ジャーナル問題に関する検討会(第2回) 議事録

1.日時

平成26年4月21日(月曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

浅島主査、安達委員、加藤委員、佐野委員、白石委員、竹内主査代理、谷藤委員、田村委員、永井委員、林委員、引原委員
(発表者)恒松科学技術振興機構上席主任調査員

文部科学省

下間参事官(情報担当)、長澤学術基盤整備室長、松本参事官補佐、その他関係官

4.議事録

ジャーナル問題に関する検討会(第2回)


平成26年4月21日


【浅島主査】  時間にはちょっと早いかもしれませんが、委員の方が全員そろいましたので、ただいまより第2回ジャーナル問題に関する検討会を開催したいと思います。
 御多忙の中、御出席いただきましてありがとうございます。本日は前回お話ししたとおり、オープンアクセスに関するヒアリングを行った上で、意見交換を行いたいと思います。
 それでは、事務局より、配付資料の確認及び傍聴登録者等について御報告をお願いいたします。

【松本参事官補佐】  資料確認に先立ちまして、異動の御挨拶をさせていただきたいと思います。4月1日付で研究振興局の参事官補佐、併せて学術基盤整備室の室長補佐を拝命しました松本と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、議事次第に基づきまして資料の確認をさせていただきます。
 まず資料1「オープンアクセスの現状について」、それから資料2「海外のオープンアクセスの概況と推進要因」、資料3「RCUK International Meeting on Open Access 報告」、資料4「ジャーナル問題に関する検討会の日程について」でございます。このほか机上資料といたしましてオレンジ色の冊子でございますけれども、24年7月の学術情報基盤作業部会の報告書、それから資料のほかに4月17日の朝日新聞の夕刊の記事1枚もの、それから日本学術会議の日本学術誌問題検討委員会のパンフレット、それからドッジファイルに前回資料でございますけれども、先生方に事前に御確認いただいた議事録と一緒にとじてございます。 資料は以上でございます。不足等ございましたら事務局までお申し付けください。
 それから、本日の傍聴登録者数でございますが39名となっております。以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、研究成果等のオープンアクセスに関する意見交換を行いたいと思います。まず初めに、国内の現状や課題認識について事務局より説明いただいた上で、海外におけるオープンアクセスをめぐる状況について、科学技術・学術政策研究所の林委員と、本日特別に御出席いただきました科学技術振興機構の恒松上席主任研究員から御紹介いただきたいと思っております。
 それでは、よろしくお願いいたします。

【長澤学術基盤整備室長】  それでは、まず事務局の方から概略だけ御確認させていただきたいと思いますので、資料1を御覧いただければと思います。
 まず、オープンアクセスの定義ですけれども、これはブダペストのオープンアクセスイニシアチブに基づきまして、インターネットから無料で入手できて技術的、法的にできるだけ制約なくアクセスできるようにすることということでございまして、その目的自体はアクセスの機会の確保とか知的資産の共有、その成果の可視化、社会への説明責任、それから商業出版社による現行の学術出版システムに対する代替システムの構築というふうなことがあります。
 手段としましては、オープンアクセスジャーナルでの公表が一般的にゴールドOAと言われているものでございますが、それ以外に著者が自らインターネット上、機関リポジトリとか分野リポジトリ、そういったもので論文を公表するのがグリーンOAと言われるものでございます。
 その結果の効果としまして、学術情報の論文へのアクセス環境というものを拡充しまして、引用・再利用を促進することによって情報の循環、イノベーションの創出、それから科学の透明性の確保とか成果の評価、論文の質向上、研究発展の促進につながる。それから、有料の電子ジャーナルへの依存度の低減とか価格抑制効果を発現して現行の厳しい状況にある購読料に基づくビジネスモデルの転換とかアクセス誌の拡大というものを目指すというのがオープンアクセスの概要でございます。
 1枚めくっていただきますと、世界的な動きでございますが、やはり世界共通のこういったオープンアクセスの課題ということに関しましては、平成25年5月にグローバル・リサーチ・カウンシル年次総会というものがございまして、これには日本学術振興会と科学技術振興機構が出席しているのですけれども、公的研究費に関する論文のオープンアクセスを実施するアクションプランというものを採択してございます。
 その後、6月に開かれましたG8の科学技術大臣及びアカデミー会長会合におきましては、こういったデータのオープン化、オープンデータとオープンアクセスということが原則的に拡大させるという方向でございます。
 さらに、26年3月、今年の3月にG8の科学技術大臣会合及びアカデミー会合のフォローアップが開かれまして、これが本日JSTの恒松調査員に出席をしていただいたものでございます。
 我が国の考え方としましては、第4期科学技術基本計画におきまして機関リポジトリの構築を推進してオープンアクセスを促進するというふうな形がうたわれてございますし、この科学技術・学術審議会の審議のまとめにおきましてもオープンアクセス化ということで、オープンアクセスジャーナルの育成とともにリポジトリの活用という形でオープンアクセスを推進していくということでございます。
 それから、1枚めくっていただきまして5ページでございます。現在の対応状況でございますが、科研費、JSPSの対応といたしまして、研究成果公開促進費を制度改善いたしまして、オープンアクセスジャーナルの育成支援というものをカテゴリーを設けております。
 JSTにおきましては電子ジャーナルのプラットフォーム、J-STAGEというものを支援しておりますけれども、XML、高機能化査読システムの改善等を図ってJ-STAGEの高度化を図っております。それから、ジャパンリンクセンターというものを設けまして、流通を保証するような識別子(DOI)付与の促進をしてございます。それから、JSTの助成成果のオープンアクセスの推奨ということで、こういった形の公募要領で機関リポジトリによる活用というものを公開を推奨するという形にしてございます。
 それから、国立情報学研究所、NIIにおきましては、こういったリポジトリ構築を連携支援する事業、それから共用で使っているプラットフォームという形でJAIRO Cloudというものを提供してリポジトリサービスというものを推進しているということでございます。それから、SPARC Japanという形の活動におきましてOAに関する最新の状況に関するセミナーの開催とか動向調査等を実施してございます。
 それから、文部科学省といたしましても博士論文のこれまでの紙媒体での公開をインターネット利用による公表を義務化して、これをリポジトリを原則使って行うという形にしているというふうな対応を行ってきているところでございます。
 この後、具体的に少し詳細に書いてございますけれども、科研費の制度改正の内容が6ページでございまして、7ページのところはその改善した成果公開促進費の現状のデータでございますが、国際情報発信強化というところで115件の応募がありまして、それに対して採択は53件あったのですけれども、カテゴリーとして見た場合にオープンアクセス刊行支援というものも3件採択をしてございます。
 なお、このうちの下のところでございますが、53件中の27件、半数程度のジャーナルがJ-STAGEを利用してオープンアクセスという形の対応を進めているということでございます。
 下のJ-STAGEの利用状況でございますが、実際に登載に掛かる経費については基本的に無料という形で行っておりますので、1,100のジャーナルがございますけれども、そのうちの約87%、9割近くはオープンアクセスになっていると。フリーアクセスといいますか、オープンアクセスになっているという状況でございます。
 それから、その次の9ページのところが今のオープンアクセスに関する問題となっております学協会の著作権ポリシーの問題でございます。これにつきましては、やはりこれまでも、上の表でございますが、検討中・非公開・無回答・その他という、ポリシーが明確でないというところが一番課題として大きいところでございまして、平成24年から26年にかけましてポイントは59から52ポイントに改善が見られますけれども、まだ半数程度の学協会がジャーナルの著作権ポリシーを明確にしていない。ここにつきましては、早急に何らかの手当てをしていただきたいというのが私どもの考え方でございます。
 海外におきましては、上の約6割が査読前・査読後の論文の著作権ポリシーとして登録を認めているということでございます。
 それから、機関リポジトリの現状が下のグラフでございますけれども、やはり大幅にこういったリポジトリにおけるグリーンOAというふうな形の重要性というものがだんだん理解が広まってきていると思っておりますけれども、グラフを見ていただければ、大幅に設置する機関の数も増えてきておりますし、NIIのJAIRO Cloudを利用するという機関も大幅に増えてきておるところがございます。今は世界で第2番目の機関リポジトリを設置しているような国になっているということと、データ数につきましては、真ん中のグリーンのところですけれども、紀要が多いのですが、学術論文の掲載も着実に増えてきているという状況がございます。
 次、最後のページが機関リポジトリの整備の意義というものを改めて御確認をしておきたいということでございますが、オープンアクセスという視点だけではなくて、やはりリポジトリに載せるということで、大学としての教育研究成果にアクセスできる環境ができるということで、コンテンツの充実度が大学への評価とか学生等からの関心の拡大とかにつながるということでございますし、また、ジャーナルの掲載論文につきましては、研究者が登載する負担とか出版版でない著者最終原稿とかエンバーゴがあるというふうな形もありますけれども、ジャーナルの購読料とか論文投稿料というものの費用負担にかかわりなくアクセスできるというふうな利点があるということを確認させていただきたいと思っております。
 また、効果としましては、こういった機関リポジトリの構築が進展していくということでデータベースとしての認知度が高まってきておりますし、紀要論文の引用数が増えるとか、教材についてはニーズが高く利用されているとか、博論については質の向上とか利活用が推進しているというふうな、明らかなメリットが出てきているというふうなことを思ってございます。
 ただ、留意点としましては、やはり引き続き教員の意識改革というものが必要だろうということで、登載データを集めるためにはこういった意識改革、それから登載への取組として著作権の問題というものをできるだけ簡素にして、登載のルール化を進めていただくということが必要ということはまだ残っているという認識を持っておるところでございます。
 現状の確認は以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。オープンアクセスの現状について長澤室長から述べていただきました。
 それでは、引き続き林委員にお願いいたします。

【林委員】  NISTEPの林です。林からオープンアクセスの海外の状況と、その推進要因について、先月行われました日本学術会議のシンポジウムを大まかになぞり、おさらいとして御紹介させていただきます。
 今日のお話は、まず、海外のOA化の状況として、アメリカ、イギリス、ドイツ、EU、それからGRC、グローバル・リサーチ・カウンシルの動きを念のためおさらいします。続いて海外の状況のメタ要素として、各種事例を読み解くとオープンアクセスを進めるドライビングフォースは何なのかということについて論点を提示します。それから、一方で、研究論文のオープンアクセスに関してはいわゆるグリーンとゴールドの手法がもはや教科書的処方箋でございますが、それをおさらいします。そして、その先の議論を促すために、「研究成果」のオープンアクセスをどう議論するかという話が海外における論点になっているということがこのプレゼンで言いたいことでもありますので、その点につなげる形で諸状況を御紹介させていただければと思っております。
 まず、海外の状況については、これは先月、マックスプランク研究所のデジタルライブラリーに勤めているラルフ・シマーさんが非常にすばらしいプレゼンテーションを行っていただきましたので、そのシマーさんに許可を得て、そのスライドを一部拝借し、多少解説を加えるという形で状況を御紹介させていただきたいと思います。
 まず、オープンアクセスを政策として語る上ではアメリカから始めてよいかと思います。そのアメリカではNIHを中心とした医歯薬系の研究論文のパブリックアクセス、公衆への無償のアクセスということが特に政策的には広く、長く議論されてきています。さかのぼること2004年、2005年頃から取り組まれています。特徴としましては、ただオープンアクセス、パブリックアクセスの義務化を進めるだけではなく、専用のプラットフォーム、PubMed Centralを用意して、そこにオープンアクセスでできるコンテンツ(すなわち、論文の著者最終版原稿ないしは、出版者の許諾を得た出版者版の論文)を掲載できるように進めてきたのがアメリカの特徴であると思われます。
 この政策に対して、真ん中のところにVSと書いてある丸のところに示されているように、そのNIHの義務化を進めようという政治的ロビーイングと、それからやめよというロビーイングが繰り広げられてきて今日に至るまで、2012年ぐらいまで続きました。そして、2012年にオバマ政権がホワイトハウスのOSTPから、年間1億ドル以上の公的研究助成を行っている機関はすべからくオープンアクセスの義務化のプログラム(案)を策定せよという指令がだされ、つい先日、プログラム(案)策定ができたというニュースが流れました。今後詳細が詰められていくと伺っております。
 あと、もう一点、オバマ政権OSTPの動きを受けて、大学や図書館が、スライドの下にSHAREと書いてありますが、下のReactionsのbというところを御覧いただければと思います。SHAREというプログラムを立ち上げ、大学図書館を主導にオープンアクセス化を進めようという動きがあり、その一方で、出版者を主導としたCHORUSというプログラムも立ち上がり、これもオープンアクセスを進めようという、言ってみれば綱引き、オープンアクセスをけん引するメディア、中心はどこになるか、その主導権の綱引きが起きているという状況です。
 続きまして、歴史的に追っていく場合はアメリカのNIHとほぼ歩調を合わせてきたのがUKのWellcome Trustです。Wellcome TrustはNIHのオープンアクセスの動きと歩調を合わせる形で義務化を進めてきました。Wellcome Trustで助成する成果の研究論文のオープンアクセス化(グリーン形式)から始めております。それが2012年になってFinch Reportという非常にインパクトのあるレポートがでました。そこでは、ゴールドオープンアクセス化を進めよというような結論です。このレポートに対していろいろな動きが行われておりまして、例えばJISCでは、ゴールドオープンアクセスするのであればAPC(掲載料)がどのぐらい実際にかかっているのか、あるいはどのくらい必要なのかという議論に資する調査が行われています。
 続きまして、実はドイツもオープンアクセスに関して幾つかの重要な役割を担っております。2003年のベルリン宣言では、マックスプランク研究所がイニシアチブをとる形でオープンアクセスの宣言がなされております。その後、こちらに書いてありますようなワーキンググループ等々が開かれたのですけれども、注目いただきたいのは2010の上のところにあるFunding programの箇所、これは実際にオープンアクセスのAPCを補助するプログラムがドイツではこの時期から始まっていることが特徴となっております。ドイツでもオープンアクセスへの支援というのは比較的以前より行われているということがお分かりいただければと思っております。
 続きまして、オープンアクセスがEUとしてはどのように取り上げられているかということですけれども、一言で申し上げますと、EUベースで見た場合は、ジャーナルの購読費問題だけではなく、公的研究助成の投資対効果をどうやって上げるか、あるいはより適正な研究評価のため、というニュアンスでオープンアクセスが最近は語られていると言ってよいのではないでしょうか。具体的にはFP7という研究評価プログラムの枠組みの中でオープンアクセスの議論が進められ、2014年、今年になって正式に発足したHorizon 2020では明確にオープンアクセスは、オープンイノベーションのドライビングフォースとして進めるということや、その前の数値目標として2020年までに支援した研究成果の60%はオープンアクセスにするという目標を立てているなど、非常にチャレンジングな試みが行われております。
 それから、これはシマーさんのお話を聞いて認識したわけですけれども、Science Europe on Open Accessという形でEUの助成団体の集まりによってもオープンアクセスが検討され、詳細については私はここに書いている以上のことは存じ上げておりませんが、助成団体が自ら集まりオープンアクセスにどう対応していくか、あるいは研究成果の透明性をどう確保するかといったことを議論してきているという点も注目に値すると思われます。
 最後にグローバル・リサーチ・カウンシルにつきましては、実際、関係者の先生方もこちらにいらっしゃいますけれども、G8の下にGRCが立ち上がった直後からオープンアクセスというものは、するかしないかではなくて規定路線として議論が重ねられ、2013年に出たオープンアクセスにも関わりのあるアクションプランの策定によって、この時点から日本でも研究者のオープンアクセスに対する動きが大きく変わったと認識しております。様々な著名な先生方がこのGRCに関わられていたわけですけれども、このアクションプランの策定をもって非常にオープンアクセスに対する関心を強くしたということが私個人として印象に残っております。
 なお、御参考までに、来年の5月には日本学術振興会のホストでGRCが開かれるという状況でもあります。
 そして、ちょうどこれは海外の事例とはちょっとずれるのですけれども、シマーさんのレポートの中から興味深いスライドがありましたので御紹介いたします。これはマックスプランクの調査ベースで、オープンアクセスになっている論文の国別の割合です。グローバルはオレンジ色で指し示されています。日本は、かつてはグローバルよりは高いレートで進行していましたが、今は若干下がっているという状況です。一方、ドイツは、日本やグローバルに比べるとOAの割合が低いという状況です。いずれにせよすべからく右肩上がり、しかもどちらかというと指数関数的な上がり方をしているということが分かります。この結果からもオープンアクセスは着実に浸透していると言ってよいかと思います。
 また、これも別な論点を引き込むことになりますが、非常にきれいに収束しているので御紹介しますと、これはその論文がリファレンスしている、サイトしている論文がオープンアクセスになっているかどうかということを調べると、国の差がなくなると。つまり、出すときの論文のオープンアクセスかどうかというのは国や地域によって差があるが、それらの論文が引用している論文がオープンアクセスかどうかというのは国ごとの差が余り出ない。つまり、一定のある引用は特定のジャーナル群に収束しているということが示唆されるわけです。これは直接、オープンアクセスを進める今回の議論とは関係ありませんが、オープンアクセスに関して様々な定量的な調査が行われている、その事例として御紹介させていただきます。
 そして、既に長澤室長の方から御説明があったように、今現在はとにかく直近の課題としては、ジャーナルの購読費の予算を何とかオープンアクセスゴールドの予算に替えることができないかということです。うまく行けば、同じ資料のための予算に対して、今まではその資料を買ったところしかアクセスできなかったのが世界中からアクセスできる状態になります。できるならばその予算総額を増やさずにオープンアクセス化を進めるということができれば良いのですが、そう簡単ではないということは、前回の議論からも購読費に関しては様々な事情があるということで、お分かりいただけるとは思います。
 その解決のためには、左下に三つのキーワード、transformation、re-organization、re-design of financial flowsが示されていますが、いままでの枠組みをただ踏襲するのでは非常に根本的な解決が難しい状況で、前回の議論でも対症療法的という言葉が印象的でした。
 さて、続いて、簡単ですけれども、海外で進められているオープンアクセスがどういった要因で進んでいるかについて、一般論として御紹介させていただきます。
 かつては、そして今もオープンアクセスというのは講読費高騰問題、あるいはシリアルクライシス、それからアクセス不平等問題を機に始まっています。それについては前回、集中して議論したので割愛させていただきますが、これらの議論の中でやはりこれから注目しなければいけないのは、今までのジャーナルの流通というものは17世紀に始まったPhilosophical Transactionsに始まるとされる、いわゆる紙ベースの雑誌が流通し、情報が伝達されていた、その枠組みが非常に色濃い、その上での議論であるということです。この点を考慮した上で打開策を考える、次の(根本的な対策につながる)ステージを考えるべきではないかと申し上げたいと思います。
 特にPDFというものは非常に使い勝手のいい電子ジャーナル、電子ファイルですけれども、これはあくまでも紙のジャーナルを電子化したジャーナル、電子化して紙より早く届けているジャーナルにすぎないという表現をする研究者もいらっしゃいます。ところが、今はWebネイティブな情報基盤がどんどん開発されており、もはや研究データに関しましてもその透明性、特に昨今にぎわしているいろいろな倫理の問題も含めまして、研究(データ)のトレーサビリティーをどういうふうに確保するかといった、そういった議論もできるくらいにウェブ基盤が浸透しています。そのような状況の中で電子ジャーナルあるいは学術ジャーナルというメディアがそのまま、昔の枠組みのままで議論していいのかというと、それはやはりよくありません。これは皆さん重々承知であるとは思いますけれども、あえて申し上げたいと思います。
それから、Horizon 2020のところで明記されており、最近この紹介が多くて恐縮ですけれども、今、OAはイノベーション政策及び次世代科学研究を実現する基盤インフラとしてプロアクティブに進んでいるという、そういった観点が加わっているということをこの委員会でもやはり共有すべきであると思っています。具体的には、オープンアクセスの潜在的なベネフィット、ポテンシャルベネフィットとしては、研究を加速し、成果を見つけやすくすることで研究開発投資の費用対効果を上げる。同じ研究を繰り返すことを避け、研究開発コストを抑える。境界領域や多領域にまたがる研究の機会を増やし、他分野の協調を促す。そして、研究結果の商業化を早く広い観点から行い、公共研究開発投資の効果を上げ、科学情報を基に新しい産業を生み出すという形で、単純に科学者へのアクセスの不平等を超えて、オープンアクセスというものは科学そのものを発展させ、産業も生み出すポテンシャルがある、そのために進めるべきだということがHorizon 2020の各種資料に明記されております。飽くまでポテンシャルです。ですので、先ほども「プロアクティブ」に動いているという表現をさせていただいております。
 実際のところ、義務化政策としてのオープンアクセスは1月現在の情報で恐縮ですけれども、現在49か国で策定されており、実施中が441プログラム、計画中が27プログラムあります。これは右下にある、参照しているサイトの数字を根拠にしております。個々の政策の詳細は見ておりませんが、この黒いグラフを御覧いただけばお分かりのように、義務化の流れというものは一定の割合では避けられないという傾向が見て取れるかとは思います。
 そして、改めてイノベーション政策としてのオープンアクセスを考えたとき、イノベーションを促すということは(何となく)分かるが、具体的にはどうイノベーションを促すのかということについて簡単に御紹介させていただきます。
 一つは、研究成果の共有と再利用が促すイノベーションがあります。漸次的には科学者の共同研究を促進し、先ほどは「境界領域の研究を促し」という表現がありましたけれども、他領域への参入が容易になる。一方、非連続的なイノベーションの可能性もあります。イノベーションというのは本来、連続して起きないものこそイノベーションだという表現もあるかと思います。そのイノベーションの例として、データサイエンスとして先ほど申し上げた、17世紀から続く紙と物流の情報流通では行えなかった新しいサイエンスが生まれようとしています。それは端的にはビッグデータの活用から生まれるサイエンス、第4の科学も含まれていると思います。
 その一方、もう一つ、日本ではまだその萌芽(ほうが)的な動きすら見られていないと個人的には思われますが、シチズンサイエンスという意味合いでのオープンサイエンスというイノベーションが起こる可能性もあります。それはすなわち科学情報が広く一般に浸透することでサイエンスの敷居が低くなるということがございます。そうしますと、桁違いの共同研究、つまり数万から数十万人の市民が、例えばパズルを解くようにたんぱく質の構造解析を行うことによって、数人のエキスパーティーズでは解けない速さで、圧倒的な速さで物事を解決するというようなことも実際起こり始めています。こういった新しいサイエンスを進めることで、これまで得られなかった知見が得られる可能性がオープンアクセスにはあると言われております。
 続いて、この俯瞰(ふかん)的に分析した点を意識しながらも、ここはジャーナル問題検討委員会ということなので、一旦足元に立ち返り、グリーンとゴールドの海外の処方箋について御紹介させていただきます。
 OA化の手段につきましては、ここは簡単に御紹介させていただきます。グリーンルートと言われている、原則出版社が講読費モデルを用いているけれども、その著者最終版を機関レポジトリ等に掲載することでアクセスを提供する、オルタナティブルートと呼ばれているものがございます。それともう一つはゴールデンルートということで、ジャーナル自身がオープンアクセスモデルを採用し、著者から、あるいは機関から掲載料、APCを大体500ドルから2,500ドルの間で、5,000ドルになるようなところもございますが、そういった形で出版事業を成り立たせます。あるいは寄附の形式、あるいは、機関が運営費用を提供するような事業モデルでオープンアクセス化が進む場合があります。出版社の新刊ジャーナルはかなりの割合でゴールドオープンアクセス方式で始めているという報告もございます。
 このグリーンとゴールドの二つということに加えて、あとは部分的オープンアクセス化という形、ハイブリッドモデルと呼ばれる形式で講読費モデルの中の論文一つ一つをオプション料金を払うことでオープンアクセス化するというやり方があります。さらに、期間延長(エンバーゴ)という形で、一定期間の後に、例えば1年たったらオープンアクセスにするというような形をとるところもございます。
 いずれにせよ、こういった広く浸透したやり方、このグリーンルートとゴールドルートを合わせると、今、研究成果の50%はもう既に何らかの形で無料にてアクセスできるという報告がECから出ていたりもします。
以上、研究論文のオープンアクセス化については、もうそのフレームワークというのはある程度固まっているので、そこの中の議論は議論である程度最適化は図れます。ただし、先ほど申し上げましたように、それは割と小さなフレームワークの中での最適化に過ぎず、そのフレームワークの前提となっているのは比較的古い学術雑誌の情報流通モデルです。より丁寧な表現をすれば、古い枠組みを引きずっている、ないしは慣性が働いて、まだ次のフェーズへ乗り換えることが非常に難しい状況であると言った方がよろしいでしょうか。
 これは念のため、講読費モデルとオープンアクセスモデルを図示化したもので、左側のグリーンとゴールド形式につきましては既にもう説明したので割愛させていただきますが、右側がRedirection to Goldという形式で、SCOAP3という高エネルギー物理の研究分野のジャーナル及び機関、大学等の非常に強力なイニシアチブにより講読加盟機関の講読費を集めてオープンアクセス化基金にし、出版社に対して入札を掛けることで、本来、講読費モデルの予算をゴールドオープンアクセス予算にリダイレクト、付け替える形にすることによって高エネルギー物理の論文が広く誰でも見られる状態にする、こういった試みも行われています。この取り組みが全ての科学の分野に浸透するかどうかは依然不透明ですけれども、こういった挑戦的な試みが繰り返されていく中に将来もあると考えております。
 以上、最終的には研究論文のオープンアクセス化についてのフレームワークというのはかなり整ってきており、これからは研究成果のオープンアクセスも議論しなければなりません。そうだとして、このチャートから始めるのがもしかすると日本ではちょうどいいのかということで、紹介します。これはHorizon 2020のガイドラインから引用させていただいているチャートです。左側を御覧いただき、研究が行われたときに、研究成果を公開しようとするのか、それとも保護しようとするのか、研究データを公開しようと思うのか囲おうとするのかで分岐しています。右下の保護する選択に行くと、特許を取るなり、ほかの方法で研究成果を保護します。(やみくもにOAを進めてはいないことがわかります。)右上の成果を広く公開することを選べば、ただ論文出版があるだけではなくて、研究データをしかるべきところにデポジットするという話も出てきます。そして、論文出版の場合はゴールドオープンとグリーンオープン形式で現在のところはほぼ確立されようとしつつありますが、一方の研究データのデポジットでは、まだ決定打というよりは明解で一般的なデポジットの手法や標準、あるいはビジネスモデル等々、ほとんど決まっていません。そして、ここが今、GRCにおいても非常にホットな論点であると理解しております。
 したがいまして、科学技術・学術研究システムの将来を見据え、研究成果のオープンアクセスを進める、この観点から議論を進めることが、日本発の研究力及び日本からの情報発信力をどう強化するのかという議論のためには必須ではないかと考えます。また、このような議論を進めることで、多少せん越ながらも来年GRC2015を日本でホストするとき役立つのではないかと思っています。日本がGRCをホストする際、(マックスプランクがベルリン宣言を主導したように)オープンアクセスに対してどうイニシアチブをとれるかを考えることも非常に大事なのではないかと思っております。
 ということでまとめますと、海外の状況からオープンアクセスに関しては、ジャーナル講読費問題を超えた観点から、プロアクティブに率先して取り組んでいます。ポテンシャルを見て率先的に動くというのは先行者利益を得るための行動であると読み替えることもできます。
 研究論文のゴールドオープンアクセス、グリーンオープンアクセスに関しては、ビジネスモデルを含む運営手段に一定の落ち着きが見られているが、ジャーナル講読費問題を根本的に解決するというよりは対症療法的であるというような状況です。
 そして、繰り返しになって恐縮ですけれども、17世紀から続く科学技術・学術情報流通の枠組みを超えた、新しい科学技術・学術システムから生まれるイノベーションを見据え、公的資金を得た研究成果のオープンアクセスを考える必要があります。
 ジャーナル問題を議論する場でありながらも、海外のOA事例を調べ、その要因を御報告していく中で、どうしてもこのような結論になってしまうことをおわびいたしつつ、それでも、これが頂いた依頼にお応えするものと信じて御紹介させていただきます。以上です。

【浅島主査】  林委員、どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして恒松上席主任調査員にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【恒松JST上席主任調査員】  JSTの恒松です。よろしくお願いいたします。
 今、林先生から御報告がありましたとおり、非常に俯瞰(ふかん)的で、かつ裏側でどういうことが動いているかという御報告があったと思いますけれども、私の報告はそういうことが実際に動いている現場をちょっとかいま見てきましたと、そういう感じの報告でございます。
 それでは、お手元の資料に沿って報告させていただきます。まず、出た会議は、本来であればG8の会合のはずだったのですけれども、諸般の事情といいますか、クリミア半島の情勢によってG8そのものがなくなってしまいましたので、急遽(きゅうきょ)、そこにあるようにRCUK International Meeting on Open Accessという格好に変わりました。開かれましたのは3月20日、ごく最近です。この会合を招集したのは英国の大学・科学担当大臣、David Willettsさんという方ですけれども、この方はいわゆる閣外の無任所大臣です。ただし、実際に一緒に動いている省庁はエデュケーションの方ではなくて、BIS、ビジネス・イノベーション・アンド・スキルズというそちらの方で活躍しておられる方です。それから、参加者はG8のロシアが抜けましたので、G7プラスEC、それから科学技術誌出版社の、これは組合の代表の方ですね。代表といっても経営者ではなくて、主にPR、GRを担当しておられた方が来ておられました。それから、G8以外ではオランダの代表の方が入っておられます。日本からは現地の大使館の方と私が参加させていただきました。
 その次ですけれども、会合はどういうふうに組織化されているかといいますと、議長がリサーチカウンシルから2名出ておられまして、午前、午後で分担したんですけれども、午前中が芸術・人文のリサーチカウンシルの方、午後が社会科学のリサーチカウンシルの方です。
 全体として、趣旨は、先ほど林先生の報告にもありましたとおり、昨年起こったことのフォローアップという位置付けで大臣が呼び掛けたものです。つまり、公的資金によって賄われた研究成果のオープンアクセスの促進という共通の目標実現。ここで共通と言っているのは、既に共同声明を出しているから共通と言っているわけですが、これまでの各国の経験を共有し、これからの課題を議論すると。共有目標の実現のために協調できる行動を見つけることができるのであれば、それをまたやっていきましょうと、こういう形になっています。
 会合の組織の(2)、アジェンダ。このアジェンダに沿った公式の議事録が公表されるはずなんですが、ちょっとまだ私の手元に来ていませんので、詳しいところは割愛させていただきますが、そこにありますように最初Setting the Sceneという形でここまでの流れを復習しております。議長の方のイントロがあって、分野別の事例報告としてBiomedicineと人文科学ではOAがどういう形で進んでいるかという事例報告ですね。それから、先ほど申し上げました、大学・科学担当大臣のWillettsさんのプレゼンがあって、出版社側からはどういうふうに対応しているかという状況報告、それからScience Europe、GRCなどの国際的組織の動きの報告があって、その後で各国別の報告がありました。
 一番最初にFinch Groupと書いてありますが、これは先ほど林先生の報告にもありましたFinch Reportを書いた有識者の方々を今、ラフにFinch Groupと呼んでいますけれども、Finch Groupから見たときに、今、各国のOAがどういうふうになっているかという報告です。それから、G7各国ということで、日本の報告は、実は今、お手元で先ほど長澤室長から解説がありました資料1から抜粋という格好になります。それの英訳版を作って、主に数値データを報告する形で報告させていただきました。あと、最後にEUと。
 あと、Working Togetherということでここで議論したのですが、議論のポイントは基本的にゴールドの路線とグリーンの路線をめぐる討論で、どっちが妥当な方法かと。妥当というのは何に対して妥当かというと、先ほど林先生の報告にありましたとおり、研究成果をよりよく活用するためにはどっちの方向がいいんだという形で議論を進めます。
 最後、結論としては、今後各国における進捗状況を見るためにObservatoryを設置すること。ちょっと、このObservatory、私、適切な訳語を思い付かなかったのでこの形にしていますが、観測所といいますか、そういう意味なんですけれども、実際議論してみますと、ゴールドという言葉の意味の理解が、あるいはその定義が各国によって少しずつ微妙にずれていたりしますので、そこら辺の用語の定義、それから、今回、日本だけでなく各国もいろいろな数値データを報告しているのですが、当然、データの取り方が全然ばらばらなので、横で比較ができないので、そこら辺の統計の取り方も統一していきたい。そういうことをやるためのワーキンググループを設置するということで会議は終わっております。
 会議の中からハイライト、大きくは2点あると思います。一つが、David Willettsさんのプレゼンなんですけれども、Finch Reportに依拠しつつ、以下の論点を提示しましたと。現状は、ゴールドをベースにグリーンをオプションということになっているんだけれども、これはもともとの目標だった研究成果のImmediate Accessということに対して十分になっていないのではないかと。
 それから、出版費用を適切に反映した価格というふうには到底今はなっていないですねとはっきりおっしゃいました。
 それから、テキストデータ・マイニングが可能となる形で論文が公開されるようになっていると。これは微妙に実はゴールドという話とずれていまして、テキストデータ・マイニングということは、マシンリーダブルなデータフォーマットになっているということを言っているわけで、それはゴールドアクセスという、どっちかというとアクセスの問題とは別の、技術的な論点が本当はここの間に1回入らなければいけないんですけれども、意図的にかどうかは分かりませんが、そこはすっ飛ばして、いきなりデータ・マイニングの話が出ております。
 それから、現状のモデル、ゴールドをベースにグリーンをオプションというのは、長い目で見たとき、どうももたないんじゃないのかという、財政的に無理があるだろうということをおっしゃっています。
 それから、ここで議論している話、つまり論文のオープンアクセスというのはもっと野心的なプロジェクトの一部でしかないことを意識してほしいと。アクセスを必要としているのは研究者だけではなくて、若手の研究者、中堅中小企業、これも視野に入れてほしい。それから、研究者情報、これはどういう方がどんな研究をやっているかという、そういう情報ですね。それへのアクセスもある。それから、研究データのオープンアクセスと、これも視野に入ってきますよということを言っておられました。
 そこで、実際に名前を出されたのがイギリスのBoulton教授の“Science as an Open Enterprise”という、ロイヤルソサエティーから出たレポートですけれども、これが科学的研究成果の透明性を担保するためには、論文だけではなくて、その裏付けとなっているデータも公開すべしということを主張している論文です。
 Finch Reportというのが基本的に全ての政策の基になっているのですが、主題はリサーチの出版とその再利用の両方を進めるための政策提言というのがこのFinch Reportに書かれていて、この会議の翌日に、実はBISの方々と非公式の意見交換をさせていただいたのですが、実はFinch Reportはレポートじゃないよと。政策目標が掲げられてあって、今、政府はその目標の実現のために着々と動いていますと。そこのところを見てほしいと。
 例えばということで、ゴールドオープンになった論文をマシンリーダブルにできるかどうかというのは著作権法上、曖昧なので、その部分を、その曖昧さを除くための著作権法の改正法案を提出したということになっています。そこら辺まで含めて政策を推進しているところになります。
 あとは、主な論点としてゴールドとグリーンが論戦になったのですが、どこら辺かというのがちょっと書いてありますけれども、最初に問題なのがDouble Dipping、出版社による二重取り問題ですね。1回は出版費用を著者から取っておき、かつ、その後で講読費をまた取ると。ここのところが非常に不透明ですねと。それから出版補助費の財源をどこから持ってくるか。それから、出版社のコスト負担が一体どうなっているのか非常に見えないと。ここら辺はコスト構造をもっと明らかにしろという話は当然、出版社に対して圧力として掛かるんですが、出版社としてはそれは無理ですと。そういうアカウンティングはできませんという回答です。
 それから、もう一つ、先ほど申し上げたように用語の定義。それから、Observatoryといったところを議論しました。
 それから、もう一つが非常に目立って、実は議論に一番長く時間が掛かったのはここなんですが、学問分野間でゴールドに傾斜するところとグリーンに傾斜するところの違いがかなり大きいのと、同じグリーンでもエンバーゴの期間の設定の仕方が随分違いますと。それから、あとは資金供給期間ですね。ファンディングエージェンシーのポリシーがやっぱり研究者の行動に大きな影響を与えていることも間違いなさそうだというところまでは確認が取れました。
 このほかに分析ツールの開発の話も視野に入れた方がいいという意見が出ました。
 結論と考察で、結論は先ほど申し上げましたとおりで、Observatoryを設置して、各国から意味のある比較可能な数値が出てくるようにしようと。特に用語の定義が曖昧。あとは会議に出ていて非常に強く感じたことは、進捗度も熱意も共に英国が明らかにほかの国をリードするという格好になっています。大きい落差があります。英国はもうはっきりテキストデータ・マイニングを念頭に置いて全ての政策を進めています。それから、そこにあるとおり、法の関係も、著作権の関係をきちんと整理できたのはどうやら英国だけのようで、ほかの国の参加者はコピーライトの話が出た途端、みんなきょとんとしていたというのが実態でありました。
 参考で出しているのは、実はJSTもゴールドとグリーンの定義って、実は非常に曖昧なことを我々はやっていたなというのがこの会議に出てみて非常にはっきりしました。曖昧な定義でちょっとお恥ずかしいのですが、まだ我々はこのレベルですと。国際的なレベルから見ると全然甘い議論をしていますという、一つの悪いサンプルとしてお見せしたわけですが、よろしくお願いいたします。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、これまでの御報告の内容について御質問等ありましたらお願いします。じゃあ、谷藤先生。

【谷藤委員】  恒松先生の今の御報告で一つ質問なんですけれども、このオープンアクセス政策について、世界で先端をいく欧米なのに、またオープンアクセスをする際にはCC-BY、ないしはCC-BY何々というライセンスで公開しているにも関わらず、(日本はオープンアクセス公開時に利用ライセンスを明示するという対応そのものに大きな後れをとっているわけですが)テキストマイニングをするときに(その手法において)どうしていいか分からないという議論は、どのような状況から出てくるのでしょうか。

【恒松JST上席主任調査員】  どうしていいか分からないというのは、これは英国はですね、CC-BYの話は基本的にはボランタリーな話なんですね。著者がどれを選択するかに任せているわけですね。これは飽くまでも会議の翌日、英国の政策担当者との意見交換なんですけれども、研究者がそんなに面倒くさいことをやるとは思えないと。信用しないと。なので法律で一気に全部もうルールは作ってしまって、公的機関によって賄われた研究論文に関してはデータマイニング可能ですという、そういうふうに法律を変えてしまった。だから、別にクリエーティブコモンズのルールが普及しようとしまいと関係なしに話を進めたいんだと。

【谷藤委員】  なるほど。そうしますと、オープンアクセス出版する論文の著作権とは別の文脈で、(オープンアクセスできる論文のリユーズを促進する一つの方法として)マイニングをしようという、そういう政策だということなのでしょうか。

【恒松JST上席主任調査員】  そういうことなんですね。基本的には論文を読むのが人間だという、その大前提を外して考えたいというのが英国の立場なんですね。これはもうマシンが読むんだと。それだけのことをやらないと読めないですよね、現実に、というのが彼らの言い方なんですね。どんどん論文の数は増える一方で、細分化が進む一方ですから、特に全体を俯瞰(ふかん)するような見方をしようとすると、マシンに頼らざるを得ないだろうというのが彼らの政策の大前提になっています。

【谷藤委員】  そうしますと、論文著者本人は、自分が論文を書いたときには著作権という意識がやんわりとあるんだけれども、オープンアクセスになった後に、その論文が持つ情報、あるいはその論文に附属されている生データ、全てにおいて、あるルールの下でそこからデータが抽出されることに同意をするということが、(オープンアクセス出版の)前提の一つに入っているということですね。

【恒松JST上席主任調査員】  はい、おっしゃるとおりですね。当然それはフィードバックを掛ける仕組みを一緒に作っておくんだというのは当然だと思うんですね。つまり、誰がどういう形で引用しているのか、誰がどういう形で利用しようとしているのか、あるいは利用したのかという情報をもっと正確にきちんと取って、それをベースに研究を評価していきたいと。
 だから、林先生の報告にもありましたとおり、研究の評価をもっときちんとやるべきだということなんですね。そのためにはまず論文をアクセス可能な形に、誰もがアクセスする形に、つまり平場に全部置いた上で、どんどんアクセスされる論文、それはいい論文でしょうと。アクセスされない論文は、少なくともその時点においては余り注目されていない論文でしょうという評価をきちんとやろうという、それがやっぱり背景になっています。

【谷藤委員】  あともう一つだけ質問をお許しください。そうしますと(オープンアクセス出版を奨励する先に)何らかの(研究評価の一つとして)論文がもたらすインパクトを計算する手法も同時に考えていこうとしているということなのでしょうか。

【恒松JST上席主任調査員】  おっしゃるとおりです。はい。

【浅島主査】  あと一つぐらい何かあれば。
 そうしましたら、まだいろいろな御質問、御意見等があるかとは思いますけれども、続きまして御出席の委員の先生方から各機関のオープンアクセスの取組状況や課題意識について伺いたいと思いますので、まず大学・研究機関の方からお願いいたしたいと思います。
 それで、申し訳ないですけれども、時間が非常にタイトなので、大体3分をめどにして話していただきたいと思います。
 それでは、京都大学の引原委員、お願いいたします。

【引原委員】  ちょっと最初でなかなかつらいところがありますけれども、オープンアクセス、実態から言えば大学の方はリポジトリを中心としたものになるわけですけれども、特に京都大学のリポジトリというのは日本のアクセスでトップにあります。ただ、言いながらも、世界で52位ぐらいです。そのリストを見てみますと、大体企業だとか、それから研究所というのがリストの中に入っていて、アクセスの主体が必ずしも大学の知財を求めているものではないということがよく分かります。ですから、リポジトリというものを単にアクセス数で評価するということは正しくはないと私は思っています。
 その上で、大学から出すものというのは、やっぱり学位論文であるとか大学が生産した知財、研究論文ですね。それはグリーンの形で出していくのが当然であろうと思います。
 さっきゴールド、グリーンの話がありましたけれども、同時にDouble Dippingの問題が非常にあるのと、あと、学会経費というのも大学の研究費から払っています。Double Dipping以上に各研究者がお金を払っている。海外の場合はそれも止めているところが多いんですけれども、日本は平気で払っています。だから、学会の在り方と、今の論文の在り方、それからDouble Dippingの問題というのは、このリポジトリ周りで非常に複雑な状況を呈していてなかなか整理できていないので、我々京都大学としてはオープンアクセスの考え方というのを早急に明確にしたいと今思っています。
 以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、名古屋大学の佐野委員、お願いします。

【佐野委員】  私たち自身としてオープンアクセスとして、名古屋大学としてはリポジトリを強化していくという方向ではあるんですが、私自身が一番関心を持っているのは、論文数であったりオープンアクセスという形であったりするんですが、それが結局ワールドワイドのデータベースの中に論文が載っているのか載っていないのかということに一番私自身は興味を持っています。
 つまり、日本人の多くの研究者はかなりのレベルの研究発表をしているわけですが、グローバルな視点から見ると、実は論文数は非常に少ない状態にあります。それは結局、検索しても論文が引っ掛からないというところにあるわけです。つまり、我々が日本のいろいろな研究機関がリポジトリ等でオープンアクセスの情報を出しても、それがワールドワイドのデータベースに載らない限りは論文になっていないわけで、世界の人たちに見えないわけです。ですから、このワールドワイドのデータベースにどのように載っけるかということが非常に重要ではないかというふうに思っています。
 一つの例を挙げますと、例えばこれは過去2007年から2011年までの各国と研究分野の論文数ですが、例えばガバメント・アンド・ロー、政治学の分野ですね。その分野で日本の論文数が過去5年で2007年から2011年、225です。一方、アメリカは3万です。例えばUKは8,500。これ、Web of Scienceから出てくる結果です。
 つまり、ワールドワイドのデータベースに載っかっていないと、それは幾ら論文だと日本人が言っても論文じゃないんですね。世界の人たちから見れば。ですから、オープンアクセス化ということと同時に、オープンアクセスした何らかの媒体がワールドワイドのデータベースに載っかって、世界各国の人たちが引用できるような形になっているかどうかということに大変、私自身は興味を持っているところです。オープンアクセスの議論とはちょっとずれるかもしれませんが、そんなところに大変関心を持っているということでございます。
 以上でございます。

【浅島主査】  今の佐野委員の意見も非常に重要なことでありまして、日本はどういうような仕組みを持つかということと関わると思うので、どうもありがとうございました。
 次に、千葉大学の竹内委員、お願いいたします。

【竹内主査代理】  千葉大学の竹内でございます。
 先ほどの林さんらのお話に若干加えさせていただきますが、イギリスに関しましてはRCUKがFinch Reportをベースとしたゴールドオープンアクセスの推進をやってきていますけれども、つい先日、Higher Education Funding Council for Englandが、グリーンを推進するという立場を表明しておりますので、英国といえども一つの方向で進んでいるわけではないということは明確に理解をしておく必要があるのではないかと思います。
 それから、佐野先生から法律分野論文の日本からの国際的な発信の弱さというのがございましたけれども、法律分野というのはかなり特殊な領域で、国内法の研究者は絶対に日本語でしか論文を書かない人たちですから、それを引き合いに出して単純に比べるのはややミスリーディングかもしれないということは申し上げさせていただきたいと思います。
 千葉大学におけるオープンアクセスということに関しますと、先ほど林さんからお話があったように、論文のオープン化ではなくて、研究成果のオープン化というのは大変大事なことだと思っておりまして、私どものリポジトリの中でも、研究成果として、例えば標本のデータなどというものも積極的に公開をしているところでございまして、その割合というのは、レポジトリ登載数の中でもかなりのパーセンテージを占めております。
 そういった様々な研究成果がリポジトリに搭載され、オープンアクセス化するということは、単に研究振興という立場だけではなくて、学習リソースとしての様々なリソースのオープンアクセス化という非常に重要な道を開いていくものであろうと思います。
 とは言いながらも、このディスカッションで重要なのはやはりジャーナルの問題ということになるわけでございますけれども、千葉大学では、オープンアクセスジャーナルへの投稿事例は2006年ぐらいに最初に現れております。これがその後どんどん増えていまして、私どものスタッフの調査によりますと、2013年には106本の論文がPLoS ONEを代表とするいわゆるオープンアクセスジャーナルに掲載されているという状況でございます。千葉大学に所属する研究者の国際的なジャーナルでの論文発表数というのは大体年間1,100本から1,200本の間ぐらいでございますので、おおよその割合がどれぐらいか御理解いただけると思います。
 ただし、これが従来のサブスクリプションジャーナルへの投稿がオープンアクセスジャーナルに振れたものなのかどうかということについては分かっておりません。つまり、オープンアクセスジャーナルの登場は、単に研究者にとっての論文発表機会を増やしているだけという議論は十分あるわけであって、単純にオープンアクセスがどんどん進んでいけば、先ほど引原先生からお話のあったようなDouble Dippingであるとか二重払いとかいった、そういったものが解消していくような具合のいいものにうまくなっていくという保証は全くないわけであって、先ほど林さんのプレゼンの中にあった、いわゆる大学からの支出の変容というのは、そう簡単に行くのかどうかという疑問を実感として持っているところでございます。
 以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、次に横浜市立大学の白石委員、お願いします。

【白石委員】  先生方からはオープンアクセスをめぐる問題意識という御発言が多かったように思いますが、私の方からは本学のオープンアクセスの取組の状況について御説明をしたいと思います。
 今まで研究科単位での紀要の公開ということはあったのですが、大学自体の機関リポジトリの構築は今年度から始まりました。ですので、リポジトリ構築から今日で3週間目というところです。システムとしましてはNIIさんのJAIRO Cloudを利用させていただいて、先ほど義務化というお話がございましたけれども、学位規則の改定に伴う学位論文のインターネット公開をする場所として機関リポジトリの運用を開始したというところです。
 それで、機関リポジトリは大学として必要だと、作った方がいいというような話は教員の方から特に人文系の教員からは出ていたわけですけれども、本学では、自然科学、医学、理学、それから私のいる社会科学の分野では、やはり査読誌、いわゆるジャーナルに載せるのがメインの発表の仕方だという傾向がありまして、そのこともありましてなかなかリポジトリを構築するというようなところまで行かなかったということです。
 今後は、紀要に掲載されている論文とか研究成果をリポジトリに載せていくべく学内で状況を作っていこうという段階ですが、今回の博士論文の準備にしましても、各研究科の対応が違っていて、学位申請の手引きを作成しなければいけませんでしたし、細かい点ではどこの部門が所管をするのかなど検討すべき点はいろいろとあり、所管は最終的には図書館と教務課と連携しつつ博論公開を進めているという状況なのですが、本学では博論公開の義務化がリポジトリの構築の実現ということにつながったということです。
 以上です。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。いろいろな動きがあるということが分かりました。
 次に慶應義塾大学の田村委員、お願いします。

【田村委員】  私も慶應の状況を御説明したいと思います。
 慶應の場合には、ほかの大学と同様に機関リポジトリ、KOARAという名前の機関リポジトリを持っておりまして、そこにコンテンツをためるということをやっております。ただ、今までは中心が学内にある刊行物を電子化するというところに置かれておりまして、グリーンOAをどのような形でそこに組み込んでいくかということが次の課題ということで出てきております。昨年は博士論文の電子的公表に対処するために、検討は止まっていましたが、学内刊行物の電子化の次はグリーンOAへの対処をどうするかが検討課題だろうとの認識は持っております。また、教員からKOARAで対応してほしいという要望も寄せられております。
 グリーンOA、それからAPCについて学内で検討するときに問題となりますのは、前回竹内先生がお話になったこととも関わるのですけれども、慶應の場合には、図書館という論文を利用する部分の仕組みと、それから成果発表に関わる研究管理・研究振興の部門というのが分かれておりまして、学術情報流通について両者をどのように関連付けていくかということが課題だと思っております。特に電子ジャーナルの問題で両者の関係の在り方が表面化してきたと申し上げていいのではないかと思います。つまり、研究成果がどんどん上がってきて発表論文数が増えるようになり、それが電子ジャーナルの豊富な利用環境によって担保されているということがはっきりすれば、成果が上がった分電子ジャーナルへの支払も増えて良い、ということになります。しかし、現在は利用するときと、それから発表するときとが分かれていますから、両者の関連付けというのがなかなかできない。そのために、電子ジャーナルについては払わされているという認識しか持てないというのが問題で、OAによって成果発表が直ちに利用に結びつけられるようになれば、発表件数に応じてAPCに配分する予算も増額して良い、どのくらい、どこにお金を払えばいいかというのがはっきりするのだろうと思っておりまして、グリーンOAやAPCを検討する際には、その辺のところが議論の俎上(そじょう)に上ってきていると申し上げていいかと思います。
 慶應では学内に以前から掲載料補助という制度があり、海外などの特定のジャーナルに論文を掲載する場合には掲載に関わる費用を補助してきました。ただ、それは今のところは抜刷代金の補助など紙媒体を想定したものになっていて、OAと関係しておりませんし、まして、電子ジャーナル問題等と関係させて対象誌を検討するといった発想もありません。OAについて先ほど林先生から研究振興に関わる話なのであるというふうにお話しいただいて、大変私も意を強くしているのですけれども、電子ジャーナルの問題も究極的には、個々の大学にとっては研究をいかに振興するかという視点からしか議論できないんじゃないかというふうに思っております。現状ではパッケージ契約によって利用面で研究環境を維持しつつ、OA化を推進することによって、利用面からの制約をなくし、研究への投資とその成果とを見やすいものとするよう努める、というのが今の大学の判断として適切なのだと考えておりますし、理事などにもそのように申し上げております。
 とりあえずは以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。いろいろな動きが見られました。
 それでは、次に物材機構の谷藤委員、お願いします。

【谷藤委員】  オープンアクセスに対する研究機関の取組例として御紹介できることとして三つあります。
 一つは、公的研究機関はもともと研究成果を公開する義務を負っているので、歴史的にどの研究機関においても成果公開データベースというものを持っていますが、その成果を使いやすい状態で持っているかどうかは研究機関によって異なります。近年、いずれの機関でも行われているように、当物材機構でも機関リポジトリを2005年ぐらいから運用を始めておりますが、その運用は、研究の成果として公開するかどうか、公開にふさわしい内容の選択、自身が許諾した著作権利の履行の範囲なども含み、自己判断を原則にしています。また論文や報告書のような文書だけではなく、論文で引用するデータを補完する画像データなどについても、セルフアーカイブ(自分判断による保存と公開設定)ができる選択肢を提供しています。
 その自己責任の意味は、いつ、どのようなアクセス権で設定をして公開するかということが自己判断であるということで、データの質や著作権の有効性などを図書館員が介入して検査をするということはしていません。(現実的にできない、という状況もあります。)
 それから、二つ目は、研究機関として過去の研究成果資料、特に独立行政法人化する前の成果報告書については、全て電子化をして機関リポジトリに入れて公開をしています。
 三つ目の取組は、オープンアクセスジャーナルを発行しています。これは機構の紀要ではなくて、国際誌として英文のジャーナルをゴールドモデル(著者・機構が出版費を負担、出版後はCC-BYライセンスにより、公開後直ちに複製・配信利用可)でオープンアクセスジャーナル出版をしています。昨年からAPCを導入しまして、それから機関としても日本だけではなく、スイスの材料研究機関とも連携をして、より安定して、それから国際的に窓の開かれた学術誌として提供をしているという三つの取組があります。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 今までは各大学と及び研究機構等の状況について御説明いただきましたので、次に、学会関係者の立場から、取組状況や課題意識等について永井委員、お願いします。

【永井委員】  学会が一人しかいないので、すごく責任が重いのですけれども、実際の話しかできないので、極めてパーソナルな経験の話として聞いてください。 まず一つは、本会ですけれども、非常に早くからIR(機関リポジトリ)との連携というのをやっておりまして、既にその結果も論文にもなっておりますが、北海道大学、京都大学、筑波大学の著者のZoological Science論文を全部、各大学リポジトリに入れて、そのパフォーマンスを測るということを行いました。是非読んでください。
 それで、ここで一つ明確なのは、更に詳しいことも調べているのですが、読まれている論文は、本会のジャーナルの特色が良く出ていて、分類生態の論文が読まれているという状況です。ただ、読み手は研究者ではない。リサーチャーからのアクセスではないということがわかっています。これはOAを考える際には非常に重要なことだと思っています。学会出版としてはこういった状況はオーケーだと私自身は考えます。先生方がどうお考えかはちょっと別ですが。ただ、当初このプロジェクトを行おうと考えて、理事会を動かしたのが私自身なのです。一つは本会のジャーナルの認知度を上げたいこと。リポジトリを使って。さらに、もう一つは、当然、引用が起きるということを希望していた。ただ、結果としては、なかなかそうはいかなかったということをお伝えしたいです。
 私の認識としては、IRの利用においてジャーナルの認知度が上がったかどうかというと、分からない。明確に分かっているのは、一般の方々が読んでいる。しかもそれは日本の方々ではないということです。当然、英語の論文ですので。日本としてOAをどうするかということを考えますと、言語の問題は、大きいと思います。もちろん世界に対しての動物学研究という責任を負うという点では意味はあるかと思います。
 私が申し上げる必要があるのはあと二つです。先ほど、長澤さんから御説明があった中で、7枚目のプレゼン資料で、JSPSについてですが、示された内容は去年の結果でした。今年の結果は既に出ています。ある部分は5年の継続の活動に支出されると決まっていることもあり、今年は大変厳しい結果になりました。何を申し上げたいかというと、動物学会は実に1年半もの間、厳しい議論を学会の中で行い、単にJSPSの資金に依拠をせずに、台湾、特にドイツに負けないすばらしいOAジャーナルを出そうということで、満を持してプレゼンに参りました、今年の結果は、OA刊行申請5件、そのうち2件採択で、そのうちの1件となったわけですが、何と1年だけなんですね。1年。もちろん、私たちは出版せざるを得ない。来年は、採択されない可能性も大きい。はしご外されたらどうするのかっていうことを考えろと言われているようにも思います。JSPS国際情報発信強化で採択を受けるのは、厳しい状況だと言えるでしょう。
 それから、長澤さんは多分そういう御説明ではなかったと思うのですが、念のために、言わせてください。J-STAGEの利用状況を示されていますが、これはとても重要なことだと思うのですが、採択されているジャーナルが全てOAを中心とした情報発信強化に依拠しているわけではないということだけは私の方から申し上げたいと思います。
 最後もう1点ですが、一番学会として悩ましいのは、これは林さんのプレゼンにありましたことです。つまり公的資金を得た研究成果のOAというのをどう考えるかと言われたときに、ファンディングエージェンシーが、いや、「必ずオープンアクセス論文にしなさいね」というように決断された場合、さあ、学会は、どう動くかということです。特に日本政府の方針が重要です。そういった心配もあって、私たちはOAジャーナルを出すことにしたということもあります。でも、厳しいことは、本会の新刊OA誌は、最初の1年で勝ち抜かない限り、なかなか勝てないと思います。JSPSに採択をしていただいたので、絶対に良いパフォーマンスを上げなければいけないと思って頑張ります。
 でも、1年の支援という話の裏には、厳しい現実があったのだと思います。なぜ1年なのでしょうか。ジャーナルは当たり前の話ですが、継続性が必要です。
 考えていただきたいのは、ジャーナルの政策を考えるときに一番大事なことは、日本が日本としてどうするかということをお出しにならなければいけない。文部科学省、JST、JSPSが。出される方策、支援は、日本の学会に影響は与えるだろうということです。ただ、竹内先生がおっしゃってくださったように、アメリカやヨーロッパが一つの方向性でみんな一丸となっているとは私には、とても思えません。現場は、学会も国も大変悩んでいる。欧米の多くの学会は─、お金を得て、その資金を社会や教育のために使っている。学会は、そのようでありたいと思うのですが、そう簡単にできません。
 すみません、まとまりがなくて。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。いろいろな意味で状況は分かったと思っています。
 最後に、国内におけるオープンアクセスを支援する立場としてのJSTとNIIからお願いいたします。まず最初にJSTの加藤委員、お願いします。

【加藤委員】  JSTの加藤でございます。
 まず最初に、ファンディングエージェンシーとしてのJSTのオープンアクセスに関する方針ということで、先ほど長澤室長の方から御説明がありましたけれども、昨年の4月にオープンアクセス化を推進するということで方針を出させていただいております。その中で幾つか、JSTとしてやるべきことということで、研究者が発表するジャーナルからの許諾だとか、リポジトリへの提出作業の支援だとか、そういった研究者向けの研究者負担を軽減するというような方策、あるいはジャパンリンクセンターのDOIを付与するとか、リポジトリがない機関に対してはリポジトリを自分たちでJSTとしても作ることも考える。あるいは、J-STAGEというプラットフォームがございますので、その利用を誘導するというようなことを前提にオープンアクセスを推奨するということで、昨年の4月に発表いたしております。
 また、オープンアクセスの義務化ということに関しても、JSTの中では今、議論を進めておりまして、先日の学術会議のフォーラムでも基本的に義務化をしますということで説明いたしました。ただ、時期と範囲について、それから具体的なモデル、どういう形にするかと、いろいろ方策がたくさんございますので、JSTとしてどういう形でやるかという具体的な方策を含めて研究者の皆様に提示をする必要があるということで、義務化の方向に一歩踏み出しておりますけれども、具体的な時期については、まだ検討中でございます。
 一方で、JSTが運営するJ-STAGEというのが、基本的には各学協会様の電子ジャーナルのプラットフォームになってございます。そのJ-STAGEを活用することで、各学協会に支援をすることも十分できるのではないかということで、JSTの中で今、議論を進めております。例えば、バーチャルの電子ジャーナルサイトを作るとか、そういうことが十分、各学協会から、有力な論文を推薦していただき、レビューアーを含めて別なジャーナルという、もちろんバーチャルで、具体的なデータがあるわけではありませんけれども、そういうジャーナルサイトを作ると。そのジャーナルサイトとリサーチマップとかの研究者の情報と併せて、レビューアーを含めたジャーナルを作るということで何か支援ができないかとか、そういうようなところも今、議論をしているところでございます。
 現状そういう状況でございます。よろしいでしょうか。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。これもJSTも動き始めている、あるいは変化しているということはよく分かりました。
 次、NIIの安達先生、お願いします。

【安達委員】  先ほどのRCUKの活動の説明でありましたように、オープンアクセスというものがだんだん科学技術政策や研究及び研究者評価の問題として注目を浴びるようになってきております。しかし、オープンアクセスには長い歴史がありまして、いろいろなルーツがあります。
私どものNIIは研究助成機関ではありません。しかし、大学共同利用機関として、大学における活動を支援する、一緒に行うという観点でやってまいりました。
 先ほどもオープンアクセスの活動は対症療法的であるという言い方がされましたが、その科学技術政策の在り方や研究者評価の在り方という観点になりますと、要するに進むべき方向が見えているわけではないと言わざるをえません。オープンアクセスがイノベーションを加速するという言い方も可能でしょうが、そのような形で実際に進むかどうかよく分からないところがあります。私どもは、従来から具体的な問題を解決するという観点でやってまいりました。はっきりと申しますと費用の問題です。オープンアクセスはまず第一に費用の問題と考えております。科学技術政策も費用の問題であり、最も効果的に政策投資ができればいいという言い方もできるのでしょうが、それ程単純な話ではないことは、もう皆さん御承知のとおりで、やることは対症療法的にしかなり得ません。
 私どもがやってきましたのは、先ほどもう既に御紹介がありましたような機関リポジトリの推進や、特に国際連携の推進です。今日の御紹介でありましたように、オープンアクセスは極めて国際的な活動です。日本の大学も大部分は国際的な環境で、研究者は試練にさらされて研究しているわけで、国際連携をどのように進め日本としての顔を見せるようにするのかというのが重要な課題だと考えて活動してまいりました。そのような流れの中に、SCOAP3やarXiv.orgとの連携を位置付けております。
 このような場では余り議論されないと思いますが、オープンアクセスに反対する人たちもいるわけです。この場にそれを嫌がっている人たちが来て議論に入っていただいたら、絶対収束しない議論になると思います。我々は皆どちらかというとバイアスされた側にいる人間なので、そういう意味で公平性を欠く議論になるのかもしれません。
 例えば、OAの一環としてグリーンを推進するということが言われますが、グリーンというのが、多くの場合著者の最終版の掲載を許しているにすぎないということは大変具合の悪い話であると思います。契約して閲覧する電子ジャーナルではきれいなPDFで出てくるわけですが、このPDFと著者最終版は全然違ったものです。しかし、情報量としてはほぼ同様だということでオープンアクセスといえると言うことだと理解しますが、なぜこのような状況になっているかということを考えるだけでも、オープンアクセスに反対し嫌がらせをする大きなグループがあるという厳然たる事実がわかります。OAとはそれに対する活動であるということを認識して国は政策を作るべきであるし、我々は活動していくべきであるということを是非申し上げたいと思います。
 以上です。

【浅島主査】  貴重な御意見を先生方にいろいろ頂きましたので、それでは、これまでの内容を踏まえまして、各委員から全般的な意見交換を行いたいと思います。どういうことでも構いませんのでお願いしたいと思います。

【引原委員】  先ほど学協会の話があったんですけれども、私は電子情報通信学会でオープンアクセスの雑誌を実際に発刊する作業を数年かけてやってきました。結局、最終的にはオープンアクセスするときにWeb of Scienceに登録されるかどうかというのは非常に大きなポイントになると思います。それを経なければ認知をされない。だから、オープンアクセスの雑誌を国内の学会関係が発刊するときに、まずそこのクリアをするときが自助努力なんです。そのサポートをどうするかというのが非常に重要なことではないかと思います。
 もう1点は、NatureとかScience、Physical Review Lettersとか、先ほどJSTの加藤さんがおっしゃいましたけれども、バーチャルな雑誌を出しております。窓口は各雑誌じゃなくて、私が知っているナノテクノロジー何とかっていうジャーナルですけど、それは別の雑誌でバーチャルなんです。そこから各雑誌に飛んで、アクセス数が増えていくんです。放っておいても。そういうようないろいろな窓口を作るという努力を出版社を超えてやっているということも知っておいていただきたいと思います。日本の学協会というのはそういうことに踏み込んではいないと私は思います。
 最後に、カンファレンスが各学会の収入源になりつつあります。ジャーナルでもうもうけられなくなったから、カンファレンスでお金を取ろうとします。ところがカンファレンスのプロシーディングスがきちんと、例えばScopusとかGoogle Scholar、あるいはWeb of Scienceに載っていなければ、もうヨーロッパではそのカンファレンスに行く意味がないからアブストラクトも出さないと、そこまでもう言い切るようになってきています。ここ二、三年がその大きな節目ですので、そのカンファレンスモデルにビジネスモデルを置くと各学会は潰れてしまう可能性があることを、御理解いただければと思います。

【浅島主査】  今の引原先生の発言は、今後を考えていく上で非常に重要で、まずWeb of Scienceに載るかどうかということは一つ、非常に重要なファクターになるだろうと思います。そうすると、先ほど佐野先生が言われた事柄についても少しクリアできるのかなと思っております。
 それからもう一つ、カンファレンスのことについても、ある面で言うと、そういう世界的な流れの中で、やはりいろいろな意味で対応しなければいけなくなってきているということです。

【永井委員】  今の引原先生のお話に関わることですが、まず、トムソンのデータベースに採録されるためにはエディトリアルボードにいる研究者のパフォーマンスを見る。新刊ジャーナルは、状況が見えないので、編集委員の人たちのパフォーマンスというのが非常に大きなウエートを占めると。
 創刊1年目から、Web of Scienceに載りたいと思ってやるんだということを意思表明しておくことも重要だと思います。
 それからもう一つ、引原先生がおっしゃったことは、既に浅島先生と谷藤さんと林さんと私が学術会議の方の学術誌検討分科会の委員なんですが、提言として既に、出しています。日本のジャーナルによるバーチャルイシューを出そうということで、それは平成21年ですか。

【林委員】  2010年8月です。

【永井委員】  8月ですか。ありがとうございます。今、引原先生がおっしゃった、学会が連携をしないということで、学会連携ということを一生懸命謳(うた)っているのですが、学会はなかなか連携をしてくれませんし、学会連携をしたいと言って出した国際情報発信強化も見事に落とされまして、本当にこれは困ったことです。
 なぜかというと、先ほどの谷藤さんのお話にもあったのですが、CC-BY、CC-BY-NCという内容をオープンアクセスジャーナルを出している学会がどれだけ説明できるかというと、多分、情報としてその重要性を学会が理解していない。編集の方々のスキルアップをして、一緒に頑張りたいという話をしているんですけれども、なかなか連携協調はしていただけないということが事実です。これを何とかしなければいけません。
 情報は幾らでも共有し、いろいろな学会と話したい。いろいろな学会の状況をお互いに知りたいです。ところが、なかなかそういう情報は出していただけない。唯一、今、学会間で情報共有できているのは、かつてSPARC Japanで採択を受けた学会だけです。それらの学会の中では情報共有は一応、ある程度のところまでは進んでいるかと思います。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 ほかに。どうぞ。じゃあ、林先生。次、谷藤先生。

【林委員】  今の議論の流れで海外の状況を踏まえた上で日本の特色というのが幾つかあります。安達先生がおっしゃったように、普通、欧米でオープンアクセスを議論するときは、出版社側が反対を表明することが良くありますが、残念ながら日本の、少なくとも学協会系学術出版でそれほど力があるところが非常に少ないのです。これは、(購読費が死活問題になりかねない出版者側の影響が少ない)日本オリジナルの議論ができ得るという状況にあります。この現状をネガティブに取るかポジティブに取るかはまた議論が分かれますが、ことOAの議論に関してはポジティブに取っていいのではないかという主旨で論考を執筆しております。
 この流れで見ると、先ほど17世紀から続く学術出版システムという国を問わないような一般的な表現をさせていただきましたが、実は学術出版や情報流通の仕組みも国ごとに違います。特に日本ですと具体的に言うと和文誌はそれで独特の情報流通の文化があり、電子化に関しては更に独特な状況にあります。この状況もネガティブに考えるとガラパゴス化しているとなりますが、ポジティブに考えると今からオープンアクセス化に向けた新しい情報流通の構築に向けて、大風呂敷を広げてよければ、新しい研究成果メディアを作ろうとしても良いと思います。それは日本語メディアとして、例えば日本の国民のために研究成果を広め、日本の知恵を高め、それが結果的に世界に影響を与えるというようなシナリオです、即興ですけれども。例えとしてそういう新しいメディアに転換する議論にすることもできるという観点を持つことが、海外から日本を眺めると分かるということで、私のプレゼンの補足とさせていただきます。

【浅島主査】  どうもありがとうございます。
 じゃあ、谷藤先生。

【谷藤委員】  オープンアクセスのもう一つ別の側面として、安達先生の御意見を伺いながら思い出していたんですけれども、研究の中心にいればいるほどオープンアクセスは(雑誌の選別から出版費用負担まで)煩雑なこととして嫌がる人が増えるように思います。手続や費用負担を増やした結果、その効果は何か(目的と成果)が分かりにくいのではないでしょうか。オープンアクセスの二つ目の側面として、研究振興というところまで、もし日本が目標を定めるとしたら、例えばJ-STAGEを一つのモデルケースとして捉えてみると、J-STAGEに載っている学術誌がデータマイニング対応になっているのか。例えばCC-BYに代表されるような論文著作権の認識が版元である学協会に浸透しているのか、あるいは、そこに載っている論文情報がイノベーションにつながるのか、と突き詰めて考えてみると、論文執筆者には余り実感がないのではないでしょうか。それは研究をしたからイノベーションになるのではないし、オープンアクセスにしたからイノベーションになるのでもないことは研究に関わる人は分かっていること。産業につながるまでの道のりは長く、かつ民間とも様々な連携をしなければならない。産業化するためには膨大な時間とお金を投資しなければならないということは、多くの研究者がもつ一定の認識だと思います。ですから、日本の学術政策としてオープンアクセス推進の具現化を考えるときは、その道筋を日本国民に対して示すことが大変に重要だと考えます。その趣旨でJ-STAGEという枠組みを一つのモデルケースとして、そのシナリオを具体的に示すというのが一つのやり方なのではないでしょうか。
 例えば、J-STAGEに載っているあるジャーナルに載った論文は、ある条件を備え、データマイニング対応版であるというような。同時に、日本独自の(研究論文としての)評価指標を持っている、ということも共に示す必要があると思います。アメリカに向いて、是非、日本の研究成果にインパクトファクターをつけてくださいとお願いするような日本ではなく、日本独自に、日本の研究環境や評価の仕組みを表す指標を生み出し、それとセットにしてオープンアクセス化の成果を見えるようにすることも大事だと考えます。欧米のまねではない、日本の独自性を生み出すことが、日本のイノベーションにつなげるオープンアクセス政策に求められる議論ではないか、という意見です。

【浅島主査】  貴重な御意見をどうもありがとうございました。
 これについて加藤委員、恒松上席委員、もしもよかったらお答えいただくと有り難いんですけれども。

【加藤委員】  今おっしゃられたことは正しいかなと、そのとおりだと思っていまして、JSTでもオープンアクセスポリシーみたいなものが浸透していないということで、先ほども長澤室長の中にフリーアクセスという形で出ておりましたけれども、基本的にオープンアクセスっていうのはどういう意味なのか、どういうポリシーなのかということも併せてJSTの中で、これは学協会の方からも実は意見が出ておりますので、そういうことを整理していきたいというふうに思っております。
 それから、J-STAGEのプラットフォームとしての機能については、海外の有力ジャーナルと比べても機能そのものは掲載して参照するところは基本的な機能は全部あるんですが、足りない部分もたくさんあると。例えばレコメンド機能がないとか、あるいはレビューで案内するような機能がないとか、いわゆるビジネスでやっている電子ジャーナルサイトとJ-STAGEは若干違っております。公的機関がやっているところなので。今回もいろいろな話の中で商業出版社、ビジネスでやっているジャーナルと、J-STAGEでは若干違うところがあるというのは事実でございます。その中でジャーナルアクセスの頻度をどういうふうに上げていくかと。あるいは、新しい電子ジャーナル向けの評価指標をどうするかということもJSTの中で今、議論しておりますので、J-STAGEというプラットフォームをどういう形で進化をさせていくかということは私どもが持っている課題でもありますし、是非チャレンジしていきたいと考えておりまして、内部でも今、プロジェクトチームを作って、論議をして、できれば御提案をしたいと思っておりますので、是非御理解を頂ければと思っております。
 それから、先ほどNIHのところで専用プラットフォームというか、PubMed Centralということをやっております。それと同様のことがやっぱりファンディングエージェンシーの中で義務化した時点で作った方がいいのではないかというような議論も実はございまして、そのときにJ-STAGEのプラットフォームがうまく活用できないかというようなところも検討の対象にはしているところでございます。
 いずれにせよ、学協会様のプラットフォームとしてはかなり、先日アンケートをとっても、80%以上の方が国際発信には役に立っているというお話を伺っていく中で、更にどういう形であれば大きく貢献できるのかということについては今後チャレンジしていきたいと思っておりますので、御指摘いただければと思っております。

【浅島主査】  恒松さん、何かありますか。追加は。

【恒松JST上席主任調査員】  一つ追加させていただきたいのは、日本国内にはいわゆるグローバルな科学技術出版社がないと。ないので、我々やりやすいというところは非常にあります。実際、欧米にはそれぞれの国の大きい出版社を抱えていて、余り一気にOAを進めると出版社の経営が傾くということになるんですね。先ほど、竹内先生からも御指摘があったとおりで、実は英国政府の中も省によって、これもまた温度差があるわけですね。ミニストリー・オブ・エデュケーションの方は、OAの話は俺たちは知らないっていう感じなんです。むしろイノベーションをしたい人たちの方がこういう政策を進めていると。オランダの人たちは、グリーンOAで何が悪いの、ゴールドなんて何でそんなばかなこと言ってるのっていうのが本音のところなんですね。
 そういう既存の、まあ、権益という言葉を使っちゃいけないかもしれませんけれども、既存でビジネスをやっている人がいて、そこを余りいじめると、下手したら失業者が出ちゃうわけなので、そこのところをにらみながら、上手に何とかしてオープンアクセスの方に出版社も一緒に誘導しようという、そういう微妙な政策のかじ取りをみんな苦労してやっているというのが現状なんです。
 日本は、そんな面倒くさいこと考えなくていいので、幸いに。そんなつぶれるような出版社って、まあ、ないっちゃないんです。ただし、出版社に何か言おうと思ったときに、日本は全然発言力ないんですよ。そういう意味で言うと。日本がどういう政策を取ろうと余り影響していないというのが事実なんです。だから、出版社に対してものを言いたいときは、やはり、さっきのグローバルなフォーラムを利用して、日本の利益と合致する政策を出している国と手を組んで出版社に圧力を掛けるということはやるべきだし、やっていかなければいけないと思うし、先ほどのインパクトファクターなんかの議論も、当然、日本発のものは作られつつあるし、それは実は過去も作りつつあるんです。出版社のあのいいかげんな、何だか分からない3.0だっていう話はですね、研究者だったら皆さん、そんなものね、ばかにするなって、ここの人は皆さん思っていらっしゃるわけです。ただし、それに代わるものがないのでしようがないっていう状況なんですね。代わるものを作ろうという動きは各国出てきます。そういうのはやっぱり手を組んで、グローバルに圧力を掛けないと、出版社と対抗する勢力にならない。どうしてもやっぱり対抗勢力と向き合いたいのであれば、我々もグローバルに手を組んで動かないと何も変わらないということはたしかだと思います。

【谷藤委員】  向き合うというのをもうちょっとポジティブな意味で補足すると、日本はこれだけ洗練された科学技術力を持ち、論文も特許もたくさん創出している事実を踏まえると、(こうした国際的な議論の場面では)日本の発言権は十分にあると思います。

【浅島主査】  はい、安達先生。

【安達委員】  先ほどの恒松さんのお言葉の中で少し現状と違うと思う点は、数年前からオープンアクセスはもうかるビジネスになっているということです。したがって、ヨーロッパの主要な出版社は全部オープンアクセスジャーナルに乗り出してきています。講読モデルもやるしオープンアクセスもやり、研究者に、ということは国に、たっぷりお金を払ってもらいますというのが彼らのビジネスモデルです。ですから、イギリスなどで非常に厳しくオープンアクセスを推奨するというのもそのようなところにルーツがあると言う気がいたします。
 また、Double Dipping、つまり、「二度おいしい」ということを厳しく追及するのも、OAビジネスに乗じてずるをやっているというところを指摘すべきであるということだと思います。
 基本的には税金による投資を全体としてみてどのようにしたらうまく使えるかという話であります。SCOAP3でもAPCを平均的にはぐっと下げたということが成果の一つであります。論文を流通させるのにお金が掛かるというのは明白な事実ですので、それをどのようにして合理的な新しい形態にするのかというのが今議論になっている課題だと思います。その動きは既に日本独自ということは無理で、世界レベルで動いています。私どもがSPARC Japanを始めるときも最初にぶつかる問題は、「研究や科学というのはインターナショナルでグローバルなものなので、その中でどのようにして国というものを出していくのか」ということでした。一つの国だけで研究ができるわけではなく、国を超えた研究評価に巻き込まれてやっていかなければいけないわけでして、基本的にはOAを推し進める方向の中で、国の独自性というもの、それは科学技術政策に表れることになりますが、それをどのように出し、国際的に競争していくかという非常に難しい問題をどう解くかということだと思います。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 ほかに何かありますか。先ほど加藤委員の方からバーチャルコンテンツですか、それを作る、今、一つのことを考えているというようなことをおっしゃいましたけれども、何か具体的にそういうものをどういうふうなものとして見ていいんですか。

【加藤委員】  今、検討中でございますけれども、基本的に昨年、J-STAGEの今後の方向性ということで文科省の方でも御報告差し上げましたけれども、有力学会等の重点誌に対する積極的な投資をし、国際発進力を強化しましょうというところまで今、話が出ております。
 ただ、今回のこのジャーナル委員会も含めて、日本として有力ジャーナルを作ることができるかできないかみたいな話が論議としてございますので、その際に、先ほど申し上げたバーチャルの電子ジャーナルサイトを作っていくというのが一つの方策としてあり得るのではないかということで、今、JSTの中で論議をしておるということでございます。
 各学協会様が、前にコンソーシアムを組むというお話もございましたけれども、学協会の方の有力論文みたいなものを推薦していただいて、それをバーチャルのジャーナルに載せると。レビューアーを含めて案内もしていくというようなことがあれば、そこから学協会へのアクセスも増えていくのではないかなというようなことで、バーチャル有力ジャーナルサイトという形の支援ができるのではないかなという論議をしているということです。

【浅島主査】  ありがとうございました。
 ほかに何かありますでしょうか。はい、長澤室長。

【長澤学術基盤整備室長】  いろいろ御意見を伺っていて、そもそもやはりオープンアクセスを推進するということはやはり必要だろうということで、私どもとしてはやっぱりそう考えていて、結局、一番初めに立ち返りますと、ジャーナルの講読経費が掛かっていて、アクセスできないような人がもし仮にいたとすると、たとえそれが著者最終原稿であったとしても、そういった流通の場というものがしっかりと用意されていて、そこに行けばアクセスできるという環境であれば、それはないよりはあった方がいいわけですし、それが結果としてその成果が普及されて、引用されて、それが活用されて、最終的に時間は掛かるかもしれませんけれども、イノベーションにつながっていくというふうな形、異分野の方々が利活用できるということからすると、これはそういう意味で機関リポジトリとかを推奨しながら連携をさせて、流通するアクセス環境を確保するということは必要なんじゃないかなと思っているんですけれども、そういうふうな事柄とともに、じゃあ、ゴールドOAなのかグリーンなのかということは、イギリスとかでも結局、ゴールドOAというものを目指しながらもグリーンを併用してやっていくという観点でどうするかということをやっているということかすると、それは各国、その程度は違うにしても、同じ流れなんではないのかなと。
 OA誌というのを育成するという観点で日本の学協会の方々が努力をして学会連携を図っていいものにしていくということで、例えば科研費が足りないとおっしゃるのであれば、それに応えるために拡充してほしいというのがここでの意見だということであれば、そういうふうな方向性で打ち出せば、それは伝わっていくと思いますし、今の、例えば支援する対象として、それが本当に支援にふさわしい雑誌なのかどうか。それが雑誌支援に値しないというのであればこれまででいいと。支援するに値するのであれば科研費を増やせという話になってきますので、そういったところをやはり必要だということを訴えていただければ、それは施策としても反映させていかないといけない。
 結局、ゴールドOAにしたときにAPCの方で二重取りになって非常に望ましくないというのであれば、そこは日本にあるJ-STAGEを高度化して、それをみんなが使いたくなるような形で使えるようなインフラとして整備をしていくことによって、そこを回避するというふうな道も出てくるし、それがゴールドOAにしても海外の出版社にプラットフォームを頼っているということになれば、その経費が結局掛かってきて、講読モデルと二重になって、どんどん、結果として政府の投資額が増えていって、何の解決にもならないということであれば、そういったものも考えていかないといけないと思いますので、やはりそういった、とにかく今の段階からすると様々な研究成果の流通とかジャーナルの問題とか、イノベーションとか、そういったいろいろなことを考えると、グリーンでもゴールドでもいいんですけれども、オープンアクセスというのはやっぱり積極的に進める必要があって、そのために障壁となっているものがあれば、それを一つ一つ改善していくためには何が必要なのかというのを私どもに対してお教えいただければ、それを施策として反映していくということが私どもとしては重要じゃないかなと思っていますので、是非そういう観点で教えていただければなと思っております。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 今の長澤室長の発言は非常に重要なことでありまして、文科省としても本当にOAならOAを進めるときに、必要なものであれば、それは政策として考えていくと。そして、そのときにJ-STAGEもそうですけれども、コミュニティーの問題とか、あるいはクオリティーの問題とか、そういうものがある面でちゃんと世界標準になっていくようなことであるならば、それは日本としては是非サポートしていきたいというようなメッセージだと思っておりますので、これは非常に我々としても考えていかなければならないことでありまして、今の場合、オープンアクセスのグリーンとかゴールドと言っていますけれども、それと同時に我々自身が本当にいいジャーナルを作って世界に発信していける仕組みとは一体どういうことかということをこの時期に是非考えていただきたいというのが大きいかと思います。
 特に、例えばの例ですけれども、昨年、学位論文が、オープンアクセスの方に、ネットの方に出ていきましたので、これもやはり日本として見たときに大きな変化だろうと思うんですね。あれによってかなり大学人の意識が変わったと思うんです。そういうことと同時に、これによって例えば、今日は加藤委員や、あるいは恒松上席委員が来ておりますけれども、JSTがいろいろな会議を開いて、プラットフォームがどんどん進化していくようなことも考えられたり、あるいは世界標準の方に持っていこうとして努力されていることも分かりましたので、それをどう我々、学協会の方からも、あるいは皆さんから言っていくということもまた重要なことだろうと思います。
 つまり、お互いにいい意味での前向きな姿勢というもので、日本を活性化するための、いわゆる研究の成果をどのようにして見せるかということも重要なことになってきましたので、これについては分野を超え、やっていけるようにしたいと思っていますけれども。
 全体的にほかに何か御意見ございますでしょうか。

【永井委員】  一つだけいいでしょうか。

【浅島主査】  はい、どうぞ。

【永井委員】  意見ではなくて、機関リポジトリの中に入っているものはオーサーファイナルバージョンだけではなくて、学会が様々なバージョンを入れています。私どもは出版社版です。アメリカの物理学会も出版社版です。
 なぜかというと、本会は、機関リポジトリで本当に自分たちの学術情報流通を高めたいという意識があった。それで、どういうことかというと、オーサーファイナルバージョンでは、アニマルネームを間違えてしまう場合もあり、笑っていらっしゃるんですけど非常に難しい話なんです。それで、やっぱりそういったものが、流通して生物学の根底のところが崩れては困るという議論があって、私たちは出版社版を出しています。

【浅島主査】  はい、どうぞ、竹内先生。

【竹内主査代理】  オープンアクセスの議論というのは、突き詰めていけば図書館は要らないという議論ですので、図書館の立場としては発言しづらいところがあるのですけれども、とは言いながらも、図書館はこれまで機関リポジトリの振興という形で、学術コミュニケーションを担う一部としてオープンアクセスを推進するということをやってきた訳です。その立場から申し上げれば、今日、林さんのプレゼンの中にあった11ページの研究成果のOA化の議論というのが、やはり根幹においては重要であって、論文の単なる電子化とか、論文のOA化という議論というのは、実は既に周回遅れというのが正直な印象としてあります。
 先ほど恒松さんのお話にありましたけれども、日本が諸外国と比べて違う立場にあるということでもしも主張していくのであれば、この違う立場ないし周回遅れというのを逆手に取って、これまでとは全然違う学術情報流通モデルを考えるというのは一つの手法としてあるのではないかというふうには考えております。
 ただ、これは図書館の問題というよりも、むしろ研究コミュニティーの問題だと思いますので、私がこんなことを言うのは無責任と言われる可能性はあるのですけれども、あえて問題提起をさせていただきたいと思います。以上です。

【林委員】  今の竹内先生のお話は非常に重要で、でも、とは言いながら、研究成果、研究データのリポジトリという意味で私はライブラリアンの将来は非常に有望な面もあると思います。それが全てとは言いませんが、ライブラリランの役目は今後もあると思います。その上でやはりここ最近、研究者にようやくオープンアクセスの意識が少しずつ広まっていますので、更に研究者の認識を高めるキャンペーンなり活動なりを行うことも重要かと思います。厳密にはこの委員会が面倒を見るものではないのを承知の上で申し上げますが、特にこの間の学術会議のフォーラム以降、研究者の方からの問合せがあり、いろいろなお話をさせていただいていると、個人的な印象、経験の範囲で恐縮ですけれども、研究者のオープンアクセスに対する温度差、認識の差は、かえって浮き彫りになりました。まだまだ知らない研究者は知らないし、あるいは、UKの中でも興味深い報告があったのは、分野間で全然OAに対する認識や議論が違っており、それはその通りだと思います。日本学術会議の包括的学術誌コンソーシアムで出た結論の一つは、最終的には学術情報流通の将来を決めるのは研究者、科学者自身であり、より多くの研究者に当事者意識を持ってもらい、OAに関する議論を進めることを考慮すべきと思っております。

【浅島主査】  ありがとうございました。
 議論は尽きないところでございますが、予定の時間になりましたので、本日はこの辺りにさせていただきたいと思っております。
 林委員、恒松調査委員におかれましては御説明本当にありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。
 次回は、委員の方からいろいろ出ましたけれども、日本としてのリーディングジャーナルの在り方についての検討を中心に審議したいと思っておりますので、よろしくお願いします。
 事務局より御連絡等があればお願いいたします。

【松本参事官補佐】  本日の検討会の議事録につきましては、後日先生方に御確認いただいた上で公開とさせていただきます。
 次回、第3回の検討会でございますけれども、5月30日、金曜日に開催いたします。時間は16時から18時、場所は本日と同じ3F2特別会議室を予定しております。
 今後の会議日程につきましては資料4のとおりとなってございますので、日程の確保をお願いいたします。
 以上でございます。

【浅島主査】  どうもありがとうございました。
 先生方には本当にお忙しいところ、この委員会は委員が100%の出席率なんですね。本当に有り難く思っております。次回もよろしくお願いいたします。
 それでは、これをもって閉会させていただきます。どうもありがとうございました。

── 了 ──

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