわち,機能を満たすスペースを確保することから一歩進んで,校地及びその周辺の地形や自然の特性を活かした,施設全体の配置計画,平面計画を進めることにより,児童・生徒のための空間を豊かに整えて行くことが大切である。
   例えば,土地の起伏を利用して,レベル差のある内部空間を作ったり,それらを吹き抜け等で物理的,視覚的に連続させる等の工夫も考えられよう。このような工夫によって児童・生徒が日常生活の中で,学校の様々な場所を見たり,意識できるようにすることも環境に親しむためには大切である。
   さらに,学校施設の内部空間と外部空間とを,より密接に関連付けながら全体計画を考えて行くことが大切である。有機的に連続した学習・生活空間とつながったベランダ,テラス,中庭等の外部空間をとおして身近に自然を体感できるような工夫や,遊びのための外部空間の一画に樹木や草本,池やせせらぎを設ける工夫等,各々の学校の特性に合わせて考えることが必要である。
(イ) エコロジカルな形態の表現
     学校施設の建築としての形態や特徴,内外に用いる建築材料等は,児童・生徒が環境を意識したり,考えてゆく上での重要な要素である。周辺環境となじむ形態を取り入れたり,地場生産材を用いたり,あるいは地域風土に合った建築の納まりを取り入れる等の工夫が考えられる。また,木材や布などの材料を上手く使いながら,温かみと親しみのある雰囲気を造る等の工夫も有効である。
   
2 室内環境を良好に保つ工夫
     今まで,幾つか行われてきている小中学校の室内環境に関する実態調査結果によれば,現状の室内環境は必ずしも良好とは言い難い。地球環境の保全という崇高な理想を掲げるだけでなく,学校施設を日常的に使用する児童・生徒の立場に立って「やさしく造る」こと,すなわち,学校施設の室内環境水準の向上を図ることも必要不可欠である。
   
(ア) 健康的で快適な温熱環境の確保
     冬季の室内温熱環境を良好に維持するためには,断熱材,複層ガラスを用いた窓サッシなどを利用して,建物の断熱・気密性能を向上させるとともに,ルーバーと蓄熱壁を組み合わせて,室内に入射する日射熱を活用した暖房を行い,教室・オープンスペース・廊下の温度分布の均一化を図ったり,日射によるオーバーヒートを避ける工夫も有効である。また,暖房器具からの放射熱により,器具近傍の児童・生徒が不快と感じるような暖房方式を改め,床暖房や輻射式暖房など,頭寒足熱の理想的な暖房方式を採用することも望ましい。
   一方,夏季には,冷房設備が設置されている一部の特別教室を除く一般的な教室では,建物側の工夫,装置により,室内温熱環境を許容できる水準に保つことが望ましい。具体的には,外付けルーバー,出の深い庇,窓面緑化,樹木の植栽等を採用して,室内への直達日射の入射を防ぐとともに,植栽により照り返しを防止したり,二重屋根・二重壁,屋上緑化,壁面緑化等により,外部からの熱の侵入を防ぐ計画を行うことも望ましい。さらに一歩進んだ計画として,屋上散水を行うことによる蒸発冷却の活用も検討すべきであろう。
   従前より学校施設では,通風を用いて夏季の室内環境を調整していたが,今後は弱風時の対策の1つとして,自然対流などを利用して,通風の促進や室内の熱の排出の促進を図ることが望ましい。また,通風が不十分な場合には,天井に扇風機を設置することも有効な手法の1つと言える。
(イ) 健康的で快適な空気環境の確保
     一般的に暖房時の教室は,窓の開閉による換気を行っている程度である。極端な場合には,流入する温度の低い外気による温熱環境の乱れを嫌い,窓を全く開放しないことも考えられる。このような換気の状況下では,室内空気環境の悪化が避けられないので,普通教室においても継続的に換気が行えるような設備を設置すべきである。
   寒冷地では,必要な換気量の確保により不快な気流が生じたり,熱損失を助長して暖房用エネルギーの増大を招く場合がある。このため,取り入れる新鮮空気を予熱する設備,熱交換可能な換気の工夫や設備の導入が望ましい。
   また,近年問題視されている建材に関しても,十分配慮して,有害な汚染物質の発生がない,若しくは少ない建材を採用することが望ましい。
(ウ) 快適で学習するにふさわしい光環境の確保
  太陽光による教室内の極端な照度の不均一さを抑制するため,ライトシェルフを利用して太陽光を反射させて室内奥部に導き,昼光を活用した照明計画を行うことが望ましい。また,南側に光・熱環境を調整する空間を設置するなど建築計画的な工夫も考えられよう。
   照明設備に関しては,点滅区分を窓側と廊下側にきめ細かく分割して,昼光の状況に応じて点滅が行えるような配慮も必要である。
(エ) 快適で学習するにふさわしい音環境の確保
     周辺の道路騒音や鉄道騒音を始めとする外部騒音に対しては,遮音壁的な取り扱いが可能な建物を配置するなど,配置計画の段階からの配慮が必要である。具体的には,窓開けを必要としない冷暖房設備や防音対策を完備した特別教室や体育館等を緩衝帯とすることが考えられよう。
   一方,室内で発生する騒音に対する対策としては,壁や床の遮音性能の向上や仕上げ材の吸音性能の向上などの使用材料に対する配慮の他,静穏を必要とする空間からの分離・遮断など空間構成に対する配慮が必要である。
   
3 児童・生徒の利用を考慮した計画
     学校施設を日常的に使用する児童・生徒は建築,設備,家具,外構等の各種システムについての知識は乏しいため建築環境は一般の施設とは異なった配慮が求められる。
(ア) シンプルなシステムの採用
   児童・生徒の周りに配される様々なものは,扱いやすく,壊れにくく,安全で,かつ解りやすいものであることが必要である。さらに,時としてなされる,誤使用,手荒な操作に対しても十分に安全で堅牢であることが大切である。
   これは,ドアや窓サッシ,階段といった建築的なものから,換気,冷暖房,照明,あるいは衛生設備といった様々な設備機器やシステム全般に対して必要であり,学校施設で児童・生徒が触れる範囲の建築や設備のメカニズムやシステムは極力シンプルであることが望ましい。
(イ) パッシブなシステムの採用
   地域や地球規模での自然環境に対し,負荷を低減するためには,機械設備等をできるだけ使用しないで自然を上手に取り入れたり,エネルギーとして活用するなど,極力パッシブなシステムであることが望ましい。
   同時に,その機構や仕組みが児童・生徒にも視覚的,実感的に解るものとすることは学校 施設の教材化という観点からも重要である。
   これによって,児童・生徒が自宅をはじめとした様々な住環境や自然環境についての理解を深め,資源やエネルギーを無駄なく,効果的に使うことにつながると考えられる。
 
(2)地域にやさしい環境を造る計画
1 地域風土になじむ工夫
     学校施設は今日的課題として質的な向上が図られており,より効率的に進めるためには,それぞれの地域の気候風土の特性に応じた施設づくりが必要である。
   
(ア) 気候・風土の地域特性への配慮
   それぞれの地域の伝統的な町並みや建物の形態は,長い歴史の中で地域の自然条件や生活に対応して洗練されてきたものである。例えば,季節風を遮る形態,雨の多い地方での勾配の急な屋根や大きな軒の出,雪国での積雪への対応,蒸暑地での中庭のドラフト効果を利用した通風・換気への配慮,夏の日射の遮蔽の工夫等が挙げられるが,このような建物の地域環境に適応する様々な工夫を評価し,学校施設に積極的に取り入れていくことが望まれる。
   また,海風,山風,谷風の利用,蒸発冷却の利用など,地域的特性をエネルギーとして活用することも検討すべきである。
(イ) 地域景観に資する工夫
   学校はそれぞれの地域社会のシンボルとなる施設であることから,そのデザインは地域の風土,文化の文脈を踏まえた美しいものであるとともに,周辺の町並みや地域の景観等の周辺環境と調和する配慮が必要である。ところによっては歴史的景観の再現に資するデザインや地域特有の色彩の採用なども望ましい。
   さらに,町並みを構成する一員として学校施設も地域にとけ込む工夫とともに,地域に良質で豊かな外部空間を提供することにも留意し,隣接する公共施設,街路,公園,河川等と一体の連続した空間とする計画を立案することも考えられる。
(ウ) 周辺施設等への配慮
    学校施設は,周辺地域及び施設に対して日影,風下となる建物への通風阻害,校庭などの土 ほこり飛散,学校からの騒音など環境上の障害をできるだけ及ぼさない計画とすることが必要
   である。
   
2 地域生態系の保全につながる工夫
     地域環境のレベルでみるならば,学校は比較的まとまった面積の屋外オープンスペースを有する公共性の高い施設である。学校の敷地全体において自然面(土や植物で覆われた部分)の比率や緑被率を高めることは,それだけで,地域環境の生態的なポテンシャルを総体的に高めることに寄与することであり,広域的な環境計画の中でも1つの拠点として位置づけることができる。
   
(ア) 緑化
    緑化に当たっては,校舎等を配置した後の残余地をそのためのスペースとするのでなく,敷地計画の段階から,ある程度まとまった面積の屋外オープンスペースを緑化の対象とし,緑のボリュームを形成する基盤を確保しておくことが重要であろう。また,従来は積極的な緑化がなされなかった部分,例えば,校内道路,駐車場,サービスヤード等においても,機能に支障をきたさない範囲で,緑化を積極的に進めることが望ましい。
   学校敷地の敷地境界部の総延長は大きく,これに沿って一定の幅を持った緑地帯を確保することは,緑化面積の増大に寄与する。特に,接道部では,道路側の街路樹などとともに,緑の回廊を形成することに寄与し,周辺への緑の浸潤効果が期待される。
   また,学校は一定の圏域(学校区)によって分散配置される施設であることから,特に,都市部にあっては,他の公共施設とともに緑のネットワークを形成する拠点として位置づけられる。学校,公園緑地,他の公共施設,農地,河川,緑の豊かな住宅地などによって形成されるネットワークを経由して,植物や動物の個体移動や種の拡散が可能となり,地域全体の生態的なポテンシャルが上昇することを期待できる。
   さらに,これまで緑化の対象となることが少なかった校舎をはじめとする建築施設の屋上や壁面,テラス,ベランダなどの緑化も検討するべきであろう。
(イ) 生物が生息できる空間環境形成
   学校園あるいは教材園の施設をより自然性豊かな生態園とすることにより,植物種や動物種の多様性を確保でき,学校施設全体のエコアップにつながる。この場合,水面を導入することによって水生植物や水生昆虫の生息が可能となり,鳥類,両生類などを含めたより多様性の高い環境を形成する可能性が期待できる。
(ウ) 雨水の土中還元とリサイクル利用
   屋外オープンスペースの地表面の処理においては,不透水層の面積を最小限に抑え,地表水の土中還元を促進する素材と基礎の整備を行うことによって,自然面に準ずる効果を期待することができる。そのためには,透水性舗装材の積極的な利用,土中における一時貯留が可能な排水層の面的整備,建築物の屋根面に降った雨水の貯留と簡易濾過によるリサイクル利用のシステム等も有効である。
(エ) 地場生産素材の活用
   建築や屋外環境の整備に用いる素材に地場において生産されたものを積極的に使用することは生産環境の保全にも寄与し,望ましいことである。特に,地場生産材の木材を使用することは,地域林業の活性化を促し,広域的な地域環境の保全に不可欠な山林の維持管理が適正に行われることが期待される,ひいては,地域環境の向上に資すると考えられる。
 
(3)地球にやさしい環境を造る計画

    施設の建設には多くのエネルギーと建築材料が必要であり,このような資源をできるだけ有効に無駄なく使用し,環境にできるだけ負担を与えないようにすることが大切である。
   学校建築に使用する材料は,人体や環境に対し,有害でない材料であることはもちろん,再生産やリサイクルの可能な材料を選択すること,生産から最終処理までを含め,環境に大きな負荷を与える材料の使用を抑制する必要がある。また,特定地域の環境破壊につながらないような配慮が望まれる。
(ア) 環境負荷の少ない材料の選択
   木材や繊維などの再生可能な植物資材や石材などの自然材料は,加工に要するエネルギー消費量が少なく,環境への負荷の小さい建築材料の一例である。また,人工的に合成された材料に比べて安全で親しみのある材料でもあり,内装・外装仕上材料や構造材料として,それらを 適材適所に積極的に活用することが望ましい。  
(イ) 熱帯材の使用抑制
   大量に伐採され,地球的規模で環境の破壊が問題となっている熱帯材は,コンクリート型枠用等の合板として使われている。建築用途の伐採は熱帯林減少の主原因とは言い切れないものの,世界最大の熱帯材輸入国である我が国の責任は重く,建築分野としては,型枠再利用の促進,代替型枠(転用型枠,打込PC型枠,押出成形セメント板)の利用を進める必要がある。
(ウ) フロンの排出抑制・ノンフロン化対応製品の採用
    オゾン層を破壊し,二酸化炭素の数千倍オーダーの地球温暖化影響を持つフロンの排出抑制とノンフロン化は緊急の課題である。国際条約で規制されている特定フロンを使用した発泡断熱材,空調機器,消火機器の使用抑制やノンフロン化対応製品の採用を検討するとともに,維持管理段階や廃棄処分段階でのフロン漏洩抑制とフロン回収対策を検討する必要がある。
 

 
エコロジカルな形態
・自然の生態学的法則に従い,自然との一体感を感じさせるような形態。
ライトシェルフ
・窓の上部に設けた庇(中庇)のことで,窓際への直接入射光を遮るとともに,この庇により太陽光を天井に反射させて部屋の奥まで明るくする工夫。
パッシブ
・特別な機械を用いず開口部や壁,床などの部位や構造体全体,空間の形状など設計上の工夫によって建物の熱性能を向上させ,自然エネルギーを利用してコントロールすること。
ドラフト効果
・夏季に室内で暖められた空気がその比重が軽いため中庭面から上昇することにより,風の流れができること。
緑被率
・平面的な緑量を把握する場合に用いる尺度で,樹木や草本等の植物で覆われた部分の面積が敷地全体の面積に占める割合によって表現される。
エコアップ
・環境を構成する様々な要素の素材や形態を,できるだけ自然界に存在する状態に近づけることによって,エコロジカルなポテンシャルを高めること。 
フロン
・世界的にはCFC,HCFC,HFC等の化学名の略称が使われる。CFCがいわゆる「特定フロン」で,ターボ冷凍機,冷蔵庫,カーエアコン,発泡断熱材等に使われてきたが1996年の生産全廃が国際条約で取り決められた。


第3節   賢く・永く使う

   学校施設をできるだけ永く有効に使い続けて行くためには,日常の保守・点検,清掃・補修を適切に行うとともに,時宣を得た施設改造,設備の更新等が必要である。
   また,社会の変化,科学の発展の続く今日,数十年にわたって使っていく建物は機能変化に対応できる備えをしておくことが必要である。
   さらに,自然の恵みを活かし,資源やエネルギーを無駄なく効率よく利用しながら学校施設を使うためには,設備の維持・管理が適切に行われることが不可欠である。これらのためには,学校施設においても建設,運用,補修,改造,解体という建物のライフサイクルをとおしたコストや環境負荷を検討し,施設活用のための合理的な計画を立てることが必要である。

(1)
建物の寿命をのばす計画
1
機能変化に対応できる工夫
   学校規模の変動や教育内容の変化,情報化をはじめとする指導法の進歩,生涯学習のための夜間や夏冬の使用期間の拡大など,学校施設に求められる機能は,社会の要請に応え時とともに変化増大している。こうした機能変化に対しては,できるだけ多大な資源とエネルギーを使わずに対応できるような施設づくりの工夫が必要である。
(ア)
教育内容の変化に対応できる工夫
   学校の施設計画に当たっては,将来規模・施設需要と見合った適正な規模の施設となるよう,できるだけ正確に学校の将来像・学校規模を予測することが重要であり,将来の大きな変化が想定される場合には,その変化への対応も含めた全体計画を立てることが必要である。
   また,今日の学習空間は教室内にとどまるものではなく,校舎全体,屋外,さらに地域までも広がりを持っており,これらを連続した学習空間・施設と捉えて計画することも肝要である。さらに,多様な学習集団に対し,その規模や使用教材,教具などに応じて適切な大きさの学習空間を提供できるよう,可動間仕切りを導入するなどして弾力的な空間とすることも必要である。このためには,スペースの改造・模様替えが容易に行えるように構造・設備・インテリアに配慮した設計が望まれる。また,従来は,建築工事として設けられていた壁や棚などの造り付けの部分に替わる移動可能な家具を開発し,これを用いることによって空間構成の自由度を高めてゆくことが効果的である。
(イ)
設備更新を考慮した設計 設備配管は傷みやすいことから,建物を取り壊す数十年の間に何度か配管の更新工事を必要とすることが一般的である。こうした工事を行いやすいような配管ピットなどを設けておくことが必要である。
   また,機能要求の高度化に伴い増強も必要となることが多いことから,これらを考慮した設備配管・配線ルートを確保しておくことが大切である。さらに,進歩著しい視聴覚設備機器,パソコン,通信機器に対応するため,施設各所で機器を接続できる備え,受変電設備容量の余裕,配線増強のためのスペースのゆとりなども大切である。
2
永く使える材料の選定
   建築物の寿命を延ばすためには,柱やはりなど建築物の躯体を構成する材料の耐久性を十分に確保すること,並びに,それ自体が耐久性に富み躯体や下地材料の保護機能に期待できる仕上げ材を選定することが大切である。
   建築物の躯体に用いる代表的な材料として,木質系材料,鉄鋼類,鉄筋コンクリートがあげられる。中でも,鉄筋コンクリートは,今後とも基幹的な材料として広く使用されることが予想されるが,塩害やアルカリ骨材反応などによる早期劣化が一時期社会問題になったこともあり,耐久性確保についての十分な配慮が必要である。
(ア)
耐久性のある材料の採用
   木質系材料や石材は,自然界から伐り出してそのまま使用するものであり,もともと十分な耐久性を有すると考えられる。また,鉄鋼類は,主として表面に用いる仕上げ塗材の防錆性能により左右されるが,今日では,高耐久塗料など良好な防錆性能を有する仕上げ塗料が開発されており,その耐久性を確保することは十分に可能である。
   鉄筋コンクリートの耐久性は,使用するセメントや骨材,混和剤,調合条件,品質管理の良否,施工管理の良否,さらには地域環境に対する配慮の有無などにより大きく異なる。耐久性確保のためには,使用材料の選定,耐久性確保のための調合計画,コンクリートの品質管理体制や鉄筋に対するかぶり厚さの検査をはじめとする施工管理体制,酸性雨対策,海岸地や寒冷地といった立地環境に対する対策などについての基本的な検討が必要である。
   仕上げ材の選定に際しては,意匠面からだけではなく,それ自体の耐久性ならびに躯体や下地材料を保護する機能を併せて考慮することが求められる。
(イ)
耐久性のある構・工法の採用
   木質系材料については腐朽の機会を減ずるため,乾湿の繰り返し作用を受けにくい構法とすることをはじめ,高耐久接着剤の使用など,接合部の耐久性を確保する必要がある。鉄鋼類については腐食の機会を減ずるため,水が溜まらないような配置など,構法上の配慮が必要である。
   鉄筋コンクリートについては,外壁下部における凍害など,部分的に劣化することがあり,こうした箇所に対する補修を容易とする構法の導入が望まれる。
   劣化の速さが異なる材料を組み合わせてつくられる部材の耐久性は,その中の劣化が速い材料によって律せられる。こうした部材においては,部材を構成する各材料の劣化性状について詳細な検討が必要である。
3
維持・管理を容易にする工夫
   学校施設のライフサイクルにおける環境負荷が軽減されるためには,維持・管理が適切に行われることが不可欠である。そのためには,設計上の様々な配慮を行うとともに,計画的な維持・管理が行えるよう,人的,予算的な配慮が大切である。
(ア)
建築計画・構法上の工夫
様々な状況下で多数の児童・生徒が使う施設,設備,機器,家具等は,万一破損した場合に備えてなるべく汎用品を採用することが望ましい。
   学校における維持,補修を考慮し,清掃のしやすさを考慮した設計,清掃の容易な材料の選択が必要である。さらに,損耗部品,部位の交換・補修が容易に行えるような設計・材料の選択も必要である。
(イ)
設備計画上の工夫
設備機器の発停や温度調節などの日常操作を教職員に頼っている場合が多いことに留意し,設備機器の発停や室温などの環境状態を集中的に管理できるシステムなど,エネルギーを無駄なく活用しながら室内環境を良好に保ち,日常操作も容易になる方策を検討する必要がある。
(ウ)
メンテナンスを考慮した設計
保守・点検や軽微な補修,大規模な改修や改造の実施については,当初の設計段階から効率的なメンテナンスが行えるように,それぞれの時期を計画的に設定しておき,使用する部品等もこれらのメンテナンスの期間と対応した耐用年数のものを採用すべきである。また,施設の取り壊しを考慮して,設計段階の当初から解体発生材を少なくするプレファブ化の採用や,有害な廃棄物が生じないような検討をすることが望ましい。
   
(2)
自然の恵みを活かして使う計画
   太陽エネルギーをはじめとした自然の恵みを活かすことは,枯渇性資源である化石燃料の消費を抑え,環境への負荷の軽減にもつながるものである。計画に当たっては,その土地の気象条件を調査するとともに,その土地の気候風土が反映されている伝統的な町並みや歴史的建築物を今一度見直し,その土地に根ざした自然の恵みの享受方法を設計に反映することが大切である。
(ア) 通風
夏季,春秋季の卓越風に合わせて校舎内の通風経路を適切に計画すれば,窓の方位や日除けの工夫と相まって,許容できる範囲内の室内環境を得ることができる。その際,効果的な通風が行える窓サッシの採用や,通風を促進させる通風塔などの工夫をすることが有用である。
(イ) 自然採光
建物の南側窓面にライトシェルフを設置するなど,太陽光を上手に取り入れることができれば,教室内の明るさのばらつきを抑え,無駄な照明を消すことが可能となる。また,取り入れられた太陽光は,建物の断熱・気密性能が適切であれば,冬季には採暖にもなり,暖房装置を運転しなくても室温保持に貢献すると考えられるので,太陽光の上手な活用を図ることが望ましい。
(ウ) 太陽エネルギーの利用
眩しさを防ぎながら太陽熱を取り入れる窓の配置,形式などの建築的工夫のほか,太陽熱給湯,太陽光発電,太陽熱空気集熱パネルなどの太陽エネルギー利用の設備的な工夫について,導入規模,維持管理方法,休暇期間中の対策などを十分に考慮した上で,導入を検討することも望ましい。
(エ) その他の自然エネルギーの利用
外気温に比べて温度変化の少ない大地の恒温性を活かす工夫として,建物の地下ピットや地中に埋設した空気管に換気のための外気を通過させることによって,暖めたり,冷やす工夫が考案されているので,敷地条件等を踏まえた上で,検討することが望ましい。
   また,離島や風の強い地域では風力発電を,利用可能なせせらぎがある場所では小型水車による水力発電を検討することも望ましい。風車や水車は,その地域が有する自然の恵みの大切さを訴える身近な装置であり,教材としても活かせる工夫といえよう。
   
(3)
無駄なく・効率よく使う計画
   自然の恵みを活かして使う計画とともに,資源・エネルギーを必要なところで必要な分だけを利用することが重要である。また,資源・エネルギーの消費に伴って必ず発生する排水,排熱,廃棄物などの中にはまだ利用可能なものも含まれていることから,できる限り有効に活用しきることが大切である。
(ア)
熱損失を少なくする建築計画
夏の強烈な日射や蒸し暑さ,冬の積雪,季節風,寒冷さなど,外部の厳しい気象条件から室内環境を守るために,建物配置,建物形態,建物断熱,日除けの形態,天井高,天井形状などの建築的な工夫を行うことが大切である。
(イ)
エネルギーの効率的利用
   照明器具,冷暖房設備などに高効率機器を努めて用いるとともに,使用されていない教室等の照明や冷暖房を確実に消すこと,照明の点滅区分を窓側と廊下側で分けること,さらに照度に応じた点滅や調光を行うシステムを採用することなどを幅広く検討する必要がある。さらに,排気の熱を無駄なく利用する全熱交換型換気設備,発電した残りの排熱を暖房や給湯にも同時利用するコージェネレーションシステムなども,まだ利用可能なエネルギーの有効活用として検討に値しよう。
   また,ごみ焼却場,変電所,下水処理場などからの排熱を地区全体として有効活用する都市施設も建設されるようになっており,学校施設の立地条件によっては,そのような熱の受け入れも検討する必要がある。
(ウ)
水のリサイクル,雨水利用
   水資源を無駄なく有効に活用するためには,節水型器具の導入,雨水の便所洗浄水や校庭散水への利用,プール水の循環利用,排水再利用など水資源を無駄なく有効に活用する工夫を検討すべきである。これらの工夫は,上下水道への負担の軽減,雨水流出抑制による都市洪水の抑制にも寄与するものである。
(エ)
ゴミのリサイクル
   まだ利用可能な資源を有効に活用し,ゴミの発生量を減らすため,給食の生ゴミの堆肥化や
(オ)
再生可能な内装・設備材料の利用
   再生プラスチック,廃タイヤ利用の舗装材・床材,繊維くずボード,古紙利用壁材,下水汚泥を焼成した舗装ブロック等が建築資材として既に製品化されていることから,こうした再生材料を努めて使用すべきである。
   建築と設備の材料には,様々な複合材料や合金が多用されるが,建設時に出る残材や改修・解体時に出る廃材から,できるだけ元の性能に近いものに再生できるような材料の採用や構成素材への分解・分離が容易な工法等を検討する必要がある。
   また,製造過程で有害な産業廃棄物が発生する材料や,土壌汚染や水質汚染の原因となる材料は,環境に大きな負荷を与えることから,災害時の安全性も含めて,十分検討する必要がある。
(カ)
既存施設の有効活用
   現存する約3億m2を超える学校施設のストックは貴重な資産であり,これらの施設を有効に活用していくことは,新たな施設建設による資源やエネルギーの消費を抑制するために大きく貢献する。現存施設を有効に使い続けていくために,施設改造,構造的な補強,設備の更新に際しては,できるだけ新たに建設される施設と遜色のないような整備を行い,現存施設の有効活用を図ることが望ましい。

コージェネレーション
・ガスや石油などを燃料として,発電とともにその排熱を冷暖房給湯などに無駄なく活用するシステムで,エンジンやタービンによる方式のほか,燃料電池による方式がある。 紙類・びん缶類の分別収集などが必要である。このことは地域の環境向上に役立ち,また,児童・生徒の環境教育用の教材として活かせるものである。


第4節   学習に資する
   
   建築物の建築及び運営は,地球環境・地域(屋外)環境,室内環境の各々に関係するものであり,それぞれに対し,できるだけの配慮がなされていることが望ましい。そのことが,長期的には環境に対する意識向上に資するものと考えられる。
   特に,学校施設は児童・生徒に対して,学習の場となる校舎そのものをとおして,科学的,実践的な方法等により環境に配慮した建物空間を体験させ,かつ,エネルギーの使われ方,さらには設備機械の仕組みや原理がわかるようにすることが望ましい。
   また,児童・生徒に対してばかりではなく,地域社会の中心施設,生涯教育の場として地域の人々にも広く影響を及ぼすものであることを考慮すると,環境に配慮した学校施設は,地域の人々の環境についての意識向上に大変役立つと考えられる。
   
(1)児童・生徒が環境について学習できる計画
   
   児童・生徒にとって学校施設は一日のかなりの時間を過ごす建物であることから,学校施設そのものが環境を考慮することの教材となるよう建物サイドで工夫することが大切である。
   また,実際に導入された設備については,原理・仕組みを理解できる工夫及び性能を体感できる工夫をすることも有効である。
   
  (ア)施設から学習できる工夫
       屋上緑化,壁面緑化,ベランダ緑化,外側ルーバー等の環境に配慮した様々な工夫を採り入れた建物デザイン,日射による負荷を削減するための適切な樹木の選定や庇・ブラインドなどの設置,トップライト・ハイサイドライトの設置などは,それが目に触れるという点でも採用するのに有効な工夫として挙げられる。さらに太陽電池や風力発電設備などの自然エネルギー利用については,機器が大きく目立つので環境に対する意識向上に役立つと考えられる。また,周辺にゴミ焼却場や下水処理施設等のように大量の熱を発生する施設が存在する場合には,それらの排熱(いわゆる未利用エネルギー)を利用できる施設とし,その排熱を学校施設で利用すれば,省エネルギー意識の向上も期待することができる。学校施設が電力・ガス・水道・下水道などのインフラに与える影響も考慮しておく必要がある。この点で蓄熱式空調システム,コージェネレーションシステム,雨水貯水槽なども有効なシステムと思われる。このような施設を設置することで,学校施設ひいては,自らが使うエネルギーとインフラとの関係を理解できるようになろう。
   また,生態園をとおして生物や生物現象についての観察,実験などを行うことは,環境教育の教材として非常に有効である。
   さらに,児童・生徒が環境を考慮した学校施設から学べるようにわかりやすく図示した説明パネルや表示等の工夫をすることも有効である。
   
    (イ) 原理・仕組みを理解できる工夫
       実際に導入された仕組み・設備については,危険でない限り,そのそばまで近づけること,場合によっては触れられることが望ましい。また,教室内の空調機のフィルターの清掃や太陽電池パネルの表面の清掃等,危険のない範囲で,児童・生徒が設置した機器に触れられるようにしておくことは,実際の仕組みの理解につながると考えられる。また,完成後は目に触れない空調設備等については建設段階での経過をパネル化したり,実物の一部を展示するなどの工夫も有効である。
   
    (ウ) 性能を体感できる工夫
       導入された仕組み等の性能を体感できる工夫をすることも重要である。電力量計や,温度計などの測定機器を付け,感覚的に性能が判るようにしておくことは1つの方法であるが,噴水や滝などの動力として用いることも有効である。
   また,自然エネルギーの効果を知ることを目的としてトップライトやハイサイドライトにブラインドやカーテンを取り付けておき,光を遮断するとどのくらい暗くなるのかを試すなどのソフト面での工夫も有効と思われる。
   
(2)地域の人々の意識向上に役立つ計画
   
   学校は地域の財産であり,人々にとって身近な文教施設であることから,学校施設を地域の人々に環境 に対する意識向上に役立つ計画とすることが必要であり,生涯学習の教材として,学校 施設を活用できることが望まれる。
 
    (ア) 環境を考慮した建物デザイン
       地域の風土,文化,伝統を踏まえ,周辺環境に調和した景観への配慮をするとともに,屋上緑化,壁面緑化,ベランダ緑化,外側ルーバー,庇等の環境に配慮した様々な工夫を外部からも見えるように積極的に採り入れた建物デザインとすることは地域の人々に対する訴えとして意義がある。
   
    (イ) 環境について知識を深める
       地域の人々に環境について知識を深めるためには,わかりやすく体系的に理解できる説明模型,パネル等を設置する必要がある。例えば,積極的に地域の人々の目に留まりやすい周辺道路沿いに雨水利用システムの貯水量を目に見える形で表示し,水資源の有効活用,節水を呼びかけることなどが考えられる。
   このようにして学校施設が,生活に身近な緑化,太陽熱の利用,水のリサイクル,雨水利用,生ゴミの堆肥化などの技術手法を採用し,生涯学習の教材とすることにより,省エネルギー,リサイクル,生活排水,ゴミ等の地域の環境問題に対する意識向上に役立つこととなり,ひいては,環境への負荷を低減するライフスタイルにも役立つと考えられる。
 
   
インフラ
  インフラストラクチュアの略称で,電力・ガス・水道・下水道などの供給処理基盤施設の総称。
蓄熱式空調システム
  冷房用の熱を夜間に冷水として蓄えておき冷房が必要な昼間に使用するシステム。
 


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