学校施設の防犯対策について(概要)

平成14年11月19日
 

1. 経緯
(1) 本調査研究協力者会議は、昨年6月に発生した大阪教育大学附属池田小学校事件を始め、近年の学校施設における犯罪の増加に鑑み、今後の学校施設における防犯対策の方針や計画・設計上の留意点について検討するため昨年の11月に設置された。
(2) 本調査研究協力者会議には、学校建築、防犯、学校安全等を専門とする学識経験者、学校教育や行政の関係者、防犯実務者等が参画し、国内外の学校施設の防犯対策に係る現地調査等も実施し、これまで約1年にわたり鋭意検討が行われてきた。
(3) 今般、本調査研究協力者会議としての取りまとめが行われ、11月19日に、長澤悟(東洋大学工学部教授)主査より、文部科学省に対して最終報告が提出された。

2. 報告書の主な内容
(1) 各学校施設において考慮すべき防犯対策に係る基本的な考え方として、
1 防犯対策を行い安全性を確保した上で地域に開かれた学校施設づくりを推進
2 来訪者を確認できる施設計画、見通しの確保や境界への囲障の設置、通報システムの各教室等への導入等が重要
3 ソフト面の防犯対策との連携や地域との協力体制の確立が不可欠
等の視点を示し、また、
(2) 学校の設置者が、各地域や各学校の特性に応じて具体的な防犯対策を計画・設計する際の留意点として、
1 施設配置、門、囲障、受付、窓・出入り口等に関する防犯対策
2 防犯監視システムや通報システムの導入
3 学校施設の開放時や複合施設の場合等の留意点
等を示し、さらに
(3) 学校施設の防犯対策に関する今後の推進方策として、
1 学校施設整備指針における防犯対策関連規定の改正
2 手引書の作成及び研修会の実施
3 チェックリストやマニュアル等の作成及び活用
等を挙げ、今後の我が国における学校施設の防犯対策の在り方を総合的に提言した内容となっている。

3. 今後の対応
  文部科学省としては、本調査研究協力者会議の最終報告を、各都道府県・市町村教育委員会、各学校等へ送付するとともに、今年度中を目途として「学校施設整備指針」における防犯対策関連規定を改正することを予定している。
  また、学校施設の防犯対策に関する手引書の作成及び研修会の実施に係る経費を、平成15年度概算要求しているところである。



報告書の概要

第1章  学校施設における防犯対策の方針
1  背景

(1) 学校を取り巻く社会状況
  平成11年12月に京都市小学校で、平成13年6月に大阪教育大学附属小学校で児童殺傷事件発生。
  我が国の学校における刑法犯認知件数は平成8年の29千件から平成13年の42千件へと増加。
(2) 学校の安全管理に関するこれまでの取組み
  「幼児児童生徒の安全確保及び学校の安全管理についての点検項目(例)」を改訂し、教育委員会等に対して改めて通知。(平成13年8月)
  「子ども安心プロジェクト」を開始。(平成14年度〜)
  学校施設の防犯対策に係る整備が国庫補助や地方交付税措置の対象。(平成14年度〜)
(3) 学校施設における防犯対策の検討の必要性
  学校において、児童生徒等の安全がまず第一に確保されることが必要。
  学校施設の防犯対策の在り方について総合的な観点から検討を行うため本協力者会議が設置。


2  学校施設の防犯対策を考える上での重要な視点

(1) 設置者等の責務
  学校の防犯対策は、地方公共団体や学校法人、国といった学校の設置者、教職員等が責任を持って実施することが必要。
(2) ソフト面の防犯対策との連携
  施設・設備面に係る対応のみならず、学校運営等のソフト面の対応をも併せて総合的に実施することが重要。
(3) 地域との協力体制の確立
  保護者や自治会、地元の警察や消防等と密接な連携を図ることが必要。


3  学校施設の防犯対策に係る基本的な考え方

(1) 地域に開かれた学校施設とその防犯対策の在り方
  地域の様々な人材が学校における諸活動に参加することは大切であり、これを促進するための施設計画は今後も推進することが必要。
  しかしながら、近年の状況を踏まえ、不審者の侵入を抑止し来訪者が不審者でないことを確認するための施設計画や、万が一不審者が侵入した場合の児童生徒等の安全確保のためのシステムを十分に検討し対策を講じることが必要。
  学校における児童生徒等の安全がまず第一に確保される必要があることから、学校施設の防犯対策を実施し安全性を確保した上で、地域住民等が利用・協力しやすい学校施設づくりを推進。
(2) 学校施設における防犯対策の視点
  各学校において、まずは次の対策を計画的に講じることが大切。
1 来訪者を確認できる施設計画
外部からの来訪者を確認でき、不審者の侵入を抑止することのできる施設計画が重要。
2 視認性や領域性を重視した施設計画
敷地内や建物内外の見通しを確保し、死角となる場所をなくすとともに、境界に門・囲障等を設置することが大切。
3 通報システムの各教室等への導入
万が一不審者が侵入した場合に備え、校内各所相互間や、警察、消防への迅速な連絡のための通報システムの導入が大切。
(3) 既存学校施設の防犯対策の推進
  施設の現状について点検・評価を行い、必要な予防措置を計画的に講じていくことが大切。
1 図面等による点検・評価
出入り口等の位置、主要動線を確認し、不審者の侵入口、侵入経路等を想定。
2 現場における点検・評価
門・囲障等の構造や施錠状況、死角の有無、管理諸室からの見通し、夜間照度等を確認。
3 防犯訓練による点検・評価
不審者の発見・通報、校内の情報伝達、避難誘導等についてシミュレーションを行う。


第2章  学校施設の防犯対策に係る計画・設計上の留意点
1  学校施設における防犯対策の原則

(1) 全体的な防犯計画
  建築計画的な対応と建築設備的な対応について、デザイン面での配慮や他機能とのバランス、費用面での検討等を踏まえ、個々別々ではなく総合的に計画し、全体として整合性がとれたものとすることが大切。
(2) 視認性・領域性の確保
  見通しを確保し死角となる場所をなくすよう、計画・設計について工夫することが大切。
(3) 接近・侵入の制御
  犯罪企図者の動きを限定し、犯罪を抑止するよう、計画・設計について工夫することが大切。
(4) 定期的な点検・評価の実施
  防犯対策に係る施設・設備は、定期的、また必要に応じ臨時に点検・評価することが大切。
(5) 防犯設備等の積極的な活用
  定期的な防犯訓練等を通じ、防犯設備の使用方法等について周知徹底を図ることが大切。


2  敷地境界及び敷地内部の防犯対策

(1) 施設配置
  敷地において死角となる場所がなくなるよう、各建物、屋外施設、門等を配置。
  管理諸室の配置について、アプローチ部分や屋外運動場等への見通しや、緊急時対応に配慮。
  特に低学年の児童生徒等については、屋外スペースを含めた活動範囲の明確化、敷地境界からの十分な距離の確保、管理諸室との位置関係等に配慮。
(2)
  管理諸室からの見通しがよく、死角とならない場所に設置。
  門の施錠管理を的確なものとすることに留意。
  障害者や高齢者の利用に支障が生じないよう配慮。
  建物内の受付場所への確実かつ円滑な誘導のための案内図等の設置。
(3) 囲障
  周辺状況や施設配置に応じて守るべき領域の境界に囲障を計画。
  見通しを妨げるブロック塀等は避け、視線が通り死角を作らないフェンス等の採用。
  隣接建物等からの侵入にも留意し、十分な高さや形状を確保。
(4) 外灯
  夜間の安全性確保のため、敷地境界等に、適度な照度を確保できる間隔で外灯を設置。
(5) 植栽
  見通しを確保し、死角の原因とならない植栽計画及びその維持管理の実施。
(6) 駐車場、駐輪場等
  来訪者の的確な確認のため、配置や構造等に留意。また、見通しを確保し、死角を生じないよう配慮。


3  建物の防犯対策

(1) 受付
  来訪者の確認と不審者の識別のため、来訪者対応用の受付を管理諸室に隣接した位置や開放部分の入り口等に設置。
  記帳や名札の受け渡し等が円滑に実施できる計画。
  保護者や地域住民、警察等の控室を受付に隣接して設置。
  用件が曖昧な来訪者等を案内し一時待機させるためのスペースを設定。
(2) 窓・出入り口
  設置階の教室や廊下等の窓・出入り口は、的確な施錠管理等に留意。
  管理諸室等の建具を透明なものとし、校内の状況を把握。
(3) 避難経路
  非常時の迅速な避難のため、複数の避難経路を確保。また、避難時に内側から解錠できる構造にも留意。


4  防犯監視システムの導入

(1) 設置目的・場所
  学校や地域の状況を踏まえ、設置目的を明確化し適合するシステムを導入。
  設置場所としては見通しが困難な場所や死角となる場所が有効。夜間照度の確保等にも留意。
(2) 出入管理
  来訪者の確認のため、必要に応じて認証装置、インターホン等を設置することも有効。
(3) 侵入監視
  設置目的を明確化し、室内や敷地境界等にセンサー、防犯カメラ等を導入することも有効。
(4) 監視体制への配慮
  教職員等にとって無理のない監視体制を考慮することが大切。
(5) 夜間・休日の機械警備
  警備会社と連携し、夜間や休日における防犯対策を行うことも有効。


5  通報システムの導入

(1) 通報装置
  校内各教室・スペース、校長室、職員室、事務室相互間や、警察、消防への迅速な連絡のため、インターホンや電話等の通報システムを導入。
  防犯ベル等の設置や教職員へのペンダント型押しボタンの配布等も有効。
(2) 連絡システム
  緊急事態の発生等を校内に迅速に伝達するため、校内連絡システムを整備。
  保護者等への迅速な伝達のため、携帯電話等も考慮に入れた緊急情報伝達網を整備。
  不安や混乱等を避けるため、通報装置や連絡システムの使用や運用のルールを確立。


6  その他の留意点

(1) 学校施設の開放時の留意点
  非開放部分に部外者が入らないようにすることが大切。
  管理者を置かない場合、錠の授受方法や保管方法、紛失時の対応等について明確化。
(2) 複合施設の場合の留意点
  専用部分、共用部分について、その領域、責任体制、役割分担等を明確化。
(3) 通学路の安全性の確保
  周囲からの見通しや夜間照度を確保するため、道路管理者等との連携が大切。
  危険や不安の多い通学路について、地域の状況等に応じて防犯ベル等を設置。
  安全パトロール等、地域ぐるみの取組みが大切。


第3章  学校施設における防犯対策の推進方策
(1) 学校施設整備指針における防犯対策関連規定の改正
  本報告を踏まえ、防犯対策に関する規定内容の一層の充実が必要。
(2) 手引書の作成
  学校や地域の特性に応じ、防犯対策に関する多様なケーススタディが必要。
(3) 研修会の実施
  学校関係者が防犯対策に関する知識や技術を習得するための研修会が必要。
(4) チェックリストやマニュアル等の作成及び活用
  個々の地域や各学校の特性に応じたチェックリスト、マニュアル等の作成が大切。
(5) 補助事業等の積極的な活用
  学校の設置者は、防犯対策に係る国の財政面等での支援の積極的な活用が大切。
(6) 海外の先進事例等の研究
  アメリカ、イギリス等の先進事例や関連施策の調査・分析が大切。
(7) ソフト面を併せた総合的な防犯対策の推進
  運営体制等のソフト面での防犯対策に係る取組みと一体的に推進することが大切。

(大臣官房文教施設部施設企画課)

-- 登録:平成21年以前 --