[安達委員提出資料] 電子ジャーナルのオープンアクセスの強化の一案

電子ジャーナルのオープンアクセスの強化の一案


2014年5月30日
国立情報学研究所
安達淳


1.趣旨
文科省の主催する「ジャーナル問題に関する検討会」(第3回、5月30日開催予定)にて、「日本の学術誌の国際発信力を強化するには」及び「日本におけるリーディングジャーナル育成の必要性について」に関して意見を求められている。これに応える形で、日本におけるOAの推進のための方策を提案するものである。

2.提案するOA推進策の骨子
JSPS及びJSTなどの研究助成機関の競争的資金(以下、科研費等)による研究成果論文をゴールドOA雑誌に掲載した場合、その研究者の所属する大学等に、JSPS等から当該大学が当該年度に科研費等の成果論文で支払ったAPC (article processing charge)の総額を次年度に間接費として当該大学に交付する。なお、採録時には研究者ないし大学が出版社や学会にAPCを支払う。それが遅れて大学に戻るという仕組みである。
このために、大学図書館は大学内の科研費等の研究者のOA論文の出版状況を調査し、支払ったAPCの総額を確定し、JSPS等に申請するためのデータを整理する必要がある。

3. 論点等

[試算例]
A. WoSには日本からの論文が年8万報程度掲載されている。この10%(Max Plankの試算)がゴールドOAとなるとすれば、年間8000報。平均APCを1報2,000ドルとすると、総額は16億円となる。なお、別の国内OA論文の調査によれば、現在の日本のOA論文数は年間2,000報程度であるという数値もある。この数であればJSPS等の支出は少なくなる。
B. 千葉大の例では、年間1,000報、この10%がゴールドOAで平均APCを2,000ドルとすれば、2,000万円となる。この間接費2,000万円の一部で図書館がOA論文のリストを作りJSPSに申請する作業をまかなうこともできる。

[ねらい]
・ 日本の政府の基本的方針として、OA推進を掲げることになる。支援する日本の学会に対してもそれを促すことになる。
・ APCの支払は研究者にとって相当の負担であるため、それを緩和することになる。
・ 日本の学術誌のOA化を間接的に促進するとともに、OAとなった雑誌への投稿を促すことにもなり、雑誌の発信力強化につながる。
・ ハイブリッドOA雑誌についてはダブルディッピングとして否定的な意見がある。これを踏まえて、本提案ではゴールドOAのみを想定している。ゴールドOAのみならずグリーンOAを含めたプログラムに修正することもできる。
・ 科研の成果を、旧来の購読型の非OA雑誌に投稿することは妨げない。
・ 科研費等で成果のOA雑誌への投稿の義務化を定めるには多くの議論が必要と思われ、また時間を要することが懸念される。本提案は、義務化の議論を回避しつつ、早期にAPC助成プログラムを開始し、OA雑誌への投稿を間接的に促すことにより、研究者や大学へのOAの迅速な定着が期待できる。
・ 日本からOA雑誌に投稿する実態を把握し、OAが合理的なものとして展開するための基礎データが得られることも大きな利点である。本プログラムの円滑な推進には、大学図書館が研究者の論文発表状況をすべて把握しデータを確保するということを併せて行うことが極めて重要である。科研費等のみならずすべての論文成果を図書館が把握し、そのAPCや非OA論文の投稿状況をつぶさに把握することができるような形に持って行くことが成功の鍵である。
・ JUSTICEが、全大学のデータを集計し、OA出版社との間でデータに基づいて交渉し、APCを適正な範囲に抑える活動をすることが期待される。また、好ましくないOA雑誌などのチェックなどを行い、OA出版が健全に進むように誘導することも重要である。
・ 2015年にグローバル・リサーチ・カウンシルが日本で開催される。その際に日本のJSPS等の新たなOA推進策として公表することができれば大変アピールすると思われる。
・ 「間接費」の意味は、大学が使途を決められるということである。JSPS等から来た経費を個々の研究者に戻しても良いし、それ以外の目的に使うこともできる。大学としてプールしてOA雑誌投稿の支援資金とすることも可能である。大学が自主的に運用を定める。ここで図書館が主導的役割を果たすことを期待する。
・ APSの100%を返さなくとも、80%や50%という割合にすることもできる。
・ JSPS等は、大学からのAPC返還申請に際し、論文への科研費等からの支援の謝辞等が明記されているか否かのチェックを併せて行わせることにより、科研費等の成果の状況をより一層正確に把握することができる。
・ 大学図書館が機関リポジトリにアーカイブする作業と連携することにより、成果の捕捉率が高まる。

[問題]
・ JSPS等が数十億円の経費を新たに措置するのは極めて難しい。(従来の科研費の間接経費の枠の中から捻出できないか。)
・ OAが進むにつれて、JSPS等の支出が増える。
・ 研究者は科研費そのものでまずAPCを払うことから、大学への返還をAPCの二重取りという批判を受ける恐れがある。
・ このような国策を実施すると、出版社がAPCを値上げする可能性があり、これを抑止する機能を併せて実現しておく必要がある。JUSTICEがこれに対して適正な額に押さえるよう交渉することが重要である。
・ 大学図書館で、研究者の論文発表状況を把握する作業の負担が増える。(返還される間接経費の一部を充てることにすれば良いかもしれない)
・ 当然のことながら、OA雑誌のインパクトファクタなどを重み係数として論文数に組み合わせることにより、業績成果のrewardとしての性格を強めるという考え方もある。しかし、研究者からの反発は強いと思われる。


以上

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