ILCに関する有識者会議(第2期 第2回)議事録

1.日時

令和3年10月14日(木曜日)13時00分~15時00分

2.場所

オンライン開催

3.出席者

委員

観山座長、横溝座長代理、大町委員、岡村委員、京藤委員、熊谷委員、小磯委員、神余委員、東嶋委員、徳宿委員、中野委員、森委員、横山委員

文部科学省

池田研究振興局長、坂本大臣官房審議官(研究振興局担当)、渡邉基礎・基盤研究課長、石川素粒子・原子核研究推進室長、林加速器科学専門官、磯科学官

オブザーバー

ILCジャパンスポークスパーソン/高エネルギー物理学研究者会議高エネルギー委員長/東京大学素粒子国際研究センター長 浅井教授、高エネルギー加速器研究機構 山内機構長、東京大学素粒子国際研究センター 森教授、カリフォルニア大学バークレー校 村山教授、高エネルギー加速器研究機構 道園教授、ILC国際推進チーム議長/スイス連邦工科大学 中田名誉教授、高エネルギー加速器研究機構 照沼教授、高エネルギー加速器研究機構 岡田理事

4.議事録

【観山座長】  それでは、皆さん、時間となりましたので、ただいまより国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議第2期第2回を開催いたします。
  本日は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、オンライン会議にて開催することとしております。また、本日は、ILC計画の提案研究者側との意見交換を行います。そのため、研究者の先生方にも御出席いただいております。
まず、事務局に人事異動がありましたので、御紹介をお願いいたします。

【林加速器科学専門官】  人事異動について御紹介いたします。9月21日付で、研究振興局長に池田が着任にしてございます。また、8月1日付で、素粒子・原子核研究推進室長に石川が着任してございます。

【観山座長】  それでは、池田研究振興局長より一言御挨拶をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【池田研究振興局長】  先ほど御紹介にいただきましたように、9月21日付で研究振興局長を拝命いたしました池田でございます。よろしくお願いいたします。
  この有識者会議の委員の皆様におかれましては、大変御多忙なところこの委員をお引き受けいただきまして、大変感謝をしております。改めてお礼を申し上げたいと思います。また、本日、お忙しい中こうして集まりいただきましてありがとうございます。重ねて御礼を申し上げます。
  この有識者会議は、ILC計画についてこれまで指摘されている諸課題の進捗状況等につきまして、フォローアップの議論を行っていただくとともに、最新の情報を整理するという趣旨で今年の7月に再開をしているわけでございます。今回と次回の会議では、平成30年の有識者会議の報告書をおまとめいただいて以降3年たっておりますので、この間のいろいろな課題の進捗状況等について、計画の提案者の先生方からも御説明をいただきつつ、意見交換をしていただければと思います。
先生方からは活発に御議論いただきまして、忌憚のない御意見をいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【観山座長】  どうもありがとうございました。それでは、事務局より、本日の出欠と配付資料の確認をお願いいたします。

【林加速器科学専門官】  それでは、紹介いたします。
  まず、本日の出欠でございますけれども、本日は伊地知先生が御欠席でございます。
続きまして、配付資料の確認をいたします。本日の資料でございますが、議事次第にありますとおり、資料1-1から2-5、それから参考資料を配付してございます。もし資料の不足等ございましたら、お知らせいただければと思います。
  続きまして、本日、オンライン会議を円滑に行う観点からのお願いでございます。まず、委員の先生方、御発言の際は挙手とお名前をお願いいたします。御発言なさらないときはマイクをミュートにしていただきますようにお願いいたします。また、資料を参照して御発言される際は、ページ番号等を示していただければというふうに考えてございます。
  それから、本日の傍聴の状況でございますけれども、事前に申込みのございました138名の方が本日傍聴されているところでございます。
  本日の会議の資料それから議事録につきましては、後日ホームページで公開されます。
  以上でございます。

【観山座長】  ありがとうございます。
  本日は、ILC計画の諸課題の進捗状況の確認として、提案研究者側先生方に御出席いただいております。意見交換を行います。事務局から出席者の紹介をお願いいたします。よろしくお願いします。

【林加速器科学専門官】  それでは、御紹介いたします。
  本日御出席いただいている先生方を紹介いたしますけれども、もしビデオをオンにされてない先生方は、ビデオをオンにしていただければと思います。それでは、こちらから名前のほうを読み上げさせていただきます。
  まず、ILCジャパンのスポークスパーソン、高エネルギー物理学研究者会議高エネルギー委員長、東京大学素粒子国際研究センターのセンター長でございます、浅井センター長でございます。
  それから、高エネルギー加速器研究機構、山内機構長でございます。
  東京大学素粒子国際研究センター、森教授でございます。
  カリフォルニア大学バークレー校の村山教授でございます。
  高エネルギー加速器研究機構の道園教授でございます。
  ILC国際推進チーム議長、スイス連邦工科大学の中田名誉教授でございます。
  高エネルギー加速器研究機構、照沼教授でございます。
  それから、高エネルギー加速器研究機構、岡田理事でございます。
  各項目の説明につきましては、資料1-1に記載されている先生に行っていただきます。本日は、他の先生にも御出席いただいておりますけれども、意見交換、質疑応答の際に、必要に応じて対応いただくことがございます。
  紹介は以上でございます。

【観山座長】  先生方、大変お忙しいところ御出席いただきまして、ありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
  それでは、初めに、本日の意見交換の進め方と進捗状況の確認の視点等について、改めて事務局から説明をお願いいたします。

【石川素粒子・原子核研究推進室長】  それでは、資料1-1から1-4に基づきまして、本日と次回の意見交換の進め方等について、改めて御説明させていただきたいと思います。
  まず、資料1-1の「有識者会議における意見交換の進め方について」でございますけれども、第1回の会議でも確認いただきましたとおり、基本的考え方におきましては、前回の有識者会議の報告書、平成30年7月の議論のまとめですとか、その後に日本学術会議から公表されました所見等で指摘されたILC計画の課題について、その後の進捗ですとか変化について提案研究者から御説明いただいて、意見交換を行うということでございます。本日と次回参加いただく提案研究者の先生方は、先ほど御紹介させていただきましたとおりでございます。
  スケジュール、説明項目、説明者に関してでございますが、本日の第2回につきましては大きく3つの発表をいただく予定です。1つ目がILC計画の概要とこれまでの経緯。2つ目が、技術的成立性及びコスト見積りの妥当性で、加速器等の関連。それと、ILC準備研究所の提案書についてということで予定してございまして、それぞれのところで委員との意見交換を予定しております。3つの発表をいただいた後に、有識者委員間での討議を最後に予定してございます。
  ページをおめくりいただき次のページに行っていただきまして、第3回も、それぞれの項目について各説明者のほうから御説明いただいた後に意見交換、最後に有識者間での討議を予定しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
  資料1-2以降のところで、前回、第1回の資料でも入れさせていただいておりますが、改めて主な課題のところを確認させていただければと思います。資料1-2にございますように、まず1つ目としては、国際的な研究協力及び費用分担の見通し。2つ目としては、学術的意義や国民及び科学コミュニティーの理解。3つ目として、技術的成立性の明確化。その中でも1つは、ILC加速器等の話と、もう一つが、土木工事及び環境安全対策について。それと4つ目として、コスト見積りの妥当性。5つ目として人材の育成・確保の見通し、その他準備研究所等ということで、これまでの有識者会議等で指摘されている課題についての項目でございます。これらについて、進捗状況等について御議論いただきたいと考えております。
  資料の通しページですと7ページになりますけれども、加えて、関連する周辺状況といたしまして、こちらも第1回の資料でも共有させていただいておりますけれども、改めて共有させていただきたいと思います。1つが米欧の政府機関との意見交換の状況ということで、下線部のところを御説明させていただきますが、米国につきましては、2019年9月に日本がILC計画をホストする場合には支援するということですとか、現物貢献が可能であるという旨の表明をいただいておりますけれども、現時点で具体的な貢献の表明はないというのが現在の状況でございました。
  2番目の欧州の状況におきましては、2020年2月のときに意見交換をさせていただいたときには、それぞれ国際・国内のプロジェクトを抱えているため資金的な余力がないということですとか、3分の1ずつの負担ということに関しては、建設コストが多額であることから不可能であり現実的ではないといったこと、また、2020年7月に改めて欧州戦略ができた後に意見交換の申入れをした際には、そこに記載のとおり、欧州3か国それぞれスタンスに変わりはないということで、資金的な余力がないといったようなことを返答いただきまして、このときには意見交換には至っておりません。
  もう一つ、関連の周辺状況といたしまして、今年の2月に国会で当時の萩生田文部科学大臣が答弁した内容でございますけれども、準備研究所につきまして、準備研究所のみでも約230億円というような規模が見込まれておりますが、ILC計画本体に先の見通しがない状況において準備研究所に投資することについては国民の理解を得ることが難しいということで、準備研究所の予算を検討する前に、明確な財政的裏打ちも含めて、欧米等のILC本体の協力の見込みを確認することが必要であるといった答弁を2月の国会で大臣がなされているような状況がございます。
  このような前回の報告書での指摘でございますとか周辺状況を踏まえて、資料1-3でございますけれども、「進捗状況の確認の視点」ということで、こちらも前回資料にも入れて御確認いただいておりますが、各項目の共通事項といたしましては、前回の取りまとめ以降約3年間で提案研究者がどのような取組を行ってきたか、また、どのような進捗が見られたかという点、その説明の根拠が明確に示されているか、また、説得力のあるものになっているかというところ、また、解決の見通しが立っているという状況にあるかという点について、各項目ごとに意見交換、議論をしていただきたいと思っております。それぞれの内容につきましては、それぞれの課題ごとに意見交換をする際に、改めて御参照いただければありがたいと思っております。
最後、資料1-4でございますけれども、前回第1回の有識者会議の中で、こういった視点もしっかり研究者側から説明いただいて、議論したらいいのではないかということで御指摘いただいた点もまとめてございます。こちらについても、それぞれの項目の意見交換などの際に、改めて御参照いただきながら御議論いただければと思っております。
事務局からの説明は以上でございます。

【観山座長】  ありがとうございます。今回は、ただいま説明にありましたとおり、意見交換を進めていきたいと思いますので、会議の進行にどうぞ御協力いただければと思います。
  それでは、議題1として意見交換を始めたいと思います。先ほどの進め方どおり、まずは、提案研究者側から進捗状況を御説明いただき、その後に意見交換を行います。ビデオをオンにして御説明、意見交換していただくのは、項目の説明者と、計画提案の代表として浅井先生、山内先生にお願いします。御説明いただく項目以外の計画提案の先生方は、一度ビデオをオフにお願いいたします。
  それでは、お二人の研究者の方から、ILCの概要とこれまでの経緯について、提案研究者のほうから20分程度で御説明をお願いいたします。
  それでは、まず、森先生、お願いいたします。

【森教授】  それでは、始めさせていただきます。東京大学の森です。私は9月の半ばまで、ここにあります高エネルギー物理学研究者会議(JAHEP)、これは日本の素粒子物理実験の研究者のコミュニティーですけれども、そこの委員長をしていまして、6月に提出させていただきました「ILC計画の主な課題について」というのをKEKと一緒にまとめた責任がありますので、今回、参加、発表させていただくことになりました。
  その6月に提出させていただいた、この「ILC計画に関する主な課題について」ですけれども、このJAHEPとKEKで取りまとめて文科省に提出した。ですが、ちょうど6月の初めというのは、ILC国際推進チーム(IDT)が準備研究所、プレラボの提案書を出した時期とちょうど重なっていまして、その際には、我々はプレラボを推進するのでかなり意気込んでいまして、プレラボ、プレラボとかなり前のめりになって「ILC計画に関する主な課題について」というのをまとめてしまいましたので、もうちょっと簡潔に、分かりやすくまとめたスライドを今回提出させていただきます。それが資料2-1としてまとめてさせていただいたスライドです。ここでは、特にこの3年間の推進に焦点を置いて説明させていただいています。
  このスライドの中の右上に、このページに書かれている課題に対する今回の発表者、我々側の発表した名前が書いてあります。ですので、この資料の中で何か疑問があった場合には、この対応する発表者名のところで質問していただけると一番よいかと思います。
  これはスライドにまとめたんですけれども、このスライドをそのままやると時間がないので、それぞれの発表では、要点をまとめた補足的なスライドを使ってさせていただきます。ですので、もしこの「ILC計画に関する主な課題について」というスライドについて質問がある場合には、どんどん発表の際に質問していただきたいと思います。
  発表者というのは、先ほどから出ていましたが、このようになっていまして、このような国際的なプロジェクトにもかかわらず、発表者が全員日本人ではちょっと問題かなと思ったんですけれども、やはりここは日本語で忌憚のない議論をしていただきたいということと、ここをよく見るとお分かりだと思うんですけれども、それぞれ多くの方は国際的なコミュニティーの中で代表的な役割をしていますので、国際プロジェクトとしての視点でお話をさせていただきたいと思います。
  特に、中田さんはIDTの議長をされていますが、中田さんは実は数年前までヨーロッパの研究者コミュニティーの代表をされていました。ですから、彼は日本の研究者というよりは欧州を代表して意見を述べていただけると考えていいと思います。それから、村山さんもずっと米国で研究されていて、米国の将来戦略をつくるのに非常に大きな役割をされている方ですので、国際的なプロジェクトとしての視点を持って発表させていただくことができると思います。
  私の発表はこれからさせていただきますが、皆さんよく既に御存じだとは思いますけれども、ここで、ILCの概要とこれまでの経緯について簡単に述べさせていただきたいと思います。
  まず、コライダーです。コライダーというのは、こういう円いトンネルの中に粒子を反対方向に回して正面衝突させて、その非常に高い衝突エネルギーで宇宙ができた頃の状態を再現して研究をするというものです。コライダーの中には2種類あって、ハドロンコライダーと電子のコライダーがあります。
  ILCというのは電子のコライダーですが、電子のコライダーというのは実は大きな問題があります。それは放射光を出すんです。軽い粒子でぐるぐる回すと放射光、光が出てしまう。その光によるエネルギーの損失というのは、実はエネルギーを上げれば上げるほど、4乗でどんどん増えていきます。これをどんどんやって、実は、加速器の大きさを決めてしまうとそれ以上上げられないという、衝突エネルギーに限界があるということです。ですから、我々がもっとエネルギーを上げて宇宙の始まりを調べたいと思ったときに、どうしても電子の円形コライダーでは限界があるということになります。
  ただ、この放射光というのは、エネルギーが高いと放射光はX線になりますが、このX線は物質科学や産業、医療等に大きく活用されております。
  ということで、ぐるぐる回すと放射光で限界があるということで、直線で加速して衝突させればいいことになります。これは簡単なことなんですけれども、新しいコライダーのパラダイムを考えることがあります。要するに、放射光による衝突エネルギーの限界がないということです。ですから、もし加速技術がどんどん今後進歩すれば、幾らでもエネルギーを上げることが可能です。加速する技術というのは、加速器が生まれてからこの方、何桁も何桁も向上していますので、今後もどんどん向上するということが期待されます。ですから、今後、素粒子物理の研究をするためには、このリニアコライダーを実現させるということが大変必要になってきます。
  ですが、簡単でありません。円いコライダーでは、何回も何回も回して、何回も何回も衝突させることはできるんですけれども、リニアコライダーの場合は1回きり。加速して衝突させるので、なかなかぶつかりません。ですので、効率よい加速と、よくそろえて、ぎゅっと絞ってぶつけてやるという技術が決め手となります。
  実は、リニアコライダーというのは実現されたものがあります。これはSLCと言って、アメリカのスタンフォードの研究所でつくられたものですけれども、ただし、これは完全リニアではなくて、既存の直線加速器の先にこういうアークをつけて、ここで衝突させて。ですから、これはエネルギーを上げていくことはできないんですけれども、しかし、大きな成果を上げました。
リニアコライダーというのは実は電子ビームを非常に強く偏極させることができますので、偏極の技術を使って大きな物理成果を上げることができている。じゃあ、それで基本的な検証はできているわけですけれども、やっぱり本格的なリニアコライダーを実現したいと我々は思っておりまして、それがILCです。これはヨーロッパ、アメリカ、アジア三極によって、これまでずっと長い間共同開発等を行ってきまして、実現に必要な技術がほぼ完成しているというところです。
  ここで、簡単にこれまでのリニアコライダーの開発の始まりから、今、全世界で推進していることを簡単にお話ししたいと思います。
  まず、リニアコライダーが提案されたのは随分もう55年ぐらい前で、1965年に提案されていまして、日本でリニアコライダーの開発研究が開始されたのはもう35年以上前になります。先ほど言いましたSLCというのが稼働したのが80年代の終わりでして、その後、実は90年代ぐらいから研究開発が本格的になりまして、ただし、ヨーロッパとアメリカと日本で、異なる三極で一応国際協力はしながらも、違う技術を中心に開発を行ってきました。
  これは実はよくないということが分かり、それは当たり前ですけれども、やはり全世界で協力してやらないとILCというのは実現しないということで、2004年に技術をICFAという国際将来加速器委員会ですけれども、これは国際的な加速器を使う素粒子物理研究の代表者の集まりという委員会ですけれども、ここで技術を決めてILCに統合しました。それで、全世界協力で開発する体制ができました。
  ですので、ここで捨てられた技術が実はあるわけですけれども、その捨てられた技術も無駄になったというわけではなくて、例えば、日本で開発していたCバンドの技術というのは、Spring-8でX線自由電子レーザーのSACLAで生かされていますし、これは実はスイスのSwiss FELという自由電子レーザーの加速でも扱われています。ですから、こういう高エネルギーの実験用の加速器開発が決して無駄になるということはないと思います。
  その後、国際チームがスタートして、基準の設計報告書が完成し、その後、何年もかけて技術設計書、テクニカルデザインレポートが2013年に完成しました。その後間もなく、国際研究コミュニティーが日本でこのILCを建設するということで合意が形成されました。これには実は大きなきっかけがあります。それは2012年7月にヒッグス粒子が発見されたことです。
  このヒッグス粒子の発見というのは、単なる新粒子の発見というだけでなく、実は、宇宙の始まりに宇宙の真空が相転移を起こした証拠をここで見つけたということになります。相転移というのは、水の温度が下がって氷になるように宇宙にヒッグス場が真空に凍りついて、宇宙の初めというのはたくさんの光に満ちた世界だったんですけれども、これによって物質ができて、星ができて、銀河ができて、今の宇宙になりました。ですから、ヒッグス粒子の発見によって、今後、真空の研究をしていかなきゃいけないということになります。この辺の物理の説明は、村山さんがこの後すぐお話ししてくださると思います。
  国際研究コミュニティーが日本建設で合意できたんですけれども、最初に、2012年から14年の間に、そういったグローバルな将来戦略ができました。国際的な将来戦略の中に日本でのILCというのがちゃんと組み込まれたということです。その後、2017年頃から今まで、この将来戦略の見直しということが今行われています。その中で、この2012年頃、グローバル戦略が正しいということを再確認して、ヒッグスファクトリー、ILCもその1つですけれども、ヒッグスファクトリーが最優先であるということで一致しております。
  どうして日本で建設することにみんな合議ができたかというのは、1つの理由は、日本のリーダーシップへの期待が世界的に高まっているということが言えると思います。まず、日本にある加速器の実績です。KEKB/SuperKEKB、J-PARC。それから、国際共同研究の実績。BelleⅡ、T2Kというのは日本で行われる国際研究です。
  実際、このBelleⅡ、T2Kに参加している研究者の国籍を見ると、日本というのはメジャーじゃないんです。BelleⅡでは日本は15%ぐらいに過ぎなくて、T2Kでも20%ぐらいとなっている。ですから、これらの日本で行われている国際共同研究というのは、本当に真に国際的な共同研究になっているということになります。
  それで、日本でILCを進めるということになりましたけれども、この研究者の中でそれについてILCはどのように進めるかという議論が行われてきました。まず、2020年2月、これはちょうどコロナが爆発する直前にアメリカで行われた会議なんですけれども、ICFAの会議で文科省の方に参加していただいて、ILCに関心を持って協議を進めるという表明をしていただきました。それと並行して、アメリカ政府もILCのサポートをするということを再確認しました。
  これらを受けて、2020年、昨年の夏に、ICFAとしては段階的にILCを進めていこうと。その第一歩として、国際推進チーム(IDT)というのを発足しました。この段階的推進というのは、まず、第一段階としてIDTをICFAの下に設置する。ですから、ここが今現在の段階です。次のプレラボ、準備研究所というのを始める。この準備研究所というのは、研究所と言いますけれども、実際は、研究所の間のMOUで、in kindで人やものを持ち寄って集中的に国際的な研究開発をやろうというものです。これについては中田さんが説明してくださると思います。
  今年の6月に、IDTによるプレラボの提案書が公表されました。日本の国内でも、我々のコミュニティーの中で推進体制を強化するために、ILCジャパンとか推進パネルというものをつくって、強化してきました。
  最後に、ILCの鍵となる先端技術について簡単に述べさせていただきます。2つのキーとなるテクノロジーがあります。1つは効率よく加速するための超伝導技術。それから、2つ目は正確に衝突させるナノビーム技術です。これらの開発研究はこの3年の間にさらに発展して、最終段階に入ったと言えると思います。これらの技術の応用利用も広がっていまして、自由電子レーザーとか大強度中性子源、さらに医療・工業用加速器への応用が広がっていると認識しています。
  以上です。ありがとうございます。

【観山座長】  それでは、質問はこの後の村山先生の報告の後に受けることにして、サイエンスを中心に、村山先生、お願いいたします。

【村山教授】  大丈夫ですか。じゃあ、始めます。
ILCのサイエンスで、特にこの3年の進展についてお話するというふうに任命されました。私自身は学生の頃からILCを夢のように思っていまして、かれこれ30年以上関わっているんですけれども、特に去年からは、新しくできた国際推進チームの物流・検出器研究部のワーキンググループのチェアをしていまして、常に百数十人の研究者を束ねながらILCを推進するいろいろな開発研究を進めているところです。
  ILCというのは、簡単に言えば宇宙を創るタイムマシンと言うことができると思います。現在では、宇宙は138億歳であるということは分かってきているわけですけれども、ちょうど人間と同じで、生まれたばかりの頃はたくさんの大事なことが起きる。受精卵が細胞分裂して、いずれ、えらができて、尻尾ができてとどんどんどんどん変わっていくわけです。そして、生まれた後というのも、最初の頃、子供の頃はどんどん成長していく。だんだん成長がゆっくりになって現在に来ていまして、今の宇宙は少子高齢化しているという状況なわけですけれども。
  この事業を研究するに当たっては、当然、望遠鏡というのが大変重要な働きをしているのは明らかです。ですが、この望遠鏡を使って遠くを見ると過去が見えて、昔の宇宙が研究できるというのはすばらしいことなんですが、原理的に限界があることも分かっています。ある程度以上昔の宇宙になりますと、あまりに熱くて濃い宇宙になりますので、光がすっと通ることができない。ですから、38万歳よりも前の宇宙というのは、実は望遠鏡で調べることは原理的にできないということがはっきりしています。
  この最初の頃の宇宙というのが言わばDNAが決まった時期で、このときの宇宙での現象でもって今の宇宙の運命とか進化が決まってきたというわけですから、ここを調べるのは非常に重要である。ですから、これ以上見ることができない宇宙はつくってみるしかないんだと。これが加速器が果たす役割でありまして、特にILCの装置を使いますと、宇宙が始まってからまだ1兆分の1秒という本当に若い宇宙の姿を実験してやり直す、作ってみることができる。こうやって宇宙の進化を明らかにするんだというわけです。
  そして、特に最近、この1兆分の1秒の時期が非常に重要であるということも分かってきました。先ほどお話があったように、ヒッグス粒子というのが発見されまして、100年以上かかってつくられた素粒子の標準理論が完成したわけですけれども、実は、見つかってみると、このヒッグス粒子自身非常に謎であるということが分かりました。
  まず、これは宇宙空間にぎっしり凍りついているというふうに考えられるわけです。これをたたき出すことで発見したわけです。凍りついているので、どこに行ってもありますから、当たり前のようにどこにでも生まれるので、気がつかない。そういう意味では空気のような存在なわけですけれども、これも空気と同じように非常に大事な存在で、空気がないと我々は生きていけない。何を言っているかといいますと、我々の体をつくっている原子の中には電子という粒子がぐるぐると回っているわけですけれども、本来は電子は光の速さでびゅーんと飛んでいきたいんだと。ところが、このヒッグス粒子が凍りついているので、邪魔されてゆっくりになっているおかげで原子の中をぐるぐる回れるようになっています。ですから、このヒッグス粒子が凍りついているのがもし何らかの格好で蒸発してしまうと、私の体は10億分の1秒でばらばらになってしまうわけです。これをきちんと抑え込んでくれる我々にとって非常に大事な存在です。
  しかも、この粒子というのが今まで見たことがないタイプであるということも分かっていまして、何でこんな粒子がそもそもあるんだ。それがなぜ宇宙に凍りついているのか。そのおかげで我々が存在できるわけですから、これは非常に大きな問題です。それだけではなくて、我々の宇宙が形づくっているものというのは、実は我々の知っている原子というのが5%しかなく、残り95%は未知のものであるということが確立してきたわけですから、確実に新しい物質とか法則が存在するというのも間違いありません。
  そして、簡単な次元解析を使いますと、例えば、この暗黒物質、ダークマターと呼ばれているものがどういうふうに発見できるかということを考えた場合には、ヒッグスが窓になる可能性が非常に高いということも簡単に分かりますし、実はこの5%の原子ですら謎で、宇宙ができたときには物質と反物質両方できましたが、そのままだと我々は完全消滅の危機にあったわけです。それを誰かが救ってくれたんだと。その救ってくれた存在も実はヒッグスである可能性があるということを最近議論されるようになりました。
  そして、その大事な調べたヒッグス粒子を一番たくさんつくるために最適なエネルギーが250GeVだということも分かりましたので、エネルギーを下げて、これに最適化したようなデザインに変更したという状況です。
  これが非常に大事だということがむしろはっきりしてきているのは、ずっと長いことLHC実験でもって高いエネルギーを目指してきたわけですけれども、なかなか新しい現象が見つからない。その状況の中で分野の意識が非常に変わってきまして、まず、見つかったヒッグス自身が謎なんだから、これをちゃんと調べる必要がある。こんなものは1つしかないというのもおかしな話なので、もしかしたら兄弟、親戚がいるのではないか。それから、もしかしたら本当は異次元を回転している粒子なのではないか。もしかすると、これは素粒子ではなくて複合粒子で、自然界にさらに階層があるのではないか。こういう非常に物理学の革命的な変化を促すようことを秘めているのがヒッグス粒子なわけです。
  これを調べるのがまずILCで、これは絶対なければいけない。何でLHCで見つかったヒッグス粒子をもう一度調べなければいけないかといいますと、言ってみれば、天文学だと写真を撮る撮像の後に分光観測してその性質をきちんと割り出すのと同じように、別の方法で観測することによって正体が分かってくるということです。そして、この観測を進めていくと非常に詳細な測定ができるために、次のエネルギーがどこが大事なのかという分野の方向性を決めることもできると考えています。そのためにはこのエネルギーが最適である。
  しかも、さらに最近分かってきたのは、高いエネルギーを目指すという方向だけではなく、エネルギー的には低いんだけれども、実は相互作業が弱いようなところに暗黒物質とか、先ほどの物質の起源を説明するサイエンスがあるのではないかというのが最近非常に注目されまして、そのためにはいろいろな今までの施設を使ってやってきているわけですけれども、ILC自身もここに迫り、しかも、別の施設も伝えることができるということが最近はっきりしてきまして、ここ3年、サイエンスが非常に豊かになってきました。
  そして、当然、将来的には、線形の機械ですから、継ぎ足していくことによってどんどんエネルギーを上げていくことができる。さっき森さんが言われたような、円なので限界があるという施設ではありませんので、本当に長いこと使っていけるような施設になっていくわけです。ちょうど再来週なんですけれども、私を中心に、今、新しい会議を開こうとしていまして、そこでは電子と陽電子をぶつけてヒッグスを探すという前から言われていたサイエンスだけでなく、ほかにも様々なサイエンスがそこで可能になるんだということを含めて議論することにしています。
  そして、何でLHCで見えないものがILCで見えるかといいますと、LHCが陽子を衝突させるために、実は、こんなごちゃごちゃな状況が出現するんです。この中で1個だけ見つからないものがあるかどうかみたいなことを探すわけですから、これは非常に難しい。どうしてごちゃごちゃになるかと言いますと、LHCをぶつけている陽子という粒子は、言ってみれば豆大福みたいなもので、中に豆、クォークが入っていて、それを結びつけるあんこがある。これをぶつけますと、当然ですが、あんこが飛び散るわけです。これがあんこが飛び散った状況です。本当に知りたいのは、小豆自身がこつんとぶつかるのを見たい。ですから、小豆自身を投げるほうがよくて、それをぶつけられることができればいいわけですけれども、すぐ分かるとおり、小さいものを投げるのも難しいし、ぶつけるのはもっと難しい。その技術ができるようになったというのが、先ほど森さんの言われた技術提案書だったわけです。
ですから、こういう環境をつくれば、あんこが飛び散らずに、本当に豆同士がこつんとぶつかるのが見えて、LHCで見えない現象が見えてくるんだと。それでもって、例えば、ヒッグス粒子の正体が唯一無二のものなのか、兄弟、親戚がいるのか、もしかしたら素粒子ではないのかということが非常に正確に判定できるようになりますし、それから、暗黒世界へのつながりという意味でも、ヒッグス粒子が暗黒物質に崩壊する可能性があって、これは直接探査に比べて100万倍の感度をILCが持つことになります。そして、ヒッグス粒子が我々を完全消滅から救ってくれた、物質の起源になっているというのを、最近、私も理論的に提唱しているんですが、そういうことについてはLHCの1万倍の感度で探索ができるようになります。
  そして、先ほどお話がありましたように、これは国際合意で何とか日本につくろうという方向で、今、世界中が動いているわけですけれども、そもそも、日本の研究者のコミュニティーでこれを提案した後、ヒッグスファクトリーの議論の火つけになりまして、この議論は日本が主導したと言っていいわけです。そして、すぐ翌年にアメリカから出たレポートでは、これは大事なポイントなんですけれども、ヒッグス粒子が見つかったわけですが、見つかったヒッグス粒子を次の大発見のツール、道具として使うんだ、そういうことができるようになったんだということを言っています。
そして、つい去年のヨーロッパの新しい戦略では、プロジェクトとして言及したのはILCのみで、その中でもヒッグスファクトリー、これからヒッグスをたくさんつくるような実験というのは今後の加速器を使った研究での最優先事項であるということを言っています。ですから、日本でILCがタイムリーに実現するのであれば、ヨーロッパのコミュニティーは当然一緒にやるんだと言っているわけですけれども、ここでタイムリーと言っているのは、要するに、日本がすぐやるんだったら、もちろんそれで一緒にやっていくけれども、もたもたしているようだったら、ヨーロッパはいずれLHCが一段落ついたところで自分たちでやりたいんだということを暗に言っているわけです。ですから、アメリカもヨーロッパも本当はやりたい。でも、日本が手を挙げているし、今は別のこともやっているから、取りあえず日本に任せているけれども、時間がかかるようだったら自分たちでやりたいというのがヨーロッパとアメリカも両方とも考えていることです。
  先ほどお話があったように、日本は国際的には非常に信用が高く、技術的にもサイエンス的にも安定しているという意味でも信頼されているので、日本がやるんだったら一緒にやれる。そして、日本がこのILCの議論を主導してきた。つまり、これは日本が世界をリードできるめったにないチャンスで、ここでもたもたしていると本当にILCはさらわれてしまうというのが、私が非常に危惧していることです。
  というわけで、これが過去3年ぐらい、本当にILCのサイエンスというのはいろいろな意味で見直されて、そして、どんどん広がりが出てきたというところになりまして、それをもって本当に宇宙の始まりを探っていきたいんだ、これがILCのサイエンスについての私のまとめです。ありがとうございました。

【観山座長】  ありがとうございました。
ただいまの説明に関して、御意見、御質問はございますでしょうか。どうぞよろしく。画面に手を挙げてもらうのが一番簡単でいいと思いますけれども。いかがでしょうか。
  それでは、私のほうから。1つは村山さんに。さっき、宇宙の構成でマター、ダークマターとダークエネルギーというのがあって、ダークマターについては、もしかするとこのILCで非常に大きな理解が進むかもしれないということですけれども、宇宙を構成している一番大きなダークエネルギーに関しては、このILCとの関係はどうなんでしょうか。

【村山教授】  それも非常に面白い点なんですけれども、ヒッグス粒子は真空に凍りついているというお話をしました。ですから、真空の中の存在という意味では、実はダークエネルギーと仲間だと思われているわけです。それだけではなくて、宇宙の最初の頃に宇宙の膨張を加速させていた。今はダークエネルギーが宇宙の膨張を加速させていますけれども、宇宙の最初でも宇宙の膨張を加速させたインフレーションというのもやはり真空の性質で、ある意味ではその3つは仲間だと思われているわけです。実際、ヒッグス粒子自体が宇宙のインフレーションを起こしたのではないかという仮説も存在していますし、それから、ヒッグス粒子のある意味で仲間として、今もころころ坂を転がっているような粒子がダークエネルギーになっているということも真剣に議論されていて、最近では、究極の言われている超弦理論では、ダークエネルギーも真空のエネルギーとして一定のものではなく、坂をころころ転がるように変化する粒子なんだ、そうでなければいけないんだということが指摘されるようになりました。
  ですから、ヒッグス粒子の研究はもちろん、宇宙が始まって1兆分の1秒のときに宇宙に凍りついたという現象を調べるところが直接の目的ではありますが、その仲間としてダークエネルギーやリフレーションについても何らかの知見を与えてくれるに違いないというところが、非常に期待が高まっているところです。

【観山座長】  ありがとうございました。岡村先生、どうぞ。

【岡村委員】  大変初歩的な質問で恐縮なんですけれども、250GeVでヒッグス粒子が最も多くできるというふうに言われました。これは多分ヒッグスの質量の2倍ぐらいだと思うんですけれども、今の計画中のILCが250GeVというふうになったのは、それを見越してそういうふうにこのパラメーターが選ばれたんでしょうか。

【村山教授】  はい、そのとおりです。ヒッグス粒子が見つかった後で、250GeVにすることか最適であるという判断になったということです。
  ですが、もちろん、250GeVで実験を続けた後は、だんだんその後で上げていくというのを念頭に置いていまして、ここにちょっと書いてあるんですけれども、もう一度共有しますと、ヒッグス粒子を徹底的に研究して分野の方向性を決めるんだということがまず250GeVで可能なわけですけれども、その先は、少しエネルギーを上げていくとトップクォークという、これも見つかったのは見つかったんですが、きちんと調べられていない。新しい宇宙を創るところまで上がりますし、それをいろいろなエネルギーで調べてみたり、それと、ヒッグスが同時に非常に強く相互作用しているので、もしかしたら両方共複合粒子ではないかということも言われていますが、その結合を調べていく。
  そして、さらに1TeVまで上がっていきますと、ヒッグス自身の自己結合を見る。これはつまり、ヒッグス粒子が真空に凍りつくときに、一体自分とどういう相互作用をすることによって真空に凍りついたのか。そのメカニズムを明らかにするというのがここで可能になってきて、さらに継ぎ足していきますと、最終的には、ILCの中で30TeVというエネルギーまで行けるという技術も、今、開発されていますので、本当に様々なものを探していくことができるような、先ほどの出てきた雲を本当に打ち破って高いエネルギーの世界を臨み、宇宙の始まりを明らかにするという方向にだんだん行くんだというのがILCの全体としての構成になっています。
  ですから、250GeVは、まず最初のサイエンスで間違いなくいいサイエンスができるというエネルギーがはっきりしたので、まずはそこにフォーカスして、それを最適化するんだと。その後、線形である強みを生かして、少しずつ継ぎ足して、様々なサイエンスをずっと続けていくというのがILC計画の今のスタンスになっています。

【岡村委員】  分かりました。ありがとうございました。

【観山座長】  ほかの委員、いかがでしょうか。中野委員、どうぞ。

【中野委員】  3年前の議論では、ILCの物理的な意義というところで、ヒッグスがいろいろなレプトンとクォークにカップルする、その結合定数の精密測定というのが一番プライオリティーが高かったんですけれども、この3年間の間でそのプライオリティー自体に変化はあるでしょうか。もっと面白い物理が出てきたとか。

【村山教授】  そのプライオリティー自身には変化がありませんで、それは確実にILCの250GeVでできるサイエンスでありまして、それにまずフォーカスするのは変わっていません。ですが、このエネルギースケールでの物理というのが、今まで考えていたように、とにかく上に行かなければ何も見えないんだという考え方はどうも間違っていて、低いエネルギーでありながら暗黒物質であったり物質の起源であったりというのを研究できるんだというのは割と最近出てきた方向性で、分野が大きく舵を切った状況にあります。
  そこで振り返ってみますと、実は、ILCというのはちょうどそこにうまくはまっているんだということが再認識されたということで、今まで思っていた以上にこれはもっと面白いプロジェクトになった。ファーストプライオリティーはもちろんヒッグスなんですけれども、それ以外のこともこんなたくさんできるということが分かってきた。それが本当にここ1、2年のサイエンスの進展状況です。

【中野委員】  具体的には、例えば、暗黒物質候補粒子の直接測定とか、そういう発見の可能性が3年間の間で高まったということですか。

【村山教授】  ええ、そうなんです。3年前は分野の人たちが割とどう考えていたかというと、LHCで新しい素粒子は見つかっていないということは、ILCをやっても多分何も見つからないだろうという非常に安直なことを考えていたんですけれども、それはあくまでもこっちの右を目指す方向の議論だったわけです。ところが、こちらの相互作用が弱いほうを目指すというのは、エネルギー的には低いんですけれども、相互作用が弱いと、LHCでは、さっきのあんこの飛び散る中でよく見えない。でも、ILCのクリーンな環境の中では、めったに起こらないことというのもきちんと掘り出すことができるので、むしろこっちに掘るんだというのが重要だというのが、最近、サイエンスコミュニティーで議論されるようになった方向です。
  それで、この暗黒物質を探すためには、例えば、衝突実験をするだけではなくて、そこでビームを捨てるときに水のタンクにビームをぶち当てますから、そこで起きる反応から暗黒物質が出てきて、それをその先でもって捕まえる。もしくは、ここで生まれた新しい粒子が横のほうへ飛んでいって、そこで崩壊する様子を見る。さらに、真空の研究ですから、レーザーとぶつけることによって真空が崩壊するというようなことも調べられるということで、様々な今まで考えられていなかったような新しい施設と実験をここでホストとかすればできるということは本当に去年あたりから議論されるようになってきまして、私はその議論を主導したつもりなんですけれども、サイエンスの幅が非常に広がってきたというのがここ数年間の大きな変化です。

【中野委員】  そのことによってアメリカとか欧州の科学コミュニティーのILCに対するコミットメントの度合いが変わるという可能性はありますか。

【村山教授】  ええ。実際少しずつ変わってきていまして、今までILCにあまり興味がなくて関わってこなかったような研究者が、むしろこういう別の目的のためにILCを使うということに参画してきている。研究者層も、今、広がりを見せています。

【中野委員】  ありがとうございました。

【観山座長】  ありがとうございました。東嶋先生、お願いします。

【東嶋委員】  御説明ありがとうございました。ジャーナリストの東嶋和子と申します。

【村山教授】  よろしくお願いします。

【東嶋委員】  ありがとうございます。先ほど、村山先生のお話で、当面は250GeVが最適ですけれども、その後、いろいろなバージョンアップを図って様々なことが期待できるというお話だったんですけれども、それは私の記憶では20年間で全体として1兆6,000億円ぐらいかかるということなんですが、バージョンアップして様々なことができるとおっしゃったその部分も含まれると考えていいですか。それとも、当初の250GeVの作成分とその成果で1兆6,000億円と考えていいですか。

【村山教授】  その1兆6,000億円という数字が何を示しているのか私はちょっとすぐは分からないんですけれども、ILCの250GeVは大体6,000億から8,000億と言われていたはずで、それでつくられたILCは250GeVのマシンにとどまります。その後、高いエネルギーに行くためには、継ぎ足して装置を付け加える必要があるわけですけれども、これは長いスパンで少しずつやっていくものなので、一気にどーんとお金をつけるということではなく、ILC研究所の運営をそのまま続けていく程度の予算で少しずつそれをアップデートしていくことができるんだというふうに考えています。
  この点についてもっと詳しい情報が必要であれば、後の道園さんに聞いていただくほうが私よりもずっと専門家なので、そちらでお願いしたいと思います。

【東嶋委員】  ありがとうございます。

【観山座長】  どうもありがとうございます。
時間の関係もありますけれども、これでILCの概要とこれまでの経緯についての意見交換を終わりたいと思いますが、多分、私もそうですけれども、さらに質問があると思います。そういう方は、後日でも構いませんので、事務局に御連絡いただければと思います。
  それでは、次の「技術的成立性及びコスト見積りの妥当性(加速器等)」について意見交換を行います。それでは、初めに、提案研究者側から20分程度の御説明をお願いします。道園先生、お願いします。

【道園教授】  それでは、画面を共有させていただきます。画面は見えていますでしょうか。

【観山座長】  はい、見えています。

【道園教授】  それでは、私、道園から技術的成立性・コストについて御説明させていただきます。指摘された事項で関連するものとしては技術的成立性の明確化の部分、それから、コスト見積りの妥当性というところになります。
  250GeV ILCの概略ですけれども、全長が20キロメートルほどの大きな加速器ですけれども、基本的には、加速器のシステムというのはエリアごとに独立にモジュール化されております。例えば、電子源、陽電子源、ダンピングリング、電子とか陽電子を加速する主加速器、ビームを収束する部分とビームダンプ。こういった形にモジュール化されているということです。
  重要な技術としては、最終収束と呼ばれるところでは、ビームを7.7ナノメートルぐらいまで。それから、もう一つは超伝導を使った加速技術で、これはニオブの加速空洞と呼ばれるものですけれども、山が9つあるので9セル空洞と言いますが、これを約9,000台つくるということを考えております。大体1メートルほどの加速管なんですが、1台当たり大体30数メガボルト加速いたします。これを使って電子と陽電子を加速するということです。
  技術的な準備状況ですけれども、2007年に概念設計、2013年に技術設計が終わって、技術開発が順調に推移しております。今後の課題についても解決の道筋がついたと考えております。
  超伝導高周波の加速関係について見ますと、2017年までにプロトタイプの実証まで終わっております。2018年からは、日米協力を核として空洞の高性能化、コスト削減に取り組んでおります。また、並行して2017年から、後で少し御説明しますけれども、European XFELのユーザー運転が始まっております。こちらは超伝導空洞を800台ほど使ったものです。いわゆる10%程度のモデルとなります。これが安定に運転されているというのは非常に大きい意味があります。
  プレラボで想定しているのは9,000台の空洞というふうに申し上げましたけれども、3つの領域、ヨーロッパ、アメリカ、アジアで分担してつくるということを想定しております。国際分担で量産を実証するということ。それから、クライオモジュールという空洞を収めた真空容器でこれを移送して性能が保持されることを確認することを挙げております。
  電子源については、要素技術実証までは2017年までに終わっておりまして、プレラボではTDR以降に開発された新しい技術をどのように取り込んでいけるかということを確認することが課題として考えております。
  電子源としては、アンジュレーター方式プランAと、電子クローン方式プランBの2つを並行して研究開発を進めております。いずれも2017年までには要素技術の開発が終わって、要素技術実証のフェーズに入っております。プレラボでは、回転ターゲットとか、陽電子を捕獲するための磁気収束開発、あるいは、捕獲した後に加速するため捕獲空洞の技術を確立することを挙げております。
  それから、ダイビングリングと最終収束に関しては、KEKのATFで国際協力により技術実証まで終わっております。課題としては、ダンピングリングだと高速で入射、あるいは取り出しが必要なんですけれども、これについて、最近、他の加速器で開発された技術があるんですが、それを含めて高速のキッカー技術の確認を行う。それから、最終収束の部分については、KEKのATFで、国際協力で安定運転の技術を確立するということを挙げております。
  ビームダンプについては、TDRの頃までは、欧米の研究者が中心となって技術設計などを行ってきました。2018年ぐらいからは、KEKが中心となって設備設計の具体化を進めております。課題としては、遠隔の保守技術を確立することを挙げております。
  超伝導高周波技術ですけれども、2017年までにTDRに基づいた空洞の歩留り評価を行っております。European XFELの話はしましたけれども、そこでの結果を見ますと、ILCの仕様歩留り目標90%に対して、83%を超えるところまではもう既に到達しているということです。それから、クライオモジュールについても技術設計が終わっている。この間、European XFELの運用が始まって、また、LCLS-Ⅱも建設中です。国際協力とか、国際調達によって実現されていて、国際的な整合性とか品質管理の実証がなされたというふうに考えております。2018年からは、空洞の高性能化、コスト削減に日米協力、日欧協力で取り組んでおります。これについては、また次のページで御説明いたします。
  次のステップとしては、国際分担で量産を実証することです。クライオモジュールを移送して性能が保持されることを実証する、こういったことを挙げております。3領域で合計で41億円程度。それから、マンパワーとしては3領域で300名弱です。これぐらいを想定しているところです。
  国際協力ですけれども、日米協力で表面処理による性能向上を掲げております。これは空洞の性能を表したものですけれども、横軸が加速勾配、縦軸がQ値です。加速勾配が高いと、使用する空洞の数が減る、あるいは、Q値が高いと冷凍機の負荷が小さくなるというものですけれども、最近の新しい表面処理方法によって、これはアメリカのフェルミ研究所で開発されたものですけれども、Q値が高くかつ加速勾配の高い表面処理があるということが分かってきた。
  もう一つは、ニオブ材料の準備に関わるものです。通常は、ニオブのインゴットを圧延、機械研磨してニオブのディスクをつくるんですが、それをダイレクトスライス、直接インゴットからスライスすることでニオブの材料を作る工程を簡略化するというものです。これは日本が中心になって行なっております。
  それから、日欧協力として、ドイツではXFELの空洞の製造評価を行ってきました。そこで、例えば、空洞周波数の自動測定装置などがございます。こういったことについて取り組んでいる。
  あるいは、日仏協力。フランスはEuropean XFELで空洞のクライオモジュールへの組み込みを担当してきました。空洞の組み込みを行うためにはクリーンルームで作業を行うんですが、非常にほこりを嫌うので、その当時は人力でやっていたんですけれども、自動化するととてもいいということで、彼らは自動化する研究開発を行っていて、日本もそれに加わって、KEKでは防じん作業を自動化するような設備をつくっております。
  それから、加速器に関して言いますと、KEKのSTFでは、ILCの仕様である31.5MV/mを超える33メガボルトの実証を行っている。それから、アメリカでは、高電界クライオモジュールという38MV/mの実証を目指して、国際協力で性能の良い空洞をそろえるということを進行しております。
  空洞とクライオモジュールというお話をしましたけれど、クライオモジュールというのは、空洞が8ないし9個ぐらい収まったものです。真空の断熱容器になっておりまして、これによって空洞自身は液体ヘリウムで冷却するんですが、クライオモジュールの外側は室温でも大丈夫といったものになっております。
  European XFELでは、大体800台の空洞を使う。それがILCだと8,000空洞なんですけれども、クライオモジュールがずらっと並んでいるという形ですので、基本的には、この10%に相当する部分がXFELに当たるということです。プロトタイプとしては非常に重要な成果だと思います。
  次は陽電子源ですけれども、陽電子源はプランAとしてのアンジュレーター方式。これは偏極が得られるという利点があります。それから、プランBとしての従来型。この2つを並行して研究開発を行っております。2017年までに技術設計は終わって、最近3年間は要素技術実証のフェーズに入っております。例えば、チタンのターゲットのビームテスト、あるいは、ヘリカルアンジュレーターというのを使うんですが、これについては、アメリカの放射光施設で実用運転が始まっている。あるいは、European XFELでは、非常に長いアンジュレーターが運転に使われているというようなことがあります。
  従来型に関しては、ターゲットのプロトタイプをつくって真空特性を試験したり、あるいは、ビーム負荷の補償法、詳細の熱解析、こういったことを進めております。プレラボの期間では、例えば、アンジュレーターの方式ですと、パルスソレノイドというよう陽電子をぐっと集めるためのものですけれども、その詳細設計、あるいは、従来型のものですと、APSの加速管というのを絶対につくって長期の運転試験を行うといったことを考えておりまして、国際協力でこういったことを進めて、3年目には技術選択を行うという予定です。
  ダンピングリングですけれども、技術設計は終わっていて、入出射に関しても、ビームの取り出し実証が2017年までに終わっております。最近は、SuperKEKBなどの最新のリング加速器で高性能ビーム技術が熟成されてきている。あるいは、取り出しに関して言いますと、米国、あるいはCERNのところで高速のキッカーの新しい技術が開発されているということで、プレラボではこういった新しい技術をどう取り込むかということを含めて実証を行うということを考えております。
  最終収束についても、目標仕様はほぼ2017年までにATFで国際協力によって達成されています。ビームを細く絞る。これは41ナノメートルを達成していて、ゴールは37ナノメートルですので、ほぼいいところまで行っている。それから、ビームの位置安定化については、高速で位置制御を行うということを実証しています。2018年からはビーム誘起電磁場の影響の評価を取り組んでおりまして、ATFで評価試験を行った結果、ILCの衝突ビームで問題はないということ。それから、さらに、ビーム誘起電磁場の影響を低減する技術を実証いたしました。
  また、昨年は、リモートですけれども、ATFの国際レビューが開催されて、これまでのATFの成果を高く評価していただいております。また、ILCの最終収束の詳細設計にこのATFを活用するということが重要であるということを指摘されている。プレラボでは、国際協力で、ATFでビームモニター系などを高度化して安定運転を実施するということを挙げております。
  ビームダンプについては、当初は欧米の研究者が担当、取りまとめをしておりましたけれども、2018年ぐらいからはKEKが中心となって取り組んでおります。放射線遮蔽の具体的な設計、あるいは、ビームダンプ空洞の土木設計、いわゆるトンネルの部分です。それから、ビームランプ水の循環水のシステム設計。こういったことを行っていて、残されているのはシステム詳細設計、遠隔保守、こういったことを取り組むということだと思っています。
  国際的には、例えば、CERNではナノビーム協力、空洞製造、冷凍機・ビームダンプ・土木設計の協力。あるいは、ヨーロッパのILCの研究全体の取りまとめを担っております。
  アメリカでは日米協力とか、LCLS-Ⅱの建設。それから、米国、カナダによるHL-LHCのクラブ空洞の物納貢献。クラブ空洞というのは、タイプは違いますが、ILCでも使うものです。
  フランスでは超伝導加速器であるESSとかPIP-Ⅱへの物納貢献。こういった物納貢献を積んで、彼らは超伝導加速技術の維持とさらなる発展をこれまで繰り返してきました。それから、SRFの空洞の高性能化とか、ATFのナノビーム協力です。
  ドイツでは、一番大きいのがXFELの安定運転が始まったということ。イタリアでも、ESSとか、PIP-Ⅱへの物納貢献、あるいは、BESSYというドイツのストレージリングへの物納貢献、設計です。こういったものに取り組んでいる。
  スペインでは、ESSへの物納貢献のほかに、ILCの超伝導マグネットの技術開発について、予算を獲得して取り組んでおります。
  イギリスでは、ESS、PIP-Ⅱへの物納貢献。それから、LHCクラブ空洞の設計、技術開発に取り組んでいるということです。
  これらについては、このウェブページのほうに詳細な資料がございます。
  技術課題については、IDTのワーキンググループ2で技術課題提案書としてワークパッケージにまとめました。この提案書にはSLACのTor Raubenheimerさんという方に委員長となっていただいて、ウェブ委員会で審議されております。世界全体で4年総計で大体60億円程度、360人・年程度、4年間の延です、これを分担するということです。
  例えば、一番大きなパートはやはり超伝導の部分です。60億のうち40億円ぐらいになっています。これは後で御説明しますけれども、実際に空洞をつくる、モジュールをつくるといったことが入っている。ただ、一方で、この超伝導高周波技術というのはエネルギー効率がよいものです。世界的には応用例が増えてきている。KEKでも、我々のCASAでILC技術開発とともに、産業・医療応用にも取り組んでいるんですが、こういった超伝導高周波技術の取組は産業・医療応用の展開にも役に立つものです。
  ワークパッケージの超伝導の部分で御紹介いたしますと、ワークパッケージ1というのは空洞の量産を実証するというものです。世界で分担して実際にはILCの国が製造するということを考えておりますので、ここでも三極で40台ずつつくるということを提案しています。そのときのゴールとしては、空洞の性能35MV/mを歩留り90%で達成するということです。
  もう一つのワークパッケージの2というのは、クライオモジュールを組み立てて移送して性能を確認するということ。クライオモジュールというのは、先ほど御説明しましたけれども、空洞を8台ないし9台収めているものですけれども、空洞だけじゃなくて高周波を投入するための入力カップラー、あるいは電磁石、チューナーといったものが入っております。いわゆる超伝導加速をするときに必要なパッケージとなっているものです。これを実際に海上移送して日本で性能を確認するということを提案しています。
ヨーロッパとかアメリカでは、XFELあるいはLCLS-Ⅱで基盤設備が整っているんですけれども、日本ではクライオモジュールとか空洞を評価するための追加の設備が必要です。KEKでは、この黄色い文字の3つのSRFの研究開発拠点があるんですけれども、そのうちのCOI棟を中心に基盤設備整備を進めたいというふうに考えています。
  COI棟には、既に熱処理を行う真空炉、表面処理を行う電解研磨装置、それから、大型のクリーンルーム、冷凍機、こういったものはそろっているんですけれども、さらに、空洞を評価する、あるいはクライオモジュールを評価するためには、ヘリウム冷凍設備の増強、あるいは高周波電力・制御システム制御の整備といったことを行うことが必要になります。これに大体30億円弱が必要となるという見込みです。
  次に、コスト見積りの妥当性についてですけれども、加速器というのは独立化、モジュール化されているということで、その多くは実用に供されています。LHCとかKEKB/SuperKEKBをはじめ、これまでの大型加速器での経験も豊富にございます。ILCで中核となる超伝導高周波加速器については、European XFELでILCで使う台数の10%に相当する加速空洞が実装されているということで、コスト分析も進んでおります。
  ILCの加速器の建設見積りについては、特に超伝導の部分、2011年までの入札実績を反映しており、また、XFELの建設は2008年の当初予算に12年と15年に追加予算を加えた範囲で2017年に完成しているんですけれども、2008年の当初と比べてプラス13%、それから、2012年と比べてプラス6%の増加となっています。その増加の主な原因は、土木建設費の好況による一時的な価格高騰と建設の遅延による労務費の増加というふうに聞いております。
  ILCで想定しているコスト不定性、あるいは、コンティンジェンシーの範囲にとどまります。ILCの超伝導加速器部分というのは、European XFELと比べて空洞の数が約10倍なんですけれども、単価で比べますと、約8%の単価減に相当するものです。これまで歩留りの話をしていますけれども、歩留りが仕様の90%から80%にとどまった場合、そのときには建設コスト比で約1%のコスト増になるということです。
  ILCのコストに関しては、2013年にTDRをやるときに、SLACのHoltkampさんが議長となって国際レビューがございました。これで費用については詳細なレビューが行われております。
  以上です。これがまとめとなります。どうもありがとうございます。

【観山座長】  ありがとうございました。
  それでは、ただいまの説明に関して、御意見や御質問がありましたら。中野さん、お願いします。

【中野委員】  ILCの技術準備とプレラボの関係を知りたいんですが、プレラボで予定されている技術準備研究はかなりあったと思うんですけれども、これについてプレラボがもし設立されなかったときどうなるか。設立されなくても、今までの国際協力の枠組みである程度進むのか、それとも、全く見込みがないのか。その辺りのところを教えてください。

【道園教授】  また共有させていただきます。次のステップとして一番大きいのは、超伝導の部分が大きな部分なんですけれども、国際協力で進めるというところが一番の重要なところになります。ですので、何らかの形で国際協力で進めることができれば非常にいいんですけれども、例えば、こういった技術課題を挙げているんですが、一番大きいところは超伝導のところで、例えば、プレラボなしでこういう形で、国際協力で進めることができるといいんですけれども、やはり国際協力で進めることには予算とマンパワーが必要になっておりまして、国際協力で進めるためには、やはりプレラボという形でやるのが一番いいのではないかと思っております。
  国際協力で何らかの形でフレームができて、こういったことが実行できればいいとは思うんですが、何らかの国際的な協力で進めるためには、枠組みが必要ではないかと個人的には思っているところです。そういう質問だと思ってよろしいでしょうか。

【中野委員】  ちょっとよく分からないところはありますけれども。誤解しているかもしれないですが、プレラボという枠組みが入って初めて国際協力が可能になるという、そういうお答えでしょうか。それとも、プレラボの予算……。

【道園教授】  それは国際協力でどういうふうにして進めていくかということとも関わるので、私のほうで言えるのは、これは恐らく国際協力じゃないところのワークパッケージ自身を進めるというのはなかなか簡単ではないと思っています。次のステップとしては。ただ、一方で、プレラボという枠組みがなくて、予算と人が来れば、それはもちろんできると思います。

【中野委員】  その場合の予算というのは、世界でというふうに書いてありますけれども。

【道園教授】  はい。世界でです。

【中野委員】  そのうちの日本の分担、負担分はどれぐらいになるんでしょう。

【道園教授】  例えば、一番分かりやすいのは、この超伝導で41億円というふうに申し上げましたけれども、これは世界三極で分担するので、大体3分の1ぐらいです。ですので、日本の分担分は十数億円だと思います。それから、日本が得意としているのは、例えば、電子駆動の部分の陽電子源。それから、ビーム伝送は国際協力で行いますので、これもATFが中心となってやるので、一定の貢献が必要だと思います。
  それで、全部を入れて金額で言いますと、実は、我々が想定しているものの中では基盤設備というのは無視できない金額になります。30億円ぐらいという基盤設備。これを入れますと、たしか日本の物件費というのは、私の試算だと、4年間全体で60億円ぐらいだったと思います。

【中野委員】  60億円の負担をしてフレームワークをつくることによって、大体その2倍に行かないけれども、1倍、1.5倍ぐらいの国際的なコントリビューションを得るという計画ということですね。

【道園教授】  インフラを除くとずっと少ないわけですけれども、日本分としてはインフラ分が必要だというので、それぐらいの金額になります。

【中野委員】  分かりました。どうもありがとうございます。

【横溝座長代理】  それに関連して、質問いいですか。

【観山座長】  はい。

【横溝座長代理】  むしろ逆に、政府間のそういう枠組みができなくても、研究者間でやりましょうと言っていれば、実質的には同じことができてしまうんじゃないかという気もしているんですけれども。これまでもしっかり国際的な協力体制で技術開発していますよね。

【道園教授】  実は、今まで国際協力で行ったものはGDEとかLCBというのがあるんですけれども、これはどちらかというと、ドキュメントをつくるというものが大きな役割でした。あるいは、研究者が持ち寄りでやるということですね。それに対して……。

【横溝座長代理】  加速空洞の開発なども大分進んできているように見えるのですが、それも研究者の合意で進めてきているのかなと思うので、あとちょっとそれでやってしまえばできるのではないかというふうに思えるのですが。

【道園教授】  今、世界で取り組んでいるのは空洞の高性能化とかコスト削減なんですけれども、非常に大雑把な言い方をしますと、いわゆる実験室レベルのことをやっています。ですので、いわゆる空洞を量産することを前提にしてはやっていないので、やはり実際に9,000空洞をやるためには、量産の最初のステップとして、何らかの形で歩留りを評価するということは必要になると思います。そのときの金額が三極で40億円強ということです。そうすると、10億円ぐらいの金額ですけれども、それを各研究所で持ち寄りでできるかというと、恐らくそれはちょっと難しいかなと個人的には思います。
いわゆる実験室レベルでいろいろな性能が向上できるというような提案をすることはできるんですけれども、実際の加速器で量産するというときには、また、ある程度の実証が必要じゃないかと思います。それをやるためにはある程度の予算が必要で、それを研究者サイドだけの合意で進めるというのは、なかなか金額的には難しい金額じゃないかと私は感じています。

【横溝座長代理】  分かりました。
  それで、もう一つちょっと教えてほしいのは、加速空洞なんかは、今、35メガボルトぐらいを狙っているようですけれども、それが進んできたときに、コスト精度というのはどういうふうになっていくと思っていいですか。今、25%の不確定性と、プラス10%のコンティンジェンシーがありますよと言っていると、すごくまだ曖昧な部分があるのですけれども、R&Dをやっていればその成果によってもっと精度が高い見積りができるようになるのではないかと思えるのですが、いかがでしょう。

【道園教授】  超伝導に関して言うと、XFELの入札の結果を反映しておりますので、これ自身はかなり既に精度が上がっていると思っています。コストプレミアム25%というのはコスト見積りの不定性なんですけれども、コストプレミアムに関係するところとしては、やっぱり量産ができていなくて研究所の単位で見積りをやっている部分、こういったところになります。超伝導の部分に関して言うと、かなりの部分が量産を反映したものなので、いわゆるリスクが減るということは言えると思うんですけれども、コストに関して言うと、歩留りが上がるということを確認するということで、コストの精度が急に上がっていくということには直結しないようには思います。

【横溝座長代理】  今のコストというのは、その25%も含めて多めに見積もっているのでしょうか。

【道園教授】  このコストは、TDRでコストの見積りをしているのは中央値になります。25%のプレミアムを入れると、84%の精度か何かになるという、そういう見積りの中央値がTDRのコストという位置づけです。

【横溝座長代理】  状況によっては、今言っている額よりも増えますよということもある?

【道園教授】  増えることもあるし、減ることもある。いわゆる中央値を出しているという位置づけです。

【観山座長】  ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。小磯先生、どうぞ。

【森委員】  JSTの森ですけれども。予算、費用について、やはり低い金額ではありませんから、大変にコスト削減に御尽力されているということはよく分かりましたし、また、その成果についてもいろいろな期待があると分かりましたけれども、同時に、これを実現するに当たっては、様々な段階の技術開発が必要なわけですし、そこから出てくるアウトカムについても、もしも何か見込みとか御研究があれば、例えば、途中段階で、超伝導はしていましたけれども、これを行えばこういうほかの分野に波及効果が期待できるとか、これだけ精密で大規模なものをつくるわけでして、非常に高い技術レベルが必要な開発で、しかも、大規模なものですから、途中段階で様々な波及の可能性があるのではないかというふうに普通考えますし、これは予算の使用について説明する際には、そういう視点からこういう波及が期待できるということはもっと明記、はっきりアピールされてくれば、受入れが非常にされやすいのではないかというふうに考えますが、何かその辺の取りまとめとか期待については伺えますでしょうか。

【道園教授】  このところで産業・医療応用というお話をしましたけれども、まず、超伝導加速器というのは、これからの加速器として、エネルギー効率が高いということで世界的には今広まっていて、日本ではまだあまりなじみがないところだと思うんですけれども、これは産業・医療用に大きく見込みがあるものです。KEKでも、これは期待できる加速器として産業・医療応用を展開するということをいろいろ検討しております。
  ですので、これについては、例えば、核医学製剤でありますとか、木材に電子線を照射して高機能材料をつくるとか、こういったことについて取組をやっているところですけれども、それ以外にも、例えば、陽電子源の標的の部分とか、あるいは、ビームダンプもそうですけれども、こういったものというのは、例えば、中性子をつくるときのターゲット、今、ハイパー化というのが世の中で進んでいるのですが、そういったところと通じるものがあり、あるいは超伝導を活用するときに、モリブデン99というのをつくるときには、大パワーのビームをターゲットに当てるんですけれども、そういったときとの技術とも同じ技術が適用できます。
  それから、ビーム移送でビームを細く絞るというお話をしましたけれども、これはXFELとか放射光源、こういったところでは、ビームを細くするためのビームのモニターとかフィードバック系統というこういったものが必要で、こういったところにも技術というのは転用できると思います。
  ですので、プレラボということで出しています。

【観山座長】  ありがとうございました。小磯先生。

【小磯委員】  小磯です。よろしいでしょうか。

【観山座長】  どうぞ。

【小磯委員】  超伝導加速空洞の開発のことについてお伺いしたいのですが、私は今、道園さんが用意してくださった資料の最後のページ、52ページ、まとまった資料では115ページになりますかね。ILCの一番最後の資料のページ。そちらでございます。ここでのEuropean XFELでの実績のグラフを見ているのですが、今、European XFELがILCのモデル、プロトタイプとして非常に重要だというのはよく分かりますし、実用運転しているというのはとても大きいことだと思います。そこで、ここでは24MV/mというのが実用運転での加速電界と書いてあるんですが、それでよろしいんでしょうか。

【道園教授】  はい。運転値はそうなっております。

【小磯委員】  そうしますと、加速空洞の単体、あるいは、クライオモジュールでの性能自体は十分高いところにある状態のものを、実用運転ではこの24あたりで使うというのが現実的には最も確からしい使い方だと思ってよいのでしょうか。

【道園教授】  多分、これは仕様が決まった段階と実際に使う段階では、特にこの超伝導の技術というのはどんどん性能が上がってきているんです。XFELの計画を出した段階では、24MV/mは、僕はかなりコンサバティブだったと思います。実際には、「N=400」と書いていますけれども、2者がつくっていて、1者は実は違う処理のやり方をやっております。いわゆる電解研磨じゃなくて、化学研磨をやっているんですけれども、ILCとほぼ同じ電解処理を行っている電解研磨を行った会社の分を取ったものです。そういう意味では、いい性能のものがよくXFELの段階でも性能が上がってきているということだと思います。

【小磯委員】  そうしますと、ILCの実際の場合は、何らかの値をピークとして加速空洞の電界分布があると、これに対して実際の運転電界はどの辺りに来るというイメージなんですか。

【道園教授】  平均で受入れは35MV/mプラスマイナス20%というのが空洞の受入れ基準なんです。ILCでは、性能に分布があるというのは分かっていますので、一様に切捨ているのではなくて、分布をもって受け入れるということを考えています。35MV/mプラスマイナス20%で受け入れて、使うときには10%低い31.5MV/mで運転するということを想定しています。

【小磯委員】  分かりました。ヒッグスファクトリーなので、とにかくエネルギーだけは絶対に保てなければならないと思うと……。

【道園教授】  それは全くおっしゃるとおりです。

【小磯委員】  十分な余裕を見ておく必要があると思いまして、このEuropean XFELの状態とILCがどういう関係になっているのかちょっと教えていただきたいと思って。

【道園教授】  そういう意味では、ちょっと確認は必要ですけれども、たしか6%の余裕が入っています。ですので、31.5MV/mで運転しても、6%分は止まっていても大丈夫というような形です。

【小磯委員】  ありがとうございます。

【観山座長】  質問のほうも、できなければ後でということでしたけれども、答えのほうも、もしも詳細な答えが分かれば、我々に教えていただければと思います。
  神余先生、お願いします。

【神余委員】  簡単な質問になるかもしれませんけれども。ILCの先ほどの御説明ですが、恐らくILCには賞味期限というのかそういうのがあるのではないのかなと。すなわち、ヨーロッパは放っておけば自分でやってしまうということになるのではないかということです。次期欧州素粒子物理戦略2027というのがありますが、それまで、あるいはリードタイムを設けるとして2025年とか、それぐらいまでの間にこのILCの見通しが立っていないと、すなわち日本がやるという見通しが立っていないと、賞味期限は失われてしまうというふうに考えてよろしいですかというのが第一の質問です。
  それから、もう一つは、これをつくることによって国際的な研究拠点になるということなのですが、これがホスト国にとってどれだけのメリット、これは経済的なメリットということではなくて、学術面で、研究面においてどれほどのメリットがあるのか。つまり、投資に見合うリターンが返ってくるのか。現在はCERNでやっていますけれども、では、ホスト国のスイスやフランスにはどれだけの学術面でのプラス効果があったのか。その辺はどういうふうにお考えでしょうか。

【観山座長】  すいません。時間の関係もありますので、簡単に、簡潔に答えていただければ。

【道園教授】  加速器については私のほうでお答えできるんですが、様々な応用があると思います。ただ、タイミングとかそういったことについては、むしろ浅井先生のほうがいいかなと思うのですが。

【浅井教授】  私、浅井のほうから説明させていただきます。今、神余先生がおっしゃられたとおり、ヨーロッパのほうは、日本の進展を見ながら、2025年までに自分たちのプランについてのディスカッションをしております。そういう意味で、2025年までに日本が強い態度でというか、はっきりした態度で前に進まない限りやはり難しくなるということは、おっしゃられたとおりでございます。
もう一点、2つ目の質問に関してでございますけれども、どういうメリットがあるのかということでございますが、私は25年ヨーロッパで研究しておりまして、やはりCERNというのはヨーロッパの学術の中心になっております。非常に多くの若い方が尋ねていらっしゃられて、研究者だけではなくて、一般の方も含めて非常に多くの方がいらっしゃられますし、学校の先生とかもCERNに来て、最先端の科学というものがどういうふうに進んでいるのかということを学んでいってもらっています。
  そういう意味で、学術及び教育の中心になるというふうに思っております。それで、学術的な価値だけではなくて、そういう技術及び科学全体の底上げにつながるような研究だと私は思っております。
以上でございます。

【観山座長】  熊谷先生。

【熊谷委員】  道園さんの75ページかな。技術課題に関する取組というのがありましたよね。ワーキングの……。これです。これは4年間やればそれなりの結果が出てくるんだとは思うんですが、この中で4年間やっても実証に至らないかもしれないという課題というのはあるんでしょうか。
加速器というのは電子源とか陽電子からそれをきちっと捨てるところ、入り口と出口、最初と最後がきちっとコントロールできないと加速器として用はなさないわけで、全体のシステムとしてこういうことをおやりになるときに、4年間やったんだけれどもまだというような項目、課題というのが残るのかどうか教えてほしいんですが。

【道園教授】  これは最終的な確認を行うという位置づけですので、その過程でどういったことが出てくるかにもよるんですけれども、基本的には、おおむねこれをやれば確認はできるはずだと思っています。一部、例えば、クラブ空洞などについては、4年間でやるところとしては、技術の見極めを行うというところまでで十分確認はできると思っていて、最終的にプロトタイプをどこまでつくらないといけないかというのは、ワークパッケージによって位置づけが違うんですけれども、できるかできないかというのは、既に我々はできると思っているわけですけれども、ワークパッケージのところで大きなどんでん返しがないということを確認するという位置づけだと思います。

【観山座長】  準備研究所のお話が次にありますので、その終わった後でも、もう一回振り返る必要があればやっていきたいと思います。
  それでは、中田先生、お願いいたします。

【中田名誉教授】  分かりました。スライドをシェアしますので。ちょっと待ってください。
  私、ILC国際準備研究所、いわゆるIDTの執行部の代表をしております、中田達也と申します。
1978年からずっとヨーロッパのほうで研究しておりますので、今回もヨーロッパから参加させていただいております。LHCの実験のほか、アメリカ、特にヨーロッパでの素粒子戦略や素粒子科学政策についてもいろいろと仕事をしていましたので、そういう意味で、グローバルな意味からのお話も少し入れることもできるかと思います。
  それでは、これから、ILC準備実験研究所、プレラボのプロポーザルを説明したいと思います。
まず初めに、ILCに対するコミュニティー、外国からの意見、見解についてちょっと触れさせていただきたいと思います。もうお話に出てきました、2012年に高エネルギー委員会がILCを国際計画として日本に誘致すべきとの提案が国際コミュニティーのほうから非常に支持をされ、期待され続けてきました。国際コミュニティーとしては、ILCは日本の国がホストをするという興味を示すことによってイニシアチブが取り合いされるようになって、各国が参加していく世界協力で始まるんだという形でILCを捉えてきました。
  したがって、そういう見解でもってヨーロッパ素粒子研究戦略とか、アメリカのP5レポート、さらに、ICFAのステートメントが支持を表明してきたわけです。はっきり言って、今の高エネルギー、次の加速器を何をつくるかという状態については非常に混沌としている状態であって、いろいろな人たちがいろいろな意見を持っているところにおいて、もし日本がここでイニシアチブを取ってILCを進めていきたいという希望を出すことによって、日本がアクションすることになるわけです。そうでないと、さっき村山さんもおっしゃっていたように、今度は、ヨーロッパが何かアクションして、それに対して日本がリアクションしなければならないという状態になってしまうと思います。そういう状態ですから、いつまでもヨーロッパ、アメリカにしても日本のアクションを待っているわけにはいかないという感じがだんだん強まってきていることは確かだと思います。
  それでは、次に、ILC計画の準備段階というのは何なのかということを答えてみたいと思います。準備段階でというのは、結局、ILCの建設を始めるための2つの大きな任務を果たすための期間だと思います。1つは、加速器や土木工事の工学設計を完成させる。それによってILCの建設が始められます。もちろん、これ全部ができなければならないというわけではなくて、後のほうで必要なものというのは、なにも初めのときに出来上がっている必要はないんですけれども、工学設計というのは当然出来上がっていないといけません。これは確かに研究者コミュニティーが進めていく話であります。
  もう一つは、加速器運転、それから、建設だけではなくて運転する、いわゆる国際組織です。ILC研究所。それを設立しなければいけない。また、そのための必要な経費とか責任の国際分担をしなければいけない。これもILCの準備期間にしなければならないことの1つでありますが、これはコミュニティーではなくて、ホスト国日本を中心として、参加する政府間の国際協議で決まるものであります。この準備期間の仕事を通して、ILCの執行の仕方のモデルとか、参加研究所の技術基盤というものを確定していくことも可能となるわけです。
  実際にどんなプロセスで進むかなということを考えてみますと、まず、技術的、工学的な部分です。プレラボというのは、技術開発、工学設計を完成させることによって、政府間協議に必要な信頼のおける経費の見積りとか、参加研究国の技術的生成を割り出します。これを基に経費分担や建設責任の割当てに対する有機的な国際協議が可能となるわけです。したがって、プレラボの作り出すインフォメーションが国際協議の必要な条件になっているわけです。
  また、プレラボでは、さっきも言いましたように、ILCで採用される技術、また、ILCの作り方自身が分散された建設組織に伴ってプレラボというのを、加速器の建設をしようとしていますので、プレラボでの仕事の仕方自身が、ILCで最終的に採用される仕事の仕方の一部の検証になります。これはもちろん、いろいろな失敗を防ぐ重大な役割になると思います。
  次に、プレラボをつくるためのいわゆるIDTですけれども、IDTというのは、このプレラボ設立のためにICFAによって立ち上げられたものです。ここにメンバーシップも書いてありますけれども、組織図とメンバーシップですけれども、メンバーシップを見ていただけると分かるように、国際性と専門性を重ね合わせてICFAが任命したのだということがお分かりになると思います。
  では、その次に行きまして、現在の国際チームIDTでの作業状況なんですけれども、一番大事な点が、まず、どのぐらい本当に皆さん参加しているのかということだと思います。準備研究所、ILC活動に対して、ここに人数が書いてありますけれども……。失礼しました。準備活動についてなんですけれども、プロポーザルの作成だけを取っても90人近くの人が直接参加しています。さらに、参加している研究者の研究所でのサポート、間接参加を考えると、もっと多くの人が協力しているということが分かると思います。ですから、プロポーザルだけでも非常に大きな人が参加している。さらに、チェックではさらに参加が続いておりますし、また、ILCをやる源になる物理と実験のほうの仕事については、100人以上の研究者の参加でワークショップ、研究会議等が活発に行われています。また、ILCに対する興味の高さというのは、最近開かれたワークショップの参加数、800人以上という参加数などを見ていただいても、非常にまだ高いということが分かると思います。
  それでは、今度は、準備研究所についてもう少しお話をしたいと思います。何でプレラボなんだという御質問もあったと思うので、当然なんですけれども、道園さんもおっしゃったように、ILCの技術設計というのはほぼ完成してしまっている。次に必要な仕事というのは工学設計の時期である。工学設計の時期に入った場合には、予算も建設費の3%ほどの予算が必要になる。それから、プロトタイプの作成とか本格的な設計事業などをしなければいけない。そういう事業をしなければならないとなると、当然、ちゃんとした技術施設のある研究所間での組織的なサポートは必要になってきます。
  この3%程度の予算というのは、中型の国際素粒子実験程度の予算になると思います。そういう意味では、今の現在の素粒子研究計画をいろいろな国でやっていますけれども、そのやり方でやれる規模なわけです。そういう意味では、先ほどの質問にもありましたけれども、プレラボを立ち上げてやるということ自身の仕事は、コミュニティーでまだやっていける仕事であります。だから、そういう意味で、プレラボは研究間同士の話合いで始められる。それから、予算もそれぞれの参加研究所が各自調達して、もちろん自分でお金がつくれるわけじゃないですから、自分たちがお金を持ってくる方、国のファンディングエージェンシーと話合いをしなければ当然いけませんけれども、参加研究所自身の責任で自分のワークパッケージをやるためのお金を持ってくる。そして、準備研究所にコントリビューションするというやり方でやりたいということです。
  そういう意味で、ILCと違うのは、ILCの場合には国家間協議が必要ですけれども、プレラボの場合には、今までの素粒子実験などで行われている国際協力のレベルであって、国際的な結びつきをしてプレラボをつくっていこうということになります。
  準備研究所へのコントリビューションというのはILCでのやり方でもあるので、実はプレラボをつくっている本体へのコントリビューション、プレラボの仕事をすること、それ自身がILCの仕事のやり方の調査の1つになると思います。
これが組織図です。さっき言いましたように、ILCプレラボ、ラボと言いながら、世界中の研究者の協力による協働作業というのがプレラボになっています。プレラボの組織図も当然協働作業ということで、これは素粒子国際共同研究で使われている組織図と非常によく似ています。そういう意味では、我々にとっては非常になじみの深い組織になっています。
  参加研究所というのか一番重要な問題。いわゆるステークホルダーですから、参加研究所が分担されたプレラボの仕事を予算調整まで含めて自己責任の下に執行する。それで、委員会のコントリビューションでプレラボの仕事をしていく。それと同時に、ステークホルダーとして最高管理者でもあるというわけです。ですから、一番上の組織図の運営委員会に当然研究所が入っています。それから、一番下の仕事をやるところ、これも研究所がドライブしていくことになります。
  本部とありますけれども、これはコーディネーションは当然必要ですから、プレラボ所長のいる本部というのが日本に置かれて、比較的小さいものが日本に置かれることになると思います。
  資金等というのは、もちろん研究所自身が自分たちで自分たちのファンディングエージェンシーと話をして持ってくるのですけれども、やはり規模としてはある程度大きいものになりますので、ファンディングエージェンシーの関与というものをちゃんとつくって、その人たちが仕事をモニターするということにもなります。
  準備研究の作業については道園さんがほとんどお話しされたので、私は言うことはあまりないと思いますが、いわゆるワークパッケージという形で、ワークパッケージを各研究所に分担してもらう。分担は、費用、経費の分担まで含めた上で各研究所に分担される。その分担というのは、当然、研究所の技術力、あるいは関心、将来計画とのマッチが必要になります。特に将来計画とのマッチというのは、プレラボの結果というのは、ILCだけではなくて、自分たちの研究所でいろいろとやりたいと思っていた技術開発等々とともにやることができるかなという、そういう興味を持つということが必要になってきます。
  そういった意味で、プレラボの結果というのは、ILCを超えた結果が出てくると思います。そういうマッチングをしただけで将来のプレラボに対する参加を、興味を引きつけて、今では研究者レベルでのマッチング作業が進んでおりますけれども、当然、プレラボ成立のためには、研究所のマネジメントレベルの話合いが必要になります。それが次のステップということでしょう。
  それに対して、土木関係の仕事のほうは、日本のサイト地域での法律や規制に従う必要がありますので、これはやはり日本の責任でやっていただかないといけないということになります。資金に対しては道園さんからお話がありましたので、もし質問があるとしたらまた後ほどということで、答えはスキップさせていただきます。
  これは例ですけれども、いわゆるワークパッケージに対して技術的バックグラウンドがあるか、あるいは、研究所自身に興味があるかどうか、そういうことのマッチングをした1つの例でして、今の段階で科学者レベルのマッチングというのは非常に進んでいるということがよく分かると思いますし、非常に多くのラボが関心を持っているということもお分かりになると思います。
  最後に、プレラボの設立のプロセスに関してなんですけれども、私たちの提出したプロポーザルでは、次のような3つの段階で進めていくということを考えています。
  まず第一に、プレラボというのを参加者みんなで始めるというのではなくて、まず、創設メンバーというもの、3つほどの大型研究所を見つける。その3つほどの大型研究所の創設メンバーの人たちが集まって創設プロセスについて話合いをします。その話合いの結果、うまくまとまれば、次に、創設メンバーがプレラボの設立を宣言。さらに、所長を含めたマネジメントも任命します。
そうしますと、この段階で、小規模ではありますけれども、プレラボが出来上がったわけですから、最終ステップとして、プレラボとその他の参加研究所の間の貢献についての覚書を交わして、サインをすることができます。その覚書がある程度のスレッショルドを越えた段階によって、プレラボの機能が完全に働き出すようになるわけです。
  もちろんこのプロセス自身はIDTが中心になって進めていくことになると思います。ただ、やはり、具体的には日本政府ということになるかと思いますが、日本からのILCをホストとするということに対する興味のポジティブな状況がない限り、さらにまた、プレラボというものを作り上げていこうということに対するポジティブな態度がない限り、姿勢がない限り、このプロセスをスタートすることはできないのではないかというのがIDTの見方であります。
  これで最後でして、予測なんですけれども、これからIDTはこのプロポーザルを履行していく段階に入りました。そのプロセスにおいて、日本や他国の政府、研究所、研究者のコミュニティーからの意見を聞きながら、ILCのガイダンスの下に状況に合わせて施工を進めていく計画でおります。
  以上でした。どうもありがとうございます。

【観山座長】  ありがとうございました。
  時間があと7分しかないんです。直接、今、中田先生に質問したい方がおられれば、短い質問を受けますけれども。

【横山委員】  横山です。よろしいでしょうか。

【観山座長】  横山さん。

【横山委員】  お話ありがとうございました。最後の結びのところについてちょっと質問なんですが、プレラボが動かすためには研究所レベルの設立が必要で、その前提として、サイトをする、要するに、誘致をすることの宣言が必要であるというようなお話だったと思うんですが、一方で、萩生田大臣がそれはなかなか難しいというふうにおっしゃっていたり、予算の分担の見込みがなかなか厳しいという状況の中で、私が一番気にするのは、高エネルギー物理という分野が、将来計画は日本はこれしかないですし、世界的にもFCCを含めて2つぐらいしかないというときに、この分野をこれで潰してしまうということにならない継続性というのは非常に重要だと思っているんです。
  そうしたときに、ただ、政治状況も非常に複雑で難しい状況を踏まえて、ICFA、中田先生のほうでサイト誘致を前提としたプレラボの設立というのではなくて、ただこの技術継承をいろいろな形でやっていくためのプレラボというのが、プレラボという名前じゃなくてもいいと思うんです。ILCに必ず紐づかせるという意味ではなくて、こういう技術開発が将来ILCをやるとしたら必要であるというような流れで、しかも、素粒子実験の中規模ぐらいの予算でできるということでしたら、そうした世界共同の将来プロジェクトのために技術継承していく、開発をしていくというような位置づけで新しいラボの位置づけを考え直して設計すると、各国共、日本も乗りやすいとは思うんですけれども、その辺りのスタンスというのはどのようなものでしょうか。

【中田名誉教授】  分かりました。ちょっと誤解……。私の説明が悪かったと思いますのは、日本政府からの誘致の宣言がないと、別に誘致の宣言がというふうに言っているわけではなくて、日本としてILCをホストしたいという興味が見えてくるような、そういうポジティブな姿勢ということなんです。当然、プレラボが立ち上がる段階でILCが日本に来るということが決まるわけはないわけで、逆に、ここではっきりさせたいと思うのは、プレラボというのは、日本が誘致した場合のいろいろなそういうことの話合いをして、最終的に、じゃあ日本でやりましょう、世界でもこういう協力をしていますという政府間協定ができるような、そういうことをするための話合いの準備の情報を全部作り上げる、そういう仕事になるわけです。ですから、それが、我々がいつも言っている、プレラボというのは実は政府間協定の前提なんだと、そういうふうに考えていただきたいと思うんです。
  確かに、プレラボのほとんどの仕事というのは、もちろんサイト関係の仕事というのがありますから、これはもちろんサイトが決まっていないとできないし、予算の部分でも大きい部分ですので、プレラボでサイト関係はやっぱりやらなければはっきりした予算額は出てこないから、そこは重要だと思うんですけれども、加速器に関しては、確かに、ほとんどの部分はサイトとインディペンデントにすることはできます。
  でも、さっき言いましたように、世界の中で、皆さん御存じのようにFCCとか、中国も、いろいろな考えがあります。それも、はっきり言って、その中で技術的に一番進んでいるのはILCだと思います。科学から言っても、多分、ILCが一番進んでいる。でも、やっぱり各国でいろいろな考え方があって、そのうちのどれをやるかというときに、やっぱりどこかで、うちでこんなことをやりたいんだというイニシアチブが出ることによって、今まで波動関数がわーっと広がっていたのが、あるところで自分たちがやりたいという興味がありますということが、ちょっとしたパートベーションが出るだけで、そこでわっと波動関数が収束するんじゃないかと思うんです。そのためにプレラボで、日本が興味を持っているプレラボというふうにすることが、一番こういうことが可能な状況なんじゃないかと思います。

【横山委員】  技術開発に関しては本当に応援したいと思っているんですけれども、そこの温度差が埋まっていかないと、政府とあるいは我々との間の温度差が埋まっていかないと、その先のステップというのは本当に厳しいのかなと思いましてお伺いした次第です。でも、御回答はよく分かりました。ありがとうございます。

【観山座長】  ありがとうございます。中野先生。

【中野委員】  プレラボが政府間協定を結ぶための話合いの必要条件ということはよく分かったんですけれども、十分条件に対してはどれぐらい役立ちそうかというのを教えていただけないでしょうか。協定を結ぶための情報を整理するだけじゃなくて、例えば、各国での根回しというものにも役立つのか。その根回しについて役立つのであったら、どのような役割がかんがえられるのか。例えば、日本政府にフィードバックをかけるというようなことは、プレラボの機能に含まれるのでしょうか。

【中田名誉教授】  公にはないですよね。でも、実際には、例えば、IDTの本部の所長なり、それから、所長と一緒に働いている部門長等々というのは、素粒子関係の中でも各国からの一番上に立っている人たちに当然なるわけですから、各国間からの自然な関係というのは当然あると思うので、そこからの情報はいろいろと流れることになると思うし、実際に政府間との話合いになったときには、各国の物理学者がコンサルタントみたいな形でいろいろ話を聞かれることになると思うんです。特にプレラボで一番重要になると思うのは、結局、そういう国際協定を結んだ場合に、全く現実と一致しないような協定になってしまうのが一番困ることだと思うんです。
  というのは、例えば、どこか研究所Aがどうしてもこれをやりたいというふうに言っているから、その国がこれはうちに持ってくるんだと。でも、実際に、本当に技術的に考えてみると、それはどう考えても不可能だという場合、そういう情報というのは、プレラボをやることによって全部大体分かるわけです。どの研究所がどういう力を持っていて、どういうことをできる、あるいは、ここまで助けてやればこのぐらいまでできる。そういうことも分かるので、それをうまく使って、国の間で、一番効率が高いながらもみんながベネフィットできるような、そういうふうな協定に持っていくということに対して、水面下でいろいろな情報を流せると思うんです。それがある意味ではプレラボの技術的じゃない面での一番重要な仕事なんじゃないかなと思います。

【中野委員】  分かりました。

【観山座長】  ありがとうございました。
  時間が来てしまいましたので、提案研究者側の方が退出後で意見交換をしようと思ったんですが、時間がなくなりましたので、先ほども申しましたとおり、質問がある方は、後ほど事務局からそういうフォーマットも送られるかもしれませんけれども、次回、来週月曜日もありますので、そのときに委員の間での意見交換を十分にしたいと思います。
  時間が参りましたので、今日はこれまでにしたいと思いますけれども、事務局から何か連絡事項はありますでしょうか。

【林加速器科学専門官】  それでは、紹介いたします。本日の議事録でございますけれども、後日、出席者の委員の皆様にメールにて内容の確認をお願いすることになります。その後、ホームページで公開されるということになります。
  それから、先ほど観山座長から発言いただきましたように、今日御発言いただけなかった部分ですとか質問事項につきましては、こちらから委員の先生方に紹介させていただきますので、よろしくお願いいたします。
  それから、最後でございますが、次回の会議につきましては、10月18日月曜日の13時からということで、引き続き、提案研究者の先生方との意見交換ということになります。
  以上でございます。

【観山座長】  事務局というか、皆さんともご相談でありますけれども、今日の感じで言うと、ちょっと時間が足らないかもしれませんね。ですから、次回、1時から3時までということでしたけれども、3時半ぐらいまで時間が可能かどうかというのをちょっと調べていただいて、もしも可能でしたら、そのほうであれば意見交換が十分できるのではないかと思います。それをメールか何かでよろしくお願いいたします。
  それでは、どうもありがとうございました。次回は、今ありましたように来週月曜日13時からですので、また、今日と同じように提案研究者のほうから話題提供がありまして、意見交換をすると。最後には、委員だけで意見交換をするという時間をぜひ取りたいと思いますので、今日はどうもありがとうございました。失礼いたします。


―― 了 ――