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第4節   学習に資する
   
   建築物の建築及び運営は,地球環境・地域(屋外)環境,室内環境の各々に関係するものであり,それぞれに対し,できるだけの配慮がなされていることが望ましい。そのことが,長期的には環境に対する意識向上に資するものと考えられる。
   特に,学校施設は児童・生徒に対して,学習の場となる校舎そのものをとおして,科学的,実践的な方法等により環境に配慮した建物空間を体験させ,かつ,エネルギーの使われ方,さらには設備機械の仕組みや原理がわかるようにすることが望ましい。
   また,児童・生徒に対してばかりではなく,地域社会の中心施設,生涯教育の場として地域の人々にも広く影響を及ぼすものであることを考慮すると,環境に配慮した学校施設は,地域の人々の環境についての意識向上に大変役立つと考えられる。
   
(1)児童・生徒が環境について学習できる計画
   
   児童・生徒にとって学校施設は一日のかなりの時間を過ごす建物であることから,学校施設そのものが環境を考慮することの教材となるよう建物サイドで工夫することが大切である。
   また,実際に導入された設備については,原理・仕組みを理解できる工夫及び性能を体感できる工夫をすることも有効である。
   
  (ア)施設から学習できる工夫
       屋上緑化,壁面緑化,ベランダ緑化,外側ルーバー等の環境に配慮した様々な工夫を採り入れた建物デザイン,日射による負荷を削減するための適切な樹木の選定や庇・ブラインドなどの設置,トップライト・ハイサイドライトの設置などは,それが目に触れるという点でも採用するのに有効な工夫として挙げられる。さらに太陽電池や風力発電設備などの自然エネルギー利用については,機器が大きく目立つので環境に対する意識向上に役立つと考えられる。また,周辺にゴミ焼却場や下水処理施設等のように大量の熱を発生する施設が存在する場合には,それらの排熱(いわゆる未利用エネルギー)を利用できる施設とし,その排熱を学校施設で利用すれば,省エネルギー意識の向上も期待することができる。学校施設が電力・ガス・水道・下水道などのインフラに与える影響も考慮しておく必要がある。この点で蓄熱式空調システム,コージェネレーションシステム,雨水貯水槽なども有効なシステムと思われる。このような施設を設置することで,学校施設ひいては,自らが使うエネルギーとインフラとの関係を理解できるようになろう。
   また,生態園をとおして生物や生物現象についての観察,実験などを行うことは,環境教育の教材として非常に有効である。
   さらに,児童・生徒が環境を考慮した学校施設から学べるようにわかりやすく図示した説明パネルや表示等の工夫をすることも有効である。
   
    (イ)原理・仕組みを理解できる工夫
       実際に導入された仕組み・設備については,危険でない限り,そのそばまで近づけること,場合によっては触れられることが望ましい。また,教室内の空調機のフィルターの清掃や太陽電池パネルの表面の清掃等,危険のない範囲で,児童・生徒が設置した機器に触れられるようにしておくことは,実際の仕組みの理解につながると考えられる。また,完成後は目に触れない空調設備等については建設段階での経過をパネル化したり,実物の一部を展示するなどの工夫も有効である。
   
    (ウ) 性能を体感できる工夫
       導入された仕組み等の性能を体感できる工夫をすることも重要である。電力量計や,温度計などの測定機器を付け,感覚的に性能が判るようにしておくことは1つの方法であるが,噴水や滝などの動力として用いることも有効である。
   また,自然エネルギーの効果を知ることを目的としてトップライトやハイサイドライトにブラインドやカーテンを取り付けておき,光を遮断するとどのくらい暗くなるのかを試すなどのソフト面での工夫も有効と思われる。
   
(2)地域の人々の意識向上に役立つ計画
   
   学校は地域の財産であり,人々にとって身近な文教施設であることから,学校施設を地域の人々に環境 に対する意識向上に役立つ計画とすることが必要であり,生涯学習の教材として,学校 施設を活用できることが望まれる。
    (ア) 環境を考慮した建物デザイン
       地域の風土,文化,伝統を踏まえ,周辺環境に調和した景観への配慮をするとともに,屋上緑化,壁面緑化,ベランダ緑化,外側ルーバー,庇等の環境に配慮した様々な工夫を外部からも見えるように積極的に採り入れた建物デザインとすることは地域の人々に対する訴えとして意義がある。
   
    (イ)環境について知識を深める
       地域の人々に環境について知識を深めるためには,わかりやすく体系的に理解できる説明模型,パネル等を設置する必要がある。例えば,積極的に地域の人々の目に留まりやすい周辺道路沿いに雨水利用システムの貯水量を目に見える形で表示し,水資源の有効活用,節水を呼びかけることなどが考えられる。
   このようにして学校施設が,生活に身近な緑化,太陽熱の利用,水のリサイクル,雨水利用,生ゴミの堆肥化などの技術手法を採用し,生涯学習の教材とすることにより,省エネルギー,リサイクル,生活排水,ゴミ等の地域の環境問題に対する意識向上に役立つこととなり,ひいては,環境への負荷を低減するライフスタイルにも役立つと考えられる。

 
インフラ
  インフラストラクチュアの略称で,電力・ガス・水道・下水道などの供給処理基盤施設の総称。
蓄熱式空調システム
  冷房用の熱を夜間に冷水として蓄えておき冷房が必要な昼間に使用するシステム。


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