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第3節   賢く・永く使う

   学校施設をできるだけ永く有効に使い続けて行くためには,日常の保守・点検,清掃・補修を適切に行うとともに,時宣を得た施設改造,設備の更新等が必要である。
   また,社会の変化,科学の発展の続く今日,数十年にわたって使っていく建物は機能変化に対応できる備えをしておくことが必要である。
   さらに,自然の恵みを活かし,資源やエネルギーを無駄なく効率よく利用しながら学校施設を使うためには,設備の維持・管理が適切に行われることが不可欠である。これらのためには,学校施設においても建設,運用,補修,改造,解体という建物のライフサイクルをとおしたコストや環境負荷を検討し,施設活用のための合理的な計画を立てることが必要である。

(1)
建物の寿命をのばす計画
1
機能変化に対応できる工夫
   学校規模の変動や教育内容の変化,情報化をはじめとする指導法の進歩,生涯学習のための夜間や夏冬の使用期間の拡大など,学校施設に求められる機能は,社会の要請に応え時とともに変化増大している。こうした機能変化に対しては,できるだけ多大な資源とエネルギーを使わずに対応できるような施設づくりの工夫が必要である。
(ア)
教育内容の変化に対応できる工夫
   学校の施設計画に当たっては,将来規模・施設需要と見合った適正な規模の施設となるよう,できるだけ正確に学校の将来像・学校規模を予測することが重要であり,将来の大きな変化が想定される場合には,その変化への対応も含めた全体計画を立てることが必要である。
   また,今日の学習空間は教室内にとどまるものではなく,校舎全体,屋外,さらに地域までも広がりを持っており,これらを連続した学習空間・施設と捉えて計画することも肝要である。さらに,多様な学習集団に対し,その規模や使用教材,教具などに応じて適切な大きさの学習空間を提供できるよう,可動間仕切りを導入するなどして弾力的な空間とすることも必要である。このためには,スペースの改造・模様替えが容易に行えるように構造・設備・インテリアに配慮した設計が望まれる。また,従来は,建築工事として設けられていた壁や棚などの造り付けの部分に替わる移動可能な家具を開発し,これを用いることによって空間構成の自由度を高めてゆくことが効果的である。
(イ)
   設備更新を考慮した設計 設備配管は傷みやすいことから,建物を取り壊す数十年の間に何度か配管の更新工事を必要とすることが一般的である。こうした工事を行いやすいような配管ピットなどを設けておくことが必要である。
   また,機能要求の高度化に伴い増強も必要となることが多いことから,これらを考慮した設備配管・配線ルートを確保しておくことが大切である。さらに,進歩著しい視聴覚設備機器,パソコン,通信機器に対応するため,施設各所で機器を接続できる備え,受変電設備容量の余裕,配線増強のためのスペースのゆとりなども大切である。
2
永く使える材料の選定
   建築物の寿命を延ばすためには,柱やはりなど建築物の躯体を構成する材料の耐久性を十分に確保すること,並びに,それ自体が耐久性に富み躯体や下地材料の保護機能に期待できる仕上げ材を選定することが大切である。
   建築物の躯体に用いる代表的な材料として,木質系材料,鉄鋼類,鉄筋コンクリートがあげられる。中でも,鉄筋コンクリートは,今後とも基幹的な材料として広く使用されることが予想されるが,塩害やアルカリ骨材反応などによる早期劣化が一時期社会問題になったこともあり,耐久性確保についての十分な配慮が必要である。
(ア)
耐久性のある材料の採用
   木質系材料や石材は,自然界から伐り出してそのまま使用するものであり,もともと十分な耐久性を有すると考えられる。また,鉄鋼類は,主として表面に用いる仕上げ塗材の防錆性能により左右されるが,今日では,高耐久塗料など良好な防錆性能を有する仕上げ塗料が開発されており,その耐久性を確保することは十分に可能である。
   鉄筋コンクリートの耐久性は,使用するセメントや骨材,混和剤,調合条件,品質管理の良否,施工管理の良否,さらには地域環境に対する配慮の有無などにより大きく異なる。耐久性確保のためには,使用材料の選定,耐久性確保のための調合計画,コンクリートの品質管理体制や鉄筋に対するかぶり厚さの検査をはじめとする施工管理体制,酸性雨対策,海岸地や寒冷地といった立地環境に対する対策などについての基本的な検討が必要である。
   仕上げ材の選定に際しては,意匠面からだけではなく,それ自体の耐久性ならびに躯体や下地材料を保護する機能を併せて考慮することが求められる。
(イ)
耐久性のある構・工法の採用
   木質系材料については腐朽の機会を減ずるため,乾湿の繰り返し作用を受けにくい構法とすることをはじめ,高耐久接着剤の使用など,接合部の耐久性を確保する必要がある。鉄鋼類については腐食の機会を減ずるため,水が溜まらないような配置など,構法上の配慮が必要である。
   鉄筋コンクリートについては,外壁下部における凍害など,部分的に劣化することがあり,こうした箇所に対する補修を容易とする構法の導入が望まれる。
   劣化の速さが異なる材料を組み合わせてつくられる部材の耐久性は,その中の劣化が速い材料によって律せられる。こうした部材においては,部材を構成する各材料の劣化性状について詳細な検討が必要である。
3
維持・管理を容易にする工夫
   学校施設のライフサイクルにおける環境負荷が軽減されるためには,維持・管理が適切に行われることが不可欠である。そのためには,設計上の様々な配慮を行うとともに,計画的な維持・管理が行えるよう,人的,予算的な配慮が大切である。
(ア)
建築計画・構法上の工夫
   様々な状況下で多数の児童・生徒が使う施設,設備,機器,家具等は,万一破損した場合に備えてなるべく汎用品を採用することが望ましい。
   学校における維持,補修を考慮し,清掃のしやすさを考慮した設計,清掃の容易な材料の選択が必要である。さらに,損耗部品,部位の交換・補修が容易に行えるような設計・材料の選択も必要である。
(イ)
設備計画上の工夫
   設備機器の発停や温度調節などの日常操作を教職員に頼っている場合が多いことに留意し,設備機器の発停や室温などの環境状態を集中的に管理できるシステムなど,エネルギーを無駄なく活用しながら室内環境を良好に保ち,日常操作も容易になる方策を検討する必要がある。
(ウ)
メンテナンスを考慮した設計
   保守・点検や軽微な補修,大規模な改修や改造の実施については,当初の設計段階から効率的なメンテナンスが行えるように,それぞれの時期を計画的に設定しておき,使用する部品等もこれらのメンテナンスの期間と対応した耐用年数のものを採用すべきである。また,施設の取り壊しを考慮して,設計段階の当初から解体発生材を少なくするプレファブ化の採用や,有害な廃棄物が生じないような検討をすることが望ましい。
   
(2)
自然の恵みを活かして使う計画
   太陽エネルギーをはじめとした自然の恵みを活かすことは,枯渇性資源である化石燃料の消費を抑え,環境への負荷の軽減にもつながるものである。計画に当たっては,その土地の気象条件を調査するとともに,その土地の気候風土が反映されている伝統的な町並みや歴史的建築物を今一度見直し,その土地に根ざした自然の恵みの享受方法を設計に反映することが大切である。
(ア) 通風
   夏季,春秋季の卓越風に合わせて校舎内の通風経路を適切に計画すれば,窓の方位や日除けの工夫と相まって,許容できる範囲内の室内環境を得ることができる。その際,効果的な通風が行える窓サッシの採用や,通風を促進させる通風塔などの工夫をすることが有用である。
(イ) 自然採光
   建物の南側窓面にライトシェルフを設置するなど,太陽光を上手に取り入れることができれば,教室内の明るさのばらつきを抑え,無駄な照明を消すことが可能となる。また,取り入れられた太陽光は,建物の断熱・気密性能が適切であれば,冬季には採暖にもなり,暖房装置を運転しなくても室温保持に貢献すると考えられるので,太陽光の上手な活用を図ることが望ましい。
(ウ) 太陽エネルギーの利用
   眩しさを防ぎながら太陽熱を取り入れる窓の配置,形式などの建築的工夫のほか,太陽熱給湯,太陽光発電,太陽熱空気集熱パネルなどの太陽エネルギー利用の設備的な工夫について,導入規模,維持管理方法,休暇期間中の対策などを十分に考慮した上で,導入を検討することも望ましい。
(エ) その他の自然エネルギーの利用
   外気温に比べて温度変化の少ない大地の恒温性を活かす工夫として,建物の地下ピットや地中に埋設した空気管に換気のための外気を通過させることによって,暖めたり,冷やす工夫が考案されているので,敷地条件等を踏まえた上で,検討することが望ましい。
   また,離島や風の強い地域では風力発電を,利用可能なせせらぎがある場所では小型水車による水力発電を検討することも望ましい。風車や水車は,その地域が有する自然の恵みの大切さを訴える身近な装置であり,教材としても活かせる工夫といえよう。
   
(3)
無駄なく・効率よく使う計画
   自然の恵みを活かして使う計画とともに,資源・エネルギーを必要なところで必要な分だけを利用することが重要である。また,資源・エネルギーの消費に伴って必ず発生する排水,排熱,廃棄物などの中にはまだ利用可能なものも含まれていることから,できる限り有効に活用しきることが大切である。
(ア)
熱損失を少なくする建築計画
   夏の強烈な日射や蒸し暑さ,冬の積雪,季節風,寒冷さなど,外部の厳しい気象条件から室内環境を守るために,建物配置,建物形態,建物断熱,日除けの形態,天井高,天井形状などの建築的な工夫を行うことが大切である。
(イ)
エネルギーの効率的利用
   照明器具,冷暖房設備などに高効率機器を努めて用いるとともに,使用されていない教室等の照明や冷暖房を確実に消すこと,照明の点滅区分を窓側と廊下側で分けること,さらに照度に応じた点滅や調光を行うシステムを採用することなどを幅広く検討する必要がある。さらに,排気の熱を無駄なく利用する全熱交換型換気設備,発電した残りの排熱を暖房や給湯にも同時利用するコージェネレーションシステムなども,まだ利用可能なエネルギーの有効活用として検討に値しよう。
   また,ごみ焼却場,変電所,下水処理場などからの排熱を地区全体として有効活用する都市施設も建設されるようになっており,学校施設の立地条件によっては,そのような熱の受け入れも検討する必要がある。
(ウ)
水のリサイクル,雨水利用
   水資源を無駄なく有効に活用するためには,節水型器具の導入,雨水の便所洗浄水や校庭散水への利用,プール水の循環利用,排水再利用など水資源を無駄なく有効に活用する工夫を検討すべきである。これらの工夫は,上下水道への負担の軽減,雨水流出抑制による都市洪水の抑制にも寄与するものである。
(エ)
ゴミのリサイクル
   まだ利用可能な資源を有効に活用し,ゴミの発生量を減らすため,給食の生ゴミの堆肥化や
(オ)
再生可能な内装・設備材料の利用
   再生プラスチック,廃タイヤ利用の舗装材・床材,繊維くずボード,古紙利用壁材,下水汚泥を焼成した舗装ブロック等が建築資材として既に製品化されていることから,こうした再生材料を努めて使用すべきである。
   建築と設備の材料には,様々な複合材料や合金が多用されるが,建設時に出る残材や改修・解体時に出る廃材から,できるだけ元の性能に近いものに再生できるような材料の採用や構成素材への分解・分離が容易な工法等を検討する必要がある。
   また,製造過程で有害な産業廃棄物が発生する材料や,土壌汚染や水質汚染の原因となる材料は,環境に大きな負荷を与えることから,災害時の安全性も含めて,十分検討する必要がある。
(カ)
既存施設の有効活用
   現存する約3億m2を超える学校施設のストックは貴重な資産であり,これらの施設を有効に活用していくことは,新たな施設建設による資源やエネルギーの消費を抑制するために大きく貢献する。現存施設を有効に使い続けていくために,施設改造,構造的な補強,設備の更新に際しては,できるだけ新たに建設される施設と遜色のないような整備を行い,現存施設の有効活用を図ることが望ましい。

コージェネレーション
・ガスや石油などを燃料として,発電とともにその排熱を冷暖房給湯などに無駄なく活用するシステムで,エンジンやタービンによる方式のほか,燃料電池による方式がある。 紙類・びん缶類の分別収集などが必要である。このことは地域の環境向上に役立ち,また,児童・生徒の環境教育用の教材として活かせるものである。


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