資料4-2 スーパーコンピュータの開発について

スーパーコンピュータの開発について

【総論】

日本のスーパーコンピュータ開発は、世界最高水準の性能のスーパーコンピュータを用いた大規模計算・シミュレーションによって世界最先端のサイエンスを拓くことを目指しています。

スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、実験不可能な自然現象等を再現して実験を代替することや、極限状態を含む広範な探索範囲から予想を超える未来や未知の状態を発見します。また、最先端のサイエンスに基づくシミュレーション手法は、産業界における研究開発基盤を構築します。

シミュレーションの再現精度や探索範囲は、用いられるスーパーコンピュータの性能が高いほど精緻かつ広範となり、未知の領域の研究成果を得ると予測されます。スーパーコンピュータの性能が3年毎にそれ以前のマシンの約10倍の計算速度を実現し、時間の経過とともに向上していく中、それを利用した最先端のサイエンスの成果を得るべく世界的な競争が行われています。

文部科学省においては、2020年のシミュレーションで世界をけん引するために必要な世界的トップレベルのスーパーコンピュータの性能をベンチマークし、設計段階からハードウェアとソフトウェアが協調した開発をすることで、2020年のポスト『京』運用開始から時を置かずして、研究者がポスト『京』をいち早く利用できるようソフトウェア調整のための期間の大幅な圧縮に努めるとともに、スーパーコンピュータの技術を繋ぎ次世代に発展させていくことに取り組んでいます。

フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト『京』の開発)は、2020年をターゲットとして、計算科学における最高の研究成果を世界で誰よりも早く創出することを目標とした施策です。



【各論】

○スーパーコンピュータを用いたシミュレーションの意義
・シミュレーションは、対象となる現象で働く法則を測定・抽出し、その現象を模倣するモデルをコンピュータ上に構築することで、数値又はアニメーションなどの可視化された情報として対象となる現象を再現する。対象となる現象を確かめることが困難、不可能又は危険である場合に用いられる。
・スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、研究において、自然現象等の実験不可能な現象を再現して実験を代替するとともに、対象となる現象について、超高温、超高圧等の極限状態などの探索範囲から、その現象を支配する理論の理解や未来又は未知の状態を予測できる。また、シミュレーションを実験結果の検証に用いて、対象となる現象に関する理論に新知見を加えることや新たな実験手法を開発することも可能となる。
・シミュレーションの対象となる現象の再現精度や探索範囲は、用いられるスーパーコンピュータの性能と、それを生かすアルゴリズムやソフトウェアに依存する。総合的な性能が高いほど精緻かつ広範な未知の領域の研究成果を得ることができる。

○『京』で可能となった大規模な計算
・『京』によって、10ペタフロップス・8万2千ノードを用いた世界初の大規模計算が実現し、「精度」と「サイズ・時間」という2つの軸の解像度を飛躍的に伸ばすことで、それまで不可能だった、様々な物質における原子や分子の挙動、電子の状態、生体・生命現象、天体・宇宙現象などをシミュレーションすることが可能となったほか、大量の観測データや実験データを計算に取り込むことが可能となり、例えば、地盤と建物の揺れ及びこれによる建物被害を統合した詳細な大規模シミュレーションや従来再現できなかった集中豪雨現象をシミュレーションした。これにより「予測の科学」ともいうべきものが実現しつつあり、様々な分野の研究開発にシミュレーションを活用したイノベーション創出への期待がもたらされた。

○『京』で実証された大規模計算の産業上の効果
・産業利用上の効果の数多くが『京』により初めて実証された。具体的には、時間・コストの削減、製品性能の向上、従来にない設計上の最適解の探索である。これにより、あらかじめ効果が分からないものへの投資に消極的な企業であっても、今後のスーパーコンピュータ利用が期待できることとなった。(最先端のスーパーコンピュータでのプログラミングやアルゴリズム構築は容易ではないことから、企業が高い技術に新たに挑戦するためには産業上の効果が実証されることの意義が大きい。)

○研究開発基盤としての『京』
・『京』においては、「地球規模の気候変動の解明・予測」等を目的として開発・運用された『地球シミュレータ』から計算性能が飛躍的に向上したことを踏まえ、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションを広く一般に普及させるよう主たる用途の転換がはかられた。産業界を含めた幅広い分野の計算科学の研究者が利用できる枠組みの構築がなされた。
『京』は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に基づき、年間約1400課題を実行する共用施設として日本全体の計算科学技術の底上げに貢献している。

○ポスト『京』の役割
・ポスト『京』は、『京』をはるかに超える大規模計算により、これまでわからなかったメカニズムを解明する、新たなサイエンスを拓く先行プラットフォームとしての役割と、数ヶ月かかる大規模計算を短時間で検証できる大きな計算リソースを擁する研究開発基盤としての役割を担う日本の次世代のフラッグシップスーパーコンピュータである。
【ポスト『京』の科学への貢献】
・ポスト『京』は、最大で『京』の100倍のアプリケーションの実効性能を得ることによって「精度」と「サイズ・時間」という2つの軸に、もう一つの軸として、「統計上の精度向上・探索範囲の拡大(アンサンブル(複数同時並行計算)及びパラメータ(変数)の増加)」を加えて、より現実の現象に近い状態の計算や未知の現象の高精度な予測を可能とする。大規模計算が発想の範囲を広げ、新たな科学研究のシーズを供給する。
【ポスト『京』の産業への貢献】
・『京』で成し遂げた大規模計算手法は、『京』レベルのスーパーコンピュータの大学及び産業界での普及に伴って下方展開・普遍化する潮流がある。ポスト『京』は、この潮流を踏まえ、大学が新しいサイエンスを世界に先駆けて拓き、産業界がその後に続くことで日本の比較優位にある計算科学技術をいち早く実用面で押える。

○ポスト『京』の自主開発の意義について
・『京』への政府投資は、2000年代に世界的な潮流となりつつあった超並列のスカラー型計算機への対応が遅れていた日本のスーパーコンピュータ開発において、その遅れを挽回する役割を果たした。(民間のスーパーコンピュータ開発が世界の趨勢に追いつく契機を作った。)
・スーパーコンピュータは、3年毎にそれ以前のマシンの約10倍の計算速度を実現してきており、時間の経過とともにその性能が向上していく中、それを利用した最先端のサイエンスの成果を得るべく世界的な競争が行われている。
・最大で『京』の100倍のアプリケーション性能をポスト『京』で達成し、従来の成果を超えるシミュレーションを実現するにあたっては、海外ベンダーが供給するコストパフォーマンスに優れるシステムを購入することも選択肢の一つである。しかしながら、海外ベンダー製スーパーコンピュータは、最先端CPUの仕様が秘匿されているため、納品されるまでそれに対応したアプリケーション(ソフトウェア)のチューニングができない。自主開発で導入する場合と比べてアプリケーションの開発・運用が2年程度遅れることが想定されている。
・研究者は、最先端のスーパーコンピュータをいち早く利用できることで研究開発における世界的な競争力を得る。ハードウェアやシステムソフトウェアと一体でアプリケーション開発を進め、より早期に成果が得られることが重要である。
・ポスト『京』は、2020年の運用開始時において世界の他のスーパーコンピュータに先駆けて研究成果を創出するため、アプリケーションの計算性能を『京』の最大100倍と見積もり、これを実現すべくハード及びシステムソフトとアプリケーションが一体的で協調した設計・開発(コデザイン)を行っている。
・ビッグデータ・IoT・AIが技術的基盤となる今後の社会においては、スーパーコンピュータの自主開発を通じて得られるCPU設計技術、大規模データの処理技術、高性能ネットワークの構築・運用を含むデータ通信技術、省電力技術等を次世代に承継・発展させていくことが重要となる。

以上。

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