平成31年2月26日(火曜日)10時00分~12時30分
TKP虎ノ門駅前カンファレンスセンター
(ポスト「京」の利活用促進・成果創出加速に関するワーキンググループ) 合田委員,伊藤委員,宇川委員,臼井委員,梅谷委員,加藤委員,栗原委員,高田委員,辻井委員,原田委員,藤井委員,安浦主査
磯谷局長,千原審議官,原参事官,渡辺課長,坂下室長,根津参事官補佐
(理化学研究所)岡谷副理事,松岡センター長 (高度情報科学技術研究機構)関理事長,高津センター長 (説明者) 重点課題1(理化学研究所) 奥野客員主幹研究員 重点課題2 (東京大学)宮野教授 重点課題3(東京大学)堀教授 重点課題4(海洋研究開発機構)高橋センター長 重点課題5(分子科学研究所)岡崎教授 重点課題6(東京大学)吉村教授 重点課題7(東京大学)常行教授 重点課題8(東京大学)加藤教授 重点課題9(筑波大学)青木客員教授
議題(1)がんゲノム研究からみたポスト「京」への期待
資料1について東京大学医科学研究所宮野教授より説明
質疑応答は以下の通り
【安浦主査】 ただいまの宮野先生の御講演につきまして、委員の方々から御質問、御意見ございましたらお願いいたします。
ちょっと私の方から質問させていただきます。スライドの24枚目で、「京」を使うことは「刑」か?と書いてあるのはどういう意味ですか。
【宮野教授】 今の「京」を使って、大量のデータを解析するということをやってきたわけです。その中で、いろいろな困難に直面しました。これは明らかにファイルシステムのエラーだということで、富士通の方に返したりしたわけなんですけれども、返ってきた回答は、これはスペックだというものでした。その中で研究をやれ、コデザインをやれということは、私たちスパコンをデータ解析に用いようとする人間に課せられた刑なんだというふうに考えて、このように書きました。誤解のないようにお願いいたします。
【安浦主査】 ありがとうございます。高田先生、どうぞ。
【高田委員】 がんゲノムの研究で、大変大きな成果を上げられているというのがよく分かりました。ポスト「京」の全ゲノムシークエンスデータの高速解析が必要だということがよく分かり、その一方で現在使われているワトソンも非常に有効だというスライドもありました。私の質問はポスト「京」以外のいろいろなデータ解析をするマシンだとかシステムとか、そういうものと連携してどういう形で今後の展開を考えられているかというのを教えていただけますでしょうか。
【宮野教授】 日本においてということでしょうか。
【高田委員】 そうですね。宮野先生が今考えられていることで結構です。
【宮野教授】 まともな解析、大規模な解析ができるシステムは、今は「京」とヒトゲノム解析センターのスパコンしか日本には存在しません。海外では、これは別に国のお金が来てということではありませんが、いろんな大きなメディカルセンターなどが、アマゾンのAWSのクラウド、このプライベートクラウドを内部に構築すること、外に出していいものは外のクラウドを使うという格好で、臨機応変に計算リソースを増やし、Lustreファイルシステムを含めてですが、それでやり、そしてAIの部分は別にワトソンではなく、WuXi NextCODEですとか、データ解析の部分は、我々はGenomonというのを使ってきましたが、これももうビジネスとして動いているDNA Nexusですとか、そういったものを使って、1年間に2万人分が普通に解析できるものが世界中に、世界中にはといいますか、アメリカにはもうぼこぼこ普通にできている状況です。
その中で、日本で私の今おりますヒトゲノム解析センターが終わりますが、その次を担う計算リソースが、例えば日本の情報基盤センターが担えるかといいますと、運用上の問題、それとこれは我々がグリッドエンジンを被せているので、小さなジョブでファイルに1ジョブがストレージに5万アクセスをする、5万ファイルを作るというようなジョブが物すごく流し込まれるんです。そういった運用を情報基盤センターなどがやるということであれば、物はあるので、あればやれるかと思いますが、その兆しを私は感じたことは、2006年、次世代スパコンのプロジェクトがスタートして以来、一度もありません。未来はですから、ポスト「京」、これをどういうふうに医療・予防がこういったところに発展させていくか、使っていくか、利活用していくかということが、私の最後のミッションかと思っております。
【安浦主査】 ほかに何かございますか。どうぞ、加藤先生。
【加藤委員】 運用側の話として、データ解析とかAIプラットフォームとかエクスプリシットにはおっしゃらなかったけど、それを十分考えてくださいという、そういうボトムラインだと思ったんですが、さらに先ほどビジネス絡みというか、メディカルセンターがHPCクラウドを利用してビジネスをやっているというお話が最後の方にあったと思うんですが、ポスト「京」を使ってそういうことも可能なんでしょうか。
【宮野教授】 はい。まず、これは厚労省マターになるかと思いますが、クラウドを医療に使うということで制度上の問題があります。それともう一つは、アメリカは保険制度が違いますので、医療保険の制度ですので、日本は皆保険という、それでカバーできるもの、先進医療で日本でカバーできるもの、そういったところの仕分けをしていかないといけないということ。
それと、ポスト「京」ができれば、アメリカのメディカルセンターなどを作っているところを見ますと、機種選定、導入、人の雇用、トレーニング、そしてテスト、こういったものを9か月から10か月の間で達成しております。そのことを見ますと、ポスト「京」がうまく運用されればの話ですけれども、できるというふうに確信しております。
【安浦主査】 辻井先生、どうぞ。
【辻井委員】 宮野先生の話というのは、全ゲノム解析の方にかなり力を注がれているという感じがあったんですが、実際のがん研究とかそういう話になると、病理だとかいろんな画像データとか診断データがありますよね。そういうデータとの絡みというのが次に問題になってくると思うんですけれども、それをポスト「京」のようなスーパーコンピューターが全て担うのか、ある程度別の連携をとっていくのかというのは、どういうふうな考え方なんでしょうか。
【宮野教授】 私が述べる範囲ではないと思ったので全然触れませんでしたが、辻井先生が第3回WGでお話しされているスライドを拝見しました。将来に向けての展望が記載されていたかと思いますが、私の思っているところでは、ポスト「京」だけが担うものではないのではないか。ただ、先進的な、世界最先端の研究、例えばHi-Cという解析で、これは計算コストが物すごく大きいんですね。GPUも使ったりするんですけれども、かつストレージも使う。そういったところがあって、最初に世界一の仕事をやれる、やるという意味では、ポスト「京」が担うところが多いと思います。AIに関しても、機械学習の方法、こういったものを100ノードぐらい使ってやっている世界から桁が違う世界へ持っていって、そしてぶっちぎりで世界常勝にするということ、これはできると思います。
私の希望としては、そういったことも、人工知能やデータ解析やシークエンサー、そういったことも含めて「京」が使われたということで、がんの研究、医療の歴史の中で、ポスト「京」は、マシンで言えば常勝マシンであった、常に勝つマシンだったというように、歴史に残ってほしいと思っております。
【安浦主査】 ほかにございますか。栗原先生。
【栗原委員】 大変すばらしい成果をありがとうございました。私も同じようなところの質問なのですが、全員のゲノム解析というのはとても膨大だと思うので、先端的な研究の知見を広く使えるような仕組みというのは大事だと思うのですが、そういうところにどういう形で貢献できるのか、あるいはなるだけ大勢の人の全ゲノム解析を高速にという世界を求めていくのか、そのあたりはいかがでしょうか。
【宮野教授】 私は、研究というのは多様ですから、多くの研究が可能な運用、システムであるべきだと思っています。例えば、100万人全ゲノムをシークエンスするという話などありますが、これは多分、2年後にはちっぽけなプロジェクトだったな。今、10万人ゲノムをやるというのもちっぽけな全ゲノムプロジェクトだなというのが世界の人たちの意識のレベルになっていくかと思います。
【安浦主査】 今の御質問のポイントは、宮野先生のおっしゃっている話というのは、とにかくトップレベルの研究のところでポスト「京」を使うということで、いわゆる一般の治療レベルは、これは全く別の仕組みを作って、そこにポスト「京」を投入する話ではないということでしょうか。
【宮野教授】 いや、まずその先鞭を切るのがポスト「京」だと思います。病院の経営、大学病院の経営の観点から、そういったスパコンを運用していく経費を捻出していくというのは非常に病院経営の観点から大変なことです。しかし、ポスト「京」のようなマシンで、まずは先頭を走り、すばらしい医療がそこで実現できるということを証明すれば、うちの病院も入れてみよう。それがクラウドになるかもしれません。だけど入れてみようという方向に動いていくというふうに思います。
【安浦主査】 一般医療の方法論が大きく変わる、その変化の方向性をポスト「京」できちっと常につけ続けていくという、そういう流れを作ることが極めて重要だというふうに捉えて良いのですね。
【宮野教授】 はい。私ができることは、現時点ではそれです。もちろん医師会などへのアウトリーチというのは、ずっとやり続けております。
【安浦主査】 ほかに何か御質問等ございますか。よろしいでしょうか。宮野先生、どうもありがとうございました。
【宮野教授】 どうもありがとうございました。
議題2 ポスト「京」による成果創出とHPCIの継続的発展に向けて
資料2について一般社団法人HPCIコンソーシアム常行副理事から説明
質疑応答は以下の通り
【安浦主査】 御質問等ございましたら、お願いいたします。どうぞ。
【合田主査代理】 分かりやすいお話ありがとうございました。2点ほど質問させていただきたいんですけれども、1つ目は、アーリーアクセスの話が幾つかございましたけれども、その進め方について、もう少し具体的にお話をいただければと思うんですが、例えば、ポスト「京」が走る前の第二階層の基盤センターのところで、ポスト「京」を想定したプログラム開発環境を作るということをお考えなのか、またはミニポスト「京」みたいな、もうちょっと早く立ち上がって、それを使えるようなところを目指しておられるのか、その辺をお伺いできますでしょうか。
【常行教授】 両方あると思うんですが、まず環境という意味でいいますと、第二階層以下で環境を整備するという意味でいいますと、現在でも実はポスト「京」向けのソフトウェアの解析用のアプリが一部で使える環境を用意していただいています。ただ、まだまだ使いにくいものですので、これを使いやすい形にするというのが必要かと思います。
それから、前回の「京」ができたときの経験を振り返りますと、やはりポスト「京」ができるときには、全体が一遍にできるわけではなくて、部分的に出来上がってまいります。それが途中段階でもいいので、部分的に使わせていただけるなら、それは非常にいいテスト環境になります。それから、もちろん似たような環境を持ったマシンですね、例えばArmのアーキテクチャを持ったマシンとかが使えるようになれば、それはそれでよろしいんですが、ちょっと時期的にどうかなという気がいたします。
【合田主査代理】 ありがとうございます。もう一つ、スライドの12ページにAIとかデータ科学をサポートするために、コンテナ環境などが必要ですという話があったと思うんですけれども、個人的にはコンテナ環境は、特にAI、データ科学に限った話ではなくて、1つ前のアプリの普及にも関係すると思っていまして、これまではアプリを共有する手段がソースの共有だったんですけれども、これがコンテナ化したものを流通するですとか、またはコンテナ化したものもクラウドの上に置いてSaaS的に使うといった動きもありますので、もしその辺の議論もありましたら御紹介いただければと思うんですが。
【常行教授】 実はコンテナに関しましては、議論が全くないところで、AIの話からだけで出ております。ただ、今御指摘いただいたように、それ以外のソフトウェアの普及に関しましても、これは重要な方策ですので、少し議論に加えたいと思います。
【合田主査代理】 ありがとうございました。
【安浦主査】 ほかに何か。高田先生、お願いします。
【高田委員】 「京」の開発のときを思い出してみると、1つのキャッチフレーズとして、計算機科学と計算科学を融合してコデザインという考え方があったと思います。ですから、ソフトのアプリケーションを開発するのと、高速のハードだけじゃなくて、それを動かすシステムやその関連のソフトも含めて、それらをうまく一体で運営していきましょうというものでした。今のポスト「京」になってきたときに、もう一つ3つ目の新しい要素が入ってきた。それがAIとかデータ科学だと思っています。「京」のときには、例えば今回の重点課題で開発されたシミュレーションアプリをポスト「京」で利用していきましょうという流れと同様の流れでした。「京」の時にはその当時アプリソフトを開発された方々がそのアプリを軸にコミュニティ全体で成果を出したうまい流れができましたので、今回のポスト「京」でも基本的には考え方は同じなのかなと思います。それと、論文を書くという意味でのトップを目指すというのと、あとは企業を含めた裾野を広げて実社会に応用していくという2つの側面を重視してやってきた点も、今回のポスト「京」でも同じだと思うんですね。
一番異なるのは、今お話しした3つ目の要素が入ってきたことです。このHPCIコンソーシアムの成り立ちを考えると、アプリソフトの専門家だとか情報基盤センターさんとか計算機の専門家、そういう方々のコミュニティは既にコンソーシアムに参加され意見が反映されていると思うんですけれども、今後、コンソーシアムの中にAIとかデータ科学、データサイエンスの部分のコミュニティとか。人を新たにどういう形で巻き込んで、オールジャパンの体制を作っていかれるのかということについては、何かコンソーシアムの中で議論はされているんでしょうか。
【常行教授】 大変重要な御指摘ありがとうございます。今現在、コンソーシアムの中にはAI、あるいはデータ科学とか、その分野の方々というのが非常に希薄です。例えば、1月31日に開いた意見交換会を見ましても、90名ほどの参加者の中で、データ科学、あるいはAIと言っていい方は1人とかそれぐらい。こちらがパネルをお願いした方だけだったりします。
というわけで、ここは実は対応が非常に遅れております。今後のAIをHPCIの中に位置付けて、AIから見るとちょっとまた別の世界かもしれませんけれども、そういう方に入っていただくために、ちょっと方策をとらなくてはいけないと考えます。
理事長の加藤先生がいらっしゃいますが、もし補足がありましたら。
【安浦主査】 何かコメントがあれば、お願いします。
【加藤委員】 そうですね、成り行きというか、歴史的にこういうふうになっていて、AIオリエンテッドな人がHPCIに入ってきているし、HPCIの人もAIを使い始めているということだと思います。だから、この流れを、場合によっては少しビジネスライクな、話も出ましたけれども、そういう使い方も含めてうまくポスト「京」に展開するということだと思います。その具体策を我々は考えているという、そういう認識をしています。
【安浦主査】 だから、コンソーシアムとしてはオープンであるということですね。
【加藤委員】 ええ、もちろんそうです。ただ、さっき常行先生からお話があった、その辺は宇川先生の方がお詳しいんですが、もともとHPCIが立ち上がったときに、開かれたスパコン資源の運用、つながった資源の運用、シングルサインオンで利用できる便利なシステムを構築するということが目的でした。その時点ではAIの専門の方はいらっしゃらなかった。それで僕は、前回の委員会で、なぜ「京」のときはそうではなかったんですかねといったら、たしか辻井先生が時代の流れじゃないですかと発言され、僕もそう感じています。ですから、この流れに逆らわずにうまくリードすればいいと思っています。
【安浦主査】 ありがとうございます。
【常行教授】 追加しますと、AIの方々がHPCIに参加するための環境がやはり大事で、環境整備というのは進めたいと思います。
【安浦主査】 辻井先生、どうぞ。
【辻井委員】 AIということで、ちょっと2つの論点があるんだと思うんですね。1つは、AI的な方法論を科学技術研究にどう取り込んでいくかという話はあると思うんですね。だから、科学技術研究のパラダイムが結構変わってきていて、データサイエンスとシミュレーション科学みたいなものがかなり融合していって、次の科学を作っていくというのは1つありますよね。
もう一つの論点は、やはりビジネスだとか民間利用をどこまでポスト「京」が取り組んでいくかという話だと思うんですね。その2つはちょっと違う議論なので、何か区別して議論しないと、かなり混乱するかなという感じがしましたけれども。
【安浦主査】 ありがとうございます。いわゆるアカデミアとしての方法論の問題と、それから、産業応用としての観点というのは、確かに分けて考える必要があるかと思います。
ほかに何か。栗原先生、お願いします。
【栗原委員】 やはりいま常行先生が重点課題でやっていただいているようなところ、アプリケーションをいろいろ作って、その普及ということで、今回は開発者が普及を担うのではなくて、普及するための何か仕組みが必要だというのが、今回の御提言として強く出てこられているところだと思います。
ですが、それと同時にポスト「京」のために「京」で作ったアプリケーションの高度化をうまくやってこられたと思うのですけれども、今後、先端的な研究を産業界に広げるにしても、今のアプリケーションでは不十分なところもあると思うので、その点を常に意識しながら普及もやるということが必要だと思うのですが、そういう観点は余り強くは述べられてはいません。ですから、それに関して開発者がもう仕事は終わっているということにはならないと思います。先ほどの宮野先生のお話でもありましたが、「京」は、例えば日本のシミュレーションの全体的なレベルを上げたと思って、今度ポスト「京」によってまだ先端的な部分の開発でできないところがさらにできるようになってきたということはすばらしい成果だと思うので、それをうまく広い人たちに使ってもらいつつ、先端的な部分は何とかいい形で維持して、広げていくべきだと思います。そこのところをバランスよくやるというのはなかなか困難だと思うのですが、ただ、意識の中でそれをユーザーに渡すんだという形になってしまうと、より先端が開けていかないということになるのは残念だと思いますので、いいバランスで考えていく必要があるのではないかというのが私のコメントです。もちろん皆さんそう思っていると思います。
【安浦主査】 ありがとうございます。そういう御意見を皆さんもお持ちだと思いますので、それをどうするかという方向性に対して提言を出すのがこのワーキングの1つの役割だと思います。
【栗原委員】 そうですよね。だから、余りそこを忘れてしまうと。そういう意味では、今、AIということに飛んでしまっているのですが、インフォマティクスという意味でそれをどう取り込んでシミュレーションを高度化するかというような観点も、以前、この検討会でもそういう観点の発表も頂きましたけど、あると思うので、もう少しAIに飛ぶ前の段階もあるかなと思っています。
【安浦主査】 どうぞ、藤井先生。
【藤井委員】 アプリの普及の話が今出てきたので、それに関して御質問します。
普及させるためには様々なプラットフォームで動かないといけないですよね。一方、ポスト「京」で、コデザインも含めて、非常に特化したソフトウェアを作っちゃうと、その点、矛盾している部分が出てきちゃうんですが、そこはどのようにお考えですか。
【常行教授】 恐らく分野にもよるとは思いますが、多分、産業利用を考えてアプリを開発されている方は、もちろんポスト「京」向けに開発していますが、ポスト「京」だけを念頭には置いていないと思うんですね。流体にしても、あるいは材料にしても、皆さんそれ以外のマシンでもちゃんと動いて性能が出るようにということを考えているんですね。ですから、そこは大丈夫だと思うんです。
【藤井委員】 そうすると、今のポスト「京」の開発の中で皆さん多少意識しているところもあるので、それで問題なく行けるだろうという判断だと。
【常行教授】 はい。アプリの普及というときは当然、ポスト「京」だけで動くアプリを普及させるというのはほぼ意味がないことでございます。ですから、アプリのもう少し実際の体制を考えるときには、ポスト「京」だけではなくて、それ以下も全部含んで、それこそ研究室のPCクラスタまで場合によっては入れたような全ての階層の普及を想定した活動をしていかなくてはいけない。
【藤井委員】 そういう活動も今後入れるべきである、そういうことでよろしいでしょうか。
【常行教授】 はい。
【藤井委員】 もう1点いいですか。最後の7のところに、重点課題の成果創出フェーズでこれを2020年から開始するという話があって、一方で最初の頃、常行先生が産業利用なんかは今の枠組みに必ずしもとらわれなくてもよいというふうな話をされていました。ここで述べられていることは、今までやってきたことが生きればいいということであって、今の重点課題と萌芽課題の枠組みそのものを維持しなければいけないということを言われているわけではないと思っていいですか。
【常行教授】 ここで一番申し上げたいのは、重点課題、萌芽的課題で開発してきたアプリを無駄にしないでいただきたいという、その点でございます。
【藤井委員】 分かりました。ありがとうございます。
【安浦主査】 臼井委員。
【臼井委員】 御講演ありがとうございました。13ページの部分でちょっと伺いたいんですけれども、産業利用促進の部分なんですけれども、産業利用促進及び技術的な部分とかというのは民間側の非常に期待している部分ではあるんですが、この部分について、コンソとして、民間事業者と何か実際にミーティングを始めたりですとか、何か動きを取っていらっしゃる部分はございますか。
【常行教授】 現時点ではまだそこまでは行っておりません。ただ、「京」あるいはポスト「京」の産業利用というときに、国費で開発したマシンを産業で使っていただく、それがクラウドに対しては民業圧迫になるという意見もございます。ただ、そういう言い方をせずに、そうではなくて、産業界に向けてアプリを普及するためのきっかけになるという、ここから卒業したアプリはクラウドの方に移りますので、そういう意味で、どちらもWin-Winの関係で支え合えるような、そういう体制が組めるのではないかという意図でこの文章を書きました。
【加藤委員】 コンソというオフィシャルな立場ではないです。ただ、個人的にいろいろ産業利用のアプリを開発したり、普及させたりしている立場で、民間も含めていろんな関係機関と調整をしているという段階です。
【安浦主査】 どうもありがとうございました。
議題3 重点課題の成果創出について
資料3について重点課題各課題代表より説明
【安浦主査】 ありがとうございました。全体を通しまして、あるいは個別のテーマに関しまして、委員の皆様方から御質問等ございましたら、お願いします。
高田先生、お願いします。
【高田委員】 重点課題を中心としてこれだけ広い分野で最先端の研究が進むというのは非常に今後が楽しみだなと思いました。
前回の「京」のときと比べて、今回のポスト「京」はどうかということで、そういう目でもう1回考えてみますと、演繹的なシミュレーションのソフトは「京」の時よりも、一般に使われる形で公開される形で多くのものが整備されているんだなと思いました。その一方、お話をいろいろ伺っていると、今回はビッグデータを扱われたり、データ同化を扱われたり、あとは機械学習を使ったりという内容がいくつか紹介され、新しい、特に帰納的な要素を含めたシミュレーションをされている事例もかなり増えてきているなと思いました。実際にそういう帰納的な、例えば機械学習のエリアですけれども、そのままほかの分野には応用できないケースがほとんどと思いますが、うまく解析できたコツやノウハウというのを何らかの形で共有できるようにしていただけたらいいのかなと思います。
ビッグデータを全部ストアして使えるようにするというのは、余り現実的な話ではないと思うんですけれども、何らかの形でうまく行ったやり方とか、ノウハウを共有できる形で整備していくことを是非考えていただくとありがたいです。企業人はベストプラクティス、うまく行った例・やり方を利用したいというのがありますので、たとえ違う分野であってもどこにうまく行った秘訣があるのかというのことが分かると、いろんな意味で広く応用が利きます。是非そういうことも今後いろいろ考えて検討していただいたらいかがかと思います。
【安浦主査】 今の御意見は、計算結果のデータ自身も含めてというふうに考えてよろしいですか。
【高田委員】 そうですね。データ自身も重要ですし、ポスト「京」の中だけではなくて、その前後も含めてなんですけれども、一連のどういう形で仕事をしていけばうまく進むのかというところとか、逆にうまく行かなかった例についても、なかなか公開できないのかもしれませんけれども、そういうところも含めて何らかの形で共有できると、非常に皆さんにとって有益かなと思いました。
【安浦主査】 今のお話について御発表いただいた課題責任者の先生方から、もう既に自分たちのところではこうやっているなど、何か御発言ございますか。
【高橋センター長】 高田先生のお話ありがとうございます。私どもはビッグデータを実際にシミュレーションと実際に観測されたデータを使って実施しています。実は、データ同化をする際のビッグデータの内容が詳細過ぎると、モデルとの整合性が取れなくなって、たくさんのデータを入れたことが有効に働かないということも理論的に押さえることができるようになってまいりました。これは実験系や観測系データと予測シミュレーションを考え合わせる際にはとても大事なことになると考えます。そのような共通基盤になるような情報や知識は、何らかの形で公開させていただければと思っています。
【高田委員】 高橋さんの発表は、企業から見た場合に、気象の仕事をしていなくとも、データ同化という技術に関心がある人は多いと思います。例えば、物を作っている工場では、何かを目標として制御するプロセスが重要ですが、そういうときに必ず外乱が入ってくるんですね。ですから、広く考えると、データ同化はそういう企業の物作りのプロセス制御にもとても役立つのかなと思ったんですね。
ですから、気象とか環境への応用だけではなく、高橋さんのところで御研究されている成果が、何らかの形でノウハウという形で広く社会というか、企業界にも応用できるかなと思って期待しております。
【安浦主査】 エンジニアリング系の4先生方、何かございますか。例えば吉村先生、デジタルツインというようなことまで言われておられましたけれども。
【吉村教授】 最終的には、物作りというか、現場での活用を考えると、高精度のマルチスケール、マルチフィジクスのシミュレーションができるというだけでは実は足りないのは明らかでして、我々の重点課題の中では資源とか時間が限られているので、そこの話しかしませんけれども、産業界の展開を考える際には、たくさん出てくるデータ、そもそもシミュレーションが実機と合っているかどうかというのをどこかのレベルで確認するというのは、単に1回実験をやって、1回計算をやって、合って、この程度の誤差でいいですよではいかないので、やはりデータ同化的なアプローチは当然そこに入りますし、その上で、各製品とか、あるいは各手法ごとにいろいろなケースがあり得るので、それぞれについてはある程度パラメトリックな計算をしたり、最適化をしたりして、それをある種のサロゲートモデルのようなものに落とし込んで、実際の設計の現場、運用の現場で扱う。そのあたりは当然、トータルシステムとしては是非重要な技術じゃないかなと思っているところです。
【安浦主査】 加藤先生。
【加藤委員】 我々が多分一番、設計現場に近い。設計現場というのは、御存じのように、1ケースだけシミュレーションを回してオーケーということはあり得ないんですよね。数百ケースとか1,000ケースぐらい回してやる。
今、何をやっているかというと、プリがあって、ソルバーがあって、ポストがあって、またその最適化のループが戻るということをやっているんです。実はあるところと一緒にやり始めているのですが、学習とか、あるいはデータ解析を入れて、プリに返す。そういうループを回そうとしているんですが、さらにその先は、いわゆるシミュレーションによる外挿と、データサイエンスによる内挿を同時に行うような時代が来るんじゃないかなと考えていて、今、我々のところではまだ研究開発レベルですが、そういう取組を始めています。
【安浦主査】 ほかに何か御質問ございますか。
【栗原委員】 今、アプリケーションについて非常に丁寧に御紹介いただいたのは岡崎先生のところで、特に産業界との連携が非常に進んでいて、産業界でそれぞれが最適化されるというか、それぞれの目的に合った形でアプリケーションを使いこなすために、いろいろ講習会等をされているとのことでした。逆にそういうことですと、今の話ともかなりつながるところはあると思うんですが、それぞれのフィードバックをアプリケーションの高度化にどうやって今後つなげていくのか、その方向性は何か考えられるのか。あるいは、このような複雑系の計算というのは従来できていなくて、ここで初めて、サイエンス的にも非常に重要な成果だと思うのですけれども、例えば今、あるところはできているのだけれども、今後、そのアプリケーションを非常によくするためには、もう少し幅広い条件での検討とか、課題としては、産業界でいろんな人に使ってもらうとか、あるいは幅広い条件のシミュレーションができるようになるとかいうようなところはつながっているかと思うのですが、そういうところについて現状と今後についての何か必要性があれば、簡単に御紹介いただければと思います。
【岡崎教授】 私どもの経験の中でお答えさせていただきたいと思いますけれども、まず、企業との連携、共同研究を進めていくというのが中心になっておりまして、一般的に講習会を開く、あるいはチュートリアルを整備するというよりは、むしろ現場の共同研究を介して、一緒に研究を進めていく上で企業へと展開していく、そんなやり方を取っています。
その中で、私どものプログラムというのはかなり汎用的に作っているわけですが、逆に、例えば企業の興味というのはその汎用的な興味ではなくて、非常に特殊な個別な世界というのがほとんどだと思います。いろんな条件の下で、ある特殊な環境の中で物質がどう振る舞うか、あるいは特殊な物質がどう振る舞うか、そういったことをシミュレーションで研究していく上では、むしろ私どもは教えられる方が多い。こういう課題があるのかということで、少なくとも自分の研究ではこれまで論文を読んでいただけでは得られなかった新しい研究への動機というのをたくさん頂いたというように思っています。
そういった活動の中で、もちろんそういったことをやろうと思うと、ソフトもどんどん高度化していかないとできませんので、新しい機能をどんどん追加していくという方向にプロジェクトとしては進んできて、それが機能の整備みたいな言い方になるのかもしれませんけど、高度化の1つとしてやってきたというように思います。高速化、それから使い勝手がいいということと同時に、いろんな機能を備えていくということが1つの方向だったような気がします。
【栗原委員】 そういう意味では、この分野は従来できていないことができているということで、アプリケーションも非常に多くの方に使われているというふうに私理解しております。計算ではないんですが、私どもも実験で産業界と一緒に共同研究をやると、従来自分たちのできていない部分を求められることが多くて、サイエンスと産業利用とはそんなに全く違う世界ではないというふうに感じていますので、今、そういう意味では非常に共感するところがありました。
【岡崎教授】 企業の興味というのは我々にとって宝の山ではないかと。それが見付けられるかどうかは、先生方によるというように思っています。
【栗原委員】 もちろん分野にもよるので、余り一般論にし過ぎるといけないかもしれないです。
【安浦主査】 ありがとうございます。非常に重要なポイントで、ライフサイエンス系のお二人の先生方の話も、診療現場から出てくる話とか直接的に関わる話がそのままポスト「京」で何かシミュレーションできちゃうとかいう、そういう領域が入ってきたようにも伺いました。何かそういう視点からございますか。
【奥野客員主幹研究員】 重点1ですけれども、例えば、分かりやすく言うと、人では実験ができないんですね。じゃ、細胞系で実験しましょうといったら、数か月かかっちゃう。宮野先生も京都大学ではかなり時間かかるというふうに御指摘いただきましたけれども、医療現場ですと、本当に一瞬でできるだけ早く外挿、予測を立てて、予想して、治療しなければならないというような中で、でも、人で実際に実験できない、細胞で飼うこともできないという中の、そういう中で超高速化、あるいは超大規模なシミュレーションというのは非常に期待されていると思いますし、今後、まさにポスト「京」時代になると、医療現場に対する相当なる知見を出していくことができるんじゃないかなというふうに思っています。
【安浦主査】 ありがとうございます。辻井先生、どうぞ。
【辻井委員】 非常にすばらしい成果で、いろいろ感心して聞いていたんですが、データサイエンスとかAIの側から言うと、シミュレーション的な手法というのは我々がある程度合理的に対象が理解されていて、それでうまくシミュレーションできる。あと、データ同化でそれをなるべく合わせていくという感じになると思うんですけど、AIだとかデータサイエンスの方は逆にまだ合理的な理解というのが余りよくできていなくて、状況自身にものすごく多様性があるというんですか、それでデータを使いながら、対象を理解をしていくというんですかね。だから、シミュレーター自身がかなり不完全なものしかできないような対象を扱っていることが多いと思うんです。
だから、ポスト「京」になったときに、現在、非常にうまく行っていて、かなり大きな成果を上げているという柱の1つの研究の流れと、もう1つ、これと同じような規模でデータから出発するもう少しボトムアップな方でこういうのがまた幾つか立つと、非常にいいなと思って聞いていました。
【安浦主査】 ありがとうございます。先生方の方から何かコメントございますか。岡崎先生、お願いします。
【岡崎教授】 あくまで物質開発という立場からではございますが、AIとシミュレーションというのは決して別物ではなくて、お互い連携しながら進めていくものではないかというように理解しています。大きく分けて3つシミュレーションの役割があるんだろうと思うんですが、1つは、機械学習で予測したものが本当に正しいのかどうか、シミュレーションする。スクリーニングをする。実験大変ですので、短期間でシミュレーションするという役割が1つあろうかと思います。
もう1つは、記述子の意味。こちらはシミュレーションで初めて物理的な意味付け、科学的な意味付けが可能で、これはさっき宝の山という言葉を使いましたけど、得体の知れない訳の分からない記述子の塊も我々にとっては実は宝の山ではないかと思います。そこをどのようにサイエンスとして解析していくかというのが次の課題になると思います。
もう1つはデータベースそのもので、これはアメリカなんかでいっぱいやっていますけれども、比較的簡単な計算、これを大量に行って、例えば、単分子の性質から凝集系の性質を予測するといったような、あるいは逆に極端条件の中での計算で外挿ですね、内挿ではなくて外挿、飛び出すという、そういった役割もあるのではないかというように思ったりしています。
【安浦主査】 どうぞ。
【堀教授】 防災の方でデータで今一番大きいのはやっぱり衛星コンステレーションと言われる、これからどんどん数が増える衛星を使って、今までの地震が起こると多分こういう被害が起こるだろうという時系列を見るんじゃなくて、直接被害を見る。このときの衛星データをどういうふうにHPCを使って高速で判定するかというのが大きな問題で、今、そういう意味ではAIの方とも一緒に研究を進めているんですけれども、ポイントになるのは、まさに御指摘のとおり、こっちは一応物理過程を追うんですけれども、AIの方から見ると、いまひとつ、どうやって仕組みを作っていいかも分からない。
逆に言えば、我々は本当に数多くの仮想的な災害を作ることができるので、そこで彼らの根気を確かめながら、どこまで付き合ってくれるかなということをやっていますけれども、こちらは非常に役に立つので、是非データ系の人とは衛星コンステレーションの利用というのは大きな課題になると思っています。
【安浦主査】 堀先生、ありがとうございます。
青木先生、まさに基礎科学は辻井先生が指摘されたポイントじゃないかと思うんですけれども。
【青木教授】 基礎科学で多分、実際データというのはノイズが物すごくあって、例えば重力波のデータなんかも本当にシグナルがあるかどうか分からないんですが、それをこちらの計算機でテンプレートというのを作って、それと実験のシグナルを突き合わせるということをやったり、例えば、コイネル実験はバックグラウンドが非常に大きくて、なかなかシグナルを取り出すのは難しいところを、その両者にAIを使って、第1位のスクリーニングで、最終的な結果までをAIで出すことはなかなか難しいと思うんですが、スクリーニングの段階でAIを使うというのはこれからみんな考えていることだと思います。
【安浦主査】 吉村先生。
【吉村教授】 AIとシミュレーションの関係って、またいろいろ実はフェーズがあるなと思っているんですね。例えば、我々、洋上風車の話があったときに、ポイントは国内で十数個の候補サイトがあったときに、そのサイトをどうやって決めるのかということと、そのサイトの中にどういうサイズの風車をどういうふうにアレンジするのかというのがあるんですね。これが、作ることは簡単なんですが、所定の発電性能を自然環境の中できちっと発生させる。あるいは、都庁を超えるような巨大な風車が万が一壊れたりすると、それを直したりするのに物すごくコストも掛かりますので、そういうところをどれだけきちっと予測できるかというと、やはりこういうポスト「京」レベルの精密なシミュレーションというのはすごく重要になります。
ただ一方で、もう少しミクロレベルの、例えば原子・分子レベルとか、ミクロレベルのもっと規則的な現象を評価しようとしたときに、そこは数ケースやったらいいかというと、そんなことはなくて、そこではもっと物すごいたくさんのパラメーターでシミュレーションし、しかもその中からどういうようないわゆる現象を予測するかというところでは当然、AI的な方法と組み合わせた方が効率的になる。
AIの場合には、どれだけデータがたくさんあるかというのが結構ポイントなので、たくさんデータがある分野と、データが少ないんだけれども、あるいは観測できないんだけれども、シミュレーションによってデータがクリエートできる、そこら辺をうまく狙って組み合わせていくというのが本質的に重要かなかというふうに思っています。
【安浦主査】 常行先生、どうぞ。
【常行教授】 重点課題の多くの課題では、やっているシミュレーションというのは基礎方程式がちゃんとしっかりしていて、基礎方程式の積み上げでシミュレーションしています。その意味で言うと、本来は基礎方程式でできるんだけど、解けば分かるんだけれども、それが非常に可能性が多過ぎて、研究できない。そういうときにAI側からアプローチをすると、AIとしてはちゃんと根拠のあるデータを扱っているわけですので、例えば、今のアメリカとかで話題になっているexplainable AIとか、ああいうところにつながるような研究ができると、多分、両方にとって非常に価値のある共有ができるんじゃないかと思います。
【安浦主査】 青木先生、どうぞ。
【青木教授】 ちょっと付け忘れていたんですが、我々の分野でもAI的な使い方をしていて、今、常行先生がおっしゃったように、データをいろんなパラメーターを振って出すんですが、全パラメーターを全部振ると物すごい計算時間かかるんですが、適当に振っておいて、中の間をどうするかというのをAI的なものにやらせて、このパラメーターだったらこうなるということを予測させるということはやっています。
【安浦主査】 ありがとうございます。
【高橋センター長】 先生方のお話に共通する部分があるかもしれませんけれども、予測可能性という問題では、予測可能性が非常に高いときと、そうじゃないときの切り分けの境界がどこになるかということが、実際には分かっていないことがたくさんあります。カオスに発展するかどうかという話にも通じるのですが、予測可能性が高いところと、そうじゃない領域の境界領域におけるバイファケーションがどこの時点で起きるのかということの推定が極めて重要で、難しい問題です。しかし、実は岡崎先生のお話があった記述可能性とも関連する問題ではありますが、つまり、起こってしまった予測できなかった事象が何に起因するのかが、今まで考えていた変数とか従来考えられていたプロセスとは異なるバイファケーションの「種」みたいなものを、実際に起こった事象の極めて巨大なデータから見出せる可能性があると思います。そういう点では、AIをうまく使うことによって予測可能性と非常にリンクした新しい知見を得ることができるのではないかというふうに考えています。
【安浦主査】 ありがとうございます。ほかに何か御質問とか御意見ございますか。
【栗原委員】 私も今までも申し上げているのですけれども、AIは、情報処理ということは、データと結果の間の関係にあまり論理性がなくても整理できるということが今まで強みというふうに議論されている場合が多いと思うのですけれども、なるたけ論理的な形ができると非常にいいと思うので、その場合にサイエンスの対象というのは論理に基づいて出ている、そういうデータを対象にして、AI的な取り扱いをやることで、インフォマティクスが進歩していくのではないかと思うところがあるので、そういう点を、簡単ですけど、申し述べたいと思います。
【加藤委員】 1点だけすいません。シミュレーションにしても、データサイエンスにしても、方法論というか、ツールですよね。最終的には人間が頭がよくなるというか、知恵のレベルが上がることが最終的な目的で、そのための具体的な成果としては、新しい方法論、新しい学術、新しい科学ができる。そういうような大きな目標を目指して前に進むべきじゃないかなと感じています。
【安浦主査】 どうぞ、辻井先生。
【辻井委員】 先ほどのexplainable AIだとか、僕たちが認識していない要因が分かるかもしれないというのは、データからやっぱりあると思うんですよね。観察されていて、それがデータとしてあって、実際にそれを規定している要因というのが、僕らが考えていないようなところにまた別の要因があったかもしれないというような複雑な現象を取り扱ったときに、シミュレーションの技術というのはかなり合理的理解というのを出発点にしているので、ある程度限界があると思うんですよね。
それをAIの側は現象から出発しているので、それを見ることで、今、考えようとしていた要因が何であったのかというのが見えてくるというんですか、それがAIの中のブラックボックスになっている部分をホワイトボックス化する、ビジュアリゼーションまで含めて、そういう技術で次の科学、合理的な理解の方に進んでいくというのが多分理想なんじゃないかという気がしていますけど。
【安浦主査】 AIという言葉とデータサイエンスという言葉を同義に使うと、ちょっとまた誤解を生みますので、先ほどの宮野先生の最初のお話みたいに、ちゃんとデータサイエンス的にきちっと全解析をやって、ここに原因があるということをやるのは余りAIという言葉を使わなくてもいいような気がするんですけど、いかがでしょうか。
【宮野教授】 実は背景にはAIが走っていて、私、あえて述べなかっただけなんですが、今、辻井先生がおっしゃっていたことというのは、ある企業と一緒にやっている研究で、explainable AIをやっていて、膨大なネットワークの遺伝子ネットワークを「京」を使って推定をして、そして、そこの中からがんの転移、EMTというんですけれども、くっついている細胞がやがて遊走し始める。ずっと家にいた子供が18ぐらいになると夜な夜などっかに出て行って、どこかで同棲し始めるという、そういう現象が起こるんですけれども、それの原因になっているパス、メカニズムは何かというのは不明なんですね。それを大規模なデータからネットワークを推定して、ネットワークは出てくるんですけど、それを解釈できなかった。それをexplainable AIを使って見ると、ここのところが関係あるね、ここのところが関係あるねといって、次のサイエンスのステップへ行けるという経験を今しつつあります。
ですから、今、辻井先生がおっしゃったシミュレーションというのは、がっちりしたところでこう行くよという、それはそれとして、同時にデータからどんな、我々が見ていない、感じていないことを出していくかということ、これはデータサイエンスのパートであり、かつAIのミッションだと思うんですけど、それがシナジスティックに大きな計算パワーとストレージを使って実現されていくことが、私は夢のように思って、夢というか、正しい方向ではないかなと思っています。
【安浦主査】 ありがとうございます。吉村先生。
【吉村教授】 自身が感じるのは、ポスト「京」というハードウェア中心としたシステムがあったときに、そのリソースをシミュレーション的に使うのか、AI的、データサイエンス的に使うのか、それは1つあると思うんですが、重点課題等でやっていると、むしろそういう計算機を活用したいろんなアプリケーションをより現実の、サイエンティフィックに実社会の問題として現実なものに使おうとすると、計算機とオペレーションシステムが単独で存在して、その上にある特定のアプリケーションがあっただけでは現実の問題にたどり着かないところがあって、そこの部分は、いつも5分とか10分ぐらいの説明ではまず端折っているんですが、実はそういう単独のポスト「京」の性能を最大限発揮するアプリケーションをさらにつなげるための、あるいはそれを実問題に展開するためにいろんな取組を重点課題でやっていって、それが逆に維持されないと、あるいは発展しないと、結果的にはその先に行けないと思っているんです。
そうすると、そこの部分が、重点課題だけはもちろん、それぞれみんなやっているんだけど、ポスト「京」のプロジェクト全体として、それをどういうふうに捉えて、どういうふうにやっていくのかというのはすごく重要かなというふうには感じています。
【安浦主査】 このワーキングはポスト「京」の利活用促進と成果創出加速ということのもので、利用に対してどういうふうなオペレーションをしていくか、運用していくかとか、ユーザーに対してどんな環境を準備すればいいかということまで含めての議論ですので、非常に重要なポイントだと思います。
具体的に、例えば1つ2つ何かあれば、出していただければと思うんですが。
【吉村教授】 例えば、先ほど岡崎先生も特定の幾つかのアプリケーションを言いましたけれども、そのアプリケーションをポスト「京」の上でたくさん動かして、それだけで実社会、実企業が実際の製品開発か何かにすぐ使えるという感じにはならないと思うんですね。そうすると、そのデータをどういうふうに処理するかというようなプロセス、それは単に可視化という意味ではない、別のやり方等あると思うんですが、ただ、それが普通のマシンで出すよりも、巨大なデータが物すごい数出てきて、それをどういうふうに処理して、現実に持っていくのか。そうすると多分、それは個別の取組はやっていると思うんですが、それ全体をもう少し統合的な形にやっていくような部分、それがないと、それが5年、10年という形で維持し、発展されないと、結果的には難しいかなと思います。
【安浦主査】 どうもありがとうございます。非常に重要なポイントだと思います。
ほかに何か御質問ございますか。
私の方から1点、堀先生、高橋先生、あるいは吉村先生に絡むところですけれども、リアルタイム性が要求されるアプリケーション、気象でも、地震予測は別でしょうけど、地震の後の対応とか、それからデジタルツインをやっていくとか、そういうときにリアルタイム性が要求される場合に、ポスト「京」を運用する立場から、これは緊急だからとにかくほかの利用は止めてでもやれというような要求が出てくるというふうにお感じでしょうか。
【堀教授】 地震に関しては絶対出ないと思っています。そこで被害が出たとしてもどうしようもないので、現業の話ですけれども先ほど申し上げたような衛星でちゃんとした実データじゃないと自衛隊の人とか警察の方とか消防の人は動けないので、ここはシミュレーションでこうなりますよというので動くようには、もうちょっと時間がかかるんじゃないでしょうかね。衛星の方だったら人は動いてくれますけど。
【安浦主査】 気象はどうですか。
【高橋センター長】 気象はまさにそれをやるか、やらないかというような現実の話を実はしています。予測が少し先のところまで分かるとなると、例えば、今度の台風は非常に巨大で、それはどういう被害を及ぼすかどうかということがある程度予測でわかったときを考えます、予測を正確にするにはさらにスケールダウンをして、たくさんのアンサンブル予測をしなくちゃならないのです。
そのたくさんのアンサンブル予測のアンサンブル初期値を作るのに、気象庁が持っているアンサンブル数のマックスよりももっと大きければ、もっと予測が正確になるということが、次の世代のポスト「京」でわかれば、要するに、実際にこういった台風が来たときに、ほかのジョブを、大変申し訳ないんですけど、止めてでも、このアンサンブルの初期値を作ってもらえないかという要請が可能かどうかということを、現場と実は話をしつつございます。
ですが、それが実現できるかどうかというのは、それに先立つ準備をしっかりやって、アンサンブル数がどれだけあれば、どれだけの正確な予測が言えるかというような定量的な評価をしなければなりません。そこまで行けるかどうかということが、ポスト「京」においてリアルデータとどう結び着くかというところの非常に大切なところになってくるというふうに考えています。気象の場合はそういうことです。
【安浦主査】 吉村先生、いかがでしょうか。
【吉村教授】 考え方なんですけれども、何か急に羽根の回り方がおかしくなって事故が起こりそうだというものをリアルタイムでシミュレーションしてというのは、実際上はそんなに要求はないと思うんですね。
ただ、以前は比較的、作るまでは一生懸命シミュレーションしますけれども、作った後というのは運用に任せたところを、例えば、洋上風力にしても石炭ガス化に関しても、環境が少しずつ変わっていくとか、あるいは石炭ガス化炉の場合ですと、今度新しい石炭、別の産地から取ってきたものを入れたときに、ちゃんと連続運転が可能かとか、そういう運用の途中途中の条件変化に対してどういうふうにするかというのは、ニーズとしてかなり強く出てきますので、そういうレベルでのある種の、少しゆっくりしたリアルタイム性的なシミュレーションというのは必須になってくるかなというふうには思っているところです。
【安浦主査】 どうもありがとうございます。リアルタイム性も多分、この利活用の中でいろいろ議論を今後していく必要があるポイントかと思っております。
ほかに何か御質問、委員の方々から御意見ございませんでしょうか。どうぞ。
【伊藤委員】 企業の研究関係にいる人間からすると、今回の基礎分野も含めて、9つの分野、非常に興味深くて、なるほどこういうことかと見ていて、こういうことに応用できそうだなという着想が湧くんですが、研究者というのは企業の中でも先端の科学技術を常にサーベイしていて、それを何か自分のところに引き寄せようという、そういうことを必ず努めているからなんですね。
ところが、これがいわゆる設計系だとか生産系になると、なかなかそういう時間もなくて、かなり工場の中に閉じこもって何かをやっている人たちを見て、その人たちにどういうふうに知らせるか。我々の責任でもあるんですけれども、より具体的な話をしなければ、なかなか理解できない。
それからもう1つは、HPCIコンソーシアムのワーキンググループ、私もメンバーなんですが、産業利用、産業利用と、非常にありがたい、まさに共用法の精神に基づいていろいろと議論していただいているんですが、一番大きなところはやはりトップを動かなきゃいけないんですね。経営層が今の内容に対して関心を持ってくれるかというと、甚だ難しい話でありまして、このあたりをもう少し丸めて、でも、とにかく今、世界のこのくらいにいるとか、何か具体的に競争心をあおるようなアウトプットしないと、なかなか経営層というのは、特に文系の経営層はなかなか理解していただけないので、この辺のところを是非よろしくお願いしたいと思います。
【安浦主査】 ありがとうございます。非常に重要な御意見で、青木先生のところのスライドにありましたKAGRAとか、すばるとか、結構な税金を使っているんですけど、日々の我々の生活には何の関係もないんですけど、国民が納得しているわけですね。それは、結局は基本的に分かりやすい、これができたらこんなことができますよと分かりやすい説明ができている。一方で、このポスト「京」は、きょう9つの課題、これが全てではないわけですけど、非常に多様な用途に使えるがゆえに説明しにくい、そういう二律背反的な側面を持っていると思います。
ですが、今、伊藤委員が言われましたように、少しある部分に特化してでも、これができるから必要なんだよということを、9つあるとちょっと多過ぎると思うので、3つか4つ、国民に分かりやすいように説明して、そして、企業のトップもそれを理解していただくというような形を作っていかないと、なかなか理解が得られないんじゃないかというふうに思います。どうも貴重な御意見ありがとうございました。
宇川先生、どうぞ。
【宇川委員】 きょう、話を聞いていて非常に印象的だったのは、分野によっても違うと思うんですけれども、多分一言で言えば社会実装なんだと思うんですけれども、社会実装を先導する、あるいはそれに近いようなところまで来ている分野もあれば、そうはいっても、社会実装に本来近いはずなんだけど、まだ基礎研究、基礎研究開発をしているというところもあると思うんですね。
ですから、成果創出フェーズを考えるに当たっては、そもそも社会実装まで踏み込んで目標とするのかどうか、そこのところを明確にした方がいいのではないかと思うんですね。本来、社会的課題、科学的課題の解決というタイトルからは、必ずしも社会にすぐに役立つということは求められていないわけで、今すぐ役には立たない分野もあるわけですね。
しかし、例えば、エクソプラネットが4,000個も見つかって、もしかすると、その中には地球に似た環境のものもあるかもしれない。実際それが見つかると、我々の世界観を変えてしまうわけですね。それは強烈な社会インパクトを持つわけなんです。だから、そういう観点から、基礎研究、基礎研究開発も社会実装に近いものと同様に進めていくべきだと私は思います。
そういった観点から考えても、今の9つの課題というのは、割と横並びで9つ立てていて、社会実装にうんと近いような分野、あるいは、そうではないんだけども、非常にインパクトのある分野、それが横に並んでしまっている。ですから、重点課題が立つ上ではそこのところをどう整理するのか。さらに、それぞれを早期に成果を創出するためにどういう体制がいいのか、それをやっぱり考えなきゃいけないと思います。HPCIコンソーシアムの報告に体制も最適なものにすべきだというところがありましたけれども、やはりそこは本当にそうだと思います。今のような代表機関があって云々というふうな、ある意味、動きが余りダイナミックにはできないようなものではなくて、別の形を考えるということも大事ではないかなというふうに思います。
安浦主査より閉会
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