令和6年6月14日(金曜日)16時00分~18時00分
オンライン開催
永江座長、小関委員、成木委員、野中委員、日髙委員、藤井委員、前田委員、三原委員、三輪委員、吉田委員
西山基礎・基盤研究課長、村松素粒子・原子核研究推進室長、細野加速器科学専門官
大阪大学・中野教授、理化学研究所・初田プログラムディレクター、東京大学・郡司准教授
【永江座長】 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第2回のEIC計画及びこれに関連する原子核物理学の新たな展開に関する有識者会議を開催いたします。事務局よりオンライン会議開催に当たっての留意事項の説明をお願いします。
【細野専門官】 事務局でございます。本日はオンラインとのハイブリッド形式で会議を開催しておりますので、最初にオンライン会議の留意事項について御説明をさせていただきます。通信を安定させるため、御発言されるとき以外はカメラ、マイクをオフにしていただくようお願いいたします。御発言される際は、ウェビナーの挙手ボタンを押していただき、座長に指名されてからカメラ、マイクをオンにして御発言をお願いいたします。議事録作成のため、速記者を入れておりますので、お名前を言っていただいた後に御発言をお願いいたします。なお、報道関係者や一般傍聴者による傍聴を認めておりますので、御承知おきくださいますようお願いします。以上でございます。
【永江座長】 それでは続いて、事務局より本日の配付資料と委員の出欠の確認をお願いします。
【細野専門官】 それでは、配付資料の確認をいたします。画面に投映しておりますとおり、配付資料は資料1から3、参考資料1から6を御用意しております。なお、本日の資料、議事録は後日ホームページで公開いたします。
委員の出欠状況につきましては、本日は全委員が御出席でございます。続きまして、本日、有識者として3名の先生に御出席いただいておりますので、御紹介をいたします。
原子核物理学分野の研究者として御参加いただきます、大阪大学、中野先生でございます。
【中野先生】 よろしくお願いいたします。
【細野専門官】 理化学研究所、初田先生でございます。
【初田先生】 初田です。よろしくお願いします。
【細野専門官】 EIC日本代表として御参加いただきます、東京大学、郡司先生でございます。
【郡司先生】 よろしくお願いします。
【細野専門官】 以上でございます。
【永江座長】 ありがとうございます。それでは早速、議事に入ります。議題1として、原子核物理分野の研究者からのヒアリング及び意見交換について、事務局のほうから説明をお願いします。
【村松室長】 素粒子・原子核研究推進室長の村松です。よろしくお願いいたします。ヒアリング等意見交換の進め方について御説明をさせていただきます。
本日は、先ほど御紹介させていただきました中野先生、初田先生から、日本の原子核物理学の現状とEIC計画への期待、EIC計画の科学的意義とその波及効果について御説明をいただきます。
参考資料5と6を添付していますが、参考資料5は、前回の会議で御指摘いただいた主な内容をまとめています。原子核物理学の新たな展開に関連して、Fundamental Quantum Scienceという考え方とEICがどう関係するのかということ、原子核物理学を推進するということと量子コンピュータの発展の関係、核融合と原子核物理の関係、原子核物理学と他分野の連携を進めていくことはよいことだけれども、実際どうマネジメントをしていくのかということ、EIC計画について日本に期待されているのはどういうことか、前身のRHICでは分からなかった部分でEICで分かるようになるのはどういう部分かということ、日本へどういうリターンが期待されるのかということ、日本が物理の成果も取れるのかということを御指摘いただきましたので、今日は郡司先生から前回口頭で回答いただいた部分もありますけれども、改めて御説明をいただくこととしております。参考資料6は、前回のこの有識者会議の翌日に開催された基礎研究振興部会、文部科学省の科学技術・学術審議会の下に設置されている部会ですが、こちらでも原子核物理学の新たな展開について、先ほど申し上げたような核物理学と量子技術の関係等についてはっきりと説明すべきだという御指摘と、研究者が参加しやすい形態をつくってほしいということ、ダイバーシティーという観点もあるのではないかということ、EIC計画については、社会・国民からの理解・支持が重要という御指摘をいただいております。この点については、次回も含めて議論して、場合によっては次回以降もまた引き続き検討課題として議論していければと思っております。
3先生方から30分程度御説明をいただきまして、発表いただいた内容についての事実関係の確認等を20分程度していただいて、その後、今日は、資料2という形で中間報告に向けたディスカッションペーパーをお配りしておりますけれども、それに沿って意見交換を50分程度していただく予定です。ディスカッションペーパーについては、後ほど説明をさせていただきますので、まずは3先生方のヒアリングを進めたいと思います。以上です。
【永江座長】 ありがとうございました。ただいまの説明に関して御意見、御質問等ありましたらお願いします。よろしいでしょうか。
それでは、早速ではありますけれども、皆さんからのヒアリングに入りたいと思います。まずは、大阪大学の中野先生より10分程度で説明をお願いいたします。
【中野先生】 大阪大学、中野です。「日本の原子核物理学の現状とEIC計画への期待」ということでお話しさせていただきます。
まず、我が国の原子核物理学会の現状から入りたいんですが、ここに示しておりますのは、原子核談話会、実験核物理分野の研究者により構成される会ですが、その会員数の推移です。総会員数、それから、スタッフ(教員)、それから、学生と、だんだんと下がっていると。これが20年、30年続くと半減してしまうと、そういうような状況にあります。一方で、この分野を学んだ者は、エネルギー関連企業、コンピュータ関連、それから、金融業、コンサルティングなど幅広い分野で活躍しています。さらに、この会員の中身を詳しく見てみると、そこに所属する組織数が150であり、比較的小さなグループが多いということがあります。これは日本の国立大学よりも多いですので、原子核分野だけではなくて、多くの関連分野で活躍しているという、このことが分かります。次に、これは論文の推移なんですが、人数も減っておりますので、それに合わせて論文数も減っております。Top10%も減っております。研究力が減衰する危険性があるんですが、これもよく見てみると、大型の国際共同研究に入っているグループが出ている研究については、相変わらず被引用数は非常に高い割合がある傾向が分かります。このような状況を踏まえて今後どうするかなんですけれども、まずその前に、原子核物理学、実験ですけれども、その特徴と課題をまとめたいと思います。原子核物理といっても、広い分野、広いスケールを対象としております。その幅広い対象で、複雑な量子多体系を研究対象としているという点が、ほかの分野にはないところかなと思います。それから、比較的小規模な体制で実験が可能であり、また、実際に行われており、プロジェクト全体を俯瞰する能力が養われます。その結果、いろいろな分野に人材を輩出しております。すぐ隣の分野でも、例えばBelleⅡコラボレーションのスポークスパーソンの飯嶋さん、T2Kの市川さん、それから、加速器物理学の上垣外さんとか、いろいろな方を輩出しております。それから、応用範囲が広くて、社会に直接的な影響を与える分野で、重要な役割を果たしております。
今後の課題なんですが、研究の国際化・大型化・長期化への対応が求められてきます。それから、先端基盤技術、これはもう常に必要なんですけれども、その効率的な開発と継承ということが課題になってまいります。具体的な例が必要ですので、大阪大学核物理研究センターの実験研究を例にして御紹介したいと思います。核物理研究センターは、2基のサイクロトロン加速器を擁しておりまして、幾つかのビームラインがありますが、そのビームラインのそれぞれで基礎研究から加速器科学、産業応用、特に難治性がんを対象にしたアルファ線核医学治療、半導体ソフトエラーに対する対策、それから、異分野融合をミューオンで行っております。1つの研究所でもこれだけ広いものをしているんですが、それ以外に、例えばハドロン実験でありましたら、SPring-8とかJ-PARCにビームラインを擁しております。これはそれぞれの大きな実験施設の価値を高めているとも言えます。それから、先ほど、大型国際共同研究に対応が必要ということを申し上げましたが、現在、国際競争が激しくなっているニュートリノレス2重β崩壊については、東北大学ニュートリノ科学センターと連携して神岡に国際研究拠点を形成しております。国際共同研究という面では、この後で説明いたしますNPCが特徴的で、これはBelle/BelleⅡ実験に参加しております。また、基盤技術開発については、我々はデータ収集システムを開発することに取り組んでおります。データ収集システムというのは、小さな実験から大きな実験まで全てで必要で、基盤技術としては一番幅広い実験分野をカバーするものではないかと我々は考えております。
まず、NPCについてですが、これはKEKのSuperKEKBに関連しており、国内で実施されている国際共同研究では一番大きな実験グループであるBelleⅡコラボレーションに、日本及び近隣諸国の複数の研究機関の核物理研究者が参加する仕組みとしてコンソーシアムを設立しました。右に見えておりますのが、BelleⅡコラボレーションの中の日本の機関別のメンバー数ですけれども、NPCは、名古屋大学と並んで、KEKに次いで2番目に大きなグループを形成しております。原子核物理学の視点と興味でデータを解析して、ハードウエア・ソフトウエアの開発にも貢献しております。BelleⅡコラボレーションに入りますと、サービスタスクとかいろいろなコントリビューションを参加機関として求められるんですが、NPCは、その一つとして、核物理研究センターの計算機資源の一部をBelleⅡに提供するということを行っております。もう一つ、SPADI Allianceがあります。これは先ほど申し上げました標準データ収集系の必要性、それを意識共有している人たちによって構成された開発共同体でございます。2024年4月現在で129名。先ほど原子核談話会の会員数を言いましたけれども、大体600名のうち129名ですので、非常に大きなポーションがこの活動に携わっています。21研究機関が関わっており、データ収集システムの標準化や共通化を目指して活動しております。右に示しているのが、去年測定されたデータ収集スピードの改善に関するSPADI Allianceの実績です。従来のシステムに比べて、連続読み出しを行うことによって40倍高速なシステムを開発しております。これについては、少し詳しくお話ししたいと思います。ここにデータ収集システムを非常に模式的に示しております。データが箱で、下のベルトコンベヤーが収集システムとお考えください。従来のデータ収集システムというのは、ベルトコンベヤーの上をデータが動いていって、データの中身がいいか悪いか判断しないと記録できません。判断している間はベルトコンベヤーを一時停止するということをやっておりました。ストリーミング型連続型データ収集システムというのは、このベルトコンベヤーを止めることなくデータを収集するというシステムです。ベルトコンベヤー群を複数用意しまして、それぞれのベルトコンベヤー群にデータを並び替えるとか、事象を再構築するとか、いろいろなファンクションをつけまして、最終的に止めることなくデータを取り込むということをやります。EICでは、400Tbpsのデータを0.1Tbpsに圧縮する必要があります。これは少し分かりにくいかと思いますが、私が今まさしくこの発表で使っているコンピュータが1テラバイトです。だから、1秒間にこれが400台必要となるという、そんな膨大なデータを0.1まで圧縮しなければいけない。このような技術は、EICでは特に必要性は大きいんですけれども、原子核物理学だけではなく、大量のデータをリアルタイムで扱う多くの分野や産業でキーテクノロジーとなる可能性があると我々は考えております。そのストリーミング型のデータ収集システムですが、ここに具体例を書いております。一番左側にあるのが検出器で、そこから時間順にデータが入っていきます。1、2、3、4と書いてあるのは、タイムフレーム、時間のラベルのついた箱です。その中に順番にデータを入れていきます。1番は1番、2番は2番と、次のベルトコンベヤーでは箱ごとに分類いたします。それを時系列抽出のベルトコンベヤーでは、縦に並べて、箱の中の時間を見てグループ分けするわけです。さらには事象再構築というのは、これがどういうイベントであるかということを再構築しまして、ここは白と赤がありますけれども、赤はバックグラウンドで、白はシグナルとお考えください。シグナルだけ選別するということをいたします。現在、EICでは後段の階層はCPUを用いる予定ですけれども、我々はできるだけそれをGPUやFPGAにして、リアルタイム性を上げていきたいと思っております。このようなシステムをつくる上での戦略なのですけれども、まず、大規模化というのも、先ほど申し上げたように、EICだけではなくていろいろなところで必要になってきます。そういうシステムというのは、一般には構築も難しければ、修正も困難と考えられております。それゆえに、資源の柔軟な活用が必要となってきます。それから、データ収集システムへの要求として、リアルタイム性と高速性があります。それから、検出器というのは、常に入れ替えたり、アップグレードされるものですから、そういう環境の変更に対する柔軟な対応が必要です。開発の方針としては、高速処理を実現する鍵となるモジュール、ハードウエアを開発する。それから、並列処理のプロセス数、ベルトコンベヤーの数とか、階層構造、それを何列つなぐとかということを自在に変更することができるアーキテクチャーを開発する。そして、原子核物理学では非常に重要なのですけれども、小規模から大規模まで対応可能なスケーラビリティーを実現する。つまり、EICだけではなくて、日本で行われる研究、例えば核物理研究センターで行われるような小さな実験でも同じシステムを使うことができるようにするということを我々は目指しております。それによって、人の流動性とか分野を超えるということが容易になると考えております。
我々は、EICは千載一遇の機会だと考えておりまして、ここで日本で開発したシステムが実装されることによって、システムの国際標準化が一気に進むんじゃないかと、そういうふうに考えております。その後は、システムの基礎となる技術や手法を他分野や産業界に波及させる。例えばですけれども、量子コンピュータ、これもスケーラビリティーが課題の一つだと聞いております。そういうところでハイブリッドネットワークによるスケーラブルな量子コンピュータの開発、こういうところに役立つのではないかと思っております。
そういうことを進める上での組織整備なのですが、現在、東京大学と大阪大学が連携して国際量子物理ネットワーク型拠点を立ち上げております。SPADI Allianceは、これを基盤に国際的な開発プラットフォームへと成長していきたいと考えています。その上で、国際連携、国内連携を強めていきまして、スケーラビリティーのあるデータ収集システムの開発を行ってまいります。国際的な大規模実験であるEICでのシステム実装を実現することによって、国際標準化を進めます。そのことによって、量子物理分野での国際的な地位向上はもちろんのこと、世界の俊才が集まる場に、このようなシステムを導入することによって、同じシステムを使用する日本へ多様な人材を招き、また日本からEICだけではなく、EICに参加している欧米のいろいろな実験グループへの参加を促進し、国際的な頭脳循環が進んでいくのを期待しております。スケーラブルでトランスファラブルな技術だけじゃなく、そのような資質を持った人材も育成していきたいと考えております。
これは私なりに考えた原子核物理学を振興する意義です。もちろん科学的価値が一番大事で、それは十分あると思っております。それに加えて、イノベーションの創出とか、エネルギーの安定供給、人材育成への貢献が期待されていますし、我々は貢献していかないといけないと考えております。宇宙における物質の創成と進化を理解するための基礎科学、これについてはこの後、初田先生から詳しく話していただけると思いますが、それだけではなくて、量子、エネルギーの基礎科学でありますので、例えば量子コンピュータにおける量子アドバンテージの実証が原子核分野で一番最初に起こればいいなと考えております。産業、医療、その他の応用を通じてイノベーション創出に貢献いたしますし、また、核融合の基礎科学として、将来のエネルギー安定供給に貢献できるのではないかと思います。このフュージョンエネルギーなんですけれども、例がないと分からないと思いますので、次で例をお見せいたします。これが水素・ホウ素による核融合なんですけれども、水素とホウ素をぶつけて3つのヘリウム核をつくるという、そういう反応です。α粒子は荷電粒子ですので、いわゆる中性子の場合のようにブランケットは必要なくて、α粒子のエネルギーを直接電気エネルギーに変換できる可能性があるため、高い効率が期待されております。また、中性子の発生が他の核融合反応に比べて少ないために、炉材料へのダメージが軽減されると考えられております。また、ホウ素は地球上で容易に採掘でき、トリチウムよりも入手が容易で取扱いも簡単なので、そういう点で期待されております。ただし、この反応は断面積が十分あるかとか、本当に中性子が少ないのかとか、あるいはα粒子のエネルギースペクトルはどうなのかという、こういうことが分からないと実際には実現しませんし、前に踏み出せないわけです。こういう課題に原子核物理学が貢献します。AMDというのは、完全反対称化分子動力学、TDHFと書いてあるのはtime-dependent Hartree-Fockですが、こういう量子多体系の近似計算方法が物すごく進んできております。ただし、精度を上げるには計算資源がたくさん要ります。時間がかかります。しかしながら、これらは一種の量子シミュレーションですので、量子コンピュータが最も得意とするところです。量子コンピュータ分野と我々が手をつなぐことによって、これらの計算が精密かつ高速にできるような、そういう未来が来るのではないかと思います。その結果、これらの断面積とかスペクトルが分かれば、新しい核融合にも道が開けるんじゃないかと考えております。
最後がまとめのスライドになります。多分、時間をオーバーしつつあると思いますので、読み上げることはせず、この辺で終わりたいと思います。
【永江座長】 中野先生、ありがとうございました。説明に対する質疑応答は、初田先生と郡司先生の説明が終わってからまとめて行いますので、御質問は後ほどお願いいたします。
それでは続きまして、理化学研究所の初田先生より10分程度で説明をお願いいたします。どうぞよろしく。
【初田先生】 それでは、私のほうからは、EICの計画の科学的意義、波及効果ということに関して私の考えをお話ししたいと思います。
そもそも原子核物理学というのは、基礎科学としては、サブアトミックスケールである原子の大体1万分の1以下のサイズを持つフェムト物質を扱うもので、それが宇宙でどうやって生まれたか、どうやって進化したか、どうやって終わっていくのかということを解明する学問になります。応用科学としては、フェムト物質を予測して制御していくフェムトテクノロジー、たとえば核融合、原子炉、核医学、などが広い意味での原子核物理学に含まれます。宇宙は、ビッグバンの後、クォーク・グルーオン・プラズマというプラズマ状態から、我々の体をつくっている核子(陽子や中性子)が生まれます。核子の誕生は、宇宙開闢から約1マイクロ秒後で、そのあと、3分ぐらいの間にヘリウムやリチウムのような軽い原子核が生まれます。それらが重力相互作用で恒星を形成して、恒星の中で炭素や酸素などの原子核が生成され、最終的に我々の体をつくっています。また最終的には、超新星爆発などを経て、原子核の一部は宇宙に撒き散らされ、一部は白色矮星や中性子星やブラックホールの中に閉じ込められてしまいます。このように、物質がどうやって生まれ、どうやって進化し、どうやって終焉していくのかということを解明するのが原子核物理学です。ここにお見せするのはウロボロスの蛇というもので、人間サイズのあたりは核医学とも関係し、だんだん大きなスケールに行けば核工学、放射線、元素の起源、恒星、宇宙放射線、小さなスケールに行けば核化学、核物性、質量の起源、ダークマターの検出などに原子核物理学が関与しています。次ページの図は相図と呼ばれるもので、縦軸が温度、横軸が密度、そして第3の軸として解像度をいれています。我々が住んでいる世界は相図のなかのハドロン相というところで、高温に向かうとクォーク・グルーオン・プラズマ、高密度に向かうとクォーク物質やカラー超伝導などの物質相が現れる考えられており、それぞれが初期宇宙の状態、中性子星の内部状態と関係しています。一方、解像度を上げていって陽子や中性子の内部構造を精密に調べることは21世紀の後半の原子核物理学の大きな課題になっています。
物理学の歴史を見ますと、ニュートンやアインシュタインのような概念主導の革命よりも、実は道具主導の革命のほうが大きな割合を占めているということは偉大な理論物理学者であるフリーマン・ダイソンが指摘していることです。宇宙初期のクォーク・グルーオン・プラズマを探る実験道具としては、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の相対論的重イオン加速器(RHIC)や欧州CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)があります。中性子星内部の高密度物質を探る実験道具あるいは観測道具としては、東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)や大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)などがあります。EICは、解像度を上げて陽子や中性子の内部構造を電子で探る新しい実験道具として建設されようとしているわけですが、これは一種の“フェムトスケール電子顕微鏡”ということができます。EICのような装置は一朝一夕に生まれるものではありません。まず、1950年代に電子で原子核の内部構造を調べ、原子核の大きさが分かってきたのですが、1956年あたりから、スタンフォードの線形加速器で、原子核の中にある核子にも大きさがあることが分かってきました。さらに、1960年代、1970年代には、核子よりも小さい素粒子(クォーク)が核子内部にある存在することが分かり、核子の構造の発見とクォークの発見にそれぞれノーベル賞が授与されています。それ以来電子による核子や原子核の研究が着実に進展し、例えば、ドイツの電子シンクロトロン研究所(DESY)の電子・陽子円形加速器(HERA)では、核子を構成するパートン(クォーク・グルーオン)の一次元情報が精密に得られるようになりました。そして、EICで初めて核子の3次元情報が研究できるようになるわけです。核子とか原子核の特徴とEICの関係をもう一度おさらいします。核子は、原子とか分子とか原子核とは全く異なる束縛状態で、クォーク、反クォーク、グルーオンが集まってエネルギーの固まりをつくっているような特異な物質です。核子の質量は、それを構成しているクォークの質量の約100倍もあるので、核子はまさにエネルギーの塊で、クォーク、反クォーク、グルーオンの運動エネルギーや相互作用エネルギーが質量に寄与しています。また原子核は、核子が集まって構成されているわけですが、原子とか分子に比べると核子が密に集まっています。このため、原子核を調べるということと、核子のクォーク・グルーオン構造を調べるということは、実は一体的に研究しないといけません。クォーク・グルーオンの基礎理論は、南部陽一郎先生(2008年に素粒子質量の生成機構でノーベル賞受賞)が1966年に提唱した量子色力学というゲージ理論であることがわかっていますが、この理論は非線形かつ強結合で、ポアンカレ予想やリーマン予想のような純粋数学の難問と同様、数学的にも極めて挑戦的な問題と考えられています。
EICの特徴というのは、ここにありますように、衝突型加速器でエネルギーを可変であるということと、HERAの1,000倍ぐらいの輝度を持つこと、それに電子を偏極し、軽い原子核も偏極して、スピンを持ったもの同士を衝突させることができるということです。このようなフェムトスケール電子顕微鏡にはキーパラメーターが2つあります。一つは空間解像度で、陽子のサイズの大体10分の1から1,000分の1を見ることができます。もう一つは、シャッター速度に対応するパラメータで、10のマイナス23乗秒のフェムトスケールからその10万分の1ぐらいまで可変となっています。究極のフェムトスケール電子顕微鏡であるEICによって、これまでのビーム軸方向のクォーク・グルーオンの分布という一次元構造を越えて、ビームに直交する方向も含めた3次元な核子・原子核の構造が分かってくることになります。3次元構造を実験的に見るためには、今までの深部非弾性散乱以外に、電子を核子や原子核にぶつけて出てくる光を見るような排他過程や、出てきたものの中から例えばπ中間子などを捕えるような準包含過程の測定を行うことになります。これは高い輝度を持ったEICであるからこそできる精密実験です。物質の3次元構造の解析というのは、物性分野でも近年大きく進展しています。例えば、スキルミオンという磁気構造がありますが、その3次元構造を電子顕微鏡で観察することが最近できるようになっています。同じ電子線でもEICとはエネルギーが全く違いますが、3次元の物質構造を見ることが大きなステップになる点では共通しています。19世紀には、電荷があるかないかという、いわば0次元の情報しか測るすべはありませんでしたが、20世紀になって、陽子内部の1次元情報や2次元情報が少しずつ測定可能になり、21世紀にEICが稼働することにより、陽子の3次元構造を精密に測定することができるようになるというわけです。このような多次元情報を特徴づける様々な関数がこれまで定義され独立に研究されていたのですが、それらの間の関係が最近分かってきて、現在はウィグナー分布関数という5次元の一般的な関数で統一的に理解できると考えられています。核子や原子核の3次元構造がわかると、陽子の空間的なエネルギー分布や、質量やスピンがどういうふうに出来たのかということがわかるようになります。このためには、精密なデータが必要です。また、核子の構造が3次元的に分かると、宇宙初期のクォーク・グルーオン・プラズマから核子への転換過程、中性子星の中で核子が融解してクォーク物質になる過程を理解するのに大きな情報を与えます。物質の創成から終焉まで理解するのに核子の3次元構造の理解は極めて重要なのです。
EICの物理が、学際的にどういう普遍的な価値を持つかという点についてもお話します。次世代のスーパーコンピュータについては、EICの実験と密接に関係するQCDの大規模数値シミュレーションが、アルゴリズム開発の面でも実機利用の面でも大きな貢献をします。また量子コンピューティングに関して言えば、QCDのようなゲージ理論を量子計算することはは最先端の挑戦的課題であり、量子誤り訂正のような実用上重要な課題がゲージ理論と関係していることも分かっていますので、まさにスケールを越えた共通の論理が背後に横たわっています。核融合研究に関しても、核融合炉におけるα粒子加熱のような、高エネルギー粒子とプラズマの相互作用は、EICにおける高エネルギーパートンと原子核媒質の相互作用と、非平衡開放系科学という観点で共通の手法で理解が得られる可能性があります。高エネルギーの核子や原子核を記述するカラーグラス凝縮は、もともとガラス状の物質状態の研究に触発されて提案された概念ですが、逆にカラーグラス凝縮の理解がEICで進めば、物質科学における新奇な物質探索に影響を与えるかもしれません。このような原子核物理学と物質科学・物性科学のスケールを越えた相互関係は、冷却原子気体やワイル半金属の研究など従来から知られている例もあり、今後も新しい展開が期待できます。
理研ブルックヘブンセンター(RBRC)が1997年に米国ブルックヘブン国立研究所内に設立され、世界のアカデミアでテニュア職を得たRBRC出身者は100名近くあり、日本国内だけでも39名の方々がテニュア職を得ています。RBRCは、RHICの建設と軌を一にして設立されたものです。 EICでは、原子核物理学に閉じず量子計算科学や量子物質科学との広い連携が期待できるので、EICを中心に、基礎量子科学(Fundamental Quantum Science)において学際的な人材育成が望まれます。
以上を4つのポイントにまとめると、 EICは宇宙における物質の創成と終焉の理解に重要である、EICは普遍的な波及効果を基礎科学にもたらす、EICは広範な波及効果を応用科学にもたらす、そして、EICは学際的・国際的な人材育成の中心となる可能性がある、となります。私は、このようなEICには大きな期待を持っております。
以上です。ありがとうございました。
【永江座長】 どうもありがとうございました。何か1日話を聞いていたいような面白そうなお話をどうもありがとうございます。
では続いて、前回の指摘事項や御意見を踏まえての御説明を、東京大学の郡司先生より10分程度でお願いいたします。
【郡司先生】 よろしくお願いします。「EIC計画が切り拓く原子核物理学の新たな地平」ということで、前回頂いた質問に返答致します。
前回のまとめです。EICは、原子核3階層、クォーク、ハドロン、原子核に飛躍的な新しい知見をもたらします。EICの意義は、クォークとグルーオンのダイナミクスを解明することで核子から原子核に至る新しい知見をもたらすこと、量子技術やイノベーション創成につながる基礎学理に貢献すること、波及性の高いビッグデータ収集技術や次世代の量子技術の発展に大きく貢献することです。国際的な状況と戦略に関しては、各国が予算をつけ始めている状況であり、その中で日本は、EICに重要で、かつ日本が基盤技術を有する先端測定器やデータ収集システムを担当する予定です。そして、実験開始後の物理解析を主導し、物理結果を早期に出していきます。組織体制に関しても、東京大学のクォーク・核物理研究機構と大阪大学のRCNPを中核とする大学間連携と理化学研究所の体制を構築中です。人材育成とEIC推進を含めた理研と大学との連携体制も構築中です。アジア間の連携も進めています。
前回の有識者会議で議論された主な御意見に対して今日は返答させていただきます。ここに書いてある7つのことに対して説明させていただきます。
1つ目は、「Fundamental Quantum Scienceと、EICの測定器、加速器への貢献の具体性を明確にする必要がある」に関しての説明です。Fundamental Quantum Scienceは、様々な階層を超える量子ダイナミクスの普遍的な法則の解明を目指します。EICは、理論、実験、計算科学を融合したアプローチによって核子・原子核内部の動的な3次元構造を解明します。量子色力学の精密な理解を通じて、核子から中性子星に至るマルチスケールの量子ダイナミクスの創発メカニズムを解明し、FQSに貢献します。これを実現するためにEICを推進し、ePIC実験と呼ばれるEICの国際共同実験に参加し、ePIC実験の測定器の建設やデータ収集系を担当します。加速器技術への期待もあります。これは今後継続して議論をさせて頂きたいと思います。FQSとEICの関係性を説明します。原子核物理学は、右の図にありますように物質の創成と進化の解明を目指して、量子色力学を基礎理論、素粒子を基本単位として、核子から中性子星まで広い階層の量子ダイナミクスを研究しています。この特徴を最大限に生かし、原子核物理を起点とする、クォーク~原子核~物性~生命~宇宙の階層にまたがるマルチスケールの量子ダイナミクスの研究を、新しいサイエンスドメインとして原子核物理からドライブしていきます。マルチスケールの量子ダイナミクスには普遍的な概念や一般性があると思っています。原子核物理を推進することで、物性、生命、宇宙につながるような新しい学理の発展を目指します。そして、エネルギー制約をはじめとした社会的な課題の解決に貢献します。EICでは理論、実験、計算科学を融合したアプローチによって、核子・原子核内部の3次元構造を解明することにより、量子色力学を精密に理解し、新たな自由度がどのように発現するのか、階層構造がどのように生まれていくのかを理解していきます。その理解が、物性系などで見られるような階層間をつなぐ普遍的な性質の発見につながる可能性があります。それを支える基礎学理を発展させたいと思っております。
次は、「原子核研究を推進することが量子コンピュータの発展にどのように貢献をするのか」に関して説明します。原子核物理学と量子技術の間には、高い親和性と共通の課題、スケーラビリティーや量子エラーの問題、エラー訂正があります。原子核物理学の研究を通じて量子コンピュータのアルゴリズム開発や量子アドバンテージの実証に貢献できる可能性があります。量子アドバンテージの実証に有効だと考えられるのが、核融合や核分裂の量子計算です。そのための量子計算のアルゴリズム開発を進めることで、量子コンピュータによる応用研究、例えば、化学反応計算や創薬計算等、が加速されます。原子核研究と量子コンピュータの発展に関して、もう一つの例を挙げると、量子計算の誤りの訂正です。我々がEIC実験を推進することによって、格子QCD計算や核子ゲージ理論の基礎研究が大いに発展します。量子計算の誤り訂正にZ2ゲージ理論が使われていますので、EIC実験により量子計算の誤り訂正が発展する可能性があります。さらに、格子ゲージ理論を研究してきた人は、量子計算分野で活躍していますので、高度な人材の供給にも貢献します。また、ビッグデータ収集とリアルタイム計算システムは、スケーラビリティーが求められる量子・古典ハイブリッドアーキテクチャーにおいて、量子計算や量子ビットの即時診断データ処理というところで大きく貢献できる可能性があります。
次に、「核融合とかフュージョンエネルギー研究にも貢献するとしているが、原子核の知識を応用できるところはどのような点であるか」を説明いたします。非平衡開放系における輸送現象の解明、QCDの実時間量子計算手法の開発が、核融合炉運転の理解や先進燃料核融合反応の量子計算手法の進展に寄与します。原子核物理学は、様々な核反応を研究しています。計算科学とともに、核反応の時間発展や共鳴現象などを解明することで、新しい核融合のチャネルの開拓が可能になると思います。別の例は、先ほど初田先生のところで説明がありましたが、パートンとカラーグラス凝縮の相互作用を理解することによって、核融合炉におけるα粒子加熱を理解する助けになる可能性があります。さらに、分子動力学による核反応の量子計算が実現すれば、先ほど中野先生の説明にありましたプロトンとボロンの反応計算の精度があがります。また、ビッグデータ収集と即時高度計算は、核融合プラズマのモニタリング、即時エラー診断とフィードバックに役に立ちます。我々が持っているシミュレーション技術やデータ収集技術が貢献できる可能性があります。
「日本全体の教育・研究全体のマネジメントをどのような体制で行うのか」を説明します。理化学研究所にマルチスケール量子ダイナミクス研究プロジェクトを立ち上げて、その中核プロジェクトとしてEICを推進します。大学側は、東京大学にEICを推進するクォーク・核物理研究機構を設置して、東京大学のQNSIと大阪大学のRCNPが中心となって国際量子物理ネットワーク拠点を構築します。NPC等を参考にして、個人でEIC計画に参加できる仕組みの構築を検討します。理化学研究所と国際量子物理ネットワーク拠点が連携して、拠点のマネジメントを行います。その組織体制の案を次のページで図示します。東京大学と大阪大学が核となって国際量子物理ネットワーク型拠点をつくります。この国際量子物理ネットワーク拠点は、東京大学と大阪大学だけではなく、いろいろな大学と研究機関が参加し、各大学と研究機関が持つ研究力、教育力、データハンドリング、計測技術を国際標準化します。標準化された技術を組織につけることにより、標準化技術を軸に世界的な規模の新しい大型研究をオールジャパン体制でドライブします。このようなネットワーク型の拠点をEICを使って構築していきたいと思います。理化学研究所はFundamental Quantum Science Programの下にマルチスケール量子ダイナミクス研究プロジェクトを立ち上げます。国際量子物理ネットワーク拠点と連携して、EIC Japanを支えることになります。運営協議会やファンディングボードをしっかりつくって、適切なマネジメントをしていくことを考えています。
「測定器に関する金銭的・人的・技術的な貢献など日本が期待されていることは何か」ということに関しては、日本グループは測定器とデータ収集系を担当して、先端技術の国際標準化を目指すことが期待されています。半導体センサーやストリーミング型データ収集技術は、日本が持っている技術なので期待されています。KEKの加速器技術への期待もあります。RHICで我々が培ってきた研究力やRBRCを通じた国際頭脳循環に対する期待も非常に大きいです。予算は下に書いてある規模感です。このような予算規模を考えています。
「前身のRHICで分からなかった部分で、EIC計画を推進することでクリアになる点はどこか」に関してスピンと質量を例に説明します。左下の図は、グルーオンスピンの寄与をxという、クォークとかグルーオンが持っている運動量比の関数で示したものです。RHICでは、赤い矢印の領域しか分かっていません。RHICの領域から外挿すると、この薄いブルーのように枠をはみ出すぐらいの大きな不定性を持ちます。EICでクォーク・グルーオンの分布関数を非常に広い範囲で高精度に測定することによって、10のマイナス5乗ぐらいのxまで、グルーオンのスピンの寄与が判明します。質量に関しては、JLabによる既存の実験では20%程度の誤差を持ちますが、これがEICにて1%程度の誤差になります。もう一つは、LHCで行なっているクォーク・グルーオン・プラズマに関する研究で、クォーク・グルーオン・プラズマの生成機構やクォーク・グルーオン・プラズマの物性を理解するときに、カラーグラス凝縮をきちんと理解することが重要になります。
「本計画に参画するに当たって、日本へのリターンという視点も重要かと思うが、EICの中で日本主導で検出器を開発すれば、日本が物理学の成果を取れるものなのか」という点を説明します。データ解析と物理成果の創出を主導するためには、日本グループが検出器の一部を担当することが必要条件です。大事なのは、実験の鍵となる測定器を日本が担当するということで、これによりコラボレーション内の発言権が増すことにつながります。我々は、日本グループが担当する検出器システムとして、下の3つを考えています。Time of flight検出器は、クォークの3次元分布のフレーバー依存性を精密に測るのに必要な検出器です。Zero Degree Calorimeterは、前方方向に置くカロリメーターで、クォークやグルーオンの空間分布を測定する反応を見るときに非常に重要な検出器になります。ストリーミング型のデータ収集系は、ありとあらゆる反応を記録するもので、EICの全ての物理成果の基盤となります。この3つの測定器とシステムを日本がきちんと握ることが、物理を主導する上でも重要になります。核物理コミュニティーへの貢献は、我々は日本の国旗を持って外に行って、国際的な研究ネットワークをつくってきました。国際的な研究ネットワークが強化されることで、国際頭脳循環が促進されます。国際標準化されたデータ収集システムや測定器等を活用することで、先端技術開発の効率化と技術継承が可能になり、国際標準化技術を様々な実験に使うことが可能になります。これによって、新しい実験研究を日本がドライブすることが実現されます。また、EICを通じて、階層を超えて成り立つ普遍性や一般性の理解によって新しい学理の創出にもつながると考えております。
マルチスケール量子ダイナミクス研究への貢献としては、量子強靭性をキーワードに、陽子の内部構造や形成機構の解明を通じて、安定した量子性を持つ物質の開発、量子コンピュータの実用化につながる可能性があります。量子多体系の創発ダイナミクスという観点からは、核子や原子核の動的3次元構造の解明を通じて、真空から核子、原子核、中性子星などの階層が創発する普遍的な機構の解明、より普遍的に、巨視的スケールの量子現象の実現と解明に貢献する可能性があります。量子開放系の非平衡現象という観点からは、QCD特有のグルーオン飽和環境における高エネルギー粒子の伝搬を解明することによって、強相関非平衡開放系における普遍的な理論を構築する際の助けになると思っております。以上になります。
【永江座長】 どうもありがとうございました。何か事実関係についてぜひ聞きたいということがあれば。いいですかね。これから、よりディスカッションのほうに入っていきたいと思いますので、その中で皆さんの意見等がありましたら述べていただけたらと思います。
それでは、資料2のディスカッションペーパーのことについて、事務局のほうから説明をお願いできますでしょうか。
【村松室長】 素粒子・原子核研究推進室長の村松です。資料2を御覧ください。今日、先ほど先生方3人から御説明いただいた内容と、前回、郡司先生から御説明をいただいて意見交換をしていただいた内容を基に、座長の永江先生と御相談をさせていただいて、主に前回お示しした検討の観点という中でも特に大きなところに沿って、議論をしやすくするために少し整理をさせていただいたペーパーを事務局のほうで作成いたしました。
1ポツは、今後の我が国の原子核物理学はどのような新たな展開を目指すかということを大きな論点として掲げています。これまで先生方から発表いただいた内容を大体要約してございますので、細かく説明はいたしませんが、1点目は、広い階層の量子ダイナミクスを研究する学問である原子核物理学を起点として、マルチスケール量子ダイナミクス研究の創出を目指すということを考えております。具体的な原子核物理学を起点としたほかの階層への展開についても、幾つか例示をさせていただいています。このマルチスケール量子ダイナミクス研究を行うことによって、原子核物理学が振興されますと、そこに①から④にお示ししている、医療、イノベーション、エネルギー分野、人材育成といった貢献があると期待されます。エネルギー分野へのイノベーションの貢献も、新たな展開の一つの柱になるのではないかと考えています。その一つが、エネルギー変換の根源的理解で、先生方の先ほど話にもありましたけれども、核子とか原子核の質量の起源の解明を通じて、エネルギーがどこから来ているのかということの理解が進むと考えております。エネルギー分野との連携・波及として、例えば核融合プラズマとクォーク・グルーオン・プラズマが共通の数学的構造を持つことを踏まえて、両分野が連携していくことが可能ではないかと考えております。一例といたしまして、例えばサブアトミック物理学の量子シミュレーション計算を使って、先進燃料核融合の計算に使えるのではないかと考えております。次のページですが、要素技術や分析技術も、核融合分野と原子核分野は非常に近いことから、相乗効果による発展が期待できると考えております。新たな展開の一つの柱として、量子分野のイノベーションへの貢献も考えられます。量子ダイナミクスの根源的理解として、量子コンピュータと原子核ダイナミクスは非平衡量子開放系科学としての共通の性質を持つことから、例えば誤り訂正といった問題に対しても、原子核物理の研究を通じて階層を超えた量子もつれのコヒーレンス・デコヒーレンス機構の解明にアプローチできるのではないかと考えております。そのほかにも、原子核実験で使われる技術を使って、新たな量子センサーの開発、トポロジカル量子系の研究への貢献も考えております。量子分野との連携・波及ですが、これも先ほどの先生方のお話にありましたけれども、QCDの計算をしてくる中でスーパーコンピュータが非常に発展したように、量子コンピュータを使ったゲージ理論の計算のような原子核物理学の計算を進めることで、実際に量子アドバンテージを実証していく場になるという、共創関係、コデザイン関係が出来るのではないかと考えています。ほかにも、格子QCDの手法や人材は、量子計算の分野でも即戦力になっているという話もありました。量子コンピュータのスケーラビリティー向上にも、原子核実験の技術等が活用できると考えております。
2ポツ、大きな柱として2つ目です。原子核物理学の新たな展開に、EIC計画、EIC実験がどのように貢献できるか、活用するのかという観点です。EICで期待される科学的成果については、先ほど先生方からまとめていただきましたが、核子・原子核内部の3次元構造の理解、核子の質量やスピンの起源の解明、グルーオン凝縮やグルーオン飽和といった新たな状態等の発見、その性質の解明ということが挙げられております。EICの科学的成果の波及としては、宇宙、ハドロン物理学、計算科学、核融合科学、物性科学への波及が考えられます。マルチスケール量子ダイナミクス研究へのEICの貢献としては、量子強靱性、安定した量子性を持つ物質の開発、創発ダイナミクス、量子開放系の非平衡現象の理解につながると考えています。我が国の戦略ですが、郡司先生から前回、今回と説明していただきましたように、2つの測定器と1つの分析システムを担当することで、データ解析と物理成果の創出を主導していくことと、我が国の基盤技術を国際標準化する契機としていくことを考えております。また、加速器本体の協力については強い期待がありますので、引き続き研究者間でのコミュニケーションを継続していくことを考えております。我が国の強みのさらなる強化という観点では、クォーク・グルーオンから第一原理による原子核のダイナミクスについて、国内のコミュニティーが一丸になることで、低エネルギーのRIBFから中間エネルギーのJ-PARCをつないでいって、階層を超えた理解が進むのではないかということが期待されています。また、量子非平衡系科学などの新たなサイエンスの開拓に貢献することを考えています。我が国の産業への波及に関して、加速器実験は非常にいいテストベッドではないかと考えています。また、この分析システムは直接見えないものを可視化する技術は、サイエンスの研究方法の革新にもつながるであろうし、Society 5.0と称している、サイバー・フィジカルが融合した社会の実現にも貢献するのではないかと期待しています。さらに、仮に、EICを通じて核子・原子核を能動的に直接制御することが可能になれば、核融合発電の実現、材料開発、革新的な量子計算技術の開発といったことにも貢献できると考えています。
3ポツ、大きな柱が、どのような体制でEIC計画に参画するかですが、これも先ほど御説明あったので簡単に御説明します。理研と大学でそれぞれ体制を整えていただいて、大学では、国際量子物理ネットワーク拠点という形でネットワーク型の国際共同利用・共同研究拠点を目指して体制の整備を今進めていただいていて、多様な大学・研究機関が参加できる体制を整えていただいているところです。関連人材の育成として、量子技術と核融合分野は原子核物理学とは非常に親和性が高いことから、連携して人材育成に取り組んでいく方向で考えております。
最後は、EIC計画への参加に要する費用は妥当かというところですが、こちらは先ほど郡司先生からこれぐらいの金額でという御説明ありましたけれども、ここは事務局のほうで精査中ですので、今日は議論せずに次回の議論とさせていただきたいと思います。事務局からは以上です。
【永江座長】 どうもありがとうございました。それでは、資料の項目ごとに意見交換に移りたいと思いますけれども、前回の会議を御欠席されました藤井委員と吉田委員から、本日の説明等もお聞きになられて御意見等があれば伺った上で、意見交換を進めたいと思います。それでは、藤井先生のほうからいかがでしょうか。
【藤井委員】 大阪大学の藤井です。御説明のほう、ありがとうございました。基礎科学として非常に大事な取組かなと思っております。
なかなか量子強靱性のところは、エネルギースケールもかなり違いますので、直接的にこの原子核の理解が強靱な量子デバイスの実現につながるというのはなかなか難しいかなというところもあるんですけれども、基本的に量子情報処理や量子コンピュータといった場合には、単に強靱な量子もつれがあるだけでは駄目で、それをやはり制御するというところが情報処理をするというところで必須になりまして、そういう制御性と強靱性をどうやって両立させるかというところが非常に技術的なポイントになるので、なかなか直接的に波及するというのは難しいかもしれませんが、その背景にある基礎学理とか実験技術がこういった広い意味で量子技術に波及していくのではないかなというふうなところを期待しております。特に人材面でいいますと、量子技術の分野や量子情報という分野は、学術的にも、もしくは産業的にも非常に今現在、急激に広がっている分野でもありまして、人材不足が世界的に深刻になっておりまして、理論・実験両面でこういった人材の供給源になると。今、既に実際にソフトウエアや実験両方でこういった加速器実験とか格子QCDの数値計算の御経験のあるような方が最前線で活躍されていますので、こういった人材をうまく育てていくというところでこういった量子技術、量子コンピュータにも御貢献いただければいいんじゃないかなと思っております。
【永江座長】 どうもありがとうございます。大学なんかの組織ぐるみで人材育成とかいうことで何かやろうというような話はあるんですか。
【藤井委員】 そうですね、今、そういった取組も増えつつあるのかなと思うんですけれども、やはりまだまだ量子情報の分野というのはなかなか大学でも体系立った教育が整理されていなかったりとか、研究室も少ないみたいな現状がありますので、そういったところで、既にたくさん研究室があったりとか、大学で体系立った教育がなされているところにどんどんこういった量子技術や量子情報の知識も獲得していただいて、両方の分野で活躍される人材が増えていけばいいんじゃないかなと思っております。
【永江座長】 ありがとうございました。では次に、吉田先生のほうから何かございませんでしょうか。
【吉田委員】 核融合研の吉田です。前回欠席して申し訳ございませんでした。先日、郡司先生に説明をいただいたりして、トップレベルの研究として、その意義と効果は十分検討されていると思いました。
ディスカッションペーパーにもポイントは述べていただいていると思いますけれども、広い学術分野の観点からは、費用対効果という考え方について、特に学際的な人材育成と、それから、イノベーション戦略における共創性あるいはコラボレーションにおけるインパクトというのが重要な項目になると思います。中野先生が今日話された具体的な分析にもあったように、いろいろな科学技術が細分化されている中で、細分化された分野どうしで人材や研究資源を取り合う、抱え込むというような戦略から、より学際的な連携へパラダイム転換が必要だと思っています。そういった学際連携を有効、実効的なものにするためには、真にウィン・ウィンになるということがポイントで、そのためには、私は特に方法論、メソドロジーにおける共通性ということに注目すべきだと思っています。それは理論では数理のレベルでの共通性、それから、実験では実験技術。今日お話のあったように、計測の技術、データ解析、それから、高周波、光などの様々な共通課題をテーマにして協力する。そういうふうな取組によって共創的に発展するというモデルにしていくことが大事だと思っています。これはいわゆる一般物理なんですけれども、昨今いろいろなところで、この一般物理という概念が割合に隅に置かれがちで、今後、学術全体の未来を考えた戦略が必要だと感じています。
このEICを推進するに当たっても、そういった学際連携を真にウィン・ウィンにするための具体的な内容に踏み込んだ議論の場をつくるということが必要だと思います。私のやっている核融合の分野では、核融合科学研究所の改革とか、それから、ムーンショットの目標10にフュージョンエネルギーが取り上げられていますけれども、そういった取組でいろいろ仕掛けているところです。核融合プラズマは、クォーク・グルーオン・プラズマと比べると、ずっと大きな古典論的なスケールを扱っていますけれども、そこでの集団現象の複雑性を精密に理解していくということが課題ですので、そういった集団現象という切り口では方法論的な共通性があると思っています。今後、協力を具体化する議論に発展させるために、特に若手の研究者を中心にした研究現場でのコミュニケーションをもっと活発化していきたいと、そういうふうに思っているところです。以上です。
【永江座長】 どうもありがとうございました。それでは、資料2のディスカッションペーパーの1、2、3、4の順番で意見交換を行いたいと思います。まず最初に、1番、今後の我が国の原子核物理学がどのような展開を目指すかということに関しまして、意見交換をしたいと思います。御意見等のあられる先生方から発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
では、三輪さん、どうぞ。
【三輪委員】 よろしくお願いします。原子核物理を起点として広い階層のダイナミクスを調べるということで、最近、私自身も、量子化学の分野で、水素化分子の形成で実は原子核の自由度が非常に分子の自由度に対して重要な役割をしているということを伺いました。原子も含めて我々の宇宙をつくっている物質というのは異粒子を含んだ多体系になっているものが多いんだなというのを最近実感しております。例えば水素とか原子であれば、電子と陽子の多体系であったりだとか、そういうようなある種の異種粒子を含んだ多体系になっているものが多いと。そのような中で原子核物理の階層では、陽子、中性子とか、あとは、例えばストレンジクォークを含んだ、別のハイペロンと呼ばれる異種粒子を含むようなそういうような多体系を今まで計算してきた、研究してきたという過程があって、そういう異種粒子を含んだ量子多体系を計算、理解するということが、実は原子の陽子と水素、あと、H3+だとかH5+のような複数の陽子と電子を含んだようなものに対しても、そのまま原子核の知識を生かして、陽子が持つ量子性を含んだ物質の理解につながるということを最近まさに勉強しているところです。そういうようなところで、異種粒子を含んだ非常に難しい量子多体系を今まで計算してきた原子核物理の知識を基にほかの学問に発展していくという方向性として、精密な量子力学的な計算をスーパーコンピュータを使って、厳密計算からそのような新しい現象を解明していくようなそういう方向性というのも原子核のほうからドライブしていけるような可能性があるのではないかなと、今回このFundamental Quantum Science構想というのを聞いて、ここに載っていないことですけれども、そういうことがあるんじゃないかと思って、意見、コメントさせていただきました。以上になります。
【永江座長】 そうですね、学際分野のところで今何が起こっているかというのは少し挙げておいたほうがいいかもしれませんね。
ほかに。日髙さん、何かありますか。
【日髙委員】 基本的にここに書かれていることは賛成です。原子核というのは量子論として最も量子性が強くて、様々な階層にわたる物理なので、外に展開していくというのは非常に中心になり得る分野だと思います。一方で、ほかの分野の知見が原子核に返ってくるという視点も大事だと思うので、その辺も展開としてあるといいかなと思いました。ほかの分野で発展したことがやっぱり原子核物理の発展にも非常に大事になってきたりするところもあるので、主にここに書かれているのは原子核からほかに展開しているんですけれども、その展開したものがまた返ってくるという視点も書かれているといいかなと思いました。
【永江座長】 なるほど。分かりました。ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。
では、後で戻ってくることも含めまして、次に進んでいきます。2番目は、原子核物理学の新たな展開のためにEIC計画をどのように活用するのかという観点で、御意見のある方はよろしくお願いします。
僕から郡司さんに一つ質問なんですけれども、ディテクターのコライディングセクションというのは何か所造ろうとしているんでしたっけ。
【郡司先生】 2か所です。
【永江座長】 日本はそのうちの1か所?
【郡司先生】 そのうちの1か所目でePIC実験は行われます。2か所目に関しての検討も進んでいます。2箇所目では、1か所目とは違ってどのような新しい物理が展開できるのか、EICユーザーズグループを中心として、議論が進んでいます。実現のタイムスケールはもっと先の話になります。
【永江座長】 なるほど。三輪さん、どうぞ。
【三輪委員】 僕も、最初の根源的理解のところ、陽子の質量が非常に重いこと、すなわちクォークが陽子になることで非常に重くなるということが、非常にやっぱり原子核物理の特性をつくっていると思うんですね。ここではエネルギー変換の根源的な理解とありますけれども、あと、陽子、中性子の質量が非常に重いおかげで、狭い空間に原子核として閉じ込められて、その結果として原子核が開放されるときにエネルギーの非常に大きな割合が取り出すことができるということになると思うので、陽子、中性子の質量がなぜ100倍重たくなったのかということを理解するということは、エネルギーを核融合とかそういうところで生み出すところの大本の根本的な理解にまさにつながるところであろうと個人的には思います。
【永江座長】 そうですね。どうも。三原さん、どうぞ。
【三原委員】 ありがとうございます。議論というよりは質問に近いんですけれども、この2番目の今議論しているところで、科学的成果の波及というところで、今日何度も出てきたのは、核融合との研究協力のような形の話があって、吉田先生からも御説明があったんですけれども、今の時点で例えばEICに関わる研究者の人たちが核融合の研究者とコミュニケーションを取って、どういうデータが必要とされているのか。今日の話はどちらかというと、原子核側からこういうデータが提供できるので、核融合の研究に役に立つかもしれないというような視点で今日お話しいただいたと思うんですけれども、逆にそういった議論をする中で、例えば核融合をやっておられる方から、こういうデータがEICから出てくると非常に研究を進める上で役に立つとか、そういう議論は既に行われているんでしょうか。あるいは、全くまだこれから手探りで始めていく状態なんでしょうか。
【郡司先生】 まさにそのような議論を今行なっているところです。その議論の中で、例えばプロトンとボロンの反応の重要性、原子核の共鳴状態、例えば炭素の中のトリプルアルファ状態が断面積を理解する上で重要であるとか、そのような議論を進めています。実験技術に関しては、私も東大の新領域の先生方と話をさせて頂き、大規模データ収集は重要で波及性が高いと感じています。具体的な体制に関しては、今、東大と阪大で立ち上げようとしている国際量子物理ネットワークに核融合分野を巻き込みながら展開していくとことを考えております。
【三原委員】 今の話だと、プロトンとボロンのクロスセクションというのは、これはEICとは関係ない、別なところで行われている研究だと思うんですけれども、そうすると、核融合との協力関係が築けると思っているのは、むしろ実験技術の手法的な部分で協力し合える部分が多いということなんでしょうか。
【郡司先生】 もちろん手法的な部分は、協力し合えるところが大きいです。学術的なところでは、例えば、原子核の束縛エネルギーの起源がわかれば、核融合反応の探索が量子計算で可能になったときに重要なインプットを与え、効率の良い核融合チャネルの探索に役に立つと私は思っております。
【三原委員】 ありがとうございました。
【中野先生】 すみません、中野です。まず、EICに対して外部の核融合の研究者がアクセスしているかというと、現時点ではないと思います。EICという言葉もまだあまり我々の分野以外、知られていませんし、EICの研究者が核融合に興味があるかもしれないということも伝わっていないので。ただ、これは個人的な経験ですが、吉田先生のムーンショット10の説明会に私、参加しまして、実際どういうコラボレーションができるか分からないということを表明しただけで、核融合の研究者の方から連絡がありました。今後、EIC計画が稼働し、フュージョンエナジーにも貢献したいと表明すれば、さまざまな方々からコンタクトがあるのではないかと思います。これが1点です。
もう一つは、今日の発表でも繰り返し述べられた階層を超えた物理の視点の重要性です。つまり一般性や普遍性の重要性です。原子核分野では、ハドロンの階層と、原子核の階層で同じ手法が使われることが多々あります。そこでは数学的なバックボーンや考え方が共通しており、そういった見通しのよさがあって初めて計算が高度化されます。したがって、一見関係ないと思われている異なる階層での理解が、核融合のような非常にエネルギーの低い、実験も難しい領域の計算に役立つ可能性は高いのではないかと思います。以上です。
【吉田委員】 吉田ですけれども、よろしいでしょうか。
【永江座長】 吉田さん、どうぞ。
【吉田委員】 核融合に関してコメントがあったので発言させていただきます。今、中野先生が言われたような印象を私も持っています。EICの今日の御説明でも2つの大きい内容があって、一つが量子、それからもう一つが多体系の非線形現象ということで、核融合プラズマの主たる課題はむしろ後者です。いろいろな原子核反応のクロスセクションというのは、核融合屋からすると、原子核分野の人にお任せというような感じがあるんです。いろいろな分野が協力してやるというとき、仕事を分掌しているという形がどこでもあるわけですけれども、本当の意味のコラボレーションで一緒に何かつくるというのは、共通性のあるところを一緒にやるということだと思います。
そういった意味では、メソドロジー、実験の方法とか、データ処理の方法、などは多くのビッグサイエンスの分野で共通性がある課題です。あるいは、初田先生のお話にありましたけれども、いわゆる集団現象の一例として、高エネルギー粒子のエネルギー緩和の問題は、核融合プラズマでの主題でもあります。EICは電子顕微鏡という表現がありましたけれども、核融合プラズマの場合は、大きな系を扱っているので、電子顕微鏡で見なくても、様々な光学的なメソッド、電磁波、光などの様々な方法を使って非常に詳細な3次元の構造とダイナミクスを高時間空間分解能をもって計測していくという、これが主題です。プラズマの中で、どのようなエネルギーや物質の輸送が起きるのかということを課題にしているので、そういうところに一般物理的な観点からの共通性がある。理論的なメソドロジー、数学的な共通の構造に対するいろいろなアプローチの仕方、シミュレーションの仕方などは、分掌するというよりも一緒に開発していこうというようなテーマになるんじゃないかと感じています。
【三原委員】 ありがとうございます。中野先生、吉田先生、非常によく分かりました。ありがとうございます。
【永江座長】 どうもありがとうございました。初田さん、どうぞ。
【初田先生】 吉田先生から言っていただきましたが、このEICに関係して、理研の中でFundamental Quantum Scienceという方向で、分野を超えて方法論を共有しながら、階層を超えて連携研究を進めようという活動が始動しています。その中で、核融合研の方々ともワークショップを開いています。特に数値シミュレーションの方法論や、どのようにプラズマの熱化が起こるのかというような基礎原理などは、相互に学べるところがあると感じています。まだ端緒に就いたばかりですけれども、この方向の交流は大きく広がっていくという印象を私自身は持っています。
【永江座長】 どうも。ほかに何かありますか。前田さん、どうぞ。
【前田委員】 ありがとうございます。今日3人の先生から御説明いただいて、全般的に非常によく、全体の計画とか、前回疑問に思っていたことが分かりやすくなったなという感じを受けています。
今の議論の観点であるEIC計画をどういうふうに活用するかという点では、非常に自分の身近なところからいっても、原子核の内部を、3D構造を明らかにするみたいな手法みたいなものは、実際に階層を超えてその結果を利用するみたいなことが本当にできたらというか、そういうふうに発展させたら非常に面白いんじゃないのかなとも単純に感じまして、本当に成果を広げるというところも期待できるなと思いました。今日初田先生にまとめていただいた、原子核から見る宇宙の理解みたいな話も、原子核研究をしている者にとっては結構よく聞く話ではあるのですけれども、意外とそれ以外の方々に普及している考え方とは実は言えないのではないかなと、今回初田先生のスライドを見て思いました。本当に今回のEICの成果を基に、原子核に限らず、核医学、核工学等々という形で広めていって階層超えた理解というのを進めていくと、若い人たちにとっても面白いというふうに非常に魅力的な分野に映るのではないかなと感じました。以上です。
【永江座長】 どうもありがとうございます。ほかにいいでしょうか。
では、3番目の観点で、EIC計画に参画する場合に、日本はどのような実施体制を構築するかについて、意見交換をしたいと思います。御意見等ありましたら、お願いします。郡司さんのほうからは既に、どういう体制でという話はプレゼンの中であったわけですよね。それと何か、それはちょっと心配だとか、何かありますでしょうか。
三原さん、どうぞ。
【三原委員】 では、一つだけ。中野先生の話にもあったんですけれども、原子核分野の研究者がだんだん減っているというのがあって、最近、実は物理学会のほうで、物理学会員数が年々減っているという問題があります。これは決して原子核物理に限った問題ではなくて、かなり広い範囲にわたって起こっている現象だと思っています。人材をどういうふうに育てるのかというのも、もちろんそういう視点は大事なんですけれども、一方でどうやって人材を取り込んでくるのかというような観点もやはり考えておくべきなのではないかなと。大きなプロジェクトをやるときに、例えば大学院生が興味を持って入ってこられるような研究課題、あるいは面白い物理の内容をどんどん提示していくというのを、若い学生さんの目線で考えて、人材を多く取り込むというような視点もぜひ取り入れてもらえればなと思います。以上です。
【永江座長】 どうも。まさにそうですね。あれは物理学会員が減っているから、全てが減っているという。
【中野先生】 一つヒントになることがあります。阪大で卓越大学院プログラムという異分野融合型のプログラムを実施していますが、年々志望者が増えていって、今年は倍率が3倍を超えております。原子核物理はその中のメインパートの一つなんですが、特徴として、原子核物理だけではなくて、化学とか医学とか情報とかそういうところとタイアップしてプログラムを組んでおります。様々な分野にアクセスでき、自分がその分野に進む可能性もあるという将来のキャリアパスの広がりは、学生にとっては非常に魅力的に映るというのを感じています。そういう意味でも、EICで育った人材が、EICで活躍するだけでなく、多様な分野や国に進出できることを示していくこと、参加者は増えていくんじゃないかなと考えています。以上です。
【永江座長】 そうですね。
【吉田委員】 吉田ですけれども、よろしいでしょうか。今、中野先生が言われたとおりだと思うんです。私さっき言ったように、抱え込むという発想ではなくて、巻き込んでいくと。いろいろな多様なロールモデル、キャリアパスがある中で、いろいろなプロジェクトにコミットするんだけれども、必ずしもそこに骨を埋めるというロールモデルではなくて、様々な魅力あるプロジェクトにコミットしていくと。いろいろな専門性をもつ人材をいろいろなプロジェクトが巻き込んでいくというような形というんでしょうか、そういうふうな考え方で人材を考えたほうがいいんじゃないかと思います。
【永江座長】 どうもありがとうございます。全くそうですね。ダブルディグリーとかそういうので幾つかのことを学んでDを取れるという、そういうシステムをもっと充実させると、今の枠に入らないような学生さんたちがもっと採れるようになると思います。
ほかに何か御意見ありませんでしょうか。三輪さん、何かありますか。
【三輪委員】 度々すみません。中野さんが最初におっしゃっていたSPADI Allianceで国内のデータ収集システムを共通にしようという、アライアンスの中で130人ぐらいですかね、参加しているという報告がありましたけれども、東北大学でも、実はうちの研究室でも、若手の学生さんが非常に興味を持って、データ収集系に関して積極的に参加できるような、非常によい枠組みになっていると思っています。研究室の若手の半分ぐらいの人が、SPADI Allianceに関わっていたりだとか、あとはデータ収集に関して情報だけは得て、あとは講習会とかには参加してみたいな形で、非常にオールジャパンでやっている取組になっていると思っています。それで、今後、大学院生、若手の方々に海外での経験をできる限り多く積ませたいというのが一つの大きな流れになってきているのかなと個人的には思っています。例えばドクターの学生の間に数か月海外での研修を行うみたいな、そういうようなプログラムが徐々に一般的になりつつあるのかなと個人的には思っています。EICには直接的に参加していないような大学とかでも、日本の中でDAQが共通であるという強みを生かして、EICのところに学生が自分のデータ収集の技術を生かしてだとか、あとは技術を学ぶことを目的として短期的な学生の受入れのようなものをしてくださると、日本の若手が国際的な舞台で活躍するための土台をつくるためのいい舞台になるんじゃないかなと思いました。
それで、NPCの枠組み、個人でも参加できる枠組みを考えると文章にありましたので、なので、本格的には参加できないのかもしれないけれども、興味のある学生だとかスタッフが参加できるような枠組み、受け入れてくれるような枠組みみたいなのをつくっていただけると、日本全体の若手の国際化、実力のアップのようなものにつながっていくんじゃないかと思います。もし可能でしたら、そういうことも検討していただけるとありがたいなと思いました。以上です。
【永江座長】 どうも。重要なポイントだと思いますので、よろしくお願いします。
【郡司先生】 おっしゃるとおりで、もちろんそういうことはやっていきますし、NPCの実績をもとに、NPCと同じような仕組みをEICに取り入れることは絶対に実現させるべきだと思っております。EICへの参加形態はフルメンバーとアソシエートメンバーの2種類になると思っています。CERNのALICE実験での経験から、アソシエートメンバーは技術に関してコラボレートしたいというケースが多くなると思います。技術がメインで参加できる体制もできていくと思います。しっかりやっていこうと思います。
【三輪委員】 ありがとうございます。よろしくお願いします。
【永江座長】 ほかにございませんでしょうか。前田さん、何かありますか。
【前田委員】 ありがとうございます。人材に関するというところ、コミュニティーと連携をして人材育成をしていくというところは非常に重要な点で、前回の会議でもやはり、特にSPADI Allianceみたいなものを通じて、いろいろな学生に対して参加しやすくなるということと、学んだ後にいろいろな分野に行けるという、パスが可視化されるというのは非常にいいことだなと思います。今、三輪先生がおっしゃったとおり、海外とのつながりみたいなものを学生が感じられるというのも、非常に重要な、いいところだと思いました。
SPADI Allianceだけではなくて、郡司先生の話の中で、装置とか技術に関しても非常に高度なものをここで、日本出発で高度な技術を利用していく、開発していくという視点があるという、これをやはり若い人にアピールできるというのも非常に重要だなと思っています。やはり大変スペシャルな半導体装置みたいなものをこの機会に開発して使うという、こういうものに大学の中で関わるとか、それを使って産業界に出ていくみたいな入り口になるような見せ方も、若い人にとっては非常に重要だなと思って、できればそれこそ浜ホトなどの企業とそういう形で連携ができるみたいな、それを若い人に見せられるみたいな体制もあるとすごく魅力的だなと個人的には感じたので、そういうものがもしできれば、ぜひ取り入れていただきたいなと思いました。以上です。
【永江座長】 ぜひそこのところ文章化してください。よろしくお願いします。
【郡司先生】 前回の資料にも載せたのですが、EIC実験のような大型実験では、10年後に検出器を高度化することが必ず起きます。そこに新しい技術を入れることも考えていて、日本の国内の企業とタイアップして進めていきたいと思っています。高度半導体センサー、フォトニクス技術、3次元積層、AIチップ等そのような最新技術を加速器実験に使っていけるような体制と開発環境をEICを通じてつくっていくつもりでいます。
【前田委員】 ぜひ。すばらしいと思います。ちょっと前に産業界の人と、私の大学のFD活動として、産業界で求められる人材みたいなテーマでFDをやったときも、やはり大学から出てくる若い人にとっては、きちんと物理が分かって、理屈を分かって企業に来てほしいみたいなお話があって、そういうところは実は、若い人にとって、学んだけど、どう活かせるのか分からないみたいなところが見えにくいまま大学で学んでいるみたいな面もあるので、今やっている難しい、まさに物理とか量子とかそういうものが生かせるというのが非常にクリアに具体的に見える化されるというのは、恐らくアカデミックだけじゃなくて産業界にとっても有意義な方向性になるんじゃないかなと思いますので、ぜひ取り入れていっていただければと思います。
【永江座長】 どうもありがとうございます。野中さん、何かございますか。
【野中委員】 どうもありがとうございます。このEICを中心にして学際的な広がりができるというのはすごく楽しみな感じがしました。それで、先ほど吉田先生も、いろいろなつながり、学際的なものをやるときに手法だとかそういうものがあるということをおっしゃられたんですけれども、例えば理論とかに関しては、具体的にこんなふうにするとか何かアイデアはあるんでしょうか。幸いこの間、初田先生もおっしゃっていたんですけれども、核融合研の方とのワークショップに参加させていただいて、すごく有意義でわくわくしたんですね。何かそういうところをもうちょっと広げるというか、何か組織的なそういうものとかもあるといいなと思いました。
【吉田委員】 吉田から発言させていただいてよろしいでしょうか。ありがとうございます。特に若手の人を中心にした交流を進めたいと思っていまして、いろいろ研究会を開くということもあるんですが、カンフルという言い方が適当かわかりませんが、ムーンショットの目標10、これは中野先生も意見交換会に御参加していただいたりしているんですけれども、そういう1つの分野のカッティングエッジをつくっていくプロジェクトをインパクトにして、いろいろな分野の人がそれに巻き込まれて、いろいろな具体的な協力をつくっていくというような契機になると思います。そういったことでいろいろな交流の仕掛けをつくっていきたいと思っているんですけれども、そんなふうな取組が一つ具体的なプロセスかなと思っています。
【野中委員】 ありがとうございます。
【郡司先生】 今後理研で立ち上がるマルチスケール量子ダイナミクス研究プロジェクト、これはFundamental Quantum Science Programの中で走るプロジェクトになりますが、ここはまさに色々な分野から人が集って一緒に研究するような体制になります。Fundamental Quantum Science Program自身は理論が母体になっていて、理論が全ての階層をつなぐ役割をします。このような体制の中で、具体的な共同研究が形になって始まっていくのだと思っております。
【野中委員】 ありがとうございます。
【永江座長】 どうも。小関さん、お願いします。
【小関委員】 どうもありがとうございます。先ほどから何回か加速器の協力について、今後の検討課題とすると言われておりますので、一言コメントさせていただきたいと思います。初回の有識者会議の後、先月の中旬に、アメリカで加速器の大きな国際会議があり、そこでBNLでEICのテクニカルディレクターを務めている加速器グループのリーダーの人から、今後、KEKの加速器の専門家とEICについてぜひ議論を深めたいという申出がありました。前回もお話しました通り、例えばePIC実験のような関わり方のレベルでKEKの加速器として協力するということは難しいですが、研究者同士の情報交換やワークショップのような場で議論を深めるということには協力したいと思っています。ディスカッションペーパーの2.の課題に戻ってしまいますが、「我が国の戦略」の最後の項目で、「加速器本体への協力に強い期待があることから、可能な協力の在り方について研究者間でのコミュニケーションを継続する」とありますように、今の時点では、こういう趣旨のことをこの有識者会議のまとめの中に盛り込んでいただくのは非常に重要かなと感じています。以上、コメントです。
【永江座長】 どうもありがとうございました。何か御意見のある方。いいですか。
【郡司先生】 前回も言いましたとおり、お互いウィン・ウィンになるように私としては、ブルックヘブンの人たちがKEKに来て、運用に参加し、電子加速に関するノウハウを学ぶことが非常に重要かなと思っております。また、加速器は医療分野などでも非常に重要になってきますので、将来の加速器科学という点からもお互いいい形で人材や技術が磨けるような環境をつくれるように私もやっていきたいと思っております。
【小関委員】 どうもありがとうございます。
【永江座長】 小関さんに一つ質問なんですけれども、ヨーロッパでFAIRって造っていたじゃないですか。あれはまだ今も造っていることになっている?
【小関委員】 今ももちろん進行している計画で建設中です。
【永江座長】 そうですか。人は足りているんですかね。
【小関委員】 いろいろと課題はあり、当初の予定よりも遅れていますが、着実に進んではいると思います。
【永江座長】 なるほど。どうも。ほかに何かありますか。時間的にも大分いいところには来ています。
4番のテーマは、EIC計画への参画に要する経費等は妥当かということで、これは先ほど室長のほうからもありましたけれども、まだ精査中ということなので、今日はこれ以上の意見交換はないということです。
全体を見直して何か御意見がありましたら、意見交換をここでやりたいと思います。何か御意見、言い忘れてたというようなことがあれば、今お願いします。よろしいですか。
では、本日の議題は全て終了しましたが、事務局より連絡事項等があればお願いします。
【村松室長】 素粒子・原子核研究推進室長の村松です。今日ディスカッションペーパーを御議論いただきましたが、分量も多いので、よく見てみたら気づいたことがあったとか、時間の関係で言えなかったこともあるかもしれませんので、資料3の御意見の提出様式を作らせていただきました。本日御発言いただいた点については、このディスカッションペーパーに、御意見を反映して中間報告の案を作成したいと思っています。今日言い切れなかった御意見がございましたら、1週間ぐらいを締切りとしてお願いさせていただきますので、提出様式でご意見を事務局に提出いただければと思います。なお、4番の経費のところですけれども、今日は精査中ということにして議論いたしませんでしたけれども、もし郡司先生から提案があった積算に対して何か質問とか御意見とかあれば記載いただければと思います。以上です。
【永江座長】 それでは、本日の議事は終了となります。最後に、事務局から連絡事項をお願いいたします。
【細野専門官】 次回の会議は7月19日金曜日を予定しております。本日の資料は、会議冒頭に申し上げましたとおり、後日、文部科学省のウェブサイトに公開いたします。また、本日の会議の議事録につきましても、委員の先生方に御確認いただいた後に、文科省のウェブサイトに掲載させていただきます。以上でございます。
【永江座長】 ありがとうございました。それでは、本日の会議を終了いたします。どうもありがとうございました。
―― 了 ――