ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題についての検討委員会(第1回) 議事要旨

1.日時

平成26年4月4日(金曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省東館3階3F1特別会議室

3.出席者

委員

小宮山主査,土居主査代理,安西委員,大隅委員,樫根喜久氏(内山田委員代理),城山委員,住委員,関口委員,瀧澤委員,土屋委員,土井委員,林委員,平尾委員

文部科学省

冨岡大臣政務官,岩瀬政策評価審議官,小松研究振興局長,板倉振興企画課長,下間参事官,川口計算科学技術推進室,田畑情報科学技術推進官

オブザーバー

(理化学研究所計算科学研究機構)
石川裕氏,富田浩文氏

4.議事要旨

議事に入る前に,本委員会を公開で行うこと及び冒頭の撮影を許可することが了承された。また,土居委員が主査代理に指名された。
冨岡政務官より本委員会の開始に当たっての挨拶。

(1)ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題についての検討委員会の設置について

川口計算科学技術推進室長より資料1と資料2に基づいて説明。
資料2「ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題についての検討委員会の議事運営等について(案)」については,案の通り決定された。

(2)ポスト「京」プロジェクトについて

平尾委員より資料3に基づいて説明。

(3)将来のHPCIシステムのあり方の調査研究(アプリケーション分野)からの報告

富田浩文氏より資料4に基づいて説明。

(4)関係府省庁における計算科学技術に対するニーズについて

川口計算科学技術推進室長より資料5に基づいて説明。
(2)~(4)の意見交換は以下のとおり。

【小宮山主査】  できれば全ての方に御意見を伺いたい。今の枠の中での議論でも結構ですし,今の枠はちょっとまずいのではないかと感じられれば,それでもいい。御発言の順番は構いませんので,いかがでしょうか。
 では,土屋委員からどうぞ。
【土屋委員】  今,ポスト「京」のお話があったのですが,創薬ということに関して言うならば,今の「京」で何がどこまでできていて,今の「京」ではできないことは何か,ポスト「京」については何がどこまで期待できるか,を整理した方がいいのではないか。その中で,ポスト「京」の必要性を,「京」でもある程度できるが精度が不十分なテーマと,「京」では難しいが演算速度が100倍になって初めて研究対象になるテーマとに分けて,ポスト「京」開発の意義を整理した方がいいのではないか。
 更にそれらを時間軸で整理して,いつまでにポスト「京」でどのテーマが可能になるか,という形で示すのがよい。創薬に関連する今の「京」ではできないテーマとしては,例えば抗体等のたんぱく薬の設計に活用するとか,生体内の様々な因子が絡み合う薬物動態や毒性・安全性を加味した化学構造の最適化などが,ポスト「京」に期待するところです。
 もう一つ,今の「京」においても,運用上においてもう少し使いやすくする必要を感じています。
【小宮山主査】  何が使いにくいのですか。
【土屋委員】  計算時間の割当て面で,例えば現状の創薬の利用枠というのは,「京」では100分の1ぐらいで,枠が非常に少ない状況です。文部科学省はどちらかというとアカデミアについてお考えと思いますが,産業での活用についても加味して,全体のバランスも考えていただけたらいいかと思います。
【小宮山主査】  住委員,お願いします。
【住委員】  次の開発に向けて,いろいろな旗を掲げていくというのは大事なことだろうと思います。ただ,これと同時に注意した方がいいのは,ハードウェアだけ入れればできるような論点になっているような気がするのですが,アーキテクチャーが非常に複雑になってきまして,パフォーマンスを出すためのプログラムのコーディネートに,様々なテクニカルなサポーティングが物すごく大事になってくる。そうでないと,物すごく効率の悪い計算にならざるを得ない。今度のエクサは,ちょっと想像を絶するようなアーキテクチャーになると思いますので,そういう点で,ハードと研究者さえいれば結果が出るということではなくて,パフォーマンスを上げるための技術的なソフトウェアとか,いろいろな部分が相当要るのだということをやはり理解して,その体制作りをしないとなかなか難しいのではないか。これは,地球シミュレータからずっとやってきて,研究者も苦労してきたところですので,そういうことをどこかで強調していただければと思います。
【小宮山主査】  それでは,城山委員。
【城山委員】  一つは,個人的には面白いと思いましたが,創薬の話にしろ,自動車の設計などの話にしろ,それから最後ちょっと例にあった高速炉の安全規制などのときに,こういうシミュレーションがどう使えるかという話です。
 つまり,創薬の場合の治験とか,その全体となる動物実験,あるいは自動車の場合,ダミー人間を使って実際に衝突実験をやっているわけです。つまり,今まであれば,ある種の実験というか,ダミーを使ってやっていたような世界の話を,どうやってシミュレーションに切り替えていけるのかみたいな側面があります。それから,創薬の場合にしろ,動物実験は駄目だという全然別の方のサイドのディマンドみたいなものがあって,今までは実験できていたのだが,できなくなる場合があったとき,シミュレーションがどういうインプリケーションを持つのかということがあります。
 他方,高速炉みたいな話は実験をやるわけにはいかない。安全規制の話であっても実験ができないところに対してどういうことができるか。実験ができる,できないみたいな話と,そこが社会環境によって変わってくる中でどういうことが貢献できるのかという側面は,整理してみると面白いのかなというのが一つの面です。
 それから,先ほどの御議論とも絡むのだと思うのですが,何がこの委員会の宿題かと思ったら,最後の15ページに実行時間目安というのがあって,これを全部足し上げると足りなくなるので,どこに優先順位をやったらいいのでしょうということですね。これは突然言われても,なかなか困るところもあります。ただ,要は先ほどの御質問との関係で言うと,多分,技術的にできる,できないというよりかは,どういう活動に対して,こういうリソースをどのぐらい時間配分するのかとか,サポートメカニズムをどうするのかという,やはりセットの意思決定が求められているのだろうと思います。きょうのこの材料ですぐ結論を出すというのは,いずれにしろできないし,必要もないと思いますが,この実行時間みたいなものの考え方をどうしていくのか,そのあたりを少し考える材料を頂けるといいのかなと思いました。
 以上,2点です。
【小宮山主査】  大隅委員。
【大隅委員】  私自身は,例えば脳科学,それからゲノム医学というあたりのところで,自分自身が直接「京」やポスト「京」を使うということではないのですが,学問の分野としては非常に期待するところが大きい。質問といいますか,今ある「京」が使えなくなるというわけではなく,それに加えて,新しくポスト「京」を造っていこうということなのですか。
【平尾委員】  リプレースを考えております。
【大隅委員】  ということは,今後,ポスト「京」の次も継続的にリプレースをしていくということで,今,「京」の次の段階を考えていると,そういう理解でよろしいのでしょうか。
【平尾委員】  ポスト「京」が動き出す頃には,現在の「京」というのは本当に安くて,そこらにたくさん入ってくるという状況になると思いますので,今のところはフラッグシップマシンとして1台置くということでございます。
【大隅委員】  先ほど,計算すると時間数が全然足りませんということでした。ですが,恐らくユーザー側としては,こういった面白いことをシミュレーションしてみたいとか,解析してみたいというニーズは必ずあると思いますので,一番カッティングエッジのフロントのところがどんどん性能よくなっていくのは本当にすばらしいことだと思うのですが,カッティングエッジのフロントよりも性能の低いスーパーコンピュータも引き続き使えるような仕組みというのはあるのでしょうか。あと,ネットワーキングしていくとか,そういったあたりのことに関して,少し御説明が伺えるとよかったかなと思います。
【平尾委員】  私の資料の2ページ目のところに,HPCI革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラというものがございます。現在ですと「京」がフラッグシップになっておりますが,それ以外の計算センターなどにもスパコンはございます。今,「京」が10ペタぐらいで,ほかを全部足しますとやはり10ペタぐらいです。こちらの方のマシンも,そういう意味ではだんだんリプレースされて性能も上がってまいります。ですから,ポスト「京」が出来上がる頃には,例えば東京大学に入っているスパコン,あるいはJAMSTECに入っているスパコンも,当然のことながらリプレースして上がっていきますので,全体としては非常に使いやすい形になるだろうと思います。いつもフラッグシップを使わないといけないジョブばかりではないわけです。規模が小さいジョブをたくさんやりたいこともあると思いますので,そういうものはポスト「京」に限定せず,例えば基盤センターなどのものを使う。ですから,日本全体として本当に計算機資源をうまく効率よく使う,そういう仕組みが出来上がりつつありますし,いろいろな制約なども,利便性を図る,改善するということも,今,盛んに行われております。もっともっと使いやすくなるだろうと私は思っております。
【小宮山主査】  林委員,どうぞ。
【林委員】  今,大隅委員が言われたこととも関係するのですが,ポスト「京」というのは頂のように思っていまして,やはり裾野がついでに広がっていくことによって全体として計算機資源が増えていかないと,先ほどの4,000日を1,500日で処理することはできない。私ども防災の世界を大変いっぱい例に書いていただいてうれしいのですが,計算機負荷を見ると100日足らずでできてしまうようなもので,必ずしもポスト「京」に乗らなくてもいいのかなと思います。逆に言うと,頂は創薬なり何なりもっと戦略的なものに使っていただいて,この裾野が広がっていくわけで,そういうところに,先ほども資料4の御説明で,どちらかというとダウンワードにというか,実社会にそれを還元していく方向で防災を考えていくというようなお話をしていただいたら,もっと使いやすくて,必ずしもポスト「京」ではないが,同じファミリーの中で,もうちょっと別のマシンを使ってでも,どんどん計算をさせていただけるようになればいいなと強く思ったというのが1点目です。
 二つ目は,アンサンブル・コンピューティングというのはまさしく防災にとっては非常に重要なのではないかと思いまして,それを強調していただいていることを大変うれしく思います。観測データのことに大変関心を持っていただいていて,防災が出せるデータの量というと,観測データぐらいしか大規模なものはなくなると思うので,そこを是非アンサンブルでというのは大変うれしゅうございました。
 三つ目なのですが,ここに出てくる防災のモデルというのは何となく貧弱な感じがいたします。現行ではどちらかというと理学中心で考えている。方程式があれば後はがむしゃらに計算すればよいという側面があるので,そこは非常に精緻なのですが,そこから先にいきなり避難へ結びついてしまうところに,やはり非常に大きなギャップがあると思います。
 むしろ,きょうの御説明でいうと,社会経済予測の部分をこれから是非シミュレーションの中に入れていきたい。例えば,都市を考えていただくと,車の流れ,人の流れ,鉄道の流れ,あるいはライフライン,電力の流れ,水の流れ,ガスの流れ,今,ほとんど独立にシステムを構成して動いておりますが,一度,地震などが起こりますと,同時にディスターバンスが発生をして,多分,物すごい量のインタラクションをするはずです。その中で,人間も一つのエレメントとして,マルチエージェントシミュレーションみたいなことをしていただくことで,避難を扱うことができるかもしれません。ですが,人間のみを動かして,それ以外を全部フィックスにしてしまったシミュレーションでは,正直,余り役に立たないという気もします。
 是非,防災側からいえば,地球科学のデータ,プラス社会経済予測というところは,まだ稚拙だと思うのです。萌芽的と言っていただいたように,まだ僕らもなかなかそんなに大きなものができそうにないのですが,ただチャレンジさせるということはできますので,そういう方向で頑張っていきたいと思いますから,フラッグシップマシンでなくてその裾野にでもいいですから,是非利用できるようにしていただければと思います。
【小宮山主査】  安西委員,お願いします。
【安西委員】  一つは,似ている意見なのですが,問題解決のために使うということで,モデリングとか,それからシミュレーションの計算まで持っていくところを行うユーザーの顔がなかなか見えないということです。その点は是非,御検討いただきたい。実行時間目安とありますが,これは誰がこの実行時間の目安を作って,どういう根拠で作られているかがちょっと分からないのですが,実際,私の関連している分野の感覚でいうと,モデリングするところが物すごく大変で,実際の計算というところに行くまでが大変な困難を伴っております。そういうところを一つ一つのテーマに対して考えていかないとならないと思います。
【小宮山主査】  土居委員。
【土居主査代理】 林先生のところで,防災分野として,スパコンの裾野が広がっていけば,その裾野の方を利用できればとおっしゃいましたが,防災・減災のところで,例えば東北大学の今村先生とか,東大地震研の古村先生に伺いますと,今からセンサーを整備していかなければいけないというのが前提ですが,津波が来るかどうかという1発目が勝負で,そのシミュレーションはエクサの性能があっても足りるかなとおっしゃるのです。ですから,防災・減災のところですら立ち上がり,立ち上がってからしばらくの間は,どうも計算力がべらぼうに要るらしいのです。そういうようなことを含めての計算をされているという面もございます。また,フラッグシップマシンの裾野のマシンで,下方展開をやるのが前提になっております。先ほど大隅先生も御心配されましたが,フラグシップマシンとその裾野のマシンを共に利用していく形で進んでいくということを期待しておりますので,裾野の方で拾っていただける可能性はあると思っております。
【林委員】  スパコンもフラッグシップマシンだけの一点豪華主義では困るというのが申し上げたいところです。
【小宮山主査】  次の方どうぞ。
【樫根氏】 産業界の方から少しコメントさせていただきますと,今までの議論にちょっとかぶる部分もあるのですが,やはりユーザーの立場から言うと,先ほど林先生が言われたような階層状になったコンピューティングというのですか,トップとして,フラッグシップとしてのポスト「京」というのは非常に重要だと思うのですが,それよりも少し性能は劣るかもしれないが,そういう段階状のところから試しながら使っていって,それで技術開発につなげていく。そして,最後にフラッグシップの性能が必要なところはそれを使うというような,階層的に,段階的に使えるようなことをしていただけると間口が非常に広がるというのが1点。
 そのことでいいますと,今回,Co-designというキーワードが入っていますが,やはりアプリケーションというところでいいますと,産業界の方で使いやすい市販ソフトを含めまして,そういうアプリケーションのところをしっかりやらせていただいて,産業の方の製品開発につながるようなところのソフトを是非とも作って,積極的に使わせていただければというところをコメントさせていただきます。
【小宮山主査】  土井委員,どうぞ。
【土井委員】  2点ございます。今までの議論とかぶるところもあると思いますが,ビッグデータの有効利用ということで新しい視点が入ったのはいいことだと思いますが,少し気になりますのは,このビッグデータの有効利用というところが少し静的なデータ,どこかでたくさん集まっていて,それを使って計算しますというイメージが強いのですが,これからはM2Mとか,少し書いていただいているようなフェーズドアレイのレーダーで集めたデータとか,やはり時々刻々のものに対してやっていくようなところがありますので,そこは今までのようなネットワークでただつなげて,データを持ってくればいいでしょうというところとは少し違うと思うので,そういうところを少しアーキテクチャー,ネットワークとして計算機同士をつないでいるという以外の,そういう新しい観点が必要になるのではないかと感じました。
 もう1点なのですが,先ほども御指摘があった社会経済的なお話というところで,そういうように考えると,社会経済を考えるときにやはりまだ縦割りのような気がいたします。例えば,社会インフラでいいますと,社会インフラの老朽化という話がありますが,老朽化しているものがあって,それがどういう順番できちんと地震対策とかいろいろやられていくかという話もありますが,そういうデータがあったときに,何か災害があったときにどういうふうに避難しなければいけないかは,アンサンブル・コンピューティングというか,もうちょっと上のレベルできちんと組み合わせていかないといけないような話になるので,そういうような大きな視点で考えるときにどうしたらいいかという議論もしていただいて,ユーザーにとってどういうようにこの成果が生きていくのかというところが,もう一段進んで見えるようにしていただけると有り難いかなと感じました。
【小宮山主査】  関口委員,どうぞ。
【関口委員】  HPCI計画推進委員会の方でも議論に加わらせていただきましたので,その流れから幾つか申し上げたいのですが,先ほど土井委員のお話にもありましたように,ビッグデータは加えるべきだというのは,私も申し上げていたので,それが入ってきたというのは非常にいいと思っております。
 その背景にある点として申し上げたいのは,民主党政権のとき,「ナンバー2ではいけないのか」ということが国民的な関心事でもあったわけです。ですから,これを今度ポスト「京」でやることの意義とか,もっと言えば経済効果がどうなのかというところの視点がないといけません。従来の計算科学の流れでいくと,やりたいことはもう山のようにあって,5,000日間だろうが,何日間だろうが,挙げれば切りがないわけですから,何を挙げるべきかというところの視点をちゃんと盛り込まなければいけないと思います。ですから,技術開発の部分とはちょっと外れるのかもしれませんが,何でそれをやらなければいけないかというところの説明を一緒にこの中に織り込んでいくという意味でいえば,何日間というだけではなくて,もう一つ,その右側に項目を設けて,それによる経済効果が果たして何億円あるのか,何十億円あるのかということを加える必要があると思います。創薬とか割と分かりやすい例はあるのかもしれませんが,ほかの分野についても,こういう形で国民的な見返りがあるというところを入れていただきたいというのが1点目です。
 2点目としては,開発体制なのですが,「京」のときには純国産ということでやってきたわけですが,昨今,見渡してみますと,日本の製造業,特にコンピュータ系のところの競争力がかつてほど強くなくなってきているという中で,どうやってインフラなり技術を開発していくのかという点が重要だと思います。場合によっては,海外のリソースも使わなければいけないこともあり得ると思いますので,その辺の組み立て方をどうするのか。それと,安西委員のお話にもありましたように,ハードウェアだけに頼ったりするのではなくて,やはりアプリケーション,あるいはモデリングというところも重要なわけですので,その辺とハードの部分をどういうふうに組み上げていくのかという視点も大事ではないかと思います。
【小宮山主査】  瀧澤委員。
【瀧澤委員】  最後にお示しいただいた資料4のアプリケーション分野,計算科学ロードマップの目標として,近々に解決を要する社会的課題を挙げたと,科学的ブレークスルーとなり得るということで,国民の税金を使ってやるわけですから,それが本道であるべきというのは私も大賛成なのですが,余りにも目の前にある問題をやろうとし過ぎている面もあるのかなと思います。コンピュータ自体が日々進歩している中で5年先にできるコンピュータで世界一を目指すわけですが,その先の10年,20年を見据えた中で社会がどう変わっているのか。そこからの視点で,では,どこに研究資源を割くのかという視点がもう少しあってもいいのかなと思います。
 例えて言いますと,この中に入っているのですが,脳のメカニズム解明のところで全体のシミュレーションをやるということで,私自身が見てみたいのは,脳のシミュレーションを精緻にやった場合,人間の意識ですとか思考力,創造力といったものがどういうふうに発生してくるのか。それがコンピュータ,ほかのビッグデータとロボットの技術と組み合わさったときに社会が物すごく革新的に変化すると思うのです。例えばそういうような,未来を見据えた社会的な,もっと遠いことの中から,今,やるべきことという視点がもう少しあってもいいのかなと思います。
 そういった意味では,各学術コミュニティーの先生方がやられているので,今,目前にある課題を解決したいというのがあるかもしれませんが,もっと分野横断的なといいますか,このコンピュータ自体ができた時点で,恐らく世界最強のコンピュータになるわけですから,その時点で動いているコンピュータに対してどういう力を発揮し得るのかというような視点ですとかがあっても面白いのかなと思います。
【小宮山主査】  私も意見を申し上げたいと思います。何人かの皆さんの意見に少し近いのですが,分野横断というか,社会科学ではなくて,社会が何を望むか,そういうことに使えるかという観点はやはり必要な気がする。
 今の話だったら,結局,意識ある人間から膨大なデータが出ているわけです。人間はニューロンからのパルスで,パルスは電磁波で出ますから,どういう形で取ったっていい。それと,人間とロボットとを結び付ける,あるいは目と結び付けるとかいうのがブレイン・マシン・インターフェースです。ここら辺の話ができると,最後,人間は意識ある限り自立できるという社会ができるわけです。そういうところにこの膨大な計算というのは,関係することは間違いないのですが,今,使えるような状況になってきているのかどうかというような話です。また,最近,トリリオン・センサーの話が出ています。要するに,べたべたセンサーを張ってしまって,その情報を全部取っていろいろなことをやっていく。そういったような話もあります。
 もう一個は,人工知能が,どうしてなのかがよく分からないのですが,話題に入ってこない。将棋では,コンピュータはもうそろそろ人間より強いのではないか。あるルールの下でやっていることに関しては,もう人工知能は相当のところに行っている。
 例えば,お医者さんを造ろうとなぜ思わないのか。もちろん,お医者さんの診断は,形式知と違うところもあるのですが,相当部分は背景に形式知があるわけです。そのところは将棋と同じです。それを作ってしまうとすれば,相当,医療費の低減にもなるだろうし,場合によっては,あのお医者さんの言っていることはどうなのだろうというようなチェックにもなり得るわけです。
 だから,きょう伺った話というのは,やはり科学者がやれることをやりたいと思っていると感じます。分野横断しろと言われるから,しようがないから掛け算しているというような気がします。もしかすると私が言っているのはポスト「京」の問題ではなくて,クラウド・コンピューティングとか別の問題だとおっしゃるかもしれない。そうであれば,問題全体を見渡せる地図でも作って,その中でポスト「京」がどの問題をどんなふうにやるかということをお考えいただくのがいいのではないかというのが一つあります。
 産業界というのはニーズに見合えば,例えばポスト「京」もう1台造るという感じはないのですか。要するに,ポスト「京」1台に1,400億円を要したとしても,その内訳のほとんどは開発費ですから,1台でなく2台造っても,額は2倍よりはるかに安くて済む。だから,民間の負担で,最初から2台目も造って,2台目は民間で自由に使おうという考えはないのですか。私は,「京」のときにも同じことを最初に申し上げたことがあります。そういうようなやり方というのは最初から考えられないのかどうか。この2点を私としては申し上げたいと思います。
【土屋委員】  100倍の「京」よりも100台の「京」と先ほどお話がありましたが,創薬の現場においてもそういう意見はあるのです。ですから,底辺を広げていくということと,ポスト「京」でしかできないこと,あるいは,ポスト「京」を十分に活用するためにも今の「京」自身がいろいろな面で使えるようにするという視点も必要ではないかということですね。
【小宮山主査】  そう思います。だから,廃棄してしまうというのはどういう意味なのか,よく分からなかった。本当に廃棄してしまうのですか。
【平尾委員】  いや,もちろん有効利用はします。
【小宮山主査】  有効利用はする。だって,地球シミュレータがこれぐらいになってしまっているわけでしょう。
【平尾委員】  そうです。
【小宮山主査】  関口委員。
【関口委員】  アーキテクチャーの話というか,考え方だと思うのですが,先ほど土井委員がお話しされたこととちょっと似ている話ですが,ビッグデータが重要になってきているということですが,従来の計算科学というのはどちらかというとシミュレーションがベースで,一定のモデルの基に計算を大量にしていくということが主だったかと思います。一方,今,需要が産業界とか一般社会的なところで広がっているのは,リアルタイムに入ってくる新しい情報を踏まえてどんどん処理していくという,いわばリアルタイム処理という方にむしろ重きが置かれてきているのではないかと思います。その意味でいきますと,個々のコンピュータパワーに頼るよりは,いろいろなセンサーなり何なりから集まってきたデータをネットワークで全部一緒にして,またそれをネットワークで分散して処理していくという方法も重要ではないかと思います。アメリカでも,ハドゥープとか,マップリデュースといった形で,コンピュータパワーは大したことがなくても,処理を分散することである一定の目的を達しているという手法が出てきているわけです。ですから,コンピュータ産業の裾野を広げたり,あるいは後継者を育成したりするとか,あるいは国威発揚とか,こういう意味でエクサを目指すなら私はあっていいと思うのですが,実際の用途とか応用とかを考えると,もっと分散ということを考えた処理方法,すなわち100台の「京」をつないだようなネットワーク,あるいは計算システムがあってもいいかもしれませんし,そういうような形を考える必要があるのではないでしょうか。
【小宮山主査】  住委員。
【住委員】  今されている議論は,前からいつも出てくるのですが,多分,違うのだと思うのです。結局,計算速度の絶対速度が上がっていないにも関わらず,どうして高速計算ができるかというのは,すごい大きな問題にして計算速度を稼いでいるだけなのです。そういう点で見ますと,大型の計算をするというのは応用分野の一つのブランチで,関口委員のおっしゃる応用はまた別の形です。実社会に計算機能をどう応用するかという問題と,ポスト「京」のようなハイエンドの計算機をどのように利用するかという問題をごちゃ混ぜにするといつも同じ議論が出てくるのです。そこは問題を整理して,ハイエンドの計算機をどうするかという問題は,応用分野の一部であって全部ではないということだけは理解された方が僕はいいと思います。
【小宮山主査】  そこの整理が重要でしょうね。
【平尾委員】  こういうフラッグシップを造ろうというとき,開発しようするときには,その次の層のスパコンはどうあるべきか,あるいは先ほどのようなビッグデータなどを扱うようなコンピュータはどうあるべきか,そういう議論も当然やっているわけです。現在は,フラッグシップとしてポスト「京」を開発しつつ,リーディングマシンとしていろいろな用途,あるいは,ある特有の分野,特殊の分野に非常に力を発揮するようなマシンも日本全体としては同時に開発しましょうということですので,決してフラッグシップだけを造って,ほかはもうやりませんということでは決してないのです。いろいろな用途に応じて,一番いい形の基盤整備をやっていかないといけないだろうと思っています。
【小宮山主査】  そうであれば,ポスト「京」の開発の議論よりももう一つ大きな全体像の絵をちょっと見せていただきたい。
【平尾委員】  はい,分かりました。
【小宮山主査】  大隅委員,どうぞ。
【大隅委員】  この委員会というのは,取り組むべき社会的・科学的課題についての優先度などの決定にある程度関わっているという判断でよろしいのでしょうか。その場合に,資料5の方を見ますと,創薬,防災等々で並んでいるのですが,例えば資料3や資料4で御説明された中で脳科学があったと思うのですが,それが資料5の方では抜けているので,それを少し強調したいと思います。なぜかといいますと,現在,文部科学省で脳の全容解明というようなタイトルで,本当に脳の中がどうなっているかということを,最先端の技術を使って全容を解明しようというようなチャレンジングを取組にしているのです。
 この取組では,例えば今まで立ててきたAIのようなものがなかなかうまくいかなかったのは,もしかすると全然データが足りなかった,間違っていたからかもしれない,といったことが分かります。こういったことが明らかになってくると,もしかするとコンピューティングをどうするかというところにまで,脳科学で分かってきたことが使えるようになるかもしれません。5年後ではないかもしれないのですが,更にその先を考えた場合には,要するに何をやったらいいかというときにもう少し優先度を高くしていただいた方が,更に新しいコンピュータを開発するというようなときにも,コンピュータのハードだけではなく,またネットワーキングとか,アプリケーションとか,そういうところまで考えた上で,どういった課題の優先度を上げるかということを御検討いただいたらいいかなと思います。
【小宮山主査】  では,この議論を閉じる前に,平尾委員,何か少しありますか。
【平尾委員】  実は,多くの方からアプリケーション,ソフトウェアの開発,あるいは開発体制が非常に重要であると,安西先生はモデリングということを言いますが,これは「京」を開発しようとしたとき,今から8年前でしょうか,もっと前でしょうか,それとは大分状況が違っています。1つは,私たちがいます計算科学研究機構というのは百四,五十名の研究員がおりますが,ここは計算機科学,計算機を開発する人たちと,それから計算科学,コンピュータを使っていろいろなサイエンス,エンジニアリングを展開する人が一緒にいて,計算科学と計算機科学の連携を取りながら,一種のCo-designをしながらこの分野を発展させようと,そういうセンター・オブ・エクセレンスが既に出来上がっています。「京」のときには,そういうものは全くありませんでした。ですから,その状況は全く違って,いろいろな意味で計算科学研究機構が,例えばアルゴリズムであるとか,モデリングであるとか,そういうところでいろいろな基盤的な研究を展開できますし,それをユーザーの方に提供できるということになっています。
 同時に,今,戦略5分野というものがございますが,それぞれの分野で拠点機関があって,人材育成を含めて,プログラム開発なども含めて,いろいろなことをもう既に活動されて,それぞれの分野で非常に成果を上げておられる。その意味では,機構と戦略機関が今,連携してやっておりますので,なかなか外には見えてないかもしれませんが,そういう基盤的なところは随分整備されていて,そして次に展開するような基盤は十分できていると私たちは思っております。
 ただ,やはりアプリケーションの開発というのは,ハードと同じように非常に重要でございまして,特に国際的に通用するようなアプリケーションを開発するには,やはりそれなりの費用も必要なのですね。日本は,どちらかというとハードの方にはお金を出しますが,ソフトウェアの開発にはなかなかお金を出さないというか,少し削られているところがあって,そのあたりはこれから先,十分バランスの取れた開発,費用も含めてやらないといけないのではないかという気がしております。
 経済効果に関しましては,もう当然でございまして,これだけのお金を使ってやるわけですので,私たちも事前に,こういうことをやったら,どれぐらいの経済効果があるかという調査ももちろんやっております。経済効果は調査してもなかなかちゃんとした値は出てまいりませんが,我々としてもできる限りの形で経済効果を見繕っておりますし,また必要であれば出させていただきたいと思っています。
 それから,「京」は,何度も言いますが,階層的なピラミッドの頂点に立つフラッグシップマシンでございまして,第2階層には当然のことながらリーディングマシンとして様々な,「京」ほど大きくはございませんが,いろいろな分野で使えるようなマシンがありますし,当然のことながらビッグデータを扱うマシンと,本当に計算を追求するようなマシンというのは大分違いますので,ビッグデータ用の処理をするようなマシンというのもやはり必要だろうと私は思っております。
【小宮山主査】  それは「京」ではないということですね。
【平尾委員】  もちろん「京」でも扱いますが,全て「京」で扱う必要があるかという気はいたします。「京」,あるいはポスト「京」は,やはりそれでしかできないことをやるべきだと私は思っています。
 開発体制に関しまして,キーとなるような要素技術に関しては,国内できちんと,これから先も継続されるような形でやっていきたいと思いますが,ソフトウェアの開発などいろいろ国際連携ができるようなところは,海外機関との連携なども追求していきたいと思っております。
 防災のところで社会科学の例が少し出てまいりました。私たちは今のところ,一人一人を記述するようなモデルであるアドバンスド・エージェント・モデルを扱っておりますが,それと防災ということが必ずしも一体化されていないわけです。恐らくこれからは,そういう社会科学,あるいは経済学と一緒になって,トータルのシステムをどうやって扱うかということがやっとできるようになっているのだと思います。今は個々です。やはりエージェント・モデルで使っているのは,エージェント・モデルとして使っています。防災は防災の物理的な法則で,どういう津波が起こり,あるいは地震が起こるかということをやっているのですが,それをくっつけるようなことをこれから先にやらないといけませんし,当然,これから先もやっていきたいと思っております。
 たくさん御質問を受けたのですが,これから少しずつ答えていきます。
【小宮山主査】  結構です。どうもありがとうございました。

(5)その他

川口計算科学技術推進室長より資料6と資料7に基づいて説明。

小宮山主査より閉会発言

お問合せ先

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メールアドレス:hpci-con@mext.go.jp

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