HPCI戦略プログラム中間評価委員会(第1回) 議事要旨

1.日時

平成25年12月4日(水曜日)13時00分~18時30分

2.場所

文部科学省15階 15F1会議室

3.出席者

委員

國枝主査,濱田主査代理,伊藤委員,岩野委員,沖委員,栗原委員,西島委員,松田委員,村岡委員,横山委員

文部科学省

下間参事官(情報担当),川口計算科学技術推進室長,遠藤参事官補佐

オブザーバー

(HPCI戦略プログラム推進委員会委員)
土居プログラムマネージャ,中村分野1マネージャ,寺倉分野2マネージャ,矢川分野3マネージャ,小林分野4マネージャ,小柳分野5マネージャ,平尾理研計算科学研究機構長

(戦略機関)
柳田分野1統括責任者,常行分野2統括責任者,今脇分野3統括責任者,加藤分野4統括責任者,青木分野5統括責任者

4.議事要旨

(1)HPCI戦略プログラム中間評価(ヒアリング審査)
川口計算科学技術推進室長より資料1,資料2に基づき説明。
資料2の「HPCI戦略プログラム中間評価委員会の議事運営等について(案)」については,案のとおり決定。同第2条の主査代理については,國枝主査の指名により,濱田委員に決定。また,同第4条に基づき,本委員会は非公開にて実施し,また,一部資料は非公開と決定。

 

川口計算科学技術推進室長より資料3に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【寺倉分野2マネージャ】
・計算科学技術推進体制の構築についての評価は,中間評価票のどこに記載されるのか。計算科学技術推進体制の構築についても,きちんと評価をお願いしたい。
【川口計算科学技術推進室長】
・体制をどう作ったかということも重要な評価基準であり,そこは「(2)研究開発体制について」で,体制構築の中で成果の活用については「(3)成果の利活用について」に評価結果を書いていただくと考えている。

 

川口計算科学技術推進室長より資料4に基づき説明。

 

土居プログラムマネージャより資料5に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【濱田委員】
・戦略プログラム以外の一般課題の採択の体制や組織はどうなっているか。
【土居プログラムマネージャ】
・登録機関が法律で定められており,登録機関が受け付けて,その中でレビュー等々を踏まえた上で,採択の可否を決定して,資源等々の割当てを決めている。
【村岡委員】
・課題の選定について,大変重要な課題が選定されており,これは「京」でなくてはできないという視点を見据えた重点化,戦略化を行っている。「京」は切り口によっていろいろなパフォーマンスが見えると思うが,特にどういうパフォーマンスを重視して課題を選定したか。
【土居プログラムマネージャ】
・我が国は,「京」を中核とし,多様な利用者のニーズに応える革新的な計算環境(HPCI:革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)を構築するとともに,この利用を推進している。「京」は,世界トップレベルの高い演算性能を有し,超大規模な計算を高い実効性能で利用できる。一方、「京」以外のHPCI計算資源は,演算性能や規模は「京」には及ばないが,「京」を支え,我が国の計算科学技術インフラを補強し,我が国全体の計算科学技術の発展に貢献している。「京」での課題選定においては,要求される演算性能や並列規模を重視して課題を選定している。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・分野や課題によって随分状況が違うが,チャンピオンデータをとるような非常に重要な課題もあれば,一方で,たくさんのパラメータフィッティングやアンサンブルシミュレーションをやる課題もあり,典型的には2つに分かれている。どちらもある意味では重要だと考えている。

 

(戦略機関入室)

 

加藤分野4統括責任者より,資料6-4-1に基づき説明。次いで,小林分野4マネージャより,資料6-4-2に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【西島委員】
・多くの企業と連携して事業を進めているが,「京」について,実際良かったという実感を持てた会社は何社ぐらいか。そして,それを含めて,今後,波及効果として,どのぐらいの会社に浸透していくものなのか。
・ものづくりとして,「京」でやったからできたという製品を,実際に国民に見せられるには,これから何年ぐらい待ったら良いか。
【加藤分野4統括責任者】
・打率は8割ぐらいではないか。ただし,条件付。その意味は,我々がまずやるときは担当者とやるわけだが,担当者は8割以上の人が満足をしている。次のステップとして,本当にこれを広めるためにはトップダウンというか,マネージャにも理解してもらわないといけない。それはこれからの課題。
・形になるのはいつかという質問は,我々としての目標は,「京」が稼働を始めてから5年以内に実用化に至る姿を見せる。つまり,必ずしも形になっていなくても,これからものづくりは変わるというところを5年以内には示す。それに向けて,今やっているのは実証フェーズ。最後に実用化のフェーズまである程度やらないと形にはならないので,後半は実用化にも産学連携で取り組んでいきたい。
【西島委員】
・成果を上に上げるときに,今まで例えば3日,4日かかっていたのが何時間でできるというか,それとも,何日かけてもできないものができたというかでは,どちらの方が上の方を説得できると思うか。
【加藤分野4統括責任者】
・答えは両方。例えば,プロセスを見いだすのは,計算がなかったら見いだせないようなプロセスを見いだす。つまり,できなかったことをやる。一方,風洞試験は,計算をやらなくても試験をやればできるが,計算をやることによって,設計を飛躍的に速くするという意味であり,ものづくりとしてはどちらか一方とは言えず,両方というのが答え。
【濱田委員】
・課題5について,化学プラントの耐震シミュレーションをやるということだが,地盤や建物などを全部含めて安全性の評価をするということか。分野3と連携するようなことを考えてほしい。
【加藤分野4統括責任者】
・ものづくりとしては,地盤は境界条件として,建屋の周りの地盤にどれだけの地震波が入力され,その状態で建屋がどう揺れて,機器がどう揺れて,それで許容値以下に収まるかどうか,あるいは尤度はどれぐらいあるかというのをやっている。将来的には,例えば,地震が起きたら,どのようにその地震動が伝ぱして,地盤をどう揺らして,建屋をどう揺らして,機械をどう揺らしてという方向に行ければと考えている。
【伊藤委員】
・境界条件をどこまで広げるか,その影響度がどのぐらい大きいか,表面粗度をどこまで考慮するか,物性値をどうやって入力するかなどについて,是非この活動をされている先生方から,周辺分野の大学の先生やメーカーの方々,研究機関の方々に発信し,全体としてレベルアップしないと解析精度は上がらないと思う。
・アプリケーションの普及やデータベースなど,非常にすばらしい活動であり,まさしく産業界,ものづくりに役に立つ活動である。是非継続していただきたい。
・大規模データになればなるほど,ポスト処理と実際の評価が非常に難しくなる。これらの大規模解析を活用するために必要な周辺技術は重要であり,是非継続してお願いしたい。
・並列化やチューニングについて,専門の先生方の知識を是非普及していただきたい。
・ものづくりとしては,製造のマニュファクチャリング技術もある。どこまで広げていくべきかについても,議論していただきたい。
・大規模シミュレーションにより,どのレベルまで検証できるかが計測技術に関わってくる。最先端の技術と,それに伴って必要となる技術を周辺に発信し,全体のレベルアップを図っていただきたい。
【栗原委員】
・実証の方も含めてだと思うが,非常に大勢で参画し,5年以内と非常にスピードアップするために,この大勢の方をどのようにフォーカスして研究を推進しているか,何か工夫している点があれば紹介いただきたい。
【加藤分野4統括責任者】
・もちろん,実証や実験もやっている。私の研究室自身も風洞実験を考えている。メーカーが参画しているのは2つ理由があり,1つはニーズを出すこと,もう1つはデータを出してくれること。半分ぐらいの人は実証に関わっている。
・大勢を束ねる工夫は,一言で言うと,同じところに向かうという意識をどれだけ高く持ってもらえるか。


今脇分野3統括責任者より,資料6-3-1に基づき説明。次いで,矢川分野3マネージャより,資料6-3-2に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【横山委員】
・社会へ確実に実装することが最終目標として掲げられているように感じられるが,実際どこまでを本当の目標として掲げて当初進めていたのか,あるいは,その最終目標にどの程度到達する見込みがあるのか。
【分野3随行者】
・気象・気候・環境予測課題は,まず地球温暖化時の台風の動向については,我々の出す情報を広く使っていただけるように図りたい。また,より長い期間の予測が可能であり,日本の1か月予報の向上にも反映させたい。
・メソ課題は,日本の気象庁のこれからの豪雨予測の改善に直接つながるものであり,気象庁はこれからどのように観測体制や計算機環境を整備していけば国民に出せる情報が改善できるかということを,我々がこの研究で明らかにしてきている。
【分野3随行者】
・地震・津波課題は,当初このプロジェクトがスタートした時点では,地震シミュレータを作り,それを最終的に,被害想定の高度化,あるいは,対策の高度化に役立ててもらうことを考えていた。ただ,この間,各自治体から,いろいろなシミュレーションの見せ方,被害想定をしてほしいという要望があり,シミュレーションの成果を,部分的ではあるが紹介しながら,その対策の高度化というものを十分図っている。また,内閣府の南海トラフの巨大地震モデル検討会にも,シミュレーションの成果が取り込まれていると考えている。
【濱田委員】
・都市全域のシミュレーション,これは都市全体としてぜい弱性がどこにあるかを掘り起こすのに非常に有効だと思うが,データはどうするのか。そのようなデータを将来用意できるのか。
【分野3随行者】
・いろいろなデータを自治体から提供していただいている。自治体からいかにデータを頂くかについては,ある程度成果を見せながら,自治体とやりとりしながら進めている。
【沖委員】
・気象課題について,温暖化による台風の予測で,25年シミュレーションをするのに必要な計算時間が取れそうなのか,その見込みはどうか。また,九州北部豪雨の予測可能性は,大事なところはうまくいったけれども,うまくいっていないところもあるということを言わないと,気象は今後やらなくていいと思われるのではないか。もう少し客観的な言い方をした方が良いのではないか。
・地震と津波の両方を一緒にシミュレートしたということだが,例えば,地盤の振動と水位の変動のインタラクションを考えているのかどうか。考えていた場合に,別々にやる場合とどれぐらい違うものなのか
【今脇分野3統括責任者】
・九州北部豪雨の予測可能性は,完璧に再現できているわけではない。
【分野3随行者】
・地震と津波の同時シミュレーションについては,今までは,地震の研究者と津波の研究者は,それぞれ別なモデルを使ってやっていた。今回は,共通のモデルを使って,いかに地震と津波を,実際の観測データを再現できるかということ。当然,そのインタラクションも考えてやっている。
・別々にやった場合とどちらが良いかについては,共通のモデルでやるということで,お互いの地震・津波像を共通の場で議論ができるのは非常に重要。
【今脇分野3統括責任者】
・地盤の振動と水位の変動のインタラクションを考慮した場合に,地震と津波を一緒にシミュレーションするのと別々でやる場合とでは,地震が起こって直後は差があるが,その後は,別々にしても同じ。
【分野3随行者】
・全球予測は,「京」の能力を考慮すると,これからは3.5 kmを中心に,いろいろな実験をやっていくのが良いと思っている。
【岩野委員】
・この分野は,社会的要請も非常に強く,その社会的責任が,今から問われるようになると思う。そういう意味で,例えば,ある特定の事象に関しては,シミュレーションをやり,結果や予測を社会的に示していくことがすごく大事になってくると思う。そのような事例を積み重ねていかないと,なかなか社会実装までいかないのではないか。
【分野3随行者】
・情報発信できないか,どうすれば社会発信できるかという議論は,現在5分野で随分やっている。例えば,分野3に関しては,法律上の制約があり,気象等の予報はやってはいけないことになっているが,直接発信するのではなく,セカンドオピニオンという形で出せるのではないかという議論はある。


柳田分野1統括責任者より,資料6-1-1に基づき説明。次いで,中村分野1マネージャより,資料6-1-2に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【松田委員】
・生命科学としてこのプロジェクトが非常に目新しいのは,予測するというところ。もう既にそういうものがあったか。また,あと2年すればこのようなことが予測できるようになるという,メーンテーマはあるか。
【柳田分野1統括責任者】
・1つは,例えばUT-Heartの場合は予測できている部分もあり,1つの成功例になるのではないか。それから,予測だけではなく,コントロールまで入れないといけない。それはそれほど易しいとは思っていない。
【松田委員】
・生物系は,もともとシミュレーションにはなじみが薄く,人材をどうするかというのは非常に問題。人材育成についても活発にやっていると思うが,その中に,専任の教員を採用してやることが書かれていたが,それは進んでいるか。
【柳田分野1統括責任者】
・情報の先生にお願いし,そこに教官を1人お願いしている。
【西島委員】
・ここからは2年間の成果でなくて,是非こういう方向があったらいいと思うのは,新薬について一番大変なのは何かといったとき,まず疾患に絡んでいる標的タンパク質がどのようにネットワークの中で動いているというものを定める,つまり,創薬ターゲットの標的のバリデーションが難しいと思う。
・大きなものに挑戦しているという姿を見せるのは,社会的な責任もあるし,製薬会社にも大きなヒントになるのではないか。
・どこに「京」を使う課題があるかということを,是非実験系の生命科学や臨床医学と図っていき,10年,15年先の新薬の求めるものに対するスパコンの立ち位置を考える必要があるのではないか。
【柳田分野1統括責任者】
・生命科学そのものの課題と考えている。もう個々の問題ではなく,システムを理解しないといけない。それにはコンセプトが必要。
・要素過程にフォーカスした研究論文はたくさん出ているが,それを統合するには,組合せ爆発が起こってしまう。組合せ爆発が起こっているとはいえ,ある程度の要素反応を実験で捉えたものを何とか統合して,最終的には数少ない自由度に落ちる。それを見つけることを,「京」コンピュータを用いた大規模計算でやればできるではないか,例えば,ある側面は見えるのではないかと期待している。
【中村分野1マネージャ】
・課題4のゲノムの解析では,遺伝子間のネットワークの解析をやっており,特に薬物耐性と遺伝子の発現の関係を非常に大規模に解析している。一方で,課題1では,システム生物学的な解析もやっており,恐らくそこはきちんとつながることによって,計算機での,何がネットワークとして創薬の対象とするかということについての答えが見つかり始めるのではないかと思っている。
【西島委員】
・先ほどの水中の柔軟なタンパク質を持っていった創薬応用シミュレーションについて,標的タンパク質のX線構造のある程度精密な実測や複合タンパク質の情報があるということが前提か。ヒト由来の疾患関連のタンパク質でそれをとるのは大変であり,そこから先に更にスパコンの「京」を使っていくということについては,相当元気のいい製薬会社に限られる。
【柳田分野1統括責任者】
・結晶構造がないところからスタートするのは難しい。また,標的という言い方も難しくなってきており,病気を起こすのに,遺伝子とタンパク質が1対1に対応していれば簡単だが,ほとんどの場合はもうそうではなくなってきている。
【栗原委員】
・分子の振る舞いから階層性をつなぐということだと,やはり揺らぎや,オン・オフというモデルを入れていると理解するが,予測という面から言うと,どういう刺激が入るとそこがどう変わるのかというところがかなりはっきりしないと,実際には,最後の計算のそれぞれの過程を逆にどう確認していくのか,あるいは,最初のモデルに対する予測ということであれば,どういう刺激を与えたらどうなるのかということがないと,信頼性確認はできないのではないか。それが信頼できる理論と標的とシミュレーションを直接比較するガバナンスはどうかということにもつながると思う。
【柳田分野1統括責任者】
・生物は非常に複雑であり,全てのデータを取り出すということは不可能。限られたデータからモデルを作って,階層をつなぐため,そのモデルが正しいかどうかは,予測して,その予測に従って実験をして,操作ができればモデルは正しいというやり方しかないと思う。


常行分野2統括責任者より,資料6-2-1に基づき説明。次いで,寺倉分野2マネージャより,資料6-2-2に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【西島委員】
・燃料電池やリチウムイオン電池など,最先端のトピックスをテーマとしている割には,他分野と比べ,参加企業数が少ないように感じられる。
・燃料電池やリチウムイオン電池などの分野では実測ありきで,「京」がないがしろになっていないのかを危惧したが,実際のところはどうなのか。
【常行分野2統括責任者】
・企業の参加数は,計算機を使っているユーザとしての参加数であり,実験グループは数えていない。例えば,燃料電池や二次電池については,我々のグループは,別のプロジェクトを経由して実験グループと一緒にやっている。
【寺倉分野2マネージャ】
・御指摘は作業部会の委員の中からも指摘されている。我々としては,最先端のリチウムイオン電池のプロジェクトをやっているようなコミュニティとコンタクトをして,どこがポイントかということについて伺いながら,取り組んでいる。
【村岡委員】
・「京」で初めてできたというようなところがどこで,あるいは,もし「京」がなければここにとどまっていたというような説明をしていただけると大変分かりやすい。
【常行分野2統括責任者】
・例えば,課題1で言うと,かなり具体的に超伝導物質を想定した計算をしており,これは「京」がないと,恐らくモデル計算,おもちゃのような計算になっていたであろう。これは「京」を使って初めてできた成果。課題2にしても,新しい方法論を実際に作って,それで大きな系をやろうというのは,「京」があったから初めてやる気になった仕事。そういう意味では,全てそのレベルであると思っている。
【沖委員】
・まず今までできなかった計算が,より効率良く,あるいは精度良くできるという段階,それから,何か新しく現象を発見するという段階。そこに加えて,今度は新しい手法で,今までできなかったシミュレーションができるようになったというのは非常に多いように思う。その次の発見があっても,今度はそれで何か作るとなると,今度は発明の段階もあって,更にそれを実用化するとなると,またもう一段階あってということになり,かなり前の方に偏っているという印象。
・一方,プロジェクトとしては,社会への出口を求められるといったときに,各研究者の先生方は,最後まで自分でやらないといけないと思うのか,それとも,できればほかの人に出口の方はやってほしいと思っているか。
【常行分野2統括責任者】
・人によると思う。例えば,我々のところは大学の研究者が圧倒的に多く,大学の研究者だけで出口まで完全にやりきることは無理。我々は,こういうことができるという筋道を見せて,そこから先は企業と一緒にやる,あるいは,方法論を提供する,そういうやり方を考えないと,実際のものは作れないと思う。
【寺倉分野2マネージャ】
・計算機は実験装置と違って,これがないとできないという非常にクリアなバウンダリーはない。研究者のやる気が起きるか起きないかがキーになっていると思う。
【國枝主査】
・例えば,気象の場合に,何kmという単位で数字が出てきたが,そのぐらいの細かさで議論しないと物理的な過程が議論できず,それでメッシュの細かさは決まると思う。それが,「京」で初めてできたというクリアなカットになる。そういう言い方で,ミクロのところが解明できたので,新たにマクロでこういうものが見えてきたと話していただくと,クリアだと思う。ただやる気が起きるかどうかではなく,やはりその細かさについての定性的な議論がないと,やはり説得力はないと思う。
【栗原委員】
・実験と計算とがキャッチボールできるスピードがあると思う。実験をやるスピードと同じぐらいに,計算は必要。逆に,計算が速くなれば,実験も努力しなくてはいけない。手と頭の連動というのはお互いにあると思うので,やる気だけはない表現法はあると思う。


青木分野5統括責任者より,資料6-5-1に基づき説明。次いで,小柳分野5マネージャより資料6-5-2に基づき説明。主な質疑応答は以下のとおり。

【國枝主査】
・超新星爆発課題について,3次元にしたことで,その爆発がきちんと起きるようになったということだが,軸対称は入っているか。それとも,全くの3次元か。どうして今までできなかったことができるのか,エッセンスだけ教えてほしい。
【青木分野5統括責任者】
・全くの3次元。本当にそれが正しいかどうか,まだ確実ではないが,内部の流体の不安定性が3次元だと起こりやすいという説明だと思う。
【分野5随行者】
・まだ,本当にこれで爆発すると言える段階ではないが,多少回転が入っているときに,非軸対称モードが効いて,非一様性が発達しやすくなるというのが,今まで出ている計算結果。
【國枝主査】
・太陽の対流が3次元的にできたということで,今までで説明がつかなかったことが説明できたような現象はあるか。
【分野5随行者】
・太陽に関しては,非常に大ざっぱに言って,今までよりも桁で高い空間に向かうので,全系のシミュレーションができるようになったということ。ただ,これに関しては,手法が確立できて,「京」で動くようになった段階で,まだ画期的な新しいサイエンスというところまでは至っていない。
・ただし,この手の計算では,少なくとも中心部分を除いて,計算と実際の対流層の構造が全然合っていなかったのが,ある程度合うようになってきた。特に全球に関して,ある意味,現象を理解する目途が定性的に立ってきたという段階。
【國枝主査】
・細かくしたことで新たにそういうことができたのか,それとも,全球については,「京」でなければできなかったか。
【分野5随行者】
・数百の3乗ぐらいだと表現できない構造があり,それが一桁上げることで,特に表面部分の薄い構造といった,今まで表現できなかったものが表現できるようになったということが非常に効いているように見える。
【小柳分野5マネージャ】
・付け加えると,これは,宇宙天気予報,つまり,通信などに非常に直接的に影響するので,この中では比較的すぐ役に立つ分野である。
【西島委員】
・全体のことを聞きたいが,例えば,「京」と並ぶような世界のスパコンが,このような分野で同じように使われて,十分勝てるという立ち位置になっているのか。
【青木分野5統括責任者】
・超新星爆発課題に関しては,競争はあるが,今の日本でやっているチームの能力と「京」のパワーを考慮すると,世界で勝てると思う。
・課題1に関しても,ライバルはたくさんいて,世界のいろいろな計算機を使っているが,素粒子,原子核,宇宙ということを意識して計算しているところはほとんどない。そういう意味で,連携しつつやって,良い成果を出すところで勝てる,更にプラスで「京」の計算能力で勝てると思っている。
【村岡委員】
・ジョブが思ったように実行されなかったということだが,リソースをあらかじめ割り当てて計算を実行するという形ではなかったのか。
【青木分野5統括責任者】
・割り当ててはいるが,ジョブを投入したから必ず流れるとか,計算時間を確保しているから使えるというわけではない。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・日本は,「京」が出るまでは,このような大規模シミュレーションはできない状況にあり,「京」が出てきて,一気にこのような計算科学の花が開いている。戦略5分野に加え,戦略5分野以外の一般や産業界の方々も本当に関心を持っていただき,「京」を使おうとしていて,正直言って,「京」1台ではとてもこなせないぐらいの需要がある。いろいろな経験を1年やってみて,我々としても学んだので,これを生かして,これから先はもっと運用面を改善していきたい。
【松田委員】
・広報担当の方を専門で雇っているのは珍しいと思うが,それはサイエンティストか。それとも,サイエンスコミュニケーションが専門の方か。
・中高生をメーンにというのは,確かに非常に大事なことだと思うが,例えば天文関係だと,優秀な人を大学院に引っ張ることも大事なのではないかと思うが,どのような取組をしているか。
【青木分野5統括責任者】
・修士までサイエンスをやっていて,それから,サイエンスコミュニケーションなどの分野を勉強して,広報の担当になっていただいた。
・大学院の若い人をテーマにしたスクールは,毎年やっている。大学生も参加しているが,大学生にターゲットを絞ったものは,残念ながらやっていない。


HPCI戦略プログラム全体を通じて,質疑応答。主な質疑応答は以下のとおり。

【國枝主査】
・各分野で1つずつ,「京」を使わないとできなかったことを具体的に示してほしい。
【柳田分野1統括責任者】
・UT-Heartの場合,分子から心臓までシミュレーションをすると,「京」コンピュータで1日2拍動。一方,パソコンでやると,2拍動するのに1000年かかる。これは「京」でなければできなかった。
【常行分野2統括責任者】
・分野2は,全ての課題が「京」でなければやる気にならなかったというのは間違いないと思うが,例えば,10万原子の系の計算や1,000万原子のMD計算は「京」でないと実際無理であった。1つ追加として,「京」ならではの大規模計算を行ったのが,7つの課題のうち5つ。残りの2つは,「京」を使うことで初めて新しい方程式,基礎方程式を使う気になった,使えるようになった。そのような方程式レベルから変わったというものもあった。
【今脇分野3統括責任者】
・分野3は,水平格子解像度1 km未満の全球大気シミュレーションは,「京」ならではの計算。これで何が分かったかについては,1 km以下の格子では,個々の積雲対流の詳細な構造が全球のモデルできちんと出たということ。細かい格子にしないと,物理的に意味がある雲の構造までは出なかったというのははっきりしている。また,本日紹介したのは,どれも「京」がないと本当にできなかったと思う。
【加藤分野4統括責任者】
・分野4は,代表例を挙げると,「京」の2万ノード,16万コアを使って320億点の格子を使って,船体周りの流れを計算して,予測精度的にえい航水槽試験を代替できることを実証したこと。代替できると何が起こるかについては,ものづくり分野では,設計と同時にその試作評価ができることになり,飛躍的に設計のスピードが上がるということを期待している。更に500ミクロン程度の非常に細かな渦も含めて,全ての現象がシミュレートできるようになり,その結果として,飛躍的に精度を上げられたということ。
【青木分野5統括責任者】
・分野5は,例えば課題2の原子核に関しては,「京」を使ったことで,ベリリウムを対象とした計算はさっとできて,炭素を対象とした計算もできそう,将来的には酸素を対象とした計算まで「京」でいけるのではないかということが分かったのがまず1つ。また,課題4に関しては,約100倍規模が違う計算ができるようになり,それにより,ダークマターの計算で,より細かい構造から大きな構造までが統一的に計算できるようになったこと。
【横山委員】
・分野1の広報はどのように取り組んでいるのか。分野3ではどのような形で運用されているのか。分野1と分野3で共通して今後より注意すると良いと思ったのは,社会的期待が高いということは,過度な期待が生まれやすい状況にあり,その過度な期待をむしろ抑制しながらコミュニケーションする方が,継続的に社会との信頼関係が保たれると感じている。例えば,今後そのようなことにも気をつけるような活動をすると良いという印象を持った。
【分野1随行者】
・分野1では,広報のために専属的なスタッフを雇っており,例えば,社会人,大学院生への人材養成・教育プログラムの実施や,より広報的なところでは,大学,高校での講義で生の声を得たりしている。また,全国を6ブロックに分け,シンポジウムなどを開催している。専門家を育てるという意味では,アプリケーションの講習会を行っている。
【今脇分野3統括責任者】
・分野3では,年1回分野のシンポジウムの開催や,今年度は新聞記者の人に集まってもらい,分野を紹介する機会を設けた。分野3が主催したのは,年1~2回。
【濱田委員】
・「京」を使ってどこまでできたかという議論だが,先ほどの都市全体のシミュレーションについて言えば,高知市はできるかもしれないが,東京全体をシミュレーションすることは恐らく不可能であろう。都市全体がシミュレーションできるというようなことを最初掲げたわけが,それに縛られることなく,少し柔軟に考えて進めた方が良いと思う。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・「京」ができて,やっと今まで見えなかった景色が見えてきた。いろいろな分野で,「京」でここまでできたが,こういうところはまだ分からないし,もう少しパワーのあるマシンがあるとこのようなこともできるようになるという形で,フィージビリティスタディを,2年間かけて議論している。その意味では,いろいろな分野から新しい可能性が出てきたということで,ちょうど今議論が進んでいるところ。
【西島委員】
・特に分野の1,2,4について,「京」を使った産業界の感触をどう捉えているか。逆に,その3分野について,企業に対して,スパコン「京」を使うのであれば,こういう心構えで来てほしいというものを発信できるものが現時点であるのか。
【分野1随行者】
・分野1では,例えば製薬会社が,有償利用も含めて「京」を使っている。その印象や,実際に分野1でオーガナイズしている製薬企業を集めたプロジェクトの話を聞いてみると,特に分野1で開発しているMP-CAFEEのパワーは,結晶構造がきちんとしていれば,非常に正確な結合エネルギーが求まるというところが明らかになった。しかも,全然手をかけなくて,ほとんどブラインドで流せ,高い精度のスクリーニングが可能になったという実感は皆持っている。
・それから,構造がないときにどうするかというのも,やはり大きな計算資源を使って動かすということが必要だということも,「京」によって実感されてきた。可能性は非常に見えているが,ではそれが実際にすぐに創薬にどれほど役に立つのか,それを実行するための計算資源をこれからどこに求めるのかというところで模索をしている感じがする。
【加藤分野4統括責任者】
・少なくとも私の周りの企業の期待度は高い。端的に言うと,お金を投資し始めている。つまり,「京」を使ってこういうことができるということが分かったことによって,「京」まではいかなくても,その100分の1ぐらいで実際やってみようということで,お金が動き出しているということが,まさに端的にその企業の期待を表している。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・私が感じているのは,やっぱり空気が変わりつつあるということ。「京」が核になって,産学連携が本当にある意味で推進されてきたと思う。それがいろいろなところに広がりつつあり,いい方向に来ているし,我が国は諸外国と比べると,スパコンの産業利用というのは少し後れを取っていたのが,「京」の出現で,世界に追いついていく,そうなってほしいと思っている。
【西島委員】
・例えば,2年が終わった後,2015年から2020年の5年間,その使われ方は,本当に「京」で役立つものに絞った方がいいと思うが,どう思うか。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・「京」を使わなくてもできる課題もないわけではなく,そのような課題は,例えば,大学や研究所のスパコンの計算資源を効率良く使うような仕組みをこれから追求していったら良いのではないか。「京」は,本当に「京」の威力を引き出すような課題をやるべきではないかという個人的な思いはあるが,なかなか実現するのは難しいことかもしれない。
【中村分野1マネージャ】
・分野別作業部会で,全ての分野の中間評価票に,そのようなことはその他のところに書かれている。それは,「京」以外でもできる部分については,「京」以外の計算機の活用ももっと進めなさいと。これまでは「京」でだけやるのがこの戦略だったが,HPCI戦略と変わっているので、うまく選別して,力を落とさないようにうまく活用することが大事であるというのが分野別の委員からの意見。
【伊藤委員】
・計算機の活用の仕方について,産業界が外国は多いという話があったが,例えば,米国と比べたときに,計算機のトータルの数,「京」クラスのトータルの数や,大学と産業界と比べて,その比率や利用度は,どういうレベルにあるか。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・トップ500ランキングでは,アメリカが持っているスパコンの半数以上は産業界が持っている。産業界も随分スパコン利用が普及している。
・実際に「京」並みのパワーを持ったものをどれぐらい産業界に開放しているかについては,日本と同じぐらいの比率だろう。そういうところで経験を積んで,それぞれの企業が自ら購入し,そして,国際競争力を高めるために,それぞれの企業がスパコンを活用するというのが世界の現状だろう。
【土居プログラムマネージャ】
・先ほど来出ている意見に含まれるが,基本的には,我が国は「京」という突出した1台しかない。これを空けて待っていたら,需要があるのに使わないのは何事だという声の方が強くなるだろうという状況にある。
・エクサ級を2020年頃という話も出ているが,その間のつなぎをどうするかということもしっかり考えなければいけない。「京」で掘り起こされた需要及び研究意欲をそがないように,我が国として戦略を立てていくためには,どうするかということを,HPCI計画推進委員会でも検討している。
【伊藤委員】
・サイエンスの最先端の分野をやっている分野と,産業界の近くでやっている分野,いろいろな5つの分野があり,例えば,産業界でももう少し普及しようと思うのであれば,「京」の少し下のレベルをもっと増やすなどの戦略が必要ではないかという印象を受けた。
【土居プログラムマネージャ】
・今までのところ,トップクラスの10分の1ぐらいが大学の基盤センター,更にその10分の1クラスが企業というように,トップクラスで開発されたものが下方展開をそれなりにしていた。もっと下方展開を強めようという方向でやっていくつもりである。
【栗原委員】
・「京」の能力を最大に出すということで,アプリケーションの開発のステージはある程度終わったという位置付けかもしれないが,実際に使ってみるといろいろと出てくるのではないか。それについては,このプログラムは特に関係なく,どこか対応しているところがあるのか。
【平尾理研計算科学研究機構長】
・理化学研究所の計算科学研究機構内に研究者のチームがあり,高度化研究や基盤研究をやっている。ここでキラーソフトウェアを開発したり,「京」を皆さんに使っていただけるように,アプリケーションのソフトウェアを開発したり,あるいは,使いやすくするための研究している。戦略分野と機構が全体として一緒になって,そのようなこともやっている。
【沖委員】
・社会への出口については議論があったが,逆に,科学技術・学術の振興という意味で,計算科学は科学かという認識は,昔はあった。それが,例えば,「京」によって,もう計算科学なしにはその専門分野が成り立たなくなった,あるいは,それはもう昔の話で,30年前から計算科学なしにはこの分野は成り立たない,いや,あと100倍あるいは1万倍良くならないと,まだなかなか計算科学が並び立たないのか,雰囲気だけでも教えていただきたい。
【柳田分野1統括責任者】
・新しいという意味で一番期待されるが、本当に使えるかどうか分からないのは生命科学だと思う。生命科学は,今からは,組合せ爆発が起こるような素過程をいかに集めてシステムを理解するかという方向に一気に行くときには,もうコンセプチュアルプラス計算機科学で全く新しい専門分野ができるということも可能性があるのではないか。生命科学はそういうステージにあるのではないか。

 

(HPCI戦略プログラム推進委員会委員及び戦略機関退席)

 

(2)全体審議

中間評価委員会委員にて,ヒアリング結果を踏まえ審議。

 

國枝主査より閉会宣言

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電話番号:03-6734-4275
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