第1章 教室環境づくりの経緯と現状
我が国の教室環境づくりの経緯を振り返ると、まず、昭和25年に、学校施設を全国一定レベルに整備できるよう、「鉄筋コンクリート造の標準設計」 が作成された。この中で当面する教育の量的拡大に対応するために、片廊下形式の校舎が標準設計として示され、この形式の校舎が全国で建設されていった。
その後、教育の量的拡大期が過ぎ、教室環境づくり は、質的向上の面に重点を移し、このための指針等が作成・周知されるなど、今日まで教室等 の良好な環境の確保への努力が続けられてきたが、未だ十分な環境になっているとは言い難い状況である。
そして今日、教室環境をめぐって、次のような課題が提起されるに至っている。
1 教育内容・方法の多様化に対応した教室環境づくり
(教育内容・方法の多様化)
現行の学習指導要領では、一人一人の児童生徒に「生きる力」をしっかりと身につけさせることを目指して、教育内容の厳選、総合的な学習の時間の創設、選択教科の拡大等の方策が講ぜられた。各学校には、このような仕組みを活かして体験的・問題解決的な指導の重視、個別指導やグループ別指導、ティーム・ティーチングなどによる創意工夫ある教育活動が一層求められている。
(教室環境の多機能化・高機能化)
現在、上記のような学習指導要領のねらいの実現を目指し、個に応じた指導の充実や、総合的な学習の時間等に対応するため、普通教室と多目的スペースを一体的に計画するなど、個別学習やグループ学習等の多様な学習形態に弾力的に対応できる教室環境づくりが求められている。
また、コンピュータ、AV機器、校内LAN、多種多様な教材や家具等を活用した学習にふさわしい教室環境づくりも一層強く求められている。
2 健康的かつ安全で豊かな教室環境づくり
教室等は、豊かな人間性を育むのにふさわしい、快適で十分な安全性、防災性、防犯性や、健康的な環境を備えた安全・安心なものでなければならない。近年特に、耐震性の確保、環境との共生、防犯対策、バリアフリー化、健康面や安全性への配慮などの要請が高まっており、これらに対応した教室環境づくりも求められてきている。
3 教室環境に係る規制の在り方の見直し
(学校施設づくりの在り方の変化)
近年、国、地方を通じた厳しい財政状況を背景に、公共施設について、より効果的、効率的な整備、環境負荷の低減等が求められる中で、学校施設についても、建て替えから改修による再生整備への転換や、施設の長寿命化を図ることがより強く求められている。
また、少子化等による児童生徒数の減少に伴って生じている余裕教室等について、地域の他の用途の公共施設へ転用することなどによって有効活用を図ることも求められている。
(地方分権・規制緩和の推進)
近年、地方分権の推進の観点に立って、全国的な統一性や公平性を重視する「画一と集積」の行政システムから、住民や地域の視点に立った「多様と分権」の行政システムへの変革の動きが高まっている。また、地域社会の多様な特性、地域住民のニーズに応じた行政サービスを行うことができるよう、様々な分野における国の規制・基準の緩和や撤廃等の要請も強くなっている。
その具体的なものとして、「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16年3月閣議決定)において、「建築基準法における学校の教室の天井高さに係る基準の見直しの必要性について検討し、平成17年度中に結論を得る」こととされ、また「構造改革特区の第5次提案に対する政府の対応方針」(平成16年9月内閣府構造改革特別区域推進本部)において、「学校の教室の天井高のあり方について平成17年度上半期中に結論を得て、その後すみやかに必要な措置を講じる」こととされているところである。
 |
文部省(当時)が日本建築学会に委嘱して作成したもの。1教室の大きさは奥行き7メートル 間口9メートルであった。 |
 |
学習・生活を行う場である教室等について、物理的な教室空間に加え、教育面、安全面、快適性、耐用性などの観点から必要な機能を確保するよう教室等を計画・設計すること。 |
 |
教室等:普通教室、特別教室の他、多目的スペースを指す。 |
|