主に製薬会社22社からの意見等について
京都大学・理研 奥野恭史
1.「京」のこれまでの共用利用の評価と意見
(1)創薬分野においては、病気の原因となるタンパク質に対する医薬品候補化合物の結合能力を精度高く予測する事が求められている。MP-CAFFE法は、化合物が結合したタンパク質の分子動力学シミュレーションを複数の計算条件で実施し、結果全体を統計的に解析する事で、結合親和性を高精度に予測する。MP-CAFEE法では、タンパク質-化合物1ペアあたり384本の独立したシミュレーションを必要とするが、計算ノードを数多く搭載したスパコンによって複数のシミュレーションを同時に実行することで、計算時間を飛躍的に短縮できる。従って、MP-CAFEE法のように大規模並列計算を必要とするアプリケーションにとって、京コンピューターは大変有用である。
(2)ジョブの上限時間が24時間に設定されているが、可能であれば48or72時間程度まで引き伸ばしていただきたい。
(3)同時投入ジョブ数の改善
(4)利用申請の簡素化
(5)コンソーシアム形式で、1社では到底不可能な計算が実施できた。
(6)計算に対する企業上層部の理解や期待が深まった。
(7)動作させるためにコンパイルが必要であるため、どちらかというとアカデミア向きのシステムとなっている。
(8)現場使用するにあたっての課題が少しずつ明らかになってきたように思う。
(9)創薬研究現場で実用に耐えるかどうかは別として、1社ではできない検証ができたことは評価できる。
(10)ユーザーマニュアルがとても使いやすく分かりやすい.
(11)ポータルサイトやメールなどによる「京」の利用状況のタイムリーなアナウンスは,現在の状況や今後の予定が把握しやすく,計算のジョブコントロールに大変有用である.
2.「京」の今後に向けた意見と要望
(1) 上半期、下半期で計算時間が割り当てられているが、可能であれば6-7月の時点で上半期の計算時間の一部を下半期に移す事を可能にしてもらいたい。
(2) Vagrant、KVS、VMwareといった仮想化ソフトを「京」で動かすことができれば、普段使い慣れた解析ツールは仮想環境上で動作させることができます。現在、「京」では汎用的な解析ツールがほとんど動作しないため、他のサーバで解析したファイルを「京」に渡して・・・などと解析フローがスムーズではありません。
仮想環境が気軽に作れれば、もっと「京」の利用者や生産性が向上できるのではないかと思います。
(3) 日本の科学技術のさらなるレベルアップを指向し、企業とアカデミアを繋ぐ架け橋となって欲しい。
(4) 企業での有償利用時に、課題毎の申請ではなく、年間利用の契約をしておけば、企業が必要に応じて利用できる制度を設けてほしい。(「京」を民間のクラウドコンピューティングなどと同様に、外部計算リソースの一つとして検討したい)
(5) 「京」利用の際、不慣れなユーザーにも利用しやすいようにサポート体制を充実してほしい(適宜、有償・無償にて電話・メールでのサポートを行うための専門技術員の配置など)
(6) インシリコ創薬においては、ハードウェアのみならずソフトウェアも重要である。ポスト「京」のビッグデータ統合システムの開発で提言されている「製薬会社が現場利用出来る創薬計算基盤の構築」、特に創薬に役立つソフトウェアやワークフローが構築出来ることを期待している。
(7) 計算が高速化されることも重要であるが、計算利用コストを下げ、より利用しやすい環境を整えてほしい。例えば現状、計算時間の制約から単一の計算を複数に分けて実行する必要があるなど、運用体制とニーズが合致していないところがある。利用アプリケーションの特性に合わせた計算が可能となるよう、運用に柔軟性を持たせてほしい。
(8) 研究現場でよりシームレスな利用を可能とするために、市販、公共の別なく産業利用されているソフトウェアの充実を期待したい。
(9) 毎月4日間の大規模並列計算の占有期間について,現在の火曜~金曜でなく,木曜~日曜や,土日を2回にするなど休日と重なるように変更して欲しい.休日の占有利用であれば,平日の通常ジョブへの影響が最小限に抑えられ,より恒常的に高い計算稼働率を実現できると思う.(現在は占有利用明けの土日が空いていてもったいない)
以上
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