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以前、聴覚障害というのは遺伝性であるなどと言われた時期もあったが、現在は子どもが生まれる前後の周生期の障害としての聴覚障害が大変多くなっている。
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聴覚生理的に考えると、大脳皮質の聴覚野の部分は、聾教育の範疇ではなく、どちらかというと知的障害、重度心身障害児の範疇に入る教育が進められている。音を感じる器官である蝸牛管の障害については主に聾学校で対応している。今は形成外科が大変発達し、鼓膜の再生や耳小骨の部分については形成手術ができ、かなり医学的な手が入っている。もう一つ、蝸牛管のすぐ横にある三半規管は医療的な部分と連携しながら教育するところになっている。
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(高等部の卒業者には)毎年200人を超えるセンター試験の受験者を含めて大学進学者がおり、聴覚障害者のための筑波技術大学への進学もかなり進んでいる。雇用については、雇用促進法に基づく形で100パーセントを超える求人率が今でも進んでいるが、福祉就労、福祉関係で、重複障害の子どもたちにとってはそれぞれが障害別に施設を持っているところもあり、重複障害の子どもたちが若干苦労している。それでは、実際に聴覚に障害がある子どもたちが音をどのようにとらえているのかというのをちょっと聞いていただきたい。
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聴覚障害者の聞こえ方について、音声を使用して説明
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聾学校、聴覚障害教育については、一義的に聴覚の障害に対してどのようなケアをしていくのか、補償していくのかという部分であり、「自立活動」と言っている。これは、障害に関する部分の教育をする(教科ではなく)領域である。
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盲学校、聾学校、病弱養護学校及び肢体不自由養護学校の一部については、「準ずる教科指導」として幼稚園・小学校・中学校・高等学校と同等の教育課程を組んで指導しているところである。この「同等の教育課程」を組んで指導しながらも、その教科の中で聴覚の障害に関わるケアをする部分を、以前は「関する養訓」と言っていたが、現在は、「関する自立活動」として指導をすることとされている。
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センター的な機能に関わる部分で、学校の中に対する特別支援教育と学校の外に対する特別支援教育の2つに大きくきちんと分けていかなければならない。
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早期聴覚障害教育に関わる部分も施設的に配慮する必要がある。
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聾学校に在籍する子どもの「保有する聴力」を最大限活用する方法が重要である。(施設の実例については資料3−2を参考)
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赤外線補聴システムとフラットループ補聴システムのそれぞれの特性に配慮しながら、場所、活動を問わず、子どもたちの聴覚を保障することが必要。
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新生児の聴覚スクリーニングに伴う医療・保健とのつながりが必要。
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補聴器を通すと雑音も一緒に増幅されてしまうので、聾学校の環境を音を聞きやすくするための簡易防音等、工夫が必要。
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雑音を消しながら必要な音をきちんと補聴できるような環境が必要。
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聴覚に障害があると、二次的な障害として言語の障害が出る。その対応として、音声言語障害に関する指導が必要である。
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聴覚の障害を補完する情報保障として、「見える校内放送」システムなど、リアルタイムの文字情報をきちんと与えていく必要がある。自分の目で見て情報を選択し、判断し、行動し、責任を持って社会に出ていけるという子どもを育てるためにもぜひ必要である。(事例については資料3−3、3−4参照)
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日本語の文字言語による定着をきちんと図るため、通常の学校以上に教科・教材の整備が必要である。(葛飾ろう学校の図書館整備の経緯については資料3−8を参照)
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職業の専門に関する教育として、聾学校の高等部、普通学科、それから工業、商業、家政など、いろいろな形での職業の学校を全国に持っている。学習指導要領の高等学校の職業の専門教育にかかわる教科・科目プラス聾学校独自の部分の整備も欠かせることができない。
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聾学校の内外に対する聴覚センターとして、センター的機能を持つ聴覚支援センターの設置が必要である。自立活動も含めた形で聴覚補償・情報保障の点から必要な設備と備品については資料3−5を参照にして欲しい。同様に、新生児聴覚スクリーニングに引き続く形の早期教育という形での乳幼児教育の部分は資料3−6を参照にして欲しい。
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聾学校でも通級学級を持っており、難聴・言語障害学級等も含めた形での通級にかかわる部分の施設設備等を資料3−7に挙げる。
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都道府県や市町村教育委員会が参考にしている「通級による指導の手引」の抜粋を資料3−9に挙げる。難聴に関する記述を充実させていくことが必要。
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重複障害に関わる施設設備の部分では、全国の聾学校での調査で、平成17年度の重複率は12.6パーセント、本年度の重複率は14.1パーセントという形で若干伸びているが、他の障害と比べると、聾学校の場合、重複化の進展は顕著ではない。ただ、聾学校の通常の学級の中にも、若干情緒障害や自閉的な傾向のある子どもが近年多く在籍するようなところもある。
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重複障害学級がある学校では、「準ずる教科」の指導と、教科や領域を合わせた養護学校の知的養護の指導に関する部分について、施設設備の配置の工夫などが必要である。
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聴覚障害に対するバリアフリーは、なかなか進んでいない。どちらかというと、鉄道が一番進んでいるが、一番進まなければいけない聾学校がなかなか進んでいない。理解を広めるという意味でも、聾学校や難聴学校では、バリアフリーの最先端の環境のよい施設設備づくりが必要と思う。
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聴覚障害と他の障害との重複というのは、主にどういう種類になるのか。
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主に知的障害との重複率が一番多い。ただ、地方によっては肢体不自由養護学校への通学が困難な子どもについては、肢体不自由の子どもも重複学級にいる場合があるが、聾学校の中には肢体不自由の子どもに対する機能訓練の専門の教員や施設がないので、適正就学という意味からいうと、肢体不自由を併せ持っている子どもは肢体不自由養護学校の方が適切と私は考えている。
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聾学校で聴覚障害のためのバリアフリー化が余り進んでいないというのはどういうことか。
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歴史的に、聾学校は音が聞こえなくても話せるようにすることを目的としており、また、補聴器があまり発達していない時代から聾学校があったため、補聴器の発達や情報機器の発達に伴った形で学校施設設備や内容の整備が余りされてこなかったという考え方がよいと思う。補聴器、情報機器を活用すれば、かなりの活用できるだろうと思うが、既に明治時代には盲・聾学校があったので、歴史的な部分を引きずっている校舎もある。
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全国の聾学校の現実として、職業訓練的には、施設設備が非常に整った学校であっても、使われている形跡が少ない学校があった。最近の子どもたちが就職していく先と、古くからある聾学校の施設とのギャップみたいなものは相当あるのか。
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指摘のとおり、伝統的な聾教育は、「言葉」と「手に職」という2つの柱でなされてきた。これだけ産業が高度になり、多様化してくると、1つの職業だけではとても無理な部分があり、ここ10年ぐらい、聾学校での職業学科もしくは職業の教育課程の再編整備が進んでいる。ただ、そこでネックになるのが、新しい部分の職業学科に対して学校設置者がどのような考えを持っているかということと、指導する教員である。木工関係は聾学校の歴史的なところで、男の子は木工、女の子は縫製という形で、明治の後期から大正時代につくられたところがあり、古い職業観を引きずっている部分については、そういう現実がまだ残っている。一方、都市近郊では、例えば東京だと情報系とかデザイン系とか調理師関係、大阪だと福祉関係のコースなど、学科や教育課程の再編成が今進んでいるところである。
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一般論として、学校建築では吸音に注意して設計しないので、特に廊下などは非常に吸音性能が低くて、我々でもうるさい感じがするが、聾学校の場合、または一般学校の難聴言語の通級などがあるケースでは、吸音性の高い設計した方がよいのか。
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補聴器をしている子どもがいる場合には、音環境はかなり配慮しないと耳の健康のために悪い。これは聴覚障害だけではなく、実は自閉や情緒障害の子どもにも音に対して大変敏感な子どもがかなりいるので、建築上の配慮が必要だと考えている。
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次は、神尾先生から、視覚障害とその重複化について、レクチャーを受けたいと思う。 |