ゲノム医療実現のための研究基盤の充実・強化に関する検討会(第2回) 議事録

1.日時

平成29年4月21日(金曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 研究基盤としての東北メディカル・メガバンク計画の取組
  2. 研究基盤としてのオーダーメイド医療の実現プログラムの取組
  3. 研究基盤としてのクリニカルバイオバンクの取組
  4. 議論

4.出席者

委員

中釜主査、増井副主査、赤塚委員、内山委員、狩野委員、玉腰委員、山本委員

文部科学省

関研究振興局長、板倉大臣官房審議官、永井ライフサイエンス課長、野田ゲノム研究企画調整官、小林研究振興戦略官付先端医科学研究企画官

オブザーバー

日本医療研究開発機構:石川プログラム・オフィサー
東京大学医科学研究所:村上所長
理化学研究所統合生命医科学研究センター:久保副センター長

5.議事録

【中釜主査】 
 それでは、定刻になりましたので、これより第2回ゲノム医療実現のための研究基盤の充実・強化に関する検討会を開催いたします。
 本日は、委員11名のうち7名の委員に御出席いただいておりますので、検討会開催に必要な定足数に達していることを御報告いたします。
 また、本日の議題の2番目、研究基盤としてのオーダーメイド医療の実現プログラムの取組について、日本医療研究開発機構のオーダーメイド医療実現プログラムの石川プログラム・オフィサー、それから、オーダーメイド医療の実現プログラムの実施者であります東京大学医科学研究所の村上所長、理化学研究所統合生命医科学研究センターの久保副センター長に御出席いただいております。よろしくお願いいたします。
 それでは、事務局より本日の議事及び配布資料について確認をお願いいたします。

【野田ゲノム研究企画調整官】 
 配布資料でございますけれども、クリップ留めの資料、冊子、紙ファイルの3つをお配りしております。クリップ留めの資料でございますが、座席表がございまして、その下に議事次第がございます。本日は3件のヒアリングと総合討論を予定しております。
 配布資料は、その議事次第の下に書いてありますとおり、資料1から4をクリップ留めの資料の中に御用意しております。また、資料1といたしまして、前回、先生方から頂きました御意見をまとめた資料を御用意しておりますので、適宜御参照いただければと思います。
 また、その資料の下に、オーダーメイド医療の実現プログラムの論文をまとめた冊子がございまして、その下に紙ファイルとしまして、前回も机上に置いておりました参考資料及び前回の資料を中に入れておりますので、御確認いただければと思います。
 不備等ございましたら事務局までお知らせください。
 以上でございます。

【中釜主査】 
 ありがとうございました。それでは、これより議事に入ります。議題1の研究基盤としての東北メディカル・メガバンク計画の取組について、山本委員から御発表をお願いいたします。
 第1回の検討会において、健常者の検体に対するニーズがあったとおり、健常者バイオバンクである東北メディカル・メガバンク計画は、疾患バイオバンクと対をなす取組と理解していますので、極めて重要な取組と思います。では、よろしくお願いいたします。

【山本委員】 
 お時間を頂いて、どうもありがとうございます。それでは、メディカル・メガバンク計画の取組について、少しお話をさせていただきます。
 御存じのように、私どもの計画というのは、東日本大震災からの創造的復興に向けてということで始まったいきさつがあります。創造的復興に向けて、大規模ゲノムコホートと複合バイオバンクを作ろう、個別化予防・医療の基盤創出をしようということで、この東北メディカル・メガバンク計画を実施しております。
 最初は、私ども東北大学でやっていたのですが、岩手医科大学に御協力いただけることになって、力を合わせて東北メディカル・メガバンク計画、TMMという名前で計画を実施しております。
 大規模ゲノムコホート調査で挑む次世代型医療、ゲノム医療ということについてなのですが、複数の遺伝子、遺伝要因と環境の要因が影響して引き起こす疾患の病因解明や予防法・治療法の確立には、ゲノムコホート調査とバイオバンク構築が非常に有用ですし、必須であると考えています。
 特に、健常人の前向きコホートは、病気になる前のデータが分かる、それから、病気にならなかった人のデータも分かる、更に症状の進行を追うことができるということで、次世代医療の中心である予防医療、パーソナルヘルスケアの確立の鍵になると考えています。
 申し上げるまでもないことなのですが、健常な人たちから多様なデータを収集し、数十年の追跡をするというのが私どものミッションになるわけですけれども、この多様なデータや追跡のデータをバイオバンクに収納することが大切です。バイオバンクを定義すると、人体に由来する試料と情報を匿名化して、体系的に収集、保管、分配するシステムですけれども、これをバンクとして備えて、それで社会の役に立つということが大切なことと考えています。
 バイオバンクの整備というのは社会的に有用で、特に国民の健康、福祉の向上や、科学研究の発展、科学における国際競争力の維持等にはなくてはならないものです。先進国にはなくてはならない社会基盤だと考えております。
 それでは、私どもTMMではどのようなコホート調査が行われているのかについて、簡単に御説明いたします。メディカル・メガバンクでは、地域住民コホートとして、8万人以上の成人を、特に津波の被害を受けた沿岸部を中心に、リクルートしています。それから、三世代コホートとして、産院で妊婦さんをリクルートし、三世代の方々をリクルートしています。出生をベースにする三世代コホートを7万人規模で実施しております。三世代コホートは、家族歴があることで科学的に質の高いデータが得られることに特徴があります。
 地域住民コホートについては、昨年の3月いっぱいで8万4,000人。それから、三世代コホートは、まだ子供を産んでいない妊婦さんが少しだけ残っておりますが、リクルートはもう終了していて、7万4,000人です。合わせて、15万人の目標をしっかりと達成しております。
 なぜこのような2つのコホートを作ったかということなのですが、それはアイスランドのdeCODEジェネティクスを大きな参考にいたしました。それは、家族歴が付いていることが遺伝子と病気をつなぐこと、ひも付けることに重要な、有力な武器になるだろうと考えたからです。
 私どものコホートというのは、地域住民コホートでまずゲノムの解析をし、日本人のゲノムリファレンスパネルを作り、これを基にして、日本人に特化したジャポニカアレイを作って、これで多くの病気に関連すると考えられる遺伝子変異、遺伝子の多型変異を見いだすことを計画しています。そして、見つかってきた疾患と関連する多型の候補を、三世代コホート、すなわち、大規模家系を使って絞り込むことを計画しています。アイスランドの方は17世紀からの家系図があるのですが、その代わりとして、私たちは三世代コホートを使おうと考えてきたことになります。
 それで、少しだけコホートとバンクの説明をさせていただこうと思うのですが、世界のコホート、それから、コホートに基盤を置くバイオバンクの研究というのは、患者さんのコホートから出発し、更に前向きコホート、それから、家系付きコホートという方向で、発展してきた歴史があります。患者コホートは古くから多数存在しています。例えば日本では、この後、発表があるバイオバンク・ジャパンをはじめとして、多くの患者コホートが存在します。
 一方、前向きコホートは、それに引き続いて、健常人が重要であるということで始まったのですが、遺伝子と表現型の関連を作るためには、大型化、大規模化しなければいけないというので、代表例としては、このUKバイオバンクなどがあるのですけれども、50万人、100万人という超大型化、大規模化をしています。
 一方、家族歴の方を使って、サイズを押さえつつ、遺伝子と病気の関係を明らかにしようということで始まった家系付きコホートは、ようやく始まってきているところなのですが、出生三世代としては、私ども東北メディカル・メガバンクが世界最大であると考えています。
 さて、私どもの調査の対象疾患なのですが、前向きコホートですので、発症した疾患全てが対象ということにもなるのですけれども、やはり疾患を絞っていくということで、被災地で増えているような疾患を特に相手にしようということで、心血管障害、糖尿病、精神神経障害、認知症、COPD、妊娠高血圧に取り組んでいます。それから、子供を2万5,000人、3万人の規模でリクルートいたしましたので、小児のアレルギー性疾患や自閉症、低出生体重児も重点疾患として考えております。
 リクルートの方法なのですが、地域支援センター、岩手の方はサテライトと呼んでいるのですけれども、ここで詳細検査をするということを一つの大きな特徴にしております。これは詳細検査の様子をお示ししたものです。
 バイオバンクの有用性は、大きく認められてきていると思います。AMEDにもバイオバンク事業部が設置されたり、標語として、「貯めるバンクから使われるバンクへ」というふうに、使っていただけるようなバンクへということになっていたりしています。調査項目もなるべく皆さんが使いたいというものを入れていくことが大切だというふうに考えています。
 私どもは、参加者全員から34ccの採血をしておりますが、それを使って非常に詳細な調査をしております。調査票による詳細な把握も実施しており、回答に1時間ぐらい掛かる詳細な調査票を使っております。それから、先ほどお示しした地域支援センターで、いろいろな生理学的な検査、また、希望者・ボランティアの方には、MRIまで含めて詳細検査をしています。
 さらに、長期間の追跡が非常に重要だと考えています。追跡ですけれども、この4月から第2段階に入って、私どもの追跡調査が実際に始まりました。書面による追跡90%以上の追跡率を実現しようと思っています。
 医療情報を活用し、さらに、公的データや発症登録も活用する方針です。それから、対面型の詳細二次調査をやって、これらでしっかりと追跡をして、皆さんが使いたいと思うようなデータを作り上げていくことが大切かと考えています。
 冒頭、複合バイオバンクということを申し上げましたけれども、複合バイオバンクというのはこの図のように考えています。生体試料は大切に使っても、いずれは枯渇するものですので、たくさんの人たちから頂いた試料と情報で、利活用が多いものは先に一括して、私どもが「解析センター」を設けて解析して、それを試料・情報、情報の形で分譲して使っていただく。情報であれば枯渇することはないだろうと考えた次第です。
 ところが、情報として分譲することを考えると、その解析した情報は本当に信頼性が高いのかということが気になります。信頼性のないデータは誰も使ってくれないということだとおもいます。そこで、データのクオリティコントロールを一生懸命やっています。Laboratory information management system(LIMS)を取り入れています。ISOも、9001は品質管理、27001は情報管理、情報セキュリティなのですけれども、これらを取り入れて、信頼性の高いデータ管理をしております。
 平成27年の8月より、試料・情報の分譲を実施中なのですが、一昨年から実施しております。膨大なデータを、民間企業も含む多くの研究機関で活用できるような体制を整えています。
 分譲審査は外部委員が入った審査会で、公明・公正な審査を実施しています。一番大切なことは、知的財産を基本的に分譲先に帰属するような形の運営をしていることだと思います。これまで4件の情報分譲を承認していますけれども、全てゲノムの情報です。公的機関、大学に分譲を既に4件です。それから、審査中のものがこれに加えて幾つもあります。
 私どものバンクで、研究者が利用可能な試料と情報ですが、審査を経て利用可能なものは、DNA、血清、尿など、これらの生体試料です。それから、ゲノムの配列情報や多型情報で、特に個人の特定につながるようなものについては、スパコン上での制限公開をしております。さらに、疫学情報や基本情報、生化学検査、その他です。これらの情報が東北メディカル・メガバンクデータベース(dbTMM)にカタログのように入っていて、そこを見ながら、何が欲しいかを選んでいただくようになっています。今は、約1万1,000人分のこれらの情報を見ていただくような形になっています。
 一方、個人の特定性が低いようなものについては、オープンアクセスで対応しています。これまでに、ゲノム情報、オミックス情報、更にメチル化DNAの情報、エピゲノム情報を公開しています。このようなダウンロードサイトがもう既にできています。
 スーパーコンピュータがないと、特に機微性のあるゲノム情報の分譲ができないわけなのですが、逆に言うと、それを活用して実施しております。高度セキュリティルームを相手方にも作っていただいて、遠隔地からも専用回線でつながっていただくということを実施しています。ここに既に設置された3つの拠点をお示しします。今、15拠点ほどの設置が進んでいます。
 さて、先ほど申し上げた統合データベース、dbTMMですけれども、ここにあるような、大まかに分けて、6つ、6種類の情報が入っています。このうち、3番のゲノム・オミックス情報を除くものというのは、普通にバイオバンクにあるものだと思います。このゲノム・オミックス情報というのは、解析したビッグデータになるわけです。普通はバイオバンクと解析センターが一体ではありませんので、この間に提供作業がありますと、別のオペレーションになります。そうすると、別管理になっているので、なかなかアソシエーションするのが大変だと思います。
 私どもは、複合バイオバンク、インテグレイテッドバイオバンクという形で、このバイオバンクの情報とオミックスやゲノムの情報が一つのオペレーションの中で利用できるシステムを作り上げています。そのシステムの中から、分譲に進むということになるので、非常に使いやすい形のものを作り上げたと考えています。
 ゲノム解析なのですが、既に大体4,000人分の全ゲノムの解析を終了しています。これはいわゆるコンソーシアム型でいろいろなところのゲノム解析を寄せ集めたというものではなくて、単独の施設・方式で行ったものなので、もう本当に世界で初めてだと思います。今までに、2,800万個ほどの遺伝子多型が分かっているのですが、これらをほかのところにあるコウケジアンのものと比べてみると、1,800万個を超えるものは私どもの解析で新しく見つかったものとでした。このことは、遺伝子多型の人種差は思いのほか大きく、欧米人のデータをじかに日本に持ってきて何かができるということではなくて、日本人のゲノムを独自に解析することの重要性を明示していると考えます。既に、昨年6月に2,049人分の情報を公開し、今年度の前半には3,500人分の遺伝子変異の頻度情報を公開したいと考えています。
 後ほど申し上げますが、ジャポニカアレイを活用して、DNAアレイ解析を大規模に実施しております。大体2万3,000人分のDNAアレイ解析を実施して、本年公開予定です。
 今は国際ヒト参照ゲノムで、これにはコウケジアンのものが使われているのですが、日本人の基準になるゲノム配列というのはどういうものかということで、私どもは日本人の詳細なゲノム配列を決めて、それを公開しました。ゲノム解読の精度向上につながると考えています。
 ところで、日本人向けに高度最適化したDNAアレイ、ジャポニカアレイを作りました。日本人のレファレンスゲノムを作製しましたので、それを基にして、SNP数を最小化しつつ、擬似の全ゲノム解読が可能になるように作り上げました。2万円台で発売しているのですが、これはフルサービスの値段ですので、大幅に価格破壊しているものだと考えています。
 オミックスの結果も昨年8月に1,008人まで拡張しました。これは、全ゲノムが決まった人の中の1,008人分のオミックス情報、具体的には、プロテオーム/メタボローム情報を公開しました。近日中に更に拡大する予定です。
 それから、岩手医大で中心にやった3層オミックス解析ですが、特にDNAのメチル化を、エピゲノムを調べ、それを全ゲノムとRNA解析と併せて公開したもので、これは100人を超える全ゲノムバイサルファイト(メチル化)シークエンスをやったということで、大変画期的な成果だと思います。今週、論文が公開されました。
 こういう成果を基にして、企業との協力をしいるのですが、東芝とは、ジャポニカアレイのマーケティング上市、市場への実装化を協力してやらせていただいています。2014年12月に発売して以来、既に2万を超えるジャポニカアレイの利用があります。このジャポニカアレイは、日本人に向けたインピュテーションと擬似全ゲノムをするのに非常に有利なものと認めていただいてきていると思います。
 NTTドコモとは、アドオンコホートを実施しています。三世代コホート調査に追加調査の形で、妊婦さんのライフログを取り、それを電子的に回収するという、ドコモにとっても一つの挑戦を私どもと協力して実施しています。
 さらに、東北メディカル・メガバンクの中に、ゲノムプラットフォーム連携センターを作りました。これはオールジャパンでの解析支援体制と研究交流の拠点化ということで、計算資源・スパコンの共用、共同研究の推進、更にジャポニカアレイ等を、アレイのデータを擬似全ゲノムに広げていくサービスを全国に向けようと考えて準備したセンターです。さらに、人材育成をしっかりやっていこうということをセンターの目標としています。
 それで、人材育成の話が出たのですが、メガバンク事業をやってみて分かったのが、ゲノム医学研究コーディネーター、ゲノムメディカルリサーチコーディネーター、それから、遺伝カウンセラー、バイオインフォマティシャン、バイオデータマネジャーなど、新しい職種の人たちが事業のためには必須であることです。ですから、人材育成について力を入れていく必要があるし、これまでも力を入れて実施をしてきました。
 最後に、今後の方向性ということで、この4月1日から第2段階が始まったわけですが、平成32年までの4年間に、被災地の健康管理に引き続き貢献していきたいと考えています。それから、ゲノム医療研究の基盤構築にも貢献したい。先ほどのジャポニカアレイを活用したゲノム解析を、15万人規模に広げてやっていきたいと考えています。さらに、8,000人ほどの高精度全ゲノム参照パネルも、御支援を頂いて是非作ってみたいと考えています。
 個別化医療・個別化予防の先導モデルの構築に関して、遺伝情報を医療の枠組みの中でどうやって回付できるかということのパイロット研究を現在実施しています。更にゲノム医療実現のための環境整備等への貢献をしていきたいと考えています。
 私からの御説明は以上です。

【中釜主査】 
 どうもありがとうございました。非常に大規模な計画だと思います。何か今の御発表に関して、御意見、御質問等ございますでしょうか。
 私から一つ。分譲のところで、試料に関しては枯渇する、そのため情報の分譲に今のところ重きを置いているということでした。情報においても、いわゆるローデータとプロセスのデータがあると思うのですが、今まで行っているという分譲は主にプロセスされたデータですか。

【山本委員】 
 そうですね。今はプロセスされたデータの分譲ですが、ただ、分譲できるもののリストの中には、個人のゲノムの上にプロットされている、いわゆるハプロタイプのゲノムの情報も入っていて、それも分譲できる体制になっています。1,000人分ですが、分譲できる体制になっています。

【中釜主査】 
 それから、このVPN回線の実際のキャパシティは、どの程度の情報量だったらリーズナブルに解析されるのですか。

【山本委員】 
 そこは、すごく核心的な質問です。全ゲノムのデータは非常に大きくて、1つが1テラバイトというようなデータです。恐らく回線を使って送るのは無理ですので、今、私どもがVPN回線でつないでいるのは、シンクライアントです。シンクライアントなので、プロセスや解析結果を画像データとして見ることができます。解析は私どものスパコンの上でお好みのソフトウェアを持ってきていただいても結構ですので、実施していただいて、解析結果だけを持って出ていただけるという設計です。VPNでシンクライアントですので、VPN程度のキャパシティでできるような、そんな仕組みを作り上げたということになります。

【中釜主査】 
 ほかに御質問ございますか。増井委員。

【増井副主査】 
 どうもありがとうございました。ジャポニカデータを使い始められてから、やはり実績が大分上がってきたのですが、すごく興味があるのは、これまで世界中で使われているコウケジアンのデータをベースにしたアレイデータとの比較対照性というのはどうでしょうか。

【山本委員】 
 それについて、私どももかなりやらせていただいたのですが、まず日本人のゲノムをインピュテーションという技術で復元する能力に関しては、今、世界で使われているイルミナ2.5というアレイが大きくて、私どものジャポニカアレイの大体4倍のサイズがあります。それを調べてみると、たくさんのプローブの中で日本人に存在するものというのは6割ぐらいしかありません。4割ぐらいは日本人には存在しないものが載っているという形になります。
 それから、インピュテーションするためには、タグSNPsというもので、高速道路に標識を立てていくように全ゲノム中にタグを立てていくわけですけれども、私どもは日本人ゲノムを詳細に解析して理解しているので、非常にいい間隔に立てているので、それで4倍亮のイルミナアレイと大体私どものものは遜色ないというか、私どもの方が少しすぐれているような成績が出ています。日本でやるのであれば、ジャポニカアレイが使い勝手がいいアレイだろうと考えています。
 それから、先ほど申し上げたゲノプラ支援センターで、ジャポニカアレイに関しては私どものゲノムリファレンスデータでインピュテーションサービスを実施する予定です。非常に性能のいいインピュテーションができると考えています。

【中釜主査】 
 ほかにございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、次の議題に進みます。議題2は、研究基盤としてのオーダーメイド医療の実現プログラムの取組についてですが、これについて村上所長の方から御発表をお願いいたします。
 また、本検討会では、今年度で終了を迎える本事業で構築してきた研究基盤の有効活用の在り方についても検討することになっておりますので、よろしくお願いいたします。

【村上所長】 
 東京大学医科学研究所の村上と申します。本日は、バイオバンク・ジャパンの取組についてお話しさせていただきます。このような機会を頂きまして、どうもありがとうございます。
 御承知のとおり、バイオバンク・ジャパンは、平成15年(2003年)にスタートして、5年計画が3回続きまして、今年が第3期の最後になるという状況です。
 最初の5年間は、第1コホートとして、47疾患、20万人のDNA、血清を収集しました。第2期には、その血清、あるいは臨床情報の収集を続けるとともに、試料配布、生存調査のフォローアップをしております。第3期は、この試料配布、フォローアップを続けるとともに、新たに38疾患、6万人の第2コホートを立ち上げて、これを収集しております。
 と同時に、2015年からは、臨床研究グループである日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、小児腫瘍研究グループ(JCCG)、それから国立病院機構(NHO)の臨床研究グループと組みまして、DNA、血しょう、臨床情報だけではなく、がん組織を集めるという連携研究を開始しております。
 特徴としましては、先ほども紹介の中にありましたけれども、世界最大級、しかも、長期間追跡中の疾患コホートであるということで、疾患研究には一番出口に近い非常に重要な国の宝でございます。また、多因子疾患を対象の中心にしていますので、基本的に時間の掛かる疾患研究ですが、通常診療を基盤として収集してきました。それから、開始が2003年からということで、日本のゲノム研究、バイオバンク自体をけん引してきたという実績があります。そのために試料、臨床情報の収集、管理、配布に係る技術や実績、またその過程における多数の疾患研究者との強い連携が、我々の宝です。
 概要あるいは目的としましては、疾患の発症・重症化、あるいは薬剤応答あるいは副作用に関連するような遺伝要因の解明、それから、環境因子を加えまして、予防に資する基本情報を収集するということです。対象者は、図に示す12医療機関の患者、並びに先ほど御紹介した臨床研究グループの参加者です。
 この表が第1コホート、第2コホート、併せて51疾患の25万人の内訳でございます。12医療機関というのは、ここに書きました医療機関ですけれども、実際の施設は、現在、全国53施設に及んでおります。全国規模で、日本全国から試料を収集しており、地域の偏りがないということも非常に高く評価されている一つのポイントです。症例はここにお示ししたとおりです。
 患者数は25万人ですが、一人が複数の疾患に罹患(りかん)することがあるので、症例としては42万症例集まっております。
 それから、2年前にスタートしたJCOG、JCCG、NHOの臨床研究グループからの試料収集の実態を表にお示ししました。バイオバンクはこれらの試料と臨床情報を収集して、管理して、しかも、配布する機能を果たすわけですが、そのバイオバンク部門は、東京大学医科学研究所にありまして、DNAバンクあるいは血しょう、血清バンク、それから、2015年からは組織バンクを措置していただきまして、これを運用しております。
 一方、ゲノム解析部門は、今まではオーダーメイド医療の実現プログラムとして、ここで一貫的に解析することを主に行ってきました。理化学研究所が主でありますけれども、東大医科研もこれに協力して、解析を行ってきました。
 さて、使われるバンクの視点からは、登録した試料の収集の実態が非常に重要になってきますので、ここに試料収集の実態をまとめました。我々が非常に誇りを持っておりますのは、日本のゲノム医科学を先導してきたランナーとして、今までいろいろな状況に遭ってきた中で、例えばELSIの問題では、企業利用のICを取得済みである、それから、ヒトゲノムの指針や臨床研究指針に合致した同意を得ているというように、非常に重要なポイントを押さえていることだと思います。
 また、冷却媒体として液体窒素を使っておりますので、これも当初は想定しておりませんでしたけれども、巨大地震があった場合にも1か月間低温保存が可能であるというのは、このタンクの非常に重要な特長かと思います。サンプルに関しましては、搬送等は4度、あるいはドライアイスで行っており、したがって非常に高い品質であることは後で御説明いたします。ただ、スタートが2003年ですので、採血時間とか温度だとかの情報を個々に記載するという体制は取っておりません。しかし、病院で経験を積んだ通常診療の中で行われており、一定のレベルで収集されているということです。
 また、電子カルテ接続については、全体で53施設、25万人、42万症例ありますので、その臨床データを今後もフォローアップしていくためには、電子カルテから必要な情報を取得するというシステムの構築が必要です。これは現在、検討中ですけれども、東大医科研にそういうシステム、あるいはサーバーを置いて、各医療機関にも措置することにより、非常に安価に症例の追跡調査が継続できることを御提案方々御報告申し上げます。
 バイオバンク・ジャパンの各課題の取組について御説明いたします。まずELSIですけれども、今までゲノム医療がなかった日本に新たにELSIの領域を切り開いたということで、時代、時代に応じた、ゲノム医療に対する信頼感、あるいは不信感など様々な影響を受けて、進化してきました。その対応を御紹介しますと、企業による利用を含めた広範囲の同意を取得しています。また、データ利用の案内を強化しています。さらに、ELSI検討委員会を立ち上げて、日本のゲノム医療のELSIの部分をずっと先導してやってきました。
 また、インフォームド・コンセント等を取る必要がありまして、これは各病院にあるメディカルコーディネーター(MC)が担当するわけですけれども、これを育成してきました。MCというのは、看護師、薬剤師、あるいは臨床検査技師等の医療の有資格者をトレーニングして育成するわけで、そのトレーニングの中核として今まで大きな役割を果たしてまいりました。また、今年の5月30日の改正倫理指針施行に向けての対応も既に進んでおります。
 次に、臨床情報に関する取組を紹介いたします。BBJの臨床情報をお使いいただく中で、様々なコメントを頂いておるわけですけれども、実際の臨床情報、入力のシステムを図に示します。まず、疾患項目がありまして、その検査、治療に関するデータがあり、それから、各疾患に関わらず共通の項目と、疾患ごとに特異的な臨床的項目が加えられております。このような項目は、全部で1万3,000項目に及んでおります。これらの項目は、プロジェクトの立ち上げのときに12医療機関、並びに医科研、理研の中の各疾患の専門家が監修しました。専門家と申しますのは、各医療機関に所属する各疾患の専門医を中心として、MD出身である医科研や理研のゲノム医療専門の研究者も加わって作成しました。
 当初は初めての経験でしたので、総数13,000項目と、非常に数多くなりましたが、入力率50%以上、あるいは臨床的に重要な項目、例えばがんにおける組織型などを選んで、クリーニングを実施しております。
 具体的に申しますと、この図が臨床情報項目の全体像です。全ての疾患で入力対象となる基本項目として、基本情報と共通分類のファイルがありまして、それぞれ喫煙、飲酒だとか、こちらでは食習慣、あるいは既往歴、家族歴が入力されております。全ての疾患で入力対象となる項目としては、さらに、処方の情報、副作用の情報が入っております。
 一方、各疾患にそれぞれ特異的な項目、例えば腫瘍ごと、あるいは疾患ごとの特異的な情報があって、それぞれに付随した検査結果の情報、例えば腫瘍の場合には腫瘍マーカーの検査結果が入っている、といった作り付けになっております。
 疾患ごとの項目数は、疾患によって当然異なるわけで、ここに項目数をまとめております。がんの場合には項目数がかなり多く、例えば膵(すい)がんでは88項目あります。
 これを入力率で見ますと、全共通項目の入力率はほぼ100%です。疾患特異的な項目では、100%に近いものがあり、かなり高いものもある一方で、悪性腫瘍特異的項目の入力率は低めに出ています。これらを含めて、合計5,837項目のクリーニングを終えて、使うことができる状況にあります。
 次に、個々の症例における、実際の臨床情報の入力の流れを御説明いたします。プログラム開始から15年と申しますと、半世代に相当し、長い時間経過です。例えば、初回に肝硬変で登録された方は、このような初回データをまず入力する。それから、どの疾患でも共通の項目として、処方データや副作用、検査データが入ります。それから、各疾患すなわち、肝硬変に特異的な生化学検査とかが入ってくるわけです。この患者さんを1年置きにフォローして、2回目以降は、新しいデータをMCがカルテから取得して入力していくわけです。
 ところが、15年という長い経過の中では、肝硬変だけではなくて、途中で新たな疾患が加わってくる。これがかなりの数に上ります。先ほども山本先生が御紹介になりましたけれども、フォローアップ途中で追加の疾患が出てくることは非常に貴重な例になるわけです。例えば結腸・直腸がんが途中で発症した場合には、その事項。それから、結腸・直腸がんに関連する疾患特異的な項目が追加されます。それらの入力はMCによって実施されます。当初、12医療機関は紙カルテでしたけれども、現在は電子カルテが大部分導入されていることから、電子カルテの情報もMCが入力します。それから、MCの役割として、患者さんから直接、生活習慣を聞き取ることがありまして、それを入力システムに転記していくわけです。
 第1コホートでは、最初の経験でしたので、かなりクリーニングに苦労いたしました。その経験を生かして、第2コホートでは、例えばシステムに入力制限を加えて、2桁以上は入らないだとか、数字以外は入らないだとかの制限を付けることにより非常にうまく入力ミスを回避するシステムを導入しております。ですので、第2コホートは今年度中に終了いたしますけれども、そのクリーニングは迅速にできるものと期待しております。
 それから、我々のバンクがもう一つ、非常に誇りを持って御報告申し上げられるのは、その追跡率が極めて高いということです。既にもう15年になんなんとするプロジェクトですが、その追跡率が極めて高く、これは第2回の生存調査、10年ほど経過した段階ですけれども、14万人からスタートしまして、まず来院調査を行う。そして、来院しなくなった方については、住民票調査を行います。住民票調査を行って、死亡等が明らかになった場合には、最終的に厚生労働省の人口動態調査と突合することによって死因を確定するという、3段階の調査を行っております。その結果、生存者が9万8,000人、死亡者が3万5,000人といった数字が出てくるわけです。
 そして、追跡拒否例を除く総数を分母として、生存者数プラス死亡者数を割ったもの、すなわち追跡率は実に95.3%ということで、これは国内外のどのバンクと比べても非常に高い値で、正に、システムの隅々まで非常に高い技術と、熱い情熱に支えられて、今までやってきていることを物語るものとして御報告申し上げたいと思います。現在、第4回の生存調査実施中ですけれども、これは年度内に終了する予定です。
 臨床情報については以上ですが、バンクにとってもう一つ重要なのは、生体試料です。まずその試料の品質について、バイオバンク・ジャパンは、基本的にゲノム医科学を進めてきましたので、まずその中心となるゲノムDNAの品質に関して述べますと、これはもう結論から言って、申し分ありません。お示しするのはGWASデータの結果です。3回にわたって、進化したプラットフォームを用いて、それぞれ解析した18万7,000例において、不成功率がたった1.4%であり、非常にリーズナブルな値でありまして、品質が非常に高くて、解析が十分可能であるということがわかります。また、データを示しませんけれども、全ゲノムシークエンスにおいても、品質の高さが証明されております。
 次に、血清の方はどうかというと、まずメタボローム解析等を、慶應義塾大学の加部先生との共同研究で、つまり外部の方に使っていただいて、その品質評価をしていただいたわけです。結果的に、BBJ血清を用いまして、メタボロミクスあるいはエキソソーム、異常糖鎖、チオール修飾解析等を対象として、疾患バイオマーカーの検索が可能であったという報告が既に論文化されております。10疾患500検体以上を用いています。具体的にはメタボロームに関しましては、代謝分子マーカーの組合せによる新しい診断法が確立されました。エキソソームに関しましても、乳がんで新しい技術を構築しております。あるいはレクチンアレイ、これは糖鎖ですけれども、リウマチ疾患に応用すると、重症度判定ができる異常糖鎖が検出できたということで、これはオーダーメイド医療の正に出口に直結する成果です。これからはもう臨床研究に進んでいけるという成果だと思いますし、これが外部の方によって、比較的公平、公正に行われて評価を受けているということは、我々としても大変喜ばしいことです。
 続いて、プロテオーム解析は可能かということです。血しょう、血清中のタンパク質の安定性は、採血から保存までの時間や保存条件に依存しますが、一般に安定なもの、それから、不安定なものがありますので、一概にこれはいいサンプルか、悪いサンプルかというのは余り科学的な捉え方ではありません。非常に安定性の高いものならば測定可能なのか、あるいは安定性の比較的低いものも測れるような品質かどうかということを、十分に検証する必要があるわけです。
 先ほども申しましたとおり、15年前のBBJで採血時の温度条件等を全て記載するというレベルには達しておりませんでしたので、そのデータの記録はないわけです。しかし、サンプルは非常に貴重だということで、採血や保存などの経過によらず、今これから使おうとするサンプルの品質がどうかということを検出できる方法があればいいということです。そこで、昨年の調整費の支援を受けまして、日本プロテオーム学会との共同で解析してまいりました。
 その結果、同一タンパク質を消化した場合に安定なペプチド領域と不安定なペプチド領域の2つに分かれることがあることに基づいて、両者の比較から、現在までの保存状態が推定可能だということを明らかにしております。これは今、特許出願準備中です。
 例えば、図に示しますのは、同一タンパク質からトリプシンで分解したペプチド断片のサンプルです。その中には非常に安定で、6時間たっても量が減らないものと、室温6時間でこのように量が低下してしまうものがあります。これらの比率をうまく検出することによって、採血から冷凍保存を含み、解析直前までの保存状態の全体が評価できるという、非常に優れたシステムを開発しました。これを直ちに活用しようと考えております。
 さらに、2015年からは組織を集め始めましたので、日本病理学会と協働で、病理検体の品質管理にも取り組んできました。病理学会が非常に大きな貢献をしてくださいまして、組織病理取扱い規程を共同で策定しました。これは非常にすぐれたものです。それから、病理標準化センターも設置することができました。そして、東京、福岡、大阪で、2年間に9回、組織病理品質管理研修の講習会を開いて、合計679名が受講しました。これは今後も必要性の高い活動です。
 最後に、試料配布、あるいはデータ公開に関しても御説明いたします。試料配布は2005年から続けております。その全体像を示したものがこの図です。まず、申請者の方々と事前に協議して、特に相手が臨床の先生方の場合には、ゲノム解析の細かいところの御説明から始めて、研究デザインについて確認し、しかも、このサービスを無償で提供していることが、まず我々の非常に大きな特徴です。
 この事前確認を経て、申請に至りますと、申請から承認までは、我々BBJ側の試料配布委員会で、科学的妥当性に基づいて審査等が行われますけれども、1か月から2か月程度で終了します。試料配布委員会では、今までほぼ全てについて承認しておりますが、修正を勧告したにもかかわらず再提出されなかった計画が少しありますので、承認率は96%です。
 一度、研究計画が承認されますと、次に相手機関との契約を結ぶわけですが、この課程は相手機関の対応に応じて結構時間が掛かる場合もあり、長い場合には、4か月程度掛かった例もありますが、全体のシステムとしては最短の時間で進むように工夫しております。配布の内容については、当初は試料と臨床情報のみを考えておりました。最近では、試料をゲノムデータに変えて、ゲノムデータを配布するということが可能となり、我々もこのGWASのデータを今年度中に公開することができるところまで達したことを御報告申し上げます。
 次の図で、外部への試料配布の状況をまとめました。DNAは主に関連遺伝子の解析という課題で配布しております。一方、血清は主に診断薬、あるいは疾患マーカーの探索研究において利用されていますが、共にこのように順調に配布数が伸びています。
 また、配布の内訳を見ますと、47疾患全てについてニーズがあることがわかります。また、配布件数、実際の配布サンプル数をまとめておりますが、サンプル数も多くて、ニーズの高いものもあり、様々ですけれども、全症例について配布が要求され、配布済みであります。
 DNAと血清を併せた配布済みサンプル数は、全体の20万人の13.2%に当たります。この値が高いか、低いかの評価に関して、欧州バイオバンクの利用率である平均7%と比較すると、大きく上回る結果ではないかと思います。さらに、今後は試料をデータに換えることによって、更に利用率が飛躍的に向上するものと考えております。なお、7%という数字は、欧州バイオバンクのプレジデントのDr. Littonが来日したときに発表した数字で、今、裏を取っておりますので、パーソナルコミュニケーションとして用いさせていただきます。
 今後、BBJを用いた解析を行う際に手助けになるのは、保有試料の検索システムです。これは今後8月公開を目指して整備しているバイオバンク・ジャパンのシステムですが、このようなホームページから入りまして、ここの試料検索をクリックすると、図のような画面が出てきます。例えば40代から60代までにチェックして、脳梗塞で、しかも、高脂血症が重なった人を調べたいと思ってクリックしますと、こういう画面が出てきて、脳梗塞の中でも細分化して選択できるようになっており、このラクナ梗塞に注目して調べたい場合にそこをクリックすると、40代から60代の年齢層のラクナ梗塞は875症例、高脂血症は1万6,000症例という数字が出てきて、両者重なっているものは278例ありますということが出てまいります。これは、極めてユーザーフレンドリーなシステムだと思っておりますので、8月公開を目指して、今、整備中です。
 一方、ゲノムデータについては、個人情報保護の観点もあり、このシステムでは、今のところ8月公開の予定はありませんが、これも文部科学省、AMEDの御指導の下に、今後加えていきたいと考えております。
 最後に、ゲノムデータに関しましては、先ほど申しました個人情報保護に留意する必要がありますが、データ公開に関して、今のところはNBDCを通じて、BBJのデータを公開しております。これは2014年9月から開始しており、AMEDに移管されてから、更に加速するように頑張っております。
 内容はといいますと、20万症例中17万症例の、最新の3つのプラットフォームで行った90万SNP、47疾患についてのデータを全て公開いたします。それから、全ゲノムシークエンスデータは5疾患、すなわち心筋梗塞、薬疹(やくしん)、大腸がん、乳がん、前立腺がんですが、計1,000例について公開予定です。
 公開方法は、もちろん3つの段階に分けまして、これは飽くまでも我々の案ですが、非制限公開においてはSNPの頻度情報、制限公開では個人のシークエンス情報、あるいはSNP情報と年齢、性別を付けます。制限共有になりますと、共同研究ベースになりますので、個々人のSNPデータ、臨床データともにその研究に必要なデータを全て供給するという形で、お互いが知恵を出し合って項目を決めて、使える形にしたいと考えております。
 以上の対応によって、公開可能というか、公開予定の情報が、第1コホートの17万人、29万症例ありまして、ここにお示ししました。これは疾患によっては、日本全体の症例数の1%から2%に当たるような蓄積データを公開できることになります。これが15年掛けてサポートいただいた、もう一つの大きな成果でございます。
 以上、今までの取組をまとめますと、BBJは2003年以来、51疾患、26万人、42万人症例を収集、解析、配布する世界最大級の疾患バイオバンクとして、日本のゲノム研究、バイオバンクをリードしてきました。ELSIでも率先して、この領域をひらいてきましたし、倫理指針の対応も率先して行っております。臨床情報は5,800項目がクリーニング済みで、平均追跡率が実に95%、それから、平均10年に及ぶ追跡経過を持つということで、非常に貴重な資源です。また、DNA、血清、その他におきましても、ゲノム解析を始め、様々な解析が可能であること、それから、データ公開に関しましては、17万人、29万症例について90万SNPのデータを今年度中に公開する予定であり、また、実際の試料の配布実績も13%に当たり、更なる利活用を試料として、あるいは情報として行いたいと考えております。
 長くなりましたけれども、以上です。

【中釜主査】 
 ありがとうございました。それでは、御質問、御意見等ありましたらお願いいたします。
 では、私から2点お伺いします。まず、この非常に膨大な疾患コホートを、日本をリードする形で作り上げてこられて、その品質もDNA等に関しては高いものを維持しているということでした。冒頭にこのバンクがそもそも多因子の疾患を主にフォーカスしたとおっしゃったのですが、例えばアレルという観点からいった場合に、コモンアレル、あるいはレアアリル、両方あると思うのですが、それは両方とも十分に解析可能だと考えていいのですか。

【村上所長】 
 スタートのときには、基本的にはコモンバリアント、コモンディジーズ説の検証が第一の目的でありましたので、90万SNPsで、更に細かく検討しました。現在は、全ゲノムシークエンスをすることによって、レアバリアントに対しても検証することが可能であるということですので、目的も時代とともに変動しております。つまり、15年前の大きな疑問はコモンバリアントについて、どの程度疾患との関連が示せるかということでしたけれども、その後、現在の世界的な動向として、ミッシングヘリタビリティの克服という課題が出てきていますので、そこを把握するためには、今後はやはりシークエンスレベルでの情報が必要と考えております。

【中釜主査】 
 実際にはレアアレルのケースコントロールの比較をすることによって、先ほどの症例の数があれば、クリニカルな意義についてはある程度評価できるかなと思いますが、いかがでしょうか。

【村上所長】
 評価できますが、更に症例を増やした方がいいとは思っております。一定の評価はもちろん可能でございます。

【中釜主査】
 第2コホートはその辺を意識してスタートしたと理解してよろしいのですか。

【村上所長】
 はい。サンプル選択についても、第1コホートで、どうしても集まりにくいものは断念し、時代の要請に応じて精神神経疾患を加えるなど、調整しながら新たな項目を加えています。

【中釜主査】
 2点目は、情報・試料の分譲についてです。試料分譲の場合は、いわゆる試料なのか、情報なのかということで、先ほどの東北メディカルの場合には、現状は主に情報で、プロセスされたものがメインで、今後はそのローデータの順であったかと思います。まずそのGWASのデータに関してかなり強調しておっしゃっていましたが、今後、そのSNPsデータを公開するということは非常に大きいと思います。ただ、臨床情報が伴ってくるものに関してはかなり制限共有で共同研究ベースなので、そのアクセシビリティのところが問題になるかと思うのですが、その辺はどのように考えますか。

【村上所長】
 もちろんアクセシビリティを良くし、情報を全てオープンにする方向で検討しています。ただし、個人情報ですので、例えばレセプト情報や検査の情報、例えばHIV感染の有無など、感染に関する情報だとか、レセプトの中でも、例えばアルツハイマーの薬であるアリセプトを飲んでいるだとかの情報は、かなり重要な個人情報ですので、全てオープンにする情報の中にそういった情報が入っていると、制限共有であっても、望ましくないだろうと考えて、共同研究者の間で話し合うことによって、想定外の、学問的な成果に関わらない情報で、むしろ危険というか、慎重に対応することが必要な情報に対しては外していこうという、そういう戦略です。

【中釜主査】
 最後の点は非常に重要だと思うのですが、やはりニーズによって求める情報というのはきっと異なってくると思います。そうすると、もともとの電子カルテからの情報、あるいはその追跡で、どのくらいそこがカバーできるかは今、恐らく構築中あるいは検討中だと思うのですが、そこが恐らく共同研究のスピード感にも影響すると思います。そのあたりはどうですか。

【村上所長】
 当初は紙カルテから情報収集をしてきたので、古い情報に関しては、ある程度制限はあります。しかし、先ほども軽く説明しましたけれども、電子カルテから対応する情報をセキュリティの下にピックアップすることができるという、システムを使うというのが一つの方針です。
 それから、もう一つはやはり頭を使うというか、それぞれの疾患の専門の研究者ともっともっと連携することによって、例えば試料を集める段階から、専門家の方々に十分に加わっていただくことによって、より質の高いサンプルを有するバンクを作りたいと考えています。
 これに関しましては、BBJはコモンディジーズというか、多因子疾患を中心にしておりますので、今も関係する方々と幾つか話合いを持っております。幾つかの学会、例えば糖尿病学会、腎臓学会、あるいはリウマチ学会等では、先述した高層に対して、非常に強い賛同を得ておりますので、そういった専門の先生方にも加わっていただいて、日本でこれ以上はないという疾患バンクに進化させたいと考えております。

【中釜主査】
 はい。そのほか御質問ございますか。はい。増井委員。

【増井副主査】
 本当に、ゲノムコホートではなくて、疾患コホートとして育ってきたのだなというのを実感させていただきまして、ありがとうございます。と申しますのは、この始まった時期、日本のゲノム研究は、1年か1年半ぐらい世界よりも早くいろいろなことが進んでしまって、それがかえってマイナスに働いたというようなところがありますので、それを取り返したと言うことと理解しました。2003年、よく考えてみると、個人情報保護法の最初の案が5月に通ったわけです。その議論がその数年前から続いていて、いろいろな勉強会があったのを思い出したりもします。かつ、2003年の6月ですか、熊野町の事件が起きたりして、本当にゲノム研究者と疫学者がぎくしゃくしていた時期でもあったわけです。そういう始まりがあったということから言うと、本当にここまで来たのだなと感じています。
 データベースのお話をされましたけれども、今年の3月にUKのバイオバンクの話を聞きに行って、研究者が妄想できる、いろいろな言葉を入れて検索をして、例えばどういう年齢分布がある、どういう疾患分布があるとか、何があるとか、どの地域のサンプルがあるとかいうような、そういう漠としたことを大ざっぱにでも引けるデータベースがあるということが、やはり非常に大きな利用の促進につながっていることだと感じました。そういう意味では、そちらの方向に今、かじを取られているということで、楽しみにしています。もう1点は、やはり医療情報を使わせていただくという形で同意を得ているわけで、その中に例えば新しい情報として、病理標本はカルテの一部という解釈を使って、病理組織の情報などが入っていく。UKバイオバンクでは正にそれを今考え始めており、今年度中ぐらいには大体決着が付くのではないかという話をしていました。
 そんなことがあるので、やはりゲノムとカルテとのリンクという話が出て、それはすごく大きなことだと思うのですが、と同時に、もう一つキーポイントになる情報をどう入れていくかという点。それは、出す医療機関側の準備も、受け取るバイオバンク側の準備も必要なので、そう簡単な話ではないのですけれども、病理画像共有に関しては病理学会も動いてらっしゃるので、それとの連携という形もできる部分があるのではないかとも考えます。

【村上所長】
 ええ。ありがとうございます。全項目、最初にスタートしたときは、各専門家が、これも、これもと思いの限り盛り込んで、1万3,000という項目数になりました。ただ、個別に見ると、カルテから細かい情報を専門医でもない人が集めてくるので、実際、限界もあったと判断される部分があります。例えば、悪性腫瘍においては疾患特異的な項目の入力率が若干低い。ただ、それではどういう項目が低いかというと、むしろ腫瘍のステージだとか、体細胞変異の詳細に関わるもので、BBJの主たる目的であるがんになりやすさ、なりにくさという研究デザインに対しては、基本的には余り関係ない部分だと思います。ただ、2015年からは病理組織の収集、解析も加わりましたので、最近では、JCOG、JCCGとの連携研究においては、上記の項目が非常に重要になっています。
 更に項目によっては、MCではなく、ドクターに入れていただくとか、自動的に電子カルテからピックアップするシステムを考えるとか、そのシステムが第一だと認識しています。もちろん、項目を選定することも重要です。先ほど申し上げましたように、糖尿病をはじめとする学会、それから、病理においても病理学会と提携して、日本の最高レベルでバンクとシステムを作りたいと思います。新たに構築して変更していくという形にしております。
 それから、データからピックアップするシステムというのは、どうしてもセキュリティが大きな問題になります。この点に関しては、研究用のそういうシステムは世界的にそれほど多くないのですが、病院経営を主眼とするようなシステムから派生した管理システムは世界中で相当使われています。病院のデータを集めるわけなので、もともとセキュリティの非常に高いものですから、そういうシステムを流用するというか、既存のものをベースに、新たなシステムを構築していくこと、あるいは、既に出来上がっているシステムを利用していくことは可能です。これによって、まずはユーザーフレンドリーで、研究者がふと興味を持って、一日中様々な項目を入れてみて、新たな知の成果が出てくるような検索システムができれば、臨床家にも、研究者の側にも喜ばれるのではないかと非常に期待しております。

【中釜主査】
 そのほか御質問ありますか。
 私から1点だけ。後の議論になるかもしれませんけど、今、各学会との連携とおっしゃったのですが、そうすると、いわゆる疾患レジストリというところとの連携、あるいはそのすみ分けのところがある意味、重要だと思います。そのあたりはどのようにお考えですか。

【村上所長】
 そうですね。学会との連携は、賛同は得ていますけれども、まだ合意に達しているわけではないので、私は細かいことを言う立場にはありませんが、御指摘のように、学会で進んでいることはレジストリです。サンプルを全部集めているという学会はなかなかないが、レジストリをベースにしてサンプルを集めることはできるという段階です。であれば、このバンク側のアプローチと、学会側のアプローチ、更に言えば、それによって利益を得る企業側からの何かサポートというようなことも含めて、理想的なコンソーシアムができるのではないかということになり、今、水面下で動いているところです。

【中釜主査】
 はい。ほかによろしいでしょうか。この件についてはまた後ほど恐らく論点になろうかと思います。
 では、続きまして、議題の3番目です。研究基盤としてのクリニカルバイオバンクの取組について、狩野委員の方から御説明をお願いいたします。

【狩野委員】
 岡山大学におります狩野でございます。もしかすると私の発表内容は少し今までのお話とコンテクストが違うかもしれないので、先にそれをしゃべる人間のコンテクストを申し上げます。私は、内科系医療の後に、がんの研究をやって、しかしながら、それと並行して、日本学術会議の若手アカデミーであるとか、それから、総合科学技術会議だったときのライフイノベーション戦略協議会というのに出させていただいていたりしました。特に後者を通じて、一般的に研究者としての解析とか真理探究という視点のほかに、この財政状況などもいろいろ考えますと、社会貢献であるとか社会課題の解決というところも徐々に学術界としてはバランスを高めていかざるを得ない時代だなというふうに思って、お話をいたします。
 今日は、検討会の名前が、バイオバンクというよりかはゲノム医療実現のための研究基盤の充実・強化に関する検討会ということなので、そのような背景で話をさせていただきます。
 この意味で、はじめに、社会の中で本取組は一体どういう位置付けにあるのかを考えてみます。今まで「バイオバンク」という語には、いろいろな定義があったと思います。私がお話しする内容というのは、少なくともゲノム医療実現のための研究基盤にはヒトの「生体試料を活用する制度」はきっと必要だろう、その中でも、各診療機関に患者さんがおられますので、そこから来る生体試料を活用するということはやはり必要だろう、と考えてのお話になります。それを称して、クリニカルバイオバンクと呼んでいます。ですので、もしお考えの定義と違いがありましたらそこは御容赦いただきたいと思います。
 その、診療機関に併設することの一つの意義といたしましては、臨床情報との緊密なひも付けが可能であるというところはあると考えております。また、社会といいましても、たくさんの方がおられます。その中で、どなたが対象かと思いますと、一つは、もちろん患者・家族の方々です。その中でも急ぎの対応が必要になる疾患であるがん、そこで診療しないと亡くなってしまうような方にはどうすればいいか、それに対する研究はどういうことができるかということが一つです。もう一つ、検体を依頼する先が海外のバンクでいいのですか、ということでは、日本に存在する、日本人の方を対象にした取組はやはり必要だろうということがあります。
 また、医療者の中でも、純粋に診療をしている方々がもちろんそのような用途に使いたいということがおありかもしれません。こうした医療者の方々が研究的な取組をされる際にどんな情報が要るかということは、一つ重要だと思っております。
 次に、研究開発そのものを仕事にしているアカデミア、あるいは企業の方々というところが我々の取組の主な対象ではないかと思います。その中で、基礎の研究だけやっている方々、あるいは臨床の研究だけをやっている方々の間をつながないといけないということは散々お話があったところです。つまり、いわゆるトランスレーショナルなところです。そこをどのような研究基盤が支えることができるかということが極めて注目の対象と考えております。
 さて、それで、それに関連して、クリニカルバイオバンク研究会というものを、本学及び幾つかの大学の方々と御一緒にしているところではありますけれども、これはそういうことで、診療施設併設型の生体試料活用システムを普及したいという思いがあるのと、それにおいては、生体試料を活用するに当たって、やはり同じようなプロトコルで集めてこないと並行して活用していただきにくいということで、その処理方法、あるいは倫理申請の在り方を検討したいということがございました。そして、それらの機関をネットワーキングすることも考えております。やはり各診療施設だけですと、十分な数、あるいは種類がないこともありましょうから、ネットワーキングができないかということも考えているという活動でございます。
 ゲノム医療において、これも申すまでもないことですけれども、ゲノム医療の恩恵をより多くの国民の方々にもたらすためにどうしたらいいかと考えますと、治療法の開発がもちろん必要ですし、あるいは治療薬の効果、副作用を予測するバイオマーカーの発見も必要ということになります。この点にはどうしても臨床検体の必要があるだろうと考えております。
 特に日本人に対してということを思いますと、これも申すまでもない例だと思いますが、イレッサが入るときに日本人だからこそ起きてしまったいろいろな副作用がございましたので、その意味でもやはり日本人に対応した生体試料の活用システムが要るだろうということを考えております。
 さて、先ほど申し上げたトランスレーショナルリサーチということを思いますと、一体どのように何が必要かということなのですが、基礎研究においては、何かの仮説に対してたくさんの支持するデータがあることがひとつ重要でしょうし、一方で、臨床の方で試験・治験をやる場合にはヒトそのもの、患者さんそのものであるとか、検査薬の場合は、そこでもやはり多数の検体で検証するということが必要だと思います。けれども、その間をつなぐ研究のときはやはり探索的ですので、自分の仮説が本当に正しいのかどうかということを知るために、少数だけれども、自分の仮説の検証に必要な、結構条件の細かいサンプルが必要だろうということはやはり思うわけです。
 では、アカデミアからの需要がどのぐらいあったかというと、どうしてもアカデミアの研究は、このトランスレーショナルにまだ向かいきっていないということがあるのかと思われ、これまでのところ提供実績はありません。他方で、民間企業の方々におかれては、ここがつながらないと収益にならないということもおありだと思いますが、それなりのニーズが出てきている状況と理解しています。
 もしこのニーズを医療機関で受けたいと思ったときに、そうすると、今度は、診療科ごとの対応でいいのかというと、やはり科ごとを越えた連携が必要でしょう。であれば、診療機関併設型のメカニズムが要るだろうと思われるわけです。
 これはトランスレーショナルの方向でしたけれども、近年、リバーストランスレーショナルという言葉も出てきてまいりまして、これは臨床の方で見つけた問題点、あるいは課題、視点をバックトランスレーションしたいということなのですが、この場合もやはり各施設単位で、つまり、大きな臨床試験をデザインしたときに、それに対して、参加している各診療施設において、やはり生体材料から得られる情報も一緒にないと、十分な情報にならないということがあります。そうすると、各施設単位で、ある種、比較的少数の質の高い検体、あるいは多様な検体が必要だというような視点も出てきていると思います。ここもトランスレーショナル研究での必要とやはり重なります。ここは不足があるかというと、アカデミアはやはりここを担う研究者が少し不足気味かもしれませんし、民間企業の方々におかれては、ニーズがあったのだけれども、それに応えるような質の高い、あるいは多様な検体が十分でなかったということはあるかもしれません。
 以上、2つをまとめますと、どちら向きのトランスレーショナル研究においても、この間をつなぐところの活動において、探索的で、かつ、その探索的なときに必要な質の高さ、それから、いろいろなニーズがあるところに応えてくれる検体というのが不足していたのかもしれないということになります。ここが応えられるのが私どものところで進めているような取組なのではないかというように位置付けを考えております。
 次に、これにある程度応えようと思ってどんなものを作ったかということを共有いたします。本学においては、「コンパクトでフレキシブル」という言い方になっていますが、逆に言えば、大規模なデータは提供できませんけれども、お願いごとを頂いた際にはフレキシブルに動けるような採取・保管の在り方というものを検討してまいりました。これのことをオンデマンドと呼んでもいいかなと思っています。
 サイズとして、ここに書いてあるとおり、大した大きさではありませんし、先ほどからお話があったように、検体にひも付いた情報をあらかじめ準備しておくというほどのことはなかなかできにくいところもございます。ですけれども、検体を活用するためにはこういうメカニズムがあることが使いやすくなるのではないかという設計思想で回っているところです。
 それで、もう一つ本学における特徴かもしれないと思っておりますのは、いわゆるこのバイオバンクだけではなくて、AROと一緒に活動するという組織設計を考えている点です。AROと申しますのは、本学においては、新医療研究開発センターという名前ですけれども、そこで依頼研究者の方から、こんな研究したいのですが、というお話が来た場合に、そのAROとしてその研究プロトコルだとちょっと質が低いかもしれませんなどというようなフィードバックをすることができます。ですので、品質という意味では検体品質そのものだけじゃなくて、研究内容の品質管理や保証支援もAROとしてできるということがあります。それから、知財のマネジメントについても、そこと知財関連の部門をつなげてお話をしてあげたいということがございます。あるいはバイオバンクでの検体取扱い方法自体もAROとして提案するということができます。それによって総体としてこのトランスレーショナル研究の質が高まるように持っていけないかという取組、あるいはそのシステム作りを現在進めているところでございます。
 こうした組織構築を経て、アカデミア研究に対応して、岡山大学のこのバイオバンクというものがどうできるかというと、AROと連携をとることによって、もし活用されたい方がお越しになったら、うまく回るように作っているつもりでございます。しかしながら、現在のところ、アカデミアの方々からの依頼は残念ながらまだこれからで、多分それは先ほど申し上げたように、アカデミアの研究者でこのような間をつなぎたいという研究に余りまだ至っていないのかなというふうに勝手に思っています。そうでなくて、御依頼をお持ちの方々がおられる場合には、私どもの存在が知られていないということかもしれません。
 それから、リバース・トランスレーショナルリサーチの方もやはりそんなに、これを学内で作ったからすぐに皆様が分かっていただけるわけでもなくて、各診療科がそれぞれ受けておられるというような面はありますけれども、ここは是非これから伸ばしてまいりたいと思っております。
 企業の研究の方々ということで考えますと、比較的評判を頂戴しているようでございまして、今申し上げたシステムそのものが企業の研究の方々にも活用いただけるものだと思っております。実際に、製薬企業の方々から私どもの組織のサイズに比しては、多く利用いただいていると思っております。
 前回、アカデミア、製薬協、そして、臨薬協の方々からのニーズのお話がございました。その項目を勝手ながら少し抜き出して、それに対応して、本学のバイオバンクがどこまでやっているかということを示したのがこちらの図でございます。比較的○が付いておりますけれども、付いていないものの中で、健常者の検体は、多分我々の目的ではないので、対応は今後もできないでしょう。それから、保管検体の検索のところは、そういうシステムが作れていませんので、今のところは対応できません。遠隔データ利用もその意味でできません。これらは、しかしながら、もし可能であればそういうネットワークを整備したり、データベースをもし整備したりできれば、活用いただけるものになる可能性がございますので、今後検討はしてみたいと思います。
 また、追跡調査の点は、1人の患者さんから何検体も採っていくようなことはなかなか難しい状況にありますので、簡単には対応できないであろうということで考えております。
 オミックス解析はもともと情報を蓄積しているわけではありませんので、必要があった場合には対応できることもあるという程度のものでございます。
 これまでの提供実績ですが、まだ2年目なので、1年目は知っていただくのに努力が要りましたが、徐々に引き合いを頂いておりまして、現在は13件の実績があり、そのうち企業の方が半数強を占めております。
 次に、これまでの経験から、今後どういうふうにするのがいいだろうかという考えを申し上げます。まず私どもの取組と同様の生体試料活用システムはどのぐらい必要があるかということは、もうニーズによるとしか申し上げようがなくて、それが数を決めてしまうであろうと思います。
 このようなバイオバンクに求められる検体というものの特徴は、数が少ないということが一つですけど、もう一つは、しかしながら、細かい条件設定で依頼を頂くことが多いので、それに対応できることが必要だろうということになります。
 こういう生体試料利活用システムの位置付けということを考えますと、やはり先ほど申し上げたように、トランスレーショナルな研究を考えた場合の生体試料の活用を考えると、やはりこういった存在というのはあっても活用いただけるものではないかなと思っております。
 組織運営の面で申しますと、当然、簡単でないこともたくさんありまして、1つ目は、内部で標準化と効率化がまだ要ると思います。つまり、スタッフ間でそれが共有されるということが必要ですし、それから、関係する病院の方々ともこれが共有されることがないと、うまく回らないという点がございます。そういう意味で言うと、人材がなかなか得難いところだというように認識しております。とりわけ新しい活用法を必要とする御依頼があった場合に、病院内でそういう検体の採り方について毎回相談をして決めていかなければいけないという面がありまして、これの調整ができるような人材はなかなか得難いものだと思っています。
 先ほど少しお話がございましたけれども、情報システムの整備という点も今後これの活用を進めていただくには重要であろうというふうに思っておりまして、こちらの面は何らかの取組が今後更に必要だろうと思います。特に診療情報の二次利用を促進するために、現在のところ電子カルテになっていても余り検索性が豊かではありませんので、これを何とかつなげる努力が必要だろうというふうに思います。
 それから、基本的にはこの会議の目的はゲノム医療実現のための研究基盤の充実・強化ということなので、それのために必要なことを考えます。現在、サイズ規模で言いますと、全部でスタッフが10人弱ぐらいで回していますので、どうしても御依頼にお答えするまでの期間がそれなりにございまして、これが短縮できることが重要だと思います。さはさりながら、投資額との関係になりますので、その実現可能性については何とも言えません。ほかの医療施設、近隣の医療施設の生体試料も是非活用したいというふうには思いますけれども、これをどのようにつなげられるかも検討の余地があると思います。
 また、機関連携を進めたとして、機関と機関の物理的距離がありますと、その間を、クオリティを保ったまま検体を移管する、移送するような取組も今後は必要になると思いまして、このロジスティクスというものはこれからまだ発展の余地があるだろうと思います。
 加えて、先ほど申し上げたように、アカデミアでいまいち活用されていないということを考えますと、こういうものが存在するから、何か思い付かれて、ヒトの検体を少数でも使ってみたくなったらお声掛けくださいというようなことを、アカデミアにも少し広報して回らないといけないだろうと思っております。まずは足元の学内からでございます。もう一つ、新しいシーズを生み出し続けるために必要なこととあります。それをつなぐ組織的な支援体制ですね。これが一つ重要ということと、それから、研究の仮説というのは、我々のような試料を活用するためのシステムを作る人だけが思い付けるものではなくて、世の中のあちこちに思いもよらないような仮説がきっとありまして、その中の必要なものを育てていくという視点を考える必要があるでしょう。その意味では、先ほど申し上げたようなトランスレーショナルリサーチ、あるいはリバース・トランスレーショナルリサーチに資するような制度設計が要るだろうというふうに思っております。
 すてきそうなエンブレムを作ってみましたという宣伝だけ最後にさせていただきまして、終わりにします。ありがとうございました。

【中釜主査】
 ありがとうございました。それでは、ただいまの御発表に関して何か御質問、御意見ございましたらお願いいたします。先生、どうぞ。

【山本委員】
 村上先生のお話と狩野先生のお話を聞くと、2つの典型的なケースが見えて、村上先生のやられてきたBBJは中央集権型で一つのガバナンスをやるという形で、狩野先生が御提案されているものは、恐らく理想形になると連邦型で、いろいろなところにクリニカルバイオバンクがあるというような形になるのかなと、間違っているかもしれませんけど、そういうふうに思いました。
 やはり先生がお話になっているような中核的な、本当に大きな日本を代表するような病院群にクリニカルバイオバンクを併設していくことというのは、それは日本のアカデミアからメディカル、臨床研究、クリニカルな研究、ベーシックな研究もあわせて、研究の活性化に大きくつながることではないかと思うのです。そこで私がお伺いしたいのは、いろいろなことをお話になっていたのですが、先生はこれが、例えば岡山大学病院や東京大学病院のような大きな中核的な病院のリサーチ、クリニカルリサーチの活性化を通して、日本のメディカルサイエンス、クリニカルサイエンス、更に臨床医療にどれくらいのインパクトを与えるのでしょうか。病院がクリニカルバイオバンクを持って、それが適正に運営されていくとしたら、どのようなインパクトがあるのか、そのあたりを教えていただけますか。

【狩野委員】
 ありがとうございます。どこまでさかのぼってお話を、お答えをするのがいいか分からないのですが、最近、教育をするときに、医学がどれぐらい視点の変化によって同じものを見ていても違う成果をもたらしてきたかというようなことをお話ししていまして、例えば細胞病理学説ができる前の医学というのは、細胞というものは余り注目していない、そういう捉え方をしてきたわけですけれども、細胞病理学説ができてから、病気の原因というのは細胞にあるということになって、急に皆細胞に注目するようになったわけです。
 したがって、細胞を何とかしなきゃいけないということになって、その細胞自体を採ってくればいいというスタンスになったと思っておりますけれども、その結果、どこまで解決できたかというと、まだ解決できないたくさんの疾患があると思います。やはり大元であるところのヒトそのものから来た検体を活用して、何か新しい見方ができたときに、それを用いた上で、この見方が本当に正しいのかということを確認していくという作業は、きっとこれからの医療研究で重要なのではないかと思います。この観点からは、今、先生に頂いたようなコメントは資するものというふうにお答えしたいと思います。他方で、そのようなマインドセットに関係の皆様がなっていくことも並行して必要であるというふうに思いまして、そこの点も極めて、共に重要であるというふうに思っております。

【山本委員】
 もう一点だけよろしいでしょうか。

【狩野委員】
 はい。

【山本委員】
 根源的に考えると、結局、中央集権型にはメリットもありデメリットもある、連邦型にもメリットとデメリットがあるように思うのですが、先生はこの連邦型の方のメリットのうち、どのあたりを一番強烈に押されるのでしょうか。

【狩野委員】
 ありがとうございます。やはり研究を進める際に、それぞれの研究者が持っているアイデアというものが重要だという視点がきっとあると思うのですが、その個々の研究者が持つ視点に応えやすいのは、私どものような形の可能性があるというようには思っております。個々の仮説形成を支援するということはもちろん、いいことも悪いこともあると思っていまして、最終的には検証し得ないような、とんでもないアイデアもあるでしょうし、しかしその一方では、実はその中に光るものもあるのでしょうし、両方を高める可能性があります。例えば、錬金術が、結局は化学の進展に寄与したように、です。いわゆるイノベーションというのは、まだ誰も思い付いてないものを考えるという意味で言えば、個々の仮説形成を支援していくような在り方もあってもいいかなというふうに思っております。

【中釜主査】
 ありがとうございます。では、村上先生。

【村上所長】
 私が発言すべき立場ではないのかもしれないのですが、中央集権型というお墨付きは、誤解を招くのでコメントさせていただきます。確かに、バイオバンク・ジャパンとクリニカルバイオバンクとは全く違うパターンだと思います。ただ、バイオバンク・ジャパン自体は、全国53病院からなり、全国津々浦々、島々の病院も含めてのネットワークです。ですから、95.3%の追跡率が、全組織の隅々までの情熱の成果と、先ほどあえて申し上げましたが、本当に地方、地方の情熱、その上に支えられている組織です。
 それから、バンクのパターンが違ってくる理由は、主に疾患が違うことによると思います。ここは非常に大きなポイントだと思います。個別の体細胞変異を扱うがんと、疾患のなりやすさについて、たくさんの症例を集めてみないと分からない程度の頻度の差を明らかにする状況にあるバイオバンク・ジャパンの対象とする多因子疾患のゲノム医療。どちらも研究の重要なスコープですが、バイオバンク・ジャパンは後者をターゲットにしているということで、コメントさせていただきました。

【狩野委員】
 はい。ありがとうございます。

【中釜主査】
 BBJからの追加発言ということでした。私からの質問ですが、狩野先生が言っておられた診療施設併設型についてです。診療情報と直結する生体試料は、小規模ながら、その重要性があったかと思います。その小規模というところと、先生がおっしゃった多様性というところを、どういうふうにつなげるのか、そこについてお聞かせください。

【狩野委員】
 大変クリティカルな御質問を頂いていると思います。多分おっしゃるとおりで2つのシステムサイズがありうるのだと思います。そういう意味では、情報検索システムを豊かにして、もしその小規模なシステムで何かのきっかけを見いだした場合には、先ほどの表現をお借りすると、いわゆる中央集権型のところにお願いに行って、より大規模にデータを頂くというようなことが必要かもしれないと思っております。

【中釜主査】
 分かりました。ほかに。はい。増井委員。

【増井副主査】
 山本先生からのお話にもあったのですが、この前、赤塚委員にも御質問したのですが、詳細なSOPに対応するというような形を考えていくと、それは個別の臨床研究型に近くになってきます。だから、物を中心にして動くデータドリブンの臨床研究という形に近くなってきます。そのような個別の臨床研究とその証拠物質を蓄積していくということは、やはり非常に重要だろうと思うのです。アメリカから帰ってきた友達が言っていたのは、臨床研究それぞれが蓄積され、全部がバンクの形になっていて、横断的に利用できる形になっている。それだけで随分私はいい思いをしたという話をされていました。そうだろうと思います。
 先ほどお話がありましたように、使える形でデータを集めてくるというのはなかなか大変なので、臨床研究であればそれをせざるを得ないのでということと、物がきちんと残っていれば、そのような蓄積も積極的に進める必要があると思います。企業の場合に、それが使える、共有できるものとして残るかどうか。使えるようになるまでの年限、一定期間たったものは共有するなど、いろいろと問題の解決法はあると思います。ただ、そういう形もあり得るだろう、だから、特にオンデマンド型バイオバンクという言い方で言う必要があるのだろうということは、思うところがあります。
 それから、もう一つ、広く集めるという話を今、村上先生がされましたけれども、僕は将来疾患の組み換えが起こっていくということを考えた場合に、やはりポイントを絞っていく、臨床研究型とはちょっと違ったコレクションが必要だと思っています。本当に血液腫瘍なんかは何年かごとに組み換えが起きたりするわけです。疾病分類の変化などが起こったときに見直して、自分たちなりにこれまでしてきたかことを見直すというだけの意味でもなくて、本当に疾患の分類の仕方が変わったときに、やはり大規模な、ある種しっ皆的なコレクションの意味というのはあると思います。絞り切れないということが、かえってプラスになる場合がやはりあるという気はしています。ですから、絞り込んだコレクションと絞り込まないざっくりとしたバイオバンク相補的な部分があります。相補的な部分をどういうふうに設計をしていくのかということがすごく大事だと、先ほどの山本先生の御発言を伺いながら実感いたしました。

【狩野委員】
 ありがとうございます。お答えするとすれば、やはりおっしゃるとおりで、一つのメカニズムだけで全ては覆い尽くせないのだと思います。ですから、前回増井先生が御指摘されたとおり、大きいものと小さいものがそれぞれ活用し合うという表現をしてくださいましたけれども、そのためには一体何を共通化して、何は違う状態なのかということは、今後こうした取組が少し動き始めましたので、そこの経験と相談をさせていただいて設計ができると、より日本全体の医療研究水準の向上につながるのではないかと期待しております。

【中釜主査】
 どうもありがとうございます。では、玉腰委員。

【玉腰委員】
 この最初のところにある研究会、ネットワークというのと、先生の今、お考えのところをもう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか。

【狩野委員】
 はい。研究会ネットワークの方は、こうしたニーズに応える取組がやはりどこかに必要であろうという気持ちを同じくした人々が一堂に集まったという設定でありまして、実際にそれが各機関の中でいろいろな会議体の結果を通じたときに、全く同じものができたというわけでは今のところありません。ですので、その中にも多様性があって、気持ちとしては、トランスレーショナル研究を高めていくというところを支えるような生体試料活用のシステムが必要ですよねということで集まっている状態にあります。

【玉腰委員】
 そうしますと、先ほどの小規模多様性というところから言うと、同じ疾患を目指すとかそういう意味ではないのでしょうか。

【狩野委員】
 おっしゃるとおり、違います。

【玉腰委員】
 それぞれがそれぞれの特徴のあるものを、できれば同じクオリティで同じようにという、そういうことでよろしいのですね。

【狩野委員】
 はい。全くおっしゃるとおりです。施設ごとに特殊な疾患の集まり具合も違うと思いますので、そこが共有できればという意味です。

【中釜主査】
 ありがとうございました。ほかはよろしいでしょうか。はい。どうもありがとうございました。
 いろいろ御意見を頂いたのですが、これまでの先生方の御発表を踏まえて、今検討会の目標である文科省として取り組むべき研究基盤の充実・強化について、残り時間、フリーディスカッションしたいと思います。東北メディカル・メガバンク計画はまだ始まって5年ですかね。今回の御発表にありましたように、先日決定された第2段階の推進に係る基本方針等に沿って、本年度から第2段階に入ったという状況です。
 本検討会では、患者さんの様々な試料・情報を収集するバイオバンクの今後の在り方について、これまで御発表いただいたNCBN、BBJ、クリニカルバイオバンク等の取組も踏まえて、文科省が取り組むべきことの議論をしていただきたいと思います。
 狩野先生あるいは村上先生の御発表、疾患バイオバンクに対する御質問にありましたように、様々な論点があるかと思いますので、議論が拡散しないように少し論点を絞って提案したいと思います。まず一つは、恐らくクリニカルバイオバンクが対応できることだと思いますが、少数の試料の収集というものと、同時にそれを検証する、あるいは多様性を解析する多数の試料の仕組みも必要だと思います。この点についてどのようにお考えでしょうか。恐らく、狩野先生の試みと、村上先生たちのBBJの取組は、その大きな2つの軸あるいは両方の軸を示すものだと思います。この点について、連携の在り方とかお互いの補完的な部分というのをどう考えるかというところについて、御意見いただければと思います。
 私が口火を切らせていただくと、お聞きをしていて、やはり疾患バイオバンクの難しさがあると思いました。これはもう一点の論点のオンデマンド等のニーズに見合う趣旨とも関係すると思うのですが、やはり臨床情報というものをどのように考えるか、どのように収集していけるかというところは、少し難しいところはあるのと思います。やはり目的が明確になると、それに求める診療情報はかなり詳細になってきます。
 例えば、先ほど小規模と狩野先生はおっしゃいましたけど、臨床情報に関して、例えば副作用を見ようとしたときに間質性肺炎をどう定量的に評価するかなどもそうですが、副作用を評価するというのはなかなかに難しいところがあり、やはり限界もあるのかなと。そういうことを踏まえた場合に、小規模あるいは大規模の中で、どの程度の網羅性、あるいは、そこから得られたものからどの程度踏み込んだ解析を行うか、それに資するデータバンクの構築、そういうものを分ける必要があると考えました。その点を含めて御意見を頂ければと思います。
 石川先生何かございますか。

【石川プログラム・オフィサー】
 石川です。今日のお話を聞かせてもらって、いろいろな大規模なバンクとフォーカスしたバンクがあって、それぞれ少しずつやはり役割は違うのかなと思っています。コモンバリアントを見つけるのに、やはり疾患の患者さんを集めた疾患コホートというのは非常に感度が高いわけですから、一般の住民コホートに比べて、疾患の原因の遺伝子を突き止めるということに関しては、非常にすぐれているのだと思っています。
 ただ、こうやって、この数を今後どんどん広げていって、例えばGWASをシーケンシングに変えていくということで、実際どの程度のミッシングヘリタビリティというのが埋まっていくかというのはなかなか不透明なところもあって、やはりレアバリアントについては、今ちょっとお話に出てきましたけど、医療機関なんかで非常に密接なライフログを取りながらシーケンシングを組み合わせてやっていくというアプローチでちょっと分けた方がいいのかなと思っています。
 実際、例えば血清とかDNA、そういうものをSNP情報と併せて外に出していくということは非常に重要なのですけれども、実際にこういうもので需要がどれぐらいあるかというと、もちろん限定的な需要はあるのですけれども、やはりよく聞かれるのは生きた細胞ですよね。例えばiPSなんかで実際こういうSNP情報を持った細胞を自分たちの薬、化合物、健康食品で試してみたいということがございますので、今のバンキング体制をそのまま続けるということに関しては、少し見直す時期も来ているのかなと思っています。
 今日はオーダーメイドのバイオバンクというお話が出ましたけれども、実際このオーダーメイドのバンクというのは、現状の企業とか、研究者のニーズというのを集めたものでございますので、必ずしもそれが将来的にわたって強みを出すとは限らないと思っています。このバイオバンク・ジャパンも恐らくDNAの多型がどれぐらいのインパクトを持つかよく分からないときに、先見の明を持った研究者、中村祐輔先生を始め、研究者がスタートしたもので、恐らくオンデマンドだけを寄せ集めると、将来的にやはり競争力がそがれる可能性があって、やはりそれはある程度、研究的なマインドを持った方とバンクを一緒にしていく必要性があるのかなと思っています。
 バンクだけの機能にしてしまうと、オンデマンドはオンデマンドとして非常に重要なのですが、恐らくメガバンクがオンデマンドのものの寄せ集めになってしまうと余りよくなくて、少し方向性を持ってディレクトできる人、研究能力を持った方がメガバンクを動かす必要もあるのではないかと思っています。
 以上です。

【中釜主査】
 ありがとうございます。今のお話は非常に重要な御指摘かと思います。関連して何か御発言ございますか。
 やはり一つの大きいもので解決できる、そういうものがないといけないと思います。同時にオンデマンドの目的を明確にしてあるものも、極めてそれは目的志向的には重要であります。ただ、両方が全て完璧になることはなかなか難しいので、その両方が補完しながらやっていく必要があります。そのときに求められるのは、やはり最低限、品質保証された情報であります。品質保証という観点から話をついでに移したときに、BBJの村上先生が、DNA、代謝産物、タンパク質、幾つか発表され、いろいろマーカーで評価はできるということなのですが、メタボロームに関して、私も個人的に非常に難しいかなと思うところがあります。前回の御発表の際に、たしか南学先生の方から、やはり採取前の食事内容など影響するものがあるとか、そういうお話があったと思います。これはもう仕方のないところだと思うのですが、その点に関して、BBJのメタボローム解析という観点からの試料に関してどの程度のものが貢献できるかというふうに考えていますか。

【村上所長】
 製薬業界の方々と話し合っていると、彼らがそういう面でフォーカスしてほしいというのは、それこそ食事情報だとか、様々な日内変動、それからホルモンの周期を含めたような、非常に詳細なデータです。実際、そのような要素によって鋭敏に動き得るマーカーですから、BBJのサンプルのように、1年に1回ポンと採ったサンプルが、そういうきめ細やかなニードに全部フィットするということは、恐らく無理だと思います。
 ですけれども、今言ったように、品質が一定以上保たれていることと、ある疾患についての十分な数が確保されておりますので、細かい条件に全て適合させて、24時間の中で何回も採ったサンプル群というのと並行して解析することで、十分に使い分けができると思います。
 そこで、重要なのは、BBJのサンプルがどういう状況で採取されたかということを、可能な限りオープンにして、この目的には使えるけれども、それ以上の目的には使えないという限界を示すこと。ですが、全くないよりは非常に貴重な使い方ができるのだと、そこを明らかにしていくこと、それで十分だと我々は思っております。

【中釜主査】
 タンパク質の場合は、そのペプチドの安定性がある程度評価、標準化できるという気がするのですが、私も個人的にはメタボロームの、臨床検体を使ったメタボローム解析というのはかなり痛い目に遭っているので、なかなかそこは難しいのかなと思って聞いていました。

【村上所長】
 あれはタンパク質の話ですよね。安定性をはかるマーカーを作って。

【中釜主査】
 安定性に対して。それは可能だと思うのですが、メタボローム代謝産物の場合はもう少し難しいかなと思います。

【村上所長】
 はい。メタボローム研究はデザイン自体が、やはり時間軸の非常に細かい研究だと思います。だから、メタボローム研究には一定以上の貢献は不可能だと思います。ただし、全く役立たないかというと、使い方によっては貴重なベースのラインの情報は得られるのではないでしょうか。ただ、その程度に限定されていると私は思っています。

【中釜主査】
 試料の品質管理、保証に関して何か追加でございますか。東北メディカルの方はかなり前向きにきんとした管理体制をとっていると思うのですが、山本先生、いかがでしょうか。

【山本委員】
 臨床検査が血清を中心に進んできた要因は、これはもう使いやすさ、それから、採りやすさであると思います。血清アミラーゼだとか、安定した酵素タンパク質や、マーカー、代謝物を測定してきた歴史があると思います。一方、今度はバイオマーカーを探そうとか探索的なところになると、血清ではなくて血しょうの方を使おうという方向にかじを切ってきていると思います。世界のバンクでも、血しょうを集めているところが多いと思います。私どもも血しょうを中心にやっているのですが、今お話があったように、4度のままで遠心して分けた上清、すなわち血しょうの方が、探索的な点からはすぐれているのではないかというところは、安定性・品質管理の面ももちろんあるのですが、そもそもの調べていく対象の性質に対してそういうことがあるのだということが、バイオバンクをやっている中では理解されてきていると思います。

【中釜主査】
 その点に関して、村上先生、何かありますか。

【村上所長】
 臨床研究グループを組んで、2015年から始めたプロジェクトは血しょうを集めております。ただ、第1コホートは血清を集めており、これは事実です。

【中釜主査】
 はい。増井先生。

【増井副主査】
 よろしいですか。血清を集める場合にいろいろな集め方があるわけですね。EDTAを使うのか、クエン酸ナトリウムがいいとか、あるいは、人によっては、僕はもうびっくりしたのですけれども、「えっ、ヘパリンでなくちゃね」と言う先生もいます。ですから、どの程度、二価イオンを取ってしまうだけでいいのかというようなこととか、そのあたりの研究というのは、要するに、物自体を使う研究というのがやはり大事になってきた時期だというのを実感はしたのですが、そのあたりで、少量ずつでもいいから別の採り方もされておくというようなことを少し考えていただけるとよいと思います。というのは、一つの決まった形での採取になってしまうと、本当に怖いかもしれない。まあ、これは今後の課題でいいのかもしれませんが。

【村上所長】
 非常に重い課題かと思います。ですが、やはり20万人といった数を集める場合に、品質が一定であること、どの方法で採取したかということを明らかにして、それ以外の条件が必要な研究には使えないけれども、適合する研究には使えるという基準を示すのが最低限のところで、私は、バイオバンク・ジャパンは一定のプロトコルには従っていることを認めることが重要だと思います。ただ、やはり現場の臨床機関ベース、日常診療ベースでサンプルを集める場合に、血清を3種類違う方法で採取するというのは、実験室レベルでは可能でも、現実には無理だと個人的には思います。それが是非とも必要であれば、そういった体制を組むことが必要かと思いますが、やはり、いろいろなものを全て、条件も振った状況でそろえるという意味で、20万人のバンクを構築するのは、なかなか世界的にも難しいかなと思います。
 今のような詳細な条件検討は、研究者レベルで、自分の調べたいものにはどういうアッセイ、あるいはどういう収集の仕方が必要かということを知って、BBJの条件と合わないのであれば、ほかを当たっていただくというしか、現実にはないと思います。条件まで豊富なことが理想論だとは思いますけれども。ただ、血清と血しょうの別は非常に大きいところですので、2015年以降には、御指摘のとおり、血しょうを集め出しているということです。

【中釜主査】
 ほかにございますか。
 先ほど石川先生が御指摘になったように、いわゆるバンクには悉皆(しっかい)型収集の大規模なバイオバンクと、それから、オンデマンド型、目的志向性がきちんとしたバンクと試料収集と両方あると思います。オンデマンド型だけ出すと、やはり目的が制限され過ぎて、広範な探索的な研究の応用というのはなかなか難しい面もあると思うのですが、一方で、オンデマンド型を連携による収集などでたくさん収集することによって、そこはある程度その部分もカバーできるかと思います。ただ、その場合には、多施設の収集システムになったときに、品質保証、検体及び臨床情報の品質保証をどのように担保できるかという問題点が残ります。その点について、狩野先生、何か御意見ありますか。

【狩野委員】
 おっしゃるとおりで、そこを多施設にすると、もう一つデマンドを出される方が現在、企業であるということから、企業様が何を調べたいか、ほかの施設に知れてしまうという問題もあるのではないかという指摘が内部でありまして、この観点をどうするかはなかなかこれまた難しい、何かのルールの整備が要るところだと思っております。
 あと、もちろんそういうニーズがあった場合に、私どもの、例えば施設で持っていない検体があったとして、そういう検体はここに伺えば出ますというお答えができるぐらいの支援ができるのは、それはオンデマンドというふうに考えた場合には大変重要なのですが、そのための情報のつてがあるかというと、現在はありません。ですので、例えばそういうノウハウを情報として提供していただいて、出先機関としてはこういうふうに思っておりますというお返事をお返しするのも一つの手かもしれません。

【中釜主査】
 そのほか、この点に関して。はい。赤塚先生。

【赤塚委員】
 企業に対する御意見をたくさん頂いたので、コメントさせていただきます。企業からの要望は確かに様々だと思っております。先ほどの血清、血しょうのお話とか、どういう薬剤を使って、血しょうを採るのかということも含め、臨床現場にいろいろ求めても難しいということは理解しており、患者さん優先であることも理解しています。ですので、バンクの場合はこのように採取したという情報が付与されていることが重要だと考えております。村上先生もおっしゃったように、試料ごとに情報が付与されていれば、使いにくいのであれば使いにくい、使えるのであれば使えるということが分かるようになり、我々の方で選択できると思います。血しょうが必要な研究なら血しょうの試料を使いますが、そうでなくてもいい研究もあるのかもしれないので、その場合は血しょう以外でも選んで利用するという形になろうかと思います。
 先ほどの岡山大学のクリニカルバイオバンクの場合は、共同研究に近いような細かいリクエストがあるのだろうと思っています。そのときに、ここまでは最低限どの生体試料にも欲しいという情報と、追加で、個別に細かい条件下での試料が欲しいというリクエストがあると思っています。これも情報として、基礎的に、ここまでは他の施設とも共有できるところ、ここはやはり出してもらったら困るというところが、話を進める中で出てくるのではないかと思っているところです。実際に私はまだ経験がないのではっきりとは言えないので申し訳ないのですが、2段階に分かれるのではないかと感じております。

【中釜主査】
 ありがとうございます。その品質保証となったときに生体試料、試料の品質保証とともに、やはり臨床情報の品質保証というのはすごく難しいところかと思います。オンデマンド型は少数という制限がありながらも、そこはかなり精度を高めることができるかなと思うのですが、一方で少数型のバイオバンクの問題かなと。その品質保証、臨床情報の品質保証という意味で、BBJ、村上先生の方は、臨床情報を電子カルテから自由にということをおっしゃっていたのですが、やはりある程度限界があるのかなと私も思うのですが、そこはどのようにお考えですか。

【村上所長】
 そうですね。過去にさかのぼってやるという場合には、やはり限界が出てくると思います。ですけども、今後のことを考えると、10年、20年先に紙カルテから移しているというのはあり得ないことですから、電子カルテからどのように情報を取るかということは、世界的にも進歩すると思います。それを少なくとも最先端で取り入れていって、実行するということが義務付けられているものだと思っております。

【中釜主査】
 私が言いたかったのは、大規模は大規模なりに、ある程度限界があるのかなと。その臨床情報の品質、例えば副作用の定量的な評価とか、間質性肺炎等の定量的なこと、これはなかなか難しいことだと思います。

【村上所長】
 そうですね。特定の疾患の研究グループ、例えば臨床研究グループのJCOGやJCCGと組ませていただきまして、これは文部科学省、AMEDの御指導なのですが、我々も新しい対象者を得て、大きなインパクトを得たというか、勉強させていただいたことが非常に大きいです。従来の、疾患数を集めてという12医療機関ベースのものと、臨床研究グループ、両方BBJでは動いています。先ほど、いろいろな疾患に関する学会と言いましたのは、JCOGの場合は臨床腫瘍学会が相当しますが、その発想をいろいろなコモンディジーズに広げていくということで思いついたものです。臨床情報については、先ほどの共通項目と疾患特異的項目があると申しましたが、疾患特異的項目をいかに深く掘り下げられるかは、バンクの臨床情報の質の面で重要です。学会の、また学会に所属する疾患の専門研究者の人たちからのインプットを大きく入れることで、更に組織を大きくしていけばというか、組み替えていけば、疾患研究のニーズに対して十分応えられるだろうと思っております。

【中釜主査】
 先ほど石川委員の方から御指摘ありましたけど、いたずらに規模を膨らませていくだけでも恐らく無理だろうし、オンデマンド型あるいはそのクリニカルバイオバンクはこれからの新しい試みでありますが、やはり各々が持つメリット、デメリット、強み、弱みがあるかと思います。それと現状維持のコホートとは、違った視点での前向き的な収集をすると、それらと疾患バイオバンクとの連携が重要になると思います。そうすると、大きく健常コホート、あるいは大規模なしっ皆的なバンク、及びそのクリニカル、あるいはデマンド型、それらの目的を明確にしたものをいかにつなげていくのか。その情報利活用、それが規模感を大きくするだけではなくて、例えば東北メディカルでやっていらっしゃるSNPsを使ったインピュテーションのように、間を埋めていくというような相互補完的な利活用というのがあるのかなと思います。これらをどうやって生かしていくかという利活用の問題が非常に重要かなと思いまして、多くの研究者がそれをうまく活用しながら、そこから有益な結論を導き出す、そういう仕組みのことも考えなければいけないのかなと思います。その点についてどうお考えですか。

【村上所長】
 はい。非常に貴重なお話だと思います。やはり対象疾患によって、少し考え方が変わると思います。腫瘍の場合には、どちらかというと拠点型というか、頻度の高いがんであれば、各センター病院、あるいは地方の中心となる大学病院で、患者の集まるところ一つでも、かなりのことができると思います。そこで、品質を一定にして、優れたバンクを作るということは非常にいいと思います。
 一方で、全国規模で見ても本当に数の少ない希少疾患に対しては、個別に集めてもどうしようもないので、全国ネットワークを作る。その保管はやはり技術のあるところで、長期的にやらないといけないので、国の役割が求められるターゲットだろうと思います。
 これに対して難しいのは、BBJがやっている生活習慣病とか、ポリジーンの疾患ですね。拠点型では集まらない部分があります。例えば、一つの大学病院と組めば、いろいろな種類の疾患は集まりますけど、数が集まりませんよね。そうすると、病院数を増やして、いろいろな疾患の種類と数を同時に集めるという手があります。これに対して、もう一つの軸として、疾患ごとにネットワークを作って、症例を集めていく。バイオバンク・ジャパンも共通項目以外はそれぞれの疾患の集まりですから、糖尿病のバンクと考えれば5万5,000人。高脂血症のバンクと考えれば6万5,000人、それが集まっていることになります。それぞれの疾患を病院レベルで集めるということを今までやってきて、十分に動いているのですが、もう一つ、疾患特異的に専門家集団である学会から症例を集めるというシステムを並行して動かすということが、生活習慣病や多因子疾患に対しては解決になるのではないかと思います。これは本当に、JCOGと組ませていただいたという経験に基づいた提案です。

【中釜主査】
 はい。分かりました。同時に、疾患の特異性に加えて、そのバンクがどういう目的、どういう出口を目指すのか。例えば診断マーカーの開発であるのか、あるいは創薬なのか、疾患の治療抵抗性の解決なのか。いろいろあるかと思うのですが、バイオマーカー開発の場合は、恐らくそういった、たくさんあることによって有意義なものが出てくる。大規模なバンクと小規模なものを組み合わせるのだと思うのですが、薬の開発や抵抗性の開発の場合は、ある程度、目的志向型のものの方が次のステージという意味ではメリットが高いのかなと思います。もちろん、より探索的に探すフェーズもあっていいと思うのですが、そのあたりはどうお考えなのか。石川先生、もし御意見あればお願いします。

【石川プログラム・オフィサー】
 今、バイオバンク・ジャパンでそういうコモンバリエーション、また最近は体細胞変異をやられているということなのですけれども、実際このコモンバリエーションというのは、今までかなりBBJは実績があったところです。最近ですと、東北メガバンクの方で1,000人、2,000人のゲノムを公開していただいて、それのインピュテーションを使うことでかなりよくなってきて、これは非常に波及効果が高かったと私は思っています。
 このGWASの成果というのは幾つかあると思うのですが、一つは疾患が全く分からなかったのが、メカニズムが分かったことで、創薬なんかのきっかけができたということです。例えば糖尿病なんかですと、皆さん、ゲノムをやる前はいろいろな糖代謝とか、そういうものの異常が見つかるのではないかと思っていましたけれども、実際出てきたものを見ると、膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島の機能の異常というのが、かなり多型の主要な部分を占めていたということが分かってきましたし、それが創薬のきっかけになるわけです。
 もう一つは、いわゆるポリジーンによる疾患、一つのアレルが例えば1.2倍とか1.3倍のリスク比とか、そういうアレルが非常に弱くて役に立たないのではないかという意見もいろいろあるのですが、例えば1.2倍とか1.3倍のリスクアレルであっても、それらの生活習慣との相互作用の意味合いがきちんと明らかになれば、そのアレルを持っている方は何千万人といらっしゃる、いわゆる高頻度の多型ですから、そういうものに介入を加えることによって、集団レベルでいろいろな生活習慣病のリスクを減らしていく影響というのはかなり大きいというふうに思っています。
 その意味で、今後、いわゆるレアバリアントをどんどん求めていくという方向もございますけれども、今見つかっているような、いわゆる高頻度のコモンバリアントの意義をきちんとアノテーションを付けていくというのを、こういう基盤機関の大きな役割じゃないかと思っています。
 例えば今申し上げたように、東北メガバンクのデータがあったからこそ、いろいろなバリアントが、インピュテーションが見つかってきた。疾患のSNPsが見つかってくるのですが、そのSNPがどういう意味を持つかというのは、いろいろなエピゲノムとか、参照情報をきちんと取らなければ分からない。逆にそれが分かることによって、例えばあるSNPが何らかのリンパ球の遺伝子制御に重要に関わっていたということが分かるということがございます。こういう広い意味でのゲノミック・アノテーション、米国ですとエンコードプロジェクトなんかがあって、ゲノムのどういうところに制御領域があって、どの細胞に特異性に働いているか、そういう情報と一緒になって初めてコモンバリエーションの意味付けができます。実際そういうものを体系だってやっている機関は、日本はあんまりなくて、恐らくこういうものは基盤機関でしかできないことだと思いますので、今日お話になっているような基盤のゲノム機関の一つの重要な役割ではないかなというふうに思っています。

【村上所長】
 よろしいですか。今の石川先生のコメントはそのとおりでして、多因子疾患であるということは、逆に言えば、環境が100%では絶対ないし、遺伝が100%でもない。ですから、遺伝と環境の相互作用を明らかにしていくというのが非常に重要で、バイオバンクでも、例えばここに陪席しております松田教授が明らかにしたのは、アルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素という、アルコール代謝の遺伝子の高危険性SNPの2つが重なった場合には、6倍程度食道がんのリスクが上がるのですが、それに喫煙と飲酒が重なると189倍まで上がるという事実です。こうなると、もう公衆衛生の対象ではなくて、医療の対象になってくる。こういった例が、バイオバンク・ジャパンの目指すゲノム医療の一つの出口であり、それを政策的に進めていく基盤になる。今までだって、アルコールは悪い、喫煙は悪いというのは分かっていたのですけれども、個人に応じて更に格差を付けて、助言することが科学的な根拠を基に進められるというのは非常に大きいと思います。
 それから、もう一点は、今まで出してきたGWASのデータは、確かに個々のSNPの影響としては1.2倍だとか低いのですが、最近では、例えば去年のアメリカの人類遺伝学会に行っても、SNPの病的意義というか、いかに遺伝子の転写レベルを制御しているとか、遺伝子そのものではなくて、座位としては遠いところにあるのだけれども、全体の発現を制御しているという報告ばかりでした。今、サイエンスはその方向に動いています。ですから、それらの解析結果を全部含めたところに新しい創薬への出口があると思われます。これは個別の研究のように映るかもしれませんけれども、石川先生が御指摘のように、研究レベルでも、その方向へ日本の研究を向かわせていく必要があるのではないかと思います。既に一部は進んでいると思いますが。
 以上です。

【中釜主査】
 ありがとうございました。ほかに。はい。狩野先生。

【狩野委員】
 今のお話をうまく整理できる例え話が作れるか考えていたのですが、ゲノム医療を盛んにするという際には、原則として何か各個人が思いつく新規のストーリーの中で、良さそうなもの、すてきなものを伸ばしていくということが必要だと思います。ストーリーを書く際に、既存の百科事典があって、その設定された字引の仕方で見つかってくるストーリーであれば、大規模バンクが答えを出せるかもしれない。だけど、もしかすると、最近、創薬の効率が落ちてきたということから考えると、今の字引のシステムでは引けないような事実を見つけてこないと新しい薬につながらなくなってきたかもしれない。そのときに、百科事典を、例えば概念順の検索に変えられますか、あるいは、五十音順ではなくてAから引くように変えられますか、という質問をされているような時代になってしまったのではないかと思っております。そこに、更にコンピュータの助けを借りて、違う検索の仕方ができますかという質問が、多分、更に付いているのだろうと思います。
 もう片方に、ストーリーを作る際に、既存の百科事典で並んでいる項目の範囲ではもう調べ切れないような、そういうものを思い付いてしまった場合に、誰かそれを書く支援をしてくれる人はいますかという状況があると思います。創薬の難化は既にこちらの段階かもしれません。この段階を考えると、それなら、このようにしたら出版社とつながりますねとか、このようにしたら、その書く材料が集まってきますねということを一緒に考えてくれる人がいないと、せっかくストーリーのアイデアがあっても、それが現実のものになかなか展開できないということがあるでしょう。こういう場合を助けるような仕組みの生体試料活用システムというのもあってもいいのではないかと思いました。
 失礼しました。

【山本委員】
 狩野先生たちのような拠点型でやっていこうというのは、臨床情報を取るということから考えると、拠点に近いところにデータがあるわけですから非常にやりやすいし、小回りも効く。オンデマンドも考えれば新しく集めるということも可能かもしれない。非常にいいと思います。一方では、品質管理というところが問題になってくると思います。集めた試料、せっかく善意で協力してくれた試料が散逸してしまうようなケース、あるいはそれは極端なケースとしても、使い勝手の違う試料が全国津々浦々にできてしまうのは、やはり問題で、そういう意味では、小さなネットワークとおっしゃっていたのではなくて、小回りのきくバイオバンクがしっかりとネットワークを作っていくような仕組みを考えたり、場合によっては、ちゃんとやっていますかという監査が入ったりするくらいのネットワーク連邦を作っていく必要があるのではないかと思います。
 それは、ある意味では、世の中や社会の役に立つものになると思います。一方で、バイオバンク・ジャパンがずっとやってきたようなところは、臨床データを吸い上げるということになると、これから電子カルテを追い掛けるとかが必要になると思います。私どもにもブーメランで返ってくることなのですが、電子カルテの利用というのはすごく難しいし、それから、臨床情報をしっかり追い掛けるというのは、バンクのサイズが大きくなれば大きくなるほど難しいことになると思います。それをちゃんとできるかどうかというところが、大きなバンクの課題で、これを通してこのバンクの試料や情報はある目的では使えるという評価を打ち立てていくことが重要だと思います。というか、幾つもの目的で使えるようなバンクであっても、大型のバンクではものすごく細かい臨床情報は取れないとおもいます。ですら、こういう臨床情報の取り方をしていますと明示し、その範囲内で使ってもらえるようなものにしていく、その全体像を見せていく必要があるのではないかと思います。
 私どももこれから追跡を実施するので、追跡のデザインとして、これぐらいの臨床情報は付けますよと明確にする必要があると考えています。健常人参加者が病気になった場合は、これぐらいの臨床情報が付けられるように頑張りますということを申し上げています。恐らくBBJのようなタイプの、私が中央集権型と言ったのは正確ではなくて、中央政府型と直そうかと思うのですが、そういう大きなバンクをやろうと思うと、臨床情報がこれぐらいの厚さ、薄さで取れますのでこういう使い勝手がありますよ、というピクチャーを書いておくことが必要なのではないかと思いました。

【中釜主査】
 ありがとうございました。
 まだまだ様々な御意見あるかと思うのですが、本日の先生方の御意見を聞いていて、やはり疾患の病態の解明、あるいは開発的な研究、さらには、予後等を決めるようなバイオマーカーの開発。それぞれにおいて3つの特徴を持ったバンクが、各々特性を生かして連携、補完しながら、これまでも実績を出していたわけです。恐らく今後は、割とシンプルなモデルではなくて、多因子が関わるようなコモンな疾患に関しても、これらの情報をうまく連携し、利活用することによって、更に大きなサイエンティフィックなエビデンスが出てくる、あるいはその臨床への展開が可能になるという議論だったかと思います。
 時間になりましたので、また引き続き、次回以降で御議論、あるいは、今日は言い切れなかった部分に関しては御意見を頂きたいと思います。今日のところはこの段階で収めたいと思うのですが、非常に重要な論点について御意見、議論いただけたと思います。十分に整理できたかどうかは、私も自信がありませんが、必要な議論はある程度できたと思います。
 それでは、先ほども言いましたが、本日十分に御発言できなかった委員につきましては、事務局の方に追加の御意見という形で寄せていただければと思います。
 最後に事務局から連絡事項をお願いいたします。

【野田ゲノム研究企画調整官】
 ありがとうございました。事務局から3点お伝えいたします。
 まず検討会の今後のスケジュールでございますけれども、5月下旬を予定しておりますが、開催日時が決まり次第、追って御連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 それから、本日の議事録につきましては、事務局で案を作成し、委員の皆様にお諮りして、主査に御確認いただいた後、ホームページにて公開いたします。
 また、本日の配布資料につきましては、机上に置いていただければ、後日事務局から郵送いたします。また、紙ファイルにとじております参考資料につきましては、次回以降も事務局で机上に用意させていただきますので、お持ち帰りにならないようお願いいたします。
 以上でございます。

【中釜主査】
 では、本日はありがとうございました。また次回よろしくお願いいたします。

 ―― 了 ――

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