平成30年1月18日(木曜日)10時00分~12時00分
文部科学省3階 3F1特別会議室
中野座長、梶田座長代理、駒宮委員、酒井委員、陳委員、徳宿委員、中家委員、早野委員、松本委員、山中委員、横山委員
磯谷研究振興局長、板倉大臣官房審議官(研究振興局担当)、渡辺振興企画課長、岸本基礎研究振興課長、轟素粒子・原子核研究推進室長、吉居加速器科学専門官、三原科学官
高エネルギー加速器研究機構 花垣教授、高エネルギー加速器研究機構 藤井教授
【吉居加速器科学専門官】 おはようございます。それでは、定刻となりましたので、これから国際リニアコライダーに関する有識者会議素粒子原子核物理作業部会を開催させていただきます。
本日は第1回でございますので、まず事務局の方から御説明をさせていただきます。
まず、本日の会議は公開です。冒頭のみカメラ撮影を行いますので、御承知おきください。撮影希望の方はお願いいたします。
本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。先月12月5日に開催されました第8回国際リニアコライダーに関する有識者会議におきまして、本作業部会の設置が決定されました。
本日はその第1回となりますが、まず開会に先立ちまして、事務局より2つ連絡事項がございます。
1つ目、本会議の座長につきましては、先の有識者会議で座長より指名されました、大阪大学の中野先生にお願いしております。どうぞよろしくお願いいたします。
2つ目、後ほど本会議の議事運営でも説明させていただきますが、座長とも事前に相談の上、本日の会議は公開といたします。
それでは、中野座長に進行をお渡しいたしますので、よろしくお願いいたします。
【中野座長】 それでは、国際リニアコライダーに関する有識者会議素粒子原子核物理作業部会(第1回)を開催いたします。本日は御多忙のところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
本会議の座長を務めます中野です。前回座長代理ということでしたが、座長の梶田先生が大変お忙しいということなので、交代になりました。前回の議論を生かす形で進めたいと思います。大半の先生方は前回からお引き続きということで、また新しく委員を務められる方も、昔からこの分野で活躍されてこられた方で大変信頼しておりますので、よろしくお願いいたします。
それでは、カメラの撮影はここまでとさせていただきます。
続いて、本日御出席いただいております委員と、文部科学省からの出席者について、事務局より紹介させていただきたいと思います。第1回ですので、委員の方は、紹介されましたら、簡単に一言ずつ御挨拶をお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 それでは、本日御出席いただいております委員の皆様を、資料2に委員名簿がございますので、その名簿順に御紹介をさせていただきます。お手元の座席表と合わせて御覧いただければと思います。
東京大学、梶田委員でございます。
【梶田委員】 梶田です。よろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 東京大学、駒宮委員でございます。
【駒宮委員】 駒宮です。前回も委員でした。よろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 理化学研究所、酒井委員でございます。
【酒井委員】 酒井です。遅れまして申し訳ありません。前回も委員でしたが、またこれがあるとは想像していませんでしたので驚いています。
【吉居加速器科学専門官】 名古屋大学の棚橋委員は、本日所用で御欠席でございます。
高エネルギー加速器研究機構、陳委員でございます。
【陳委員】 陳です。よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 高エネルギー加速器研究機構、徳宿委員でございます。
【徳宿委員】 徳宿です。よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 京都大学、中家委員でございます。
【中家委員】 京都大学、中家です。前回も委員でした。よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 理化学研究所、初田委員は、本日御欠席でございます。
東京大学名誉教授、早野委員でございます。
【早野委員】 早野でございます。今回から委員です。20年間CERNでグループリーダーをやっておりました。
【吉居加速器科学専門官】 東京大学、松本委員でございます。
【松本委員】 松本です。前回も委員でした。どうぞよろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 大阪大学、山中委員でございます。
【山中委員】 山中です。J-PARCでK中間子の実験をやっています。前回も委員でした。よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 東京大学、横山委員でございます。
【横山委員】 横山です。前回からです。どうぞよろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 ありがとうございます。本日は11名の委員に出席いただいており、定足数の7名を満たしておりますので、会議は有効に成立しております。
また、素粒子物理分野の文部科学省科学官・高エネルギー加速器研究機構の三原先生にも御出席いただいております。
【三原科学官】 よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 そして、本日御発表いただくため、ATLAS JAPAN代表を務めておられる、高エネルギー加速器研究機構教授の花垣先生、それから、リニアコライダー・コラボレーション物理作業部会共同議長を務めておられます、高エネルギー加速器研究機構教授の藤井先生にも御出席いただいております。
続きまして、文部科学省からの出席者を紹介させていただきます。
研究振興局長、磯谷でございます。
【磯谷研究振興局長】 磯谷です。どうぞよろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 研究振興局担当大臣官房審議官、板倉でございます。
【板倉大臣官房審議官】 板倉でございます。よろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 振興企画課長、渡辺でございます。
【渡辺振興企画課長】 渡辺です。よろしくお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 基礎研究振興課長、岸本でございます。
【岸本基礎研究振興課長】 よろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室長、轟でございます。
【轟素粒子・原子核研究推進室長】 轟です。よろしくお願いいたします。
【吉居加速器科学専門官】 私は専門官の吉居です。どうぞよろしくお願いいたします。
事務局からは以上です。
【中野座長】 それでは、第1回作業部会の開会に当たり、磯谷局長より一言御挨拶頂きたいと思います。
【磯谷研究振興局長】 ありがとうございます。改めまして、私、16日付けで関前局長の後に就任しました振興局長の磯谷でございます。国立大学は4度ほど経験しておりまして、研究3局もこれで6回目になるので、今までもいろいろなところで先生方に本当にお世話になっておりましたけれども、学術振興、基礎研究の推進ということで、先生方の御助言、御指導頂きながら頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。
この国際リニアコライダーに関する有識者会議素粒子原子核物理作業部会の開催に当たりまして、一言御挨拶を申し上げたいと思います。まずは、この作業部会に御参加いただくことになった委員各位におかれては、またこの作業部会かという御発言もありましたけれども、本当に御多忙の折、御協力いただきまして、心より感謝申し上げたいと思います。
この作業部会は、平成26年度に一度設置されまして、リニアコライダーの科学的意義を中心に報告をおまとめいただきました。その後、昨年11月にILC計画の見直しについて、LCBリニアコライダー国際推進委員会において審議されまして、ICFA、国際将来加速器委員会の承認を経て公表されたところでございます。また当初、2017年末までの計画として実施されてきましたCERN、欧州合同原子核研究機関における実験の動向につきましても、実験は2018年末まで継続されているものの、これまでの結果からある程度の見通しが得られているというふうにも聞いております。
こうした状況を踏まえまして、本作業部会が再度設置されることとなりました。今回は、計画の見直しによって特に変更された点を中心に、具体的には500GeVから250GeVになるILCの科学的な意義について検証いただきたいというのが本会議の趣旨でございます。限られた期間で集中的に御議論いただくことになりますが、どうか御協力をよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。
【中野座長】 それでは続いて、事務局より配付資料の確認をお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 お手元の資料を御覧ください。本日の資料、資料1は「素粒子原子核物理作業部会の設置について」、資料2は先ほどの委員名簿、資料3が本作業部会の運営規則案、資料4がクリップで留められております「前回からのILC計画を巡る状況について」、資料5番が本日花垣先生から御発表いただくCERNの状況についての資料、資料6が藤井先生から御発表いただく「250GeV ILCの物理の意義」、資料7が今後のスケジュール。それから、その後ろに参考資料が1から9付いております。英文の資料には日本語訳を付けておりますが、詳しくは後ほど議題2で御説明させていただきます。
また、机上資料としましてドッチファイルを置いております。これまでの関連資料をとじておりますので、適宜御覧いただければと思います。
以上、不足の資料がありましたら、お知らせ願います。
【中野座長】 ありがとうございます。
それでは、議事に入ります。議題1として、本会議の公開の在り方等、議事運営の方法等について、事務局から説明をお願いします。
【吉居加速器科学専門官】 今ほどの資料1から御説明いたします。資料1を御覧ください。本作業部会の設置について、設置の趣旨でございますが、短いので読み上げます。
国際リニアコライダー計画が目指す研究内容について、世界各国で検討されている素粒子・原子核物理分野の将来構想を踏まえ、中長期的な視点も含めて専門的見地から検討を行うため、国際リニアコライダーに関する有識者会議の下に「素粒子原子核物理作業部会」を設置する。
ここまでは前回と同様でございまして、ここからが追加でございます。平成29年11月に国際研究者コミュニティから公表されたILC計画の見直しについて、特に科学的意義について検証し、留意すべき点について専門的見地から検討を行うとされています。
検討事項は、平成29年11月に公表されたILC計画の見直しについて、その科学的意義、それから、その他関連する事項となってございます。
以上が資料1でございます。
続いて、資料3でございます。本作業部会の運営規則(案)でございますが、重要なところだけ読み上げます。
第2条第3項、座長が作業部会に出席できない場合は、あらかじめ座長の指名する委員が、その職務を代理する。
第3条、作業部会は、作業部会委員の過半数が出席しなければ、作業部会を開くことはできない。
第5条、作業部会は原則として公開する。ただし、座長が会議を公開しないことが適当であるとしたときは、この限りではない。
第6条、座長は、作業部会における審議の内容等を、議事概要の公表その他の適当な方法により公表するとされております。
以上でございます。
【中野座長】 ただいまの説明に関し、御意見、御質問等ありますか。
ございませんようですので、それでは、本会議の議事運営につきましては、資料3のとおり決定させていただきます。
また、座長代理につきましては、運営規則第2条第3項に基づき座長が指名することとなっております。つきましては、梶田先生にお願いしたいと考えますが、よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【中野座長】 それでは、梶田先生、よろしくお願いいたします。
【梶田座長代理】 よろしくお願いします。
【中野座長】 それでは、次の議題に参ります。本作業部会は、平成26年度に計8回開催され、報告書をまとめました。その後、現在までの有識者会議、海外の研究者コミュニティ等の状況について、事務局より説明いただきたいと思います。それでは、事務局、よろしくお願いいたします。
【轟素粒子・原子核研究推進室長】 前回の当作業部会を含め、ILC計画を巡る状況について御説明いたします。資料4に沿って、時系列で御説明しながら、適宜、参考資料の内容も御紹介させていただきたいと思っております。
まず、資料4。平成25年5月に文部科学省から日本学術会議へILCに関する審議を依頼しました。同年9月にその回答がありましたが、それが参考1、1ページ、次のページでございます。その中では、ILC計画の我が国における本格実施を現時点、平成25年時点において認めることは時期尚早であり、ILC計画の実施の可否判断に向けた諸課題の調査・検討を政府においても進めることが提言されました。
これを受けまして、また資料4に戻りますが、平成26年5月に文部科学省に有識者会議を設置しました。参考2、3ページを御覧ください。学術会議によって示された重要課題について専門的な観点から検討を行うため、まず素粒子原子核物理作業部会、当部会と、技術設計報告書(TDR)検証作業部会を立ち上げて御議論をいただき、それぞれ作業部会としての報告を取りまとめいただきました。
次のページ、参考3でございます。これが前回当作業部会において取りまとめいただいた報告です。簡単に振り返りますと、1ポツで科学的意義、特にCERNのLHCの実験スケジュールが示されまして、少し飛びまして、6ポツ、9ページですが、LHCの成果を踏まえたILC等のシナリオが示されました。それを分かりやすく示していただいたものが11ページにある表ですが、「LHCの13TeV運転の成果に応じた500GeV ILCのビジョン」ということで分かりやすくおまとめいただいたというところでございます。
また資料4に戻ります。この本部会からの報告とTDR検証作業部会からの報告を踏まえて、平成27年6月の有識者会議において、「これまでの議論のまとめ」が報告書として取りまとめられました。その提言部分を抜粋したものが、参考4、13ページとなります。これは重要な提言ですので、御紹介をさせていただきます。
提言1、ILC計画は巨額の投資が必要であり、一国のみで実現することはできず、国際的な経費分担が必要不可欠な計画である。巨額の投資に見合う科学的成果が得られるべきであるとの観点から、標準理論を超える新展開のために、ヒッグス粒子及びトップクォークの精密測定のみならず、新粒子の発見の可能性についても見通しを得るべき。
提言2、ILCの性能、得られる成果等については、2017年末までの計画として実施されているLHCでの実験結果に基づき見極めることが必要であることから、LHCの動向を注視し、分析・評価すべき。併せて、技術面での課題の解決やコスト面でのリスクの低減について明確にすることが必要。
提言3、提言1及び提言2に関する事項を含めて計画の全体像を明確に示しつつ、国民及び科学コミュニティの理解を得ることが必要とされました。
今回再設置されました当作業部会においては、これらの報告や提言を十分に踏まえて再検証を進めていただく必要があろうかと思いますので、是非御留意をいただければと思います。
また資料4に戻ります。その後ですが、有識者会議においては、平成28年7月に「人材の確保・育成方策の検証に関する報告書」を、平成29年7月には「体制及びマネジメントの在り方の検証に関する報告書」を取りまとめて公表をしております。
これとは別に、参考5を御覧いただきたいのですが、15ページになります。有識者会議における検証とは別に、平成28年5月に米国エネルギー省と文部科学省による日米ディスカッショングループを設置しております。これまでの意見交換により、ILC計画の実現可能性を高めるためにも大幅なコスト削減が重要との共通認識の下で、KEKとフェルミ国立加速器研究所の間で、コスト削減に向けた日米共同研究を開始しております。
以上、行政レベルではこうした検討を行ってきた中で、昨年11月ですが、研究者コミュニティにおいてカナダで開催されたリニアコライダー国際推進委員会、LCBと、国際将来加速器委員会、ICFAが開催されまして、ILC計画の見直しが公表されたという次第でございます。この計画の見直しに関する資料は、大部になりますので、この資料4とは別途、参考資料という形で右肩に書いてある資料で整理させていただいております。
簡単に資料について御紹介させていただきます。まず、一番最後にあるかと思いますけれども、参考資料9を横に御覧いただきながらお聞きいただければと思います。今回、研究者組織のLCC、リニアコライダー・コラボレーションでILC計画の見直し案がまとめられました。見直し案は、科学的意義と装置・マシン、この2部から構成されております。参考資料3がその科学的意義のレポート、参考資料4が装置のレポートとなっております。それぞれ参考として日本語訳を付けております。
また参考資料9を御覧いただきたいのですが、その2部から構成されている見直し案が、LCCから上位のLCB、リニアコライダー国際推進委員会において審議をされ、さらに上位のICFA、国際将来加速器委員会に諮られた後、11月に公表されているというところでございます。その際、LCB、ICFAからそれぞれ声明が発表されております。参考資料1がLCBからの声明、参考資料2がICFAからの声明となっております。それぞれ裏側には日本語の仮訳を付けてございます。
また、これらの検討に先立って、昨年の7月に日本国内の素粒子物理学の研究者組織である高エネルギー物理学研究者会議、略してJAHEPにおいて、ILCを500GeVから250GeVとして早期に建設することを提案する声明が出されており、これが参考資料5となります。
以上の資料のうち特に重要となりますのが、参考資料1、LCBの声明となりますので、概要を御紹介いたします。参考資料1の裏側にある日本語訳を御覧ください。LCBの声明では、第1段落で、LCBとJAHEPの検討結果は、ヒッグス・ファクトリーとして250GeVのILCを建設することには十分な物理的意義があることを示しているとし、第2段落で、当初提案されていた500GeVのILCと比較して加速器のコストが最大40%低下すると推定され、これらの理由から、LCBは、250GeVのILCを日本に建設することを強く支持し、日本政府が当該提案を本格的に検討していただけるよう推奨するとしています。また、第3段落で、最近の同様の国際プロジェクトの例では、ホスト国が主要な費用負担を行っており、加速器をホストすることが明確に意思表示されれば、日本と国際的なパートナーとの交渉が開始され、また他国の関係者とも可能な貢献について自国政府と有意義な議論を開始することが可能になると述べられています。
その下、脚注1に、ILCと近い分野の最近の例として、ドイツにある欧州XFELとFAIRの記述がございます。これについては、参考資料6と7にプロジェクトの概要がありますので、そちらを御覧ください。まず参考資料6、欧州XFELは、建設コストが約1,640億円で、費用分担はドイツが58%、それから、参考資料7のFAIRは、建設コストが約1,700億円で、費用分担はドイツが約75%となっており、いずれもホスト国が主要な費用負担を行うプロジェクトということで、ILCと近いプロジェクトとして例示されているというところでございます。
以上、今般の研究者コミュニティにおけるILC計画の見直しの概要ですが、これを受けて、先月第8回有識者会議が開催されまして、素粒子原子核物理作業部会、本部会と、TDR検証作業部会の再設置が決定されたという次第でございます。本部会においては、本日この後、CERNにおける実験の進展状況について花垣先生から、今般のILC計画の見直しのうち科学的意義について藤井先生から御説明をいただき、委員の皆様に専門的見地からの検証をお願いするものです。どうぞよろしくお願いいたします。
【中野座長】 ただいまの説明に関して、何か御質問等ございましたら、お願いいたします。よろしいですか。
それでは、次の議題に参ります。ただいま轟室長からも御説明ありましたように、議題3は、CERNにおける実験の進展状況についてです。有識者会議で平成27年にまとめました報告書「これまでの議論のまとめ」では、提言の1つに、「ILCの性能、得られる成果等については、2017年末までの計画として実施されているLHCでの実験結果に基づき見極めることが必要であることから、LHCの動向を注視し、分析・評価すべき」とあります。
当初のCERN-LHCにおける実験計画は2017年末までとされていましたが、その後変更され、現在は2018年末まで実験を行う予定ということです。しかしながら、これまでの実験結果からある程度の見通しが得られているとのお話も伺っておりますので、現在の状況として御説明をいただきたいと思います。
本日は、CERN-ATLAS実験において日本代表を務めておられる高エネルギー加速器研究機構教授、花垣先生にいらしていただいております。先生には、CERNの状況と併せて、前回の報告書において確認事項となっていた点についてもお答えいただける範囲で御説明していただきたいと思います。それでは、花垣先生、よろしくお願いいたします。
【花垣教授】 おはようございます。KEKの花垣です。御照会いただいたとおり、これからCERNにおける実験の進捗状況について御説明いたします。
まず背景ですが、これは、既に説明されていますので省きます。発表しますことは、こういう背景を受けまして、ATLASを中心に、重心系エネルギー13TeVで実験を行った結果を紹介しまして、前回の提言に対するコメントをいたします。
まずLHC/ATLAS実験の概要ですが、LHC実験は、ジュネーブ近郊にあるCERN研究所において行われております。周長27キロの陽子・陽子衝突型加速器で、衝突点が4か所あります。そのうちの1つがATLAS実験で、本日の結果はこのATLAS実験の結果を中心にお話しします。
まず最初が、LHCの加速器の現状です。LHCは極めて順調に陽子・陽子衝突実験を行っております。ここに示しました図は、横軸が2017年の日付でして、その日ごとに最高の瞬間ルミノシティがどれだけだったかというものを示したものです。ここで見て取れますように、安定して15掛ける10の33乗というルミノシティを達成しております。実際には20掛ける10の33乗まで到達することができるのですが、実験家からの要請で、ルミノシティレベリングを行っていまして、15掛ける10の33乗で実験を行っているという状況です。このルミノシティは設計値の2倍でありまして、いかにLHCが順調かということを示していると思います。さらに、陽子のバンチ数はまだこれから増やすことができますので、加速器としてはまだどんどんルミノシティを上げることが可能です。
一方、ATLAS検出器ですが、ATLAS検出器も非常に順調に実験を行っております。左に示しました図は、陽子・陽子交叉当たりに生成される衝突事象数を示したものです。これは2016年と2017年合計の分布が示されています。設計値は23から24程度ですが、ここに示しますように、2017年は大幅にそれよりも大きな衝突数が得られています。ですので、検出器としては、検出器の設計値も当然この23を目標に作っておりますので、検出器の運用は非常に困難な状況で実験を行っているということになります。
ですが、その高いルミノシティにも検出器は非常によく対応しております。例えばこの右側の図は、横軸が左と同様に陽子・陽子交叉当たりに生成される衝突事象数で、縦軸は、ある1つの検出器、ピクセル検出器のデータ収集における異常の割合を示している図とお考えください。この黒点が2016年、それから、データ収集システムの改良を図りまして、2016年のデータ収集改良後が青、それから、2017年が赤というふうに、データ収集の異常が非常に抑えられているということです。ILCに対する直接のインプットではないのですが、LHCをやっている人間として、こういう性能で運転できているということは非常に誇らしいと考えております。
また、このデータ収集システムの改善には、日本グループが大きな貢献をしております。下の表は、各検出器が運転可能だった時間の割合を示しております。これだけのサブコンポーネントがありますが、赤印で付けたものが日本グループが建設・運用に関わっているものです。ここに見て分かりますように、日本グループが関わっている検出器は非常に優秀であるということが言えます。
運転計画と、本日お話しするデータに関する御説明をします。何度か説明されていますが、LHCは、当初の予定では2017年一杯まで重心系13TeVのエネルギーで走るという予定でしたが、その予定が変わりまして、現在の予定はこの表に示されたようになっております。13TeVで2018年まで走り、2年間のシャットダウンの後、さらに2021年から3年間、その後、加速器の高輝度化が予定されております。
本日御説明するデータセットについてですが、この下の図に示しましたのが、積分ルミノシティの変化です。重心系7TeVで衝突実験を始めて、8TeV、さらに2015年から13TeVの実験を開始しまして、2016年のデータセット。本日の結果は、主にはこの2016年に収集したデータを解析した結果をお見せします。
早速、物理結果のまとめに入りたいと思います。非常に多くの結果が得られておりますが、ILCに対するインプットとして重要になるものだけをかいつまんでお話しします。まずはヒッグス粒子についてです。右の図、これがヒッグス粒子の生成断面積の測定結果です。横軸が重心系エネルギーで7TeV、8TeV、それから、13TeVの結果を重ね描きしております。一方、青いバンドで示されたもの、これが理論計算です。7TeV、8TeV、13TeVともに、測定誤差はまだまだこれから抑える必要がありますが、この図から分かるのは、標準模型の理論予測と一致しているということが現状で言えることとなります。
また、ここで1つ強調したいのは、この左下の図ですが、これはヒッグス粒子生成断面積の理論計算予測を示したものです。違う色が何を示しているかといいますと、リーディングオーダー、ネクストリーディングオーダーというように、計算の精度を上げるとどういうふうに変化するかというものを示したもので、13TeVの位置はここになります。ここに示した理論カーブ、実験と比較しているのは最も高精度な理論計算です。何が言いたいかといいますと、理論計算も精度を上げないと実験結果と大きくずれてしまうということです。実験家が頑張ると同時に理論計算もしっかり行って、それによって初めて実験データとの比較を行い、新しい標準模型とのずれがあるかどうかを検証することができるということで、理論計算との協働がこの分野では不可欠と言えます。
次にお見せするのは、ヒッグスがフェルミオン対に崩壊する事象についてです。ヒッグスがττ、それから、bbに行く事象についての探索結果です。左側がヒッグス→ττの探索におけるττのマス分布、それから、右側がbクォーク対から計算したマス分布です。どちらも点がデータで、それから、ヒストグラムが予想される背景事象の分布となっております。τ、それから、b、どちらについてもヒッグスからの崩壊とおぼしき事象が観測されております。
この結果をまた標準模型の予想から比較します。左側がヒッグス→ττ、それから、右側がヒッグス→bbにおける分布で、横軸は観測した事象数と標準模型から予測される事象数の比を取ったものです。すなわち、この値が1であれば、標準模型の予測とぴったり一致しておりますし、1から大きくずれていると、標準模型ではない何かがあるということになります。幾つか点がありますが、左側にあります幾つかの点の違いは、τの崩壊モードの違いを示したもので、一番下がそれら全てを合わせた結果となります。また、右側は、重心系エネルギーに分けて分布を取っておりますが、一番下がこれまた全ての結果を足し合わせたものです。結論としましては、観測事象数は標準模型で予言される事象数と誤差の範囲内で一致しているということで、ヒッグス粒子とフェルミオンの結合についても、現在のところ、標準模型と一致しているということです。
それから、次に、トップクォークとWボソンの質量測定の結果をお話しします。このトップクォークとWボソンの質量測定から、標準模型にずれがあるかどうかということを探索することができます。最近、2017年にATLASは高精度のW質量の測定結果を公表しました。その結果を示したのが左の図です。
上から、LEP実験、これはCERNでLHCの前に行われていた実験ですが、その結果、それから、アメリカのTevatron実験、それから、3番目はLEP実験とTevatron実験を合わせて平均したもの、そして、ATLAS実験の単独の測定結果をここに示しております。この測定精度は、単独の実験としましては過去最高であったフェルミラボCDF実験と並んでおりまして、ATLAS実験はまだ続いていますので、今後、世界で最も精度のよいW質量の測定が可能と言えます。一番下に示した点は、Wマス、それから、ヒッグスの測定等からグローバル解析をしてWの質量を予測したもので、ある意味、標準模型からの予言値と考えることができます。これも見て分かりますように、標準模型の予言値とATLASの測定値は、測定誤差の範囲内で一致している。また、右側に関しましては、W質量とトップクォークの質量の二次元分布を取ったものです。これも標準模型の予言と合っているということで、ヒッグスの精密測定と併せて、現状、標準模型に関する測定からは、予言からのずれがないという状況です。
次に、重い粒子の探索結果に移行します。このイベントディスプレイは、LHC-ATLAS実験で観測したダイジェット事象で一番インバリアントマスの大きかった事象です。重心系13TeVで実験を行って、このインバリアントマスは9.3TeVですので、クォーク・クォーク、陽子・陽子衝突のエネルギーの大部分が使われたという非常にまれな事象です。LHCが得意としますのは、このような重い事象を生成する、そして、それを観測するというのが得意分野ですので、それについての結果をお話しします。
まずは電子対あるいはμ粒子対に崩壊する未知粒子の探索結果です。左が電子対、右側がμ粒子対の測定結果です。横軸が双方ともにインバリアントマス、縦軸が観測事象数です。点が観測した事象数、それから、ヒストグラムが様々な標準模型による背景事象の予測となっております。下は、観測した事象数を予想される背景事象数で割ったものを示しております。これが1からずれるということは、標準模型の予測からずれた何かがあるということですが、これらの図を見て分かりますように、標準模型の予言値と観測数は一致しております。ちなみに、何か粒子があった場合は、この赤、緑等で示した分布のように、背景事象の上に何かこういう過度な事象数、エクセスを観測すると期待できますが、そういうものはまだ見つかっておりません。
次に、2015年に話題になった、750GeVの未知粒子が存在するのではないかと言われたその結果についてお話しします。この分布は2つの光子を捕まえて、その光子からインバリアントマスを組んだものです。例えば左の図を見ていただくと、この赤が予想される背景事象で、点が観測事象数ですが、ここら辺に背景事象数よりも事象数が多い。右側も同じデータを別の解析をした結果ですが、やはりここにエクセスがある。この質量が大体750GeV程度ということで、750GeVの質量を持って2つの光子に崩壊する粒子があるのではないかと一時話題になりました。ちなみに、グローバルシグニフィカンスで2.1σ、ローカルシグニフィカンスで3.8σの有意度でこのエクセスを観測しておりました。
ですが、2016年に収集したデータを加えた結果を見ますと、それがこの左下に示したものですけれども、背景事象数の予想と観測事象数が一致してしまったと。下は観測事象数を予想事象数で割ったものですが、エクセスは消えてなくなったということでして、2015年の超過は統計のふらつきによるものであったと私たちは考えています。
それから、暗黒物質の探索状況についても一言だけ説明しておきます。説明は省略しますが、結果だけ言いますと、暗黒物質は発見できておりません。この右図がその状況を示したものです。横軸が暗黒物質の質量、縦軸が暗黒物質と原子核との反応断面積に焼き直したものです。この黄色、緑が地下実験による直接探索の結果、それから、ATLASの結果は赤あるいは緑、青で示したもので、この赤や緑、青で示した部分についてはATLASでも探索をしましたが、暗黒物質が見つからなかったという結果になります。
最後に、超対称性探索について一言申し上げます。ここに示しました表は、私たち素粒子物理学をやっていて非常に重要な謎、しかもその謎というのは、私たち人類の存在に関わるような大きな謎が幾つもありますが、それをいかなる物理シナリオで説明ができるかというものを示したものです。このようにたくさん重要な謎がありますが、その中でも超対称性というのは、それら全てをほぼ答え得る、逆に言うと、何か単一の謎を説明するために考えられた理論というよりも、この理論があることによってこういう様々な謎を解決できるということで、超対称性というのは非常に魅力的な理論模型でありまして、標準模型を超える様々なシナリオがありますが、その中でも代表格と言えます。
超対称性探索は私たちの目玉でありまして、まずはグルイーノ探索結果です。グルイーノあるいはスクォークは強い相互作用によって生成されまして、その後、一番軽い超対称性粒子まで雪崩式に崩壊をしていきます。この最も軽い超対称性粒子を検出することができませんので、観測としては、エネルギーが失われた、大きな消失エネルギーの探索が超対称性探索と言えます。
右に示した図は、観測したジェットなどのエネルギーの総和、それに加えて消失エネルギーを加えたもの、その分布です。この色付きのヒストグラムが標準模型による背景事象の予測で、点が観測値となります。もし超対称性、グルイーノが存在しますと、このピンクの図のように背景事象よりも大きなところに何らかのエクセスが見えると予想されますが、残念ながらそういう事象は観測しておりません。
加えまして様々な解析を行いまして、現状、グルイーノを発見できておりません。その結果をまとめた図がこれになります。横軸がグルイーノ質量、縦軸が最も軽い、ニュートラリーノと呼ばれる粒子の質量の二次元上で、各線で囲んだ領域の左下側、この領域には、超対称性粒子、これらの粒子が存在しなかったということを示しております。
ちなみにですが、このグルイーノ質量が重くて、こっちの領域でニュートラリーノが軽い、この領域といいますのはどういう模型が考えられるかといいますと、私たちが観測している、実験しているこの世界よりもより高いエネルギースケールでは、様々な粒子がほとんど同じような質量を持っていて、それが繰り込みによってエネルギー質量が変わり、質量差が生じたと考えられる、こういうパターンの探索がこちらの領域。それから、グルイーノ質量とニュートラリーノ質量が縮退している場合、こちらというのは、高いエネルギースケールでは違った質量を持っていたけれども、同じく繰り込みによって質量、エネルギーが変化することによって、現在我々が存在する、観測する世界では、グルイーノと次に軽い粒子たちの質量が同じ世界だというふうに考えることができます。
こちらに関しましては、グルイーノ質量が重い部分に関しましては2TeVというところまで行っていますので、注目は、こちらの方にもっと、質量が縮退した場合に粒子がないかという探索も行っています。その場合は、ここに示しましたようにグルイーノが長寿命を持つということが考えられて、長寿命粒子ということは、ここで例えば描きましたこの青点が陽子・陽子衝突地点で、そこでグルイーノは生成されますが、長寿命を持って少し飛ぶ。飛んだ後に崩壊しますので、長寿命粒子プラス消失エネルギーというのが探すべき信号となりますが、現在のところ、こういう探索も行っておりますが、有意な兆候は見つかっていません。
また、強い相互作用をしないゲージーノ粒子の探索も行っています。これらの解析では、先に示しましたように、グルイーノ質量は非常に重いところまでないので、これらはスクォークやらグルイーノは重いと仮定しまして、ゲージーノだけが生成されて、それらがやはりまた雪崩式崩壊するという状況を想定した解析となっております。残念ながら、この解析でも信号は発見されていません。除外領域を示したものがこのプロットであります。横軸が探しているゲージーノの質量、縦軸が最も軽いニュートラリーノの質量で、先ほどと同様のコンベンションで、この線の下側部分には新粒子は見つからなかったということを示しております。
また、重いヒッグスの探索も行っておりますが、一言で言いますと、新粒子は見つかっていないということを示しているのがこの図です。横軸が探している重いヒッグス粒子の質量で、縦軸は超対称性模型におけるパラメータの1つであるtanβというパラメータ分布。このパラメータ空間において、この領域、色塗りされている領域には新粒子は存在しない、重いヒッグスは存在しないということを示した図となっています。
以上が物理成果の現状です。一言でまとめますと、ヒッグス粒子及びWボソン、トップクォーク質量の精密測定の結果からは、標準模型のずれは観測しておりません。また、超対称性粒子など標準模型の枠外の新粒子、新現象の兆候もありません。ただし、これは超対称性粒子などが存在しないということを言っているわけではなく、現状LHCで探している領域にないということですので、LHCでは今後更に統計を増やして、感度の向上を目指しております。
最後に、前回2015年の物理作業部会における報告で出されたシナリオ、これについてのコメントをいたします。提言でのシナリオとしましては(1) 、(2) 、(3)の3つがあります。13TeV LHCで新粒子が発見された場合、新現象が発見された場合、それから、発見されない場合という3つのシナリオが提示されまして、私たちの現状から言えることは、新粒子・新現象は現在のところ未発見になります。また、今後、新粒子や新現象の観測の可能性はもちろん大いにあると思っておりますが、ILCで到達可能なエネルギーでは、その発見の可能性は低いと考えられます。ですので、このシナリオとしては、13TeV LHCの成果を踏まえたシナリオとしては(3)というふうに考えてよいのではないかと思います。
また、提言1に対するコメントとしましては、読み上げます。LHCのこれまでの実験結果から、500GeV ILCで到達可能なエネルギー領域に新粒子が存在する可能性は低いのではないかと思っています。LHCで棄却できていないわずかなパラメータ空間はありまして、そこに新粒子が存在する可能性はもちろん棄却できておりませんので否定はできないですけれども、今後LHCの統計を更に増やしたとしても、そのパラメータ空間の探索感度に劇的な向上は見られません。ですので、今後、ILCで新粒子発見の可能性を更に議論しようと思ったとしても、これ以上のデータ、LHCからの新たなるインプットはないとお考えいただくのがよいと思います。
また、提言2に対しましては、端的に言いますと、LHCでは現在のところ、新粒子・新現象の兆候は、残念ながらございません。これを踏まえて、この作業部会では、ILCの性能や物理成果を考えていただくのがよいのではないかと考えます。
以上です。
【中野座長】 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明に関し何か御質問等ございましたら、お願いいたします。挙手をお願いします。
それでは、口火ということもないですが、私から質問したいと思います。結果のうち、精密測定というか、精密測定に入り始めたというところで、10ページの結果なんですけれども、その右上の図で、μとτですよね。それで、上の2つの点、かなりゼロにエラーバーが近いんですけれども……。
【花垣教授】 これですか。
【中野座長】 はい。それ、バックグラウンドが問題になっているということなんでしょうか、今のところ。
【花垣教授】 τの場合は、bbもですけれども、基本的にはSNは非常に悪いんですね。これが生の分布でして、点がデータで、ヒストグラムが予想される背景事象数。ここの小さなやつが予想される背景事象を引いた分布でして、わずかなエクセスというのは、今見えているのはこの部分なので、これ、全部合計しているものですけれども、解析モードによっては観測点が背景事象よりもちょっと下がる。ちょっと下がるとSNがすごく悪いので、この予想数からは大きく下に行ってしまいます。
【中野座長】 ということは、今後、統計量が上がっても、なかなかバックグラウンドを引かないといけないので、劇的に精度が上がりにくいというのはこういうモードというふうに考えてよろしいでしょうか。
【花垣教授】 バックグラウンドリミテッドですから、スクエアルート事象数の改善というのはナイーブな予想となります。
【中野座長】 分かりました。どうも。
ほかに。どうぞ。
【山中委員】 関連して。例えばハイルミLHCでやったときに、これらの測定がどこまで小さくなりそうですか。
【花垣教授】 現状、測定誤差が例えばこれ、28だから25%程度、こちらも20%、25%程度ですけれども、ハイルミLHCですと、これらの2つでは10%を何とか頑張って切れるか程度だと思います。当然御存じかとは思いますが……、ILCだとその10分の1という感じです。
【中野座長】 どうぞ、中家先生。
【中家委員】 17ページの、いろいろな模型を紹介してもらって、超対称性が全てを説明するとあったんですが、これ多分、超対称性のエネルギーをどこに設定するかによるか、どのエネルギーでもよければ、いろいろなところに残るのはどのエネルギーによるかというのと、そのときに、LHCの将来計画としては、やはり超対称性なのか、それとも、ヒッグス粒子を通して、まだ見ない、ヒッグス粒子の唯一の生成マシンであるので、もっとヒッグスの精密測定の方がメインなのか。絡んでいたら絡んでいたでもいいんですが。
【花垣教授】 まずこの図は、専門家向けではなく一般向けなので、そこは御容赦いただいて。いろいろなエネルギースケールとかそういう細かな模型等ありますが、私が多分ここで言いたかったのは、超対称性というのは、ある意味トップダウンで、それは模型があることによっていろいろな様々なことが説明できる。一方、例えばこういう見えない領域、ヒドンセクターを仮定しているなんていうのは、単に暗黒物質の説明をするためのみにある意味作った模型であると。だから、それが説明できて当然なんだけれども、そうではなくて、超対称性というものがあると、いろいろなことが実は全て解決できるというところに超対称性のすごさがある。だからこそ一番興味深いのではないかということを一般論として伝えるためのものなので、それ以上については御容赦ください。
それから、LHCが今後どういう方向に向かっていくかですけれども、個人的な意見は、やはり二本立てだと思っております。新粒子の探索、これはやっぱり一番得意な分野ですので、これは絶対にやらないといけないし、ILCが仮に出来たとしても、LHCのみで探索可能な領域がたくさんありますので、新粒子探索は絶対に行いたい、間違いない柱だと思っています。
一方で、現在の測定誤差、先ほども出てきましたが、フェルミオンとのカップリングはまだやっと30%を切ったというレベルですので、当然この測定誤差を抑えていくということは重要だと考えています。特に、ゲージボソンとのカップリングは、電弱対称性の破れからきれいに説明できますけれども、フェルミオンとのカップリングというのは非常にある意味恣意的な部分で、こういうカップリングを仮定すると現象がうまく説明できると言っているだけであって、第一原理から湯川結合がなければならないというわけではない。やはり私の個人的な見解としては、湯川結合というのは非常に怪しいと思っていますので、これがたとえ30%が10%でも大きな進展であって、そこにずれがある可能性は大いにあるので、やっぱりヒッグスの精密測定というのは、重い粒子の探索と併せて極めて重要だと思っています。まだヒッグスは発見されて5年しかたっていませんからね。
【中野座長】 松本先生。
【松本委員】 17ページで、細かいことを聞くつもりはないんですけれども、多分次の話に関係すると思いますが、超対称性で一番右側の複合粒子のところにまで線が伸びているんですが、これはどういう意味ですか。
【花垣教授】 それじゃないことが分かるという。
【松本委員】 あ、それじゃないことが分かるという意味ですか。了解です。
あともう1つは、ヒッグスの精密測定で、湯川結合をきちんと精度よく測ることが大事であるということは完全に同意なんですけれども、第2世代のフェルミオンとのカップリングの見通しについてお話しください。
【花垣教授】 ありがとうございます。この運転計画と併せて御説明しますが、Run2、13TeVでの実験は2018年いっぱい行いまして、2年間のシャットダウンの後、2021年からまた更に3年。今現在、合計で100インバース・フェムトバーン程度データ量がたまっていますが、Run3まで行くと、300はたまると考えています。ただし、一番有望視されているヒッグスμμに関しても、Run3のデータでは発見は難しいと思います。そのためにも、LHCの高輝度化は不可欠で、LHCの高輝度化であれば、もし標準模型とのずれがなければですが、観測することが約束された最重要モードの1つと考えています。
【中野座長】 御質問ないでしょうか。
もう1つよろしいですか。25ページですが、ここで500GeV ILCで到達可能なエネルギー領域に新粒子が存在する可能性は低いと、かなり踏み込んだというか、はっきりしたコメントを頂いているんですけれども、その後の説明で、わずかなパラメータ空間に新粒子が存在する可能性は否定できないということがあります。多分この場にいらっしゃる方は何となく分かるんですけれども、それを一般の方にも分かるように説明しようと思うと、どれぐらい可能性が少ないのかという。
【花垣教授】 例えば21ページの図ですけれども、これがゲージーノ探索における棄却領域でして、横軸がゲージーノ質量、縦軸が軽いニュートラリーノの質量です。この縦軸と横軸の等しい斜線、ここですね、ゲージーノ質量と軽いニュートラリーノ質量よりも、我々が原理的に探索できるのは、当然この斜線よりも右下の部分になります。棄却領域が今この赤ですので、例えば仮に超対称性が一番有力だとして、超対称性粒子でILCで探索するとなると、メインな探索というのはこの際、LHCで棄却していなくて、なおかつ存在してもよい、この領域をILCは探索することができるけれども、これを見ると、小さいかなというふうに思います。500GeVで生成できるのは250GeVですから、ペアクリエーションを仮定するとここの辺なので、もしこの超対称性模型を考えると、可能性は低いかなということです。
ただし、もちろん全く人類が予想していない模型に関しては、知らない模型ですので、我々何も言えませんから、その可能性はもちろん私には否定できませんが、新物理の有力な模型である超対称性を考えると、その可能性は結構低いかなと正直思います。
【中野座長】 その質量の差については、今のところ理論で予想するすべがなくて、すべは……、はい、どうぞ。
【松本委員】 この図で見ると確かに小さく見えますけれども、理論的に見ると、そこの縮退している領域にあるのが自然な模型というのも大量にまずあるというのがあるので、どういう図で見るかによって印象が変わるのには注意が必要である点が1点。
もう1つは、さっきの最後のステートメントというのは、LHCで見える範囲で新粒子が発見される可能性が少ないと受け取ってよろしいですか? 例えばどうしてこういうコメントをしたかというと、何か新粒子がいて、クォークやグルオンとかゲージボソンとはカップルしないけれども、レプトンとともにカップルしているような例えば新粒子がいたとすると……。
【花垣教授】 もちろんそれは無理です。
【松本委員】 そうなった場合、LHCではなかなか見つけられないけれども、軽いところにいる可能性はもちろんあるということですか?
【花垣教授】 はい。
【中野座長】 LHCで新粒子が見えないということを花垣さんがおっしゃることは多分難しいと思いますので、そういう質問はしませんが。
【花垣教授】 ありがとうございます。
【中野座長】 ほかに質問ございませんでしょうか。
はい、どうぞ、三原先生。
【三原科学官】 今の最後の方の質問に関してなんですけれども、そこまで狭い領域まで見えないところが分かっているんだとしたら、逆に言うと、そこに本当にあったとしたらどういう信号が見えるかというのは、それなりに予想の付く……。
【花垣教授】 LHCでですか。
【三原科学官】 LHCだと見えないわけだから、例えばILCに行ったときにどういった信号として見えるかというのは、かなりはっきり分かるものなのですか。むしろ松本先生に質問。
【松本委員】 全ての可能性を尽くしたわけではないですけれども、確かにかなり絞られてきて、もしそこに新粒子があるならば、ILCでこうこうこういうプロセスを通じて何かシグナルが見えるはずだ程度は言えます。
【三原科学官】 直接見えないとしても、何か別な影響として見えることは見えますか?
【松本委員】 そうですね、新現象として見えるということです。
【中野座長】 ほかにありませんか。
松本先生、僕、1つだけ質問あるんですけれども、こういうパラメータの空間のプロットを見るとき、いつも実験家とすると、アンイージーというか、ちょっと気持ち悪いところあるんですが、いろいろな理論屋がいて、それぞれ自分の理論が正しいと信じておっしゃっているんだけど、最終的に実験結果が出てきたときに、最後まで生き残っている人の意見が強くなるというようなことはないでしょうか。
【松本委員】 質問の意図を完全に理解しているわけじゃないですけれども……。
【中野座長】 だから、薄いところに初めから……。
【松本委員】 でも、確かにその傾向はあります。つまり、死んだ理論を信じ続ける人は決していないわけで、生きている領域のところに注目が集まってきて、それを最初に言った人が威張っているというのは確かにあるかもしれません。
【中野座長】 こういういろいろ新しい結果が出てきたときに、それをどういうふうに受け取るべきか。だから、LHCが実験結果をたくさん出してきたわけですが、それによって状況が我々どういうふうに変わってきたかというのをフラットに理解するためには、そういうバイアスも取り除いた上でという感じですか。
【松本委員】 そうですね。こういう場合は、だから、実験結果を真摯に受け止めて、もう見えないところに、重いところには全部ないという立場と、まだ軽いところにあるんだけども、軽いところの粒子の性質が絞られてきたと見るという2つを両方とも同時に考えるというのが理論屋さんの立場だと思います。
【中野座長】 分かりました。
どうもありがとうございました。ほかに御質問ありませんか。
ないようです。どうもありがとうございました。
それでは、次の議題に参ります。議題4では、ILC計画の見直しについてです。先ほど議題2で事務局からの説明がありましたとおり、昨年11月にILC計画の見直しが公表されています。本会議では、特に科学的意義について検証することとされていますので、公表された2つの報告書のうち、科学的意義が記されている参考資料3の物理的意義の報告書について、内容を確認したいと思います。
本日は、この報告書を取りまとめられた、リニアコライダー・コラボレーション物理作業部会共同議長の高エネルギー加速器研究機構教授、藤井先生にいらしていただいています。それでは、藤井先生、お願いいたします。
【藤井教授】 御紹介にあずかりました藤井でございます。今回は、先ほどの事務局からの説明でも出てきましたLCC物理作業部会が取りまとめた「250GeV国際リニアコライダーの物理の意義について」という、LCBとICFAの声明に向けてのインプットとして用意した報告書の内容に関して御説明させていただきます。
物理作業部会というのは、先ほどの説明にもありましたが、ICFA、それから、LCBの下で、リニアコライダーに関する研究開発を国際的に行っている組織でありますリニアコライダー・コラボレーションの中にある物理測定器の部門、この部門の中にある作業部会で、リニアコライダーの物理に関する検討をするというのを主な任務としてやっている作業部会です。
既に事務局からも御説明ありましたけれども、2017年7月に日本の高エネルギー物理学者会議は、花垣さんのお話にもありましたLHC Run2のこれまでの成果を踏まえて、ILCを重心系250GeVのヒッグス・ファクトリーとして早期に建設することを提案すると、そういう声明が出されました。この250GeVのヒッグス・ファクトリーを早期に建設するという提案に関して、LCB、ICFAの方でも、リニアコライダー・コラボレーションの物理作業部会を通じてその物理的な意義を検討してまいりました。それから、加速器の方の250GeVの見直し案と併せて、2017年11月にLCB、リニアコライダー国際推進会議と、それから、国際将来加速器委員会、ICFAがそれぞれ、やはり250GeVのヒッグス・ファクトリーとしてのILCを早期に実現することが重要であると、そういう声明を出したということでございます。
花垣さんのLHCの現状に関する報告を一言でまとめてしまいますと、LHCでは標準理論を超える物理の兆候は現在のところまだ見えていない。このことが意味することは、LHCがこれまで探してきた探索領域に新粒子がないか、あるとしても、LHCの死角に隠れているということで、これはヒッグスの精密測定の重要度がこれまで以上に高まったということを意味しているということになります。
そもそもヒッグス粒子というのは特別な粒子でございまして、真空に至るところに充満している。標準理論の中で唯一スピンがゼロの自転していない素粒子で、標準理論の全ての質量を持った素粒子に質量を与えている。その与え方ですけれども、先ほどの花垣さんのお話にもありましたけれども、それがほとんど手で入れたパラメータとして質量を与えているという、実験に合うようにパラメータを調整して入れているという状況ですので、標準理論のパラメータというのはほとんどがヒッグス関連の手で入れたパラメータ、そういう状況になっています。ヒッグスというのは、そういう意味でも分からないことを全部集めたような、謎の中心にある。そもそも標準理論では真空にヒッグスが充満しているとしているわけですけれども、真空にヒッグスが充満した理由も全く説明できなくて、ただ単に真空にヒッグスが充満するように手でパラメータを調整しただけということになっています。
LHCのこれまでの研究で見つかったヒッグスが非常に標準理論のヒッグスに性質が似ているということがこれまでのところ分かっているわけですけれども、そのことは必ずしもLHCで見つかったヒッグスが標準理論のヒッグスであるということを意味しているわけではなくて、むしろ先ほど言いましたけれども、ヒッグスが真空を満たした理由を説明できるような、標準理論を超える物理理論では、真空を満たしたヒッグス場が標準理論のそれとは違っているはずであるということが言えます。先ほどもお話にありました超対称性の場合には、ヒッグスに兄弟、ほかのヒッグスが複数個いる、あるいは親戚、ほかのスピンゼロの超対称粒子がいる、そんなことが期待されますし、それから、複合ヒックス模型の場合だと、そもそもヒッグスは素粒子ではないかもしれないということで、やっぱりヒッグスは謎の中心にいるということになります。
それで、ヒッグスを大量に作って調べようということになるわけですけれども、250GeVのILCをヒッグス・ファクトリー、ヒッグス工場として実現しようという、そういう提案につながってくるわけです。
この250GeVというのは特別なエネルギーでありまして、このグラフは、横軸がe+e-衝突の重心系エネルギーで、縦軸がヒッグス生成の生成断面積をプロットしたものです。この赤い線がいわゆるヒッグスストラールングプロセスと呼ばれるもので、Zヒッグスを生成するようなそういう反応ですけれども、それの生成断面積が、図から分かりますように、250GeVで最大になる、ここが一番ヒッグスを作りやすいエネルギーであるということで、2インバース・アトバーンのデータをためると、ヒッグスが約50万個生成できるということになります。あと、これはちょっと頭の片隅に入れておいてほしいんですけれども、250GeVでは、ほかのヒッグスを生成する重要なプロセスであるWWが融合してヒッグスが出来る反応、WW fusion反応と言っていますけれども、この反応断面積は比較的小さいということがあります。とはいえ、たくさん出来るので、たくさんヒッグスを作って精密測定するということになります。
250GeVでいっぱいヒッグスを作って何ができるかということを中心に検討したのが、先ほども言いましたけれども、LCC物理作業部会による250GeV ILCの物理の意義の検討で、これは資料にもあり、日本語も付いていますので、御覧になっていただけたらと思います。
この報告書のイントロのところの一番強調して書かれていることが、これがこの報告書のほとんど結論に近いんですけれども、LCC物理作業部会として一番主張したかったことは、ヒッグス粒子の精密研究こそが、現在まだ利用されていない標準理論を超える新しい物理の発見を可能とする最も重要なプローブであるということです。
これは何を意味しているかというと、ヒッグスのいろいろな粒子との相互作用の強さ、ヒッグス結合定数、ヒッグス結合を精密に測るということが中心になるわけですけれども、それもただ単に相対的な結合の強さを測るんじゃなくて、結合の強さの絶対値を測る。そのことによって、BSMという、Beyond the Standard Model、標準理論を超える物理をテストしたいということが目的になります。
ところが、これまで言われてきたことはどういうことだったかといいますと、250GeVのILCで仮にヒッグスの結合定数の絶対値を測定しようとしたときには、ヒッグスの全崩壊幅を測る必要があるんですけれども、これを測るためには、ヒッグスのWWへの部分幅と、ヒッグスのWWへの分岐比を測って、その比として求めるという方法が通常使われます。この部分幅を測るためには、先ほど出てきたWW融合反応を使う必要があって、この断面積は250GeVでは小さいということで、この統計精度でヒッグスの結合定数の測定がリミットされてしまうと、そういう問題があるというふうにこれまで言われてきました。
最近1年ぐらいの進展で、これに対する非常に有力な解決策が見つかりました。それはEffective Field Theory、有効場理論というフレームワークを使って、WWとヒッグスの結合と、それから、ヒッグスとZZの結合を関係付けることによって、これがなくてもZヒッグス反応を測れば、同様の全崩壊幅の測定ができると、そういう解析の手法が確立してきた。
これはどういうことかというと、Beyond the Standard Model、標準理論を超える物理の効果は、一般に標準理論のラグランジアンに標準理論のゲージ対称性、SU(2)×U(1)を持ったような次元6の演算子を付け加えることによって表現できるということです。この次元6の演算子を付け加えるというのは、ある意味、標準理論を超える物理を表現する上での一番リーディングオーダーのコントリビューションを入れるということですけれども、この近似が非常にいいということは、LHCでこれまでのところ新しい粒子が見つかってない、だから、新粒子の質量は比較的大きいということと、それから、250GeVというのは、500GeVと比べてもエネルギーが低いと、その2つのことから、こういう解析の手法がかなり正当化できるということが言えます。
この方法というのは、もちろんILCだけじゃなくてLHCでもできるんですけれども、LHCの場合ですと、こうして付け加えられる次元6の新しいBSM物理を表現する演算子に付いている係数というのが、決めなくてはいけない係数が50個を超えて非常に多いということがありまして、これをLHCで完全にモデルによらずにやるというのは非常に困難です。ILCの場合には、初期状態が電子・陽電子衝突で非常に単純だということもありまして、17個で表せるという状況があります。
さらに、ヒッグスに関する効果、結合定数を知りたいんですけれども、実はヒッグスセクターの中の南部ゴールドストーンボソンがWボソンとかZボソンの縦波成分をなしているということが分かっていますので、ヒッグスが出てこないような反応も含めてWやZが出てくる反応は全部、ある意味、このEFTの係数を決めるのに使えるということになっているということがあります。その結果として、250GeVだけでも非常に精度のいいヒッグス結合の測定ができるということが明らかになりました。
それからもう1つ重要なポイントは、ILCではビーム偏極をすることができて、例えば断面積を測るにしても、電子ビームを左巻きに偏極させたときと右巻きに偏極させたときの両方が測れるということで、ある意味で測れる量が黙って2倍になるということもあります。非常にリダンダンシーの高い測定ができて、その結果として、こういう次元6の付け加えた17個の演算子だけで標準理論からのずれがうまく表現できるかどうかということも、実験データを使ってテストできるということが言えます。
それで、これは先ほど言いましたように、ヒッグスが出てこない反応も使えるという例です。e+e-がW+W-になるような反応です。これはWとWとγ、WとWとZ粒子の結合、いわゆるTriple Gauge Couplingsとか言われているようなものの標準理論からのずれを測ることに対応しますけれども、これには3つのパラメータがあります。時間がないので省略しますが、これがLEPの状況と、それから、ILCの状況の精度を比較したものです。黒がLEP2で、緑がILCですけれども、ほとんど点になるぐらいぴったり決まってしまって、これでさっきの17個のパラメータのうちの3つが黙って減るというような、そういう大幅な改善が見込めます。
こういうことを全部合わせますと、ヒッグスの結合をモデルに依存せずに決めることができるわけです。この図はヒッグスのいろいろな標準理論の粒子に対する結合に対する相対誤差、測定精度をパーセントで表したものです。赤がLHC、ハイルミLHC(HL-LHC) の予想される精度です。ハイルミLHCの場合には、いわゆるモデル非依存な結合定数測定ができないので、モデルの仮定が入ったフィットになっています。黄緑は、これに、250GeV、2インバース・アトバーンのILCのデータを付け加えています。だから、LHCとILC 250GeVを付け加えた場合の精度で、これを見て分かりますように大幅な改善が期待できると。濃い緑は、さらに500GeVの4インバース・アトバーンのデータを加えたらもっとよくなるということを表しています。
重要な点は、これを見ると、ただ単にILCがすごいというふうに見えるんですけれども、実はそうではなくて、LHCとILCの相乗効果が幾つかの部分で非常に強く効いていて、特にヒッグスがフォトンに結合するような結合定数の場合は、これは分岐比が0.2%しかないので、ILCでは統計でリミットされてしまいますが、LHCでは、ヒッグスがγγに崩壊する崩壊モードと、それから、ヒッグスがZZに崩壊するモードの比が非常に精度よく測れるので、これと、ILCでのヒッグスとZの結合を組み合わせることによって、1%を切る精度で決められるというような、こういう稀崩壊に関してはLHCとILCの相乗効果が非常に大きいと言えると。
それから、先ほど第2世代のフェルミオンに対する結合の話がちょっと出てきましたけれども、ILCでは、LHCで測定困難なヒッグスのチャームへの結合というのもパーセントのオーダーで測れるようになるということも重要です。250GeVでも、したがって、LHCの精度を大幅に改善できる、より高いBeyond the Standard Modelに対する感度が得られるということになります。
もう1つ言っておかなくてはならないのは、250GeVではもちろんトップクォークは作れませんので、トップとヒッグスの結合、トップ湯川結合に関しては、LHCの結果を使うしかないという状況にあります。
では、こういうヒッグスの精密測定が何で重要かというと、先ほども言いましたが、ヒッグスが真空に充満している理由を標準理論は全く説明していません。それを説明するような新しい物理というのは大きく分けて3つの方向性が考えられていて、現在、我々はどちらに行ったらいいか分からない、その分岐点に立っているという状況にあります。
1つ目の道というのが、新たな次元の道というふうに書いてありますけれども、時空概念を拡張するような方向性です。超対称性だとか余剰次元を考えるような道です。それから、2つ目の道は、より深い階層の道です。この場合には、ヒッグス粒子が実は素粒子ではなくて、もっと深い階層の基本的な新しい素粒子が新しい力で結び付いて出来ているような複合粒子であると、そういうような道。それから、第3の道は、標準理論からのずれが見られない場合に対応していますけれども、もっと別の全く新しい原理でもって今の状況を説明しなくてはならないような、そういう道です。マルチバースとかそういう方向の可能性になります。
これがヒッグス粒子の結合定数、ヒッグス結合を測定して、標準理論からのずれのパターンを見てやることによって、例えば超対称性だったらば、ボトムとかτに対する結合が増えて、ほかのものは余り変わらない、複合ヒッグスだったら、全体的に結合定数が標準理論の予言よりも下がる、それから、3番目の道だったら、標準理論と同じ結果が出てくるというような、このずれのパターンから、どっちの道に進んだらいいかということが分かるということになってくるわけです。もちろん超対称性粒子とか複合ヒッグスに付随するような複合粒子の新粒子が見つかれば、この道であるとかこの道であるというのはそれですぐ分かってしまうわけですけれども、重要な点は、パラメータによっては、こういうヒッグスの精密測定の方がLHCの直接探索よりも高い感度を持っているということです。
その例を示すために、ここに9つの典型的なBSM模型をピックアップして比較してみました。この9つのモデルというのは、いずれも新粒子はハイルミLHCの探索範囲の外にあるようなそういう模型で、この場合にはヒッグス結合の測定がこういうものを探す唯一のプローブになる、そういうケースです。ここに書いてある数字は、それぞれのヒッグス結合が何%ぐらい標準理論からずれるかというパーセントでのずれを書いてありますけれども、これを見て分かることは、ずれの程度はたかだか10%であるということで、パーセントオーダーの精度がないと、こういうものは見られないと。
もう1つ分かることは、モデルによってずれのパターンが違うということです。この図は、こういうモデル間、あるいはこういうBSMのモデルと標準理論が何σで分離できるかということを表したものです。緑色が5σ以上で分離できる、ダイダイ色が3σから5σの間で分離できる、それから、赤の部分は3σ以下でしか分からないということに対応しています。こちらが250GeVのILCとハイルミLHCを合わせた場合で、分かることは、ほとんどの模型について3σ以上の分離が可能であると。それに更に500GeVの4インバース・アトバーンを加えると、ほとんど全てのモデルに関して4σ以上の感度で区別が可能になる。
重要なことは、こういうふうに標準理論を超える物理の方向性が分かってくると、ほかの大きな謎、暗黒物質とか、消えた反物質の謎とか、ニュートリノ質量や混合とか、暗黒エネルギーとか、いろいろな大きな問題の答えもどっちの方向に向かっていくかということで変わっていくわけですから、ヒッグスの精密測定というのは、素粒子物理学の今後の進路を指し示すような非常に重要なものであるということが言えます。
時間が大分迫ってきましたので、この後ちょっと飛ばしていきます。ヒッグスが大量に出来ると、もちろんヒッグスの標準理論にない崩壊も探索できるわけです。特にヒッグスを媒介していわゆる隠れたセクターと結合しているようなそういう模型に関しては、ヒッグスの不可視崩壊とか、ヒッグスの標準理論にないタイプの崩壊がいろいろ予想されているわけです。こういうものはヒッグスがたくさん作れていて、しかもILCの場合には、ヒッグスを見ずに、ヒッグスと一緒に出てきたZ粒子を見てやることでヒッグスが出たということが分かってしまうという、そういう反跳質量法によるヒッグスのタグという方法を使うことによって、非常に高いセンシティビティでこういうエキゾチックな崩壊モードを探すことができます。
それから、新粒子の直接探索ですけれども、250GeVの重心系エネルギーだけを見ると、LEP2に比べて余り増加が多くないので、新粒子の発見のようなことが余り期待できないんじゃないかというふうに思われるかもしれませんけれども、LEP2に比べると、実に3桁高いルミノシティがあるということ、それから、ビーム偏極があるということ、測定器もこれまでの進歩によってより高精度なものになったということで、特に断面積の小さい領域とか、先ほどもちょっと出てきましたけれども、超対称性粒子でも、電荷を持った超対称性粒子と電荷を持たない超対称性粒子の間の質量差が非常に小さいというような、そういう圧縮質量スペクトルの場合に対する感度が大きく上昇するということが言えます。
暗黒物質探索の例を簡単に示しますと、探索の方法というのは、暗黒物質がe+e-から生成されるようなこういう反応を、これだけだと何にも見えないので、電子あるいは陽電子からフォトンが放出されるようなこういう反応を使って、フォトンだけが終状態にある反応を探すことで暗黒物質を探索するという方法です。先ほど松本委員の質問にもありましたけれども、これは主としてレプトンに結合するような暗黒物質を探すという意味で、LHCでの探索とはある意味直交するような方向の探索になっているということです。
そのおかげといいますか、ハイルミLHCでの探索が終わった後、あるいはほかのいろいろな直接探索が終わった後でも、これは横軸が暗黒物質の質量で、縦軸がe+e-から暗黒物質の対を作るときに、sチャンネルあるいはtチャンネルに交換されるような媒介粒子の質量になっています。この薄い黄色のリージョン、これがILCの探索に残されていて、250GeVのILCであっても、125GeV以下の暗黒物質は探査できるので、こういうところが探査できるということが言えまして、結構探査できるところは250GeVでもある。LHCの場合には重い暗黒物質を探していくということでこちらの方向に探していくわけですけれども、ILCの場合にはむしろこちらの方向に探していくということになって、ここでもやっぱりLHCとILCの相乗効果、シナジーがあります。
それから、これでほとんど時間をほとんど使い切ってしまったので、250GeVを超えて何ができるか、より高いエネルギーで可能になることを簡単に触れて終わりたいと思います。より高いエネルギーになって重要なことは、トップクォークを直接作れるようになること、これが一番質的に違うところです。その結果として、トップクォークの電弱結合の精密測定を通したBSM物理の探索とか、トップクォーク質量の精密測定とか、トップ湯川結合の直接測定、こういうものが可能になる。それからもう1つ重要なのは、ヒッグスが2つ出来るような反応が例えば500GeVでは測れるようになって、その結果として、ヒッグスの3点自己結合の測定ができるようになる。それから、一般的にエネルギーが上がれば、質量リーチはエネルギーに比例して増加するということで、新粒子の探索領域が広がるということが言えます。
これを表でざっくりとまとめたものがこれです。色分けしてあるのは、ヒッグスの精密測定、トップクォークに関連する物理、その他の精密測定、それから、新粒子の直接探索ということです。チェックマークは、それぞれのエネルギーでできることを表しています。注意しておきたいのは、例えば500GeVと書いてありますけれども、500GeVのマシンは当然350GeVでも250GeVでも運転できるので、500GeVのマシンがあれば、この物理もこの物理もできるのですが、ここでは、特定のエネルギーでしかできない測定もあるので、エネルギーごとにどういう物理ができるかということをチェックマークで表しています。それから、赤で書いてあるこの部分、ヒッグスの全崩壊幅精密測定とヒッグス結合の絶対規格化という部分です。これは最近1年ぐらいの有効場理論、EFT解析によって可能になった新しい進展です。
トップクォークに関していうと、350GeVでのトップの精密測定、あるいはヒッグスに関していうと、250GeVでどうしてもやらなくちゃいけないのは、ヒッグスの質量の精密測定、これは、Zヒッグス反応のクロスセクション(生成断面積)が一番大きくて、反跳質量のピークが一番シャープに見える250GeVでやっぱりやらなくちゃいけないという、こういうようなことがあります。
それから、新粒子の探索に関していうと、基本的にマスリーチ(探索可能最大質量)はエネルギーに比例するので、そのマスリーチの大きさを丸の大きさで表してみました。先ほど出てきたヒッグスの質量の精密測定とトップの質量の精密測定ですけれども、これはもし標準理論からのずれがILCの精度をもってしても見えなかったと、そういうときに非常に重要になってきます。
その場合には、標準理論の適用限界の見極めということを考えないといけないわけですが、この図は、ヒッグスの質量とトップの質量の関数として、標準理論の真空が安定になるのか、不安定になるのか、準安定になるのか。別の言い方をすると、ヒッグスポテンシャルの形は、標準理論では、ここに書いてあるように、こういうワインボトルの底のような形をしているというふうに普通思われているんですけれども、これは実はこの、非常にヒッグス場の値の小さいところだけの話で、もっとずっと大きくしていくと、トップクォークの質量によってトップの質量が大きくなると、実は我々が住んでいる真空よりももっと低いエネルギーの真空があるかもしれないというようなことをサジェストしているわけです。今のトップクォークの質量とヒッグスの質量というのは、どうもこの準安定のところにある。準安定ということは、本当の真空は別のところにあるんだけれども、ここからここへの遷移確率は宇宙年齢に比べて十分小さいと、そういうような状況にあるようにも見えるということで、これは非常に興味深いことでもあります。
それから、ヒッグスの4点結合というのが、実はプランクスケールで正確にゼロになるというような、そういう示唆もありますし、あるいは、我々が住んでいる真空と、それから、本当の真空は、実はぴったり同じエネルギーだというようなことを予言するような理論もあります。そういう場合には、この安定なところと準安定なところのちょうど境界のところにトップの質量とヒッグスの質量があるというようなことが予測されるわけです。
そういうことに関してきっちり見極めてやろうとすると、トップの質量を非常に正確に測るということが重要になります。LHCの場合では、理論誤差がドミネートしてしまって、500MeVを超える精度ではトップの質量が測定できないというリミットがありますけれども、ILCで350GeVでトップ対生成のしきい値断面積のスキャンをやってやることによって、いわゆるトップのショートディスタンスマス(短距離質量)、MSバーマス(MSバー質量)と呼ばれているものを50MeVの精度、それから、ヒッグスマスはもともと250GeVで14MeVの精度で決められるので、今のLHCのトップクォークの質量の精度はこの程度だと思いますが、それがここに書いてある、ほとんど見えないですけれども、赤い点、これぐらいの精度でILCで決められるようになるので、本当にぴったりこの上に乗っかっているかどうかというようなことがはっきり分かるようになると期待されます。
ということで、まとめです。LHCで新粒子の兆候が見られない現状では、ヒッグスの精密測定による新物理探索の重要度がより大きくなった。それから、最近の進展によって、250GeVだけでヒッグス結合の絶対値の精密測定が可能になった。250GeV ILCは、ヒッグス結合の絶対値の精密測定により、ヒッグス結合のずれのパターンの違いを明らかにし、素粒子物理学の進路を示す。250GeVの結果を踏まえて、250GeVを超えるエネルギーでの実験を加えることで、トップクォークの精密測定やヒッグスの3点自己結合の測定が可能になり、新しい物理の可能性を更に絞り込むことができる。こうして、自然の統一的理解への道を更に強力に切り開くことができる。250GeV ILCはその基盤となる加速器であるということが結論です。
以上です。
【中野座長】 ありがとうございました。ただいまの御説明に関し質問等ございましたら、お願いいたします。
【早野委員】 Beyond the Standard Modelというのは、ほかにもそれの発見を目指して進行中の実験、それから、計画中の実験があるわけなんですけれども、それに対して、今のこの250GeVのILCというのは、それらを全てやめてでもこれに注力する価値のあるような、唯一の実験かどうかということを少し説明していただきたいです。
【藤井教授】 それがまさに言いたかったことなんですけれども、ヒッグスセクターというのは、一番最初にも言いましたが、電弱スケールというのは250GeVにあるということもあり、答えがそこにあるという可能性が非常に高い物理であると。なぜヒッグスが真空に凝縮したか、しかもそれがなぜ電弱スケールで凝縮したかというようなことに答える答えがそこにある可能性が一番高いわけです。
だからこそ、ヒッグスを調べるということには、ほかのいろいろなBeyond the Standard Modelを探す実験に関していうと、必ずしも今調べている領域に答えが存在するかどうかということははっきり言えないわけですけれども、あるかもしれないし、ないかもしれないということに対して、ヒッグスが真空に凝縮する物理の答えというのは、ある意味でILCなりLHCなりで調べる領域にその答えが存在している可能性が非常に高いという意味でやはり特別なものです。それが先ほど言いましたけれども、3つの道のどっちに進んでいくかというような形で、大きく今後の素粒子物理学のいろいろな大きな問題に答えていく上での指針になるという意味で非常に重要であるというふうに考えております。
【早野委員】 恐らくほかの分野から何遍も聞かれている質問だと思うんですけれども、要するに、何が見つかればノーベル賞が取れるんですかというような質問に対しては、どのようにお答えになりますか。
【藤井教授】 何が見つかればノーベル賞になるのかという、その質問に対する答えはなかなか難しいと思いますけれども……。
【早野委員】 それが難しいと結構(ILC推進は)難しくありませんか。
【藤井教授】 新粒子探索というのはもちろん可能性があって、先ほどもありましたけれども、圧縮スペクトルの場合というのは、先ほどの花垣さんのプロットで見ると、非常に細い小さい領域に見えるんですけれども、例えばヒグシーノが一番軽い超対称性粒子であるような模型というのはナチュラルSUSY(自然な超対称性模型)とか呼ばれていて、残っている有力なSUSY(超対称性)の模型の1つなんですけれども、そういう場合には、まさに質量差が15GeVよりも小さい、場合によっては1GeVを切るような非常に小さい領域に集中しているというふうに考えられて、そういうものはILCで見つかる可能性が十分あって、それが見つかれば、もちろんノーベル賞につながるような、そういう……。
【花垣教授】 これは、私が発言してはだめなんですか。
【中野座長】 いいですけれども、ちょっと委員の方で。どうぞ。
【駒宮委員】 必ずしも新粒子の発見というものがノーベル賞につながるとは限らないですね。例えば梶田先生のニュートリノオシレーション、これは新粒子の発見ではございません。それから、CPバイオレーション、これも新粒子の発見ではございません。それから、ゲージ理論の確立、これも新粒子の発見ではございません。ですから、もちろんJ/ψを発見したとか、τを発見したとか、そういう新粒子の発見というのは極めて重要ですけれども、必ずしもそうではなくて、新しい物理の方向をそれによって見極めることができるということによって、やはりノーベル賞は、私、ノーベル委員会に入っているわけじゃございませんけれども、もらえるんじゃないかと思います。
それからもう1つ、藤井先生の話で、4ページに、これまでのところ、LHCでは標準理論を超える物理の兆候は見えていないということがございます。そこに、あるとしてもLHCの死角にあると書いてあるんですね。これは非常に重要な見方です。
例えば花垣先生の21ページを御覧になりますと、これはゲージーノの質量と、それから、一番軽いニュートラリーノ、その質量のスキャッタープロットが出ています。ここでもっていろいろなモデルで、やはりこの両方の質量差が小さいところ、そこのところが極めて重要なんですね。3つ場合がありまして、1つがビーノというやつが一番軽い場合、それから、ウィーノが一番軽い場合、ヒグシーノが一番軽い場合、この3つのうちの2つの場合がここのところに、マスディファレンス(質量差)の小さいところに集中しているんですね。ですから、今見えてないといっても、死角に存在するという可能性は十分あります。
それで、花垣さんに対する質問なんですけれども、やはりこの領域は極めて重要なので、もちろんおまえは言うだけじゃないかと言われるかもしれないけれども、ここを是非とも今後、もっと新しい方法でもって、新しい方法を考えて詰めていっていただきたいと思います。以上です。
【花垣教授】 発言していいですか。
【中野座長】 発言されたいんですね。
質問だったんですか。
【駒宮委員】 質問じゃない、コメントです。
【花垣教授】 ありがとうございます。LHCでは当然そこは探索すべく頑張っているわけですよね、レプトンのトリガースレッシュホールドを下げるとか、いろいろ頑張って是非見つけたいと思っています。
私が多分言いたかったのは、もちろんそういう可能性もあるけれども、大切なのは、そこを目指して頑張るんじゃなくて、ILCはもう既にヒッグスの測定自身ですごく重要だと思うんです。そこを一番推すべきであって、にもかかわらず、新粒子探索云々。もちろんありますよ。さっき中野さんが言っていたように、一番最初にガーンという目指すものがあって、ないからといってそういう残っているところを探すんじゃなくて、やるべきは、ヒッグスのずれを見つける。ヒッグスのずれを見つかったら、僕がノーベル賞委員だったら、ノーベル賞あげてもいいと思う。だから、それをやればいいんだと思います。
【駒宮委員】 おっしゃるとおりです。僕が言おうとしたのは、この狭いところをILCでやれと言っているんじゃなくて、ここはやっぱりLHCで詰めるべきだということを言っている。
【花垣教授】 ありがとうございます。
【中野座長】 よろしいですか。
では、酒井先生。
【酒井委員】 私、専門家でもないのですが、前回の作業部会で大議論となったのは、最初は1TeVだったのが、半分にしたことでした。知らないうちに、これが、250GeVにまた下がったらしいですが、私の勉強不足だからですが、どうもお話を伺いしていると、Effective Field Theoryがここ1年の間に非常に進んで、ヒッグスの崩壊からでもいろいろな新しい情報が得られるということが分かりました。しかしEffective Field Theoryってそんなに信用していいセオリーなのかどうかお教えいただきたいです。もしそうだとしたら、そのEffective Field Theoryで今までに予想されていない新しい予言は出来ないのですか。また僕には、エネルギーを下げた理由というのがよく分からないです。建設金額なのでしょうか。どこかの資料ページでちらっと見たのですが、加速器のR&Dで同じ性能のマシンが安く出来ると。もしそうなら、物理的にはエネルギーをもとへ戻して1TeVにすべきじゃないのかというのが、僕の考えです。いかがでしょう。
【藤井教授】 それに関しては、先ほどの花垣さんのコメントにもありましたけれども、これまでのところ、LHCでの新粒子探索で新粒子が見つかっていないという、そういう状況を踏まえると、ヒッグス粒子の精密測定がまだ十分には使われていない新しい物理を見つけるためのプローブとして非常に重要なものであって、それこそまさに使ってやるべきであると。それから、LHCで新しい粒子が見つかっていないという状況は、逆に言うと、先ほどのEffective Field Theoryを使った解析をある意味で正当化しているということを表しているわけです。
さらに、ILCの場合は、言いましたけれども、ビーム偏極が使えるということもあります。17個のパラメータを決めるために、例えば250GeVだけでも40個ぐらいの測定があるということで、非常にリダンダンシーが高いので、17個のパラメータだけでずれのパターンがぴったり説明できるのか、説明できないのかというのは、データ自体を使ってテストできるということで、このEffective Field Theoryのフレームワークを使っての、次元6までのEffective Field Theoryを使った解析のバリディティ自身も自分でチェックできるということもあります。
逆にずれがうまく説明できないということになったら、実際にやることは、ずれが見つかったら、Effective Field Theoryはずれを見つけるまでのある意味での一般的なツールなので、一旦ずれが見つかったら、そのずれを説明するような具体的な標準理論を超える物理の模型を構築するという方向に方向としては動いていって、そういう方向でそういう個々の新しい物理の理論を、3つの方向性がありますけれども、それが大まかに決まってきた時点でそういう方向で具体的に探求していくと、そういうフェーズに入るんだろうと思います。
【中野座長】 自分でも質問したいんですけれども、我慢しましょう。山中先生。
【山中委員】 今答えられたのかもしれないですけれども、Effective Field Theoryの正しさを実験的にチェックできるのかということに関してはどうですか。
【藤井教授】 それが先ほど言いましたように、17個決めるのに40個を超える測定があるので、だから……。
【山中委員】 それでできるはずということですか。
【藤井教授】 そうです。
【陳委員】 全然違う話題なんですけれども、加速器屋として確認したいんですが、ビーム偏極の必要性についてです。特に陽電子の方の偏極の必要性で、バックアップのスライドの方に入っていたのであるんですが、250GeVにおけるヒッグス結合測定精度のビーム偏極依存性というのがあります。電子の方80%偏極はいいんですが、陽電子の方が0%、30%のところの違いを見ると、そんなに大きくはないんですよね。
【藤井教授】 ええ。
【陳委員】 ということは、少なくとも実験を始める当初は、陽電子の方の偏極はなくても、ある程度正確な測定ができて、必要があれば、偏極をできるようなスキームを導入するということでいいんでしょうか。
【藤井教授】 陽電子の偏極の一番大きな役割の1つというのは、最終的な系統誤差をどこまで抑えられるかというところで効いてくるのであって、陽電子の偏極がゼロだということをイグザクトに保証するようなことができれば、陽電子の偏極って、少なくともヒッグス結合の精密測定に関していうと、余り大きな役割は果たしていないということになる。ただ、もちろんあれば、先ほど言いましたけれども、系統誤差を抑えるという意味では非常に重要な役割を果たし得るということです。
【中野座長】 今、間隙を縫って、僕、質問したいんですけれども。やはりEFTによる進展というのは非常に大きいと思うんですが、ここで仮定しているのは、質量Mが大きいということを仮定していて、これはLHCの結果を受けていて、新粒子はどうもなさそうだということがもとにあると思うんですけれども、このMというのは、先ほどの話の途中にも出てきた、死角にある新粒子とかそういうものを全部含めたMですか。
【藤井教授】 そうです。
【中野座長】 だから、ここでの仮定というのは、死角にもしかしたらあるかもしれないけれども、そういうものが全くないと考えると、有効理論によって精度が上がるという、そういうふうに考える?
【藤井教授】 逆に言うと、もし死角にあって、次元6までで表現できないようなそういうBSMの効果があるとすれば、先ほどの17パラメータのフィットは破綻するはずなので、それが見えないというふうに。
【中野座長】 ただ、ここで250GeVをまずやろうと考えたのは、ILCのコミュニティの中で、まず新粒子ということよりも、新粒子はずっと高いところにあると。それがILCでしか探せないものであっても、きっと高いところにあるだろうから、そういうことを仮定としてEFT計算によって精度を上げましょうと。だったとしたら、生成断面積が最大の250GeVのところでやりましょうということで、それでよろしいですか。
【藤井教授】 そうですね。だから、死角にあるという可能性を除いてナイーブにLHCの結果を見ると、花垣さんがおっしゃったとおり、カラーを持たない粒子だったら少なくとも500GeVよりは重いであろうとか、それから、カラーを持った粒子だったらTeVよりも大分重いだろうという、そういうことは一般的に言えるので、そういうセッティングだと、250GeVでやっている限りにおいては、EFTというのは十分に良いフレームワークであるというふうに言えるということです。
【中野座長】 分かりました。
梶田先生。
【梶田座長代理】 1つ、すいません、ちょっと分からないので。どの道に進むのかという、岐路に立つ素粒子物理学の次のページなんですけれども、これで多分、超対称性があると、ヒッグスカップリングがbとτについてずれると書いてあるんですけれども、これ、MAが700GeVと書いているんですけれども、すいません、このMAというのはどういうふうに読めばよろしいんでしょうか。
【藤井教授】 MAというのは、超対称性の場合は、ヒッグスタブレット(ヒッグス二重項)が少なくとも2つなくちゃいけないということがありまして、ヒッグスにほかの、1個だけじゃなくて、シュードスカラーのヒッグスも存在するということですけれども、そのシュードスカラーのヒッグスの質量が700GeVの場合ということです。もちろんパラメータを変えれば、このずれの大きさというのは変わるわけなので、その次のページで、9つ、LHCの直接探索では絶対出てこないというようなモデル、典型的なやつを選んできて、それに対してヒッグスの結合定数の精密測定でどれぐらい感度があるかということを個別にテストしてみたというのが、こっちの何σで分離できるかという……。
【梶田座長代理】 今のこれの前のページのこれのずれという、これのパラメータは、まだLHCでは棄却されていないところのパラメータを仮定しているんですか。ぎりぎりなのか、随分離れているのか、ちょっと……。
【藤井教授】 一応ぎりぎりですかね。
【駒宮委員】 花垣さんの22ページを見ていただければ、700GeVというのはずっと右なんです。花垣さんの22ページ。これの横軸は500までしかないですけれども、これの700GeVのところです。
【梶田座長代理】 そうなんですけれども……。
【藤井教授】 もちろんtanβの値によりますけれども。
【梶田座長代理】 でも、素人なので質問しているんですけれども、要は、ほかの全体的な超対称性のエネルギースケールというものは、700GeVと決めたら何にもなくて決まってしまっている、そういうものなんですか。
【藤井教授】 正確に言いますと、もちろんほかの超対称性粒子、グルイーノの質量とかそういうものによって、これ、典型的に書いてあるだけで、実はτのずれとボトムのずれというのは違ったりします。ただ、一般的に超対称性模型の場合には、変化が出てくる結合としては、いわゆるダウン型の物質粒子とヒッグスの結合に大きな変化が期待できて、例えばゲージボソンへの結合にはほとんど変化が見られないということが一般的に期待されるということを……。
【梶田座長代理】 それは分かるんですけれども、大体どのぐらいのエネルギースケールが超対称性としてここのエリアは仮定されているのか。それは700GeVだと。それはLHCの結果とは矛盾がないという、そういうことでいい?
【藤井教授】 このずれは、そういう意味では、ある意味、ツリーレベルに近い形で表したもので、このずれは、さっき言ったグルイーノの効果とかそういうものを考えずに、単純にヒッグスタブレットが2つあって、それで、ほかのヒッグスの質量が、今見つかったヒッグス以外のヒッグスの質量が例えば700GeVであったときに、リーディングオーダーでどれぐらいずれるかということを表したものです。もっと正確にハイアーオーダーも入れた計算ですと、梶田先生おっしゃるとおり、ほかのSUSYの効果とかも入れるとこのずれの大きさというのは変わってきますけれども、典型的に、ほかのヒッグスが700GeVだったりすると、この程度の大きさのずれが期待できるということです。
【梶田座長代理】 はい。
【中野座長】 ほかに。松本先生、いかがですか。
【松本委員】 今の答え、ほかのグルイーノとかもそのぐらいの質量にいないのかという質問で、それはSUSYの粒子がいろいろあって、それが全部同じ質量を持っているわけじゃなくて、ある程度散らばっていて、グルイーノとかはこれの2倍、3倍とか、スクォークもそのぐらいで、例えばシュードスカラーヒッグス、新しいヒッグスが700GeVぐらいに行ったときにはこういう感じの絵になるという。
【梶田座長代理】 そうすると、グルイーノとかは、今のLHCのリミットより少し上ぐらいのような、そのような感じですか?
【松本委員】 少し上ぐらい、はい、そうですね。
【梶田座長代理】 そのようなイメージだということですね。
【松本委員】 そうです。
【梶田座長代理】 分かりました。ありがとうございます。
【中野座長】 横山先生。
【横山委員】 物理の質問じゃなくて恐縮なんですけれども、3ページ目にある声明について事実確認だけさせていただきたいと思います。事務局からも参考資料で1、2を頂いているところなんですけれども、私がよく分からなかったのはICFAのところの声明で、藤井先生の赤い線の上の段のところなんですけれども、日本のイニシアチブによる国際プロジェクトとしてというところの意味合いです。これはその前段階にLCBの方が、予算も少し縮小の見込みがついたし、大体の土木工事等は誘致国が引き受けるものだし、日本が誘致をしたいというふうに言っているんだから出してよねということを受けて、ICFAの方では、日本が、ざっくり言うと半分以上の建設費は持つプロジェクトとして期待してますよという、そういう読み方でよろしいんでしょうか。
【藤井教授】 これに関してどう読むのが正しいかというのは私の方からお答えしにくいですけれども、書かれてあるとおりだと思います。
【横山委員】 ありがとうございます。
【板倉大臣官房審議官】 すみません、行政レベルでこの記述について、アメリカ、ヨーロッパと非公式ですけれども、確認をしたところですと、最初、500GeVのときには、ある意味でITERプロジェクトのように、それぞれの国が主体となって協定のようなものを作って進めていこうという構想だったんですが、今回11月の声明では、先ほどドイツの自由電子レーザーとかFAIRの事例が出ていたとおり、日本がまずやるということを決めなさいと。それは現実的なプロジェクトとして決めていただければ、国際協力が可能でありますよということでありまして、500GeVのときとは大分変わっているのかなというような印象を受けております。
【中野座長】 ほとんど時間使い果たしてしまったんですが、最後どうしても御質問したいという方いらっしゃいますか。あるいは、コメントでも結構です。
まず、三原先生、どうぞ。
【三原科学官】 すいません、25ページに示された表なんですけれども、こちらは250GeVから500GeVへとエネルギーが上がっていくと、どういう新しい物理ができるかということをお示しになるつもりで出されていると思うんですけれども、これ、逆に見ると、500GeVで予定していたILCを250GeVにしたときに何ができなくなるのかというふうなものにも見ることはできます。
そういう風にこの表を見たときに、先ほどの花垣先生のお話と駒宮先生のコメントとかも考えると、下の方にある新粒子探索というのは、ほとんどLHCが調べ尽くしてしまうのでもうILCでやる限りは250GeVでも500GeVでも余り違いはないので、そういう比較をするときには忘れてしまってもよい。そうすると、大事なのは上の方で、何ができなくなるかというと、白いところが大きいのはやっぱりトップクォークに関連したところです。ただしトップクォークについていうと、例えば17ページで3つのモデルを分けるという絵を見せていましたけれども、あの場合、トップクォークはどうしてもエラーバーが大きいので、500GeVに行ったところでそれほどモデルを識別する、どういう物理が潜んでいるのかを識別する力は弱い。今目指そうとしているのは、むしろ500GeVよりも低いエネルギーで、Zヒッグスがたくさん出来るところでやる、あるいはcクォークやτクォークのカップリングを正確に測るという、一番上の行が重要になってきたんですよというふうに見てもよろしいんでしょうか。
【藤井教授】 ヒッグスの精密測定は圧倒的に重要です。モデルによっては、ヒッグス結合だけじゃなくて、トップとZボソンとの結合にもずれが、特にコンポジット系の複合ヒッグス模型的なものとか余剰次元のモデルみたいなものだと、トップクォークが部分的に複合粒子的な性質を持っていたりするようなそういうモデルがあって、トップクォークの結合にもずれが見つかるという、そういう可能性が指摘されているので、ある程度、ヒッグスで方向性がはっきり見えてきたときに、その1つのうちの中で更に具体的にどういうモデルが本当のモデルなのかということを見極めていくような段階において、トップクォークの精密測定の重要性というのは改めてクローズアップされてくる可能性というのはあるんですけれども、まずは大まかにどっちに行くかという大筋の方向を見極めるという意味では、やっぱりヒッグスの精密測定をやるというのが圧倒的に重要であるということだと思います。
【中野座長】 では、本当の最後。
【早野委員】 先ほどの板倉審議官からのお話にありましたドイツでの例ということで、私も、それから、多分、酒井委員も、それのドイツの特にFAIRの方の発足に関わる委員会の委員でもあったので、いろいろ情報を持っている。いずれ別の機会にそのことは少し話したらいいと思いますが、計画の途中でコスト・オーバーランが分かってしまったときに一体どうやってそれをリカバーするか、一体どこが不足分を負担するのかとか、それによって計画が遅れ、それから、デスコーピングされ、ステージングされということで、大変に傷だらけのプロジェクトとして進行したわけでありまして、このモデルに乗ればうまく行くかというと、必ずしもそうではないというその例としても、いずれ議論ができればと思っています。
【中野座長】 分かりました。どうも最後、コメントありがとうございました。
以上で本日の議題は終了とさせていただきます。
最後に、事務局から連絡事項があります。
【吉居加速器科学専門官】 ありがとうございます。本日の議事録でございますが、後日委員の皆様にメールにて内容確認をお送りし、その後、当省のホームページにて公表させていただきます。
次回は、資料7にございますが、2月5日月曜日の10時からを予定してございます。引き続き、250GeV ILCの科学的意義について議論いただく予定です。
以上でございます。
【中野座長】 それでは、これで閉会いたします。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
研究振興局基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室